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シリコン試料の分析方法
説明

シリコン試料の分析方法

【課題】シリコンウェーハ等のシリコン試料の所望領域において、ドーパント種(B、P)を特定および定量するための手段を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、シリコン試料の一部または全部を分解すること、上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン試料の分析方法に関するものであり、詳しくは、シリコン試料中のドーパント元素(ボロン、リン)の定性分析および定量分析が可能なシリコン試料の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボロン(B)およびリン(P)は、シリコンウェーハにおいて導電型や抵抗値を決めるドーパント元素である。シリコンウェーハや該ウェーハを作製するためのインゴットが製造工程や保管中にB、Pによる汚染を受けると所望の値から抵抗値がずれる原因となるため、意図せぬ汚染は回避すべきである。したがって、シリコン試料においてB、Pの含有量を正確に把握することは、工程管理上、きわめて重要である。
【0003】
これまでシリコンウェーハ中のB、Pの分析方法としては、物理的手法ではSIMS(二次イオン質量分析法)、電気的手法ではSR(Spreading resistance)法、四探針法、PL(フォトルミネッセンス法)が使用されてきた。更に電気的手法としては、渦電流法により測定したバルク部の抵抗値と表面光電圧法により測定した表層の抵抗値の差からドーパント量を求める方法が特許文献1に提案されている。
【0004】
しかし、SIMSでは切り出したチップを用いて測定を行うという分析原理上、測定領域は部分的な範囲に限定される。したがってSIMSでは、シリコンウェーハ最表面から所定深さまでの一定領域(表層部)の分析は可能であるがウェーハ全体におけるドーパント量を求めることは不可能である。一方、電気的な測定では抵抗値(アービン曲線)からB、P濃度を算出するため、ドーパントの種類の特定(定性分析)と定量分析を同時に行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−269962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、シリコンウェーハ等のシリコン試料の所望領域において、ドーパント種(B、P)を特定および定量するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するためにシリコンウェーハの金属汚染分析に用いられている化学分析法に着目した。上記化学分析法は、シリコンウェーハ表層部やバルクを分解し、その中に含まれる金属成分を定性・定量分析することによりシリコンウェーハの金属汚染分析を行う手法である。通常、上記化学分析法では、シリコンに含まれる金属成分の分析は誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いて行われる。ICP−MSによれば、汚染種の特定および汚染量の測定が可能である。
【0008】
そこで本発明者らは、ICP−MSによる化学分析法によってシリコン試料中のB、Pの定性・定量分析を行うことを試みたが、検出感度が低く有用な評価結果を得ることはできなかった。この点について本発明者らは検討を重ね、以下の知見を得るに至った。
【0009】
ICP−MSによる化学分析法は、通常、以下の2通りの方法で行われる。
(1)シリコン試料にエッチング溶液を接触させることで、その一部または全部を分解(液相エッチング)し、エッチング溶液中に測定対象部位のシリコンを取り込む。シリコンを含んだエッチング溶液を加熱蒸発し完全乾固させ、シリコンを気化させた後、回収液によりビーカー等の容器内に残った目的元素を回収し、回収液ごとICP−MSによる分析に付す(例えば特開2001−99766号公報参照)。
(2)シリコン試料にエッチングガスを接触させることで、その一部または全部を分解(気相エッチング)する。気相エッチング後、シリコン残渣を溶液中に取り込み、この溶液を加熱蒸発し完全乾固させ、シリコンを気化させる。その後、回収液によりビーカー等の容器内に残った目的元素を回収し、回収液ごとICP−MSによる分析に付す(例えば特許3487334号明細書および特開2004−335954号公報)。
上記方法(1)、(2)のいずれにおいても、シリコン(Si)を含んだ溶液を完全乾固させているが、これは、シリコン試料を溶解させた溶液中には多量のSiが含まれ、この溶液をそのままICP−MSに導入すると、Siマトリックスの干渉により測定が妨害されることやピーク強度が減感することにより正確な分析が困難となるためSiを気化させて除去する必要があるからである。
しかし本発明者らの検討の結果、上記のようにシリコンを取り込んだ溶液を完全乾固させることが、B、Pの検出感度低下の原因となっていることが判明した。これは完全乾固することによりSiの気化とともにB、Pの気化も生じるためと推察される。
本発明者らは、以上の知見に基づき更に検討を重ねた結果、完全乾固せず液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止することにより、B、Pの大きなロスを抑制することができ、これによりICP−MSによる化学分析法により、シリコン試料中のドーパント元素種の特定および定量が可能となることを新たに見出した。これは、SiはB、Pと比べて気化しやすく完全乾固する前にほぼ全量が除去されるのに対し、B、Pの気化は主に完全乾固する際(最後の1滴が蒸発する際)に生じるためであると推察している。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0010】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]シリコン試料の一部または全部を分解すること、
上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、
を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法。
[2]シリコン試料の一部または全部を分解すること、
上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を酸溶液中に取り込んだ後、該酸溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、
を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法。
[3]前記シリコン試料の分解を、液相エッチングにより行う、[1]または[2]に記載のシリコン試料の分析方法。
[4]前記液相エッチングに用いるエッチング溶液は、弗化水素酸と硝酸との混酸である、[3]に記載のシリコン試料の分析方法。
[5]前記シリコン試料の表層部を分解することにより、該表層部に含まれる前記ドーパント元素の分析を行う、[1]〜[4]のいずれかに記載のシリコン試料の分析方法。
[6]前記シリコン試料をバルク分解することより、該シリコン試料に含まれる前記ドーパント元素の分析を行う、[1]〜[4]のいずれかに記載のシリコン試料の分析方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリコンウェーハ等のシリコン試料中のドーパント元素種の特定および定量が可能となる。得られた分析結果に基づき工程管理を行うことにより、意図せぬドーパント汚染が低減ないし抑制された高品質なシリコン製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1における分析結果を示す。
【図2】実施例2における分析結果を示す。
【図3】実施例3における分析結果を示す。
【図4】実施例4における分析結果を示す。
【図5】加熱蒸発によるSi除去の確認結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、
シリコン試料の一部または全部を分解すること、
上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、
を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法(以下、「方法1」という);
シリコン試料の一部または全部を分解すること、
上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を酸溶液中に取り込んだ後、該酸溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、
を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法(以下、「方法2」という)
に関する。方法1および方法2は、いずれも分解したシリコンに含まれていたドーパント元素を含む溶液を加熱蒸発させる際に、完全乾固せずに液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止する点で共通するものであり、前述のように、これによりSiを除去する際にB、Pが気化し検出感度が低下することを防ぐことができる。なお、方法2は、上記加熱蒸発後に残留した液滴を酸溶液に回収して再度加熱蒸発させる工程を含む。Siの除去が一回の加熱蒸発のみでは不十分な場合には、方法2を適用し再度の加熱蒸発を行いSi除去率を高めることが好ましい。
以下、本発明について更に詳細に説明するが、特記しない限り記載する事項は方法1、方法2に共通するものとする。
【0014】
本発明における分析対象のシリコン試料としては、シリコンウェーハ、単結晶シリコンインゴット、その原料であるポリシリコン、ポリシリコン太陽電池セル、ポリシリコンインゴット等の各種シリコンまたはそれらから切り出されたシリコン試料、シリコン粉末等を挙げることができる。
【0015】
シリコン試料の分解は、液相エッチングにより行ってもよく、気相エッチングにより行ってもよい。分析対象試料が粉末試料である場合、気相エッチングではエッチング中に試料が飛散する場合があるため、粉末試料については液相エッチングを適用することが好ましい。また、Pは気相エッチング中に気化しやすい元素であるため、気相エッチングではエッチング中のリンの気化によりロスが発生する場合がある。したがって、Pをより正確に分析するためには、液相エッチングを適用することが好ましい。
【0016】
液相エッチングにおいて、分析対象試料と接触させ該試料を分解(溶解)するためのエッチング溶液としては、通常シリコンの液相エッチングに使用される各種酸溶液を用いることができる。具体的には、HF系の酸溶液、例えば硝酸、硫酸および塩酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸水溶液と弗化水素酸との混酸を用いることができる。上記混酸の組成(酸濃度および混合比)はシリコン試料の所望のエッチング量に応じて適宜変更すればよいが、一般的には混合比(以下、混合比は体積基準)は硝酸:弗化水素酸=3:2または1:2とすることが好ましい。また酸濃度については、硝酸:60〜70質量%、弗化水素酸:30〜40質量%程度のものが好ましい。
【0017】
本発明の一態様は、分析対象のシリコン試料をバルク分解するものであり、バルク分解することによりバルク分析を行うことができる。なお本発明におけるバルク分解は、シリコン試料全量を分解することに限定されるものではなく、シリコン試料の一部を劈開して分解することであってもよい。例えば、B、Pは熱処理によりシリコン試料内に均一に拡散していると判断した場合には、一部を劈開して分解することで、分解および前処理に要する時間を短縮することができる。または、他の測定によりB、Pがある部分に局在すると判断される場合には、その部分を劈開して分解することで、B、Pを高感度分析することができる。
本発明の他の態様はシリコン試料の一部を分解するものである。一部とは、例えばシリコン試料の表層部であり、表層部を分解して後述する工程を経てICP−MSによる分析を行うことにより、当該表層部に含まれていたドーパントの種類を特定し、含有量を求めることができる。これにより、表層部のドーパント元素の分析を行うことができる。更には、表層部分析とバルク分析を組み合わせることで、分析対象シリコン試料の深さ方向のドーパント元素の分布に関する情報を得ることもできる。
【0018】
エッチング溶液によりシリコン試料の一部を分解するためには、シリコン試料表面に滴下したエッチング溶液をエッチングしたい部分になじませるように、シリコン試料を傾けて回転させる方法を用いることができる。または、エッチング溶液を滴下したテフロン(登録商標)プレート表面にシリコン試料を載せエッチングする方法を用いることもできる。当該方法は、シリコンウェーハの分析においてサンドイッチ法と呼ばれる方法である。サンドイッチ法では、滴下したエッチング溶液上にシリコンウェーハを載せることでシリコンウェーハ表層部をエッチングした後、シリコンウェーハをずらしてエッチング溶液を回収する。一方、シリコン試料をバルク分析する場合は、シリコン試料をエッチング溶液中に浸漬して分解すればよい。
【0019】
一方、気相エッチングは、分析対象試料をエッチングガスと接触させることで分解昇華する方法であり、バルク分析に適する。例えばエッチングガス発生源となる溶液とともに分析対象試料を密閉容器内で配置し、エッチングガス発生源からエッチングガスを発生させれば、密閉容器内でエッチングガスを分析対象試料と接触させ分解昇華させることができる。エッチングガス発生源としては、弗化水素酸、硝酸および硫酸の混酸が好適である。該混酸は、加熱、加圧することなくエッチングガスを発生させることができ好ましい。また、エッチングガスを短時間で発生させるためには、上記混酸にシリコン片を添加することが好ましい。上記混酸を使用する気相エッチングについては、特許3487334号明細書および特開2004−335954号公報に詳細な記載があり、本発明においても当該記載に基づき気相エッチングを行うことができる。
【0020】
上記方法によりシリコン試料と接触して該試料を分解したエッチング溶液には、分解したシリコンに含まれていた各種元素(B、P、その他汚染元素)が含有されている。また、気相エッチング後のシリコン残渣にも同様に、分解したシリコンに含まれていた各種元素が含まれている。したがって、液相エッチング後のエッチング溶液に含有されている元素または気相エッチング後のシリコン残渣に含有されている元素の種類を特定することで、分解したシリコンに含まれていた元素種を知ることができ、上記元素を定量することで含有量ないし汚染量を知ることができる。ただし、上記液相エッチング後のエッチング溶液および気相エッチング後のシリコンを取り込んだ溶液には、各種元素とともに多量のSiが含まれており、そのままその溶液をICP−MSに導入するとICP−MSにおける分析の妨げとなるSiマトリックスの影響を受けることとなる。そこで本発明では、Siの除去のために、液相エッチングではシリコン試料と接触させたエッチング溶液を、気相エッチングではシリコン残渣を取り込ませた溶液を、加熱蒸発させる。これによりSiを気化させてSiマトリックスの影響を除去することができる。ただし前述のように本発明では、上記加熱蒸発を液滴が1滴残留している状態で停止する。これにより最後の1滴が蒸発する際にB、Pが気化することでB、Pのロスが発生し検出感度が低下することを防ぐことができる。なお、気相エッチング後のシリコン残渣を取り込むために使用する溶液としては、例えば、液相エッチング用のエッチング溶液として例示した酸溶液を使用することができる。シリコン残渣を分解除去するためには弗化水素酸、塩酸、硝酸の混合液が好ましく、その混合比は1:4:2が好ましい。シリコン残渣は、例えば気相エッチングによりシリコン試料をバルク分解した場合には、分析対象のシリコン試料を配置していたビーカー内に酸溶液を添加することで、該酸溶液中にシリコン残渣を取り込むことができる。また、シリコン試料の一部を気相エッチングにより分解した場合には、分解後のシリコン試料表面上に酸溶液を走査させるか、前述のサンドイッチ法で気相エッチングした箇所に酸溶液を接触させることで、該酸溶液中に分解残渣を取り込むことができる。
【0021】
Si除去のための加熱蒸発は、テフロン(登録商標)製ビーカー等のエッチング溶液との接触面が疎水性表面である容器を用いて行うことが好ましい。具体的には、液相エッチングにおいてシリコン試料と接触させた後のエッチング溶液または気相エッチング後のシリコン残渣を取り込んだ酸溶液の一部または全部を入れた容器をホットプレート上で、例えば150〜250℃程度の温度に加熱することで、上記溶液を蒸発させることができる。加熱蒸発中、容器内の状態を目視で確認し液滴が完全乾固してしまう前にホットプレートから容器を取り外すことで、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止することができる。ここで残留させる液滴の容量は、Si除去率を高める観点からは50μl以下とすることが好ましく、30μm以下とすることがより好ましく、20μl以下とすることが更に好ましく、B、Pのロス低減の観点からは10μl以上とすることが好ましい。
【0022】
上記加熱蒸発に付した溶液中のシリコン量が多い場合等、1回の加熱蒸発ではSiの除去が不十分な場合がある。そのような場合には、方法2を適用し再度の加熱蒸発(Si除去)を行うことが好ましい。例えば、上記加熱蒸発後の容器に酸溶液を添加することによって、上記溶液の加熱蒸発後に残った液滴1滴を取り込ませた酸溶液を加熱蒸発させる。ただしこの場合も、B、Pのロスを防ぐために加熱蒸発は液滴が1滴残留している状態で停止する。酸溶液としてはSiを分解除去するために効果的な弗化水素酸、塩酸、硝酸の混合溶液が好ましく、その混合比は1:4:2が好ましい。Si除去率を更に高めるために、同様の操作を2回、3回、または4回以上行うこともできる。
【0023】
最終的に溶液の加熱蒸発後に残留した液滴を回収し、該液滴中に含まれるドーパント元素(Bおよび/またはP)をICP−MSによって分析する。ICP−MSでは試料中に含まれる元素種の特定および定量が可能であるため、液滴中に含まれているドーパント元素、即ち分解したシリコン中に含まれていたドーパント元素、の種類および量を求めることができる。例えばボロンドープp型シリコンウェーハにおいて意図した量より多量のBが検出された場合には、B汚染が発生していると判定することができ、pn転換が予想される量のPが検出された場合にはP汚染が発生していると判断することができる。これとは逆に、リンドープn型シリコンウェーハにおいて意図した量より多量のPが検出された場合には、P汚染が発生していると判定することができ、pn転換が予想される量のBが検出された場合にはB汚染が発生していると判断することができる。
【0024】
上記液滴は、前記加熱蒸発後の液滴が1滴残留している容器内に回収液を添加することで回収することができる。回収液としては、純水、弗化水素酸と過酸化水素水との混合溶液;純水、過酸化水素と塩酸との混合溶液;純水、弗化水素酸、過酸化水素水と塩酸との混合溶液、等を使用することができる。回収液をICP−MSに導入することにより、液滴中のドーパントの分析を行うことができる。上記液滴は、前記の加熱蒸発によりSiが除去されているためSiマトリックスによる妨害や減感といった悪影響を受けることなく分析を行うことができる。また、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止したため、B、Pのロス(気化)による感度低下を起こすことなくドーパント元素の分析を行うことができる。
【0025】
ICP−MSは四重極型ICP−MSと二重収束型ICP−MSに大別される。四重極型ICP−MSは電場によるエネルギー収束で質量分離を行っており分子イオン干渉の影響を受けやすく、Siが導入されると感度が減感してしまう。
Pの測定では、質量数31付近にNOやNOH、SiHなどの分子イオンが存在しており、四重極ICP−MSでは、これらの分子イオン干渉の影響を受ける懸念がある。
一方、二重収束型ICP−MSは磁場による質量収束と電場によるエネルギー収束による質量分離を行うことができるため、上記の分子イオン干渉の影響を受けずに分析を行うことができる。また、2000ppm程度のSiであれば減感なく分析可能である。したがって、Siマトリックスによる感度低下をよりいっそう低減するためには、二重収束型ICP−MSを使用することが好ましい。また、二重収束型ICP−MSは四重極型ICP−MSに比べて高分解能であることから、分解能の点からも二重収束型ICP−MSを用いることが好ましい。
【0026】
上記液滴には、ドーパント元素とともに、エッチング溶液との接触により溶解したシリコンに含まれていた汚染元素も含まれている。ICP−MSによればB、PとともにLi、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rb、Mo、Ag、Sb、W、Pbの分析も可能であるため、ドーパント元素の定性・定量分析とともに、上記元素群の定性・定量分析を行うことで分析対象のシリコン試料の汚染種の特定および汚染量の測定を行うこともできる。
【0027】
本発明のシリコン試料の分析方法は、例えば、エピプロセス工程におけるエピタキシャル層汚染や熱処理プロセス等の製造工程におけるウェーハ表層汚染やバルク汚染など、工程汚染の把握を行うためのウェーハの評価方法として用いることができる。更には、近年消費電力を低減させるために注目されている高抵抗型デバイス用のシリコンウェーハのドーパント汚染管理のために、本発明を適用することもできる。
また、本発明はシリコンウェーハへの適用に限られるものではなく、単結晶インゴット、ポリシリコンインゴット、太陽電池インゴット、太陽電池セル等の各種シリコンの分析のために用いることもできる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
抵抗率の異なる3種のBドープp型シリコンウェーハ(φ8インチ)を準備し、各ウェーハについて以下の方法により表層部のボロン含有量を求めた。
(1)38質量%弗化水素酸と68質量%硝酸を体積比で3:2の割合で混合した混酸水溶液(エッチング溶液)1.8mlを清浄なテフロン(登録商標)プレート上に滴下した。
(2)上記エッチング溶液をプレートと8インチシリコンウェーハで挟むことでウェーハとエッチング溶液を接触させてウェーハ表面から深さ1μmの表層部を分解(エッチング)した。上記エッチング中はNOxガスが発生する。
(3)エッチング後(NOxガス発生の終了後)にウェーハをプレート上からテフロンピンセットにより取り外し、プレート上に残ったエッチング溶液(以下、「サンプル溶液」と記載する)をテフロン(登録商標)ビーカーに1ml入れ、ビーカーごとホットプレートで加熱(150〜250℃程度)した。その際、サンプル溶液を完全に乾固させず、ビーカー底面に1滴(20μl)のみ残留している状態でホットプレートからビーカーを外し加熱蒸発を停止させた。
(4)上記ビーカーに38質量%弗化水素酸/68質量%硝酸/20質量%塩酸の混酸水溶液(混合比1:2:4)を300μl加えて、再度、ホットプレート上で加熱(150〜250℃程度)した。ここでも溶液を完全乾固させず、ビーカー底面に1滴(20μl)のみ残留している状態でホットプレートからビーカーを外し加熱蒸発を停止させた。
(5)上記ビーカーに2質量%弗化水素酸/2質量%過酸化水素の混酸水溶液1mlを加えてビーカーに残った1滴(20μl)を溶解し、二重収束型ICP−MSにより含有元素の定性・定量分析を行った。
【0030】
上記(3)においてサンプル溶液を除去した後のウェーハの抵抗値を四探針法で求め、抵抗値からB濃度を算出した。測定はウェーハの中心を通るウェーハの両端までをライン上の49ポイントにて行い、平均値を抵抗値とした(四探針法による測定では、電極の接触部分の表面が汚染されるため、表層部除去後に測定を行った)。ICP−MSによるB定量結果と四探針法による抵抗値から算出したB濃度との関係を、図1に示す。
【0031】
[実施例2]
抵抗率の異なる3種のPドープn型シリコンウェーハ(φ8インチ)を準備し、各ウェーハについて実施例1と同様の方法によりICP−MSによる分析と四探針法による抵抗値の測定およびP濃度の算出を行った。ICP−MSによるP定量結果と四探針法による抵抗値から算出したP濃度との関係を、図2に示す。
【0032】
評価結果
図1および図2に示すように、ICP−MSによるB、P定量値と四探針法による抵抗値から求めたB、P濃度はほぼ一致(誤差10%未満)していた。上記分析に付したシリコンウェーハは、BおよびPによる汚染の懸念のない高清浄度の雰囲気下で製造および保管されていたものであるため、B汚染およびP汚染はないとみなすことができ、また深さ方向でドーパント量の偏りはないとみなすことができる試料である。したがって四探針法による抵抗値から求められるドーパント濃度とICP−MSによる定量値が一致しているということは、本発明による分析方法により良好な検出感度でB、Pの定量分析が可能であることを意味している。また、四探針法のような電気的手法では定性分析は不可能であるのに対し、上記のとおりICP−MSによればB、Pの定性分析を行うこともできる。
以上の結果から、本発明によればシリコン試料中のドーパント元素の定性分析および定量分析が可能となることが示された。
【0033】
[実施例3]
抵抗率の異なる3種のBドープp型シリコンウェーハについて、実施例1と同様の方法により四探針法によって測定される抵抗値からB濃度を求めた。その後、ウェーハを0.1gになるように劈開してウェーハ片を作製し、弗化水素酸/塩酸/過酸化水素混合溶液で表面を洗浄した。洗浄後のウェーハ片について、以下の方法によりボロン含有量を求めた。
(1)38質量%弗化水素酸と68質量%硝酸を体積比で2:1の割合で混合した混酸水溶液を2ml使用して、ウェーハ片をテフロン(登録商標)ビーカー中で溶解した。
(2)溶解後の溶液(以下、「サンプル溶液」と記載する)をビーカーごとホットプレートで加熱した(150〜250℃程度)。その際、サンプル溶液を完全に乾固させず、ビーカー底面に1滴(20μl)のみ残留している状態でホットプレートからビーカーを外し加熱蒸発を停止させた。
(3)上記ビーカーに38質量%弗化水素酸/68質量%硝酸/20質量%塩酸の混酸水溶液(混合比1:2:4)を300μl加えて、再度、ホットプレート上で加熱(150〜250℃程度)した。ここでも溶液を完全乾固させず、ビーカー底面に1滴(20μl)のみ残留している状態でホットプレートからビーカーを外し加熱蒸発を停止させた。
(4)上記ビーカーに2質量%弗化水素酸/2質量%過酸化水素の混酸水溶液1mlを加えてビーカーに残った1滴(20μl)を溶解し、二重収束型ICP−MSにより含有元素の定性・定量分析を行ったところ、Bの定量結果は図3に示す値となった。
【0034】
[実施例4]
抵抗率の異なる3種のPドープn型シリコンウェーハ(φ8インチ)を準備し、各ウェーハについて実施例3と同様の方法によりICP−MSによる分析と四探針法による抵抗値の測定およびP濃度の算出を行った。ICP−MSによるP定量結果と四探針法による抵抗値から算出したP濃度との関係を、図4に示す。
【0035】
評価結果
図3および図4に示すように、ICP−MSによるB、P定量値と四探針法による抵抗値から求めたB、P濃度はほぼ一致(誤差10%未満)していた。上記分析に付したシリコンウェーハは、BおよびPによる汚染の懸念のない高清浄度の雰囲気下で製造および保管されていたものであるため、B汚染およびP汚染はないとみなすことができる。したがって四探針法による抵抗値から求められるドーパント濃度とICP−MSによる定量値が一致しているということは、本発明による分析方法により良好な検出感度でB、Pの定量分析が可能であることを意味している。また、四探針法のような電気的手法では定性分析は不可能であるのに対し、上記のとおりICP−MSによればB、Pの定性分析を行うこともできる。
以上の結果からも、本発明によればシリコン試料中のドーパント元素の定性分析および定量分析が可能となることが示された。
【0036】
完全乾固によるB気化の確認
上記実施例1、2で使用したエッチング溶液と同様の組成の混酸水溶液に10ppbになるようにBの標準試料を滴下したサンプル溶液を4つ調製し、それぞれテフロン(登録商標)ビーカーに入れてビーカーごとホットプレート上で加熱した。2つのビーカーは液滴が消失し溶液が完全乾固するまで加熱蒸発させ、残り2つのビーカーは底面に液滴が1滴(20μl)のみ残留している状態でビーカーをホットプレートから外し加熱蒸発を停止させた。
各ビーカーに2質量%弗化水素酸/2質量%過酸化水素の混酸水溶液1mlを加えてICP−MS分析用試料溶液を調製した。調製した試料溶液を実施例と同様のICP−MS分析に付した。B定量結果を、下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、液滴を1滴残留させた状態で加熱蒸発を停止すると、残留した1滴にBを濃縮回収することができた。これに対し表1に示す結果から、完全乾固させるとBが気化して残渣にはほとんど残留しないことが確認できる。したがって完全乾固した後に残渣を回収したとしても、Bを検出することはできない。
【0039】
加熱蒸発によるSi除去の確認
8インチウェーハを1μmエッチングした実施例1、2ではサンプル溶液のSi濃度は42mg/mlとなる。
また、上記実施例で使用した二重収束型ICP−MSに導入可能なSi濃度の上限は2000ppm程度であり、本装置のSi検出下限は10ppb程度である。
そこで実施例1、2で使用したエッチング溶液と同様の組成の混酸水溶液にSiを2000ppm、42mg/mlになるように溶解した2種類のサンプル溶液を調製した。各濃度3サンプルずつ用意し、それぞれテフロン(登録商標)ビーカーに入れてビーカーごとホットプレート上で加熱し底面に液滴が1滴(20μl)のみ残留している状態でビーカーをホットプレートから外し加熱蒸発を停止させた。各ビーカーに2質量%弗化水素酸/2質量%過酸化水素の混酸水溶液1mlを加えてICP−MS分析用試料溶液を調製した。調製した試料溶液を実施例と同様のICP−MS分析に付した。Si定量結果を図5に示す。
図5に示す結果から、Si濃度2000ppmであったサンプル溶液、42mg/mlであったサンプル溶液とも、液滴を1滴残した状態で加熱蒸発を停止してもSiがほぼ完全に除去されていることが確認できる。Si濃度2000ppm、42mg/mlのサンプル溶液共に図5に示した測定結果とSi初期濃度からSiの除去率を算出すると、除去率は計算上100%となる。Si濃度42mg/mlであったサンプル溶液についてはSi除去処理後に150〜250ppb程度のSiが検出されたが、これはB、Pの分析感度を低下させることがないレベルである。また、実施例1〜4では再度の乾燥蒸発を行っているため、図5に示す値よりも更にSiは除去されている。
【0040】
[実施例5、比較例1]
完全乾固によるP気化の確認
実施例4と同様の方法によって四深針法による抵抗値(1.7Ω・cm)から求めたP濃度が2.77E+15atoms/cm3であるPドープn型シリコンウェーハを0.1gになるように劈開して作製したウェーハ片を6つ準備し、そのうちの3つは実施例4と同様の方法でICP−MSによるP定量分析を行った。
残りの3つのサンプルは、加熱蒸発時に液滴を残さず完全乾固させた点以外、上記3つのサンプルと同様の処理および分析を行った。
6つのサンプルのP定量結果を、下記表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、実施例5では比較例1と比べて、四探針法により得られたB濃度に近いP定量値が得られた。
実施例5、比較例1で分析に付したシリコンウェーハは、BおよびPによる汚染の懸念のない高清浄度の雰囲気下で製造および保管されていたものであるため、B汚染およびP汚染はないとみなすことができる。したがって四探針法による抵抗値から求められるP濃度とICP−MSによるP定量値が近いほど、検出感度が高く信頼性の高い分析結果が得られていると判断することができる。
対比のため、比較例1におけるP定量値の平均値を実施例5におけるP定量値の平均値に対する百分率として算出すると約86%となる。即ち完全乾固することで液滴が1滴残留した状態で加熱蒸発を停止した場合と比べて15%程度のPのロスが生じていることになる。抵抗値を決めるドーパント元素であるPは、ロスなく正確に分析することが求められるため、約15%もの測定誤差が生じることは検出感度の点から許容されないものである。
以上の結果からも、本発明によりドーパント元素の正確な分析が可能となることが示された。
【0043】
以上、方法2に関する実施例を示して本発明について説明した。図5に示すように1回の加熱蒸発によりICP−MS分析に影響を与えることのないレベルまでSiを除去することができるため、方法1によっても高感度分析が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、半導体基板および太陽電池の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン試料の一部または全部を分解すること、
上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、
を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法。
【請求項2】
シリコン試料の一部または全部を分解すること、
上記分解後に得られるシリコンを含む溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を酸溶液中に取り込んだ後、該酸溶液を加熱蒸発させること、ただし、液滴が1滴残留している状態で加熱蒸発を停止し、
上記液滴を回収し、該液滴中に含まれるボロンおよびリンからなる群から選ばれるドーパント元素を誘導結合プラズマ質量分析装置により分析すること、
を含むことを特徴とする、シリコン試料の分析方法。
【請求項3】
前記シリコン試料の分解を、液相エッチングにより行う、請求項1または2に記載のシリコン試料の分析方法。
【請求項4】
前記液相エッチングに用いるエッチング溶液は、弗化水素酸と硝酸との混酸である、請求項3に記載のシリコン試料の分析方法。
【請求項5】
前記シリコン試料の表層部を分解することにより、該表層部に含まれる前記ドーパント元素の分析を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコン試料の分析方法。
【請求項6】
前記シリコン試料をバルク分解することより、該シリコン試料に含まれる前記ドーパント元素の分析を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコン試料の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132779(P2012−132779A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284856(P2010−284856)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】