説明

シリコーン樹脂水性分散体

【課題】 分散安定性に優れると共に、乾燥皮膜の耐水性に優れるシリコーン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】 アミノ基を有する、又はスルホ基及び/若しくはカルボキシル基を有するシリコーン樹脂(A)並びに水を含有してなり、前記(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするシリコーン樹脂水性分散体。前記(A)のアミン価又は酸価は5〜300であることが好ましい。また、前記アミノ基の少なくとも一部がギ酸、酢酸、プロピオン酸及び炭酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなり、前記スルホ基及び/又はカルボキシル基の少なくとも一部がアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂水性分散体に関する。更に詳しくは、耐熱離型材、耐熱電線皮膜及び耐熱コーティング剤として好適に使用できるシリコーン樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は耐熱性、滑り性及び離型性が優れることから離型材、パッキン、電線被膜、塗料及びコーティング剤等に使用されている。近年、主に環境対策として、これらシリコーン樹脂の水性分散体化が広く要請されており、今後も環境保全、省資源及び安全性等の観点からますます重要性を増していくと考えられる。
上記シリコーン樹脂を水に分散させる方法として、軟化点が0℃以下のシリコーン樹脂を用いて界面活性剤存在化で水性分散体を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1記載の水性分散体は分散安定性を向上させる目的で界面活性剤を使用しているため、塗膜の耐水性の低下や塗膜から界面活性剤がブリードアウトするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−280717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は分散安定性に優れると共に、乾燥皮膜の耐水性に優れるシリコーン樹脂水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、アミノ基を有する、又はスルホ基及び/若しくはカルボキシル基を有するシリコーン樹脂(A)並びに水を含有してなり、前記シリコーン樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするシリコーン樹脂水性分散体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のシリコーン樹脂水性分散体は、シリコーン樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を使用することなく分散安定性に優れ、その乾燥皮膜の耐水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明においては、シリコーン系樹脂(A)がアミノ基を有するか、スルホ基及び/又はカルボキシル基を有することにより、シリコーン樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含有することなく分散安定性に優れ、乾燥皮膜の耐水性に優れる水性分散体を得ることができる。
【0008】
アミノ基を有するシリコーン樹脂(A1)は、例えばオルガノシラン(a1)及びアミノアルキルシラン(a2)を加水分解重合させることにより得られる。
スルホ基を有するシリコーン樹脂(A2)は、例えばオルガノシラン(a1)と、ビニルシラン(a3)及び/又はハロアルキルシラン(a4)とを加水分解重合させ、更にスルホン化剤(a5)を反応させる方法や、オルガノシラン(a1)を加水分解重合させる際に芳香環を有するオルガノシランを必須成分として用いて、加水分解重合後にスルホン化剤(a5)により芳香環にスルホ基を導入する方法等により得られる。
カルボキシル基を有するシリコーン樹脂(A3)は、例えばオルガノシラン(a1)及びビニルシラン(a3)を加水分解重合させ、更にカルボキシル基含有ビニルモノマー(a6)をラジカル開始剤(a7)の存在下で反応させることで得られる。
スルホ基及びカルボキシル基を有するシリコーン樹脂(A4)は、例えばオルガノシラン(a1)及びビニルシラン(a3)を加水分解重合させ、更にスルホン化剤(a5)及びカルボキシル基含有ビニルモノマー(a6)を反応させることで得られる。
【0009】
オルガノシラン(a1)としては、オルガノハロシラン及びオルガノアルコキシシラン等の加水分解性基を有する炭素数1〜20のオルガノシラン(例えばジクロロジメチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロジプロピルシラン、ジクロロメチルシラン、ジブロモジメチルシラン、ジヨードジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン及びトリエトキシフェニルシラン)等が挙げられる。オルガノシラン(a1)は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0010】
オルガノシラン(a1)1分子あたりの加水分解性基の個数は、シリコーン樹脂(A)の強度及び(A)の水への分散性の観点から2〜2.99が好ましい。
【0011】
アミノアルキルシラン(a2)としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(アミノメチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン及びN,N−ビス(アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
ビニルシラン(a3)としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルトリクロロシラン等が挙げられる。
ハロアルキルシラン(a4)としては、例えば3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン及び3−ヨードプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0012】
アミノアルキルシラン(a2)、ビニルシラン(a3)及びハロアルキルシラン(a4)の使用量は得られるシリコーン樹脂(A)の耐熱性及び滑り性並びに水性分散体の分散安定性の観点から、オルガノシラン(a1)1モルに対して0.01〜1モルが好ましい。
【0013】
スルホン化剤(a5)としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸及び三酸化硫黄等が挙げられる。
【0014】
スルホン化剤(a5)の使用量は、得られるシリコーン樹脂(A)の耐熱性及び滑り性並びに水性分散体の分散安定性の観点から、芳香環を有するオルガノシラン、ビニルシラン(a3)及びハロアルキルシラン(a4)1モルに対して0.1〜1モルが好ましい。
【0015】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(a6)としては、炭素数3〜20のビニルカルボン酸[(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸グリコールモノエステル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル、10−ウンデセン酸及び桂皮酸等]等が挙げられる。
【0016】
カルボキシル基含有ビニルモノマー(a6)の使用量は、得られるシリコーン樹脂(A)の耐熱性及び滑り性並びに水性分散体の分散安定性の観点から、オルガノシラン(a1)に対して0.1〜10重量%が好ましい。
【0017】
ラジカル開始剤(a7)としては、アゾ系開始剤[2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及びジメチル2,2−アゾビスイソブチレート等]及び過酸化物系開始剤[t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、ベンゾイルパーオキシド、クミルパーオキシド及びラウリルパーオキシド等]等が挙げられる。
【0018】
ラジカル開始剤(a7)の使用量は、得られるシリコーン樹脂(A)の耐熱性及び滑り性並びに水性分散体の分散安定性の観点から、カルボキシル基含有ビニルモノマー(a6)に対して0.01〜1重量%が好ましい。
【0019】
また、必要に応じてシリコーン樹脂中のSi−H基と、ビニル基を有する化合物(a8)とを白金触媒(a9)の存在下で反応させることにより、アミノ基、スルホ基及びカルボキシル基等の官能基を導入することができ、また、シリコーン樹脂を架橋させることもできる。
【0020】
ビニル化合物(a8)としては、アミノ基含有ビニル化合物、ハロゲン基含有ビニル化合物、ジビニル化合物、フェニル基含有ビニル化合物及びエステル基含有ビニル化合物等が挙げられる。
【0021】
アミノ基含有ビニル化合物としては、アミノ基を有する炭素数3〜25のビニルモノマー[アリルアミン、N−メチルアリルアミン、N、N−ジメチルアリルアミン、4−アミノブテン、5−アミノペンテン、4−アミノペンテン、5−アミノ−4−メチルペンテン、N、N−ジメチル−4−アミノペンテン、6−アミノヘキセン、5−アミノヘキセン、4−アミノヘキセン、4−アミノ−5ジメチルヘキセン、7−アミノヘプテン、N,N−ジエチル−5−アミノヘプテン、8−アミノオクテン、6−アミノ−4,5−ジエチルアミノオクテン、10−アミノデセン、N−エチル−8−アミノデセン、12−アミノドデセン及び20−アミノエイコセン等]等が挙げられる。
【0022】
ハロゲン基含有ビニル化合物としては、ハロゲン基を有する炭素数3〜25のビニルモノマー[p−クロロメチルスチレン、p−クロロエチルスチレン、p−クロロプロピルスチレン、m−クロロメチルスチレン、o−クロロエチルスチレン、p−ブロモプロピルスチレン、m−ブロモメチルスチレン、p−ヨードエチルスチレン、o−ヨードプロピルスチレン、アリルクロライド、アリルブロマイド、アリルヨーダイド、4−クロロブテン、5−クロロペンテン、10−ブロモデセン及び20−ヨードエイコセン等]等が挙げられる。
【0023】
ハロゲン基含有ビニル化合物をヒドロシリル化させて得られるシリコーン樹脂に、スルホン化剤(a5)を反応させることでスルホ基を導入することができる。
【0024】
ジビニル化合物としては、炭素数4〜25の末端ジエン[p−ビニルスチレン、m−ビニルスチレン、o−ビニルスチレン、1,5−ジビニルナフタレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−オクタジエン、1,9−デカジエン及び1,19−エイコサジエン等]等が挙げられる。
【0025】
ジビニル化合物の片末端のビニル基のみをヒドロシリル化させて得られるシリコーン樹脂は、スルホン化剤(a5)と反応させることでスルホ基を導入したり、ラジカル開始剤(a7)存在下でカルボキシル基含有ビニルモノマー(a6)と重合反応させることでカルボキシル基を導入することができる。
【0026】
ジビニル化合物の両末端のビニル基をヒドロシリル化させることで、シリコーン樹脂(A)を架橋することができる。
【0027】
フェニル基含有ビニル化合物としては、例えばスチレン及びアリルベンゼン等が挙げられる。
【0028】
フェニル基含有ビニル化合物(a6−4)をヒドロシリル化させて得られるシリコーン樹脂は、濃硫酸、発煙硫酸及びクロロ硫酸等と反応させることでスルホ基を導入することができる。
【0029】
エステル基含有ビニル化合物としては、エステル基を有する炭素数4〜25のビニルモノマー[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、4−ペンテン酸メチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、クロトン酸プロピル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジメチル、10−ウンデセン酸エチル及び桂皮酸メチル等]等が挙げられる。
【0030】
エステル基含有ビニル化合物をヒドロシリル化させて得られるシリコーン樹脂は、含有するエステル基を酸若しくはアルカリの存在下又は非存在下に加水分解することにより、カルボキシル基を導入することができる。
【0031】
ビニル化合物(a8)を使用する場合、その使用量は得られるシリコーン樹脂(A)の耐熱性及び滑り性並びに水性分散体の分散安定性の観点からオルガノシラン(a1)に対して0.1〜10重量%が好ましい。
【0032】
白金触媒(a9)としては例えば塩化白金酸が挙げられる。(a9)の使用量はビニル化合物(a8)に対して1.0×10-6〜0.1重量%が好ましい。
【0033】
シリコーン樹脂(A)の製造における重合反応は、好ましくは0〜320℃、更に好ましくは10℃〜310℃、特に好ましくは20℃〜300℃で行われる。温度が0℃未満の場合は、重合速度が遅くなる傾向にあり、温度が320℃以上になると熱分解が起きるおそれがある。反応時間は好ましくは1分〜20時間である。
【0034】
シリコーン樹脂(A)を得る際の反応には、有機溶媒(s)を用いることができる。有機溶媒(s)としては、公知の有機溶媒、例えば、アセトン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジフェニルスルホン、γ−ブチロラクトン、トルエン及びキシレン(各異性体及びそれらの混合物を含む)等が挙げられるが、その中でもアセトン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。これらの有機溶媒(s)は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
有機溶媒(s)を使用する場合の使用量は、(A)の重量に対して50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下であり、環境汚染の観点からは使用しないことが特に好ましい。
【0035】
シリコーン系樹脂(A)におけるアミノ基、スルホ基及びカルボキシル基の含有量は、樹脂のアミン価又は酸価を測定することにより定量することができる。(A)のアミン価又は酸価は、分散性及び乳化安定性の観点から、5〜300であることが好ましく、更に好ましくは10〜280、特に好ましくは20〜260である。
【0036】
シリコーン樹脂(A)が有するアミノ基、スルホ基及び/又はカルボキシル基を中和剤により中和することにより樹脂粒子の分散安定性が更に向上する。
【0037】
アミノ基を中和する中和剤としては、例えば炭素数1〜10のモノカルボン酸(例えばギ酸、酢酸及びプロパン酸等)、炭酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、硫酸、炭酸ジメチル、硫酸ジメチル、メチルクロライド及びベンジルクロライド等が挙げられる。
【0038】
アミノ基の中和剤としては、生成するシリコーン樹脂(A)の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、炭素数1〜10のモノカルボン酸及び炭酸が好ましく、更に好ましいのはギ酸及び炭酸、特に好ましいのは炭酸である。
【0039】
スルホ基及びカルボキシル基を中和する中和剤としては、例えばアンモニア、炭素数1〜10のアミン化合物及びアルカリ金属(ナトリウム、カリウム及びリチウム等)の水酸化物が挙げられる。
炭素数1〜10のアミン化合物としては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン及びモノエタノールアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン及びジエタノールアミン等の2級アミン並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン及びトリエタノールアミン等の3級アミンが挙げられる。
【0040】
スルホ基及びカルボキシル基の中和剤としては、生成するシリコーン樹脂(A)の水性分散体の乾燥性及び乾燥後の耐水性の観点から、25℃における蒸気圧が高い化合物が好適である。このような観点から、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンが好ましく、更に好ましいのはアンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びジエチルアミン、特に好ましいのはアンモニアである。
【0041】
中和剤の使用量は、シリコーン樹脂水性分散体の分散安定性の観点から、シリコーン樹脂(A)中のアミノ基、スルホ基及びカルボキシル基1当量に対して、好ましくは0.1〜3当量であり、更に好ましくは0.5〜1当量である。
【0042】
本発明におけるシリコーン樹脂(A)の数平均分子量[ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)によって、標準ポリスチレンを基準にして測定されるもの]は、非架橋型の場合には好ましくは2,000〜2,000,000又はそれ以上、更に好ましくは5,000〜1,000,000、特に好ましくは10,000〜500,000である。架橋型の場合は、上記範囲より大きい数平均分子量のもの又はGPCで測定できないのものでもよい。
【0043】
シリコーン樹脂(A)を製造するための装置は、撹拌又は混練可能なものであれば特に限定されず、コルベン、簡易加圧反応装置(オートクレーブ)及び一軸又は二軸の混練機等が使用できるが、混練強度及び加熱能力の観点から、一軸又は二軸の混練機が好ましい。一軸又は二軸の混練機としては、ニーダー[(株)栗本鐵工製「KRCニーダー」等]、一軸混練機及び二軸押出機[池貝(株)製「PCM−30」等]等が挙げられる。
【0044】
シリコーン樹脂(A)の製造に際しては、酸化防止剤、着色防止剤、遅延剤及び可塑剤等の添加剤を併用することができる。
【0045】
本発明のシリコーン樹脂水性分散体は、シリコーン樹脂(A)、水並びに必要により上記中和剤、上記有機溶媒(s)及びその他の添加剤を構成成分とする。
【0046】
シリコーン樹脂(A)を水に分散させる際に上述の有機溶媒(s)を使用することにより、シリコーン樹脂(A)の分散性を更に向上させることができる。
【0047】
有機溶剤(s)を使用する場合、その使用量は通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。尚、上述のシリコーン樹脂(A)の製造時を含めて、有機溶剤(s)を使用した場合には、環境汚染の観点からシリコーン水性分散体製造後に、これを好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、特に好ましくは100ppm以下まで留去することが好ましく、有機溶剤(s)を使用せず、有機溶剤を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0048】
その他の添加剤としては、pH調整剤、破泡剤、抑泡剤、脱泡剤、酸化防止剤、着色防止剤、可塑剤及び離型剤等が挙げられる。
【0049】
本発明のシリコーン樹脂水性分散体の固形分濃度は、分散安定性及び輸送コストの観点から、好ましくは10〜65重量%、更に好ましくは20〜55重量%である。
【0050】
本発明のシリコーン樹脂水性分散体中のシリコーン樹脂(A)の体積平均粒子径は、分散安定性の向上の観点から、0.01〜5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.01〜4μm、特に好ましくは0.02〜2μm、最も好ましくは0.03〜0.8μmである。体積平均粒子径は、(A)が有するアミノ基、スルホ基及びカルボキシル基の量や、必要により使用する中和剤及び有機溶媒(s)の量等により制御することができる。
【0051】
本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750(堀場制作所製)]又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000(大塚電子株製)]を用いて測定できる。
【0052】
本発明のシリコーン樹脂水性分散体は、シリコーン樹脂(A)を必要により中和剤で中和し、水に分散させることで製造することができる。具体的には、分散混合装置として回転式分散混合装置を用いてシリコーン樹脂(A)の溶融温度未満の温度で水中に分散させる方法等が挙げられる。
【0053】
中和剤を使用する場合は、水分散工程前、水分散工程中又は水分散後のいずれの時期に添加してもよいが、シリコーン樹脂(A)の分散安定性の観点から、水分散工程前又は水分散工程中に添加することが好ましい。
尚、シリコーン樹脂水性分散体の製造に当たっては、必要により任意成分である上記有機溶媒(s)及びその他の添加剤を併用することができる。
【0054】
回転式分散混合装置を用いる場合、シリコーン樹脂(A)の形状を0.2〜50mmの粒状又はブロック状にすることが回転式分散混合装置に供給し易いという観点から好ましく、その大きさは、更に好ましくは0.5〜30mm、特に好ましくは1〜10mmである。
【0055】
シリコーン樹脂(A)を粒子状に調整する手段としては、裁断、ペレット化、粒子化又は粉砕する等の手段を用いることができる。この粒子状への調整は、水中又は水の非存在下において実施することができる。例えば、シート状に圧延したシリコーン樹脂(A)を角形ペレット機[(株)ホーライ製]で粒子状にする方法が挙げられる。
【0056】
粒子状に調整されたシリコーン樹脂(A)を、水等とともに回転式分散混合装置に導入するが、この装置の主たる分散原理は、駆動部の回転等によって粒子に外部から剪断力を与えて粉砕し、分散させるという原理である。またこの装置は、常圧又は加圧下で稼働させることができる。
【0057】
回転式分散混合装置としては、例えばTKホモミキサー[プライミクス(株)製]、クレアミックス[エムテクニック(株)製]、フィルミックス[プライミクス(株)製]、ウルトラターラックス[IKA(株)製]、エバラマイルダー[荏原製作所(株)製]、キャビトロン(ユーロテック社製)及びバイオミキサー[日本精機(株)製]が挙げられ、これらの2種類以上の装置を併用してもかまわない。
【0058】
回転式分散混合装置を用いてシリコーン樹脂(A)を分散混合処理する際の分散液の温度としては、分散体であるシリコーン樹脂(A)の分解や劣化等を防ぐ観点から、シリコーン樹脂(A)の溶融温度未満、好ましくは溶融温度よりも5℃以上低い温度で室温以上の温度、更に好ましくは溶融温度よりも10〜120℃低い温度で室温以上の温度が、分散効率及び分解・劣化抑制の観点から好ましい。
【0059】
シリコーン樹脂(A)と水との回転式分散混合装置内の滞留時間は、分解・劣化抑制の観点から0.1〜60分であることが好ましく、更に好ましくは10〜30分である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を以て本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、部は重量部を意味する。
【0061】
<実施例1>
二軸混練機のKRCニーダーに、トリメトキシメチルシラン200部、ジメトキシジメチルシラン26.7部及び3−アミノプロピルトリメトキシシラン29.8部を仕込み、25℃で混練後、イオン交換水200部を仕込み、窒素気流下で生成するメタノールを除去しながら、30分間混練後に200℃に昇温して更に1時間混練して重合させることでアミノ基を有するシリコーン樹脂を得た。このシリコーン樹脂100部を300℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水180部及びギ酸5.7部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて180℃で30分間分散処理することで本発明のシリコーン樹脂水性分散体を得た。
【0062】
<実施例2>
二軸混練機のKRCニーダーに、トリクロロフェニルシラン200部及びジクロロジフェニルシラン50部を仕込み、25℃で混練後、イオン交換水200部を仕込み、窒素気流下で生成する塩化水素を除去しながら、30分間混練後に200℃に昇温して更に1時間混練して重合させた後、発煙硫酸(三酸化硫黄含量25%)25.5部を用いてスルホン化反応を行うことによりスルホ基を有するシリコーン樹脂を得た。このシリコーン樹脂100部を300℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水148.7部及びトリエチルアミン14.4部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて180℃で30分間分散処理することで本発明のシリコーン樹脂水性分散体を得た。
【0063】
<比較例1>
ジクロロジメチルシラン20部及びトリクロロメチルシラン160部をジエチルエーテル500部に溶解させ、イオン交換水500部を滴下し、3時間攪拌した。水相を除去した後、ジエチルエーテルを減圧留去し、シリコーン樹脂を得た。このシリコーン樹脂100部をテトラヒドロフラン100部に溶解させ、得られた溶液を分散剤としてのオクチルフェノールのエチレンオキサイド12モル付加物の10重量%水溶液600部に攪拌しながら添加し、比較用のシリコーン樹脂水性分散体を得た。
【0064】
実施例1、2及び比較例1で得られたシリコーン樹脂のアミン価又は酸価を以下の方法で測定した結果を表1に示す。また、実施例1、2及び比較例1で得られた水性分散体におけるシリコーン樹脂の固形分濃度、体積平均粒子径及びシリコーン樹脂皮膜の耐水性を以下の方法で測定又は評価した結果を表1に示す。
【0065】
<樹脂のアミン価>
本発明におけるシリコーン樹脂のアミン価(mgKOH/g)の測定法は以下の通りである。
(1)シリコーン樹脂をトルエン/メタノール混合溶液(重量比2:1)で約1重量%に希釈し、N/10塩酸メタノール溶液で電位差滴定する。
(2)次式を用いてアミン価を決定する。
アミン価(mgKOH/g)=(A×f×5.61)/S
但し、Aは0.1mol/L塩酸滴定用溶液のmL数、fは0.1mol/L塩酸滴定用溶液の力価、Sは試料採取量(g)である。
【0066】
<樹脂の酸価>
本発明におけるシリコーン樹脂の酸価(mgKOH/g)の測定法は以下の通りである。
(1)シリコーン樹脂をトルエン/メタノール混合溶液(重量比2:1)で約1重量%に希釈し、N/10KOHメタノール溶液で電位差滴定する。
(2)次式を用いて酸価を決定する。
酸価(mgKOH/g)=(A×f×5.61)/S
但し、Aは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液のmL数、fは0.1mol/L水酸化カリウム滴定用溶液の力価、Sは試料採取量(g)である。
【0067】
<固形分濃度>
シリコーン樹脂水性分散体約1gをペトリ皿上にうすく伸ばし、精秤した後、循環式定温乾燥機を用いて130℃で、45分間加熱した後の重量を精秤し、加熱前の重量に対する加熱後の残存重量の割合(百分率)を計算する。
【0068】
<体積平均粒子径>
シリコーン樹脂水性分散体を、イオン交換水でシリコーン樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS−8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定する。
【0069】
<皮膜の耐水性>
シリコーン樹脂水性分散体を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、常温で12時間乾燥後、更に80℃で2時間して得られた皮膜を、イオン交換水に24時間浸漬した後、取り出した皮膜の状態を目視評価する。全く変化しない場合は○、白化が見られる場合は×とする。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のシリコーン樹脂水性分散体は、耐熱離型材、耐熱電線皮膜及び耐熱コーティング剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有する、又はスルホ基及び/若しくはカルボキシル基を有するシリコーン樹脂(A)並びに水を含有してなり、前記シリコーン樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするシリコーン樹脂水性分散体。
【請求項2】
前記シリコーン系樹脂(A)のアミン価が5〜300である請求項1記載のシリコーン樹脂水性分散体。
【請求項3】
前記シリコーン系樹脂(A)の酸価が5〜300である請求項1記載のシリコーン樹脂水性分散体。
【請求項4】
前記アミノ基の少なくとも一部が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸及び炭酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなる請求項1又は2記載のシリコーン樹脂水性分散体。
【請求項5】
前記スルホ基及び/又はカルボキシル基の少なくとも一部が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤で中和されてなる請求項1又は3記載のシリコーン樹脂水性分散体。
【請求項6】
有機溶剤の含有量が1000ppm以下である請求項1〜5のいずれか記載のシリコーン樹脂水性分散体。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂(A)の体積平均粒子径が0.01〜5μmである請求項1〜6のいずれか記載のシリコーン樹脂水性分散体。

【公開番号】特開2012−172008(P2012−172008A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33338(P2011−33338)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】