説明

シートベルトアンカー用のリテーナの固定構造

【課題】
フロアパネルに上方への負荷が加わり、リテーナのフロアパネルとの締結固定点が上方へ移動変形して、剛性強化部の後端部がフロアパネルを上方へ持ち上げしたとき、リテーナの後端側に位置するクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止できるシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造を提供する。
【解決手段】
第4クロスメンバ18のフランジ18Aとフロアパネル22が溶接固定され、フランジ18Aにリテーナ30の後端が溶接固定されている。リテーナ30が、フロアパネル22に対して締結固定されている、リテーナ30には前後方向に延出された一対のビード35が形成されている。リテーナ30の第4クロスメンバ18に対するスポット溶接箇所とビード35の後端との間の溶接領域Y2において、リテーナ30がフロアパネル22に対して溶着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトアンカー用のリテーナの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載のシートベルトアンカー構造が提案されている。このシートベルトアンカー構造を、図6を参照して説明する。
車両のシート近傍のフロアパネル100の部位には、図示しないシートベルトを支持する三角板状のシートベルトアンカー102が固定されている。前記フロアパネル100の下面において、シートベルトアンカー102より車体後方側には車幅方向に延在するクロスメンバ104が設けられている。前記クロスメンバ104は、上方開口状のハット型に形成されている。前記クロスメンバ104の前縁には、車体前方側へ屈曲されてなるフランジ106が形成されている。又、前記クロスメンバ104の後縁には、車体後方側へ屈曲されてなるフランジ108が形成されている。
【0003】
一部のフランジ106の上面と、一部の前記フランジ108の上面とには、板状のステフナ105が載置された状態で、スポット溶接されている。又、前方側のフランジ106の下面には、フロアパネル100を補強するための板状のリテーナ107の後端部が、前記ステフナ105と共にスポット溶接されている。又、前記フロアパネル100は、前記クロスメンバ104において、前記ステフナ105が配置された領域を除いた部位において、前記両フランジ106,108に対してスポット溶接された状態で固定されている。
【0004】
又、リテーナ107の前端部には、シートベルトアンカー102を固定する際に、ボルト109が挿通されるボルト挿通穴(図示しない)とウエルドナット110とが設けられている。
【0005】
前記シートベルトアンカー102は、前記ボルト109とウエルドナット110とによって、前記フロアパネル100と共に共締めされている。又、シートベルトアンカー102を固定するボルト109と、前記クロスメンバ104のフランジ106との間における前記フロアパネル100の部位には、車幅方向に延在する凸ビード112が形成されている。
【0006】
そして、図7に示すように、シートベルトアンカー102に入力Nが加わり、シートベルトアンカー102が固定された前記フロアパネル100に車体前方へ向けた張力が加わった場合、前記フロアパネル100には、前記張力による変形に伴いシワが発生する。しかし、前記シートベルトアンカー102を固定するボルト109と、クロスメンバ104のフランジ106との間における前記フロアパネル100の部位に、車幅方向に延在する凸ビード112が設けられていることにより、車体後方側へのシワの延びを、凸ビード112により阻止する。このことによって、フランジ106とフロアパネル100間のスポット溶接打点での剥離を防止するようにしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成では、入力Nが加わった際には、図7に示すようにリテーナ107自体の上下の変形を増加させてしまう。
このため、リテーナ107に上下の変形を防止するためには、図8(a),(b)、図9に示すように、リテーナ107の長手方向(前後方向)に、ボルト挿通穴107aを挟むようにして一対のビード107bを形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−52919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、入力Nが大きい場合、図9に示すように、特にリテーナ107の後端側におけるビード107bの後端がフロアパネル100を持ち上げて、前記フロアパネル100とクロスメンバ104のフランジ106とのスポット溶接打点を剥離させてしまう虞がある。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決して、フロアパネルに上方への負荷が加わり、リテーナのフロアパネルとの締結固定点が上方へ移動変形して、剛性強化部の後端部がフロアパネルを上方へ持ち上げしたとき、リテーナの後端側に位置するクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止できるシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、車体の第1のクロスメンバの前方を向くフランジの上面とフロアパネルが溶接固定され、前記フランジの下面にリテーナの後端が溶接固定され、前記リテーナが、前記第1のクロスメンバの前方において前記フロアパネルに対して締結固定され、前記リテーナには、前後方向に延出された一対の剛性強化部が前記フロアパネルに対する締結固定点を挟むように設けられた、シートベルトアンカー用のリテーナの固定構造であって、前記リテーナの後端の前記第1のクロスメンバに対する溶接固定点と前記剛性強化部の後端との間の領域において、前記リテーナが前記フロアパネルに対して溶着されていることを特徴とするシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造を要旨としている。
【0012】
上記の構成により、フロアパネルに車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナの剛性強化部の後端がフロアパネルを上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、剛性強化部の後端と第1のクロスメンバの溶接固定点間の領域で溶着された部位(以下、後方側の溶着点という)で受ける。このため、前記後方側の溶着点が、リテーナの後端側に位置する第1のクロスメンバのフランジとフロアパネル間の溶接固定の箇所と分担して前記負荷を受けることにより、当該第1のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止する。 請求項2の発明は、請求項1において、前記リテーナの前端は、前記第1のクロスメンバの前方に離間して位置する第2のクロスメンバに後方へ向けられたフランジの下面に対して、溶接固定されるとともに、前記リテーナの前端の前記第2のクロスメンバに対する溶接固定点と前記剛性強化部の前端との間の領域において、前記リテーナが前記フロアパネルに対して溶着されていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成により、フロアパネルに車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナの剛性強化部の前端がフロアパネルを上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、剛性強化部の前端と第2のクロスメンバの溶接固定点間の領域で溶着された部位(以下、前方側の溶着点という)で受ける。このため、前記前方側の溶着点が、リテーナの前端側に位置する第2のクロスメンバのフランジとフロアパネル間の溶接固定の箇所と分担して前記負荷受けることにより、当該第2のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止する。
【0014】
請求項3の発明は、請求項2において、前記第1のクロスメンバ及び第2のクロスメンバに対する溶接固定点、前記剛性強化部、並びに、前記リテーナが前記フロアパネルに対して溶着された溶着点が平面視したとき直線状に配置されていることを特徴とする。
【0015】
上記の構成により、剛性強化部、溶着点、溶接固定点が平面視したとき直線状に配置されていることにより、フロアパネルに車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナの剛性強化部の後端がフロアパネルを上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、剛性強化部の後端と第1のクロスメンバの溶接固定点間の領域の溶着点で受けるとともに、平面視したとき直線上に位置する第1のクロスメンバとの溶接固定点でも受ける。このため、剛性強化部の後端側では、該後端側に対して平面視したとき直線上に位置する後方側の溶着点と溶接固定点により、協働してリテーナの後端側に位置する第1のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止する。
【0016】
又、剛性強化部、溶着点、溶接固定点が平面視したとき直線上に配置されていることにより、フロアパネルに車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナの剛性強化部の前端がフロアパネルを上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、剛性強化部の前端と第2のクロスメンバの溶接固定点間の領域の溶着点で受けるとともに、平面視したとき直線上に位置する第2のクロスメンバとの溶接固定点でも受ける。このため、剛性強化部の前端側では、該前端側に対して平面視したとき直線上に位置する前方側の溶着点と溶接固定点により、協働してリテーナの前端側に位置する第2のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止する。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項において、前記剛性強化部が、ビードであることを特徴とする。剛性強化部をビードとしたことにより、ビードで剛性強化部を容易に形成できるとともに、請求項1乃至請求項3のいずれかの作用を実現する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、フロアパネルに上方への負荷が加わり、リテーナのフロアパネルとの締結固定点が上方へ移動変形して、剛性強化部の後端部がフロアパネルを上方へ持ち上げしたとき、リテーナの後端側に位置する第1のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止できる。
【0019】
請求項2の発明によれば、さらに、フロアパネルに上方への負荷が加わり、リテーナのフロアパネルとの締結固定点が上方へ移動変形して、剛性強化部の前端部がフロアパネルを上方へ持ち上げしたとき、フロアパネルとリテーナの前端側に位置する第2のクロスメンバのフランジ間のスポット溶接打点の剥離を防止できる。
【0020】
請求項3の発明によれば、第1、及び第2のクロスメンバに対する溶接固定点、前記剛性強化部、並びに、前記リテーナの前記フロアパネルに対する溶着点が平面視したとき直線状に配置されていることにより、剛性強化部がフロアパネルを上方へ持ち上げしたとき、同じく平面視したとき直線状に並んだ、リテーナとフロアパネルとの溶着点が、第1及び第2のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止できる。
【0021】
請求項4発明によれば、剛性強化部がビードで構成されている場合にも、請求項1乃至請求項3の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造を有する車体後部の骨格構造を模式的に示す平面図。
【図2】同じく要部拡大側面図。
【図3】一実施形態のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造に使用するリテーナの底面図。
【図4】一実施形態のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造に使用するリテーナの斜視図。
【図5】(a)及び(b)は、一実施形態の作用の説明図。
【図6】従来のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造の断面図。
【図7】従来の入力Nが加わった際のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造の断面図。
【図8】(a)は従来のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造に使用されているリテーナの平面図、(b)は従来のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造に使用されているリテーナの側面図。
【図9】従来のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造の作用の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した第1実施形態のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造を図1〜図5を参照して説明する。なお、各図に適宜記す矢印は、車体Sの前後方向及び左右方向を示している。
【0024】
図1に示すように、車体Sは、前後方向に左右一対のサイドメンバ10を備えている。各サイドメンバ10は、格納凹部(図示しない)が配置される車体後部において、互いの間隔が広くなるように一部テーパ状に形成されている。左右のサイドメンバ10は、それぞれ車幅方向を長手方向とする複数のクロスメンバによって連結されて(架け渡されて)いる。
【0025】
車体Sの後部には、前から順に第1乃至第5クロスメンバ12、14、16、18、20が配設されている。第1乃至第4クロスメンバ12、14、16、18は、それぞれ上向きに開口する断面ハット形状に形成されている。第1乃至第4クロスメンバ12、14、16、18において、開口縁に沿って前後にそれぞれ設けられたフランジ12A,12B、14A,14B、16A,16B、18A,18Bにフロアパネル22の下面がスポット溶接により固着されていることにより閉断面が構成されている。フランジ12A,14A,16A,18Aは前方に向き、フランジ12B,14B,16B,18Bは後方に向いている。
【0026】
なお、図1では、説明の便宜上、フロアパネル22の外形形状は仮想線で示し、透視図的に第1乃至第5クロスメンバ12、14、16、18、20を図示している。
図1に示すように、ロングスライドレール40は、右側の2列目シート44用に左右一対並列して設けられると共に、左側の2列目シート44用に左右一対並列して設けられている。図1において、想像線で示す車幅方向外側のロングスライドレール40Aは、主にサイドメンバ10上に配設されており、サイドメンバ10とフロアパネル22とが形成する閉断面部に締結されている。車幅方向内側に設けられた一対のロングスライドレール40Bは、第1クロスメンバ12の後部から第4クロスメンバ18上にまで至っている。
【0027】
ロングスライドレール40Bの前端は、図示しない取付部材を介して、フロアパネル22における第1クロスメンバ12とで閉断面を成す部分に固定されている。
ロングスライドレール40Bの中間部は、図示しないボルト・ナット(ウェルドナット)によって、フロアパネル22における第2、第3クロスメンバ14、16とで閉断面を成す部分に締結固定されている。
【0028】
そして、ロングスライドレール40Bの後端は、フロアパネル22における第4クロスメンバ18とで閉断面を成す部分の下面に固着されたウェルドナット(図示しない)に、該ロングスライドレール40Bを貫通した図示しないボルトが螺合されていることにより、該フロアパネル22の部分(第4クロスメンバ18)に締結固定されている。
【0029】
以上により、各ロングスライドレール40Bは、車体Sに対し強固に取り付けられている。
互いに隣接した2組のロングスライドレール40A,40B上には、それぞれ左右一対の2列目シート44がそれぞれ配設されている。2列目シート44は、ロングスライドレール40A,40Bに対し前後方向にスライドして前後位置を調節可能に支持されている。図2に示すように、ロングスライドレール40は、2列目シート44を構成するシートクッション44Aの下部に設けられたスライドレールアッパ46を介して、該2列目シート44をスライド可能でかつ所望の前後位置で停止可能に支持している。
【0030】
ロングスライドレール40は、シートクッション44Aの前後長に対し長く(この実施形態では3倍程度に)設定されており、2列目シート44の前後位置の調節範囲が広い構成を実現している。2列目シート44は、図示しないシートベルト装置を備えている。
【0031】
図1に示すように、前記一対のロングスライドレール40B間のフロアパネル22の下面には、リテーナ30が固定されている。又、リテーナ30の前後両端は、第3クロスメンバ16と第4クロスメンバ18に対して固定されている。ここで、第4クロスメンバ18は本発明の第1のクロスメンバに相当し、第3クロスメンバ16は、本発明の第2のクロスメンバに相当する。
【0032】
リテーナ30は、図3、図4に示すように、前後に延びるよう平板部30aが形成されるとともに、平板部30aの前後両端部は、下方へ向かう段差部30b,30cを介して、連結片30d,30eが連結されている。段差部30b,30cの高さは、図2に示すように、フランジ16B,18Aの厚みと同一にされている。
【0033】
平板部30aの前後方向の中央部よりも前方寄りであって、車幅方向の中央部の部位には、ボルト挿通孔31とウエルドナット32とが設けられている。そして、ボルト33がボルト挿通孔31に対して図5(a)に示すようにフロアパネル22の上方から挿通されてウエルドナット32に螺合されることにより、リテーナ30はフロアパネル22に締結固定されている。前記ボルト33とウエルドナット32とにより締結固定されているリテーナ30の部位はフロアパネル22に対する締結固定点に相当する。
【0034】
又、リテーナ30は、平板部30aの連結片30d,30eがフランジ16B,18Aの下面に対してスポット溶接されることにより第3クロスメンバ16及び第4クロスメンバ18に対して固定されている。図3、図4において、連結片30d,30e上の×印は、第3クロスメンバ16及び第4クロスメンバ18に対するスポット溶接箇所(打点)位置を示している。図3,図4において、スポット溶接箇所にはそれぞれZa〜Zdを付す。スポット溶接箇所Za〜Zdは溶接固定点に相当する。
【0035】
又、リテーナ30において、フロアパネル22に対する固定点(固定点の代表としてボルト挿通孔31を参照)を挟むようにして前後方向に延出された一対のビード35が設けられている。ビード35は図4に示すように平板部30aから下方へ突出されている。ビード35は、リテーナ30の剛性を強化するための剛性強化部に相当する。
【0036】
ビード35の前端部と段差部30bの間、及びビード35の後端部と段差部30c間には、フロアパネル22に対して溶接固定するための溶接領域Y1,Y2が設けられている。
【0037】
又、溶接領域Y1では、図3、図4に示す×印の箇所で、フロアパネル22の下面に対してスポット溶接により固定されている。
図3、図4において、溶接領域Y1のフロアパネル22に対するスポット溶接箇所(すなわち、溶着点)は、Ya〜Ycを付す。又、溶接領域Y2では、図3、図4に示す×印の箇所で、フロアパネル22の下面に対してスポット溶接により固定されている。図3、図4において、溶接領域Y2のフロアパネル22に対するスポット溶接箇所(すなわち、溶着点)は、Yd〜Yfを付す。本実施形態では、一方のビード35、溶着点Ya,Yd、及びスポット溶接箇所Za,Zc(溶接固定点)は平面視したとき直線状に配置されている。他方のビード35、溶着点Yc,Yf、及びスポット溶接箇所Zb,Zd(溶接固定点)は平面視したとき直線状に配置されている。
【0038】
なお、従来のリテーナでは、溶接領域Y1,Y2が設けられておらず、本実施形態のリテーナ30では溶接領域Y1,Y2を有することにより、リテーナ30が持ち上げられたときの変形量は大きくなることが懸念されるが、溶接領域Y1,Y2が設けられていないリテーナに比して深く設定しておけば変形量の増大は阻止できるため問題はない。
【0039】
(実施形態の作用)
上記のように構成された、シートベルトアンカー用のリテーナの固定構造の作用を説明する。
【0040】
乗員が図示しないシートベルト装置を装着した状態で、2列目シート44を介して、ロングスライドレール40,フロアパネル22,リテーナ30に前方への入力Nが加わった場合、図5(a)、(b)に示すように、フロアパネル22に車体前方へ向けた張力が加わる。リテーナ30には、前後方向にビード35が設けられているため、このビード35の前後両端において、図5(b)に示すようにフロアパネル22を持ち上げる。
【0041】
このフロアパネル22の持ち上がり時に、リテーナ30は、溶接領域Y1,Y2において、フロアパネル22とスポット溶接により固定されているため、フロアパネル22と第3クロスメンバ16のフランジ16Bとのスポット溶接打点、及びフロアパネル22と第4クロスメンバ18のフランジ18Aとのスポット溶接打点を剥離させてしまうことがない。
【0042】
すなわち、フロアパネル22に車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナ30のビード35の後端がフロアパネル22を上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、ビード35の後端と第4クロスメンバ18の溶接固定点間の溶接領域Y2で溶着された後方側の溶着点Yd,Ye,Yfで受ける。このため、後方側の溶着点Yd,Ye,Yfが、リテーナ30の後端側に位置する第4クロスメンバ18のフランジ18Aとフロアパネル22間の溶接固定の箇所と分担して前記負荷を受けるため、リテーナ30の後端側に位置する第4クロスメンバ18のフランジ18Aとフロアパネル22間のスポット溶接打点の剥離を防止する。
【0043】
又、フロアパネル22に車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナ30のビード35の前端がフロアパネル22を上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、ビード35の後端と第3クロスメンバ16の溶接固定点間の溶接領域Y1で溶着された前方側の溶着点Ya,Yb,Ycで受ける。このため、前方側の溶着点Ya,Yb,Ycが、リテーナ30の前端側に位置する第3クロスメンバ16のフランジ16Bとフロアパネル22間の溶接固定の箇所と前記負荷を分担して受けるため、リテーナ30の前端側に位置する第3クロスメンバ16のフランジ16Bとフロアパネル22間のスポット溶接打点の剥離を防止する。 特に、本実施形態では、各ビード35の後端、後方側の溶着点Yd,Yf、及びスポット溶接箇所Zc,Zd(溶接固定点)はそれぞれ平面視したとき直線状に配置されている。
【0044】
このため、フロアパネル22に車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナ30のビード35の後端がフロアパネル22を上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、第4クロスメンバ18の溶接領域Y2の後方側の溶着点Yd,Yfで受けるとともに、平面視したとき直線上に位置する第4クロスメンバ18との溶接固定点Zc,Zdでもそれぞれ受ける。このため、ビード35の後端側では、該後端側に対して平面視したとき直線上に位置する後方側の溶着点Yd,Yfと溶接固定点Zc,Zdにより、協働してリテーナ30の後端側に位置する第4クロスメンバ18のフランジ18Aとフロアパネル22間のスポット溶接打点の剥離を防止する。
【0045】
又、各ビード35の前端、前方側の溶着点Ya,Yc、及びスポット溶接箇所Za,Zb(溶接固定点)がそれぞれ平面視したとき直線上に配置されている。
このため、フロアパネル22に車体前方へ向けた張力が加わり、リテーナ30のビード35の前端がフロアパネル22を上方へ持ち上げようとしたとき、前記張力が加わった際の負荷を、第3クロスメンバ16の溶接領域Y1の前方側の溶着点Ya,Ycで受けるとともに、平面視したとき直線上に位置する第3クロスメンバ16との溶接固定点Za,Zbでも受ける。
【0046】
このため、ビード35の前端側では、該前端側に対して平面視したとき直線上に位置する前方側の溶着点Ya,Ycと溶接固定点Za,Zb点により、協働してリテーナの前端側に位置する第2のクロスメンバのフランジとフロアパネル間のスポット溶接打点の剥離を防止する。
【0047】
本実施形態では、下記の特徴を有する。
(1) 本実施形態のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造では、車体Sの第4クロスメンバ18(第1のクロスメンバ)の前方を向くフランジ18Aの上面とフロアパネル22が溶接固定されている。又、フランジ18Aの下面にリテーナ30の後端が溶接固定されている。又、リテーナ30が、第4クロスメンバ18(第1のクロスメンバ)の前方において、フロアパネル22に対するボルト33とウエルドナット32とにより締結固定されている。又、リテーナ30には、リテーナ30の部位(締結固定点)を挟むようにして前後方向に延出された一対のビード35(剛性強化部)が形成されている。そして、リテーナ30の後端の第4クロスメンバ18(第1のクロスメンバ)に対するスポット溶接箇所Zc,Zd(溶接固定点)とビード35(剛性強化部)の後端との間の溶接領域Y2において、リテーナ30がフロアパネル22に対して溶着されている。
【0048】
この結果、本実施形態によれば、フロアパネル22に上方への負荷が加わり、リテーナ30のフロアパネル22との締結固定点が上方へ移動変形して、ビード35の後端部がフロアパネル22を上方へ持ち上げしたとき、リテーナ30の後端側に位置する第4クロスメンバ18のフランジ18Aとフロアパネル22間のスポット溶接打点の剥離を防止できる。
【0049】
(2) 本実施形態では、リテーナ30の前端は、第4クロスメンバ18(第1のクロスメンバ)の前方に離間して位置する第3クロスメンバ16(第2のクロスメンバ)に後方へ向けられたフランジ16Bの下面に対して、溶接固定されている。又、リテーナ30の前端は、その前端の第3クロスメンバ16(第2のクロスメンバ)に対するZa,Zb(溶接固定点)と、ビード35(剛性強化部)の前端との間の溶接領域Y1において、リテーナ30がフロアパネル22に対して溶着されている。
【0050】
この結果、本実施形態によれば、さらに、フロアパネル22に上方への負荷が加わり、リテーナ30のフロアパネル22との固定点が上方へ移動変形して、ビード35の前端部がフロアパネル22を上方へ持ち上げしたとき、フロアパネル22とリテーナ30の前端側に位置する第3クロスメンバ16のフランジ16B間のスポット溶接打点の剥離を防止できる。
【0051】
(3) 本実施形態では、第4クロスメンバ18(第1のクロスメンバ)及び第3クロスメンバ16(第2のクロスメンバ)に対する溶接固定点、ビード35(剛性強化部)、並びに、リテーナ30がフロアパネル22に対して溶着された溶着点が平面視したとき直線状に配置されている。この結果、ビード35がフロアパネル22を上方へ持ち上げしたとき、平面視したとき直線状に並んだ、リテーナ30とフロアパネル22との溶着点が、第4クロスメンバ18、及び第3クロスメンバ16のフランジ18A,16Bとフロアパネル22間のスポット溶接打点の剥離を防止できる。
【0052】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように変更してもよい。
・ 前記実施形態では、剛性強化部をビード35で構成したがビード35の代わりに、平板部30aの左右両側部を溝が下向くように断面コ字状に形成して、下方に向く側壁を剛性強化部としてもよい。
【0053】
・ 前記実施形態では、ビード35の前端部と段差部30bの間、及びビード35の後端部と段差部30c間には、フロアパネル22に対して溶接固定するための溶接領域Y1,Y2がそれぞれ設けられているが、後端側の溶接領域Y2のみを設けて、前端側のY1は省略してもよい。
【0054】
・ 前記実施形態では、フランジ16B、18Aとリテーナ30との溶接をスポット溶接にて行うようにしたがアーク溶接であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…サイドメンバ、12…第1クロスメンバ、14…第2クロスメンバ、
16…第3クロスメンバ(第2のクロスメンバ)、
18…第4クロスメンバ(第1のクロスメンバ)、
22…フロアパネル、
30…リテーナ、31…ボルト挿通孔、32…ウエルドナット、
33…ボルト、
40…ロングスライドレール、40A…ロングスライドレール、
40B…ロングスライドレール
44…2列目シート、Y1,Y2…溶接領域、
Ya〜Yf…溶着点、Za〜Zd…スポット溶接箇所。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の第1のクロスメンバの前方を向くフランジの上面とフロアパネルが溶接固定され、前記フランジの下面にリテーナの後端が溶接固定され、前記リテーナが、前記第1のクロスメンバの前方において前記フロアパネルに対して締結固定され、前記リテーナには、前後方向に延出された一対の剛性強化部が前記フロアパネルに対する締結固定点を挟むように設けられた、シートベルトアンカー用のリテーナの固定構造であって、
前記リテーナの後端の前記第1のクロスメンバに対する溶接固定点と前記剛性強化部の後端との間の領域において、前記リテーナが前記フロアパネルに対して溶着されていることを特徴とするシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造。
【請求項2】
前記リテーナの前端は、前記第1のクロスメンバの前方に離間して位置する第2のクロスメンバに後方へ向けられたフランジの下面に対して、溶接固定されるとともに、前記リテーナの前端の前記第2のクロスメンバに対する溶接固定点と前記剛性強化部の前端との間の領域において、前記リテーナが前記フロアパネルに対して溶着されていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造。
【請求項3】
前記第1のクロスメンバ及び第2のクロスメンバに対する溶接固定点、前記剛性強化部、並びに、前記リテーナが前記フロアパネルに対して溶着された溶着点が平面視したとき直線状に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造。
【請求項4】
前記剛性強化部が、ビードであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載のシートベルトアンカー用のリテーナの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−218519(P2012−218519A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84575(P2011−84575)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】