説明

シートベルトウエビング

【課題】
高い強力、優れたエネルギー吸収能を有するとともに、適度な剛性を保持することでリトラクターへの巻き取り性能が一層向上したシートベルトウエビングを特異な製織・染色工程を要すことなく提供する。
【解決手段】
マルチフィラメントをタテ糸およびヨコ糸に用いたシートベルトウエビングであって、ウエビング内においてタテ糸がヨコ糸に噛み込み、その噛み込み度合いが3〜20%であることを特徴とし、またウエビングを構成するタテ糸の繊度T(dtex)および打ち込み本数N(本/inch)の積で表される単位幅あたりのトータル繊度T*Nが次式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のシートベルトウエビング。
T*N(dtex/inch)=177,000〜245,000

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輌用シートベルトウエビングに関する。詳しくは高い強力、優れたエネルギー吸収力を有するとともに適度な剛性を保持することでリトラクターへの巻き取り性能が一層向上したシートベルトウエビングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シートベルトは自動車、航空機などに搭乗した乗員の安全を確保する装置として欠かせないものであり、ほとんど全ての自動車、航空機に装備されている。シートベルトに要求される特性として、まず第一に衝突等で大きな衝撃を受けた際に容易に破断しない高い強力、乗員にかかる衝撃を和らげる高いエネルギー吸収力が挙げられる。また、ウエビングがリトラクターと呼ばれるベルト巻き取り装置からスムーズに引き出され、スムーズに巻き取られるいわゆる巻き取り性能についてもシートベルト本来の機能を果たすために必要不可欠な特性である。特に近年、リトラクター自体の軽量化・コンパクト化が進みつつあるなか、ウエビングに対しても軽量化・薄化が求められるようになった結果、ベルトの捩れ・折れが発生しやすくなり、これらトラブルを回避しリトラクターへのスムーズな出し入れを確保することはますます重要かつ難しい課題となってきている。
【0003】
このような背景のもと、シートベルトウエビングのリトラクターへの巻き取り性能を向上させるため多方面からの技術提案がなされている。なかでもウエビング自体の剛性、特にウエビングのヨコ方向における剛性を高め安定した形態を保持することで巻き取り性能の向上を図る方法が最も有効であり、コスト面でも有利な方法といえる。
【0004】
特許文献1、2にはシートベルトウエビングを構成するヨコ糸に剛性の高いモノフィラメントを用いることでウエビングの剛性を高め形態安定性の向上を図る技術が開示されている。しかしながら、これらの方法で使用されるモノフィラメントは、それ自体の剛性が高すぎて製織性が悪化したり、製織性を確保するためには極端に製織スピードを低下させなければならず、実用上の問題が残るものであった。また、繊維径の大きなモノフィラメントを用いるためウエビングの厚みが増すという問題があり、近年求められる薄型ウエビングを実現し得るという点で満足し得るものではなかった。
【0005】
特許文献3、4では、ウエビングを構成するヨコ糸にY型、△型、C型、中空型などの異形断面マルチフィラメントを使用する技術が提案されている。これらの技術は特許文献1、2の技術思想と同様にヨコ糸自体の剛性を高めることでウエビングの剛性アップを期待したものであるが、その効果は必ずしも十分ではなく、ウエビング設計や製織条件によっては剛性アップ効果が全く得らないことすらあった。
【0006】
特許文献5には、単糸断面形状が扁平型であるマルチフィラメントを用い、ウエビング中で各単糸の扁平断面を高度に配列させたシートベルトウエビングについて開示されている。本方法によるとウエビング中における単繊維は最密充填構造となり薄化と形態安定化が両立できるというものである。しかしながら、十分な効果を得るにはウエビング製造工程における織り張力、加熱温度、ニップ圧力等を高度に制御する必要があり、僅かな条件の乱れによって扁平断面方向が揃わず、むしろ厚くて剛性の低いウエビングとなってしまうことがあった。
【特許文献1】米国特許第4107371号明細書
【特許文献2】特開2003−41431号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−228218号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2000−190811号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2004−315984号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術では解決できなかった課題について検討した結果、達成されたものであり、すなわちは高い強力、優れたエネルギー吸収力を有するとともに、適度な剛性を保持することでリトラクターへの巻き取り性能が一層向上したシートベルトウエビングを特異な製織・染色工程を施すことなく提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明は主として次の構成を有する。すなわち、マルチフィラメントをタテ糸およびヨコ糸に用いたシートベルトウエビングであって、ウエビング内においてタテ糸がヨコ糸に噛み込み、その噛み込み度合いが3〜20%である。
【0009】
さらに、本発明のシートベルトウエビングにおいては、次の(a)〜(d)のいずれか1つまたはその組み合わせを満たすことが好ましい態様であり、さらに優れた効果が期待できるものである。
(a)ウエビングを構成するタテ糸の繊度T(dtex)および打ち込み本数N(本/inch)の積で表される単位幅あたりのトータル繊度T*Nが次式を満たすこと。
T*N(dtex/inch)=177,000〜245,000
(b)ウエビングを構成するヨコ糸の結晶化度(σ)が25〜34%であること。
(c)ウエビングを構成するヨコ糸の単糸断面形状が突起部を有すること。
(d)ウエビングを構成するヨコ糸の単糸断面形状がY型であること。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシートベルトウエビングは、高い強力、優れたエネルギー吸収能を有するとともに、適度な剛性を保持するため、リトラクターへの巻き取り性能を一層向上させることができる。そのため近年要求される薄型シートベルトに特に好適に使用できる。また本発明のシートベルトウエビングは特異な製織・染色工程を必要とせずに、製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のシートベルトウエビングを構成するタテ糸およびヨコ糸は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維などの合成繊維が用いられ、特に限定されるものではないが、ウエビングとして高い強力、優れたエネルギー吸収能を得るためにはポリエステル繊維、なかでもポリエチレンテレフタレート繊維が最も好適である。また、ポリマの一部にイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの酸成分、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4シクロヘキサンジオールなどのジオール成分を含むものであってもよい。ポリマには艶消しを主な目的として酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの無機物、耐候性の向上を目的としてベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、抗酸化剤、ラジカル補足剤などを含有していても何ら問題ない。さらに、ポリマ中に着色剤を含むものであってもよい。着色剤は、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機着色剤、シアニン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、アゾ系、ペリノン系、スチレン系、キナクドリン系などの有機着色剤が挙げられる。これら着色剤を含有したポリマを使用した場合、シートベルトウエビング製造工程において染色工程を省略できるメリットがある。
【0013】
高強度、高エネルギー吸収性繊維を得るうえで使用するポリマの重合度は高い方が良い。ポリエチレンテレフタレートの場合、固有粘度0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上である。
【0014】
本発明のシートベルトウエビングを構成するタテ糸およびヨコ糸はマルチフィラメントである。マルチフィラメントは細い単繊維の集合体であり、ウエビング内において各単繊維が適当に配列し、薄く均一な厚みのウエビングを得ることができる。また、マルチフィラメントは適度な剛性を有しており製織・染色工程等での取り扱い性に極めて優れている。一方、一部のシートベルトウエビングではヨコ糸として剛性の高いモノフィラメントが使用されているが、前述の通り取り扱いにくく製織性が悪化したり、製織性を確保するために極端に製織スピードをダウンさせる必要がある。また、繊維径の大きなモノフィラメントを用いるとウエビングの厚みが増し、近年求められる薄型ウエビングを得るという点で問題がある。
【0015】
本発明のシートベルトウエビングでは図1、図2に示すとおりウエビング内において、タテ糸がヨコ糸に噛み込んだ状態であることが最大かつ重要な要件であり、その噛み込み度合いは3〜20%である。ここでタテ糸のヨコ糸に対する噛み込み度合いとはウエビングをタテ方向(ヨコ糸に対して垂直方向)に切断した際に観測されるヨコ糸断面から算出することができる。つまり、本来のヨコ糸断面に対してタテ糸が噛み込んだ部分の面積比率を意味しており、図3においてはヨコ糸断面に対して斜線部分が占める面積比率で表される。
【0016】
この噛み込みこそがウエビングにおけるタテ糸およびヨコ糸の相互の位置関係を強固に保持することとなり、ひいてはウエビングの剛性アップ、形態安定性に大きく寄与しているのである。噛み込み度合いが3%未満となると、ウエビングに曲げ等の外力が掛かった場合にウエビングを構成するタテ糸、ヨコ糸の相互の位置関係が容易に崩れ、捻れ・折れを誘発しリトラクターへの巻き取り性が悪化してしまう。逆に噛み込み度合いが20%を越えると、タテ糸およびヨコ糸自体の強力が部分的に低下してしまい、十分なウエビング強力を確保することができなくなる。また、初期のウエビング剛性が高くなり過ぎる一方で、曲げ等の外力が繰り返し掛かると剛性が大幅ダウンしてしまうという欠点も有している。
【0017】
ここで、当然ながらヨコ糸をなす全ての単繊維が噛み込まれた状態である必要はなく、タテ糸と直接接触する単繊維のうち幾つか、ヨコ糸をなす単繊維のせいぜい10%程度が噛み込んでおれば、ウエビングの剛性アップ効果が大いに発揮されるものである。
【0018】
ウエビングを構成するタテ糸の総繊度、および単糸繊度は各々800〜2000dtex、10〜25dtexであることが好ましい。高い破断強力、優れたエネルギー吸収性能を有するシートベルトウエビングを効率よく得るためには、かかる繊度範囲のタテ糸を使用することが好適である。
【0019】
また、ウエビングにおけるタテ糸の打ち込み本数はタテ糸繊度にもよるが、60〜160本/inchであることが好ましく、より好ましくは100〜150本/inchである。さらにウエビングを構成するタテ糸の繊度T(dtex)および打ち込み本数N(本/inch)の積で表される単位幅あたりのトータル繊度T*N(dtex/inch)=177,000〜245,000であることが好ましく、より好ましくは200,000〜230,000である。単位幅あたりのトータル繊度が177,000未満であると、いくらウエビング中でのヨコ糸に対するタテ糸の噛み込み度合いを高めても十分な剛性を有するウエビングが得られない可能性がある。また、ウエビングの強力不足も懸念される。単位幅あたりのトータル繊度が245,000を越えると、ウエビングが厚くなり過ぎたり、硬くなり過ぎたりして装着時に不快感を生じるとともに、近年求められる薄型ウエビングを得ることが難しくなる。
【0020】
本発明のウエビングの繊維の噛み込み度合いはヨコ糸の結晶化度に依存するため、ウエビングを構成するヨコ糸の結晶化度(σ)は25〜34%であることが好ましく、より好ましくは28〜32%である。ここで言う結晶化度σは示差走査型熱量計(DSC)で測定した結晶融解熱量ΔHmをもとに、次式で示す理論式を用いて算出した値である。
σ=ΔHm/33.5*100 (%)
ΔHm:DSCで測定した結晶融解熱量(cal/g)
完全結晶の理論融解熱量:33.5(cal/g)
【0021】
結晶化度は繊維の素材硬さ、つまりは圧縮変形のし易さを表す指標の1つと考えることができる。上述したヨコ糸結晶化度の好ましい範囲25〜34%は、すなわちはヨコ糸の結晶化度を比較的低く抑え、圧縮変形し易い構造とすることを意味しており、その結果、タテ糸がヨコ糸に噛み込みシートベルトウエビングとして適度な剛性が発現するのである。結晶化度を低く抑えるには、延伸時の張力を低くし、また最終延伸後の熱処理温度を低くすることで達成できる。これは延伸時の張力が低いと配向が不十分となり結晶化が進みにくく、さらには延伸後の熱処理温度が低いと延伸による配向が固定されないため、結晶化が戻ってしまうためである。
【0022】
ウエビングを構成するヨコ糸の単糸断面形状は突起部を有すことが好ましく、より好ましくは3つの突起部を有すY型断面である。また、Y型断面における外接円の直径R、および内接円の直径rとした場合の比R/rで表される変形度は1.5〜3.5であることが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0である。ヨコ糸として該突起部を有する繊維を使用することで、タテ糸の噛み込みが起こりやすくなるという利点がある。これは、突起形状とすることでタテ糸との接触面積が多くなること、また、突起部分では特に圧縮変形を起こしやすくなることに起因している。
【0023】
ヨコ糸の総繊度、単糸繊度についても、タテ糸との噛み込み度合いに影響を与えるものであり、好ましくは総繊度200〜1000detx、単糸繊度5〜30dtex、より好ましくは総繊度500〜1000detx、単糸繊度15〜30detxである。
【0024】
引き続き、本発明シートベルトウエビングを構成するタテ糸、およびヨコ糸の製造方法の一例を示すが、これら方法に何ら限定されるものではない。
【0025】
固有粘度が1.0以上のポリエチレンテレフタレートを溶融・濾過したのち口金細孔から紡出する。ここで口金細孔の形状は溶融紡出糸条が冷却固化するまでの断面形状変化を考慮して設計すればよい。紡出糸条はポリマの融点温度以上、例えば270〜350℃に加熱せしめた雰囲気中を通過した後、50℃以下の冷却風にて冷却固化される。かかる温度履歴を経ることで、高強度、高エネルギー吸収性繊維を品位よく製造することができる。冷却後の糸条は油剤を付与され、所定の回転速度で回転する引き取りローラに捲回して引き取られる。引き続き、順次高速回転するローラに捲回することで延伸を行う。より高強度の繊維を得るには、3.5〜6.0倍の倍率を2〜3段に分けて実施するのが好ましい。
【0026】
各ローラの表面温度は得られる繊維の物性、品位を決めるうえで重要であり、なかでも最終延伸ローラ温度は特に適当に選択しなければならない。高強度、高寸法安定性繊維を得るには、通常220〜250℃に設定される。一方、かかる範囲より低い温度域、例えば180〜220℃に設定すると繊維内部の結晶化がある程度抑制され、結晶化度の低いすなわちは比較的軟らかく、圧縮変形しやすい繊維を得ることが可能となる。
【0027】
延伸後には1〜5%程度の弛緩処理することで、形態安定性に優れた繊維を得ることができる。また、巻き取り前においては走行糸条に高圧空気を噴射し交絡処理することが好ましい。糸条に付与する交絡は多くかつ均一であることが望ましく、繊維長1mあたりの交絡数(CF値)は15〜30あれば十分である。糸条に交絡処理を施すことで整経、製織工程など高次工程通過性が向上し高品質のシートベルトウエビングが高収率で得られるようになる。
【0028】
本発明のシートベルトウエビングを製造する方法としては、常法によることができる。たとえば、製織については上記方法で得られたポリエチレンテレフタレート繊維を直接ニードル型織機に通す方法が挙げられる。製織の際のタテ糸張力は0.1〜2.0cN/dtex程度、ヨコ糸の打ち込み張力は0.1〜2.0cN/dtex程度にコントロールすればよい。続く染色工程では製織工程で得られたウエビングを公知のポリエステル用分散染料および補助剤などを含む染色液に浸漬させた後、発色槽、水洗槽、熱セット槽で順次処理すればよい。
【0029】
かくして得られるシートベルトウエビングは高強力、高タフネスを保持しつつ、巻き取り性能にも一層優れたものとなる。本発明のシートベルトウエビングはタテ糸がヨコ糸に噛み込んだ状態であることが最大の特徴であるが、特異な製織、染色工程を必要とするものではなく、ウエビングを得るのに使用するタテ糸およびヨコ糸の断面形状や内部構造を適宜コントロールすることで達成できるものである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、各種物性は次に方法により算出した。
【0031】
[ポリマの固有粘度(IV)]:
試料8.0gにオルソクロロフェノール100mlを加えて、160℃×10分間加熱溶解した溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて測定し、次の近似式に従い算出した。
IV=0.0242ηr+0.02634
【0032】
[総繊度]:
JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、所定糸長としては90mで測定した。
【0033】
[単糸断面の変形度]:
繊維を繊維軸に垂直な方向に切断し、その断面を光学顕微鏡(キーエンス社製VH−6300型)を用い200倍で撮影した。写真から20点の断面を選び、外接円の直径R、内接円の直径rをそれぞれ測定し次式により算出し、その平均値を変形度とした。
変形度=R/r
【0034】
[強度・伸度]:
試料を気温20℃、湿度65%の温調室において、オリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0035】
[乾熱収縮率]:
JIS L−1013 8.18.2乾熱収縮率a)かせ収縮率(A法)に従って、試料採取時の所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、処理温度としては150℃、また、かせ長測定時の所定荷重としては200mN/tex×表示テックス数として測定した。
【0036】
[交絡数(CF値)]:
1mの試長の試料に100gの荷重をかけ、6gのフックを下降速度1〜2cm/secで下降させ、次式により算出した。
CF値=100(cm)/下降距離(cm)
【0037】
[結晶化度]:
まず、試料10mgを採取し、セイコーインスツルメンツ社製SSC5200熱分析システムを用い、昇温速度10℃/minの条件で20℃〜300℃までの測定を行い、結晶融解熱量ΔHmを測定した。次にポリエステルの完全結晶が融解時に発する理論熱量を用い、次式により結晶化度(σ)を算出した。
結晶化度σ=ΔHm/33.5*100(%)
ΔHm:結晶融解熱量の測定値(cal/g)、
完全結晶の理論融解熱量:33.5(cal/g)
【0038】
[ウエビングにおけるタテ糸のヨコ糸に対する噛み込み度合い]:
シートベルトウエビングをタテ方向(ヨコ糸に対して垂直方向)に切断し、ヨコ糸断面を光学顕微鏡(キーエンス社製VH−6300型)を用い150倍で撮影した。写真から5点の断面を選び、本来のヨコ糸の断面積(S)、およびタテ糸が噛み込んだ部分の面積(s)を測定し次式により算出し、その平均値を噛み込み度合いとした。
噛み込み度合い=s/S*100(%)
【0039】
[ウエビングにおける単位幅あたりのトータル繊度]:
タテ糸の繊度(T)dtexおよびタテ糸の打ち込み本数(N)本/inchをもとに、またヨコ糸の繊度(T)dtexおよびヨコ糸の打ち込み本数(N)本/inchをもとに次式により算出した。
単位幅あたりのトータル繊度(dtex/inch)=T*N
【0040】
[ウエビングの引張強力]:
JIS D−4604 7.4(1)標準状態の性能試験(1.1)引張強さ試験に従って測定した。
【0041】
[ウエビングの剛性]:
JIS L−1096 8.20.1の方法に従って、長さ38.1mm、幅12.7mmのサンプルを採取し、テスター産業株式会社製ガーレ式スティフネステスターを用いて測定した。
【0042】
[製織性]:
糸切れ、毛羽によるニードル織機の停台回数を記録した。1時間あたりの停台回数が2回未満を○、2回以上を×と評価した。
【0043】
[実施例1]
<タテ糸>
酸化チタンを0.1重量%含有した固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートポリマチップをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。溶融ポリマ温度が300℃となるようにエクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの温度をそれぞれ調整した。紡糸口金には孔数144、円形孔型のものを使用した。
【0044】
紡出された糸条は温度320℃、長さ300mmの加熱筒を通過させた後、20℃の冷却風を30m/minの風速で糸条に吹き付け、冷却固化させた。次に冷却糸条に油剤を付与したのち、600m/minの速度で回転する非加熱の引き取りローラに捲回して引き取った。引き続き一旦巻き取ることなく順次高速回転する供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回し延伸・弛緩熱処理を施した。総延伸倍率は5.8倍、弛緩率を2%とし、各ローラの表面温度は供給ローラを80℃、第1延伸ローラを120℃、第2延伸(最終延伸)ローラを240℃、弛緩ローラを40℃にそれぞれ設定した。延伸・弛緩熱処理後の糸条には高圧空気を噴射し交絡処理を施し巻き取り機にて巻き取った。
【0045】
<ヨコ糸>
酸化チタンを0.1重量%含有した固有粘度1.2のポリエチレンテレフタレートポリマチップをエクストルーダ型紡糸機で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸パック内で濾過し紡糸口金より紡出した。溶融ポリマ温度が300℃となるようにエクストルーダ、スピンブロック、紡糸パックの温度をそれぞれ調整した。紡糸口金には孔数42、Y形孔型のものを使用した。
【0046】
紡出された糸条は温度320℃、長さ200mmの加熱筒を通過させた後、20℃の冷却風を30m/minの風速で糸条に吹き付け、冷却固化させた。次に冷却糸条に油剤を付与したのち、800m/minの速度で回転する非加熱の引き取りローラに捲回して引き取った。引き続き一旦巻き取ることなく順次高速回転する供給ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、および第2延伸ローラより低速回転する弛緩ローラに捲回し延伸・弛緩熱処理を施した。総延伸倍率は4.2倍、弛緩率を3%とし、各ローラの表面温度は供給ローラを80℃、第1延伸ローラを120℃、第2延伸(最終延伸)ローラを210℃、弛緩ローラを40℃にそれぞれ設定した。延伸・弛緩熱処理後の糸条には高圧空気を噴射し交絡処理を施し巻き取り機にて巻き取った。
【0047】
<ウエビング>
次に得られたタテ糸を引き揃え、直接ニードル型織機に導き打ち込み本数135本/inchとし、ヨコ糸の打ち込み本数20本/inchとして2up2downの条件で50mm幅に製織した。製織時の張力はタテ糸張力0.5cN/dtex、ヨコ糸張力0.5cN/dtexに調整した。次に200℃の乾熱下で1分間の熱処理を行いウエビングを得た。引き続き得られたウエビングを分散染液浴に浸漬させ、200℃の発色槽にて発色させ、水洗槽で余分な染液を水洗除去し、150℃の乾熱下において1分間の熱処理を行いシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2〜4]
<タテ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0049】
<ヨコ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0050】
<ウエビング>
製織時のタテ糸打ち込み本数を実施例2では115本/inch、実施例3では105本/inch、実施例4では150本/inchに調整した以外は実施例1と同様の方法でウエビングを得た。引き続き実施例1と同様の方法で染色・熱処理を施しシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0051】
[実施例5、6]
<タテ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0052】
<ヨコ糸>
延伸・弛緩熱処理時の最終延伸ローラの表面温度、および弛緩率を実施例5では190℃・3%、実施例6では175℃・4%に設定した以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0053】
<ウエビング>
実施例1と同様の方法でシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0054】
[実施例7、8]
<タテ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0055】
<ヨコ糸>
紡糸口金の孔数、孔形状として実施例7では72・六角形孔型、実施例8では96・円形孔型とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0056】
<ウエビング>
実施例1と同様の方法でシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
<タテ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0058】
<ヨコ糸>
紡糸口金の孔数を96、孔形状を円形孔型とし、延伸・弛緩熱処理時の延伸倍率を5.7倍、最終延伸ローラの表面温度を245℃、弛緩率を2%とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0059】
<ウエビング>
実施例1と同様の方法でシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0060】
[比較例2]
<タテ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0061】
<ヨコ糸>
比較例1と同様の紡糸口金を用い、延伸・弛緩熱処理時の延伸倍率を3.7倍、最終延伸ローラの表面温度を160℃、弛緩率を4%とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0062】
<ウエビング>
実施例1と同様の方法でシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0063】
[比較例3]
<タテ糸>
実施例1と同様の方法で作製した。
【0064】
<ヨコ糸>
東レモノフィラメント(株)から830T−1フィラメントのポリエステルモノフィラメントを入手した。
【0065】
<ウエビング>
実施例1と同様の方法でシートベルトウエビングを製造した。その結果を表1に示す。
【0066】
また上記した実施例1〜8、比較例1〜3の方法で得られたタテ糸、ヨコ糸の特性、ウエビングの設計、および特性を表1に併せて示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、本発明のシートベルトウエビングはタテ糸がヨコ糸に適度に噛み込んだ構造をなしており、高い破断強力と適度な剛性を兼備したものであった。一方、タテ糸とヨコ糸の噛み込み度合いが本発明の範囲未満である比較例1ではタテ方向、ヨコ方向ともに剛性が低く、シートベルトウエビングの巻き取り性能に不安を残すものであった。また、噛み込み度合いが本発明の範囲を超える比較例2では、ウエビング強力が不足しており安全装置としての役割を十分に果たさないものであった。ヨコ糸としてモノフィラメントを使用した比較例3では、モノフィラメントの剛性が高すぎるため、製織性が大幅に悪化し、効率よくシートベルトウエビングを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のシートベルトウエビングは、高い強力、優れたエネルギー吸収能を有するとともに、適度な剛性を保持することでリトラクターへの巻き取り性能が一層向上することから、近年要求される薄型シートベルトに特に好適に使用される。また、本発明のシートベルトウエビングは特異な製織・染色工程を必要とせずに、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のウェビングの一部の概略模式図である。
【図2】本発明のウェビングのタテ糸断面を垂直に切断した、断面概略模式図である。
【図3】本発明のウェビングのヨコ糸断面を垂直に切断した、断面概略模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメントをタテ糸およびヨコ糸に用いたシートベルトウエビングであって、ウエビング内においてタテ糸がヨコ糸に噛み込み、その噛み込み度合いが3〜20%であることを特徴とするシートベルトウエビング。
【請求項2】
ウエビングを構成するタテ糸の繊度T(dtex)および打ち込み本数N(本/inch)の積で表される単位幅あたりのトータル繊度T*Nが次式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のシートベルトウエビング。
T*N(dtex/inch)=177,000〜245,000
【請求項3】
ウエビングを構成するヨコ糸の結晶化度(σ)が25〜34%であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトウエビング。
【請求項4】
ウエビングを構成するヨコ糸の単糸断面形状が突起部を有することを特徴とする請求項1に記載のシートベルトウエビング。
【請求項5】
ウエビングを構成するヨコ糸の単糸断面形状がY型であることを特徴とする請求項4に記載のシートベルトウエビング。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−7903(P2008−7903A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181443(P2006−181443)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】