説明

シート成形方法

【課題】シートパッドの成形工程ではシートカバーを成形型にセットするだけで発泡成形の準備を完了して成形工程での作業時間を短縮する。
【解決手段】検査工程において各種の検査を終えたシートカバーを、シートパッドの成形工程に移して成形型にセットし、この成形型内を真空吸引しながら該成形型内に位置しているシートカバーの内側にシートパッドを発泡成形するシート成形方法であって、シートカバー30の検査工程では該シートカバーを、シートパッドの成形工程で用いるセット枠12によって検査型10にセットし、シートカバー30の形状ならびに真空吸引時のシール性の適否を検査する。この後、シートカバー30をセット枠12と共に成形工程に移して成形型にセットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両用シートのシートカバーをシートパッドの成形型にセットし、このシートカバーの内側にシートパッドを発泡成形するシート成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術は、例えば特許文献1に開示された技術が既に知られている。この技術では、シートパッドを発泡成形するための成形型の下型にシートカバーをセットする際、下型の成形面に設けた突片をシートカバーの縫製ラインに挿入し、シートカバーを下型の成形面に沿わせて位置決めする。この状態で成形型の上下型を型締めした後、その成形空間(キャビティー)、つまりシートカバーの内側にシートパッドを発泡成形する。なお、シートパッドを発泡成形している間は、成形型のキャビティー内を連続して真空吸引している。
【0003】
一般的なシート成形方法においては、シートカバーを成形型の下型にセット枠を用いてセットし、その状態でシートカバーが成形面に沿ってシワなどのない適正な形状であるか否かの検査を行う。さらに、これと並行して下型のキャビティー内を真空吸引することで、シートカバー(縫製ライン)のシール性が確保されているか否かの検査も行う。すなわち、これらの検査はシートパッドを発泡成形する際の準備作業として行われているが、これらの検査についてはシートパッドの成形工程から分けるべき作業である。ちなみに、シートカバーの検査については、成形工程に入る前の検査工程においても、その形状や縫製ラインを目視などによって検査するのが普通である。
なお、シートカバーのシール性を検査する理由は、シートパッドの発泡成形時における真空吸引により、シール性のわるい縫製部分からシートカバーの表面側に発泡樹脂が洩れ出てしまうのを避けるためである。
【特許文献1】特開平3−288607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従前のシート成形方法においては、シートカバーの形状ならびにシール性の適否の検査をシートパッドの成形工程の準備作業として行っているため、成形工程の工数が多くなって作業時間の短縮化の妨げになっている。しかしながら、これらの検査、特にシール性の適否の検査については、成形工程の成形型を利用していることから、前述の検査工程に組み入れることができない、といった事情がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、シートパッドの成形工程ではシートカバーを成形型にセットするだけで発泡成形の準備を完了して成形工程での作業時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、検査工程において各種の検査を終えたシートカバーを、シートパッドの成形工程に移して成形型にセットし、この成形型内を真空吸引しながら該成形型内に位置しているシートカバーの内側にシートパッドを発泡成形するシート成形方法であって、シートカバーの検査工程では該シートカバーを、シートパッドの成形工程で用いるセット枠によって検査型にセットする。この状態において、シートカバーの形状ならびに真空吸引時のシール性の適否を検査した後、シートカバーをセット枠と共に成形工程に移して成形型にセットする。
【0007】
このように、シートカバーの検査工程においてシートカバーの形状ならびに真空吸引時のシール性の適否を確認しておくことにより、シートパッドの成形工程では検査後のシートカバーをセット枠と共に成形型にセットするだけで発泡成形の準備が完了するので、成形工程での作業時間を短縮することができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、検査工程では、シートパッドの成形工程における成形型の成形面と同形の内面をもった検査型にシートカバーをセットする。
これにより、検査工程においてセット枠に対するシートカバーの外周端末や縫製ラインを正確に位置決めしておくことができ、その後の成形工程においては成形型にシートカバーをセットする作業を簡略化することができる。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明において、検査工程および成形工程で共用しているセット枠は、シートカバーの外周端末を挟み込んだ状態で保持するための内枠と外枠とからなり、検査工程でシートカバーの端末を保持した内枠と外枠をクランプによって結合し、この結合状態のセット枠を成形工程に移す。
このように、シートカバーの検査工程において内枠と外枠とを結合したセット枠は、そのまま成形工程に移して成形型にセットするだけでよく、成形工程での作業時間をさらに短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
車両用シートを成形する前の検査工程を表した図1〜図3において、検査型10は成形工程に移す前のシートカバー30を検査するためのものである。この検査型10は、図4〜図6で表した成形工程の成形型20を構成する下型22と同じ形状に設定されている。すなわち、この検査型10は下型22の成形面22aと同形の内面10aをもっている。したがって、成形工程において下型22にシートカバー30をセットする場合と同じ状態で検査型10に対してもシートカバー30をセットすることが可能である。
なお、検査型10はその内面10aで囲まれた空所を真空吸引できるように、吸引ポンプなど(図示省略)を駆動源とする周知のエア減圧構造になっている。
【0011】
シートカバー30は、検査工程および成形工程で共用されるセット枠12によって検査型10にセットされる。このセット枠12は、内枠14と外枠15との組み合わせによって構成されており、これらの両枠14,15の間にシートカバー30の外周端末を挟み込んで保持することが可能である。また、両枠14,15は、検査型10または下型22における上面の周縁10b,22bに合わせた矩形の枠形状になっている。ただし、外枠15はその周方向に連続していてもよいが、内枠14は周方向に沿って複数個に分割されている。
【0012】
図2からも明らかなようにセット枠12の外枠15は、ベース部15aおよび接合部15bによって構成されている。ベース部15aは、検査型10または下型22の周縁10b,22bに接触する部分であり、接合部15bは内枠14と対向して相互間でシートカバー30の外周端末を挟み込む部分である。ベース部15aには、検査型10または下型22の孔に嵌り合うことで、外枠15を位置決めする位置決めピン15cがある。また、接合部15bには、内枠14の孔に嵌り合うことで両枠14,15を位置決めする位置決めピン15dがある。
【0013】
図2で示すように、セット枠12を構成する内枠14と外枠15の接合部15bとは、周方向の複数箇所において両枠クランプ16で互いに結合状態に保持される。さらに、外枠15のベース部15aは、検査型10または下型22の周縁10b,22bに対し、周方向の複数箇所において外枠クランプ18で結合状態に保持される。後で説明するように両枠クランプ16は、セット枠12と同様に検査工程および成形工程で共用されるが、外枠クランプ18は検査工程および成形工程のそれぞれに専用のものが個別に設けられている。なお、これらの両枠クランプ16および外枠クランプ18は個々に周知の構造であるので、その概要だけを以下に説明しておく。
【0014】
まず、両枠クランプ16は、固定板16aに対して可動板16bがヒンジピン16cを支点として回転操作できるようになっている。この可動板16bを回転操作することで、固定板16aと可動板16bとによって内枠14と外枠15の接合部15bとを結合状態に保持し(図2)、あるいは結合状態を解除することができる。
外枠クランプ18は、検査型10または下型22の周縁10b,22bに固定されたブラケット18aに、ハンドル18bの一端部が回転操作可能に連結されている。また、ブラケット18aには加圧アーム18cの一端部が回転可能に連結されている。そして、ハンドル18bと加圧アーム18cとは、リンク18dで連結されている。これにより、ハンドル18bを回転操作すれば、それに連動する加圧アーム18cによって外枠15のベース部15aを検査型10または下型22の周縁10b,22bに押し付けた状態に保持し(図2)、あるいは押し付けを解放することができる。
【0015】
図4〜図6で示す成形工程において、シートパッド32を発泡成形するための成形型20(図6)は、下型22および上型23によって構成されている。そして、既に述べたように下型22に対しては、セット枠12によってシートカバー30をセットすることができる。つまり、このセット枠12における外枠15のベース部15aを専用の外枠クランプ18によって下型22の周縁22bに押し付けた状態に保持することができる。
上型23は、下型22に対して昇降動作することができる。これにより、成形型20の型締め(図6)あるいは型開きを行うことができ、型締め状態で成形型20の内部に構成されるキャビティー26に発泡樹脂材が充填されてシートパッド32が発泡成形される。なお、この発泡成形時には、下型22の成形面22a側からシートカバー30を連続して真空吸引する必要がある。そのために、下型22側は吸引ポンプなど(図示省略)を駆動源とする周知のエア減圧構造になっている。
【0016】
つづいて、シートカバー30の検査工程およびシートパッド32の成形工程における個々の作業手順を説明する。
まず、シートカバー30の検査工程においては、既に述べたようにシートカバー30をセット枠12によって検査型10にセットする。このときのセット枠12は、その内枠14と外枠15の接合部15bとの間にシートカバー30の外周端末を挟み込み、両枠クランプ16によって結合されている。また、外枠15のベース部15aは、検査型10の周縁10bに設けられている専用の外枠クランプ18により、該周縁10bに押し付けられた状態に保持されている。
【0017】
そこで、検査型10の内面10a側からシートカバー30を真空吸引すると、このシートカバー30が検査型10の内面10aに倣った状態に吸着される。これにより、真空吸引時におけるシートカバー30のシール性の適否を検査することができるとともに、縫製ラインによってシートカバー30にシワなどが生じていないか、といった形状の検査を行うことができる。なお、このときの真空吸引においては、検査型10の周縁10bとセット枠12における外枠15のベース部15aとの接合面がシール面になっている。
また、検査工程においては、シートカバー30をその縫製ラインなどを目安にして検査型10の内面10aに位置決めし、その状態でシートカバー30の外周端末をセット枠12の内枠14と外枠15の接合部15bとの間に挟み込み、両枠クランプ16によって結合する。これにより、検査工程においてセット枠12とシートカバー30との関係が正確に位置決めされたこととなる。
【0018】
検査工程で全ての検査を終えたら、セット枠12の両枠クランプ16はそのままにして外枠クランプ18を解除し、シートカバー30をセット枠12(両枠クランプ16を含む)と共に検査型10から取り外す(図3)。そして、検査に合格したシートカバー30については、そのセット枠12と共に成形工程に移す。
成形工程においては、検査後のシートカバー30をセット枠12によって成形型20の下型22にセットする(図4)。このとき、セット枠12における外枠15のベース部15aを、下型22の周縁22bに設けられている専用の外枠クランプ18で周縁22bに押し付けた状態に保持してセット枠12を位置決めする(図5)。また、下型22の成形面22a側からシートカバー30を真空吸引することにより、シートカバー30が下型22の成形面22aに倣った状態に吸着される。これによって成形型20による発泡成形のための準備が完了する。なお、このときの真空吸引は、下型22の周縁22bとセット枠12における外枠15のベース部15aとの接合面がシール面になっている。
【0019】
つぎに、図6で示すように成形型20を型締めし、下型22の成形面22a側からシートカバー30を連続して真空吸引しながら該キャビティー26に発泡樹脂材を充填する。これにより、キャビティー26内においてシートカバー30の内側にシートパッド32が発泡成形される。成形後は成形型20を型開きし、かつ、シートカバー30からセット枠12を外すとともに、下型22からシート成形品を取り出す。このシート成形品は、発泡成形されたシートパッド32がシートカバー30の内面に接着されて相互に一体化されている。
【0020】
このように、シートカバー30とシートパッド32とを一体化させる発泡成形においては、特にシートカバー30の真空吸引時のシール性、成形型20の下型22に対するセット状態がシート成形品の出来具合を左右する。その反面、これらのシール性の適否やセット状態の確認を成形工程でチェックしていては、成形工程での準備作業に多くの時間を費やすことになる。
本実施の形態では、前述したように成形工程の前工程である検査工程において、シートカバー30の形状ならびに真空吸引時のシール性の適否を検査することができる。しかも、この検査工程では、検査型10の内面10aを利用して次の成形工程における成形型20の下型22を想定したシートカバー30の位置決めを行い、その状態でセット枠12とシートカバー30との関係を決めておくことができる。これらのことから、成形工程では検査工程からセット枠12と共に移されたシートカバー30を成形型20の下型22にセットするだけで、発泡成形の準備を終え、成形工程での作業時間が短縮される。また、下型22にシートカバー30をセットする作業が簡素化されるため、ロボットによる作業も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】検査工程におけるシートカバーのセット状態を表した概略図。
【図2】図1の主要部を拡大して表した断面図。
【図3】検査工程におけるシートカバーの取り外し状態を表した概略図。
【図4】成形工程におけるシートカバーのセット途中を表した概略図。
【図5】成形工程におけるシートカバーのセット状態を表した概略図。
【図6】図5の主要部を拡大して表した断面図。
【符号の説明】
【0022】
10 検査型
10a 内面
10b 周縁
12 セット枠
14 内枠
15 外枠
16 両枠クランプ
18 外枠クランプ
20 成形型
22 下型
22a 成形面
22b 周縁
23 上型
26 キャビティー
30 シートカバー
32 シートパッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査工程において各種の検査を終えたシートカバーを、シートパッドの成形工程に移して成形型にセットし、この成形型内を真空吸引しながら該成形型内に位置しているシートカバーの内側にシートパッドを発泡成形するシート成形方法であって、
シートカバーの検査工程において、該シートカバーを、シートパッドの成形工程で用いるセット枠によって検査型にセットし、シートカバーの形状ならびに真空吸引時のシール性の適否を検査した後、シートカバーをセット枠と共に成形工程に移して成形型にセットすることを特徴としたシート成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたシート成形方法であって、
検査工程においては、シートパッドの成形工程における成形型の成形面と同形の内面をもった検査型にシートカバーをセットすることを特徴としたシート成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたシート成形方法であって、
検査工程および成形工程において共用しているセット枠は、シートカバーの外周端末を挟み込んだ状態で保持するための内枠と外枠とからなり、検査工程でシートカバーの端末を保持した内枠と外枠をクランプによって結合し、この結合状態のセット枠を成形工程に移すことを特徴としたシート成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−166455(P2009−166455A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10249(P2008−10249)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】