説明

シート材制止装置

【課題】 シート材に特別な加工を施すことなくシート材の縁端部の大きな変形損傷を抑制しつつ、シート材を所定位置で制止させて位置決めすることができるシート材制止装置を提供すること。
【解決手段】 揺動アーム5の回転によって上側ローラ4が退避軌道Mを辿って後退されると、空気圧シリンダ6から揺動アーム5に対して、その揺動アーム5の回転を阻止して上側ローラ4を退避軌道Mとは逆方向へ押し戻す付勢力及び減衰力が付与されて、上側ローラ4を退避軌道M方向に押動しようとするワークWの運動エネルギーが徐々に吸収及び消費される。そして、ワークWが衝合してストッパ部材7が押動されると、一対の緩衝マグネット9,10の磁気的斥力によってワークWの衝突力が吸収され、ワークWが制止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスタックフィーダなどに装備されているシート材制止装置に関し、特に、移送経路に沿って滑動してきたシート材を所定位置で制止させるためのシート材制止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のディスタックフィーダに装備されているシート材制止装置によれば、シート材が搬送面上を滑動してきて位置決めステージに到達すると、そのシート材の進行方向(移送方向)前側の縁端面を可動式のストッパ部材に衝突させて、そのストッパ部材とシート材との衝突エネルギーを、コイルスプリングやゴムなどの緩衝手段によって吸収することでシート材を位置決めステージにて制止させていた。
【0003】
これに対して、下記特許文献1には、各種部品が載置されるパレットなどをワークとして搬送する搬送ライン上で、そのワークを空気圧式の緩衝装置を用いて停止(制止)させるストッパ装置が提案されている。このストッパ装置によれば、ワークが搬送ラインを搬送されてストッパ部材のローラに衝突すると、その衝突力(外力)がストッパ部材及び第1ピストンを介して第1ロッドにより吸収される。
【0004】
そして、第1ロッドが上端に達するまでにワークの衝突エネルギーは完全に第1ピストンによって吸収され、それと同時に第1ロッドの上昇によりストッパ部材の掛止爪がワークの掛止孔に入り込み、ワークの逆行が確実に防止されて、ワークが所定の位置に確実に停止させられる。このとき、第1ロッドが第1ピストンにより上向きに付勢されているため、掛止爪がローラと協働してワークを確実に把持するものである。
【特許文献1】特開2003−156092公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来型のディスタックフィーダにおけるシート材制止装置では、近年の生産速度の向上に伴ってシート材の搬送速度(移送速度)が上昇し、シート材とストッパ部材との衝突エネルギーが増大しているため、この衝突エネルギーをコイルスプリングやゴムなどの緩衝手段では吸収しきれなくなっており、ストッパ部材に衝突したシート材における進行方向前側の縁端面が、折れ曲がるような格好で大きく変形損傷するという問題が生じている。
【0006】
このようにシート材の進行方向前側の縁端面が折れ曲がるように変形損傷すると、その折れ曲がった分、シート材の板厚増大を招くこととなる。すると、ディスタックフィーダの次工程にあるプレス装置へシート材を滑り込ませる場合に、シート材が上下の金型間に引っ掛かって円滑に滑り込ませることが困難となり、その結果、シート材の成型不良を招来してしまうという問題を招来してしまう。
【0007】
一方、上記した特許文献1記載のストッパ装置をディスタックフィーダのシート材制止装置として用いることもできるが、このストッパ装置では、そのストッパ部材の掛止爪が掛止される掛止孔を前もってシート材に穿設する必要があるため、シート材に掛止孔を予め穿設するための加工工程を別途新設する必要があり、既存設備を有効に活用し辛いという問題点がある。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、シート材に特別な加工を施すことなくシート材の縁端部の大きな変形損傷を抑制しつつ、シート材を所定位置で制止させて位置決めすることができるシート材制止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために請求項1記載のシート材制止装置は、移送経路の上流側から下流側へ向けて滑動して移送されてくるシート材を所定位置で制止するためのものであり、前記移送経路下流側に配設されシート材の移送方向前側縁端面と衝合してシート材を制止するストッパ部材と、そのストッパ部材よりも前記移送方向上流側に配設され、その移送経路を移送されてくるシート材の移送方向前側縁端部の表裏面にそれぞれ当接される一対のガイド部材と、その一対のガイド部材の少なくともいずれか一方をシート材に対して付勢することで、前記一対のガイド部材をシート材の表裏面に圧接させて、そのシート材を減勢させる付勢手段とを備えている。
【0010】
この請求項1記載のシート材制止装置によれば、シート材が移送経路の上流側から下流側へ向けて移送経路順方向に滑動してくると、まず、シート材の移送方向前側縁端部の表裏面に、一対のガイド部材が当接されて、いずれか一方のガイド部材がシート材に対して付勢手段により付勢される。すると、一対のガイド部材がシート材の表裏面にそれぞれ圧接され、その圧接による摩擦抵抗によって、シート材の運動エネルギーが吸収される。そして、この後、シート材の移送方向前側縁端面がストッパ部材に衝合すると、シート材が所定位置に制止される。
【0011】
なお、本願では、シート材の運動エネルギーのうち、特に、シート材がストッパ部材に衝突した以降における運動エネルギーのことを、衝突エネルギーとも称する。また、この衝突エネルギーに起因する力のことを、衝突力と称する。
【0012】
請求項2記載のシート材制止装置は、請求項1記載のシート材制止装置において、前記一対のガイド部材は、前記移送経路上流側から移送されてくるシート材の表裏面に接触して転動される一対のローラである。
【0013】
この請求項2記載のシート材制止装置によれば、請求項1記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加え、一対のガイド部材であるところの一対のローラは、シート材の表裏面に圧接される場合に、シート材の移送に伴って転動されるので、シート材の表裏面に接触して、それを損傷させる事態を低減することができる。
【0014】
請求項3記載のシート材制止装置は、移送経路の上流側から下流側へ向けて滑動して移送されてくるシート材を所定位置で制止するためのものであり、外周上端面が前記移送経路上面と略面一とされ、前記移送経路幅方向と略同方向に軸心が向けられている回転軸回りで転動可能にされている下側ローラと、その下側ローラの外周上部に外接するか又はそこに対向配置され、前記移送経路幅方向と略同方向に軸心が向けられている回転軸回りで転動可能にされている上側ローラと、その上側ローラが前記下側ローラに最接近する始点位置から前記移送経路下流側上方へ円弧状に上昇して頂点位置を通過してから前記移送経路下流側下方へ円弧状に下降する退避軌道を辿って移動するように誘導するローラ誘導部材と、そのローラ誘導部材による前記上側ローラの誘導方向とは逆向きに作用する付勢力及び減衰力を、その上側ローラに対して付与して減勢する減勢手段と、その減勢手段により減勢される前記上側ローラが前記退避軌道の頂点位置付近に到達したときにシート材の移送方向前側縁端面と衝合するストッパ部材と、そのストッパ部材をシート材の移送方向及び反移送方向へ往復移動可能に搭載するスライド部材と、そのスライド部材に対して前記移送経路下流側へ向けて作用する衝突力を緩衝する緩衝手段とを備えている。
【0015】
この請求項3記載のシート材制止装置によれば、シート材が移送経路の上流側から下流側へ向けて移送経路順方向(図1の矢印x方向参照。)に滑動し、そのシート材の移送方向前側縁端面が上側ローラに衝突して衝合すると、そのシート材の衝突力が、上側ローラを退避軌道に沿って後退させるように押動する押動力と、シート材の移送方向前側部分を上側ローラの下方へと押し下げる押下力とに変化する。
【0016】
シート材は上側ローラとの衝突後も移送経路順方向へ移動することから、このシート材と外周面が当接して接触している上側ローラ及び下側ローラ自身は回転軸を中心に転動される。また、シート材の移送方向前側部分を上側ローラの下方へと押し下げる押下力によって、シート材の縁端部が撓むようにして上側ローラの下側に潜入し、シート材の上面が上側ローラの外周面と面接触されて、その結果、シート材が上側ローラと下側ローラとの間に入り込む。
【0017】
このとき、上側ローラには減勢手段による付勢力及び減衰力が作用しているので、上側ローラはシート材の上面(表面)に圧接され、一方、この圧接による反作用によって下側ローラはシート材の下面(裏面)に圧接される。この結果、シート材と上側及び下側ローラとの間には摩擦抵抗が生じるので、この摩擦抵抗によってシート材の運動エネルギーを吸収し、シート材を減勢させることができ。
【0018】
一方、上側ローラとシート材との衝突後、上側ローラは、シート材によって押動され、かつ、ローラ誘導部材によって退避軌道に沿って誘導されることで、下側ローラと最接近する始点位置から、移送経路下流側上方へ向けて円弧状に上昇後退されて頂点位置に到達し、その頂点位置から更に移送経路下流側下方へ向けて円弧状に下降後退するように移動させられる。
【0019】
しかも、このようにして誘導移動される上側ローラには、減勢手段によって、ローラ誘導部材による誘導方向とは逆向きの付勢力及び減衰力が付与されている。このため、上側ローラと衝突したシート材は減勢手段の付勢力及び減衰力に抗しながら上側ローラを押動して移送方向下流側へ進行するので、上側ローラに衝合した後は、シート材の運動エネルギーが徐々に消費されて、シート材の減勢(減速)が図られる。
【0020】
このようにシート材の運動エネルギーの消費が減勢手段により行われつつ、上側ローラが退避軌道の頂点位置付近までくると、シート材の移送方向前側縁端面がストッパ部材とも衝突して衝合される。シート材がストッパ部材と衝合すると、その衝突でストッパ部材がシート材から押動される格好となって、その勢いでスライド部材が移送経路下流側へ向けて移動させられ、この移動に伴ってシート材の衝突力が緩衝手段によって緩衝される。
【0021】
この結果、シート材の運動エネルギーがより一層消費されて、シート材の減勢が促進され、最終的にシート材が制止させられる。
【0022】
請求項4記載のシート材制止装置は、請求項3記載のシート材制止装置において、前記ローラ誘導部材は、先端部に前記上側ローラが回転軸を介して転動可能に軸着される揺動アームと、その揺動アームの基端部に設けられその揺動アームを揺動可能に支持する揺動軸とを備えており、その揺動軸を中心とした前記揺動アームの回転によって、前記上側ローラを前記退避軌道に沿って円弧状に後退移動させるものである。
【0023】
この請求項4記載のシート材制止装置によれば、請求項3記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加え、シート材の移送方向前側縁端面が上側ローラに衝突すると、上側ローラがシート材に押動されて、揺動アームが揺動軸を中心として一方向へ回転される。すると、上側ローラは、退避軌道に沿って円弧状に後退移動される。
【0024】
請求項5記載のシート材制止装置は、請求項4記載のシート材制止装置において、前記減勢手段は、前記揺動アームを支持する前記揺動軸の中心から所定半径離れた位置にロッド先端部が連結されている空気圧シリンダである。
【0025】
この請求項5記載のシート材制止装置によれば、請求項4記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加え、減衰手段は空気圧シリンダであるので、それに供給される空気圧を調整することで、上側ローラに作用するシート材の移動力に対向する付勢力及び減衰力を調節することができる。
【0026】
また、例えば、シート材を制止して位置決めした後は、ローダーなどの搬送機構によってシート材が後段のプレス装置へ投入されるのであるが、かかる場合、上側ローラがシート材の上面を押圧していては、シート材を搬送機構によってピックアップすることが困難となる。そのため、かかる場合には、空気圧シリンダの圧縮空気の供給ポートを、電磁弁によって切り換えて、シリンダロッドをシリンダ本体内へ没入させて、上側ローラをシート材上から退避させるようにもすることができる。
【0027】
請求項6記載のシート材制止装置は、請求項3から5のいずれかに記載のシート材制止装置において、前記ストッパ部材の位置を、シート材の移送方向又は反移送方向に調節するストッパ位置調節手段を備えている。
【0028】
この請求項6記載のシート材制止装置によれば、請求項3から5のいずれかに記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加えて、ストッパ位置調節手段によって、ストッパ部材の位置をシート材の移送方向又は反移送方向に調節することで、ストッパ部材がシート材と最初に衝合する位置を変更することができる。
【0029】
例えば、ストッパ部材とシート材との衝突力が過剰なときは、ストッパ位置調節手段を介してストッパ部材を現状位置よりもシート材移送方向下流側へ後退させれば、上側ローラ及び減勢手段による減勢時間を現状よりも長めに採ることができ、シート材の減勢を十分になした後にシート材をストッパ部材に衝突させることが可能となる。
【0030】
請求項7記載のシート材制止装置は、請求項3から6のいずれかに記載のシート材制止装置において、前記緩衝手段は一対の磁石を備えており、その一方の磁石は、前記ストッパ部材とともに前記スライド部材に搭載されており、その他方の磁石は、前記一方の磁石に対向して前記移送経路下流側に配設されており、その一対の磁石は、互いの対向面が同種の磁極とされている。
【0031】
この請求項7記載のシート材制止装置によれば、請求項3から6のいずれかに記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加え、緩衝手段は、一対の磁石間の磁気的斥力による反発力を利用しているので、非接触方式の緩衝機構でありつつもバネ機構のごとき機能を発揮することができ、少ないスペースでもエアークッションに相当する緩衝特性を確保することができる。よって、コイルスプリングやゴムなどの緩衝機構では吸収しきれなかったシート材の衝突エネルギーを緩衝することができ、ストッパ部材に衝突したシート材の移送方向前側縁端面が大きく折れ曲がって変形損傷することを防止できる。
【0032】
請求項8記載のシート材制止装置は、請求項7記載のシート材制止装置において、前記緩衝手段は、前記一対の磁石における対向面間の距離を調節する磁力調節手段を備えている。
【0033】
この請求項8記載のシート材制止装置によれば、請求項7記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加え、磁力調節手段によって、一対の磁石の対向面間距離を調節することで、シート材とストッパ部材との衝突時に一対の磁石間に作用する磁気的斥力の大きさを調節することができる。
【0034】
請求項9記載のシート材制止装置は、請求項3から8のいずれかに記載のシート材制止装置において、上側ローラの外周面に当接したシート材が前記移送経路順方向へ移動する場合に上側ローラを回転軸回りで転動させる一方、上側ローラの外周面に当接したシート材が前記移送経路逆方向へ戻ろうとする場合に、上側ローラの転動を禁止するワンウェイクラッチを備えている。
【0035】
この請求項9記載のシート材制止装置によれば、請求項3から8のいずれかに記載のシート材制止装置と同様な作用及び効果を奏することに加え、緩衝手段によってシート材が移送経路逆方向へ押し戻されるような場合、そのシート材表面に接触している上側ローラの転動はワンウェイクラッチによって禁止されるので、上側ローラとシート材との間にシート材の押し戻しを妨害する摩擦力を発生でき、その摩擦力によって緩衝手段によるシート材の押し戻し力を消費することができる。
【0036】
例えば、請求項7記載の緩衝手段の場合、シート材の緩衝によって緩衝手段に蓄積された磁気的斥力は、ストッパ部材により受け止められたシート材を移送経路逆方向へ押し戻す力となって開放されるが、このとき、シート材表面に接触している上側ローラの転動がワンウェイクラッチによって禁止されて、シート材の押し戻しを妨害する摩擦力が発生されれば、緩衝手段の磁気的斥力を摩擦力に変換して消費させて、シート材の押し戻しを抑制できるのである。
【0037】
なお、このときのシート材の表面には上側ローラによる擦り傷が多少発生するおそれもあるが、上側ローラが当接されるシート材における移送方向前側の縁端部は、後段にあるプレス装置などを用いたトリミング工程においてシート材から切除される部位でもあるので、この部分の表面に多少の擦り傷が付いても、シート材を用いて製造される最終製品の品質が低下するようもないのである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、請求項1記載の一対のガイド部材又は請求項3記載の上側ローラ及び下側ローラ(以下、この欄において、「ガイド部材等」という。)を、シート材の移送方向前側縁端部の表裏面に圧接させることによって、これらとシート材との間に摩擦抵抗が得られ、これによってシート材の運動エネルギーが吸収される。従って、単にシート材の移送方向前側縁端面をストッパ部材に正面衝突させて受け止める場合に比べて、シート材の移送方向前側縁端面に高い面圧が加わることもなく、その結果、シート材の移送方向前側縁端面がストッパ部材と衝合しても変形することが防止できる。
【0039】
また、シート材をストッパ部材に正面衝突させるだけで制止する場合、ストッパ部材によるシート材の衝突エネルギーの吸収を極めてソフトに行わなければ、シート材の移送方向前側縁端面の変形を回避できず、また、それを技術的に実現することも極めて困難であった。しかし、本発明ならば、シート材の移送方向前側縁端面がストッパ部材に衝突する以前に、シート材の縁端面とは異なる部位(シート材の表裏面)を用いて運動エネルギーを吸収させてあるので、シート材をストッパ部材にソフトに衝突させることができる。
【0040】
しかも、シート材がストッパ部材と衝合するとき、シート材の移送方向前側縁端部はガイド部材等によって上下から挟み込まれるような格好となって、この挟み込みがシート材の移送方向前側縁端部の変形を阻止する補強として機能する。このため、シート材の移送方向前側縁端部にストッパ部材との衝突エネルギーが集中して、シート材の移送方向前側縁端部を変形させようとしても、ガイド部材等の補強によってシート材の移送方向縁端部の変形が阻止されるものである。つまり、ガイド部材等は、シート材の運動エネルギーを摩擦抵抗を介して吸収するばかりでなく、シート材を、ストッパ部材との衝突による変形からも保護するのである。
【0041】
ところで、シート材の形態をマクロ的に観察すると、シート材の厚みが長さや幅に比べて極めて小さな場合、つまり、シート材が薄板状である場合、このシート材の移送方向前側縁端面は「面」というよりも、シート材の幅方向に直線的に延びる「線」のような形態となる。このため、ストッパ部材に正面衝突してシート材の衝突エネルギーを吸収するような従来方式では、その正面衝突に伴う衝突力を、シート材の移送方向前側縁端面で受け止めきれず、シート材の移送方向前側縁端部を折曲(又は座屈)させてしまう状況下であった。
【0042】
これに対して、本発明は、シート材の運動エネルギーを吸収するにあたって、シート材の移送方向前側縁端部の表裏面という「面」に、ガイド部材等を摩擦接触させるものであって、シート材の移送方向前側縁端面で衝突エネルギーを吸収するようなことをしないので、シート材の移送方向前側縁端部が折曲(又は座屈)することもなく、シート材の運動エネルギーを吸収できるのである。
【0043】
また、従来のように、ストッパ部材にシート材を正面衝突させるだけでシート材の衝突エネルギーを吸収させる場合、通常、ストッパ部材が受けた衝撃を、ショックアブソーバーなどの衝撃吸収手段で緩衝させるが、このような衝撃吸収手段を機能させるためには、必然的にシート材をストッパ部材に衝突させる必要があった。
【0044】
ここで、ストッパ部材及び衝撃吸収手段のシステム動特性は、概ね、2次遅れ系又はそれに近似するものとなるため、自ずと入力(シート材の衝突力)に対する出力(衝撃吸収手段の緩衝動作)遅延が発生してしまう。つまり、この遅延期間は衝突エネルギーの吸収効率力(変換効率)が停滞するため、衝撃吸収手段により吸収しきれないエネルギーがシート材を損傷変形させる力となってしまう。
【0045】
しかしながら、本発明によれば、ガイド部材等をシート材の表裏面に直接接触させることで、シート材の運動エネルギーを直接摩擦エネルギーなどに変換して吸収するので、上記した場合に比べてシート材の運動エネルギーの吸収効率を向上でき、もって、シート材の損傷変形を更に抑制することができるようになったのである。
【0046】
また、特に、請求項3記載の発明によれば、シート材がストッパ部材に衝突する以前に、シート材の運動エネルギーは上側ローラと衝合してそれを押動することを通じて減勢手段により大きく消費させることができるので、ストッパ部材に衝突したときにシート材の移送方向前側縁端面が大きく折れ曲がって変形損傷することを防止できる。
【0047】
また、シート材に衝突した上側ローラは、ローラ誘導部材により誘導されて移送方向下流側へ後退しながらシート材を減勢手段により減勢するとともに、その外周面がシート材の上面と面接触して押さえ込むので、シート材の縁端部の折れ曲がりによる損傷を更に軽減できる。更に、シート材の制止に際して、ストッパ部材の他に掛止爪をシート材の掛止孔に掛止させる必要もないので、シート材に掛止孔を予め穿設しておく必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明のシート材制止装置の一実施例であるワーク制止装置1が装備されているディスタックフィーダ50の右側面図である。なお、図中の矢印Xは、ワークWの移送方向を示している。
【0049】
図1に示すように、ディスタックフィーダ50は、金属製シート材の一種であるワークWを一枚ずつ載置して移送するためのワーク移送経路51と、そのワーク移送経路51の上流側(図1左側)から下流側(図1右側)へ向けて、滑動してくるワークWを、所定位置で制止するためのワーク制止装置1とを備えている。
【0050】
図2は、図1を部分的に拡大視したワーク制止装置1の右側面図である。図2に示すように、ワーク移送経路51は、ワークWの移送方向(図中の矢印X方向。以下「ワーク移送方向」ともいう。)に延設されているコンベアで構成されており、コンベアフレーム52に空転可能に支持されている搬送ローラ53がワーク移送方向に複数並設されている。
【0051】
このワーク移送経路51によれば、それの上流側(図2左側)から送られてきたワークWを、そのワークWの下面に接触する複数の搬送ローラ53を転動させることで、コンベアフレーム52の上流側(図2左側)から下流側(図2右側)へ向けて滑走(滑動)させることができる。
【0052】
ワーク制止装置1は、ワーク移送経路51の下流端側(図2右側)に配設装備されており、主として、基体フレーム2と、下側ローラ3と、上側ローラ4と、揺動アーム5と、空気圧シリンダ6と、ストッパ部材7と、リニアガイド8と、一対の緩衝マグネット9,10とを備えている。
【0053】
下側ローラ3は、側面視円形状に形成されており、その外周上端面がワーク移送経路51の上面(搬送ローラ53の外周上端面)と略面一とされている。この下側ローラ3は、その中心部に回転軸11が軸通されており、この回転軸11を中心に転動される回転体である。回転軸11は、下側ローラ3を基体フレーム2の上端部に転動可能に支持するものであり、その軸心がワーク移送経路51の幅方向(図2の紙面に対する垂直方向)へ向けられている。
【0054】
上側ローラ4は、下側ローラ3よりも外径が僅かに小さい側面視円形状に形成されており、ワーク移送経路51の下流端側であって下側ローラ3の上方に対向するように配置されている。上側ローラ4は、その中心部に回転軸12が軸通されており、この回転軸12を中心に転動される回転体である。回転軸12は、上側ローラ4を後述する揺動アーム5の先端部(上端部)に転動可能に支持するものであり、その軸心が下側ローラ3と同様にワーク移送経路51の幅方向へ向けられている。
【0055】
また、上記の通り、下側ローラ3及び上側ローラ4は上下に並設されているが、これらは互いの外周面同士が外接するか又は互いの外周面間にワークWの板厚未満の隙間を空けた状態で配置されている。具体的に、本実施例では、下側ローラ3と上側ローラ4との外周面間に垂直方向に略1mm未満の間隙が設けられている。更に、上側ローラ4の外周表面には、ワークWとの摩擦接触に伴う擦り傷を低減するため、硬質クロームメッキやステンレス鋼(SUS304など)の真空窒化処理などの耐摩耗処理が施されている。
【0056】
揺動アーム5は、側面視略フ字形の形態に形成されており、その先端部(フの字形の水平部左端側)に上側ローラ4が回転軸12を介して転動可能に軸着されている。一方、揺動アーム5の基端部(フの字形の傾斜部下端側)には揺動軸13が軸通されており、揺動アーム5は、この揺動軸13を中心として基体フレーム2に揺動可能に支持されている揺動体である。また、揺動アーム5の揺動軸13は、その中心が上側ローラ4の回転軸12の中心よりも下方で、かつ、上側ローラ4の回転軸12の中心よりも更にワーク移送方向下流側(図2右側)に一定量偏移されている。
【0057】
このように構成される揺動アーム5は、ワークWがワーク移送経路51を下流側(図2右側)へ向けて移動してきて、ワークWの移送方向前側(図2右側)の縁端面と上側ローラ4とが衝合した場合に、上側ローラ4の動きを誘導規制するものであって、具体的には、ワークWの勢いに押された上側ローラ4が退避軌道M(図2中の一点鎖線の矢印参照。)を辿ってワーク移送経路51の下流側(図2右側)へ向けて後退移動するように誘導するものである。
【0058】
退避軌道Mは、揺動アーム5が揺動軸13を中心にワーク移送経路51下流側(図2の時計回り方向)へ向けて揺動(回転)されるとき、上側ローラ4が辿る軌道である。この退避軌道Mを移動する上側ローラ4は、下側ローラ3と最接近する始点位置(図2のP点参照。)から、ワーク移送経路51の下流側上方(図2の右斜め上方)へ向けて円弧状に上昇後退しながら、頂点位置(揺動軸13の中心の直上位置。図2のQ点参照。)に到達し、そこから更に、ワーク移送経路51の下流側下方(図2の右斜め下方)へ向けて円弧状に下降後退するのである。
【0059】
また、揺動アーム5には、揺動軸13の中心から所定半径離れた位置に、空気圧シリンダ6におけるシリンダロッド14の先端部が連結ピン16を介して回動可能に連結されている。
【0060】
空気圧シリンダ6は、揺動アーム5により誘導されて上側ローラ4が退避軌道Mを辿って移動する場合に、その上側ローラ4の移動方向(図2の矢印M方向)とは逆向きに作用する付勢力及び減衰力を、その揺動アーム5を介して上側ローラ4に付与することで、上側ローラ4に衝突するワークWの減勢を図る減勢手段である。この空気圧シリンダ6は、そのシリンダ本体15の基端部が揺動ピン17を介してブラケット18に対して揺動可能に軸支されている。
【0061】
空気圧シリンダ6は、シリンダ本体15へ供給される圧縮空気を作動流体として、シリンダ本体15の先端部からシリンダロッド14を直線的に出没させる直動型空気圧式の流体アクチュエータである。また、空気圧シリンダ6は、シリンダロッド14が略鉛直方向へ出没するように、シリンダ本体15の軸心が鉛直方向に向けられた状態でブラケット18に連結されいている。
【0062】
ストッパ部材7は、上側ローラ4が退避軌道Mの頂点位置(図2のQ点参照)付近まで上昇後退したときに、ワークWの移送方向前側(図2右側)の縁端面と衝合してワークWを受け止める部材であり、そのワークWの移送方向前側の縁端面と衝合される正面部7aがワーク移送経路51の上流側(図2左側)に正対して設けられている。
【0063】
具体的には、ストッパ部材7の正面部7aの先端面は、上側ローラ4が退避軌道Mの始点位置にある場合に、下側ローラ3及び上側ローラ4の外周後端から僅かにワーク移送方向下流側(図2右側)に偏移されている。このストッパ部材7の正面部7aの先端面は、上側ローラ4が退避軌道Mの頂点位置(図2のQ点参照)よりも若干下降後退したときに、ワークWと衝合するように、後述する調節ボルト26により調節されている(図6(b)参照)。
【0064】
図3は、ワーク制止装置1の平面図である。図3に示すように、ストッパ部材7は厚板状に形成されており、このストッパ部材7の正面部7aは、それを平面視した場合に左右非対称の略弧状に湾出されている凸面状に形成されている。また、ストッパ部材7の正面部7aの前方には近接スイッチ19が配設されており、この近接スイッチ19は、ストッパ部材7の正面部7aと衝合して所定位置に制止されたワークWの有無を検知するものである。
【0065】
図4は、ワーク制止装置1の左側面図である。図4に示すように、ストッパ部材7は、リニアガイド8のスライドユニット21上に略垂直状態で一体的に搭載されており、その正面部7aがワーク移送経路51上流側(図4右側)に向かって正対されている。リニアガイド8は、ワーク移送方向(図4中の矢印X方向)と同一方向に敷設されているトラックレール20と、そのトラックレール20の敷設方向に摺動可能に係合されているスライドユニット21とを備えている。
【0066】
このリニアガイド8は、スライドユニット21がトラックレール20に沿って直線的に往復移動されるように構成されている。スライドユニット21は、ストッパ部材7と一体化されており、ワークWがストッパ部材7に衝合した場合に、ストッパ部材7と一緒にトラックレール20に沿ってワーク移送方向下流側(図4左側)へ押動される。
【0067】
また、リニアガイド8は、スライドユニット21上の一端部(ワーク移送方向上流側(図4右側)に相当する端部)に、ストッパ部材7を取着するためのストッパ支持体22が搭載されている。また、スライドユニット21上の他端部(ワーク移送方向下流側(図4左側)に相当する端部)には、永久磁石製の緩衝マグネット9を取着するためのマグネット支持体23が搭載されている。
【0068】
ストッパ支持体22及びマグネット支持体23の間には水平方向に一定間隔が設けられており、緩衝マグネット9は、マグネット支持体23におけるストッパ部材7との非対向面側に取着されている厚板状の永久磁石である。つまり、緩衝マグネット9はワーク移送方向下流側(図4左側)に向けられ状態でマグネット支持体23に取着されている。
【0069】
また、この緩衝マグネット9の向かう先には、その緩衝マグネット9から一定間隔を隔ててもう一つの緩衝マグネット10が取着されている厚板状のプレート24が配設されている。この緩衝マグネット10を支持するプレート24は、リニアガイド8のトラックレール20の敷設方向一端部(ワーク移送方向下流側(図4左側)に相当する端部)に配設されており、その基端部(下端部)が基体フレーム2の後端面に取着されている。
【0070】
ここで、一対の緩衝マグネット9,10は、互いの対向面同士が同種磁極とされており、スライドユニット21に搭載されている一方の緩衝マグネット9が他方の緩衝マグネット10に接近すると、その両者の距離の2乗に反比例する磁気的斥力(磁気力)を発生させて、ストッパ部材7に対してワークWが及ぼす衝突力を吸収する緩衝手段として機能するものである。
【0071】
また、緩衝マグネット10の取着されているプレート24には、その緩衝マグネット10の取着面であって緩衝マグネット10の下方に、その緩衝マグネット10の端面より先方へ突出されている保護ストッパ25が取着されている。この保護ストッパ25は、例えば、高減衰ゴムなどの緩衝材で形成されている。
【0072】
この保護ストッパ25は、スライドユニット21の端面(ワーク移送方向下流側(図4左側)に相当する端面)と対向して突設されており、この保護ストッパ25とスライドユニット21とが衝合した場合において、一対の緩衝マグネット9,10間に一定の間隙が確保されるようにされている。
【0073】
したがって、ワークWの衝突エネルギーが一対の緩衝マグネット9,10間に発生する最大斥力を越える場合には、この保護ストッパ25がスライドユニット21の端面と衝合することで、一対の緩衝マグネット9,10同士の衝突を未然に防止することができるのである。
【0074】
しかも、緩衝マグネット10は緩衝マグネット9との対向面に、例えば、高減衰ゴムなどの緩衝材製のシート10aが貼着されている。このため、万が一、緩衝マグネット9,10が衝突したとしても、その衝突が緩衝材製シート10aによって、吸収及び減衰されるように構成されている。更に、緩衝マグネット9,10は図示しないカバーによって被覆されてもいる。
【0075】
また、トラックレール20の敷設方向他端部(ワーク移送方向上流側(図4右側)に相当する端部)には、調節ボルト26が貫通して螺着されている厚板状のプレート27がもう一枚配設されており、このプレート27の基端部(下端部)は基体フレーム2の前端面に取着されている。ここで、調節ボルト26は、緩衝マグネット9,10の初期磁気力の調節手段、並びに、ストッパ部材7の初期位置の調節手段として兼用されるものである。
【0076】
調節ボルト26は、その軸部がプレート27に螺入され、その軸部先端がプレート27から突出してスライドユニット21の端面に当接されているボルトであって、この調節ボルト26のねじ込み量を変更することで、軸部の突出長さを増減させて、一対の緩衝マグネット9,10間の距離を調節するものである。つまり、この調節ボルト26による緩衝マグネット9,10間の距離調節によって、ストッパ部材7にワークWが衝合する場合における初期の反発力(磁気的斥力)の大きさが調節される。
【0077】
しかも、この調節ボルト26は、そのねじ込み量を変更することで、トラックレール20上におけるスライドユニット21の位置を調節することができるので、結果、ストッパ部材7の初期位置(ワークWの非衝突時における静止位置)までも、ワーク移送方向又は反移送方向(図4矢印X方向又は反矢印X方向)に位置調節することができる。
【0078】
例えば、ストッパ部材7とワークWとの衝突力が大きすぎて、ワークWが折れ曲がってしまうような場合には、調節ボルト26のねじ込み量を増して、ストッパ部材7を現状位置よりもワーク移送方向下流側(図4矢印X方向)へ後退させれば、上側ローラ4、揺動アーム5及び空気圧シリンダ6を介した減勢時間を現状よりも長めにでき、ワークWを十分に減勢してからストッパ部材7の正面部7aに衝突させることができるようになる。
【0079】
図5は、図2のV−V線における縦断面図である。なお、図5における左右方向がワーク移送経路51の幅方向に相当する。
【0080】
図5に示すように、下側ローラ3及び上側ローラ4とストッパ部材7とはワーク移送経路51の幅方向に並設されており、このストッパ部材7は正面視略正方形状に形成されている。また、ストッパ部材7の正面部7aの前方に配設される近接スイッチ19は、その検知部である上端面が下側ローラ3の外周上端面とよりも低位置となるように設置されており、下側ローラ3上を移動するワークWとの接触が防止されている。
【0081】
下側ローラ3は中空筒状に形成されており、この下側ローラ3の内周部には回転軸11が空転可能に挿通されており、この回転軸11の軸方向両端部は、基体フレーム2に対して固定されている。一方、上側ローラ4は、下側ローラ3と略等しい幅の中空筒状に形成されており、その内周部にワンウェイクラッチ28の外輪(図示省略)が内接されている。このワンウェイクラッチ28の内輪(図示省略)は上側ローラ4の回転軸12の外周に外嵌されており、この回転軸12の軸方向両端部は、揺動アーム5の先端部に対して固定されている。
【0082】
ワンウェイクラッチ28は、上側ローラ4の外周面に当接したワークWが移送方向(図2の矢印X方向)へ移動する場合に、上側ローラ4を回転軸12回りで転動させるものである。また、ワンウェイクラッチ28は、上側ローラ4の外周面に当接したワークWが移送方向とは逆方向(図2の反矢印X方向)へ戻ろうとする場合に、上側ローラ4の転動を禁止するものである。また、本実施例で用いるワンウェイクラッチ28は、それの外輪内周面にカム面を形成したローラ(ころ)型のものである。
【0083】
このワンウェイクラッチ28によれば、上側ローラ4が回転軸12に対して正転方向(図2上での反時計回り方向)に回転する場合、ころ(図示せず)が外輪のカム面のかみ合い位置から離れて、外輪が内輪に対して相対的に正転し、上側ローラ4が回転軸12を中心にして空転されて、ワークWに対して上側ローラ4が転動される。
【0084】
一方、ワンウェイクラッチ28によれば、上側ローラ4が回転軸12を中心に対して逆転方向(図2上での時計回り方向)に回転する場合、外輪が内輪に対して相対的に逆転して、ばねのスプリング作用によって、ころが外輪のカム面のかみ合い位置に進み、外輪のカム面と内輪とのくさび作用で上側ローラ4の転動が禁止される。
【0085】
また、揺動アーム5の基端部(下端部)は中空筒状に形成されており、その内周部にはベアリング29,29の外輪(図示省略)が内接されている。このベアリング29の内輪(図示省略)は揺動軸13の外周に外嵌されており、この回転軸13の軸方向両端部は、基体フレーム2に対して固定されている。
【0086】
次に、図6を参照して、上記のように構成されたワーク制止装置1の動作について説明する。図6は、ワーク制止装置1の動作中におけるワーク制止装置1の右側面図である。まず、ワークWは、ワーク移送経路51における複数の搬送ローラ53を転動させながら、そのワーク移送経路51の上流側から下流側へ向けて順方向に滑動してくる。そして、図6(a)に示すように、ワークWの移送方向前側(図6右側)の縁端面が上側ローラ4に衝突すると、そのワークWによって上側ローラ4が押動されて、揺動アーム5が揺動軸13を中心としてワーク移送方向下流側(図2の時計回り方向)へ向けて回転される。
【0087】
この揺動アーム5の回転によって、上側ローラ4は下側ローラ3に最接近していた始点位置から退避軌道Mを辿って円弧状に上昇後退される一方、空気圧シリンダ6のシリンダロッド14は揺動アーム5の回転によってシリンダ本体15内へ没入される。すると、空気圧シリンダ6から揺動アーム5に対して、その揺動アーム5の回転を阻止して上側ローラ4を退避軌道Mとは逆方向へ押し戻す付勢力及び減衰力が付与されて、上側ローラ4を退避軌道M方向に押動しようとするワークWの運動エネルギーが徐々に消費(吸収)される。
【0088】
一方、上側ローラ4と衝突したワークWには、その移送方向前側部分(図6右側)を下方に押し下げる押下力が上側ローラ4から加えられる。このため、上側ローラ4と衝突した後、ワークWの移送方向前側部分は、下側ローラ3を転動させながらその上を通過して、上側ローラ4の下方へと潜入するように撓められる(図6(b)及び図6(c)参照)。そして、ワークWの移送方向前側部分が上側ローラ4の下側に潜入すると、上側ローラ4はワークWの上面に乗り上がる格好となって、その後更にワークWが移動すると、上側ローラ4が回転軸12を中心にしてワークWの上面に面接触しながらワークW上を転動する。
【0089】
このとき、上側ローラ4には空気圧シリンダ6による付勢力及び減衰力が作用しているので、上側ローラ4はワークWの上面(表面)に圧接され、一方、この圧接による反作用によって下側ローラ3はワークWの下面(裏面)に圧接される。この結果、ワークWと上側ローラ4及び下側ローラ3との間には摩擦抵抗が生じて、この摩擦抵抗がワークWの運動エネルギーを吸収して、ワークWに対して減勢作用を及ぼすこととなる。
【0090】
上記した動作中、ワークWに押された上側ローラ4が退避軌道Mの頂点位置を越えて更に後退して下降し始めると、図6(b)に示すように、ワークWの移送方向前側(図6(b)右側)の縁端面がストッパ部材7とも衝突し衝合する。ワークWがストッパ部材7と衝合すると、ストッパ部材7がワークWから押動される格好となって、その勢いでスライドユニット21がトラックレール20に沿ってワーク移送方向下流側(図4左側)へ向けて移動させられる。
【0091】
スライドユニット21が移動すると、一対の緩衝マグネット9,10の対向面間距離が縮まることとなって、緩衝マグネット9,10間の磁気的斥力が増大して、ストッパ部材7に対して作用するワークWの衝突力が吸収される。そして、最終的にワークWの運動エネルギーは、その一部が空気圧シリンダ6に蓄積される弾性力(弾性エネルギー)として、はたまた、緩衝マグネット9,10の磁気的斥力として蓄積され、残りの部分が空気圧シリンダ6の減衰力などとして消費されて、図6(c)に示すように、ワークWがひとまず制止される。
【0092】
ここで、空気圧シリンダ6及び緩衝マグネット9,10に蓄積された弾性力及び磁気力は保存力であることから、ストッパ部材7により受け止められたワークWはワーク移送経路51の上流側(図2左側、図4右側又は図6左側)へ向けて弾き返されそうになるが、このとき、ワークW表面に接触している上側ローラ4の転動が、ワンウェイクラッチ28によって禁止されてワークWの押し戻しを妨害する摩擦力が発生する。
【0093】
すると、ワーク移送経路51の上流側(図6左側)へ弾き返されそうになったワークWは、上側ローラ4と摩擦して上側ローラ4と擦れ合って引き止められる。しかも、このワークWと上側ローラ4との摩擦によって空気圧シリンダ6の弾性力及び緩衝マグネット9,10の磁気力は消費されるので、ワークWは、ワーク移送経路51の上流側へ弾き返されずに、所定位置で完全に制止される。
【0094】
もっとも、このときのワークWの表面には上側ローラ4による擦り傷が多少発生するおそれもあるが、上側ローラ4が当接されるワークWの縁端部は、次工程のプレス装置によるトリミング加工によってワークWから切除される部位であるので、ワークWを用いて製造される製品の品質が低下することが回避される。
【0095】
また、ワークWが制止されて位置決めされると、そのワークWが近接スイッチ19によって検出され、この検出信号が制御装置(図示せず)へ出力されると、その制御装置によって、空気圧シリンダ6の圧縮空気の供給ポートが電磁弁(図示せず)を介して切り換えられ、シリンダロッド14がシリンダ本体15内へ没入されて、上側ローラ4がワークW上から退避させられる。この後、ワークWは、ローダーなどの搬送機構(図示せず)によってワークWが後段のプレス装置(図示せず)へ投入される。
【0096】
ワークWがプレス装置へ投入された後は、空気圧シリンダ6の圧縮空気の供給ポートが再び電磁弁によって切り換えられることで、シリンダロッド14がシリンダ本体15から突出される。すると、揺動アーム5が上記とは逆方向(図2の反時計回り方向)へ回転されて、上側ローラ4が退避軌道Mをワーク移送経路51の上流側へ向けて前進移動されて、上側ローラ4が退避軌道Mの始点位置に復帰されて、次のワークWを制止するための準備が完了する。
【0097】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、本実施例では、緩衝手段として一対の永久磁石を利用したが、かかる緩衝手段は必ずしもこれに限定されるものではなく、その他にも電磁石やエアクッションなどを用いても良い。
【0098】
また、本実施例では、減勢手段として直動型の空気圧シリンダ6を用いたが、かかる減衰手段は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、揺動アームに対して付勢力(弾性力)及び減衰力を付与できるものであれば、ロータリ式の減衰器(ショックアブソーバー)や、その他にも油圧式シリンダなどであっても良い。
【0099】
更に、本実施例では、揺動アーム7を揺動させることで上側ローラ4を退避軌道Mに沿って可動させるように構成したが、上側ローラを誘導する手段は必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、上側ローラが転動可能かつスライド移動可能に係合される円弧状の溝を設けて、その溝に沿って上側ローラを誘導するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施例であるワーク制止装置が装備されているディスタックフィーダの右側面図である。
【図2】図1を部分的に拡大視したワーク制止装置の右側面図である。
【図3】ワーク制止装置の平面図である。
【図4】ワーク制止装置の左側面図である。
【図5】図2のII−II線における縦断面図である。
【図6】ワーク制止装置の動作を説明するための側面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 ワーク制止装置(シート材制止装置)
3 下側ローラ(下側ローラ、一対のローラの一部、一対のガイド部材の一部)
4 上側ローラ(上側ローラ、一対のローラの一部、一対のガイド部材の一部)
5 揺動アーム(揺動アーム、ローラ誘導部材の一部、付勢手段の一部)
6 空気圧シリンダ(空気圧シリンダ、減勢手段、付勢手段の一部)
7 ストッパ部材
9,10 緩衝マグネット(一対の磁石、緩衝手段)
11 回転軸(下側ローラの回転軸)
12 回転軸(上側ローラの回転軸)
13 揺動軸(揺動軸、ローラ誘導部材の一部)
14 シリンダロッド(空気圧シリンダのロッド)
7a ストッパ部材の正面部(衝合面)
21 スライドユニット(スライド部材)
26 調節ボルト(磁力調節手段、ストッパ位置調節手段)
28 ワンウェイクラッチ
51 ワーク移送経路(移送経路)
M 退避軌道
W ワーク(シート材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送経路の上流側から下流側へ向けて滑動して移送されてくるシート材を所定位置で制止するためのシート材制止装置において、
前記移送経路下流側に配設されシート材の移送方向前側縁端面と衝合してシート材を制止するストッパ部材と、
そのストッパ部材よりも前記移送方向上流側に配設され、その移送経路を移送されてくるシート材の移送方向前側縁端部の表裏面にそれぞれ当接される一対のガイド部材と、
その一対のガイド部材の少なくともいずれか一方をシート材に対して付勢することで、前記一対のガイド部材をシート材の表裏面に圧接させて、そのシート材を減勢させる減勢手段とを備えていることを特徴とするシート材制止装置。
【請求項2】
前記一対のガイド部材は、前記移送経路上流側から移送されてくるシート材の表裏面に接触して転動される一対のローラであることを特徴とする請求項1記載のシート材制止装置。
【請求項3】
移送経路の上流側から下流側へ向けて滑動して移送されてくるシート材を所定位置で制止するためのシート材制止装置において、
外周上端面が前記移送経路上面と略面一とされ、前記移送経路幅方向と略同方向に軸心が向けられている回転軸回りで転動可能にされている下側ローラと、
その下側ローラの外周上部に外接するか又はそこに対向配置され、前記移送経路幅方向と略同方向に軸心が向けられている回転軸回りで転動可能にされている上側ローラと、
その上側ローラが前記下側ローラに最接近する始点位置から前記移送経路下流側上方へ円弧状に上昇して頂点位置を通過してから前記移送経路下流側下方へ円弧状に下降する退避軌道を辿って移動するように誘導するローラ誘導部材と、
そのローラ誘導部材による前記上側ローラの誘導方向とは逆向きに作用する付勢力及び減衰力を、その上側ローラに対して付与して減勢する減勢手段と、
その減勢手段により減勢される前記上側ローラが前記退避軌道の頂点位置付近に到達したときにシート材の移送方向前側縁端面と衝合するストッパ部材と、
そのストッパ部材をシート材の移送方向及び反移送方向へ往復移動可能に搭載するスライド部材と、
そのスライド部材に対して前記移送経路下流側へ向けて作用する衝突力を緩衝する緩衝手段とを備えていることを特徴とするシート材制止装置。
【請求項4】
前記ローラ誘導部材は、先端部に前記上側ローラが回転軸を介して転動可能に軸着される揺動アームと、その揺動アームの基端部に設けられその揺動アームを揺動可能に支持する揺動軸とを備えており、
その揺動軸を中心とした前記揺動アームの回転によって、前記上側ローラを前記退避軌道に沿って円弧状に後退移動させるものであることを特徴とする請求項3記載のシート材制止装置。
【請求項5】
前記減勢手段は、前記揺動アームを支持する前記揺動軸の中心から所定半径離れた位置にロッド先端部が連結されている空気圧シリンダであることを特徴とする請求項4記載のシート材制止装置。
【請求項6】
前記ストッパ部材の位置を、シート材の移送方向又は反移送方向に調節するストッパ位置調節手段を備えていることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のシート材制止装置。
【請求項7】
前記緩衝手段は一対の磁石を備えており、
その一方の磁石は、前記ストッパ部材とともに前記スライド部材に搭載されており、
その他方の磁石は、前記一方の磁石に対向して前記移送経路下流側に配設されており、
その一対の磁石は、互いの対向面が同種の磁極とされていることを特徴とする請求項3から6のいずれかに記載のシート材制止装置。
【請求項8】
前記緩衝手段は、前記一対の磁石における対向面間の距離を調節する磁力調節手段を備えていることを特徴とする請求項7記載のシート材制止装置。
【請求項9】
上側ローラの外周面に当接したシート材が前記移送経路順方向へ移動する場合に上側ローラを回転軸回りで転動させる一方、
上側ローラの外周面に当接したシート材が前記移送経路逆方向へ戻ろうとする場合に、上側ローラの転動を禁止するワンウェイクラッチを備えていることを特徴とする請求項3から8のいずれかに記載のシート材制止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−269451(P2007−269451A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97702(P2006−97702)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591033010)株式会社小矢部精機 (8)
【Fターム(参考)】