説明

シート状摩擦材

【課題】長期間の使用でも高い摩擦係数を維持し、耐摩耗性に優れた摩擦材を提供する。
【解決手段】無機粒子を内包した繊維を含むシート状摩擦材及び該シート状摩擦材を含む摩擦部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子が内包された繊維を含む基材を用いた耐摩耗性、高耐熱性、高摩擦係数を有する摩擦材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの自動変速機用クラッチ摩擦部材及びブレーキ摩擦部材、自動車エンジン用Vリブドベルト、農機用Vベルト、事務機用平ベルト、自動車用CVTベルト等の摩擦伝動ベルト及びプーリー部材、プリンター、ファクシミリ、複写機器、事務機器の紙などの送り駆動部などは、摩擦部材に使われる摩擦材同士の摩擦力により動力の伝達もしくは摩擦材の摩擦力を利用して紙の給紙などを行っている。そのため、一般的に摩擦材は効率よく動力を伝達もしくは紙を給紙するために高い摩擦係数、そして、摩擦による耐久性の面から耐摩耗性、耐熱性などが要求される。
【0003】
特に自動車の自動変速機用クラッチ摩擦材においては一般に、ペーパー摩擦材が用いられ、例えば特公昭58−47345号公報(特許文献1)や特開平11−201206号公報(特許文献2)などに開示されているように、繊維状材料と摩擦調整剤や固体潤滑剤等の各種無機粒子を抄造して紙状の(シート状)基材を得、これにフェノール樹脂等のバインダー樹脂を含浸して加熱硬化して製造される。
【0004】
また、プリンター、ファクシミリ、複写機器、事務機器の紙などの紙送りローラーでは、例えば特開平9−30702号公報(特許文献3)のようにローラーとなる円筒体又は円柱体の外周面に、多数の硬質粒子を分散させた接着剤層を塗布し、接着剤層から突出した硬質粒子が紙に食い込むことで、給紙中のローラーと紙のスリップを抑制したものが知られている。
【0005】
上記のような各種摩擦材はいずれも摩擦材中の硬質な無機粒子が相手材に食い込むことで高い摩擦係数を得るものであるが、無機粒子は接着剤等で摩擦体構成素材の表面に固着されている状態である。従って、摩擦によるせん断力に耐え切れず、無機粒子が脱落し、経時的に摩擦係数が変化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭58−47345号公報
【特許文献2】特開平11−201206号公報
【特許文献3】特開平9−30702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を解決すべくなされたものであり、長期間の使用でも高い摩擦係数を維持し、耐摩耗性に優れたシート状摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術における上記課題を解決するため鋭意研究した結果、無機粒子を内包した繊維を原料に使用することで、無機粒子の脱落が抑制されるため、経時的変化が少なく安定的な摩擦係数が得られるシート状摩擦材となることを見出した。
即ち、本発明によれば、
無機粒子を内包した繊維を含むことを特徴とするシート状摩擦材、
好ましくは、該無機粒子を内包した繊維が、少なくとも無機粒子と芳香族ポリアミド樹脂から成り、無機粒子の内包量が全繊維重量に対して5〜98重量%であり、該無機粒子を内包した繊維がフィブリルを有する短繊維であるシート状摩擦材、
及び、上記シート状摩擦材を含む摩擦部材、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機粒子を内包する繊維(好ましくは芳香族ポリアミド繊維)を用いるため長期間の使用でも無機粒子の脱落がなく高い摩擦係数を維持し、耐摩耗性に優れた摩擦材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例のシート状摩擦材の摩擦係数の経時変化。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のシート状摩擦材について説明する。
本発明の「シート状摩擦材」とは、無機粒子を内包した繊維を含むシート化した繊維構造体を意味し、均一性、量産性などから湿式抄造法により得られる湿式抄造シートが好ましい。また繊維構造体に有機高分子樹脂が含浸されていてもよい。
【0012】
本発明における「無機粒子」とは、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタン、アルミナ、シリカ、珪藻土、カオリン、酸化マグネシウムなどを単一または複数種組み合わせたものなどが挙げられるが、繊維表面に存在して摩擦係数を増加させる効果があるものであれば、特に限定はしない。
【0013】
本発明における「無機粒子を内包した繊維」とは、上述の無機粒子と有機高分子とからなる繊維状に成形されたものを指し、有機高分子を所望の溶媒に溶解して得られるポリマー溶液などに無機粒子を分散させ、有機高分子の非溶媒に導入して凝固、繊維化する方法によって得られたものを意味する。いわゆるフィブリッドと呼ばれる微細フィブリルを有する成形物(繊維)、連続的に繊維化された長繊維、さらに得られた連続長繊維を公知の切断設備を用いて短繊維状にカットしたもの、また、短繊維状にカットしたものをリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等の装置により高度にフィブリル化させたものなどが挙げられる。
【0014】
本発明のシート状摩擦材は湿式抄造法で作成することが好ましく、無機粒子を内包したアスペクト比を有するフィブリッドと呼ばれる微細フィブリルを有する成形物である有機高分子凝固体が好ましく用いられる。無機粒子を内包し、アスペクト比を有する有機高分子凝固体の製造方法は限定しないが、WO2008/122374 A1などに記載されたように、無機粒子を分散させたポリマー溶液を、ジェット紡糸ノズルを通してポリマー流とし、このポリマー流を撹拌下、水系凝固浴に導入しフィブリルを有する繊維状成形物とする方法が好ましい。
【0015】
該方法により得られたフィブリッドは、該繊維のポリマー部分は水で膨潤した状態であるため、湿式抄造法でシート化した場合、乾燥時にポリマーから水が抜けることによって繊維同士が交絡した状態でポリマー自体が収縮するため、絡み合いが強固となり、無機粒子の拘束力が強くなり、摩擦に対する耐久性が向上するので好ましい。
【0016】
繊維の無機粒子の内包量としては、繊維を構成する有機高分子全重量に対して5〜98重量%が好ましく、20〜95重量%がより好ましく、50〜90重量%が更に好ましい。無機粒子の内包量が5重量%未満の場合は、有機高分子の特性が支配的となり、無機粒子の特性が発現しにくい。また、無機粒子の内包量が98重量%を超える場合は、有機高分子の量が少ないため、無機粒子を繊維状に成形することが困難なだけでなく、摩擦材として使用した際に摩擦によるせん断力に耐えられず糸切れを起こしやすくなる。
【0017】
繊維を構成する有機高分子としては、摩擦熱による劣化及び変形が少ない高耐熱性のものが好ましく、また無機粒子を内包した繊維、特に上記フィブリッドとする上で、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドなど芳香族ポリアミドがより好ましい。
【0018】
本発明のシート状摩擦材の原料として、無機粒子を内包した繊維の他に、機械的強度の向上を目的として、無機粒子を内包していない繊維やバインダー成分など、また、摩擦特性を調整することを目的として、摩擦調整用粒子などを併用することが出来る。
【0019】
無機粒子を内包していない繊維としては、摩擦熱による劣化及び変形が少ないものが好ましく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維、アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミド繊維などの有機繊維が挙げられる。
【0020】
また、摩擦材は摩擦調整用粒子を含有することも好ましく、摩擦調整用粒子として、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタン、アルミナ、シリカ、珪藻土、カオリン、酸化マグネシウム、カシューダスト、ジルコニア、グラファイトなどが挙げられる。
【0021】
本発明のシート状摩擦材の製造方法としては、上記のシート状摩擦材の原料を混抄し、抄紙スラリーとしたのち公知の抄紙装置にて湿式抄造シートとし、乾燥後加熱し必要に応じて加圧プレスして密度や厚さを調整して得る方法や、さらに好ましくは、熱硬化性樹脂を所望の溶剤に溶解もしくはエマルジョン状の液体樹脂とし、シートに浸漬し加熱硬化させる方法が好ましい。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが好ましく挙げられる。
【0022】
また、本発明のシート状摩擦材は、種々のコア材に貼り付けた状態で摩擦部材として使用することが出来る。例えば、自動車の自動変速機用クラッチ摩擦部材であれば芯材である金属製のリングプレートの表面、摩擦伝動ベルトであればその摩擦部位表面、プリンター、ファクシミリ、複写機器、事務機器の紙などの紙送りローラーであればローラー表面、自動車エンジン用Vリブドベルト、農機用Vベルト、事務機用平ベルト、自動車用CVTベルト等の摩擦伝動ベルトであれば、それらの摩擦部表面などに貼り付けることで、各種摩擦部材の摩擦特性を向上させることが出来る。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
(物性評価)
下記項目の物性評価は次の方法で行った。
1、シート状摩擦材の摩擦係数
シート状摩擦材の摩擦係数はJIS K7218 A法に適用した摩擦磨耗試験機(株エー・アンド・デイ製;EFM−III)を用いて下記の条件ですべり距離に対する摩擦係数の変動を測定した。
相手材料;JIS K7218 A法に記載の素材及び形状・寸法
試験速度;0.25m/s
試験荷重;50N
すべり距離;900m
2、シート状摩擦材の耐摩耗性
シート状摩擦材の耐摩耗性は上記摩擦係数測定による磨耗量と試料摩擦面の顕微鏡観察による繊維の毛羽立ち有無により判定した。摩耗量は、試験前後の試料重量の差を測定して求めた。
3、含水率
JIS L1013に準拠して測定し下記の式で算出した。
(W0−W)/W0×100 W0は乾燥前重量 Wは乾燥後重量
【0024】
[実施例1]
無機粒子を内包した繊維はWO2008/122374 A1の方法で、ポリパラフェニレンテレフタルアミド20重量部、無機粒子として珪藻土(昭和化学工業製;商品名「ラヂオライト#200」)80重量部を使用して作成し、含水率91%の水膨潤化珪藻土内包繊維を得た。
次に該水膨潤化珪藻土内包繊維を絶乾換算で100重量部を水1.5Lとともに公知の離解機にて離解して抄紙スラリーとし、25×25cm角のTAPPI式手漉きマシ−ンを用いて湿式抄造法にて湿潤シート状物を作成し、プレス脱水及び、温度=140℃、圧力=980KPaで加熱プレスを行い、坪量約100g/mの乾燥シートを得た。その後、温度=300℃、線圧=980N/cmでカレンダー処理を施し、シート状摩擦材を得た。得られたシート状摩擦材の物性を表1に、摩擦係数を図1に記載した。
【0025】
[比較例1]
実施例1において、シート摩擦材の原料として、無機粒子を内包しない水膨潤化繊維を用いたこと以外は同様の方法でシート状摩擦材を得た。尚、該無機粒子を内包しない水膨潤化繊維はWO2008/122374 A1の方法において、ポリマー溶液に無機粒子を添加しないで作成した(特表2007−514066に記載された方法)。得られたシート状摩擦材の物性を表1に、摩擦係数をグラフ1に記載した。
【0026】
[比較例2]
比較例1に使用した無機粒子を内包しない水膨潤化フィブリル化繊維を絶乾換算で20重量部と珪藻土80重量部を水1.5Lとともに公知の離解機にて離解して抄紙スラリーとして使用したこと以外は同様の方法でシート状摩擦材を得た。得られたシート状摩擦材の物性を表1に、摩擦係数を図1に記載した。
【0027】
実施例1は比較例1に比べ、摩擦係数が明らかに高いものであった。これは、実施例1のシート状摩擦材は珪藻土内包水膨潤化繊維を使用したため、繊維に内包された状態であっても、珪藻土が摩擦係数向上剤として機能したためと思われる。
また、実施例1は比較例2に比べ、試験前後での摩耗量が少なく、また試料摩耗面からの繊維の毛羽立ちも見られなかった。これは、珪藻土が繊維に内包されているため、摩耗による脱落が少なかったためと思われる。比較例2は珪藻土が内包されていないため容易に脱落するものと思われる。また、実施例1と比較例2の摩擦係数の経時変化から、繊維に内包されていても珪藻土は十分な摩擦係数向上剤として機能していることがわかる。
【0028】
かくして、本発明によれば、摩擦材の原料として、無機粒子が内包された繊維を用いることで、耐摩耗性に優れ、長期の使用においても高い摩擦係数を維持できるシート状摩擦材が提供されるため、各種摩擦材の摩擦特性向上に有効である。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のシート状摩擦材は耐摩耗性に優れ、長期の使用においても高い摩擦係数を維持できるので、該シート状摩擦材を含む摩擦部材は自動車の自動変速機用クラッチ摩擦部材、摩擦伝動ベルト、プリンター、ファクシミリ、複写機器、事務機器の紙などの紙送りローラー、自動車エンジン用Vリブドベルト、農機用Vベルト、事務機用平ベルト、自動車用CVTベルト等の摩擦伝動ベルト等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を内包した繊維を含むことを特徴とするシート状摩擦材。
【請求項2】
該無機粒子を内包した繊維が、少なくとも無機粒子と芳香族ポリアミド樹脂から成る請求項1に記載のシート状摩擦材。
【請求項3】
該無機粒子を内包した繊維中の無機粒子の含有量が繊維を構成する有機高分子全重量に対して5〜98重量%である請求項1、2いずれかに記載のシート状摩擦材。
【請求項4】
該無機粒子を内包した繊維がフィブリルを有する短繊維である請求項1〜3いずれかに記載のシート状摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のシート状摩擦材を含むことを特徴とする摩擦部材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−94060(P2011−94060A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250549(P2009−250549)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】