説明

シート状樹脂組成物、及びそれを用いて封止された回路部品

【課題】簡便な工程により、電子素子に水分、塵等の異物が付着しないように、また反りねじれが少なく難燃性に優れ、必要部分には十分に樹脂を充填させ、電子素子を封止することができるシート状樹脂組成物とそれを用いて封止された回路部品を提供する。
【解決手段】(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂、(C)エポキシ樹脂用硬化剤、(D)無機フィラー、(E)難燃剤を必須成分とするシート状樹脂組成物であって、(A)/(B)の質量比が10/90〜30/70であり、かつ前記(D)含有量が組成物全量に基づき50〜80質量%であるシート状樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状樹脂組成物、及びそれを用いて封止された回路部品に関する。さらに詳しくは、本発明は、回路部品装置における基板上に実装された電子素子を、簡易な操作により、硬化物の反りやねじれが少なくなるように封止することのできる、難燃性に優れるシート状樹脂組成物、及びそれを用いて封止された回路部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子素子は、その電極に水分や塵、埃などの異物が付着しないように封止する必要があり、したがって、半導体チップなどの半導体素子を、エポキシ樹脂組成物を用いて封止することが広く行われている。封止方法としては、樹脂組成物を滴下するポッティング法が最も多く採用されており、時には型を利用したモールド法、例えばトランスファー成形法も採用される。さらに最近では、シート状樹脂組成物を採用する方法も提案されている。
一方、素子によっては発熱、発火などの問題が生じることから、封止用樹脂組成物に対して難燃性が要求される。
【0003】
トランスファー成形により、電子素子を封止するためには、それに用いるモールディングコンパウンドを低コストで製造することが重要であり、したがって、特許文献1には、トランスファー成形によりオプトデバイスを樹脂封止するために用いられるモールディングコンパウンドを、製造工程の簡略化により低コストで製造するために、所望の形状の凹部を有する型枠に、流動性を有する封止用樹脂を導入し、前記封止用樹脂を冷却して固化させ、この固化した封止用樹脂を所望の時に前記型枠から取り出す、モールディングコンパウンドの製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、封止材として熱硬化性樹脂、好ましくはエポキシ樹脂からなる薄板状樹脂シートを、基板面上に実装された半導体全面を覆うように被せたのちに加熱して、その薄板状樹脂シートを軟化させて粘性と粘着力を持たせることで、その薄板状樹脂シートを上記半導体と上記基板面に接着させ、その加熱処理後に上記軟化した薄板状樹脂シートが硬化することで上記半導体を封止する方法が開示されている。
【0005】
一方、特許文献3には、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)ホスファゼン化合物、(E)シリカおよび(F)シランカップリング剤を必須成分として含み、シリカの配合量を全エポキシ樹脂組成物中85〜93重量%と規定し、かつ、(D)/(F)の重量比を規定した半導体封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献4には、電子部品の成形、封止材料として使用される難燃性成形用樹脂組成物として、(A)特定の構造を有する多官能エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)柔軟性骨格を及び極性骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂、(D)硬化促進剤、(E)難燃剤及び(F)シリカ粉末を必須成分として含み、かつハロゲン化合物及びアンチモンを含まない樹脂組成物が開示されており、さらにこの難燃性成形用樹脂組成物を加熱成形して得られた難燃性成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−188753号公報
【特許文献2】特開2003−249510号公報
【特許文献3】特開2004−67774号公報
【特許文献4】特開2010−18738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術は、凹部を有する型枠に液状の封止用樹脂を導入して固化したものを所望の時に、前記型枠から取り出すモールディングコンパウンドの製造方法であって、プレス成形するなど煩雑な工程を有する上、シート状の形態で封止用樹脂を使用する技術ではない。
また、特許文献2に記載の技術は、シート状の封止用樹脂を用いて電子素子を封止する技術であるが、封止材の熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂の使用が好ましいことは記載されているものの、エポキシ樹脂の種類や、封止材に用いる他の配合成分についてはなんら記載がない。この技術においては、封止用樹脂の硬化物に反りやねじれが発生しやすいという問題点や、封止用樹脂の溶融粘度が高い場合には、電子素子細部への樹脂の充填不良によるボイドの発生などの可能性が高いものであった。
特許文献3に記載の技術は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物であるが、液状のエポキシ樹脂と固形状のエポキシ樹脂を組み合わせて用いるのではないので室温でシート状、高温で液状の挙動を示すような樹脂組成物は得られない上、シリカの配合量が多いため成形時の流動性に問題があり、かつ、使用形態がシート状ではなく、トランスファー成形用である。
特許文献4に記載の技術は、電子部品の成形、封止材料として使用される難燃性成形用樹脂組成物に関する技術であるが、エポキシ樹脂として、フェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド類との縮合物のポリグリシジルエーテルと、柔軟性骨格及び極性骨格を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合物が用いられており、ビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂のような軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂は用いられていない上、使用形態がシート状ではなく、トランスファー成形用である。
【0008】
本発明は、このような状況下になされたもので、電子部品を封止するためのシート状樹脂組成物であって、電子素子の実装基板と、これに実装された電子素子を備えた回路部品装置に、簡易な操作により回路部品を覆うように被せることができ、しかもその硬化物に反りやねじれが少なく、かつ、難燃性に優れた、回路部品を封止することができるシート状樹脂組成物、及びそれを用いて封止された回路部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂と、軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂、特に好ましくは特定の構造を有するビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂とを所定の割合で含むエポキシ樹脂混合物、エポキシ樹脂用硬化剤、無機フィラー、及び難燃剤を必須成分として含み、かつ前記無機フィラーを所定の割合で含有するシート状樹脂組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1](A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂、(C)エポキシ樹脂用硬化剤、(D)無機フィラー及び(E)難燃剤を必須成分として含むシート状樹脂組成物であって、前記(A)/(B)質量比が10/90〜30/70であり、かつ前記(D)含有量が組成物全量に基づき50〜80質量%であることを特徴とするシート状樹脂組成物、
[2](B)が、下記式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
〔式中、mは1〜4の整数を示す〕
【0013】
で表されるビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂の混合物である上記[1]に記載のシート状樹脂組成物、
[3](E)難燃剤が、ホスファゼンである上記[1]又は[2]に記載のシート状樹脂組成物、
[4](D)が、質量平均粒子径4〜30μmの無機フィラーである上記[1]〜[3]のいずれかに記載のシート状樹脂組成物、
[5]無機フィラーが球状シリカである上記[1]〜[4]のいずれかに記載のシート状樹脂組成物および
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のシート状樹脂組成物によって封止されてなることを特徴とする回路部品を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子部品を封止するためのシート状樹脂組成物であって、電子素子の実装基板と、これに実装された電子素子を備えた回路部品装置に、簡易な操作により回路部品を覆うように被せることができ、しかもその硬化物に反りやねじれが少なく、かつ、難燃性に優れた、回路部品を封止することができるシート状樹脂組成物、及びそれを用いて封止された回路部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明のシート状樹脂組成物について説明する。
[シート状樹脂組成物]
本発明のシート状樹脂組成物は、(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂、(C)エポキシ樹脂用硬化剤、(D)無機フィラー及び(E)難燃剤を必須成分として含むシート状樹脂組成物であって、前記(A)/(B)質量比が10/90〜30/70であり、かつ(D)含有量が組成物全量に基づき50〜80質量%であることを特徴とする。
【0016】
〔(A)成分〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、(A)成分として液状ビスフェノール型エポキシ樹脂が用いられる。この液状ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有する液状のビスフェノール型化合物であればよく、特に制限はないが、例えばビスフェノールA型及びビスフェノールF型が好適である。
このうち、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく用いられ、その具体的例としては、三井化学社製の「R140P」(エポキシ当量188)、ダウケミカル社製の「DER383」、ジャパンエポキシレジン社製の「エピコート#807」(エポキシ当量170)などが使用される。
これらの液状ビスフェノール型エポキシ樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、25℃において液状を呈するビスフェノール型エポキシ樹脂を指す。
【0017】
〔(B)成分〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、(B)成分として、軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂が用いられる。
この軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂としては、例えば下記式(1)で表されるビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂の混合物が挙げられる。下記式(1)中、mは1〜4の整数を示す。
【0018】
【化2】

【0019】
さらに、下記式(2)で表されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の混合物などが挙げられる。下記式(2)中、nは1〜10の整数を示す。
【0020】
【化3】

【0021】
なお、これらの固形状多官能エポキシ樹脂の軟化点は、下記の方法で測定した値である。
<軟化点の測定>
JIS K2207に基づいて、規定の環に試料を充填し、水浴またはグリセリン浴中で水平に支え、試料の中央に規定の球を置いて浴温を毎分5℃の速さで上昇させ、球を包み込んだ試料が環台の底板に接触した時に読み取った温度である。
当該軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂の市販品としては、日本化薬社製の「NC3000(軟化点57℃)」、「NC3000H(軟化点70℃)」、東都化成社製の「YDCN704(軟化点90℃)」などが好ましく使用される。
本発明において、(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂と、(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂を併用することで、すなわち融点の異なる2種類のエポキシ樹脂を配合することで、室温でシート状、高温で液状の挙動を示すシート状樹脂組成物を得ることができる。
本発明においては、前記(A)/(B)の質量比は10/90〜30/70の範囲にあることを要する。液状エポキシ樹脂が、上記範囲より少ないか又は固形状エポキシ樹脂の軟化点が70℃を超えるとシートに割れまたは欠けが発生し好ましくない。
また、液状エポキシ樹脂が上記範囲より多いか又は固形状エポキシ樹脂の軟化点が低すぎると、シートが形成されにくくなる。このような観点から、(A)/(B)の質量比は
15/85〜25/75の範囲であることがより好ましく、また固形状エポキシ樹脂の軟化点の下限は、通常40℃程度である。
【0022】
〔(C)成分〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、(C)成分としてエポキシ樹脂用硬化剤が用いられる。
このエポキシ樹脂用硬化剤としては、特に制限はなく、従来エポキシ樹脂の硬化剤として使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができ、例えばアミン系、フェノール系、酸無水物系などが挙げられる。アミン系硬化剤としては、例えばジシアンジアミドや、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン等が好ましく挙げられ、フェノール系硬化剤としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン変性フェノールノボラック樹脂などが好ましく挙げられる。また、酸無水物系硬化剤としては、例えばメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂環式酸無水物、無水フタル酸等の芳香族酸無水物、脂肪族二塩基酸無水物(PAPA)等の脂肪族酸無水物、クロレンド酸無水物等のハロゲン系酸無水物等が挙げられる。これらの硬化剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
このエポキシ樹脂用硬化剤の使用量は、硬化性及び硬化樹脂物性のバランスなどの点から、前記(A)および(B)成分のエポキシ樹脂に対する当量比で、通常0.5〜1.5当量比程度、好ましくは0.7〜1.3当量比の範囲で選定される。
【0023】
〔任意成分:エポキシ樹脂用硬化促進剤〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、本発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じて、エポキシ樹脂用硬化促進剤を含有させることができる。
このエポキシ樹脂用硬化促進剤としては、特に制限はなく、従来エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ウレアとして芳香族ジメチルウレア、脂肪族ジメチルウレア、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチルウレア、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエン等のウレア類、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、三フッ化ホウ素アミン錯体、トリフェニルホスフィンなどを例示することができる。これらの硬化促進剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。このエポキシ樹脂用硬化促進剤の使用量は、硬化促進性及び硬化樹脂物性のバランスなどの点から、上記(A)、(B)成分のエポキシ樹脂100質量部に対し、通常0.1〜10質量部程度、好ましくは0.4〜5質量部の範囲で選定される。
【0024】
〔(D)成分〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、(D)成分として無機フィラーが用いられる。この無機フィラーとしては特に制限はなく、例えばボールミルなどで粉砕した溶融シリカ、火炎溶融することで得られる球状シリカ、ゾルゲル法などで製造される球状シリカなどのシリカ類;アルミナ;水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物;酸化チタン;カーボンブラックなど、通常用いられているものを使用することができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該無機フィラーの質量平均粒子径は、製造時の作業性および充填効率の観点から、4〜30μmの範囲にあることが好ましい。なお、この質量平均粒子径は、レーザ回折散乱方式(たとえば、島津製作所製、装置名:SALD-3100)により測定された値である。
当該無機フィラーとしては、球状シリカが好ましく、例えば電気化学工業社製の「FB−959(質量平均粒子径:25μm)」などが好適である。
当該無機フィラーの含有量は、樹脂組成物全量に基づき、50〜80質量%であることを要する。この含有量が50質量%未満では、シート状樹脂組成物を用いて電子部品を封止する際、硬化物に反りや、ねじれが発生しやすく、一方80質量%を超えると、シートに割れや欠けが発生したり、溶融時の流動性が低下し、部品周りに未充填箇所が発生したりするため好ましくない。
なお、無機フィラーとして金属水和物を用いた場合、難燃剤としても機能する。
【0025】
〔任意成分:カップリング剤〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、充填性の観点から、必要に応じてカップリング剤を含有させることができる。カップリング剤としては、シラン系、チタネート系、アルミニウム系などが挙げられるが、これらの中でシラン系カップリング剤が好ましい。シラン系カップリング剤としては、特にγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン化合物が好ましく用いられる。
当該シランカップリング剤の含有量は、樹脂組成物全量に基づき、0.03〜5.0質量%程度、好ましくは0.1〜2.5質量%である。
【0026】
〔(E)成分〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、(E)成分として難燃剤が用いられる。
当該難燃剤としては特に制限はなく、例えばリン化合物や、金属水和物などを用いることができる。
リン化合物としては、例えば(a)ホスファゼン化合物、(b)9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドや、その誘導体、(c)リン酸エステル化合物、(d)リン酸エステルアミドなどがある。
前記(a)のホスファゼン化合物としては、実質的にハロゲンを含まないものであって、耐熱性、耐湿性、難燃性、耐薬品性などの点から、融点が80℃以上であるホスファゼン化合物が好ましく用いられる。具体的な例としては、下記一般式(3)で表されるシクロホスファゼンオリゴマーを挙げることができる。
【0027】
【化4】

【0028】
上記一般式(3)において、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又はハロゲンを含まない有機基を示し、kは3〜10の整数を示す。
上記一般式(3)において、R1、R2のうちのハロゲンを含まない有機基としては、例えば炭素数1〜10のアルコキシル基、フェノキシ基、アミノ基、アリル基などが挙げられる。
このようなホスファゼン化合物としては、例えば大塚化学社製の「SPB−100」などが挙げられる。
前記(b)の9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドは、式(4)で表される構造を有している。
【0029】
【化5】

【0030】
また、その誘導体としては、例えば式(5)で表される(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどを挙げることができる。
【0031】
【化6】

【0032】
なお、上記式(4)で表される化合物は、「SANKO−HCA」[三光(株)製、商品名]として、また、上記式(5)で表される化合物は、「SANKO HCA−HQ」[三光(株)製、商品名]として、入手することができる。さらに、誘導体として、SANKO M−Acid−AH」[三光(株)製、商品名]が市販されている。
【0033】
前記(c)のリン酸エステル化合物としては、例えばトリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェートなどの添加型のリン酸エステル、あるいはレゾルシンなどの多価フェノールとフェノール、クレゾールなどの1価フェノールを用いてエステル化され、かつ該多価フェノールのうちの少なくとも1個の水酸基が反応性遊離基として残される反応型のリン酸エステル「RDP」[味の素ファインテクノ社製、商品名]など、さらには反応型のリン酸エステルにおける遊離水酸基がエステル化されてなる縮合型リン酸エステル「PX−200」[大八化学工業社製、商品名]などが挙げられる。
【0034】
さらに、前記(d)のリン酸エステルアミドとしては、リン酸エステル及びリン酸アミドの結合様式を含み、特開2001−139823号公報、特開2000−154277号公報、特開平10−175985号公報、特開平8−59888号公報、特開昭63−235363号公報に記載のリン酸エステルアミドなどが使用できる。好ましいリン酸エステルアミドとして、縮合リン酸エステルアミド類が挙げられる。このようなリン酸エステルアミドとしては、例えば、N−(ジアリールオキシホスフィニル)置換アルキレンアミン類、ビス乃至テトラキス[(ジアリールオキシホスフィニル)アミノ]置換芳香族化合物類、N−(環状アルキレンジオキシホスフィニル)置換アルキレンアミン類、ビス乃至テトラキス[(環状アルキレンジオキシホスフィニル)アミノ]置換芳香族化合物類、N−(環状アリーレンジオキシホスフィニル)置換アルキレンアミン類、ビス乃至テトラキス[(環状アリーレンジオキシホスフィニル)アミノ]置換芳香族化合物類、3,9−ビス(N−置換アミノ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]−ウンデカン−3,9−ジオキシド類などが挙げられる。
リン酸エステルアミドは、商品名「リン酸エステルアミド系難燃剤SPシリーズ(例えば、SP−601、SP−670、SP−703、SP−720など)」〔四国化成工業(株)製〕として入手できる。
【0035】
一方、金属水和物の種類としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが用いられ、水酸化アルミニウム化合物としては例えば、昭和電工社製の「H42M」が好ましく使用される。
【0036】
本発明においては、前記難燃剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その含有量は、難燃剤の種類にもよるが、難燃性及び他の物性のバランスの面から、樹脂組成物全量に基づき、5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは、10〜40質量%、さらに好ましくは10〜35質量%である。
【0037】
〔他の任意成分〕
本発明のシート状樹脂組成物においては、他の任意成分として、本発明の効果を阻害しない範囲で、シリコーンゴムやシリコーンゲルなどの粉末、シリコーン変性エポキシ樹脂やフェノール樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体のような熱可塑性樹脂などの低応力化剤;n−ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエンジエポキシド、フェノール、クレゾール、t−ブチルフェノールなどの粘度降下用希釈剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーンオイルなどの濡れ向上剤や消泡剤等を適宜含有させることができる。
【0038】
〔シート状樹脂組成物の調製〕
本発明のシート状樹脂組成物の調製方法に特に制限はないが、例えば下記のようにして調製することができる。
まず、前述した(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂、(C)エポキシ樹脂用硬化剤、(D)無機フィラー及び(E)難燃剤からなる必須成分、並びに必要に応じて用いられる各種任意成分を高速混合機などにより、均一に混合したのち、ニーダー、二本ロール、連続混練装置などで十分混練する。混練温度としては50〜110℃程度が好ましい。このようにして得られた樹脂組成物を冷却後、成形機にて50〜100℃程度の温度、圧力0.5〜1.5MPaの条件でプレスして、本発明のシート状樹脂組成物(以下、単に「樹脂シート」と称することがある)を作製する。
本発明の樹脂シートの厚さは、用途にもよるが、通常0.1〜2.0mm程度、好ましくは0.1〜1.0mmである。
【0039】
このようにして得られた本発明のシート状樹脂組成物は、下記の効果を奏する。
本発明のシート状樹脂組成物によれば、樹脂シート自体の取扱性、成形性が良好で、かつ、硬化物の反りやねじれが少ない上、難燃性にも優れたものである。この封止用熱硬化型樹脂シートを用いた場合には、封止用熱硬化型樹脂シートを電子素子上に積層して加熱することで容易に電子部品を封止することができるため封止工程を簡略化して製造を簡便に行うことができる。また、大掛かりな設備を必要とせずに電子機能部を有する電子素子の機能を阻害することなく封止することができるため、製造コストの低減を図ることができる。
【0040】
次に、本発明の回路部品について説明する。
[回路部品]
本発明の回路部品は、前述した本発明のシート状樹脂組成物(樹脂シート)によって封止されてなることを特徴とする。
本発明の樹脂シートによる回路部品の封止方法に特に制限はなく、例えば下記のようにして封止を行うことができる。
基板に実装された電子素子を備えた回路部品装置に、当該樹脂シートにより、回路部品を覆うように被せたのち、80〜200℃程度、好ましくは100〜150℃の温度に加熱して、該樹脂シートを流動化させて、回路部品周りに未充填箇所がないようにしたのち、さらに100〜180℃の温度にて、0.5〜2時間程度加熱して流動化した樹脂組成物を硬化させるという簡単な操作により、本発明の封止された回路部品を得ることができる。
このようにして封止された回路部品においては、硬化物は反りやねじれの発生が少なく、かつ難燃性に優れる上、部品周りに未充填箇所が発生しない。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
<樹脂シート>
(1)ゲルタイム
JIS C 2105の試験管法に準拠して、100℃のオイルバス中でシート状樹脂組成物がゲルになるまでの時間を測定した。
(2)シート特性
次の判定基準で評価した。
○:室温で柔軟であり、割れ及び欠けが発生せず、かつ液状でない。
△:室温で柔軟であり、液状ではないが、割れ又は欠けが発生。
×:シート化が不可能。
(3)溶融時の流動性
FR−4基板上に設置した2mm角のチップをシート状組成物で封止し、埋め込み性を目視にて確認した。硬化条件は100℃、2時間である。下記の判定基準で評価した。
○:良好。
×:部品周りに未充填箇所がある。
(4)溶融粘度
レオメーター(RhenemetricScientific社製)にて測定(100℃)した。
<硬化物>
(5)ガラス転移点
TMA/SS150(セイコーインスツルメンツ社製)において、室温→200℃(昇温スピード10℃/分)まで昇温して、ガラス転移点を測定した。
(6)難燃性
UL94に準拠して、試験片厚み1.6mmで難燃性を評価した。
(7)反り
厚さ0.3mmのFR−4基板(45mm×30mm)に封止シート(30mm×20mm)をのせ、100℃で2時間硬化させ、硬化後の基板の四隅の高さを測り、その平均値を反りの指標とした。
【0042】
[実施例1〜7及び比較例1〜5]
第1表に示す配合組成の各原料をニーダーに仕込み、70℃で1時間撹拌混合して、各樹脂組成物を調製した。次いで、各樹脂組成物それぞれを30℃に冷却後、成形機により、70℃、1.0MPaの条件でプレス成形して厚さ0.5mmのシートとし、各シート状樹脂組成物(樹脂シート)を作製した。
各例における諸特性の評価結果を第1表に示す。第1表中の固形エポキシ樹脂の横に記載されている、たとえば、SP57℃は軟化点を示す。
使用した各成分は以下の通りである。
1.液状エポキシ樹脂
(1)R140P:三井化学社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂(数平均分子量:380、エポキシ当量:190)
(2)DER383J:ダウケミカル社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:190)
(3)エピコート#807:ジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:160〜175)
2.固形状エポキシ樹脂
(1)NC3000:日本化薬社製のビフェニル骨格含有多官能型エポキシ樹脂(エポキシ当量:285、軟化点:57℃)
(2)NC3000H:日本化薬社製のビフェニル骨格型エポキシ樹脂(エポキシ当量:290、軟化点:70℃)
(3)YDCN704:東都化成社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:210、軟化点:90℃)
3.硬化剤
(1)DICY:日本カーバイド社製のジシアンジアミド
(2)EH−4370S:ADEKA社製の変性脂肪族ポリアミン
4.触媒
U−CAT3502T:サンアプロ社製の芳香族ジメチルウレア
5.無機フィラー
FB−959:電気化学工業社製の球状シリカ(質量平均粒子径:25μm)
6.難燃剤
(1)SPB−100:大塚化学社製のホスファゼン化合物〔前記一般式(3)におけるR1及びR2がいずれもフェニル基、kが3以上〕
(2)H42M:昭和電工社製の水酸化アルミニウム(粒子径:1.5μm)
【0043】
【表1】

【0044】
なお、難燃剤として水酸化アルミニウムを用いる場合、その配合量は無機フィラーの中に入れる。
第1表から分かるように、実施例のすべてにおいて、シート特性、溶融時の流動性、難燃性、反りの各項目が良好である。これに対し、比較例1のように(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いないものや、比較例2の(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂と(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂の質量比(A)/(B)が10/90〜30/70の範囲外であるものはシート特性が、比較例3のように軟化点が70℃を超えるもの、比較例4のように無機フィラーが組成物全体の50〜80質量%の上限値より多いものは、溶融時の流動性が劣っており、比較例5のように下限値より少ないものは、反り量の点で劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のシート状樹脂組成物は、電子部品を封止するための樹脂シートであって、電子素子の実装基板と、これに実装された電子素子を備えた回路部品装置に、簡易な操作により回路部品を覆うように被せることができ、かつ加熱することでその硬化物に反りやねじれが少なく、難燃性に優れた、封止されてなる回路部品を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、(B)軟化点が70℃以下の固形状多官能エポキシ樹脂、(C)エポキシ樹脂用硬化剤、(D)無機フィラー及び(E)難燃剤を必須成分として含むシート状樹脂組成物であって、前記(A)/(B)質量比が10/90〜30/70であり、かつ前記(D)含有量が組成物全量に基づき50〜80質量%であることを特徴とするシート状樹脂組成物。
【請求項2】
(B)が、下記式(1)
【化1】

(式中、mは1〜4の整数を示す)
で表されるビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂の混合物である請求項1に記載のシート状樹脂組成物。
【請求項3】
(E)難燃剤が、ホスファゼン化合物である請求項1又は2に記載のシート状樹脂組成物。
【請求項4】
(D)が、質量平均粒子径4〜30μmの無機フィラーである請求項1〜3のいずれかに記載のシート状樹脂組成物。
【請求項5】
無機フィラーが球状シリカである請求項1〜4のいずれかに記載のシート状樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシート状樹脂組成物によって封止されてなることを特徴とする回路部品。

【公開番号】特開2011−246596(P2011−246596A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120879(P2010−120879)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】