説明

シート状物

【課題】本発明によれば、立毛による優美な外観を有し、かつ加水分解性、耐久性などの耐久性にも優れた立毛調皮革様シート状物を提供することができる。
【解決手段】単繊維繊度0.5dtex以下の極細繊維が絡合してなる不織布と、その内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーからなるシート状物において、該ポリウレタンが特定の化学式(1)および(2)で示されるカーボネート構造を有することを特徴とするシート状物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、特に立毛調皮革様シート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維からなる基材にポリウレタン樹脂を含浸したシート状物の表面をサンドペーパーなどを用いて研削し、繊維を起毛させることによって、スエードやヌバックライクの立毛調皮革様シート状物を得ることは広く知られている。目的とする皮革様シート状物の特性は、繊維からなる基材とポリウレタン樹脂の組み合わせにより任意に幅広く設計ができる。これらのポリウレタン樹脂として、例えば、ポリテトラメチレングリコール、有機ジイソシアネート、グリコール鎖伸長剤を用いたポリウレタン樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1によれば、該ポリウレタン樹脂を用いることによって、背広などに用いられる高級ウール生地と比べても見劣りしない極めて柔軟な風合いを有する人工皮革状物を得ることが可能となったと記載されている。
【0003】
立毛調皮革様シートは、天然皮革に酷似した外観や表面を有し、かつ天然皮革にはない均一性や染色堅牢性などの長所が認められ、衣料のみならず、近年、ソファーなど家具の表皮、自動車用のシート表皮など5年〜10年といった長期にわたって使用される用途に広がりを見せている。
【0004】
このため、特許文献1に記載のようなポリテトラメチレングリコールを用いたポリエーテル系ポリウレタン樹脂では、紫外線や熱によって容易に劣化するために、使用の過程で表面繊維のモモケや脱落、または毛玉が生じてしまい長期の使用に耐え得ないという問題があった。また、ポリエステル系のポリウレタン樹脂も皮革様シート状物によく用いられるポリウレタン樹脂ではあるが、紫外線などによる耐光性は良好であるもののエステル結合が加水分解によって劣化するために、長期の使用において表面繊維のモモケや毛玉が発生するといった同様の問題があった。
【0005】
一方、ポリカーボネートポリオールと脂環式ポリイソシアネートと芳香族ポリイソシアネートを反応して得られるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が、家具用、車両用シートなど高度の耐久性を有する用途に有用なポリウレタン樹脂であることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。ここで、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂として、ポリヘキサメチレンカーボネートを用いたポリウレタンが開示されているが、このポリウレタンを極細繊維が絡合してなる不織布へ含浸樹脂として用いた場合は、シート状物の風合いがプラスチック様で粗硬なものとなり、サンドペーパーなどによって表面の繊維を起毛させた場合は、ポリウレタンが硬すぎることによって、表面の立毛が短い粗悪な表面となってしまい、優美な立毛を有する良好な品位を得ることが極めて困難であった。
【0006】
立毛品位と耐光性や耐加水分解性などの耐久性を両立させることを目的として、ポリカーボネートジオール、主にはポリヘキサメチレンカーボネートジオールを30〜90重量%としてポリエーテルやポリエステルジオールを併用したポリカーボネート/ポリエーテル系ポリウレタン樹脂やポリカーボネート/ポリエステル系ポリウレタン樹脂を用いた立毛調皮革様シート状物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、ポリカーボネートジオールの比率を70重量%以下とした場合は、ポリエーテル成分もしくはポリエステル成分の劣化により耐久性が不充分なものとなり、一方、ポリカーボネートジオールの比率を70重量%以上とした場合は、ポリウレタンが硬くなりすぎ、サンドペーパーなどによって表面を研削した際に表面の立毛が短い粗悪なものとなり、立毛品位と耐久性を共に満足する立毛調皮革様シート状物を得ることが困難であった。
【0007】
また、繊維質基材の上に樹脂層が塗布もしくは張り合わせされた皮革様シート、いわゆる合成皮革において、耐久性を向上させる目的で樹脂層にポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることは知られている。また、合成皮革の主には風合い改良させる目的で、この樹脂層に用いられるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂について種々の提案がなされている。
【0008】
例えば、1,6−ヘキサンジオールと1,5−ペンタンジオールから誘導される共重合ポリカーボネートジオールを用いたポリウレタン樹脂や、1,6−ヘキサンジオールと1,4−ブタンジオールから誘導される共重合ポリカーボネートジオールを用いたポリウレタン樹脂(例えば、特許文献4参照)、2−メチル−1,8−オクタンジオールから誘導されるポリカーボネートジオールを用いたポリウレタン樹脂(例えば、特許文献5参照)、炭素数5〜6のアルカンジオールとジカンボン酸から誘導されるポリエステルジオールと炭素数8〜10のアルカンジオールから誘導されるポリカーボネートジオールを併用したポリエステル/ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(例えば、特許文献6参照)、炭素数8〜10のアルカンジオールから誘導されるポリカーボネートジオールとポリエーテルジオールを併用したポリカーボネート/ポリエーテル系ポリウレタン樹脂が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0009】
これらのポリウレタン樹脂を、極細繊維が絡合してなる不織布へ含浸樹脂として、不織布の内部空間に存在させたシート状物、特に表面をサンドペーパーなどによって研削して表面繊維を起毛させた立毛調皮革様シート状物に適用した場合、例えば特許文献4に記載の炭素数4〜6の共重合ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂では、サンドペーパーによる研削が可能なほどの柔軟化効果は得ることができずに、表面の立毛が短い粗悪な表面となってしまうため、優美な立毛を有する良好な品位を得ることが極めて困難であった。また、特許文献5に記載の2−メチル−1,8−オクタンジオールから誘導されるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、長鎖アルキレンジオールを用いているため不織布に含浸後、湿式凝固させた場合、凝固速度が著しく速く、不織布内部のポリウレタンの発泡が大きな粗雑なものとなり、また一部発泡不良を生じる結果、サンドペーパーによる研削を行った場合に表面の立毛の長さに斑が生じた非常に立毛品位の粗悪なものしか得られない問題があった。また、得られたシート状物の表面をブラシなどで擦過させると繊維の脱落が多く、耐摩耗性において問題があった。特許文献6、7に記載のポリウレタン樹脂は、ポリエステルジオールやポリエーテルジオールを併用している点において、耐加水分解性もしくは耐光性の観点から、立毛調皮革様シート状物の長期の使用における耐久性、特に表面繊維のモモケや毛玉が発生する問題を改善するには至らない。
【0010】
さらには、特許文献4〜7に記載の技術は、主に基材上に設けられたポリウレタン樹脂層のぬめり感のごとき風合いや表面平滑性、べたつきや割れといった表面物性の改質を目的としたものであり、ポリウレタン樹脂を不織布内部空間に存在させた場合のサンドペーパーなどによる研削性の向上、それによって発現する好ましい極細繊維の立毛長、立毛による優美な外観やしなやかな表面タッチ、柔軟な風合いというものは何ら考慮されていなかった。
【0011】
一方、インテリア用品、カーシート用品のように人間の体に直接触れるもの、接触した状態で使用するものについては頭部、背中、腕等から分泌される汗や脂による劣化も考慮しなければならず、従来はJIS L0848(2005年版)で規定される人工汗液を用いて耐汗劣化性を評価してきた。しかし、この評価方法では劣化が少ないにも関わらず、実使用において明らかに汗によると思われる劣化例がいくつか報告されており、実際の使用条件をより反映した条件下でも高い耐久性を持ったシート状物の開発が要求されるようになってきた。このため、例えば、耐光性、耐加水分解性に加え、耐オレイン酸性の高いポリウレタンとして、ポリカーボネートを主体とする高分子ジオールとポリエチレングリコールを主体とするポリマージオールを共重合したポリウレタンが提案されている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、このポリウレタンを極細繊維が絡合してなる不織布へ含浸樹脂として用いた場合、ポリエチレングリコールを主体とするポリマージオールを使用しているため、耐光性に劣ったものになるという問題があった。また、オレイン酸単体を用いた評価では、実使用時の劣化と十分な相関がとれないという問題があった。
【0012】
さらには、均一微多孔で柔軟性に富んだ多孔質シート材を提供することを目的として、炭素数が4〜6のアルカンジオールからなるポリカーボネートジオールと、炭素数が7〜12のアルカンジオールからなるポリカーボネートジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させてなる合成皮革用ポリウレタン樹脂が提案されている(例えば、特許文献9参照)。しかしながら、2種類のポリカーボネートジオールがともに側鎖を有する場合や、一方のポリカーボネートジオールのみが側鎖を有する場合でもポリカーボネートジオール分子中の分岐を有する炭素濃度が高すぎる場合には、耐加水分解性、耐光性といった耐久性が劣ったものになったり、さらにはシートの風合いが過度に柔軟になり、シート状物の物性が劣ったものになるという問題があった。
【特許文献1】特開昭59−192779号公報
【特許文献2】特開平3−244619号公報
【特許文献3】特開2002−30579号公報
【特許文献4】特開平5−5280号公報
【特許文献5】特開平2−33384号公報
【特許文献6】特開平4−300368号公報
【特許文献7】特開平5−9875号公報
【特許文献8】特開平5−25781号公報
【特許文献9】特開2005−171226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の背景に鑑み、柔軟性、風合い等の感性面に優れ、かつ、耐光劣化性、耐加水分解性、耐汗劣化性に優れ、長期の使用においても繊維の脱落やモモケ、毛玉の発生が少ないシート状物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)単繊維繊度0.5dtex以下の極細繊維が絡合してなる不織布と、その内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーからなるシート状物において、該ポリウレタンが下記一般式(1)および(2)で示されるカーボネート構造を有することを特徴とするシート状物。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、RおよびRは炭素数8〜10の直鎖脂肪族炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。また、xおよびyは正の整数であり、RとRが異なる場合は、ブロック共重合もしくはランダム共重合である)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、RおよびRは炭素数4〜6の脂肪族炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。また、wおよびzは正の整数であり、RとRが異なる場合は、ブロック共重合もしくはランダム共重合である。また、RとRのいずれか少なくとも一方が、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基である)
(2)前記ポリウレタンに含有されるR、R、RおよびRの総モル数に対し、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基の割合が10%以上50%以下であることを特徴とする前記(1)に記載のシート状物。
【0019】
(3)前記ポリウレタンのゲル化点が2.5ml以上6ml以下であることを特徴とする前記(1)〜(2)のいずれかに記載のシート状物。
【0020】
(4)前記シート状物を下記条件Aで強制劣化処理を行った後、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験(10,000回摩擦)を行い、該摩耗試験の前後における外観変化が、JIS L1076(2005年版)に規定される判定基準で3号以上であり、かつ、下記条件Bで強制劣化処理を行った後、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験(10,000回摩擦)を行い、該摩耗試験の前後における外観変化が、JIS L1076(2005年版)に規定される判定基準で3号以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のシート状物。
[強制劣化処理条件A]:下記組成の人工皮脂をシート重量に対し8重量%付与した後、JIS L0843 B−6(2005年版)規定のキセノンアーク灯式耐光性試験機で144時間光照射
[強制劣化処理条件B]:下記組成の人工皮脂をシート重量に対し8重量%付与した後、温度70℃、相対湿度90%の雰囲気に5週間放置
人工皮脂組成:ステアリン酸(15重量部)
オレイン酸(15重量部)
牛脂極度硬化油(15重量部)
オリーブ油(15重量部)
セチルアルコール(15重量部)
パラフィン(15重量部)
コレステロール(5重量部)
(5)前記極細繊維が、ポリエステルからなることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のシート状物。
【0021】
(6)前記不織布は極細繊維の繊維束が絡合してなるものであって、前記弾性樹脂バインダーが該極細繊維の繊維束の内部に実質的に存在しないものであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のシート状物。
【0022】
(7)前記弾性樹脂バインダーが、前記極細繊維の繊維束の最外周に位置する単繊維の少なくとも一部に接合していることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のシート状物。
【0023】
(8)前記極細繊維の繊維束内の単繊維の繊度CVが10%以下であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載のシート状物。
【0024】
(9)シート状物の少なくとも片面において前記極細繊維が立毛していることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載のシート状物。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、立毛による優美な外観と天然皮革のごとき適度な柔軟性および風合いを兼ね備え、かつ耐加水分解性、耐光性、耐汗劣化性に優れ、長期の使用においても繊維の脱落やモモケ、毛玉の発生が少ないシート状物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、優美な外観と天然皮革のごとき適度な柔軟性および風合いを兼ね備え、かつ耐加水分解性、耐光性、耐汗劣化性といった耐久性に優れたシート状物について鋭意検討した結果、前記強制劣化条件を使用した評価によって、実使用時のシート劣化と対応がとれることを見出し、特定の組成を有するポリウレタンを使用することにより前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0027】
本発明のシート状物は、単繊維繊度0.5dtex以下の極細繊維が絡合してなる不織布と、ポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーからなるものである。
【0028】
不織布を構成する極細繊維の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミドなど、溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。なかでも、強度、寸法安定性、耐光性の観点からポリエステルを用いることが好ましい。また、不織布には異なる素材の極細繊維が混合されていてもよい。
【0029】
不織布を構成する極細繊維の単繊維繊度は、シートの柔軟性や立毛品位の観点から0.001dtex以上0.5dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.3dtex以下、さらに好ましくは0.2dtex以下である。一方、染色後の発色性やバフィングによる立毛処理時の束状繊維の分散性、さばけ易さの観点からは、0.005dtex以上であることが好ましく、より好ましくは0.01dtex以上である。
【0030】
なお、本発明でいう単繊維繊度は、以下の方法によって求めるものである。すなわち、得られたシート状物を厚み方向にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の100カ所の極細繊維の繊維径を測定してこの平均値を算出し、極細繊維に用いられている熱可塑性樹脂の比重から換算して求められるものである。 なお、極細繊維が異形断面の場合は、その単繊維の断面積を測定し、その面積と同等の面積を有する円の直径を算出し、これをその極細繊維の繊維径とする。また、ここで得られた繊維径および極細繊維に用いられている熱可塑性樹脂の比重から単繊維繊度を求めることができる。
【0031】
極細繊維を得る手段としては、極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発生型繊維をあらかじめ絡合した後に繊維の細分化を行うことにより、極細繊維が束状で絡合してなる不織布を得ることができ、極細繊維が束状に絡合していることによりシートの強度を得ることができる。
【0032】
極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分・島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。なかでも、海島型複合繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち繊維束の内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シートの柔軟性や風合いの観点からも好ましい。
【0033】
海島型複合繊維には、海島型複合用口金を用い海・島の2成分を相互配列して紡糸する高分子相互配列体方式と、海・島の2成分を混合して紡糸する混合紡糸方式などを用いることができるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点で高分子相互配列体方式による海島型複合繊維がより好ましい。
【0034】
特に、繊度の均一性に関して、繊維束内の繊度CVが10%以下であることが好ましい。
本発明でいう繊度CVとは、繊維束を構成する繊維の単繊維繊度標準偏差を束内平均繊度で割った値を百分率(%)表示したものであり、以下の方法によって求めるものである。すなわち、シート状物を厚み方向にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、束状繊維の1つの束内を構成する極細繊維の繊維径を測定し、各極細繊維の繊維径と繊維成分の比重から各単繊維の繊度を算出する。同様の測定を5つの束状繊維について行い、これらから単繊維繊度の平均値および標準偏差値を算出する。該平均値を平均繊度とし、該標準偏差値を該平均値で割った値を百分率(%)で表したものを繊度CVとする。なお、繊度CVの値が小さいほど繊度はより均一であり、本発明において繊度CVは10%以下であることが好ましい。また、下限値は特に限定されないが、通常0.1%以上となる。繊度CVを10%以下とすることで、シート表面の立毛の外観が優美で、また染色も均質で良好なものとすることができる。
【0035】
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸などを用いることができる。
【0036】
海成分を溶解する溶剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの場合は、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤、共重合ポリエステル、ポリ乳酸の場合は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができ、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、窄液を行うことによって除去することができる。
【0037】
また、極細繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
【0038】
本発明のシート状物を構成する不織布は、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、風合いや品位を重視する場合には、短繊維不織布が好ましい。また、不織布の内部には、強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入してもよい。
【0039】
繊維を絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチにより絡合させる方法を採用することができる。
【0040】
本発明で、弾性樹脂バインダーの主成分として用いるポリウレタンは、下記一般式(1)および(2)で示されるカーボネート構造を有することが重要である。
【0041】
【化3】

【0042】
(式中、RおよびRは炭素数8〜10の直鎖脂肪族炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。また、xおよびyは正の整数であり、RとRが異なる場合は、ブロック共重合もしくはランダム共重合である)
【0043】
【化4】

【0044】
(式中、RおよびRは炭素数4〜6の脂肪族炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。また、wおよびzは正の整数であり、RとRが異なる場合は、ブロック共重合もしくはランダム共重合である。また、RとRのいずれか少なくとも一方が、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基である)
これらの構造を同時に有することにより、ポリウレタンの結晶性が適度に阻害され、シート上をサンドペーパーなどによって研削するに適した硬さおよび強度の維持されたシート状物を得ることができるものである。
【0045】
上記一般式(1)に示されるRとR、上記一般式(2)に示されるRとRはそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、シート状物の適度な風合い、物性を維持するため、それぞれが異なるものであることが好ましく、さらには、RとRのいずれか一方がメチル基が分岐した脂肪族炭化水素基であり、他方が直鎖脂肪族炭化水素であることが好ましい。
【0046】
また、本発明では、上記一般式(1)および(2)に含有されるR、R、RおよびRの総モル数に対し、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基のモル数の割合が10%以上50%以下であることが好ましい。メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基のモル数比率が10%未満の場合、シート状物の風合いが硬くなる傾向であり、サンドペーパーなどによって表面の繊維を起毛させた場合は、ポリウレタンが硬すぎることによって、表面の立毛が短い粗悪な表面となる方向であるため好ましくない。逆に、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基のモル数比率が50%を超える場合、ポリウレタンが過度に柔軟になり、得られたシート状物の表面をブラシなどで擦過させると繊維の脱落が多く、耐摩耗性が悪化したり、また、耐加水分解性、耐光性などの耐久性が悪化する方向であるため好ましくない。
【0047】
なお、ポリウレタンに含有されるメチル基が分岐した脂肪族炭化水素のモル数の割合は、シート状物をN,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶剤に浸漬してシート状物からポリウレタンを抽出し、抽出されたポリウレタンについてNMR測定を実施して直鎖メチレン構造のピークと分岐メチル基構造のピークを比較することによって算出される。また、ポリウレタンの分子構造解析については、必要に応じて加熱したN,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶剤中でポリウレタンを分解し、その分解物をNMR等で解析することによって判断できる。
【0048】
かかるポリウレタンは、より具体的には前記一般式(1)で示されるカーボネート骨格を有する分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートジオール(A)と、前記一般式(2)で示されるカーボネート骨格を有する分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートジオール(B)と、有機ジイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られる構造を有するものであることが好ましい。
【0049】
本発明でいうカーボネート骨格とは、カーボネート結合を介して連結される高分子鎖を形成するものであり、ポリカーボネートジオールとは、当該高分子鎖の両末端にそれぞれ1個の水酸基を有するものである。
【0050】
ポリカーボネートジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0051】
前記一般式(1)で示される炭素数8〜10の直鎖脂肪族炭化水素基を有するポリカーボネート骨格を有したポリカーボネートジオールを得るアルキレングリコールには、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールがある。これらを単独で用いてもよいが、前述のとおり2種類を共重合しようすることが好ましい。特に好ましくは、1,8−オクタンジオール/1,9−ノナンジオールの組み合わせ、あるいは1,9−ノナンジオール/1,10−デカンジオールの組み合わせである。1,8−オクタンジオールと1,10−デカンジオールを組み合わせた場合、ポリウレタンの結晶性が高くなり、シート状物を研削して立毛調皮革様シート状物を得る場合、立毛が短く粗悪な表面となる傾向にあるため好ましくない。
【0052】
前記一般式(2)で示される炭素数4〜6の炭化水素基を有するポリカーボネート骨格を有したポリカーボネートジオールを得るアルキレングリコールとしては、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどの分岐アルキレングリコールなどを用いることができる。特に好ましくは、1,6−ヘキサンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどから得られる直鎖アルキレングリコールと分岐アルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネートジオールが、立毛調皮革様シート状物としたときの柔軟性とサンドペーパーなどによる研削しやすさから良好な立毛品位を得られる傾向にあり好ましい。エステル交換反応に用いられる炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。
【0053】
ポリウレタンの合成に用いられるポリマージオールは、耐加水分解性や耐光性といった耐久性をよくする観点から、ポリカーボネートジオールのみを用いることが好ましく、ポリカーボネートジオール以外のポリマージオール、例えばポリエステルジオール、ポリラクトンジオール、ヒマシ油系ポリオール、ポリエーテルジオール、ポリエステル・エーテルジオールなどは用いない方が好ましい。
【0054】
ポリカーボネートジオールの数平均分子量(Mn)としては、500〜3,000が好ましく、より好ましくは1,500〜2,500である。数平均分子量を500以上とすることで、風合いが硬くなるのを防ぎ、3,000以下とすることで、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0055】
ポリウレタンの合成に用いる有機ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、パラキシレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートを挙げることができる。中でも、得られるポリウレタンの強度、耐熱性など耐久性の観点から、芳香族ジイソシアネート、特に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0056】
ポリカーボネートジオールと有機ジイソシアネートとの比率としては、両者のモル比率が1:2〜1:5となるようにするのが好ましい。またこの範囲内において、得られるポリウレタンの柔軟性を重視する場合には有機ジイソシアネートの比率を低くし、強度、耐熱性、耐久性などを重視する場合には有機ジイソシアネートの比率を多くすることによって調整が可能である。
【0057】
ポリウレタンの合成に用いる鎖伸長剤としては、活性水素を2個以上有する化合物を用いることができ、有機ジオール、有機トリオール等のグリコール系、有機ジアミン、トリアミン等のアミン系、ヒドラジン誘導体などを用いることができる。
【0058】
有機ジオールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、メチルペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコールなどの脂環式ジオール、キシレングリコールなどの芳香族ジオールを挙げることができる。
【0059】
有機ジアミンの例としては、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシレンジアミン、フェニルジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどを挙げることができる。
【0060】
ヒドラジン誘導体の例としては、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジドなどを挙げることができる。
【0061】
ポリウレタンの耐加水分解性を重視する場合は、有機ジオールを用いることが好ましく、中でもポリウレタンの強度や耐熱性、耐黄変性を鑑みるとアルキル鎖の炭素数が2〜6の脂肪族ジオール、特にエチレングリコールが好ましい。
【0062】
また、ポリウレタンの耐熱性を重視する場合は、有機ジアミンを用いることが好ましく、中でも4,4’−ジアミノジフェニルメタンのような芳香族ジアミンや、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートに水を添加して4,4’−ジアミノジフェニルメタンに変換して用いることが好ましい。
【0063】
ポリウレタンの合成には、触媒として、例えば、トリエチルアミン、テトラメチルブタンジアミンなどのアミン類、酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、チタンテチライソプロポキサイド、オクチル酸スズなどの金属化合物などを用いてもよい。
【0064】
ポリウレタンの重量平均分子量(Mw)としては、100,000〜300,000が好ましく、より好ましくは150,000〜250,000である。重量平均分子量(Mw)を、100,000以上とすることにより、製膜した膜の膜強度が向上し、耐摩耗性が良好となる。また、300,000以下とすることで、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて不織布への含浸を行いやすくすることができる。なお、ポリウレタンの重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものであり、例えば以下の条件で測定される。
機器 :GPC測定機 HLC−8020(東ソー株式会社製)
カラム:TSK gel GMH−XL(東ソー株式会社製)
溶媒 :N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)
標準試料:ポリスチレン(TSK standard polystyrene; 東ソー株式会社製)
温度:40℃
流量:1.0ml/分
本発明で弾性樹脂バインダーの主成分として用いるポリウレタンは、ゲル化点が2.5ml以上6ml以下であることが好ましい。より好ましくは、3ml以上5ml以下の範囲である。本発明でいうゲル化点とは、ポリウレタン樹脂1重量%のDMF溶液100gを攪拌しながら、この溶液中に蒸留水を滴下し、25±1℃の温度条件でポリウレタンの凝固が開始して微白濁した時の水滴下量の値である。このため、測定に用いるDMFは水分0.03%以下のものを使用する必要がある。また、シート状物中に存在するポリウレタンのゲル化点は、シート状物からDMFを用いてポリウレタンを抽出し、ポリウレタン濃度が1重量%となるように調整することによって測定することができる。なお、ポリウレタンDMF溶液が予め微白濁している場合、ポリウレタンの凝固が開始し始めて白濁程度が変化した時の水滴下量の値を測定することによりゲル化点を測定することができる。
【0065】
このゲル化点は、ポリウレタンDMF溶液を用いてポリウレタンを湿式凝固させる際の水分許容度を示すものであり、ゲル化点が低いものは凝固速度が速く、ゲル化点が高いものは凝固速度が遅い傾向にある。
【0066】
ゲル化点が2.5ml未満の場合は、ポリウレタン樹脂を湿式凝固させる際に、凝固速度が速すぎる結果、不織布内部空間に存在するポリウレタンの発泡が大きな粗雑なものとなり、また一部発泡不良を生じる結果、サンドペーパーによりシート状物の表面を研削した場合に表面の立毛の長さに斑が生じた非常に立毛品位の粗悪なものとなる。また、ポリウレタン樹脂を付与する工程において、周囲の空気中に含まれる水分によってポリウレタン溶液が容易にゲル化しやすいため、ポリウレタンの付きムラが生じたり、ゲル化したポリウレタン樹脂によって配管が詰まるなどといったトラブルが生じやすくなるため好ましくない方向である。一方、ゲル化点が6mlを越える場合は、ポリウレタン樹脂を湿式凝固させる際に、凝固速度が遅すぎる結果、不織布内部空間に存在するポリウレタンの発泡が小さく、ポリウレタンが緻密なものとなるため、ポリウレタン膜が硬くなり、サンドペーパーなどによりシート状物の表面を研削した場合に、ポリウレタンの研削を行いにくく、表面の立毛が非常に短く、品位の粗悪なものとなる傾向となるため好ましくない。
【0067】
本発明で用いるポリウレタンのゲル化点を2.5ml以上6ml以下とするには、ポリウレタンの合成に用いる有機ジイソシアネート、鎖伸長剤の種類や量にもよるが、前記一般式(1)で示されるポリカーボネート骨格を有した分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートジオールと、前記一般式(2)で示されるポリカーボネート骨格を有した分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートジオールとの重量比率で調整が可能である。目的とするゲル化の範囲において、ゲル化点を低く抑えるには、前記一般式(1)で示されるポリカーボネート骨格を有した分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートジオールの比率を高くし、逆にゲル化点を高くするには、前記一般式(1)で示されるポリカーボネート骨格を有した分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートジオールの比率を低くすることによって調整できる。
【0068】
本発明における弾性樹脂バインダーはポリウレタンを主成分とする。ここで、主成分とするとは、弾性樹脂バインダー全体に占める重量比率が50%以上であることをいう。バインダーとしての性能や耐加水分解性や耐光性といった耐久性、風合いを損なわない範囲でポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが含まれていてもよく、各種の添加剤、例えばカーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系、シリコーン系、無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系、リン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系、ベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、柔軟剤、撥水剤、凝固調整剤、染料などを微量含有していてもよい。
【0069】
また、本発明は、繊度0.5dtex以下の極細繊維と前記ポリウレタンとからなるシート状物であるが、さらに、該シート状物を下記条件Aで強制劣化処理を行った後、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験(10,000回摩擦)を行い、該摩擦試験の前後における外観変化が、JIS L1076(2005年版)に規定される判定基準で3号以上であり、かつ、下記条件Bで強制劣化処理を行った後、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験(10,000回摩擦)を行い、該摩擦試験の前後における外観変化が、JIS L1076(2005年版)に規定される判定基準で3号以上であることを特徴とするものである。なお、ここで外観評価はピリング判定標準写真2に基づき行うものである。
[強制劣化処理条件A]:下記組成の人工皮脂をシート重量に対し8重量%付与した後、JIS L0843 B−6(2005年版)規定のキセノンアーク灯式耐光性試験機で144時間光照射
[強制劣化処理条件B]:下記組成の人工皮脂をシート重量に対し8重量%付与した後、温度70℃、相対湿度90%の雰囲気に5週間放置
人工皮脂組成:ステアリン酸(15重量部)
オレイン酸(15重量部)
牛脂極度硬化油(15重量部)
オリーブ油(15重量部)
セチルアルコール(15重量部)
パラフィン(15重量部)
コレステロール(5重量部)
これまで、シート状物の耐久性を評価する方法としては、シート状物を単体で、あるいはJIS L0848(2005年版)で規定される人工汗液を付与した後、強制加水分解処理、強制光劣化処理を行い、この物性を測定することは行われてきた。しかしながら、かかる評価手段と実際に使用された場合の耐久性の間に相関はみられず、これら処理を行った場合の物性の低下は小さくても、シート状物を実際に使用した場合の耐久性が不十分な場合があった。
【0070】
そこで本発明においては、前記人工皮脂を付与した後、強制劣化処理することにより、実際に使用した場合の耐久性と、より高い対応がとれることを究明したものであり、しかも、本発明のポリウレタンを用いた場合、このような強制劣化後に前記摩耗試験を行った場合に外観変化が小さいシート状物が、実際の使用においても優れた耐久性を示すことを見出したものである。
【0071】
また、本発明のシート状物において弾性樹脂バインダーは、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布の内部空間に存在するものであるが、極細繊維の繊維束内部には実質的に存在しないことが好ましい。繊維束の内部にまで弾性樹脂バインダーが存在すると、繊維束内部の空隙によって得られるシートの良好な風合いを得難くなる傾向であり、各極細繊維と接着して存在することになるため、サンドペーパーなどによる研削の際、シート表面に存在する繊維の切断が著しく、目的とする立毛長、それによる良好な品位が得られにくい。なお、ここでいう弾性樹脂バインダーが繊維束内部に実質的に存在しないとは、シート状物の厚み方向の断面をSEMにて観察、倍率2000倍で撮影し、繊維束の内部をランダムに50箇所以上観察した際に、その半数以上の部位においてバインダーが観察されないことをいう。
【0072】
ポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーが不織布の内部空間には存在するが極細繊維の繊維束内部には実質的に存在しない形態を得る方法としては、ポリウレタンをジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの溶剤により溶液とし、
(A)前述のような極細繊維発生型の海島型複合繊維が絡合した不織布に、前記の本発明のポリウレタンの溶液を含浸し、水もしくは有機溶媒水溶液中で凝固させた後、海島型複合繊維の海成分を、ポリウレタンは溶解しない溶剤で溶解除去する方法、
(B)前述のような極細繊維発生型の海島型複合繊維が絡合した不織布に、鹸化度が好ましくは80%以上のポリビニルアルコールを付与し繊維の周囲の大部分を保護した後に、海島型複合繊維の海成分を、ポリビニルアルコールは溶解しない溶剤で溶解除去し、次いで前記した本発明のポリウレタンの溶液を含浸し、水もしくは有機溶媒水溶液中で凝固させた後、ポリビニルアルコールを除去する方法、
などを好ましく用いることができる。
【0073】
また、不織布内部において弾性樹脂バインダーが存在する形態としては、極細繊維の繊維束の最外周に位置する単繊維と少なくとも一部が接合している状態であることが、繊維の脱落、モモケが少なく、かつ良好な風合いが得られるために好ましい。この形態は、上記(B)の方法によって得ることができる。すなわち、ポリビニルアルコールが極細繊維束の外周の大半を保護しているため、繊維束内部へのポリウレタンの侵入を防ぎ、部分的にポリビニルアルコールの保護がない繊維束の外周部にはポリウレタンが接着することになる。
【0074】
本発明のシート状物は、シート状物に占める弾性樹脂バインダーの比率が10重量%以上50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上35重量%以下である。10重量%以上とすることで、シート強度を得て、かつ繊維の脱落を防ぐことができ、50重量%以下とすることで、風合いが硬くなるのを防ぎ、目的とする良好な立毛品位を得ることができる。
【0075】
本発明のシート状物は、最終的にはその少なくとも片面に極細繊維の立毛を有する立毛調皮革様シート状物として好適に用いることができるが、シート表面に立毛を形成するための起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いてシート表面を研削する方法などにより施すことができる。また、起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤や帯電防止剤を付与することは、優美な立毛が得られ、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくする傾向にあり好ましい形態である。
【0076】
ここで、シート状物は、起毛処理を行う前にシート厚み方向に半裁ないしは数枚に分割されて得られるものでもよい。
【0077】
これらシート状物、特にシートの少なくとも片面に極細繊維を起毛させて得られる立毛調皮革様シート状物は、優美な外観と天然皮革のごとき適度な柔軟性および風合いを兼ね備え、かつ耐加水分解性、耐光性、耐汗劣化性に優れ、家具、椅子、壁装や、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材などの用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[評価方法]
(1)ポリウレタンのゲル化点
シート状物をDMFに8時間浸漬してシート状物からポリウレタンを抽出後、得られたポリウレタンのDMF溶液の濃度を測定し、必要に応じてDMFを加えることで、ポリウレタン樹脂濃度1重量%のDMF溶液を調液した。ポリウレタン樹脂濃度1重量%のDMF溶液100gを攪拌しながら、この溶液中に蒸留水を滴下し、25±1℃の温度条件でポリウレタンの凝固が開始して微白濁した時の水滴下量の値を測定した。なお、測定には水分0.03%以下のDMFを使用した。また、ポリウレタンDMF溶液が予め微白濁している場合は、ポリウレタンの凝固が開始し始めて白濁程度が変化した時の水滴下量の値をゲル化点とした。
【0079】
(2)ポリウレタンに含有されるメチル基が分岐した脂肪族炭化水素のモル数の割合
シート状物をDMF等の有機溶剤に浸漬してシート状物からポリウレタンを抽出し、抽出されたポリウレタンについてNMR測定を実施して直鎖メチレン構造のピークと分岐メチル基構造のピークを比較することによって算出した。
【0080】
(3)外観品位
得られた立毛調皮革様シート状物の表面品位は目視による官能評価にて下記の様に評価した。
◎ :立毛長・繊維の分散状態共に非常に良好である。
○ :立毛長・繊維の分散状態共に良好である。
× :立毛長は良好であるが、繊維の分散が不良である。
×× :立毛長が短く不良である。
×××:立毛がほとんど無く著しい不良である。
【0081】
(4)単繊維繊度
シート状物を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の100カ所の極細繊維の繊維径を測定してこの平均値を算出し、極細繊維に用いられている熱可塑性樹脂の比重から換算して求めた。なお、実施例では比重1.38g/cm3のポリエチレンテレフタレートを用いた。
【0082】
(5)繊度CV
シート状物を厚み方向にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、束状繊維の1つの束内を構成する極細繊維の繊維径を測定し、各極細繊維の繊維径と繊維成分の比重から各単繊維の繊度を算出した。同様の測定を5つの束状繊維について行い、これらから単繊維繊度の平均値および標準偏差値を算出した。該平均値を平均繊度とし、該標準偏差値を該平均値で割った値を百分率(%)で表したものを繊度CVとした。
【0083】
(6)ブラシ摩耗減量
長さ11mm、直径0.4mmのナイロン糸を100本そろえて束とし、この束を直径110mmの円内に6重の同心円状に97個配置した円形ブラシ(ナイロン糸9700本)を用い、荷重8ポンド(約3629g)、回転速度65rpm、回転回数45回の条件で、立毛調皮革様シート状物の円形サンプル(直径45mm)の表面を摩耗せしめ、その前後のサンプルの重量変化をブラシ摩耗減量とした。
【0084】
(7)耐久性(耐加水分解性)
得られた立毛調皮革様シート状物を、下記組成からなる人工皮脂のパークロロエチレン溶液に含浸し、遠心脱水機を用いて脱液し、次いで乾燥機を用いて80℃で1時間乾燥させた。ここで、人工皮脂付与量はシート重量に対して8重量%となるようにした。ここで得られたシートを、ダバイ・エスペック社製恒温恒湿槽を用い、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中に10週間放置する強制加水分解処理を施した。これを、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験機(James H.Heal&Co.製:Model 406)を使用して摩耗評価を行った。標準摩耗布としては、同社製のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数10,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視にて観察、評価した。評価は、JIS L1076(2005年版)記載のピリング判定標準写真2に基づいて行った。
人工皮脂組成:ステアリン酸(15部)
オレイン酸(15部)
牛脂極度硬化油(15部)
オリーブ油(15部)
セチルアルコール(15部)
パラフィン(15部)
コレステロール(5部)。
【0085】
(8)耐久性(耐光性)
得られた立毛調皮革様シート状物に対し、上記(5)と同様の方法で人工皮脂を付与した。ここで、人工皮脂付与量は、シート重量に対して8重量%となるようにした。次いで、スガ試験機器社製のキセノンウェザーメーターを用いて、JIS L0843 B−6(2005年版)に基づき、波長300〜400nmの光を150W/mの放射照度で144時間光照射する強制劣化処理を施した後、マーチンデール摩耗試験機(James H.Heal&Co.製:Model 406)を使用して摩耗評価を行った。標準摩耗布としては、同社製のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数10,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視にて観察、評価した。評価は、JIS L1076(2005年版)記載のピリング判定標準写真2に基づいて行った。
【0086】
[化学物質の表記]
実施例、比較例で用いた化学物質の略号の意味は以下の通りである。
MDI :4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
EG :エチレングリコール
DMF :N,N−ジメチルホルムアミド
PHC :1,6−ヘキサンジオールから誘導される数平均分子量2,000のポリカーボネートジオール
POC :1,8−オクタンジオールから誘導される数平均分子量2,000のポリカーボネートジオール
PMPC :3−メチル−1,5−ペンタンジオールから誘導される数平均分子量2,000のポリカーボネートジオール
PNC :1,9−ノナンジオールから誘導される数平均分子量2,000のポリカーボネートジオール
PDC :1,10−デカンジオールから誘導される数平均分子量2,000のポリカーボネートジオール
PHMPC−1:下記一般式(3)で示される1,6−ヘキサンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールから誘導され、これらのモル比率(a:b)が50:50である、数平均分子量2,000の共重合ポリカーボネートジオール
【0087】
【化5】

【0088】
(式中、a、bは正の整数であり、ランダム共重合体である。またRは
(CHもしくは(CH−CH(CH)−(CHのいずれかの脂肪族炭化水素基を示す)
PHMPC−2:上記一般式(3)で示される1,6−ヘキサンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールから誘導され、これらのモル比率(a:b)が10:90である、数平均分子量2,000の共重合ポリカーボネートジオール
PNDC :下記一般式(4)で示される1,9−ノナンジオールと1,10−デカンジオールから誘導され、これらのモル比率(c:d)が50:50である、数平均分子量2,000の共重合ポリカーボネートジオール
【0089】
【化6】

【0090】
(式中、c、dは正の整数であり、ランダム共重合体である。またRは(CHもしくは(CH10のいずれかの脂肪族炭化水素基を示す)
PTMG :数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール
PCL :数平均分子量2,000のポリカプロラクトンジオール。
【0091】
実施例1
(不織布の製造)
海成分としてポリスチレン、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用い、島数16島の海島型複合用口金を用いて、海成分55重量%、島成分45重量%の複合比率にて海島型複合繊維を紡糸した後、延伸、捲縮加工、カットして不織布の原綿を得た。
【0092】
得られた原綿を、クロスラッパーを用いてウエブとし、ニードルパンチ処理により不織布とした。
【0093】
この海島型複合繊維からなる不織布を、鹸化度87%のポリビニルアルコール10%水溶液に含浸した後、乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分であるポリスチレンを抽出除去し、乾燥を行って、単繊維繊度0.1dtexの極細繊維からなる不織布を得た。この不織布の単繊維繊度CVは7.3%であった。
【0094】
(ポリウレタンの製造)
ポリオールとしてPOCを50重量部とPHMPC−1を50重量部、有機ジイソシアネートとしてMDIを(ポリオール総量:MDI)のモル比率が1:3となるようにDMFを溶媒として冷却管付き四つ口セパラブルコルベンに仕込み、窒素雰囲気下で40〜60℃にて攪拌反応させ、さらに鎖伸長剤としてEGを、DMFにて希釈した状態で50〜60℃にて滴下反応させた後、DMFで徐々に希釈し、約10時間後に固形分25%のポリウレタン溶液を得た。得られたポリウレタンのゲル化点は4.2mlであった。
【0095】
(シート状物の製造)
前記の極細繊維からなる不織布を、前記のポリウレタンのDMF溶液の濃度を12%に調整したものに浸漬し、絞りロールにてポリウレタン溶液の付着量を調節した後、30℃のDMF濃度30%の水溶液中でPUを凝固せしめた。その後、90℃の熱水にてポリビニルアルコールおよびDMFを除去し、乾燥後、次いでシリコーン系滑剤(SH7036;東レ・ダウコーニング社製)の希釈液に浸漬、乾燥して、PU含有量が32重量%、シリコーン含有量が0.2%のシート状物を得た。このシート状物の片面を150メッシュ、次いで240メッシュのサンドペーパーを用いてバフィングし、分散染料にて染色を施して立毛調皮革様シート状物を得た。
【0096】
得られた皮革様シート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、ポリウレタンは極細繊維束の内部には実質的に存在しておらず、極細繊維束の最外周に位置する単繊維と部分的に接合していることが確認できた。また、単繊維繊度CVは7.5%であった。
【0097】
得られた立毛調皮革様シート状物は、繊維の立毛長、分散性が良好で、優美な外観を有したものであった。また、適度な反発性と充実感を有する良好な風合いを有していた。ブラシ摩耗減量は10mgと少なく、耐加水分解性、耐光性の評価結果は共に4号であり優れた耐久性能を有するものであった。
【0098】
実施例2〜5,比較例1〜4
ポリウレタンの製造において、ポリオールの組成および重量比をそれぞれ表1に示すものに変更した以外は実施例1と同様にして、立毛調皮革様シート状物を作製した。
【0099】
各実施例・比較例における皮革様シート状物の内部の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、ポリウレタンは極細繊維束の内部には実質的に存在しておらず、極細繊維束の最外周に位置する単繊維と部分的に接合していた。
【0100】
表1に各実施例・比較例のポリウレタンの組成およびゲル化点と、得られたシート状物の外観品位、ブラシ摩耗減量、耐久性能を示した。
【0101】
【表1】

【0102】
実施例1〜5のいずれの立毛調皮革様シート状物も、優美な外観品位を有し、かつブラシ摩耗減量および耐久性能においても優れたものであった。これに対し、比較例1〜3のシート状物は外観品位に劣るものであり、比較例4のシート状物については、ブラシ摩耗減量および耐久性が劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度0.5dtex以下の極細繊維が絡合してなる不織布と、その内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーからなるシート状物において、該ポリウレタンが下記一般式(1)および(2)で示されるカーボネート構造を有することを特徴とするシート状物。
【化1】

(式中、RおよびRは炭素数8〜10の直鎖脂肪族炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。また、xおよびyは正の整数であり、RとRが異なる場合は、ブロック共重合もしくはランダム共重合である)
【化2】

(式中、RおよびRは炭素数4〜6の脂肪族炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。また、wおよびzは正の整数であり、RとRが異なる場合は、ブロック共重合もしくはランダム共重合である。また、RとRのいずれか少なくとも一方が、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基である)
【請求項2】
前記ポリウレタンに含有されるR、R、RおよびRの総モル数に対し、メチル基が分岐した脂肪族炭化水素基の割合が10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシート状物。
【請求項3】
前記ポリウレタンのゲル化点が2.5ml以上、6ml以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のシート状物。
【請求項4】
前記シート状物を下記条件Aで強制劣化処理を行った後、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験(10,000回摩擦)を行い、該摩耗試験の前後における外観変化が、JIS L1076(2005年版)に規定される判定基準で3号以上であり、かつ、下記条件Bで強制劣化処理を行った後、JIS L1096(2005年版)に規定されるマーチンデール摩耗試験(10,000回摩擦)を行い、該摩耗試験の前後における外観変化が、JIS L1076(2005年版)に規定される判定基準で3号以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物。
[強制劣化処理条件A]:下記組成の人工皮脂をシート重量に対し8重量%付与した後、JIS L0843 B−6(2005年版)規定のキセノンアーク灯式耐光性試験機で144時間光照射
[強制劣化処理条件B]:下記組成の人工皮脂をシート重量に対し8重量%付与した後、温度70℃、相対湿度90%の雰囲気に5週間放置
人工皮脂組成:ステアリン酸(15重量部)
オレイン酸(15重量部)
牛脂極度硬化油(15重量部)
オリーブ油(15重量部)
セチルアルコール(15重量部)
パラフィン(15重量部)
コレステロール(5重量部)
【請求項5】
前記極細繊維がポリエステルからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシート状物。
【請求項6】
前記不織布は極細繊維の繊維束が絡合してなるものであって、前記弾性樹脂バインダーが該極細繊維の繊維束の内部に実質的に存在しないものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物。
【請求項7】
前記弾性樹脂バインダーが、前記極細繊維の繊維束の最外周に位置する単繊維の少なくとも一部に接合していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシート状物。
【請求項8】
前記極細繊維の繊維束内の単繊維の繊度CVが10%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のシート状物。
【請求項9】
シート状物の少なくとも片面において前記極細繊維が立毛していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のシート状物。

【公開番号】特開2008−106415(P2008−106415A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237757(P2007−237757)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】