説明

シームレスベルトの成形金型および製造方法

【課題】樹脂合流部におけるウエルドラインの発生を十分に抑制するシームレスベルトの成形金型および製造方法を提供すること。
【解決手段】内側マンドレル21、外側マンドレル31、および該内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間に溶融樹脂を注入するための樹脂注入口41を備え、内側マンドレルが外周面に、樹脂注入口から注入された溶融樹脂を内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間において周方向に拡散させるコートハンガー型樹脂流路51を有し、コートハンガー型樹脂流路51が、内側マンドレル21の軸を中心としたとき樹脂注入口41とは略反対側の位置方向Sのところで、該流路内の樹脂の流れをせき止めるための流れ止め部52を有し、該流れ止め部52の周方向長さtが内側マンドレルの外周長Lに対して0.050〜0.400%であるシームレスベルトの成形金型、および該金型を用いるシームレスベルトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を押出成形して環状シームレスベルトを製造するための成形金型、および方法に関する。本発明は、特に、電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置の中間転写ベルトなどに適した性能を備えたシームレスベルトを製造するための成形金型および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置では、感光体を均一に帯電させ、その上に画像を露光して画像潜像を形成する。そして形成された画像潜像をトナーで現像して画像のトナー像を形成し、これを中間転写ベルトに転写した上でさらに記録媒体に転写し、転写されたトナー像を定着装置により加熱定着処理して画像形成を行なう。
【0003】
中間転写ベルトは、画像形成処理の過程でトナー像を一時的に保持するため、画像品質に及ぼす影響が大きく、中間転写ベルトは、その帯電性能ばかりでなく、表面の平滑性、ベルトの厚みのムラなどの品質に対する要求水準が極めて高い。
【0004】
中間転写ベルトとしては、例えば非結晶性熱可塑性のポリカーボネイト樹脂や、結晶性質導電性熱可塑性のポリエチレンテレフタレートなどに導電性フィラーであるカーボンブラックを配合した材料を使用するものが提案されている(特許文献1)。
【0005】
中間転写ベルトは、シームレスベルト製造装置により製造されるのが一般的である。シームレスベルト製造装置としては、内側マンドレルと外側マンドレルとの間にシームレスベルトの厚みに相当する隙間を形成させた成形金型を使用するものが実用化されている。
【0006】
図6及び図7はコートハンガー溝と呼ばれる樹脂流路を備えた成形金型を示すものである。図6は外側マンドレル202の一部を省略して内側マンドレル201を主に示した模式的斜視図である。図7(A)は図6の成形金型210の断面模式図を示し、図7(B)は図7(A)の内側マンドレル201における上部円筒部201aの展開図を示す。図7(B)において、樹脂注入口203の位置方向をR、内側マンドレル201の軸を中心としたとき樹脂注入口203から約180度ずれた位置方向をSで示す。樹脂注入口203は樹脂注入管204に連結される。
【0007】
内側マンドレル201は、上部円筒部201a、円筒状樹脂フイルムを形成するダイランド部201c、及び上部円筒部201aとダイランド部201cとを繋ぐ円錐部201bから構成される。また、外側マンドレル202は、上部円筒部202a、円筒状の樹脂フイルムを形成するダイランド部202c、及び円錐部202bから構成され、それぞれは内側マンドレル201の上部円筒部201a、ダイランド部201c、及び円錐部201bに対応する位置に配置されている。
【0008】
内側マンドレル201の外径は外側マンドレル202の内径よりも小さく、特に、内側マンドレルのダイランド部201cと、外側マンドレルのダイランド部202cとの間には、製造するベルトの厚みよりも大きい隙間、例えば0.6〜1.0mm程度の隙間が形成されている。
【0009】
内側マンドレル201の上部円筒部201aには、その表面にコートハンガー溝と呼ばれる樹脂流路211が環形状で形成されている。樹脂流入口203から上記樹脂流路211に溶融樹脂を押し出すと、溶融樹脂は樹脂流路211から内側マンドレル201と外側マンドレル202との隙間を拡散しながら、フイルム形成部である前記ダイランド部201cと202cとの隙間を流下して金型から溶融状態の円筒状の樹脂として吐出され、成形金型の下側から連続的に押し出されてくる。
【0010】
成形金型から連続的に押し出されてきた溶融状態の円筒状の樹脂は、サイジング部(金型)で冷却されつつ引き取られることにより、所定の厚さの円筒状のフイルムが形成される。形成された円筒状のフイルムは、所定のサイズに輪切り切断され、継ぎ目のないベルト、即ちシームレスベルトが完成する。
【0011】
上記したコートハンガー溝211を備えた成形金型210では、樹脂注入口203の一方向Rとは略反対側の位置方向Sで、樹脂流路211を右側から流れて隙間を拡散しながら流下した樹脂と、樹脂流路211を左側から流れて隙間を拡散しながら流下した樹脂とが合流する。この部分を樹脂合流部と呼ぶが、形成された円筒状のフイルムには樹脂合流部にウエルドラインと呼ばれる線が形成される。
【0012】
このウエルドラインは、成形金型を右側から流れた樹脂と左側から流れた樹脂とが合流部で合流しても十分に混ざり合わないことが主たる原因となって形成されるものである。その結果、ウエルドラインの部分ではフイルムの厚みの均一性、表面の平滑性が劣り、さらには添加剤、特に導電性フィラーの分散均一性も劣り、中間転写ベルトとして要求される品質を十分に満たすものではない。例えば、上記したコートハンガーダイで製造したフィルムが有するウエルドライン部は、特に、厚みが円周上の他の箇所より5%乃至8%厚くなり、少なくともポリフェニレンサルファイドとナイロンを含む樹脂組成物を原料として用いた場合、厚みが均一なフィルムの形成は著しく困難であった。そのようなフィルムからなる中間転写ベルトを用いて画像形成を行うと、中間転写ベルト上の突起、或いは局所的抵抗・膜厚ムラによって、記録紙に転写後に画像ノイズとして現れたり、転写効率が低下したりした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2845059号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、樹脂合流部におけるウエルドラインの発生を十分に抑制するシームレスベルトの成形金型を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、厚みの均一性、表面平滑性の均一性、および表面抵抗の均一性に優れたシームレスベルトの成形金型、特に中間転写ベルトの成形金型を提供することを目的とする。
【0016】
本発明は、厚みの均一性、表面平滑性の均一性、および表面抵抗の均一性に優れ、画像ノイズの発生を十分に抑制するシームレスベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、内側マンドレル、該内側マンドレルに対して所定の間隔を隔てて同軸に配置された外側マンドレル、および該内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間に溶融樹脂を注入するための樹脂注入口を備え、内側マンドレルが外周面に、樹脂注入口に連通すると共に、樹脂注入口から注入された溶融樹脂を内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間において周方向に拡散させるコートハンガー型樹脂流路を有するシームレスベルトの成形金型であって、
コートハンガー型樹脂流路が、内側マンドレルの軸を中心としたとき樹脂注入口とは略反対側の位置方向のところで、該流路内の樹脂の流れをせき止めるための流れ止め部を有し、該流れ止め部の周方向長さtが内側マンドレルの外周長Lに対して0.050〜0.400%であることを特徴とするシームレスベルトの成形金型に関する。
【0018】
本発明はまた、上記シームレスベルトの成形金型を用いることを特徴とするシームレスベルトの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る成形金型を用いると、樹脂合流部においてウエルドラインと呼ばれる線が形成されることなく、厚みの均一性、表面平滑性の均一性、および表面抵抗の均一性に優れたシームレスベルト、例えば中間転写ベルトを得ることができる。
特に、ポリフェニレンサルファイドとナイロンを含む樹脂組成物を原料として用いる場合であっても、厚みが均一なシームレスベルト、例えば中間転写ベルトを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るシームレスベルトの成形金型を備えたシームレスベルト製造装置の構成の概略を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係るシームレスベルトの成形金型の一実施形態について、外側マンドレルの一部を省略して内側マンドレルを主に示した模式的斜視図である。
【図3】(A)は図2に示す成形金型の断面模式図において、内側マンドレルのみを見取り図で示した図を示し、(B)は(A)の内側マンドレルにおける上部円筒部の展開図を示す。
【図4】別の実施形態における本発明の成形金型の断面模式図において、内側マンドレルのみを見取り図で示した図を示す。
【図5】タンデム方式のフルカラー画像形成装置の概略構成を説明する図である。
【図6】従来技術におけるシームレスベルトの成形金型について、外側マンドレルの一部を省略して内側マンドレルを主に示した模式的斜視図である。
【図7】(A)は図6に示す従来の成形金型の断面模式図を示し、(B)は(A)の内側マンドレルにおける上部円筒部の展開図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(シームレスベルトの製造装置)
本発明に係るシームレスベルトの成形金型を備えたシームレスベルトの製造装置の一実施形態を図1に示す。図1は、シームレスベルト製造装置10の構成の概略を説明する斜視図である。
【0022】
図1において、シームレスベルト製造装置10は、後で詳細に説明する本発明に係る成形金型1と、当該成形金型1の樹脂注入口に連通された樹脂注入管2、当該樹脂注入管2に接続されたギアポンプ3、当該ギヤポンプに接続された押出機4、成形金型1の出口の下方に配置されたサイジング金型7、円筒状フイルムFを引き取る引取機8、及び切断機9から構成されている。
【0023】
次に、その動作の概略を説明する。押出機4の材料投入口6から投入された樹脂は、押出機4の内部で撹拌混合され加熱溶融されて押し出され、押し出された溶融樹脂はさらにギアポンプ3により、樹脂注入管2を経て成形金型1に流入する。
【0024】
成形金型1に流入した溶融樹脂は、成形金型1の内側マンドレルと外側マンドレルとの間の隙間を拡散しながら流下して、溶融状態の円筒状のフイルムFとなって成形金型1の外部に連続的に出てくる。成形金型1から連続的に出てきた溶融状態の円筒状のフイルムFは、成形金型1の出口の下方に配置されたサイジング金型7の外周面に沿いつつ、引取機8の搬送ベルト8aにより引き出される。
【0025】
溶融状態の円筒状のフイルムFがサイジング金型7の外周面に沿うことで、冷却固化されると共に、所定の周長と所定の厚みに形成される。この後、円筒状のフイルムFは、切断機9で所定の寸法に輪切り切断されてシームレスベルトが完成する。
【0026】
成形金型1は外周面にバンドヒータ(図示せず)を巻いて加温され、樹脂の溶融温度よりも高い所定温度を保ように構成されている。また、サイジング金型7は内部に冷却水の循環路が設けられており、冷却水を循環させて約80℃を保ち、成形金型1から連続的に出てきた溶融状態の円筒状のフイルムFを冷却するように構成されている。
【0027】
(シームレスベルトの成形金型)
本発明に係るシームレスベルトの成形金型1の一実施形態を図2および図3に示し、別の実施形態を図4に示す。図2は本発明に係るシームレスベルトの成形金型の一実施形態について、外側マンドレルの一部を省略して内側マンドレルを主に示した模式的斜視図である。図3(A)は図2に示す成形金型の断面模式図において、内側マンドレルのみを見取り図で示した図を示し、図3(B)は図3(A)の内側マンドレルにおける上部円筒部21aの外周面展開図を示す。図3(B)において、Rは、内側マンドレル21における樹脂注入口41側の位置方向(以下、位置方向Rという)を示す。Sは、内側マンドレル21の軸を中心としたとき樹脂注入口41とは略反対側の位置方向(以下、位置方向Sという)を示す。位置方向Sは、樹脂注入口41から注入された溶融樹脂が成形金型1内で合流する樹脂合流部の位置方向に対応する。図4は、別の実施形態における本発明の成形金型の断面模式図において、内側マンドレルのみを見取り図で示した図を示す。なお、図4において510は、樹脂注入口41から注入された樹脂を受けるために、流路51を拡張形成した部分である。
【0028】
成形金型1は、内側マンドレル21、該内側マンドレルに対して所定の間隔を隔てて同軸に配置された外側マンドレル31、および該内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間に溶融樹脂を注入するための樹脂注入口41を備えたものである。
【0029】
内側マンドレル21および外側マンドレル31の構成は、内側マンドレル21の外周面に所定のコートハンガー型樹脂流路51を有する限り特に制限されず、通常は、図2および図3ならびに図4に示すような3段構造を有する。具体的には、内側マンドレル21は、所定のコートハンガー型樹脂流路を外周面に有する第1の成形部である上部円筒部21a、所定寸法の円筒状成形体を形成するダイランド部21c、及び上部円筒部21aとダイランド部21cとを繋ぐ第2の成形部である円錐部21bとから構成される。外側マンドレル31は、第1の成形部である上部円筒部31a、所定寸法の円筒状成形体を形成するダイランド部31c、及び上部円筒部31aとダイランド部31cとを繋ぐ第2の成形部である円錐部31bとから構成され、それぞれは内側マンドレル21の上部円筒部21a、ダイランド部21c、及び円錐部21bに対応する位置に配置される。
【0030】
内側マンドレル21の外径は外側マンドレル31の内径よりも小さく、特に、内側マンドレル21のダイランド部21cと、外側マンドレル31のダイランド部31cとの間には、製造するベルトの厚みより大きい隙間、例えば、0.8〜3.0mm、好ましくは0.9〜1.2mm程度の隙間が形成されている。
【0031】
コートハンガー型樹脂流路51は、いわゆるコートハンガー溝と呼ばれる切り込み溝である。そのようなコートハンガー型樹脂流路51は、内側マンドレル21と外側マンドレル31との隙間を介して、樹脂注入口41に連通すると共に、樹脂注入口41から注入された溶融樹脂を内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間において周方向に拡散させる。コートハンガー型とは、当該樹脂流路51が、図3(B)および図4に示すように、樹脂注入口41(R)から離れるに従って内側マンドレルの軸方向Xに関して連続的に下降するように傾斜した形状を意味するものである。図2〜図4において、樹脂流路51は、樹脂注入口41から離れるに従って軸方向Xに関して滑らかに湾曲しながら下降しているが、これに制限されるものではなく、例えば、樹脂注入口41から離れるに従って直線的に下降してもよい。
【0032】
コートハンガー型樹脂流路51が内側マンドレル21(特に上部円筒部21a)の外周面上で形成する全体形状は、樹脂注入口41とは略反対側の位置方向Sのところで分断された非環形状である。すなわち、コートハンガー型樹脂流路51は、内側マンドレル21の軸を中心としたとき樹脂注入口41とは略反対側の位置方向Sのところで、当該流路内の樹脂の流れをせき止めるための流れ止め部52を有するものである。詳しくはコートハンガー型樹脂流路51は、円筒部21aの外周面に周方向で環状の溝を形成するに際し、樹脂注入口41とは略反対側の位置方向Sのところで未加工部を残すことによって形成される。これによって得られる未加工部を流れ止め部52として利用する。コートハンガー型樹脂流路51は、好ましくは、樹脂流入口41から離れるに従って、内側マンドレル21の軸を通る断面積が連続的に小さくなるように形成される。すなわち、コートハンガー型樹脂流路51は、流れ止め部52(未加工部)に近づくに従って、溝の深さが徐々に浅くなるように形成されることが好ましい。より好ましくは、コートハンガー型樹脂流路51は、流れ止め部52(未加工部)に近づくに従って、溝の深さが徐々に浅くなり、最終的には流れ止め部52(未加工部)のところで溝がなくなるように形成されることが好ましい。樹脂注入口41とは略反対側の位置方向Sのところに流れ止め部52を設けることによって、シームレスベルトの樹脂合流部においてウエルドラインの発生を十分に抑制できる。その結果、厚みの均一性、表面平滑性の均一性、および表面抵抗の均一性に優れたシームレスベルト、例えば中間転写ベルトを容易に製造できる。
【0033】
上記位置方向Sに流れ止め部52を設けることによって、ウエルドラインの発生を抑制するメカニズムの詳細は以下のメカニズムに基づくものと考えられる。流路が従来のように流れ止め部52を有しない場合、当該流路内で樹脂が合流すると、当該合流部において圧力が増大する。そのため、樹脂が流下して吐出されるとき、合流部の流量が増大し、厚みも増大し、ウエルドラインが発生するものと考えられる。このとき、樹脂の合流部において導電性フィラーなどの添加剤が集まるため、表面抵抗や体積抵抗が不均一になるものと考えられる。本発明において上記位置方向Sに流れ止め部52を設けると、樹脂の合流部における圧力の増大を十分に抑制できる。その結果、合流部での流量の増大が回避されウエルドラインの発生が抑制され、しかも表面抵抗や体積抵抗の不均一化も十分に抑制できるものと考えられる。
【0034】
流れ止め部52の周方向長さt(mm)は内側マンドレル21の外周長L(mm)に対して0.050〜0.400%、好ましくは0.200〜0.300%である。長さtが短すぎると、樹脂合流部での圧力の増大を十分に回避できないため、ウエルドラインが形成され、厚み、表面平滑性および表面抵抗が不均一になる)。長さtが長すぎると、樹脂流路を右側から流れて隙間を拡散しながら流下する樹脂と、樹脂流路51を左側から流れて隙間を拡散しながら流下する樹脂との合流が弱いために、ウエルドライン状のスジが生じ、ベルト厚み、表面抵抗および体積抵抗が不均一になると同時に、ベルトがスジ部から裂け易くなる。
【0035】
流れ止め部52は、内側マンドレルの半径方向から見たとき、図3(B)に示すように略方形形状を有していてよいが、図4に示すように、上底が下底より長い略台形形状を有することが好ましい。流れ止め部52が、図4に示すように上底が下底より長い略台形形状を有する場合、流路51の幅は、流れ止め部の近傍において流れ止め部に近づくに従って小さくなり、かつ当該流路51を規定する上側輪郭ラインは下側輪郭ラインに徐々に近づく。これによって、樹脂合流部における圧力の増大をより一層、有効に抑制できる。流れ止め部52が当該略台形形状を有する場合、下底の周方向長さが上記tに相当すればよい。この場合、上底の周方向長さt(mm)は特に制限されないが、内側マンドレル21の外周長L(mm)に対して0.100%以上が好ましく、より好ましくは0.750〜6.000%である。
【0036】
内側マンドレル21の外周長Lは、特に3段構造を有する場合、上部円筒部21aの外周長と同意であり、製造されるべきシームレスベルトの寸法よりも大きな任意の長さであってよい。そのような外周長Lは通常、製造されるべきシームレスベルトの周長よりも+12〜+25%、好ましくは+18〜+22%だけ長い周長を確保する。
【0037】
樹脂流路51の寸法は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は、幅および深さは、内側マンドレルの外周長Lに応じて設計される。例えば、内側マンドレルの外周長Lが500〜1000mmのとき、幅(最大幅)は15〜25mmが好ましく、深さ(最大深さ)は5〜10mmが好ましい。
【0038】
内側マンドレル21の軸方向Xに関する樹脂流路51の高低差h(mm)(図3(B)および図4参照)は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は内側マンドレル21の外周長L(mm)に対して3〜10%、特に4〜5.5%が好ましい。
【0039】
樹脂流路51の断面形状は(内側マンドレル21の軸を通る断面における形状)は特に制限されず、任意の形状であってよく、例えば、図2および図3に示すように略半円形状を有していても良いし、図4に示すように半涙滴型形状を有していても良いし、方形形状を有していても良い。好ましい形状は半涙滴型形状である。
【0040】
内側マンドレル21、外側マンドレル31および流れ止め部52を構成する材料は、従来のシームレスベルトの成形金型の分野で使用されている材料が使用可能である。
【0041】
(シームレスベルトの製造方法)
シームレスベルトは、上記した成形金型を用いることを特徴とする方法によって製造できる。
すなわち、以上の構成において、樹脂注入口41から溶融樹脂を注入すると、溶融樹脂はコートハンガー型樹脂流路51を左周り方向および右周り方向で通りながら、内側マンドレル21と外側マンドレル31との隙間に拡散・流下し、樹脂注入口41とは略反対側の位置方向S(樹脂合流部)で合流する。溶融樹脂は、円錐部21bと円錐部31bとの隙間およびダイランド部21cとダイランド部31cとの隙間に流れ、溶融状態の円筒状フイルムFとなって成形金型1の外部に連続的に出てくる。
【0042】
成形金型1の外部に出てきた溶融状態の円筒状フイルムFは、図1に示すように、サイジング金型7の外周面に沿って進行して冷却固化され、所定の周長と所定の厚さの円筒状フイルムFが形成される。この後、円筒状フイルムFは、引取機8により引き出され、切断機9で所定の寸法に輪切り切断されてシームレスベルトが完成する。
【0043】
樹脂注入口41から注入される樹脂は、熱可塑性樹脂であれば特に制限されず、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(ナイロン)、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリカーボネートおよびそれらの混合物等が挙げられる。ポリエステルの具体例として、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。特に、中間転写ベルトを製造する場合は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(ナイロン)、またはそれらの混合物が好ましく使用される。
【0044】
本発明で使用される樹脂の粘度は、特に制限されるものではないが、例えば、MFRが40〜50g/10分が好ましく使用できる。
MFRはメルトフローインデクサー(チアスト社製)によって測定された値を用いている。
【0045】
樹脂注入口41から注入される溶融樹脂には、必要により、導電性フィラー、滑剤、着色剤等の添加剤が含有されてよい。特に、中間転写ベルトを製造する場合は、導電性フィラー、滑剤が含有されることが好ましい。
【0046】
導電性フィラーおよび滑剤としては、それぞれ、中間転写ベルトの分野で従来から導電性フィラーおよび滑剤として使用されているものが使用可能である。導電性フィラーの具体例として、例えば、カーボンブラック、イオン導電性液体等が挙げられる。滑剤の具体例として、例えば、モンタン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、モンタン酸エステルワックス等が挙げられる。
【0047】
本発明に係る成形金型を用いて製造されたシームレスベルトは、電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置に使用される中間転写ベルトとしての使用に適している。
【0048】
(画像形成装置)
本発明に係る成形金型を用いて製造されたシームレスベルトを中間転写ベルトとして用いた画像形成装置について説明する。
【0049】
図5は、タンデム方式のフルカラー画像形成装置の一例の概略構成を説明する図である。中間転写ベルト115は駆動ローラ113と従動ローラ114との間に架設され、図示しない駆動機構により矢印a方向に一定速度で駆動される。それぞれが帯電装置、感光体、露光装置、現像装置を備えたイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の4個の作像ユニット111Y、111M、111C、111Kが、中間転写ベルト115に沿って一列に配列され、各作像ユニット111Y〜111Kの感光体131Y、131M、131C、131Kに対向する位置には、中間転写ベルト115を介在させて転写装置118Y、118M、118C、118Kが配置されている。
【0050】
駆動ローラ113に対向する位置には、中間転写ベルト115を介在させて転写ローラ116が配置され、図示されていない給紙機構から転写ローラ116と中間転写ベルト115とのニップ部に記録紙を給紙するように構成され、また、記録紙の搬送方向下流側には図示されていないが、定着装置と排紙部が配置されている。さらに、中間転写ベルト115の移動方向の作像ユニット111よりも最上流側には帯電装置117が配置され、最下流側には、中間転写ベルト115の上の残留トナーを清掃除去するクリーナ119が配置されている。
【0051】
次に、その動作を簡単に説明する。電源が投入されると、各作像ユニット111Y〜111Kが動作を開始し、各感光体131Y〜131Kは一定速度で回転を開始し、中間転写ベルト115は感光体の周速度に等しい一定速度で矢印a方向に移動を開始する。
【0052】
図示しない画像読取装置で読み取られ色分解された画像信号、或いはパソコン等から出力された赤(R)、青(B)、緑(G)の画像信号は、その各色に対応するイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色の各作像ユニット111Y〜111Kの各露光装置136Y〜136Kに順次入力されて各感光体の上に画像潜像が形成される。各画像潜像は、各現像装置133Y〜133Kに装填されているトナーにより現像され、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像が以下のように順次形成される。
【0053】
まず、イエロー(Y)の作像ユニットの感光体131Yの上にイエロー(Y)のトナー像が形成され、イエロー(Y)のトナー像は転写装置118Yの動作により中間転写ベルト115の上に転写される。イエロー(Y)のトナー像がマゼンタ(M)の作像ユニットの位置に到達するタイミングに合わせてマゼンタ(M)の作像ユニットの感光体131Mの上にマゼンタ(M)のトナー像が形成され、イエロー(Y)のトナー像の上に重畳して転写される。
【0054】
以下同様にして、シアン(C)、黒(K)のトナー像が順次形成されて、その前に転写されたトナー像の上に重畳して転写され、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の各色のトナー像が重畳して転写され、フルカラーのトナー像が中間転写ベルト115の上に形成される。
【0055】
中間転写ベルト115の上に形成されたフルカラーのトナー像は、転写位置において転写ローラ116の動作により記録紙Pの上に転写され、図示しない定着装置で定着処理され、排紙部に排出されて、記録紙へのフルカラーの画像形成処理が完了する。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
図4に示す成形金型1を備えた図1に示すシームレスベルトの製造装置10を用いて中間転写ベルトを製造した。詳しくは、ポリフェニレンサルファイド(E2180;東レ社製)84.7重量部、ナイロン樹脂(アミランCM1021T;東レ社製)6.0重量部、酸性カーボンブラック(PrintexU;エボニックデグサ社製)9.3重量部の混合物を、押出機4の材料投入口6から投入し、押出機4により溶融・混練して、押し出した。押し出された溶融樹脂はさらにギアポンプ3を経て、樹脂注入管2から所定の成形金型1の樹脂注入口41に注入した。成形金型1の各種条件を表に示した。流れ止め部52は、所定の溝形成加工により、コートハンガー型樹脂流路内における所定の位置に設けた。所定の位置とは、内側マンドレルの軸を中心としたとき樹脂注入口とは正反対側の位置であった。所定の溝形成加工とは、円筒部21aの外周面に周方向で環状の溝を形成するに際し、樹脂注入口とは正反対側の位置で未加工部を残すように溝を形成する加工であり、結果として非環形状の溝として流路51を形成した。流路51は、詳しくは、流れ止め部52(未加工部)に近づくに従って、溝の深さが徐々に浅くなり、最終的には流れ止め部52(未加工部)のところで溝の深さがなくなるように形成された。これによって得られる未加工部を流れ止め部52とした。成形金型1に流入した溶融樹脂は、成形金型1の内側マンドレルと外側マンドレルとの間の隙間を拡散しながら流下して、溶融状態の円筒状のフイルムFとなって成形金型1の外部に連続的に出てきた。成形金型1から連続的に出てきた溶融状態の円筒状のフイルムFを、成形金型1の出口の下方に配置されたサイジング金型7の外周面に沿わせつつ、引取機8の搬送ベルト8aにより引き出した。この後、円筒状のフイルムFを、切断機9で所定の寸法に輪切り切断し、中間転写ベルトを得た。
【0057】
(実施例2〜3/比較例1〜2)
成形金型の各種条件を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により、中間転写ベルトを製造した。
【0058】
(評価)
中間転写ベルトを観察し、中間転写ベルトにおける成形金型内での樹脂合流部に対応する部分(任意の5点)と、その他の部分(任意の35点)とについて、膜厚および表面抵抗を測定した。
【0059】
・ウエルドライン
中間転写ベルトを目視観察し、ウエルドラインの発生状況について評価した。
○;ウエルドラインは全く発生しなかった;
×;ウエルドラインが発生した。
【0060】
・膜厚
膜厚をデジマイクロ(ミツトヨ社製)によって測定し、最大値および最小値を求めた。バラツキは、「最大値−最小値」に基づいて求めた。バラツキは10μm以下が実用上問題のない範囲内(合格)であり、6μm以下が好ましく、10μm超が不合格である。
【0061】
・表面抵抗
表面抵抗は、「ハイレスタ」抵抗計(三菱化学(株)製)を使用し、測定電圧500V、測定時間10秒で測定し、最大値および最小値を求めた。バラツキは、「最大値/最小値」に基づいて求めた。バラツキは、2.0以下が実用上問題のない範囲内(合格)であり、1.70以下が好ましく、2.0超が不合格である。
【0062】
・画像ノイズ
中間転写ベルトをフルカラー複合機(bizhub C360)に搭載し、記録紙上に、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の4色トナー像(2色ベタ画像)を印字した。記録紙上の画像品質を目視により判定し、以下のようにランク付けし、「○」、「△」および「×」で表示した。
【0063】
○;中間転写ベルト上の突起、或いは局所的抵抗・膜厚ムラに基づく画像ノイズが印字画像に現れなかった;
△;中間転写ベルト上の突起、或いは局所的抵抗・膜厚ムラに基づく画像ノイズが印字画像に僅かに現れたものの、実用上問題なかった;
×;中間転写ベルト上の突起、或いは局所的抵抗・膜厚ムラに基づく画像ノイズが印字画像にかなり醜く現れて、実用上問題があった。
【0064】
【表1】

【符号の説明】
【0065】
1:成形金型
2:樹脂注入管
3:ギアポンプ
4:押出機
6:材料投入口
7:サイジング金型
8:引取機
9:切断機
10:シームレスベルト製造装置
21:内側マンドレル
21a:上部円筒部(第1の成形部)
21b:円錐部(第2の成形部)
21c:ダイランド部
31:外側マンドレル
31a:上部円筒部(第1の成形部)
31b:円錐部(第2の成形部)
31c:ダイランド部
41:樹脂注入口
51:コートハンガー型樹脂流路
52:流れ止め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側マンドレル、該内側マンドレルに対して所定の間隔を隔てて同軸に配置された外側マンドレル、および該内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間に溶融樹脂を注入するための樹脂注入口を備え、内側マンドレルが外周面に、樹脂注入口に連通すると共に、樹脂注入口から注入された溶融樹脂を内側マンドレルと外側マンドレルとの隙間において周方向に拡散させるコートハンガー型樹脂流路を有するシームレスベルトの成形金型であって、
コートハンガー型樹脂流路が、内側マンドレルの軸を中心としたとき樹脂注入口とは略反対側の位置方向のところで、該流路内の樹脂の流れをせき止めるための流れ止め部を有し、該流れ止め部の周方向長さtが内側マンドレルの外周長Lに対して0.050〜0.400%であることを特徴とするシームレスベルトの成形金型。
【請求項2】
内側マンドレルが、前記コートハンガー型樹脂流路を外周面に有する上部円筒部、所定寸法の円筒状成形体を形成するダイランド部、及び上部円筒部とダイランド部とを繋ぐ円錐部から構成され、
外側マンドレルが、上部円筒部、所定寸法の円筒状成形体を形成するダイランド部、及び上部円筒部とダイランド部とを繋ぐ円錐部から構成され、それぞれは内側マンドレルの上部円筒部、ダイランド部、及び円錐部に対応する位置に配置される請求項1に記載のシームレスベルトの成形金型。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシームレスベルトの成形金型を用いることを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項4】
樹脂注入口から注入される溶融樹脂がポリフェニレンサルファイドおよびナイロンを含む請求項3に記載のシームレスベルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−167918(P2011−167918A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33419(P2010−33419)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】