説明

シールド電線のシールド処理構造及びシールド処理方法

【課題】シールド電線の編組線とアース線の芯線との間で電気的な接続状態を安定的に得ると共に、シールド電線の絶縁性能の低下を防止すること。
【解決手段】芯線7の外周を覆う絶縁内皮9とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線11とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮13とを有するシールド電線1と、シールド電線と交わって配置される被覆されたアース線3と、シールド電線1とアース線3を挟持して溶着された一対の樹脂部材5a,5bとを備えたシールド電線1のシールド処理構造において、シールド電線1とアース線3が交わって配置される部位の一対の樹脂部材5a,5bのシールド電線1を挟んだ少なくとも一方の接合部にのみ、絶縁外皮が溶融除去された編組線11と被覆が溶融除去されたアース線3の芯線15とが電気的に接続された状態で埋設されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線とアース線を一対の樹脂部材を用いて超音波溶着することにより形成されるシールド電線のシールド処理構造及びシールド処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波溶着によるシールド処理構造としては、特許文献1に開示されるものがある。このシールド処理構造は、シールド電線と、アース線と、接合面に断面円弧状の溝が形成された一対の樹脂部材とを備えて構成される。より具体的には、一方の樹脂部材の溝内に芯線の外周が編組線で覆われたシールド電線を配置し、このシールド電線の上にアース線を交差するように載置し、さらにアース線の上から他方の樹脂部材を被せる。このようにしてシールド電線とアース線を一対の樹脂部材により挟み込んだ状態で、超音波加振セット状態とする。
【0003】
この超音波加振セット状態で一対の樹脂部材間に圧縮力を作用させつつ超音波ホーンで超音波加振すると、各樹脂部材と共にシールド電線及びアース線の絶縁外皮が振動エネルギーにより発熱して溶融除去され、アース線の芯線とシールド電線の編組線が電気的に接触される。続いて、超音波加振が終了後、溶融した部位が固化されることにより、一対の樹脂部材の接合面同士が溶着され、一対の樹脂部材、シールド電線及びアース線が固定される。
【0004】
このシールド処理構造によれば、シールド電線やアース線の絶縁外皮の皮剥ぎを行う必要がなく、下方の樹脂部材、シールド電線、アース線、上方の樹脂部材の順に組み付けて超音波加振を行えばよいので、工程数が少なく、複雑な手作業もなく、自動化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−32675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シールド電線は、芯線と編組線との間に絶縁内皮が形成され、この絶縁内皮の厚みによって芯線と編組線の距離が確保されている。しかしながら、特許文献1の構造によれば、超音波加振をする際に、シールド電線の上にアース線が重なった状態で樹脂部材に挟み込まれ、この重なった部位のアース線には樹脂部材の溝の底面が密着している。このため、アース線とシールド電線の重なった部位には、樹脂部材を介して振動エネルギーが集中しやすくなる。このように過度に振動エネルギーが集中すると、例えば、シールド電線の絶縁内皮が軟化又は溶融し易くなる。絶縁内皮が軟化又は溶融すると、シールド電線にかかる圧力により絶縁内皮に編組線が潜り込んで、芯線と編組線との距離が短くなることにより、シールド電線の絶縁性能が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、シールド電線の編組線とアース線の芯線との間で電気的な接続状態を安定的に得ると共に、シールド電線の絶縁性能の低下を防止することができるシールド電線のシールド処理構造及びシールド処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、このシールド電線と交わって配置される被覆されたアース線と、シールド電線とアース線を挟持して溶着された一対の樹脂部材とを備えたシールド電線のシールド処理構造において、シールド電線とアース線が交わって配置される部位の一対の樹脂部材のシールド電線を挟んだ少なくとも一方の接合部にのみ、絶縁外皮が溶融除去された編組線と被覆が溶融除去されたアース線の芯線とが電気的に接続された状態で埋設されていることを特徴とする。
【0009】
このシールド処理構造によれば、絶縁外皮が溶融除去された編組線と被覆が溶融除去されたアース線の芯線との接触部分が、シールド電線の芯線に対して一対の樹脂部材を閉じる方向に位置していないため、超音波加振の際にシールド電線の絶縁内皮に過剰な圧力及び振動エネルギーが伝わることがなく、絶縁内皮の軟化や溶融を防ぐことができる。これにより、シールド電線における芯線と編組線の十分な距離を確保することができるため、シールド電線の絶縁性能の低下を防止することができる。また、シールド電線の編組線とアース線の芯線は、各樹脂部材の接合部に埋設されているため、編組線とアース線の芯線との電気的な接続状態を安定的に維持することができる。
【0010】
また、本発明は、芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、このシールド電線と隣接させて並列に配置される被覆されたアース線と、シールド電線とアース線を挟持して溶着された一対の樹脂部材とを備えたシールド電線のシールド処理構造において、シールド電線とアース線が隣接して並列に配置される部位の一対の樹脂部材に挟まれた接合部にのみ、絶縁外皮が溶融除去された編組線と被覆が溶融除去されたアース線の芯線とが電気的に接続された状態で埋設されていることを特徴とする。
【0011】
このシールド処理構造によれば、シールド電線とアース線が並設に配置されていても、絶縁外皮が溶融除去された編組線と被覆が溶融除去されたアース線の芯線との接触部分が樹脂部材に挟まれた接合部に埋設されているため、編組線と芯線との電気的な接続状態を安定的に維持することができる。また、この構造においても、超音波加振をする際に、編組線とアース線の芯線との接続部分が、シールド電線の芯線に対して一対の樹脂部材が閉じる方向に位置していないため、絶縁内皮の軟化や溶融を防ぎ、シールド電線における芯線と編組線との十分な距離を確保することができる。
【0012】
また、上記課題を解決するため、本発明は、芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、被覆されたアース線と、シールド電線とアース線を挟持する一対の樹脂部材とを用意し、一対の樹脂部材間にシールド電線とアース線を交わらせた状態で介在させ、各樹脂部材間に圧縮力を作用させつつ超音波加振することにより、絶縁外皮とアース線の被覆部分を溶融除去し、編組線とアース線の芯線とを電気的に接触させるシールド電線のシールド処理方法において、樹脂部材同士が接合される接合面には、シールド電線が収容される溝空間がそれぞれ設けられ、この溝空間の長手方向の少なくともアース線が交わる部位の短手方向の空間幅は、シールド電線の芯線の外径よりも大きく、絶縁外皮の内径よりも小さく形成され、一方の樹脂部材の接合面の上にアース線を配置した後、シールド電線の一部がアース線の上に重なるように、シールド電線を溝空間の上位置に配置し、この状態で、他方の樹脂部材を被せて押し付け超音波加振することを特徴とする。
【0013】
このシールド処理方法によれば、シールド電線の断面構造の寸法に応じて所定の大きさに形成された溝空間を有する一対の樹脂部材を用いているため、シールド電線は、超音波加振をする際に、編組線を含む絶縁外皮の一部が一対の樹脂部材の接合面に挟まれてこの部分に振動エネルギーが集中する。このように振動エネルギーが集中すると、シールド電線はその挟まれた部分が変形し、この編組線を含む絶縁外皮の一部が樹脂部材の接合面間の隙間に向かって移動する。そして、この接合面間の隙間に移動した編組線を含むシールド電線の一部は、振動エネルギーが付与されて絶縁外皮が溶融除去されると共に、この隙間に配置されるアース線の一部も被覆が溶融除去される。これにより、編組線とアース線の芯線は電気的に接触され、さらに溶着した樹脂部材の接合面間に埋設されるため、電気的な接触状態を安定的に得ることができる。
【0014】
一方、シールド電線のうち、一対の樹脂部材の接合面間に挟まれない部分は、樹脂部材の溝空間内に収容される。このとき、シールド電線の下にはアース線がシールド電線と交わるように配置されているが、このアース線が載置される一方の樹脂部材には所定の大きさの溝空間が設けられているため、シールド電線が他方の樹脂部材に押し付けられると、シールド電線は接合面間に挟まれた部分を除く領域の略下半分がアース線と共に一方の樹脂部材の溝空間内に移動し、略上半分が他方の樹脂部材の溝空間内に収容される。これにより、シールド電線は、一対の樹脂部材の接合面間に挟まれた部分に振動エネルギーが集中するため、溝空間内に収容されたシールド電線は絶縁内皮の軟化や溶融が抑えられる。したがって、シールド電線は、芯線と編組線の距離を十分に確保することができ、シールド電線の絶縁性能の低下を防止することができる。
【0015】
また、本発明のシールド処理方法は、上記の方法に代えて、以下のような方法を採用することもできる。すなわち、樹脂部材同士が接合される接合面には、シールド電線が収容される断面円弧状の第1の溝と、この第1の溝に沿って連設され、第1の溝よりも溝深さが小さい断面円弧状の第2の溝とがそれぞれ設けられ、第1の溝の第2の溝が連設される部位の溝幅は、シールド電線の芯線の外径よりも大きく、絶縁外皮の内径よりも小さく形成され、第2の溝の溝幅は、アース線の芯線を収容可能に形成され、一方の樹脂部材の第1の溝に沿ってシールド電線を配置すると共に、第2の溝に沿ってアース線を配置した状態で、他方の樹脂部材を被せて押し付け超音波加振する。
【0016】
このシールド処理方法によれば、超音波加振をする際に、第1の溝の溝縁、つまり第2の溝との境界部分がシールド電線に当接し、編組線を含む絶縁外皮の一部が変形して第2の溝内に移動する。これにより第2の溝内ではアース線と共にシールド電線が混在し密度が高くなるため振動エネルギーが集中し、シールド電線の絶縁外皮が溶融除去されると共にアース線の被覆が溶融除去され、編組線とアース線の芯線が電気的に接触された状態となる。さらに、第2の溝間が振動エネルギーによって溶着されると、編組線とアース線の芯線は第2の溝間に埋設される。このため、編組線とアース線の芯線は電気的な接触状態を安定的に得ることができる。一方、シールド電線の他の部分は、第1の溝内に収容されるため、過剰な振動エネルギーが付与されることがなく、シールド電線の絶縁内皮の軟化や溶融を防ぐことができ、シールド電線の絶縁性能の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シールド電線の編組線とアース線の芯線との間で電気的な接続状態を安定的に得ると共に、シールド電線の絶縁性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、シールド電線とアース線のシールド部分の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示し、一対の樹脂部材を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、超音波加振する際に、図1のA−A矢示方向で各部材の配置関係を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示し、超音波加振に際して樹脂部材が溶着された状態のシールド処理構造を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示し、超音波加振に際してシールド電線とアース線の他の配置例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態を示し、一対の樹脂部材の他の形態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態を示し、シールド電線とアース線の接合部分にシールド処理構造が適用されたシールド部分の外観を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施形態を示し、樹脂部材の側面及び接合面を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態を示し、超音波加振に際して樹脂部材が溶着された状態のシールド処理構造の一部を拡大して示す断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態を示し、フォーミング後のシールド電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1〜図6は本発明の第1の実施形態を示し、図1はシールド電線とアース線の接合部分の外観を示す斜視図、図2は一対の樹脂部材の一例を示す斜視図、図3は超音波加振する際に、図1のA−A矢視方向で各部材の配置関係を示す断面図、図4は一対の樹脂部材が溶着された状態のシールド処理構造を示す断面図、図5はシールド電線とアース線の他の配置例を示す図、図6は一対の樹脂部材の他の形態を示す斜視図である。
【0021】
本実施形態のシールド処理構造は、図1に示すように、シールド電線1と、アース線3と、一対の樹脂部材5a,5bとから構成され、シールド電線1の編組線11とアース線3の芯線15とを一対の樹脂部材5a,5bを利用して電気的に接続するものである。
【0022】
図1,図2に示すように、シールド電線1とは、例えば車両に搭載されているアンテナ等に接続される同軸ケーブルのことであり、1本の芯線7の外周を覆う絶縁内皮9と、この絶縁内皮9の外周を覆う導電体の編組線11と、この編組線11の外周を覆う絶縁外皮13とから構成される。また、アース線3は、1本の芯線15と、この芯線15の外周を覆う樹脂材の絶縁外皮17とから構成される。絶縁内皮9及び絶縁外皮13,17は合成樹脂製の絶縁体にて形成され、芯線7,15は編組線11と同様、導電体で形成される。
【0023】
図2に示すように、一対の樹脂部材5a,5bは、それぞれ同一形状の合成樹脂製のブロックであり、各樹脂部材5a,5bの接合面には、シールド電線1及びアース線3を収容するシールド電線溝21及びアース線溝23がそれぞれ形成されている。シールド電線溝21とアース線溝23は互いに直交する方向に配置されている。シールド電線溝21は、樹脂部材5の中央部分の1箇所と、これを挟んだ両側の2箇所の合計3箇所に分かれて形成され、中央部分を挟んだ両側の2箇所の溝は、例えばシールド電線1の絶縁外皮13の外形の半径を半径とする半円弧状の溝となっている。中央部分の溝は溝縁の開口部分の溝幅Lが両側の2箇所の溝の溝幅L´よりも小さく形成されている。アース線溝23は、シールド電線溝21の中央部分の両側2箇所に別れて形成され、例えばアース線3の外形の半径を半径とする半円弧状の溝となっている。
【0024】
また、各樹脂部材5a,5bには、シールド電線溝21とアース線溝23とが交差する位置、つまりシールド電線溝21の中央部分の溝の両側にアース線保持突起部25a,25bがそれぞれ設けられている。このアース線保持突起部25a,25bは、アース線溝23を樹脂部材5の外側から溝方向にみたとき、アース線溝23を横切るように配置されている。
【0025】
さらに、各樹脂部材5a,5bの接合面には、アース線保持突起部25a,25bの外側位置を包囲するように環状の樹脂流入部27が形成されている。この樹脂流入部27は、アース線保持突起部25a,25b等から溶融した樹脂が流れ込むためのものであり、これによって溶融樹脂が一対の樹脂部材5a,5bの外側に流出するのを阻止するようになっている。
【0026】
樹脂流入部27より外側の対角線上の4箇所位置には外縁面29がそれぞれ形成されている。一方の対角線上の各外縁部29には突起部31が、他方の対角線上の各外縁部29には穴33がそれぞれ設けられている。つまり、上下一対の樹脂部材5a,5bは、互いの接合面同士を突き合わせると、双方の樹脂部材5a,5bの各突起部31が各穴33にそれぞれ挿入されることによって組み付けられるようになっている。尚、穴33内には、突起部31の先端部分が溶融したときの樹脂を樹脂流入部27等に流出させるための流路(図示せず)が設けられている。
【0027】
このような構成において、各樹脂部材5a,5bでシールド電線1とアース線3を挟み込んだ状態で超音波加振すると、双方のシールド電線溝21,21の各面がシールド電線1及びアース線3とそれぞれ密着した状態になり、突起部31の先端面と穴33の底面の間とが共に密着した状態になるように設定されている。
【0028】
図3に示すように、超音波ホーンは、下側支持台41と、この真上に配置され、超音波振動を発生する超音波ホーン本体43とから構成される。下側支持台41及び超音波ホーン本体43は、いずれも別個に上下方向に移動自在に設けられている。下側支持台41の上面には樹脂部材5aがセットされ、このセットされた樹脂部材5aはその接合面を上方として保持されるようになっている。一方、超音波ホーンの下面には樹脂部材5bがセットされ、このセットされた樹脂部材5bはその接合面を下方として保持されるようになっている。
【0029】
次に、本実施形態のシールド処理方法の手順について図3を参照して説明する。尚、図3では、説明を分かり易くするため、樹脂部材5a,5bの構造を単純化して、シールド電線溝21と当接面のみ表している。
【0030】
図に示すように、下方の樹脂部材5aを超音波ホーンの下側支持台41の上に設置し、その樹脂部材5aのアース線溝23の上位置にアース線3の端部付近を載置する。ここで、アース線3は、シールド電線溝21を横断するように配置されるため、アース線保持突起部25a,25bの上に載置された状態となる。続いて、シールド電線1の一部がアース線3の上に重なるように、シールド電線1をシールド電線溝21の上位置に沿って配置し、さらにその上から上方の樹脂部材5bを被せる。
【0031】
次に、超音波ホーン本体43を降下させて一対の樹脂部材5a,5b間に圧縮力を作用させつつ超音波ホーンで加振する。ここで、樹脂部材5a,5bは、シールド電線溝21の中央部分の溝幅Lがその両側の2箇所の溝幅L´よりも小さく形成されており、具体的には、例えばシールド電線1の絶縁外皮13の内径よりも小さく絶縁内皮9の外径よりも大きく形成されている。このため、樹脂部材5aを下げていくと、上方の樹脂部材5bのシールド電線溝21の中央部分の溝縁がシールド電線1と当接し、芯線7を中心とする両側(図3の左右方向)の編組線11を含む絶縁外皮13の一部が、各樹脂部材5a,5bの接合面間、つまりアース線保持突起部25a,25aの間と、アース線保持突起部25b,25bの間にそれぞれ挟まれて、この部分に振動エネルギーが集中する。
【0032】
このように振動エネルギーが集中すると、シールド電線1はその挟まれた部分が変形し、この編組線11を含む絶縁外皮13の一部が、各樹脂部材5a,5bのアース線保持突起部25,25間(以下、接合面間という。)の隙間に向かって移動し始める。続いて、この接合面間の隙間に移動した編組線11を含む絶縁外皮13の一部には振動エネルギーが集中し、この振動エネルギーによって絶縁外皮13は発熱して溶融飛散される。また、この隙間に配置されるアース線3にもシールド電線1を介して振動エネルギーが集中し、絶縁外皮17は溶融飛散される。これにより、編組線11とアース線3の芯線15は接合面間で電気的に接触される。
【0033】
さらに、この樹脂部材5a,5bの接合面間の接触部分や、シールド電線1の絶縁外皮13及びアース線3の絶縁外皮17と樹脂部材5a,5bの内面とが接触する接触部分が、それぞれ振動エネルギーによって溶融し、この溶融された部分が超音波加振終了後に固化されることによって一対の樹脂部材5a,5b、シールド電線1、アース線3がそれぞれ互いに固定される。これにより、編組線11とアース線3の芯線15の接触部分は溶着した各樹脂部材5a,5bのアース線保持突起部25a,25aの間と、アース線保持突起部25b,25bの間とにそれぞれ埋設された状態となるため、電気的な接続状態を安定的に得ることができる。
【0034】
一方、シールド電線1のうち、各樹脂部材5a,5bの接合面間に挟まれていない部分は、各樹脂部材5a,5bのシールド電線溝21内に収容される。ここで、シールド電線1の下方にはアース線3がシールド電線1と交わるように配置されているが、このアース線3が載置される下方の樹脂部材5aには上方の樹脂部材5aと同じ大きさのシールド電線溝21が中央部分に設けられているため、シールド電線1が上方の樹脂部材5bに押し付けられると、シールド電線1は、接合面間に挟まれた部分を除く領域の略下半分がアース線3を巻き込むようにして下方の樹脂部材5aのシールド電線溝21内に収容される。したがって、シールド電線1は、一対の樹脂部材5a,5bの接合面間に挟まれた部分に振動エネルギーが集中するため、シールド電線溝21内に収容されたシールド電線1の絶縁内皮9の軟化や溶融を防ぐことができる。これにより、シールド電線1における芯線7と編組線11の距離を十分に確保することができ、シールド電線1の絶縁性能の低下を防止することができる。
【0035】
図4に、本実施形態のシールド処理方法により形成されたシールド処理構造を示す。尚、図4では、構造の説明を分かり易くするため、当接面はアース線保持突起部25a,25bを省略し、図3に対応させて平面で表している。
【0036】
図に示すように、絶縁外皮13が溶融除去された編組線11と絶縁外皮17が溶融除去されたアース線3の芯線15との接触部分A,Bが、一対の樹脂部材5a,5bの接合面間に挟まれた部分に配置されており、この接触部分A,Bが樹脂部材5a,5bのシールド電線溝21内、つまり芯線7に対して上方或いは下方以外に配置されている。この構造によれば、超音波加振をする際には、シールド電線溝21内に収容されるシールド電線1の絶縁内皮9、絶縁外皮13及びアース線3の絶縁外皮17への振動エネルギー及び圧力が低く抑えられ、少なくとも絶縁内皮9の軟化や溶融を防ぐことができるため、芯線7と編組線11の距離を十分に保つことができる。
【0037】
本実施形態のシールド処理構造によれば、シールド電線1やアース線3の絶縁外皮13,17の皮剥ぎを行う必要がなく、下方の樹脂部材5a、アース線3、シールド電線1、上方の樹脂部材5bの順に組み付けて超音波加振を行えばよいので、工程数が少なく、かつ、複雑な手作業もなく、自動化も可能である。
【0038】
また、本実施形態のシールド処理構造では、各樹脂部材5a,5bのシールド電線溝21の中央部分は、その溝幅Lがシールド電線1の絶縁外皮13の内径よりも小さく絶縁内皮9の外径よりも大きい断面円弧状の溝空間を有している例を示したが、溝幅Lはシールド電線1の絶縁外皮13の内径よりも小さく芯線7の外径よりも大きい範囲内であればよく、シールド電線1の編組線11とアース線3の芯線15との接触部分A,Bが、各樹脂部材5a,5bの接合面間のみに配置されるように、シールド電線1の編組線の一部を各樹脂部材5a,5bの接合面間に移動させることができれば、断面形状についても円弧に限られるものではない。
【0039】
さらに、シールド電線溝21の中央部分では、樹脂部材5aの場合、シールド電線溝21内にシールド電線1の一部がアース線3を巻き込んで収納されるため、そのシールド電線溝21の中央部分は、少なくとも、シールド電線1の外形の半径とアース線3の外形の直径とを加算した長さを溝深さとする断面円弧状の溝空間を有していることが好ましい。一方、樹脂部材5bの場合、樹脂部材5aのようにシールド電線溝21内にアース線3が収納されることはなく、シールド電線1の略上半分が収納される空間があればよいため、少なくとも、シールド電線1の外形の半径を溝深さとする断面円弧状の溝空間を有していることが好ましい。このように、樹脂部材5a,5bで、シールド電線溝21の大きさが異なっていてもよい。
【0040】
また、本実施形態のシールド処理構造では、アース線3がシールド電線溝21を横断するように配置されているが、アース線3の配置形態はこの例に限られるものではなく、例えば、図5に示すように、樹脂部材5aのシールド電線溝21を挟んだ両側の接合面のうち片方の接合面の上にだけアース線3を配置し、そのアース線3の先端部分がシールド電線1と重なるように配置してもよい。このようにアース線3を配置すれば、図3と同様の作用により、樹脂部材5a,5bの接合面間に移動してきたシールド電線1の編組線11の一部とアース線3の先端部分の芯線15とが接触し、この接触部分が例えばアース線保持突起部25a,25aの間で埋設された状態となるため、この接触部分は電気的な接続状態を安定的に得ることができる。また、アース線3はシールド電線溝21内に巻き込まれることがないため、シールド電線溝21内に収容されたシールド電線1にかかる圧力も小さくなり、シールド電線1の芯線7と編組線11との距離をより安定的に確保することができる。
【0041】
また、本実施形態のシールド処理構造では、各樹脂部材5a,5bが、アース線保持突起部25a,25bを有し、このアース線保持突起部25a,25bがそれぞれ接合面として機能する例を説明したが、この例に限られるものではなく、例えば、図6に示すように、アース線溝を有しておらず、シールド電線溝21の両側に沿って延在するレール状の突起部51a,51bを接合面とする同一形状の樹脂部材53a,53bを用いるようにしてもよい。この樹脂部材53a,53bによれば、図2の樹脂部材5a,5bと比べて構造が簡単になるため、製造コストを低減させることができる。また、アース線3の配置位置が限定されないため、設計的な自由度を高めることができる。
【0042】
(第2の実施形態)
図7〜図9は本発明の第2の実施形態を示し、図7はシールド電線とアース線の接合部分の外観を示す斜視図、図8は樹脂部材の側面及び接合面を示す図、図9は一対の樹脂部材が溶着された状態のシールド処理構造の一部を拡大して示す断面図である。
【0043】
図7に示すように、本実施形態のシールド処理構造は、樹脂部材61aの上にシールド電線1とアース線3とを隣接して並列に配置し、その上から樹脂部材61bを被せて超音波加振することにより形成され、シールド電線1とアース線3とが隣接して配置される部位の一対の樹脂部材61a,61bに挟まれた接合部にのみ、絶縁外皮13が溶融除去された編組線11と絶縁外皮17が溶融除去された芯線15とが接触された状態で埋設している点で、第1の実施形態とはシールド処理構造と構成が相違する。
【0044】
本実施形態の一対の樹脂部材61a,61bは、それぞれ同一形状の合成樹脂性のブロックであり、図8に示すように、各樹脂部材61a,61bの接合面には、シールド電線1が収容されるシールド電線溝63と、このシールド電線溝63の両方の溝縁に沿ってそれぞれ連設され、アース線3が収容されるアース線溝65とがそれぞれ樹脂部材61a,61bの長手方向に沿って設けられている。ここで、シールド電線溝63とアース線溝65はいずれも断面円弧状に形成され、アース線溝65は、シールド電線溝63の溝幅、溝深さよりも小さい溝幅、溝深さで形成されている。
【0045】
ここで、シールド電線溝63の溝幅とは、アース線溝65との境界部分の溝縁間の距離(L1)であり、シールド電線溝63の溝深さとは、樹脂部材61の当接面からシールド電線溝63の溝底までの距離(D1)を示す。また、アース線溝65の溝幅とは、シールド電線溝63との境界の溝縁と樹脂部材61の当接面の溝縁との間の距離(L2)であり、アース線溝65の溝深さとは、当接面からアース線溝65の溝底までの距離(D2)を示す。
【0046】
シールド電線溝63の溝幅L1は、シールド電線1の芯線7の外径よりも大きく、絶縁外皮13の内径よりも小さく設定され、好ましくは、絶縁内皮の外径よりも大きく、絶縁外皮13の内径よりも小さく設定される。また、アース線溝65の溝幅L2は、アース線3の芯線15が収納可能に形成され、好ましくは、芯線15の外径と略同じに設定される。一方、シールド電線溝63の溝深さD1は、シールド電線1の外形の半径と略同じに設定され、アース線溝65の溝深さD2は、アース線3の芯線15の半径と略同じに設定されることが好ましい。
【0047】
本実施形態では、まず、樹脂部材61aのシールド電線溝63に沿ってシールド電線1を配置すると共に、いずれか一方のアース線溝65に沿ってアース線3を配置する。シールド電線1とアース線3は、それぞれ溝全体に渡って配置されていなくてもよい。この状態で、樹脂部材61bを被せて押し付け超音波加振する。ここで、超音波加振をする際に、一対の樹脂部材61a,61bのシールド電線溝63とアース線溝65との境界部分がシールド電線1と当接することで、シールド電線溝63に収まらない編組線11を含む絶縁外皮13の一部が変形し、この変形した部分が各樹脂部材61a,61bのアース線溝65,65間に移動する。そして、このアース線溝65,65間には振動エネルギーが集中するため、シールド電線1の絶縁外皮13が溶融除去されると共にアース線3の絶縁外皮17が溶融除去され、編組線101とアース線3の芯線15が電気的に接触し、ついにはアース線溝65,65間が溶着される。
【0048】
本実施形態では、図9に示すように、編組線11とアース線3の芯線15はアース線溝65,65間に埋設された状態となるため、編組線11とアース線3の芯線15との接触部分は電気的な接続状態を安定的に得ることができる。一方、シールド電線1の他の部分は、シールド電線溝63,63間に収納されるため、過剰な振動エネルギーが付与されることがなく、シールド電線1の絶縁内皮9の軟化や溶融を防ぐことができる。これにより、芯線7と編組線11の距離を十分に確保することができ、シールド電線1の絶縁性能の低下を防止することができる。
【0049】
本実施形態では、アース線溝65を2本形成しているため、シールド電線1の両側に2本のアース線3をそれぞれ配置しても、上記と同様の効果を得ることができる。また、アース線溝65は1本だけ形成してもよい。また、本実施形態では、シールド電線溝63とアース線溝65を樹脂部材61の長手方向に渡って形成する例を説明したが、このように長手方向の全域に形成しなくても、長手方向の一部だけに形成するようにしてもよい。
【0050】
(第3の実施形態)
本実施形態では、断面円形のシールド電線1の長手方向の少なくとも一部を金型や冶具で所定の断面形状にフォーミングし、このフォーミング後のシールド電線をアース線3と共に樹脂部材間に挟み込み、超音波加振する点で、他の実施形態と構成が相違する。本実施形態で使用する樹脂部材は、第2の実施形態の樹脂部材61a,61bと同じものを用いることができる。
【0051】
図10は、本実施形態におけるシールド電線1のフォーミング後の断面構造を示す図である。このように芯線7を中心としてその両側が上下方向から押しつぶされて外側に広がるように、予めシールド電線1をUFO形状にフォーミングしておく。このようにフォーミングされたシールド電線1を樹脂部材61aのシールド電線溝63に配置すると共に断面円形のフォーミングされていないアース線3をアース線溝65にシールド電線1と重なるように配置し、樹脂部材61bを被せて超音波加振する。これにより、シールド電線1の編組線11の一部が確実にアース線溝65,65間に配置されるため、この部位に振動エネルギーが集中し、シールド電線1の絶縁外皮13が溶融除去されると共にアース線3の絶縁外皮17が溶融除去されて、編組線11とアース線3の芯線15を確実に接触させることが可能となる。
【0052】
本実施形態では、フォーミングされたシールド電線を第2の実施形態の樹脂部材61a,61bに適用する例を説明したが、これに限られるものではなく、第1の実施形態の樹脂部材5a,5bや、樹脂部材53a,53bについても適用することが可能である。
【0053】
また、本実施形態では、シールド電線1をフォーミングする例を説明したが、例えば、アース線3の先端部分がR状に湾曲するようにフォーミングし、この湾曲した部分をシールド電線溝21の中央部分(図2)の溝内に配置するようにしてもよい。このようにすれば、超音波加振をする際に、シールド電線1がアース線1を下方に押し付けてシールド電線溝21内に収納させる必要がなくなるため、シールド電線1にかかる圧力や振動エネルギーが低減され、シールド電線1の絶縁内皮9の軟化や溶融をより確実に防ぐことができる。さらに、このようにフォーミングされたアース線3を用いれば、アース線3をシールド電線1の上に配置するようにしても、シールド電線の下に配置する場合と同様の効果を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 シールド電線
3 アース線
5,53,61 樹脂部材
7,15 芯線
9 絶縁内皮
11 編組線
13,17 絶縁外皮
21,63 シールド電線溝
23,65 アース線溝
25 アース線保持突起部
41 下側支持台
43 超音波ホーン本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、該シールド電線と交わって配置される被覆されたアース線と、前記シールド電線と前記アース線を挟持して溶着された一対の樹脂部材とを備えたシールド電線のシールド処理構造において、
前記シールド電線と前記アース線が交わって配置される部位の前記一対の樹脂部材の前記シールド電線を挟んだ少なくとも一方の接合部にのみ、前記絶縁外皮が溶融除去された前記編組線と被覆が溶融除去された前記アース線の芯線とが電気的に接続された状態で埋設されていることを特徴とするシールド電線のシールド処理構造。
【請求項2】
芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、該シールド電線と隣接させて並列に配置される被覆されたアース線と、前記シールド電線と前記アース線を挟持して溶着された一対の樹脂部材とを備えたシールド電線のシールド処理構造において、
前記シールド電線と前記アース線が隣接して並列に配置される部位の前記一対の樹脂部材に挟まれた接合部にのみ、前記絶縁外皮が溶融除去された前記編組線と被覆が溶融除去された前記アース線の芯線とが電気的に接続された状態で埋設されていることを特徴とするシールド電線のシールド処理構造。
【請求項3】
芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、被覆されたアース線と、前記シールド電線と前記アース線を挟持する一対の樹脂部材とを用意し、
前記一対の樹脂部材間に前記シールド電線と前記アース線を交わらせた状態で介在させ、各樹脂部材間に圧縮力を作用させつつ超音波加振することにより、前記絶縁外皮と前記アース線の被覆部分を溶融除去し、前記編組線と前記アース線の芯線とを電気的に接触させるシールド電線のシールド処理方法において、
前記樹脂部材同士が接合される接合面には、前記シールド電線が収容される溝空間がそれぞれ設けられ、該溝空間の長手方向の少なくとも前記アース線が交わる部位の短手方向の空間幅は、前記シールド電線の前記芯線の外径よりも大きく、前記絶縁外皮の内径よりも小さく形成され、
一方の前記樹脂部材の前記接合面の上に前記アース線を配置した後、前記シールド電線の一部が該アース線の上に重なるように、該シールド電線を前記溝空間の上位置に配置し、この状態で、他方の前記樹脂部材を被せて押し付け超音波加振することを特徴とするシールド電線のシールド処理方法。
【請求項4】
芯線の外周を覆う絶縁内皮とこの絶縁内皮の外周を覆う編組線とこの編組線の外周を覆う絶縁外皮とを有するシールド電線と、被覆されたアース線と、前記シールド電線と前記アース線を挟持する一対の樹脂部材とを用意し、
前記一対の樹脂部材間に前記シールド電線と前記アース線を介在させ、各樹脂部材間に圧縮力を作用させつつ超音波加振することにより、前記絶縁外皮と前記アース線の被覆部分を溶融除去し、前記編組線と前記アース線の芯線とを電気的に接触させるシールド電線のシールド処理方法において、
前記樹脂部材同士が接合される接合面には、前記シールド電線が収容される断面円弧状の第1の溝と、該第1の溝に沿って連設され、該第1の溝よりも溝深さが小さい断面円弧状の第2の溝とがそれぞれ設けられ、前記第1の溝の前記第2の溝が連設される部位の溝幅は、前記シールド電線の前記芯線の外径よりも大きく、前記絶縁外皮の内径よりも小さく形成され、前記第2の溝の溝幅は、前記アース線の芯線を収容可能に形成され、
一方の前記樹脂部材の前記第1の溝に沿って前記シールド電線を配置すると共に、前記第2の溝に沿って前記アース線を配置した状態で、他方の前記樹脂部材を被せて押し付け超音波加振することを特徴とするシールド電線のシールド処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−225543(P2010−225543A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74201(P2009−74201)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】