説明

ジベンズアゼピン共重合体

【課題】 優れた蛍光性を有し、合成が容易である架橋型ジフェニルアミン系の重合体を提供すること。
【解決手段】 窒素雰囲気下で2,8−ジブロモ−10,11−ジヒドロ−5−(3,3−ジメチルアミノプロピル)ジベンズアゼピンとビス(トリメチルスタニル)チオフェンとをトルエンに溶解させる。そして、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)を加えた後、90℃に昇温して48時間攪拌する。生成した反応液をメタノールに注ぎ、得られた粉末をろ過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンで架橋されたジフェニルアミンであるジベンズアゼピン誘導体を主鎖に持つ新規なジベンズアゼピン共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ケイ素化合物で架橋されたジフェニルアミンを主鎖に持つ重合体が知られている。この重合体は、蛍光を有し、蛍光材料として利用できる(下記特許文献1)。この重合体は、蛍光強度が低下し難く、色移りのおそれが少ないという利点がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−250536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のケイ素化合物で架橋されたジフェニルアミンの重合体は、合成に手間がかかるという問題があった。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、優れた蛍光性を有し、合成が容易である架橋型ジフェニルアミン系の重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で表されるジベンズアゼピン化合物を主鎖骨格とする重合体が、蛍光性を有することを見いだした。即ち、本発明の重合体は下記一般式(1)で示されるようなジベンズアゼピン化合物を主鎖骨格とすることを特徴とする。
【化1】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。nは重合度を示す。)
【0006】
上記化合物(1)の構造式におけるジベンズアゼピンとArとの間の斜線は、ジベンズアゼピンとAr化合物とが共重合していることを意味している。共重合はランダムに結合していても(ランダム共重合体)、交互に結合していても(交互共重合体)よい。
【0007】
発明者らの試験結果によれば、本発明のジベンズアゼピン共重合体は、紫外線の照射によって蛍光を示す。しかも基本骨格の中のArで示される二価のアリール基の存在により、蛍光収率が高くなる。また、ベンゼン環どうしが架橋されているため、熱に対して安定である。このため、耐久性のある蛍光性添加剤として利用することができる。
【0008】
また、本発明の重合体において、ジベンズアゼピン化合物とアリール基は、ランダムに結合していても(ランダム共重合体)、交互に結合していても(交互共重合体)よい。
【0009】
ジベンズアゼピンとアリール基の導入比はx:1−xで表すことができるが、本発明においては、0<x<1の任意の値をとることができる。
【0010】
また、本発明のジベンズアゼピン共重合体は、下記一般式(2)で表されるハロゲン化ジベンズアゼピン化合物と、アリール化合物モノマーとを、触媒の存在下で反応させることによって製造することができる。
【化2】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、X,Xはハロゲン元素を示す。)
【0011】
前記触媒はパラジウム錯体であり、アリール化合物はアリール基を有するジスタニル化合物及び/又はアリール基を有するジボリル化合物とすることができる。すなわち、ハロゲン化ジベンズアゼピン化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって、本発明のジベンズアゼピン共重合体を製造することができる。
【0012】
また、他の製造方法として、本発明のジベンズアゼピン共重合体は、下記一般式(2)で表されるジベンズアゼピン化合物と他のジハロゲン化芳香族化合物とをニッケル錯体を用いて脱ハロゲン化重縮合反応を行うことによって製造することもできる。
【化2】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、X,Xはハロゲン元素を示す。)
【0013】
さらに、他の製造方法として、本発明のジベンズアゼピン共重合体は、下記一般式(3)で表されるジベンズアゼピン化合物と他のアリール化合物とを酸化剤を用いて重縮合反応を行うことによって製造することができる。
【化3】


(式中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)
【0014】
発明者らは、これらの製造方法により、本発明のジベンズアゼピン共重合体が収率よく得られることを確認している。
【0015】
本発明の重合体を樹脂に練り込んで含有させた場合、重合体が樹脂の分子と複雑に絡み合うこととなる。このため、樹脂に含有された重合体はブリード現象を起こし難くなり、添加した樹脂の効果が持続するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のジベンズアゼピン共重合体は、文献未記載の新規化合物であり、5,10,10,11,11−ジヒドロ−5H−ジベンズアゼピン化合物を主鎖骨格に持つポリマーである。前記一般式(1)においてRは、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基又はアリーロキシ基のいずれかである。Rが水素原子以外の場合、置換基を有していてもよい。
【0017】
アルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−又はiso−プロピル、n−、iso−又はtert−ブチル、n−、iso−又はneo−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−又はiso−プロポキシ、n−、iso−又はtert−ブトキシ、n−、iso−又はneo−ペントキシ、n−ヘキソキシ、シクロヘキソキシ、n−ヘプトキシ、n−オクトキシ等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基があげられる。アリール基としては、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、1−および2−ナフチル基、アントリル基等の炭素数6〜20、好ましくは6〜14のアリール基が挙げられる。アリーロキシ基としては、フェノキシ基、o−、m−、p−トリロキシ基、1−および2−ナフトキシ基、アントロキシ基等の炭素数6〜20、好ましくは6〜14のアリーロキシ基が挙げられる。
【0018】
また、前記一般式(1)において、Arで表される二価のアリール基としては、o−、p−フェニレン、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−2,3−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,3−ジイル、ピリジン−4,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−1,2−ジイル、ナフタレン−1,7−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、アントラセン−1,4−ジイル、アントラセン−2,6−ジイル、アントラセン−1,7−ジイル、ビフェニレン−4,4’−ジイルが挙げられ、これらの芳香族化合物の芳香環上が置換された化合物も含まれる。
【0019】
Arとして、アリール基の芳香環上が置換された化合物としては、アルコキシベンゼン−1,4−ジイル、アルキルベンゼン−1,4−ジイル、アリールベンゼン−1,4−ジイル、アリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、アルコキシチオフェン−2,5−ジイル、アルキルチオフェン−2,5−ジイル、アリールチオフェン−2,5−ジイル、アリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルコキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルキルチオフェン−2,5−ジイル、ジアリールチオフェン−2,5−ジイル、ジアリーロキシチオフェン−2,5−ジイルが挙げられる。
【0020】
さらに、前記一般式(1)のRが有する置換基としては、後記する重合反応に関与しないものであればよく、例えば、前記したアルコキシ基、アルキル基、アリール基、アリーロキシ基が挙げられる。また、一般式(1)中のnは、平均重合度であり、数平均分子量や重量平均分子量等から求められる。本発明のジベンズアゼピン共重合体の平均重合度は、高分子としての機能発現から考慮すると2〜10000が望ましい。
【0021】
本発明のジベンズアゼピン共重合体の製造方法及び本発明の共重合体の製造方法の一例としては、ハロゲン化ジベンズアゼピン化合物とジスタニル化合物又はジボリル化合物をパラジウム系触媒の存在下に反応させることにより行うことができる。この反応は、下記反応式(a)で示される。
【0022】
【化4】


反応式(a)において、R及びArは、いずれも前記一般式(1)で説明したと同意義である。また、X及びXはそれぞれ独立にハロゲン原子を示し、Y、Yは、ボリル基又はスタニル基を示す。nは重合度である。
【0023】
これらの製造方法では、まず、ハロゲン化されたジベンズアゼピン化合物又はハロゲン化された化合物及びジスタニル化合物又はジボリル化合物を適当な有機溶媒に溶解させる。そして、その溶液中にモノマー1当量に対して0.001〜20当量のパラジウム系触媒を添加することにより縮重合反応が進行し、一般式(1)で表されるジベンズアゼピン共重合体を容易に得ることができる。
【0024】
反応式(a)中のハロゲン化ジベンズアゼピン化合物において、X及びXで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、合成の容易さおよび化合物の安定性から特に臭素原子は好ましい。
【0025】
また、反応式(a)中のY−Ar−Yにおいて、Y及びYで示されるスタニル基としては、トリメチルスタニル基、トリエチルスタニル基、トリブチルスタニル基、ジメチルブチルスタニル基が挙げられる。また、Y及びYで示されるボリル基としては、ジヒドロキシボリル基、ジメトキシボリル基、ジエトキシボリル基、メトキシエトキシボリル基、2,1,3−ジオキサボリル基が挙げられる。
【0026】
上記の重縮合反応には、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。これを例示すれば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、ベンゼン、THF等である。
【0027】
ここで、重縮合反応にはパラジウム系触媒が用いられる。パラジウム系触媒としては、従来公知の金属パラジウムを含むパラジウム化合物やパラジウム錯体が用いられる。具体的には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸パラジウム、テトラキス(トリメチルホスフィン)パラジウム、トリス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリエチルホスフィト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルアルシン)パラジウム、カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、(η−エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、(η−無水マレイン酸)[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、クロロ(メチル)(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジエチルビス(トリフェニルフォスフィト)パラジウム、ジエチルビス(トリメチルフォスフィト)パラジウム、ジエチルビス(トリ−i−プロピルフォスフィト)パラジウム、ジメチル[1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン]パラジウム、ジメチル[1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン]パラジウム、ジメチル[1,2−ビス(ジメチルアミノ)エタン]パラジウム、ジメチルビス(4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン)パラジウム、ビス(t−ブチルイソシアニド)ジメチルパラジウム、ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルイソシアニド)ジメチルパラジウム、ジフェニルビス(メチルジフェニルホスフィニト)パラジウム、ジベンジルビス(トリメチルホスフィン)パラジウム、ジエチニルビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ジネオペンチル(2,2’−ビピリジル)パラジウム、ブロモ(メチル)ビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ベンゾイル(クロロ)ビス(トリメチルホスフィン)パラジウム、シクロペンタジエニル(フェニル)(トリエチルホスフィン)パラジウム、η−アリル(ペンタメチルシクロペンタジエニル)パラジウム、π−アリル(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムテトラフルオロほう酸塩、ビス(π−アリル)パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム、塩化パラジウム、パラジウム炭素などの担持パラジウム金属等を例示することができる。これらのパラジウム系触媒は、原料のジベンズアゼピン化合物一当量あたり、0.001〜20当量、好ましくは0.01〜0.1当量の割合で用いられる。
【0028】
また、式(a)においては、パラジウム系触媒に対し0.1〜10当量の塩化リチウムや臭化銅等の添加剤を加えて反応させてもよい。さらに、重縮合反応では塩基を加えて反応させることができる。その塩基としては、カップリング反応において通常用いられる種々の塩基を用いることができる。これを例示すれば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、フッ化セシウム、酸化アルミニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリンが挙げられる。
使用する塩基の量としては、前記反応式(a)に示したジベンズアゼピン化合物1当量に対して1〜100当量、好ましくは1〜20当量である。また、これらの塩基は水溶液にして使用してもよい。
【0029】
この重縮合反応は、溶媒の融点〜溶媒の沸点まで種々の温度で実施できるが、特に0℃〜100℃程度が望ましい。反応終了後、生成物は再沈法等によって容易に精製できる。
【0030】
また、前記反応式(a)においては、さらにジハロゲン化アリールを反応系中に加えることにより、ジベンズアゼピンの導入量および重合体の色調を変えることが可能である。この反応は、下記反応式(a’)で示される。
【0031】
【化5】


反応式(a’)において、Rは、前記一般式(1)で説明したと同意義である。 ArおよびAr’は、二価のアリール基であり、前記一般式(1)で説明したと同意義である。また、X、X、X、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子を示し、Y、Yは、それぞれ独立にボリル基又はスタニル基を示す。nは重合度である。
【0032】
前記一般式(1)で表される重合体は、前記一般式(2)のハロゲン化されたジベンズアゼピン化合物およびジハロゲン化アリールを溶媒に溶かし、これらモノマーのモル数の和に対し0.1〜20当量のニッケル錯体を用いて脱ハロゲン化カップリング反応下にて重合を行うことによって製造することができる。この反応は、下記反応式(b)で示される。
【0033】
【化6】


反応式(b)において、R及びArは、いずれも前記一般式(1)で説明したと同意義である。また、X、X、X、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子を示し、前記一般式(2)で説明したものと同意義である。nは重合度である。
【0034】
ニッケル錯体を用いる脱ハロゲン化重縮合においては、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。これを例示すれば、DMF、トルエン、ベンゼン、THF等である。
【0035】
前記ニッケル錯体としては、テトラカルボニルニッケル(0)、ジカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、(η−エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(イソシアン化t−ブチル)ニッケル(0)、[(1,2,5,6,8,10−η)−trans,trans,trans−1,5,9−シクロドデカトリエン]ニッケル(0)、等を例示することができる。ニッケル錯体は、前記(3)の化合物一当量あたり、0.1〜20当量、好ましくは1〜5当量の割合で用いられる。
【0036】
また、ニッケル錯体には支持配位子として0.1〜10当量の2,2’−ビピリジルやトリフェニルホスフィン等の配位子を加えてもよい。例を挙げれば、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)に2,2’−ビピリジルを1当量加えて用いる、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)にトリフェニルホスフィンを2当量加えて用いる等である。
【0037】
脱ハロゲン化重縮合反応は、溶媒の融点〜溶媒の沸点まで種々の温度で実施できるが、特に0℃〜100℃程度が望ましい。反応後は、再沈等によって精製できる。
【0038】
前記一般式(1)のジベンズジシラアゾシン化合物は、前記一般式(2)のジベンズジシラアゼピン化合物と芳香属化合物を溶媒に溶かし、ついで、ジベンズジシラアゼピンユニットと芳香族化合物のモル数の和に対し1〜20当量の酸化剤を用いて酸化反応を行うことによって製造することができる。この反応は、下記反応式(c)で示される。
【0039】
【化7】


反応式(c)において、R及びArは、いずれも前記一般式(1)で説明したと同意義である。nは平均重合度を示す。)
【0040】
酸化重合においては、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。これを例示すれば、水、塩酸水溶液、アセトニトリル、クロロホルム等である。
【0041】
酸化剤としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、塩化鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、酸化クロム(VI)等を例示することができる。酸化剤は、前記(3)の化合物一当量あたり、0.1〜20当量、好ましくは1〜5当量の割合で用いられる。
【0042】
また、式(c)においては、過塩素酸リチウムや過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸ナトリウム、テトラフルオロほう酸テトラブチルアンモニウムの添加剤を加えて反応させてもよい。
【0043】
酸化重合は、溶媒の融点〜溶媒の沸点まで種々の温度で実施できるが、特に0℃〜100℃程度が望ましい。反応後は、再沈等によって精製できる。
【0044】
本発明の重合体を樹脂に含有させることにより、本発明の蛍光性樹脂となる。樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、MS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリ−4−メチルペンテン−1、フッ素樹脂、フェノキシド樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリウレタン等を挙げることができる。これらの樹脂の内、透明性を有する樹脂を選べば、蛍光顔料の内部からの蛍光の放射が可能となるため、より優れた美観を奏することの可能な蛍光顔料となる。
【0045】
本発明の蛍光性樹脂における蛍光顔料の含有割合は任意とすることができるが、0.00001〜50質量%の範囲が望ましい。蛍光顔料が0.00001質量%より少ない場合、放射される蛍光が弱くなり、発明の効果を十分に発揮することができなくなる。また蛍光顔料が50質量%より多いと、樹脂としての本来の性質が発揮されなくなり、機械的強度が弱くなる等の不具合の生ずるおそれがある。特に好ましいのは蛍光顔料が0.0001〜1質量%の範囲である。
【0046】
蛍光顔料の樹脂への含有方法については特に限定はないが、例えばニーダー、エクストルーダ、ロールミル等により樹脂の軟化温度以上で合成樹脂と練り合わし、冷却後にチョッパーミル等にて粗粉砕した後に、ファインミル、ジェットミル、超音速ジェットミル等により微粉砕して、蛍光性樹脂とすることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
下記式に示すポリ{(5−(3−ジメチルアミノプロピル)−10,11−ジヒドロジベンズアゼピン−2,8−ジイル)−alt−(チオフェン−2,5−ジイル)}の合成(一般式(1),R=3−ジメチルアミノプロピル基,Ar=チオフェン−2,5−ジイル基,ジベンズアゼピン含有比0.5)
【化8】


窒素雰囲気下で2,8−ジブロモ−5−(3−ジメチルアミノプロピル)−10,11−ジヒドロジベンズアゼピン560mg(1.28mmol)とビス(トリメチルスタニル)チオフェン(反応式(a)参照、Ar=チオフェン−2,5−ジイル基,Y=Y=トリメチルスタニル基)525mg(1.28mmol)をDMF10mLに加えて溶解させた。次に、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)74mgを加えた後、90℃に昇温して48時間かくはんした。生成した反応液をメタノールに注ぎ、得られた粉末をろ過した。この粉末をフッ化カリウム水溶液、メタノール水溶液の順で洗浄することにより、上記化学式に示すポリマー261mg(モノマー単位として0.73mmol)を単離した。
【0048】
こうして得られたポリマーの数平均分子量は850(THF溶媒、ポリスチレン換算GPC)、重量平均分子量は1100(THF溶媒、ポリスチレン換算GPC)であった。
【0049】
実施例2
下記式に示すポリ{((5−(3−ジメチルアミノプロピル)−10,11−ジヒドロジベンズアゼピン−2,8−ジイル)−co−(チオフェン−2,5−ジイル))の合成(一般式(1),R=3−ジメチルアミノプロピル基,Ar=チオフェン−2,5−ジイル基,ジベンズアゼピン含有比0.24)
【化9】


窒素雰囲気下で2,8−ジブロモ−5−(3−ジメチルアミノプロピル)−10,11−ジヒドロジベンズアゼピン(反応式(a’)参照、X=X=臭素原子)451mg(0.54mmol)、2,5−ジブロモチオフェン(反応式(a’)参照、Ar’=チオフェン−2,5−ジイル基,X=X=臭素原子)136mg(0.56mmol)とビス(トリメチルスタニル)チオフェン(反応式(a’)参照、Ar=チオフェン−2,5−ジイル基,Y=Y=トリメチルスタニル基)525mg(1.1mmol)をDMF10mLに加えて溶解させた。次に、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)64mgを加えた後、90℃に昇温して48時間かくはんした。生成した反応液をメタノールに注ぎ、得られた粉末をろ過した。この粉末をフッ化カリウム水溶液、メタノール水溶液の順で洗浄することにより、上記化学式に示すポリマー172mgを赤色粉末として単離した。
【0050】
実施例3
下記式に示すポリ{(10,11−ジヒドロジベンズアゼピン−2,8−ジイル)−co−(ピリジン−2,5−ジイル)}の酸化剤を用いる合成(一般式(1),R=水素原子,Ar=ピリジン−2,5−ジイル基,ジベンズアゼピン含有比0.5)
【化10】


窒素雰囲気下でビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)0.82g(2.98mmol)に1,5−シクロオクタジエン1mLを加えた後にトルエンを2.5mL加えて懸濁させた。更に2,2’−ビピリジル0.47g(2.98mmol)を加えてかくはんした。更に438mg(1.24mmol)の2,8−ジブロモ−10,11−ジヒドロジベンズアゼピン(反応式(b)参照,X=X=臭素原子,R=水素原子)と295mg(1.24mmol)2,5−ジブロモピリジン(反応式(b)参照、Ar=ピリジン−2,5−ジイル基,X=X=臭素原子)を5mLのトルエンに溶かしたものを加えた後に60℃に昇温して48時間かくはんした。反応液をメタノールに注ぎ、得られた粉末をろ過した。この粉末を水、メタノール、ヘキサンの順で洗浄することにより、275mgのポリマーを黄緑色の粉末として単離した。
【0051】
実施例4
下記式に示すポリ{(10,11−ジヒドロジベンズアゼピン−2,8−ジイル)−co−(チオフェン−2,5−ジイル)}の酸化剤を用いる合成(一般式(1),R=水素原子,Ar=チオフェン−2,5−ジイル基,ジベンズアゼピン含有比0.5)
【化11】


窒素雰囲気のシュレンク管に、無水塩化鉄0.65g(4mmol)とクロロホルム10mLを加え、さらにジベンズアゼピン1mmol(0.1953g)とチオフェン1mmol(0.08ml)を10mLのクロロホルムに溶かしたものを加えて6日間撹拌した。反応液を多量のメタノールに注ぎ、吸引ろ過して得られた粉末をヒドラジン水溶液、メタノールのそれぞれで撹拌洗浄し、減圧乾燥することにより、上記化学式に示すポリマー上記化学式に示すポリマー120mgを赤色粉末として単離した。
【0052】
実施例5 ジベンズアゼピン共重合体を含有するポリ乳酸
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製、商品名:テラマックT−4000)50gに実施例4で得たポリ{(10,11−ジヒドロジベンズアゼピン−2,8−ジイル)−co−(チオフェン−2,5−ジイル)}を25mg加え、小型押出機(CSI社 MAX MIXING EXSTRUDER モデルCS194A)により180℃で溶融混練し、蛍光顔料としてのマスターバッチ1を得た。
さらに、このマスターバッチ1を0.15g量り採り、マスターバッチ1を調製するために用いたポリ乳酸と同じポリ乳酸1.35gに加え、小型押出機により、180℃の温度で溶融混練して蛍光性樹脂とし、この蛍光性樹脂を小型射出成形機(CSI社 MINI MAX MOLDER モデルCS−183MMX)で180℃で射出成形してダンベル形状の試験片1を得た。
【0053】
実施例6 ジベンズアゼピン共重合体を含有するポリスチレン
実施例6では、マスターバッチの調製及び蛍光性樹脂の調製に用いる樹脂として、ポリスチレン(A&M(株)製、商品名:ポリスチレンHF55、色番:クリスタル)を用い、それらの調製時の温度は220℃とした。他の条件は実施例5と同様である。こうして実施例4に係るマスターバッチ2及び試験片2を得た。
【0054】
(比較例)
実施例5と同様の条件で、ジベンズアゼピン誘導体の重合物を加えていないポリ乳酸の試験片を比較例1として作製した。また、比較例2として、ジベンズアゼピン誘導体の重合物を加えていないポリスチレンの試験片を作製した。
【0055】
(蛍光スペクトル測定)
上記試験片1及び比較例1について、紫外線照射下における蛍光スペクトル測定を行った。その結果、実施例1に示したジベンズアゼピン誘導体の重合物を含有する試験片1では、380nm付近に蛍光のピークが認められた。また、試験片2においても、380nm付近に蛍光のピークが認められた。これに対し、ジベンズアゼピンを含まない樹脂である比較例1および比較例2については、蛍光が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、架橋構造をもつジフェニルアミンであるジベンズアゼピンを主鎖に持つ共重合体を簡便に合成することができる。さらに、得られた共重合体は蛍光材料に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジベンズアゼピン共重合体。
【化1】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。nは重合度を示す。式中の斜線は共重合をしていることを示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるハロゲン化ジベンズアゼピン化合物と、アリール化合物モノマーとを、触媒の存在下で反応させることによって、請求項1に記載のジベンズアゼピン共重合体を生成させることを特徴とする請求項1に記載の重合体の製造方法。
【化2】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、X1,X2はハロゲン元素を示す。)
【請求項3】
前記触媒はパラジウム錯体であり、アリール化合物はアリール基を有するジスタニル化合物及び/又はアリール基を有するジボリル化合物であることを特徴とする請求項2記載のジベンズアゼピン共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記触媒はニッケル錯体であり、アリール化合物はアリール基を有するジハロゲン化化合物であることを特徴とする請求項2記載のジベンズアゼピン共重合体の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(3)で表されるジベンズアゼピン化合物を他のアリール化合物と共に酸化剤を用いて重縮合させて請求項1に記載のジベンズアゼピン共重合体を生成させることを特徴とするジベンズアゼピン共重合体の製造方法。
【化4】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるジベンズアゼピン共重合体からなる蛍光剤。
【化5】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。nは重合度を示す。式中の斜線は共重合をしていることを示す。)
【請求項7】
下記一般式(1)で表されるジベンズアゼピン共重合体を蛍光成分として含有することを特徴とする蛍光材料。
【化6】


(式中、Rは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。nは重合度を示す。式中の斜線は共重合をしていることを示す。)
【請求項8】
請求項1に記載のジベンズアゼピン重合体が樹脂に含有されていることを特徴とする蛍光性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−115247(P2008−115247A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298708(P2006−298708)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】