説明

ジンセノサイド化合物Kを含有するヒアルロン酸生成促進剤

本発明は、ジンセノサイド化合物Kを含有するヒアルロン酸生成促進剤に関する。より詳細には、本発明は、人参サポニンの主要代謝産物である20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオール(化合物K)の効能、すなわち化合物Kがヒト細胞に存在するヒアルロン酸合成酵素(hyaluronic acid synthase;HAS)遺伝子の発現を増加させ、ヒト細胞においてヒアルロン酸(hyaluronic acid)の生成を促進する効能があることを明らかにし、これを含有することによってヒアルロン酸の生成を促進する機能を有するヒアルロン酸生成促進剤に関する。また、本発明は、前記化合物Kを含有するヒアルロン酸生成促進剤を有効成分とする老化防止剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジンセノサイド化合物Kを含有するヒアルロン酸生成促進剤に関する。より詳細には、本発明は、人参サポニンの主要代謝産物である20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオール(以下、「化合物K」という)の効能、すなわち化合物Kがヒト細胞に存在するヒアルロン酸合成酵素(hyaluronic acid synthase;HAS)遺伝子の発現を増加させ、ヒト細胞においてヒアルロン酸(hyaluronic acid)の生成を促進する効能があることを明らかにし、これを含有することによってヒアルロン酸の生成を促進する機能を有するヒアルロン酸生成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、硫酸基が付着していないグルコサミノグリカン(nonsulfated glucosaminoglycan)の一種であって、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミン残基が反復的に鎖形状で連結されている線形の分子量20万〜40万の高分子物質である。ヒアルロン酸は、細胞外基質の主要構成成分であり、水分の保有、細胞間の間隙の維持、細胞成長因子及び栄養成分の貯蔵及び拡散に関与するだけでなく、細胞の分裂と分化、移動などにも関与すると報告されている。
【0003】
哺乳類の体内に存在するヒアルロン酸の50%以上が皮膚、特に表皮の細胞間の間隙と真皮の結合組織に分布すると報告されており、このようなヒアルロン酸は、主に角質形成細胞と繊維芽細胞により合成されると知られている。ヒトの皮膚でのヒアルロン酸の量は、老化に伴って減少すると報告されているが、皮膚でのヒアルロン酸の量の減少は、老化による皮膚弾力低下及び水分含有量減少の直接的な原因の1つであると思われている(Biochem Biophys Acta 279, 265-275, Carbohydr Res 159, 127-136, Int J Dermatol 33, 119-122)。
【0004】
一方、ヒトの関節嚢(joint capsule)は、外部の繊維層と内部の滑膜層とから構成されているが、滑膜で産生される滑液(synovial fluid)は、ヒアルロン酸(hyaluronate, hyaluronic acid)及び糖蛋白質(glycoprotein)を含有しており、これらの2成分は、関節を潤滑させる作用をする。退行性関節炎が起こると、関節内で潤滑作用をするヒアルロン酸の生成が減少し、蛋白酵素による破壊が増加し、関節内でヒアルロン酸が減少するとの報告がある。すなわち、関節内でヒアルロン酸が減少するにしたがって、関節で外部衝撃を吸収したり分散することができず、関節の損傷が激しくなることがある。これより、ヒアルロン酸を関節に注入して関節炎を緩和させる方法が1997年米国FDAで認定され、現在適用されているが、究極的には身体内のヒアルロン酸の合成を増加させる方法がさらに有効であると考えられる。
【0005】
皮膚細胞培養状態でのヒアルロン酸の合成は、いろいろな種類の成長因子とトランスレチノイン酸、N−メチルセリンなどにより増加されるという報告(Biochem. J. 258, 919-922, Biochem. J. 283, 165-170, Biochem. J.307 817-821, J. Biol. Chem. 272, 4787-4794, J Invest Dermatol 92, 326-332, Biol Pharm Bull 17, 361-364, Skin Pharmacol Appl Skin Physiol 12, 276-283)と、皮膚に塗布された女性ホルモン(estradiol)及びその類似物質がヒアルロン酸の合成を増加させるという報告(Steroids 16, 1-3, J Invest Dermatol 87, 668-673, Skin Pharmacol Appl Skin Physiol 15, 175-183)があるが、ヒアルロン酸代謝についての詳細な機作は未だ明らかになっていない。但し、ヒアルロン酸の合成は、細胞膜の内側表面でヒアルロン酸合成酵素(hyaluronic acid synthase)により進行され、合成される間、細胞膜を通り抜けて細胞外基質に蓄積されると知られている(J. Biol. Chem. 272, 13997-14000)。
【0006】
哺乳動物においてヒアルロン酸合成酵素の遺伝子は、配列の類似性が高いHAS1、HAS2、HAS3の3つの形態が報告されている。これと関連して、表皮成長因子(Epidermal growth factor;EGF)を表皮細胞培養液中に添加した時、HAS2遺伝子の発現が増加されることが報告されている(J. Biol. Chem. 276, 20428-20435)。しかしながら、ヒアルロン酸の細胞及び組織での分布、ヒアルロン酸と関連した各種因子及び酵素、例えば、ヒアルロン酸合成酵素またはヒアルロン酸活性を調節する因子についての研究は非常に不十分であるのが実情である。
【0007】
前述のようなヒアルロン酸の適用可能性に着目し、ヒアルロン酸を效果的に生産及び注入するか、またはヒトの体内においてヒアルロン酸の合成を増加させる方法についての研究が盛んに進行されているが、注目すべき研究結果は未だ知られていないことが現状である。
【非特許文献1】Biochem. J. 258, 919-922
【非特許文献2】Biochem. J. 283, 165-170
【非特許文献3】Biochem. J.307 817-821
【非特許文献4】J. Biol. Chem. 272, 4787-4794
【非特許文献5】J Invest Dermatol 92, 326-332
【非特許文献6】Biol Pharm Bull 17, 361-364
【非特許文献7】Skin Pharmacol Appl Skin Physiol 12, 276-283
【非特許文献8】Steroids 16, 1-3
【非特許文献9】J Invest Dermatol 87, 668-673
【非特許文献10】Skin Pharmacol Appl Skin Physiol 15, 175-183
【非特許文献11】J. Biol. Chem. 272, 13997-14000
【非特許文献12】J. Biol. Chem. 276, 20428-20435
【発明の開示】
【0008】
[発明の要約]
これより、本発明者らは、ヒアルロン酸をより效果的にヒトの体内に供給できる方法について鋭意研究した結果、免疫増強効果、腫瘍血管新生抑制効果及び癌細胞浸潤抑制効果などがあると知られた人参サポニンの主要代謝産物である化合物K(20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオール)が、前記公知の効能だけでなく、ヒト細胞内のヒアルロン酸合成酵素をコーディングする遺伝子の発現を増加させ、結果的にヒトの体内においてヒアルロン酸の生成を促進する効能があることを見出した。すなわち、化合物Kをヒト細胞に注入する場合、ヒアルロン酸の生成が促進し、細胞内のヒアルロン酸の量が増加するので、ヒアルロン酸の有用性を利用する各種の用途、例えば、皮膚弾力増進、皮膚乾燥防止または皮膚老化防止のような皮膚改善用、または退行性関節炎の治療または予防のための医薬用に利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進し、ヒアルロン酸の生成を促進する化合物Kの用途を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、化合物Kを有効成分として含有するヒアルロン酸生成促進剤を提供することにある。
また、本発明のさらに他の目的は、ヒアルロン酸合成酵素の効能を利用する各種の用途、例えば、皮膚弾力増進、皮膚乾燥防止または皮膚老化防止のような皮膚改善用、または退行性関節炎の治療または予防用などへの化合物Kの利用可能性を提供することにある。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、免疫増強効能、腫瘍血管新生抑制効能及び癌細胞浸潤抑制効能があると知られた化合物Kの新しい効能、すなわちヒアルロン酸合成酵素(hyaluronic acid synthase)遺伝子の発現を増加させ、ヒアルロン酸の生成を促進する効能を提供することを特徴とする。
【0011】
[発明の詳細な説明]
以下、本発明を詳細に説明する。
化合物K、すなわち20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオール(下記化学式1)は、人参サポニンの人体内での主要代謝産物であり、腸内細菌により形成されると知られている(Hasegawa, H., Sung, J. H., Matsumiya. S., Uchiyama. M., (1996)Planta Medica 62, 453-457)。

【化1】

【0012】
人参ジンセノサイド誘導体は、ダマラン系(dammarane)のトリテルペノイド(triterpenoid)であるプロトパナキサジオールと、プロトパナキサトリオールにグルコース(glucose)、ラムノース(rhamnose)、アラビノース(arabinose)またはキシロース(xylose)などの糖類がエーテル結合した化合物であって、今まで高麗人参から総29種のジンセノサイド誘導体が分離された。総サポニン成分は、1964年シバタ(Shibata)が人参に含有された配糖体という意味でジンセノサイド(ginsenoside)と命名し、薄層クロマトグラフィー(TLC)から分離された移動距離の順にオレアニン(oleanine)系サポニンであるジンセノサイド(ginsenoside)−Roと、ジンセノサイド(ginsenoside)−Ra、−Rb1、−Rb2、−Rc、−Rd、−Re、−Rf、−Rg1、−Rg2、−Rg3及び−Rhなどと命名した。人参サポニンは、アグリコンに結合されている糖の種類や結合された糖類の数または結合位置によって薬理効能が各々異なることが既に明らかにされており、人参中に含量が多く、分離することが容易な主要サポニン成分の薬理効能については多くの研究が行われてきたが、主に紅参のみに存在する微量サポニンや人体に摂取された時に生成される代謝産物サポニンの薬理効能に関する研究は相対的に少ない。
【0013】
人参のサポニン成分の中でプロトパナキサジオールに1つの糖(グルコース)が結合された化合物K、すなわち20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオールは、癌細胞増殖抑制作用、腫瘍増殖抑制作用、抗癌剤の抗癌活性増大作用などの薬理的効能があると知られており、特に、最近、サポニンの代謝物に関する研究が進行されながら、人参サポニンの薬効は、サポニン自体であるよりは、腸内細菌の代謝物がその活性の本体であることが知られている(Chem Pharm Bull 38(10) 2859-2861, Bio. Pharm. Bull 25(6) 743-747)。
【0014】
本発明では、化合物Kをヒトの皮膚細胞株、すなわち角質形成細胞株であるHaCaTと繊維芽細胞株であるHDFに処理した時、HAS2遺伝子の発現が増加することを確認した。すなわち、化合物Kを24時間処理したHaCaT、HDF細胞は、化合物Kを処理しない細胞に比べてヒアルロン酸合成酵素の遺伝子発現が2.5倍乃至3倍程度増加し、HaCaTに化合物Kを1μM濃度で処理した後、24時間経過時に約3倍増加、48時間経過時に5倍増加したことを確認した。言い換えれば、化合物Kは、ヒト細胞内のヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進する効能があるものである。 同時に、ヒト細胞株でのヒアルロン酸の量が化合物Kの処理により増加することを確認することができた。
【0015】
また、化合物Kを無毛マウスに処理した時、ヒアルロン酸の生成が増加することを確認した。無毛マウスの背中の肌にパッチの形態で化合物Kを処理した場合、表皮及び真皮において各々3倍程度のヒアルロン酸の生成が増加したことを確認した。言い換えれば、化合物Kは、ヒトへ注入した場合に組織内のヒアルロン酸の生成を促進する効能があることを示している。
【0016】
さらに、化合物Kを含有した外用剤をヒト皮膚に処理するとシワ、保湿、弾力、滑らかさ、ツヤの改善効果があることを確認した。
【0017】
本発明に用いられる化合物Kは、天然の化合物K、または公知の製造方法により人工的に製造された化合物Kを制限なく使用することができる。化合物Kの収得方法には、例えば、人参から製造された精製サポニンを水や緩衝溶液のような水性溶媒、または水や緩衝溶液のような水性溶媒と有機溶媒との混合液に溶解させた後、ペニシリウム属から分離したナリンジナーゼ及びアスペルギルス属から分離したペクチナーゼの少なくとも1つと反応させることによって、化合物Kを獲得する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0018】
本発明によりヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を増加させ、ヒアルロン酸の生成を促進する効能があることが明らかになった化合物Kは、ヒアルロン酸の有用性を利用する各種皮膚外用剤の有効成分として使用することができる。例えば、皮膚弾力増進、皮膚乾燥の防止または皮膚老化の防止などのための皮膚外用剤に添加することができる。また、ヒアルロン酸を投与することによって、疾病、例えば退行性関節炎のような疾病を治療または予防するための薬剤にも添加することができる。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0019】
[発明の効果]
人参サポニンの主要代謝産物である化合物Kは、細胞内のヒアルロン酸合成酵素を暗号化する遺伝子の発現を増加させる効能があり、生体に適用した時、ヒアルロン酸の生成作用を活性化する優れた効果を有する。したがって、化合物Kは、皮膚の弾力低下、水分含有量減少及び老化の進行を效果的に防止及び予防するために利用することができ、しかも、ヒアルロン酸を治療用に適用する退行性関節炎を予防及び治療するために效果的に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明の権利範囲がこれらの実施例に限定されるものではなく、 本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0021】
[実施例1]化合物Kの製造
総人参(紅参、白参、尾参及び人参葉)の抽出物10gをシトレート緩衝液(pH4.0)2Lに溶解した後、ナリンジナーゼ(naringinase;Sigma, St. Louis, MO)10gまたはペクチナーゼ(pectinase;Novozyme, Copenhagen, Denmark)10gを添加し、38℃で48時間培養した。酵素加水分解が完了した後、反応混合物をエチルアセテート2Lを用いて抽出した。真空状態で蒸発した後、残留物2.8gを得た。純粋な化合物Kを得るために、生成物をクロロホルム:メタノール(9:1)で溶離し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。次に、クロロホルム:メタノール(6:1)で溶離し、純粋な化合物K0.28gを得た。
【0022】
[試験例1]化合物Kによるヒト皮膚細胞株HaCaTでのHAS2発現増加
<細胞培養>
自発的に不死化したヒトのケラチノサイト細胞株HaCaTは、Dr.N.E.Fusenig(Deutsches Krebsforschungszentrum(DKFZ), Heidelberg, Germany)から入手し、ヒトの二倍体繊維芽細胞(HDF)は、Dr.S.C.Park(Seoul National University, Seoul, Korea)から入手した。
【0023】
前記細胞を10%牛胎児血清(HyClone)、重炭酸ナトリウム3.6g/L及び抗体(ストレプトマイシン100μg/mL及びペニシリン100U/mL)(Life Technologies,Inc.)を含有するDMEM培地(Dulbecco's modified Eagle's media)で適切な培養条件(37℃、5%CO2、95%空気)下で培養した。細胞は、3日に1回ずつ新鮮な培地に交替し、密度が最上に到達すれば直ぐに1:5の分割比で2次培養した。化合物Kを処理する48時間前に、組織培養フラスコ75cm2当たり1X105個の細胞を分株し、10%牛胎児血清を含有する培地で24時間培養した。その後、無血清培地(serum-free medium)で24時間培養し、1−5μMの化合物Kを含有する新鮮な無血清培地で3、6、12、24または48時間培養した。対照群は、1:10,000希釈して、ビヒクル(ジメチルスルホキシド、DMSO)が補充された培地で培養した。このような対照群の培養では、DMSOの成長及び分化に及ぼすいずれの影響も観察されなかった。
【0024】
<RNA製造>
HaCaT細胞及びHDF細胞は、リン酸緩衝溶液(PBS)(Life Technologies,Inc.)で2回洗浄し、全ての細胞のRNAは、製造業者の指示によってTrizol試薬(GibcoBRL Life Technologies, Grand Island, NY)を使用して分離した。RNA濃度は、光度測定法で測定し、RNAは、アガロースゲル電気泳動でチェックした。
【0025】
<定量的な逆転写PCR(RT-PCR)により化合物KがHAS1、HAS2及びHAS3のmRNA合成に及ぼす影響確認>
定量した総RNAを逆転写し、次いで、HAS1、HAS2及びHAS3プライマーの存在下に定量的なPCRを行った。より詳細には、総RNA4μgをSuperScriptII逆転写重合酵素(2.5U/μL、Invitrogen, Carlsbad, CA)、RNAse抑制剤(1U/μL)、5mM MgCl2、50mM KCl、10mM Tris−HCl(pH8.3)、2.5μM oligo(dT)プライマー及び1mM dNTPsを含有する反応混合物25μLにおいて逆転写した。前記反応混合物を60分間42℃で加熱して逆転写を進行した後、85℃で5分間加熱して逆転写酵素の活性を除去した。続いて、上記の反応混合物5μLを取り、PCR反応に使用した。それぞれのPCRは、AmpliTaq DNA重合酵素(0.04U/μL、Perkin Elmer, Shelton, Connecticut)、50mM Tris−HCl(pH8.3)、0.25mg/mL BSA、3mM MgCl2、0.25mM dNTPs及び0.25μMの適切なセンス(sense)またはアンチセンス(antisense)PCRプライマー(表1)を含有する反応混合物50μL内でPerkin−Elmer Cycler 9600(Perkin-Elmer Applied Biosystems, Foster, CA)を使用して行った。PCR反応条件は、次の通りである:95℃で5分間1回の変性サイクルを進行した後、95℃で45秒、60℃で45秒及び72℃で1分のサイクルを25〜35回繰り返した。PCR結果をアガロースゲルに電気泳動し、エチジウムブロマイド(ethidium bromide)で染色して観察した結果を図1及び図2に示した。GAPDHを増幅した結果を、標準化のための基準とした。
【0026】
【表1】

【0027】
図1は、HaCaT細胞(図1a)及びHDF細胞(図1b)に化合物Kを濃度別に処理した後、ヒアルロン酸合成酵素の遺伝子発現をmRNA水準で確認するために、HAS2を定量的逆転写PCRした結果であって、化合物KによるHAS2の変化を調べたものである。ここで、HAS2 mRNAは、対照群では少量検出されたが、化合物Kを処理したHaCaT細胞及びHDF細胞では、各々3倍及び2.5倍に増加したことが分かる。
【0028】
図2は、HaCaT細胞において化合物KがHAS1、HAS2及びHAS3転写に及ぼす影響を調べた結果を示す図である。HaCaT細胞を、0または1μMの化合物Kを添加した培地で24時間または48時間培養した後に分離したRNAを逆転写して30PCRサイクルで増幅した。その結果、HAS2の転写は、化合物Kを24時間及び48時間処理したHaCaT細胞において3倍及び5倍増加したが、少量検出されたHAS1及びHAS3は、化合物Kにより影響されなかった。
【0029】
[試験例2]化合物Kによるヒト皮膚細胞株でのヒアルロン酸の増加
HaCaT及びHDF細胞をリン酸緩衝溶液で洗浄し、2%パラホルムアルデヒド(v/v)及び0.5グルタルアルデヒド(v/v)で固定液内に常温で20分間固定した。その後、細胞を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)で各々2分ずつ3回洗浄した後、同じ緩衝液内に0.1%Triton X−100(v/v)を含有する1%牛血清アルブミン(w/v)で常温にて30分間ブロッキングした。ヒアルロン酸染色は、ビオチンが付着したヒアルロン酸結合蛋白質(biotinylated hyaluronan binding protein;bHABP)(Seikagaku, Tokyo, Japan)という特異プローブを使用した。3%牛血清アルブミン(w/v)5μg/mLに希釈したbHABPプローブを、固定した細胞に添加し、4℃で一夜放置した。洗浄後、アビジン(avidin)− フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothocyanate;FITC)を添加した。イメージを蛍光顕微鏡で分析し、その結果を図3に示した。
【0030】
図3は、HaCaT細胞及びHDF細胞培養においてヒアルロン酸の分布に化合物Kが及ぼす影響を示す図である。HaCaT細胞(図3a、図3b)及びHDF細胞(図3c、図3d)は、1μM化合物Kの存在下に(図3b、図3d)または不在下に(図3a、図3c)培養した。
【0031】
[試験例3]化合物Kによる無毛マウス皮膚でのヒアルロン酸生成増加確認
<無毛マウス>
Biogenomics(Seoul, Korea)から購入した30週齢のHos:hr−1白色種雄性無毛マウス(hairless mouse)を標準齧歯類飼料及び水を無制限に供給して飼育した。24±2℃及び55±10%湿度の環境で1週間適応させた後、ビヒクル(1,3−BG:エタノール=7:3)内に化合物K溶液(1%wt/vol)200μLを2日間マウスの背中に2回経皮投与した。最後の投与後、24時間が経過した後、各皮膚サンプルを採集した。
【0032】
<化合物Kの処置及びヒアルロン酸結合蛋白質を利用した組織免疫染色>
ヒアルロン酸染色は、bHABP(Seikagaku)を使用して行った。各皮膚サンプルを45℃で1分間マイクロ波(micro wave)オーブンに照射して、2%ホルムアルデヒド及び0.5%グルタルアルデヒドが溶解されたリン酸緩衝溶液で固定した。脱パラフィン化(deparaffinization)した後、セクションに0.3%H22が溶解されたメタノールを常温で30分間処理し、リン酸緩衝溶液で洗浄した後、1%牛血清アルブミンを処理した。次に、セクションをbHABP(5mg/mL)を溶解したリン酸緩衝溶液で4℃で保存し、洗浄した後、常温で30分間ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ(streptoavidin-peroxidase)(PBSで300倍に希釈)と一緒に放置した。洗浄した後、各スライドを常温で5分間3,3'−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)試薬と作用させ、蒸留水で洗浄した後、Mayerのヘマトキシリン染色(Mayer's hematoxylin staining)を実施した。
【0033】
<免疫組織染色の結果イメージ及びデータ分析>
免疫染色されたスライドをImagePro−Plus(Media Cybernetics, Silver Spring, MD)を使用してデジタルイメージ分析により定量的に分析した。イメージは、MicroImageビデオカメラが装着されたOlympus BH−2顕微鏡(Boyertown, PA)を通じて獲得した。統計的比較のための平均値を得るために、いろいろなスライド上で10個の任意のイメージシリーズを各々免疫染色パラメータとして獲得した。イメージの一定の面積をカバーする色相マスクを製造した後、そのマスクを全てのイメージに同等に適用し、組織化学的測定を行った。パラメータは、全体領域の面積と染色された領域の面積及び染色の強度を含む。染色スコアは、次の数学式1により決定した。
【数1】

【0034】
post-hog Duncan testによる一元配置分散分析(one-way ANOVA)は、SigmaStat(SPSS, Inc., Chicago, IL)を使用して行った。有意性は、p<0.05を基準にして考慮され、データは平均±SEMで表した。
【0035】
図4では、表皮と真皮に広く沈積されたヒアルロン酸は、化合物Kが処理された無毛マウスの皮膚において顕著に増加することを示す。図4a及び図4bから分かるように、ヒアルロン酸の量は、化合物Kを処理した細胞外に真皮乳頭、基底層、有棘層及び顆粒層を含む全ての表皮において顕著に増加した。図4cでは、定量的なイメージ分析結果、ヒアルロン酸の量が、化合物Kを処理した皮膚の真皮及び表皮において化合物Kを処理しない皮膚に比べて3倍増加した(p<0.05)。
【0036】
以上の結果から、化合物Kを皮膚細胞に処理した時、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子HAS2の発現が増加し、これにより、皮膚の表皮及び真皮においてヒアルロン酸の生成が促進されることを確認することができた。
【0037】
[試験例4]皮膚効能評価
<経皮投与>
化合物Kを含有する化粧料剤型の効能を評価するための臨床実験を行った。顔にシワと小ジワが存在する31〜37才の健康な韓国女性49人を対象にして各タイプによって正常皮膚、乾性皮膚、複合性または乾性傾向の皮膚に分類し、0.03%化合物Kを含有、又は含有しない油−水エマルジョンの2種類の剤型を使用するようにした。実験前、全ての志願者の顔におけるシワと小ジワの等級を、グローバルフォトダメージスコア(global photodamage score)を測定して分類した。全ての測定値は、最初の塗布前に、そして塗布後4、8及び12週が経過した後に行った。実験サンプルは、志願者が自ら自分の家で1日に2回ずつ(朝と夕方に)顔の皮膚に塗布したが、特に目尻のシワに集中的に使用した。
【0038】
<効能評価>
顔皮膚のシワ、小ジワ、保湿、弾力、滑らかさ、荒さ及びツヤの評価は、志願者に対して皮膚専門家により測定された。Camscope(登録商標)(model DCS−105)を使用した光度測定評価、シリコンレプリカ(replica)製造後、Skin−Visiometer SV 600(Courage & Khazaka, Germany)を利用したイメージ分析により、外用剤サンプルの使用前後における差異及び改善度の機器測定を行った。
【0039】
図5に示されている皮膚専門家のグローバルフォトダメージスコア(global photodamage score)の評価結果から分かるように、化合物Kを含有するエマルジョン及び対照群エマルジョンを12週使用した後に得られた測定値と初期測定値とを比較した時、化合物Kを含有するエマルジョンにより皮膚のシワ及び小ジワが統計的に有意に減少した。(図5a)。実際に8週間使用後、76%の志願者が、そして12週使用後には、92%の志願者がシワ改善に対して陽性的で且つ肯定的な判定をした(図5b)。
【0040】
皮膚レプリカ分析の結果によれば、シワの総量が8週後に統計的に顕著に減少した。皮膚の滑らかさは、志願者の92%が増加し、皮膚ツヤは68%、皮膚弾力は68%、及び皮膚荒さは94%が改善された。また、皮膚保湿力は、志願者の88%が増加した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】角質形成細胞株HaCaT(図1a)及び繊維芽細胞株HDF(図1b)細胞に化合物Kを濃度別に処理した後、ヒアルロン酸合成酵素の発現をmRNA水準で確認するために、HAS2を定量的逆転写PCRした結果である。
【図2】HaCaT細胞に化合物Kを濃度別に処理した後、ヒアルロン酸合成酵素の発現をmRNA水準で確認するために、HAS1、HAS2及びHAS3を定量的逆転写PCRした結果である。
【図3】HaCaT及びHDF細胞培養においてヒアルロン酸の分布に化合物Kが及ぼす影響を示す図である。化合物Kを1μM濃度で処理した後、ヒアルロン酸の生成が増加することを免疫細胞化学法で確認し、その結果を定量化したものである。
【図4】化合物Kを処理した無毛マウス皮膚でのヒアルロン酸生成増加を免疫組織染色法で確認した結果である。
【図5】化合物Kを含有した外用剤処置による人体皮膚の形態的な変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物K(20−O−β−D−グルコピラノシル−20(S)−プロトパナキサジオール)を有効成分として含むことを特徴とするヒアルロン酸生成促進剤。
【化1】

【請求項2】
前記ヒアルロン酸生成促進機能は、化合物Kがヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を増加させる作用から起因するものであることを特徴とする請求項1に記載のヒアルロン酸生成促進剤。
【請求項3】
請求項1に記載のヒアルロン酸生成促進剤を含有する退行性関節炎治療剤。
【請求項4】
請求項1に記載のヒアルロン酸生成促進剤を含有する皮膚老化防止剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−515303(P2006−515303A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562980(P2004−562980)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/KR2003/001889
【国際公開番号】WO2004/058796
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(503327691)アモレパシフィック コーポレーション (73)
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
【住所又は居所原語表記】181, Hankang−ro 2−ka, Yongsan−ku, Seoul 140−777 Republic of Korea
【Fターム(参考)】