スイッチング回路
【課題】 スイッチング時間のばらつきを簡単かつ安価な回路にて抑制できるスイッチング回路を提供する。
【解決手段】
スイッチング回路は、電力用スイッチング素子S1、S2をそれぞれ有する上アームA1および下アームA2と、電力用スイッチング素子S1、S2のスイッチング動作に応じてこの電力用スイッチング素子S1、S2を有するアームA1、A2とは反対側のアームA2、A1にそれぞれ設けられた追加スイッチング素子M2、M1を動作させることで電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量を充電する出力容量充電促進回路と、
を備える。
【解決手段】
スイッチング回路は、電力用スイッチング素子S1、S2をそれぞれ有する上アームA1および下アームA2と、電力用スイッチング素子S1、S2のスイッチング動作に応じてこの電力用スイッチング素子S1、S2を有するアームA1、A2とは反対側のアームA2、A1にそれぞれ設けられた追加スイッチング素子M2、M1を動作させることで電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量を充電する出力容量充電促進回路と、
を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータ等の負荷を駆動するインバータ等に用いるスイッチング回路に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータでは、スイッチング素子(電力用半導体素子)にてモータ負荷へ印加する電圧を切り替えるが、この電圧の立ち上がり時間や波形は、スイッチング素子のゲート端子に印加するゲート電圧により制御している。
ところが、スイッチング素子のターン・オフにより負荷電圧が変化する場合、負荷電圧のスイッチング時間はそのスイッチング素子の出力容量の充電時間に依存する。すなわち、たとえば、180度通電方式のインバータ回路では、ターン・オフ時のスイッチング時間は、負荷電流値に影響を受ける。この結果、スイッチング時間は負荷電流値により、ばらついてしまう。このばらつきは結構大きく、たとえば負荷電流値がゼロに近い低電流値の場合などには、スイッチング時間がきわめて遅くなり、通常のスイッチング時間の10倍以上にもなってしまう場合もある。このように、スイッチング時間がばらついてしまうと、上下アーム短絡を防止するため、デッド・タイムを長く設定せざるを得ず、スイッチング損失が増えることになる。
そこで、このような低電流時にもスイッチング時間が長くならないようにして、上下アームの短絡が生じないようにしたものが知られている。
【0003】
このようなスイッチング回路を有するインバータとしては、特許文献1に記載されたものがある。このインバータでは、電力用半導体素子をスイッチング素子として用い、これら電力用半導体の各々に対し、コンデンサと双方向性スイッチ素子との直列回路を並列に接続し、この双方向性スイッチ素子により、電力用半導体素子のターン・オフ信号に同期させてコンデンサを充電させるようにして、低電流時でも電力用半導体素子のターン・オフ時間が長引かないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−369551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のインバータにあっては、上下アームに、それぞれ双方向性スイッチ素子を2個ずつ必要とするため、その回路構成が複雑で高価なものとなってしまうといった問題点があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、スイッチング時間のばらつきを簡単かつ安価な回路にて抑制できるようにしたスイッチング回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、請求項1に記載の本発明によるスイッチング回路は、
電力用スイッチング素子をそれぞれ有する上アームおよび下アームと、
電力用スイッチング素子のスイッチング動作に応じてこの電力用スイッチング素子を有するアームとは反対側のアームにそれぞれ設けられた追加スイッチング素子を動作させることで、電力用スイッチング素子の出力容量を充電する出力容量充電促進回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の本発明によるスイッチング回路は、
請求項1に記載のスイッチング回路において、
出力容量充電促進回路が、追加スイッチング素子にコンデンサが直列接続された直列接続回路であり、
この直列接続回路が、電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の本発明によるスイッチング回路は、
請求項1に記載のスイッチング回路において、
出力容量充電促進回路が、追加スイッチング素子に抵抗が直列接続された直列接続回路であり、
この直列接続回路が、電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の本発明のスイッチング回路にあっては、スイッチング時間のばらつきを簡単かつ安価な回路にて抑制できるようにしたスイッチング回路を得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の本発明のスイッチング回路にあっては、上記請求項1の効果に加えて、コンデンサを用いることにより、電力用スイッチング素子の出力容量を速く充電することができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明のスイッチング回路にあっては、上記請求項1の効果に加えて、抵抗を用いることにより、簡単な回路構成でスイッチング時間を調整することで、電力用スイッチング素子の出力容量を必要な量だけ充電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施例1のスイッチング回路の構成を示す回路図である。
【図2】図1のスイッチング回路における正方向への負荷電流が流れるときのスイッチング素子等の動作状態および電流の流れを説明する図である。
【図3】図2での動作における、電力用スイッチング素子、この反対側のアームの付加スイッチング素子およびコンデンサの状態をタイム・チャートで示した図である。
【図4】図1のスイッチング回路における負方向への負荷電流が流れるときのスイッチング素子等の動作状態および電流の流れを説明する図である。
【図5】図4での動作における、電力用スイッチング素子、この反対側のアームの付加スイッチング素子およびコンデンサの状態をタイム・チャートで示した図である。
【図6】図1のスイッチング回路と等価なシミュレーション用回路の構成を示す図である。
【図7】図6のシミュレーション回路におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図8】シミュレーションによりコンデンサの容量を変えたときにおける負荷電圧の時間変化の結果を示す図である。
【図9】本発明に係る実施例2のスイッチング回路の構成を示す回路図である。
【図10】図9のスイッチング回路と等価なシミュレーション用回路の構成を示す図である。
【図11】図10のシミュレーション回路におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明実施例とシミュレーションで比較するための、スイッチング素子を有しないスイッチング回路の構成を示す図である。
【図13】図12のシミュレーション回路におけるシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。なお、各実施例において同じ構成のものについては、同じ番号を付し、それらの説明を省略する。
【実施例1】
【0015】
実施例1のスイッチング回路は、たとえば電気自動車を駆動する三相交流モータのインバータ回路に用いられる。図1には、三相交流モータのu相、v相、w相のうちの1相のコイルに接続される部分のみの回路を示すが、他の2相も同様に構成して周知のごとくブリッジ回路を組む。
【0016】
この実施例1のスイッチング回路では、図1に示すように、上アームA1は、電力用スイッチング素子S1にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D1と、コンデンサC1および付加スイッチング素子M1の直列接続回路(本発明の出力容量充電促進回路に相当)と、が並列に接続されて構成される。
同様に、下アームA2も、電力用スイッチング素子S2にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D2と、コンデンサC2およびスイッチング素子M2の直列接続回路と、が並列に接続されて構成される。
上アームA1の電力用スイッチング素子S1のエミッタと下アームA2の電力用スイッチング素子S2のコレクタとは互いに接続されるとともに、これらの接続点は電気モータのコイルの一つに接続される。なお、電力用スイッチング素子S1、S2としては、絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor: IGBT)を用いるのが望ましい。
【0017】
ここで、上下アームA1、A2のコンデンサC1、C2は、これらを有する各アームが持つ出力容量以上の容量値を有するように設定する。
また、付加スイッチング素子M1、M2は相対するアームの電力用スイッチング素子、すなわち下アームA2の電力用スイッチング素子S2、上アームA1 の電力用スイッチング素子S1のターン・オフ動作にそれぞれ同期して以下のように作動するようにしてある。
【0018】
上記スイッチング回路の動作につき、図2〜図4を用いて説明する。
まず、上アームA1の電力用スイッチング素子S1がオンで、かつ下アームA2の電力用スイッチング素子S2がオフの場合には、正方向の負荷電流となり、図2の太線の矢印で示す経路に沿って電流が流れる。
すなわち、図2(a)および図3の第1段目のタイム・チャートに示すように、電力用スイッチング素子S1のゲート端子にゲート電圧が印加されると、この素子がオン(図3中の時刻t1)となって、コレクタからエミッタに電流が流れ始め、モータのコイルへ電流が供給される。なお、このとき下アームA2の電力用スイッチング素子S2、および両付加スイッチング素子M1、M2はオフの状態にされている。
【0019】
このとき、電力用スイッチング素子S1の出力容量(図2中に点線でコンデンサとして表示)での電荷はゼロであり、また付加スイッチング素子M1がオフにされているので、これと直列接続されたコンデンサC1も電荷ゼロの状態を保つ(図3の第3、4段目のタイム・チャートを参照)。
【0020】
その後、図2(b)および図3の第1、2段目のタイム・チャートに示すように、時刻t2にゲート信号がゼロにされると、これに連動して下アームA2の付加スイッチング素子M2のゲート電圧にオン信号が同時に印加される。この結果、付加スイッチング素子M2がオンになって通電可能となる。
【0021】
時刻t2に下アームA2の付加スイッチング素子M2がオンになると、下アームA2のコンデンサC2が付加スイッチング素子M2を介して接地された状態となるので、図2(b)に示すように、電流が、コンデンサC2へ流れ込み、その電流がスイッチング素子S1の出力容量にも流れる。その結果、図3のタイム・チャートに示すように、その電流がコンデンサC2とスイッチング素子S1の出力容量を充電し、したがってその電荷が急激に上昇していく。
このコンデンサC2が充電されていく分、上アームA1の電力用スイッチング素子S1の出力容量を充電する電流は増えるので、この電流値がゼロに近い場合に比べ、この電力用スイッチング素子S1の出力容量への充電が早まることになる。
【0022】
この後、スイッチング素子S1の出力容量の電圧とコンデンサC2の電圧を合わせた電圧が電源電圧に達したとき(時刻t3)、図3の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、下アームA2のコンデンサC2の電荷の上昇は止まる。この場合の立ち上がりの変化は、出力容量値および追加容量値によって決まる。なお、詳細は、シミュレーション結果にて後で説明する。
【0023】
その後、図2(c)に示すように、少ない出力電流によって、スイッチング素子S1の出力容量はさらに充電され、コンデンサC2は放電していく。
【0024】
時刻t4以降は、下アームのダイオードD2を介して出力電流が流れ続けて、図3に示すように、電力用スイッチング素子S1の出力容量はオフ状態で満充電の状態を保ち、またコンデンサC2の電荷はゼロを保つ。
したがって、上アームA1の電力用スイッチング素子S1の出力容量は、下アームA2のコンデンサC2の充電分だけ速く充電され、この結果、オフ時のスイッチング時間を早めることとなってスイッチング時間のばらつきが抑えられることとなる。
【0025】
次に、負方向の負荷電流を流すには、図5の第1段目のタイム・チャートに示すように、時刻t5に上アームA1の電力用スイッチング素子S1がオフの状態で、下アームA2の電力用スイッチング素子S2をオンにすると、図4(a)の太線の矢印で示す経路に沿って電流が流れる。
すなわち、モータのコイルから流れ出た電流は、下アームA2の電力用スイッチング素子S2を通って流れ出る。このとき、図5の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、電力用スイッチング素子S2の出力容量の電荷はゼロ、また上アームA1のコンデンサC1の電荷もゼロとなっている。
【0026】
次いで、上記状態から、時刻t6に下アームA2の電力用スイッチング素子S2へオフ信号を入力する(ゲート電圧をゼロにする)と同時に、上アームA2の付加スイッチング素子M1をオンにする。
すると、付加スイッチング素子M1を介して電流が流れることができるようになり、図5の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、上アームA1のコンデンサC1が充電され始め、この充電電流により下アームA2の電力用スイッチング素子S2の出力容量も充電され始める。
【0027】
この場合も、負荷電流が正方向の場合と同様に、コンデンサC1の充電中、上アームA1の付加スイッチング素子M1はオン状態を保たれ、コンデンサC1の電荷は上昇していく。この負方向の負荷電流の流れによって、まだ完全にオフ状態となっていない下アームA2の電力用スイッチング素子S2の出力容量へも、電流が流れて行き、電力用スイッチング素子S2の主力容量の充電を速める。
【0028】
この後、スイッチング素子S2の出力容量の電圧とコンデンサC1の電圧を合わせた電圧が電源電圧に達したとき(時刻t7)、図5の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、上アームA1のコンデンサC1の電荷の上昇は止まる。この場合の立ち上がりの変化は、出力容量値および追加容量値によって決まる。
【0029】
その後、図4(c)に示すように、その後、少ない出力電流によって、スイッチング素子S2の出力容量はさらに充電され、コンデンサC1は放電していく。
【0030】
時刻t8以降は、下アームのダイオードD2を介して出力電流が流れ続けて、図5に示すように、電力用スイッチング素子S2の出力容量はオフ状態で満充電の状態を保ち、またコンデンサC1の電荷はゼロを保つ。
したがって、下アームA1の電力用スイッチング素子S2の出力容量は、上アームA1のコンデンサC1の充電分だけ速く充電され、この結果、オフ時のスイッチング時間を早めることとなってスイッチング時間のばらつきが抑えられることとなる。
【0031】
次に、上記図1の構成に等価な回路を用いて得たシミュレーション結果につき、出力容量充電促進回路を有しない回路(図12に示す。同図においてC3、C4はスイッチング素子S1、S2の出力容量である)での結果と比較して、以下に説明する。
【0032】
まず、図12において、等価な部分には図1と同じ番号を付してある。ここで、この出力容量充電促進回路を有しない回路では、電力用スイッチング素子S1、S2としては、半導体素子の代わりにそれぞれ方形の電圧(ゲート電圧に相当)を供給可能な電圧源V1、また方形の電圧(ゲート電圧に相当)を供給可能な電源V2の大小に応じてオン・オフするスイッチを用いてシミュレーションしたが、本質的には変わらない。
【0033】
そのシミュレーション結果を図13に示す。同図上段のタイム・チャートに示すように、下アームのゲート電圧をオン状態からオフ状態にし、デッド・タイムの後、上アームのゲート電圧をオフ状態からオン状態にすると、上アームと下アームとの接続点における出力電圧は、同図中段のタイム・チャートに示すように低電圧レベルであったものが、下側ゲート電圧が0になる時刻から徐々に立ち上がり2μs(デッド・タイムより短い)後により高レベルの一定値となる。また、上記2μs間での出力電圧の立ち上がり区間で、下側アーム側の出力容量C4を流れる電流は一時的に増大し、上側アームの出力容量C3を流れる電流は一時的に低減することが分かった。なお、この増減は、各鎖線や実線で示すように、負荷電流値によりばらつきを示す。
【0034】
図6は、実施例1の回路と等価なシミュレーション回路である。なお、電源V3、電源V4は、方形の電圧をそれぞれ上アームの付加スイッチング素子M1、および下アームの付加スイッチング素子M2へ印加するゲート電圧源である。
【0035】
図7は、図6のシミュレーション回路でのシミュレーション結果を示すものである。同図1段目のタイム・チャートは電力用スイッチング素子S2でのコレクタ電流の変化を示し、同図第4段目の時間変化の結果を示す図に示すように、下アームのスイッチング素子M1のゲート電圧がオフになったとき、瞬時に減少・増加した後、変化前の値に戻る。
【0036】
同図2段目の時間変化の結果を示す図は、下側アームのコンデンサC2の電流、および上側アームのコンデンサC1の変化を示し、上記オフ時に、下側アームのコンデンサC2の電流は瞬時に増加して変化前の値に戻り、上側アームのコンデンサC1は瞬時に減少して変化前の値に戻る。
【0037】
同図第3段目の時間変化の結果を示す図は出力電圧の立ち上がりを示すが、この立ち上がり時間は0.1μsとなり、上記図12の回路における2μsと比べて非常に短くなり、コンデンサC1、C2と付加スイッチング素子M1、M2を追加したことにより、スイッチング時間の大幅な短縮が図れ、したがってそのばらつきが抑えられたことが分かる。
【0038】
なお、シミュレーションにより、追加するコンデンサC1、C2の容量により、出力電圧の立ち上がり、立下りは変化する。図8にその容量を変化させたときの負荷電圧の波形の時間的変化の結果を示す。
同図から分かるように、一定値まで落ち着く時間は同じだが、容量が増えるほど、最初の瞬時の立ち上がり大きさが大きく、20nFでは、電力用スイッチング素子S1、S2に大電流が流れたときと同程度まで瞬時に立ち上がる。
【0039】
なお、瞬時に負荷電圧が立ち上がってから一定値になるまでの期間は、負荷の微小電流に影響を受ける。この間は、負荷電流で充電、放電が進むためである。
追加したコンデンサC1、C2の容量による充電電流の部分は、これら追加した容量と上下アームの出力容量とによって立ち上がりの変化が決まる。
【0040】
たとえば、出力容量を0.5nFとすると、同じ容量を追加した場合、追加容量÷(追加容量+上下アームの出力容量)=スイッチングの速い割合となることから、0.5nF÷(0.5nF+1nF)=0.33 となり、電圧変化量が33%速いことが分かる。
このように、実施例では、付加スイッチ素子S1、S2がONした直後に、出力容量×2(上下アームA1、A2の両方)とコンデンサC1、C2の容量との比で決まる電圧まで一気に変化することになる。
【0041】
以上からわかるように、実施例1のスイッチング回路にあっては、電力用スイッチング素子S1、S2をそれぞれ用いた上下アームにおいて、付加スイッチング回路M1、M2およびコンデンサC1、C2の直列回路を、電力用スイッチング素子S1、S2に並列に接続し、上記直列回路を動作させてこれと反対側のアームの電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量の充電を促進させるようにした。これにより、簡単・安価な回路構成で、スイッチング時間のばらつきを抑えることが可能となる。
また、実施例1のスイッチング回路にあっては、コンデンサC1、C2を用いるので、短時間で充電できる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明に係る実施例2のスイッチング回路につき、説明する。実施例2では、実施例のスイッチング回路において、コンデンサC1、C2の代わりに抵抗を用いた点が異なり、他の構成は実施例1と同じである。
【0043】
すなわち、図9に示すように、実施例2のスイッチング回路では、 上アームA1は、電力用スイッチング素子S1にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D1と、抵抗1および付加スイッチング素子M1の直列接続回路(本発明の出力容量充電促進回路に相当)と、が並列に接続されて構成される。
同様に、下アームA2も、電力用スイッチング素子S2にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D2と、抵抗R2および付加スイッチング素子M2の直列接続回路と、が並列に接続されて構成される。上アームA1の電力用スイッチング素子S1のエミッタとした下アームA2の電力用スイッチング素子S2のコレクタとは接続されるとともに、これらの接続点は電気モータのコイルの一つに接続される。
【0044】
この実施例2のスイッチング回路にあっても、実施例1のスイッチング回路と同様に動作するが、コンデンサC1、C2が抵抗R1、R2に代わっているので、電力用スイッチング素子S1、S2へのオフ信号入力と同時に、これらと反対側のアームの付加スイッチング素子M2、M1をオンにすることで、電力用スイッチング素子S1、S2から抵抗R2、R1へ電流を流すことで、電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量への充電を促進する。この結果、低電流時における電力用スイッチング素子S1、S2のスイッチング時間は短くでき、またスイッチング時間のばらつきも抑えることが可能となる。
【0045】
以上から、分かるように、実施例2のスイッチング回路にあっては、電力用スイッチング素子S1、S2をそれぞれ用いた上下アームにおいて、付加スイッチング回路M1、M2および抵抗R1、R2の直列回路を、電力用スイッチング素子S1、S2に並列に接続し、上記直列回路を動作させてこれと反対側のアームの電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量の充電を促進させるようにした。これにより、簡単・安価な回路構成で、スイッチング時間のばらつきを抑えることが可能となる。
また、実施例2のスイッチング回路にあっては、抵抗R1、R2を用いるので、回路構成がより簡単となり、スイッチング時間を調整するだけで必要なだけ充電を行うことができる。
【0046】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0047】
たとえば、電力用スイッチング素子S1、S2および付加スイッチング素子M1、M2には、適当な種々の半導体スイッチング素子を用いることができる。
【0048】
また、本発明のスイッチング回路は、電気自動車の電気モータ駆動回路に限られず、その他の負荷回路に用いるようにしてもよい。
また、モータに用いる場合には、三相交流モータに限られない。
【符号の説明】
【0049】
A1 上アーム
A2 下アーム
C1、C2 コンデンサ
C3、C4 出力容量
D1、D2 ダイオード
M1、M2 付加スイッチング素子
S1、S2 電力用スイッチング素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータ等の負荷を駆動するインバータ等に用いるスイッチング回路に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータでは、スイッチング素子(電力用半導体素子)にてモータ負荷へ印加する電圧を切り替えるが、この電圧の立ち上がり時間や波形は、スイッチング素子のゲート端子に印加するゲート電圧により制御している。
ところが、スイッチング素子のターン・オフにより負荷電圧が変化する場合、負荷電圧のスイッチング時間はそのスイッチング素子の出力容量の充電時間に依存する。すなわち、たとえば、180度通電方式のインバータ回路では、ターン・オフ時のスイッチング時間は、負荷電流値に影響を受ける。この結果、スイッチング時間は負荷電流値により、ばらついてしまう。このばらつきは結構大きく、たとえば負荷電流値がゼロに近い低電流値の場合などには、スイッチング時間がきわめて遅くなり、通常のスイッチング時間の10倍以上にもなってしまう場合もある。このように、スイッチング時間がばらついてしまうと、上下アーム短絡を防止するため、デッド・タイムを長く設定せざるを得ず、スイッチング損失が増えることになる。
そこで、このような低電流時にもスイッチング時間が長くならないようにして、上下アームの短絡が生じないようにしたものが知られている。
【0003】
このようなスイッチング回路を有するインバータとしては、特許文献1に記載されたものがある。このインバータでは、電力用半導体素子をスイッチング素子として用い、これら電力用半導体の各々に対し、コンデンサと双方向性スイッチ素子との直列回路を並列に接続し、この双方向性スイッチ素子により、電力用半導体素子のターン・オフ信号に同期させてコンデンサを充電させるようにして、低電流時でも電力用半導体素子のターン・オフ時間が長引かないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−369551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のインバータにあっては、上下アームに、それぞれ双方向性スイッチ素子を2個ずつ必要とするため、その回路構成が複雑で高価なものとなってしまうといった問題点があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、スイッチング時間のばらつきを簡単かつ安価な回路にて抑制できるようにしたスイッチング回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、請求項1に記載の本発明によるスイッチング回路は、
電力用スイッチング素子をそれぞれ有する上アームおよび下アームと、
電力用スイッチング素子のスイッチング動作に応じてこの電力用スイッチング素子を有するアームとは反対側のアームにそれぞれ設けられた追加スイッチング素子を動作させることで、電力用スイッチング素子の出力容量を充電する出力容量充電促進回路と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の本発明によるスイッチング回路は、
請求項1に記載のスイッチング回路において、
出力容量充電促進回路が、追加スイッチング素子にコンデンサが直列接続された直列接続回路であり、
この直列接続回路が、電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の本発明によるスイッチング回路は、
請求項1に記載のスイッチング回路において、
出力容量充電促進回路が、追加スイッチング素子に抵抗が直列接続された直列接続回路であり、
この直列接続回路が、電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の本発明のスイッチング回路にあっては、スイッチング時間のばらつきを簡単かつ安価な回路にて抑制できるようにしたスイッチング回路を得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の本発明のスイッチング回路にあっては、上記請求項1の効果に加えて、コンデンサを用いることにより、電力用スイッチング素子の出力容量を速く充電することができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明のスイッチング回路にあっては、上記請求項1の効果に加えて、抵抗を用いることにより、簡単な回路構成でスイッチング時間を調整することで、電力用スイッチング素子の出力容量を必要な量だけ充電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施例1のスイッチング回路の構成を示す回路図である。
【図2】図1のスイッチング回路における正方向への負荷電流が流れるときのスイッチング素子等の動作状態および電流の流れを説明する図である。
【図3】図2での動作における、電力用スイッチング素子、この反対側のアームの付加スイッチング素子およびコンデンサの状態をタイム・チャートで示した図である。
【図4】図1のスイッチング回路における負方向への負荷電流が流れるときのスイッチング素子等の動作状態および電流の流れを説明する図である。
【図5】図4での動作における、電力用スイッチング素子、この反対側のアームの付加スイッチング素子およびコンデンサの状態をタイム・チャートで示した図である。
【図6】図1のスイッチング回路と等価なシミュレーション用回路の構成を示す図である。
【図7】図6のシミュレーション回路におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図8】シミュレーションによりコンデンサの容量を変えたときにおける負荷電圧の時間変化の結果を示す図である。
【図9】本発明に係る実施例2のスイッチング回路の構成を示す回路図である。
【図10】図9のスイッチング回路と等価なシミュレーション用回路の構成を示す図である。
【図11】図10のシミュレーション回路におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明実施例とシミュレーションで比較するための、スイッチング素子を有しないスイッチング回路の構成を示す図である。
【図13】図12のシミュレーション回路におけるシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。なお、各実施例において同じ構成のものについては、同じ番号を付し、それらの説明を省略する。
【実施例1】
【0015】
実施例1のスイッチング回路は、たとえば電気自動車を駆動する三相交流モータのインバータ回路に用いられる。図1には、三相交流モータのu相、v相、w相のうちの1相のコイルに接続される部分のみの回路を示すが、他の2相も同様に構成して周知のごとくブリッジ回路を組む。
【0016】
この実施例1のスイッチング回路では、図1に示すように、上アームA1は、電力用スイッチング素子S1にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D1と、コンデンサC1および付加スイッチング素子M1の直列接続回路(本発明の出力容量充電促進回路に相当)と、が並列に接続されて構成される。
同様に、下アームA2も、電力用スイッチング素子S2にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D2と、コンデンサC2およびスイッチング素子M2の直列接続回路と、が並列に接続されて構成される。
上アームA1の電力用スイッチング素子S1のエミッタと下アームA2の電力用スイッチング素子S2のコレクタとは互いに接続されるとともに、これらの接続点は電気モータのコイルの一つに接続される。なお、電力用スイッチング素子S1、S2としては、絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor: IGBT)を用いるのが望ましい。
【0017】
ここで、上下アームA1、A2のコンデンサC1、C2は、これらを有する各アームが持つ出力容量以上の容量値を有するように設定する。
また、付加スイッチング素子M1、M2は相対するアームの電力用スイッチング素子、すなわち下アームA2の電力用スイッチング素子S2、上アームA1 の電力用スイッチング素子S1のターン・オフ動作にそれぞれ同期して以下のように作動するようにしてある。
【0018】
上記スイッチング回路の動作につき、図2〜図4を用いて説明する。
まず、上アームA1の電力用スイッチング素子S1がオンで、かつ下アームA2の電力用スイッチング素子S2がオフの場合には、正方向の負荷電流となり、図2の太線の矢印で示す経路に沿って電流が流れる。
すなわち、図2(a)および図3の第1段目のタイム・チャートに示すように、電力用スイッチング素子S1のゲート端子にゲート電圧が印加されると、この素子がオン(図3中の時刻t1)となって、コレクタからエミッタに電流が流れ始め、モータのコイルへ電流が供給される。なお、このとき下アームA2の電力用スイッチング素子S2、および両付加スイッチング素子M1、M2はオフの状態にされている。
【0019】
このとき、電力用スイッチング素子S1の出力容量(図2中に点線でコンデンサとして表示)での電荷はゼロであり、また付加スイッチング素子M1がオフにされているので、これと直列接続されたコンデンサC1も電荷ゼロの状態を保つ(図3の第3、4段目のタイム・チャートを参照)。
【0020】
その後、図2(b)および図3の第1、2段目のタイム・チャートに示すように、時刻t2にゲート信号がゼロにされると、これに連動して下アームA2の付加スイッチング素子M2のゲート電圧にオン信号が同時に印加される。この結果、付加スイッチング素子M2がオンになって通電可能となる。
【0021】
時刻t2に下アームA2の付加スイッチング素子M2がオンになると、下アームA2のコンデンサC2が付加スイッチング素子M2を介して接地された状態となるので、図2(b)に示すように、電流が、コンデンサC2へ流れ込み、その電流がスイッチング素子S1の出力容量にも流れる。その結果、図3のタイム・チャートに示すように、その電流がコンデンサC2とスイッチング素子S1の出力容量を充電し、したがってその電荷が急激に上昇していく。
このコンデンサC2が充電されていく分、上アームA1の電力用スイッチング素子S1の出力容量を充電する電流は増えるので、この電流値がゼロに近い場合に比べ、この電力用スイッチング素子S1の出力容量への充電が早まることになる。
【0022】
この後、スイッチング素子S1の出力容量の電圧とコンデンサC2の電圧を合わせた電圧が電源電圧に達したとき(時刻t3)、図3の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、下アームA2のコンデンサC2の電荷の上昇は止まる。この場合の立ち上がりの変化は、出力容量値および追加容量値によって決まる。なお、詳細は、シミュレーション結果にて後で説明する。
【0023】
その後、図2(c)に示すように、少ない出力電流によって、スイッチング素子S1の出力容量はさらに充電され、コンデンサC2は放電していく。
【0024】
時刻t4以降は、下アームのダイオードD2を介して出力電流が流れ続けて、図3に示すように、電力用スイッチング素子S1の出力容量はオフ状態で満充電の状態を保ち、またコンデンサC2の電荷はゼロを保つ。
したがって、上アームA1の電力用スイッチング素子S1の出力容量は、下アームA2のコンデンサC2の充電分だけ速く充電され、この結果、オフ時のスイッチング時間を早めることとなってスイッチング時間のばらつきが抑えられることとなる。
【0025】
次に、負方向の負荷電流を流すには、図5の第1段目のタイム・チャートに示すように、時刻t5に上アームA1の電力用スイッチング素子S1がオフの状態で、下アームA2の電力用スイッチング素子S2をオンにすると、図4(a)の太線の矢印で示す経路に沿って電流が流れる。
すなわち、モータのコイルから流れ出た電流は、下アームA2の電力用スイッチング素子S2を通って流れ出る。このとき、図5の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、電力用スイッチング素子S2の出力容量の電荷はゼロ、また上アームA1のコンデンサC1の電荷もゼロとなっている。
【0026】
次いで、上記状態から、時刻t6に下アームA2の電力用スイッチング素子S2へオフ信号を入力する(ゲート電圧をゼロにする)と同時に、上アームA2の付加スイッチング素子M1をオンにする。
すると、付加スイッチング素子M1を介して電流が流れることができるようになり、図5の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、上アームA1のコンデンサC1が充電され始め、この充電電流により下アームA2の電力用スイッチング素子S2の出力容量も充電され始める。
【0027】
この場合も、負荷電流が正方向の場合と同様に、コンデンサC1の充電中、上アームA1の付加スイッチング素子M1はオン状態を保たれ、コンデンサC1の電荷は上昇していく。この負方向の負荷電流の流れによって、まだ完全にオフ状態となっていない下アームA2の電力用スイッチング素子S2の出力容量へも、電流が流れて行き、電力用スイッチング素子S2の主力容量の充電を速める。
【0028】
この後、スイッチング素子S2の出力容量の電圧とコンデンサC1の電圧を合わせた電圧が電源電圧に達したとき(時刻t7)、図5の第3、4段目のタイム・チャートに示すように、上アームA1のコンデンサC1の電荷の上昇は止まる。この場合の立ち上がりの変化は、出力容量値および追加容量値によって決まる。
【0029】
その後、図4(c)に示すように、その後、少ない出力電流によって、スイッチング素子S2の出力容量はさらに充電され、コンデンサC1は放電していく。
【0030】
時刻t8以降は、下アームのダイオードD2を介して出力電流が流れ続けて、図5に示すように、電力用スイッチング素子S2の出力容量はオフ状態で満充電の状態を保ち、またコンデンサC1の電荷はゼロを保つ。
したがって、下アームA1の電力用スイッチング素子S2の出力容量は、上アームA1のコンデンサC1の充電分だけ速く充電され、この結果、オフ時のスイッチング時間を早めることとなってスイッチング時間のばらつきが抑えられることとなる。
【0031】
次に、上記図1の構成に等価な回路を用いて得たシミュレーション結果につき、出力容量充電促進回路を有しない回路(図12に示す。同図においてC3、C4はスイッチング素子S1、S2の出力容量である)での結果と比較して、以下に説明する。
【0032】
まず、図12において、等価な部分には図1と同じ番号を付してある。ここで、この出力容量充電促進回路を有しない回路では、電力用スイッチング素子S1、S2としては、半導体素子の代わりにそれぞれ方形の電圧(ゲート電圧に相当)を供給可能な電圧源V1、また方形の電圧(ゲート電圧に相当)を供給可能な電源V2の大小に応じてオン・オフするスイッチを用いてシミュレーションしたが、本質的には変わらない。
【0033】
そのシミュレーション結果を図13に示す。同図上段のタイム・チャートに示すように、下アームのゲート電圧をオン状態からオフ状態にし、デッド・タイムの後、上アームのゲート電圧をオフ状態からオン状態にすると、上アームと下アームとの接続点における出力電圧は、同図中段のタイム・チャートに示すように低電圧レベルであったものが、下側ゲート電圧が0になる時刻から徐々に立ち上がり2μs(デッド・タイムより短い)後により高レベルの一定値となる。また、上記2μs間での出力電圧の立ち上がり区間で、下側アーム側の出力容量C4を流れる電流は一時的に増大し、上側アームの出力容量C3を流れる電流は一時的に低減することが分かった。なお、この増減は、各鎖線や実線で示すように、負荷電流値によりばらつきを示す。
【0034】
図6は、実施例1の回路と等価なシミュレーション回路である。なお、電源V3、電源V4は、方形の電圧をそれぞれ上アームの付加スイッチング素子M1、および下アームの付加スイッチング素子M2へ印加するゲート電圧源である。
【0035】
図7は、図6のシミュレーション回路でのシミュレーション結果を示すものである。同図1段目のタイム・チャートは電力用スイッチング素子S2でのコレクタ電流の変化を示し、同図第4段目の時間変化の結果を示す図に示すように、下アームのスイッチング素子M1のゲート電圧がオフになったとき、瞬時に減少・増加した後、変化前の値に戻る。
【0036】
同図2段目の時間変化の結果を示す図は、下側アームのコンデンサC2の電流、および上側アームのコンデンサC1の変化を示し、上記オフ時に、下側アームのコンデンサC2の電流は瞬時に増加して変化前の値に戻り、上側アームのコンデンサC1は瞬時に減少して変化前の値に戻る。
【0037】
同図第3段目の時間変化の結果を示す図は出力電圧の立ち上がりを示すが、この立ち上がり時間は0.1μsとなり、上記図12の回路における2μsと比べて非常に短くなり、コンデンサC1、C2と付加スイッチング素子M1、M2を追加したことにより、スイッチング時間の大幅な短縮が図れ、したがってそのばらつきが抑えられたことが分かる。
【0038】
なお、シミュレーションにより、追加するコンデンサC1、C2の容量により、出力電圧の立ち上がり、立下りは変化する。図8にその容量を変化させたときの負荷電圧の波形の時間的変化の結果を示す。
同図から分かるように、一定値まで落ち着く時間は同じだが、容量が増えるほど、最初の瞬時の立ち上がり大きさが大きく、20nFでは、電力用スイッチング素子S1、S2に大電流が流れたときと同程度まで瞬時に立ち上がる。
【0039】
なお、瞬時に負荷電圧が立ち上がってから一定値になるまでの期間は、負荷の微小電流に影響を受ける。この間は、負荷電流で充電、放電が進むためである。
追加したコンデンサC1、C2の容量による充電電流の部分は、これら追加した容量と上下アームの出力容量とによって立ち上がりの変化が決まる。
【0040】
たとえば、出力容量を0.5nFとすると、同じ容量を追加した場合、追加容量÷(追加容量+上下アームの出力容量)=スイッチングの速い割合となることから、0.5nF÷(0.5nF+1nF)=0.33 となり、電圧変化量が33%速いことが分かる。
このように、実施例では、付加スイッチ素子S1、S2がONした直後に、出力容量×2(上下アームA1、A2の両方)とコンデンサC1、C2の容量との比で決まる電圧まで一気に変化することになる。
【0041】
以上からわかるように、実施例1のスイッチング回路にあっては、電力用スイッチング素子S1、S2をそれぞれ用いた上下アームにおいて、付加スイッチング回路M1、M2およびコンデンサC1、C2の直列回路を、電力用スイッチング素子S1、S2に並列に接続し、上記直列回路を動作させてこれと反対側のアームの電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量の充電を促進させるようにした。これにより、簡単・安価な回路構成で、スイッチング時間のばらつきを抑えることが可能となる。
また、実施例1のスイッチング回路にあっては、コンデンサC1、C2を用いるので、短時間で充電できる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明に係る実施例2のスイッチング回路につき、説明する。実施例2では、実施例のスイッチング回路において、コンデンサC1、C2の代わりに抵抗を用いた点が異なり、他の構成は実施例1と同じである。
【0043】
すなわち、図9に示すように、実施例2のスイッチング回路では、 上アームA1は、電力用スイッチング素子S1にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D1と、抵抗1および付加スイッチング素子M1の直列接続回路(本発明の出力容量充電促進回路に相当)と、が並列に接続されて構成される。
同様に、下アームA2も、電力用スイッチング素子S2にダイオード(いわゆる帰還ダイオード)D2と、抵抗R2および付加スイッチング素子M2の直列接続回路と、が並列に接続されて構成される。上アームA1の電力用スイッチング素子S1のエミッタとした下アームA2の電力用スイッチング素子S2のコレクタとは接続されるとともに、これらの接続点は電気モータのコイルの一つに接続される。
【0044】
この実施例2のスイッチング回路にあっても、実施例1のスイッチング回路と同様に動作するが、コンデンサC1、C2が抵抗R1、R2に代わっているので、電力用スイッチング素子S1、S2へのオフ信号入力と同時に、これらと反対側のアームの付加スイッチング素子M2、M1をオンにすることで、電力用スイッチング素子S1、S2から抵抗R2、R1へ電流を流すことで、電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量への充電を促進する。この結果、低電流時における電力用スイッチング素子S1、S2のスイッチング時間は短くでき、またスイッチング時間のばらつきも抑えることが可能となる。
【0045】
以上から、分かるように、実施例2のスイッチング回路にあっては、電力用スイッチング素子S1、S2をそれぞれ用いた上下アームにおいて、付加スイッチング回路M1、M2および抵抗R1、R2の直列回路を、電力用スイッチング素子S1、S2に並列に接続し、上記直列回路を動作させてこれと反対側のアームの電力用スイッチング素子S1、S2の出力容量の充電を促進させるようにした。これにより、簡単・安価な回路構成で、スイッチング時間のばらつきを抑えることが可能となる。
また、実施例2のスイッチング回路にあっては、抵抗R1、R2を用いるので、回路構成がより簡単となり、スイッチング時間を調整するだけで必要なだけ充電を行うことができる。
【0046】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0047】
たとえば、電力用スイッチング素子S1、S2および付加スイッチング素子M1、M2には、適当な種々の半導体スイッチング素子を用いることができる。
【0048】
また、本発明のスイッチング回路は、電気自動車の電気モータ駆動回路に限られず、その他の負荷回路に用いるようにしてもよい。
また、モータに用いる場合には、三相交流モータに限られない。
【符号の説明】
【0049】
A1 上アーム
A2 下アーム
C1、C2 コンデンサ
C3、C4 出力容量
D1、D2 ダイオード
M1、M2 付加スイッチング素子
S1、S2 電力用スイッチング素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用スイッチング素子をそれぞれ有する上アームおよび下アームと、
前記電力用スイッチング素子のスイッチング動作に応じて該電力用スイッチング素子を有するアームとは反対側のアームにそれぞれ設けられた追加スイッチング素子を動作させることで電力用スイッチング素子の出力容量を充電する出力容量充電促進回路と、
を備えたことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング回路において、
前記出力容量充電促進回路は、前記追加スイッチング素子にコンデンサが直列接続された直列接続回路であり、
該直列接続回路は、前記電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチング回路において、
前記出力容量充電促進回路は、前記追加スイッチング素子に抵抗が直列接続された直列接続回路であり、
該直列接続回路は、前記電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項1】
電力用スイッチング素子をそれぞれ有する上アームおよび下アームと、
前記電力用スイッチング素子のスイッチング動作に応じて該電力用スイッチング素子を有するアームとは反対側のアームにそれぞれ設けられた追加スイッチング素子を動作させることで電力用スイッチング素子の出力容量を充電する出力容量充電促進回路と、
を備えたことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング回路において、
前記出力容量充電促進回路は、前記追加スイッチング素子にコンデンサが直列接続された直列接続回路であり、
該直列接続回路は、前記電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とするスイッチング回路。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチング回路において、
前記出力容量充電促進回路は、前記追加スイッチング素子に抵抗が直列接続された直列接続回路であり、
該直列接続回路は、前記電力用スイッチング素子に並列に接続されている、
ことを特徴とするスイッチング回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−249343(P2012−249343A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116521(P2011−116521)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
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