説明

スイッチング素子の制御方法、スイッチング素子制御装置、モータ駆動装置

【課題】スイッチング損失とスイッチングノイズを同時に低減可能なスイッチング素子の制御方法を提供する。
【解決手段】電圧駆動型スイッチング素子(出力トランジスタSW1)のターンオン時において、出力トランジスタSW1の出力電流IDSの変化時にはゲート電流Iを小電流に抑制してスイッチングノイズを低減させ、出力電流IDSが一定となった後は、ゲート電流Iを大電流に増加させてスイッチング時間を短縮させることによりスイッチング損失を低減させる。また、ターンオフ時において、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが変化し始めるまでの期間は、ゲート電流Iを大電流にしてスイッチング時間を短縮させることによりスイッチング損失を低減させ、出力トランジスタSW1の出力電流IDSの変化時にはゲート電流Iを減衰させてノイズを低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のオン/オフ動作を制御する方法および装置、並びにスイッチング素子を用いてモータを駆動するモータ駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、MOSFETやIGBTなどの電圧駆動型スイッチング素子の駆動回路として、電圧駆動型スイッチング素子(以下「出力トランジスタ」と称する。)の制御端子にオン電圧およびオフ電圧を印加するためのON/OFF制御回路を備え、このON/OFF制御回路により出力トランジスタのオン/オフ状態を制御するものが知られている。
【0003】
図14に従来のスイッチング素子制御装置(駆動回路)を示す。図14に示すように、出力トランジスタSW1と出力トランジスタSW2は、電源109と接地電位との間に直列に接続されている。なお、ここでは、出力トランジスタとしてN型MOSFETを例に説明する。
【0004】
各出力トランジスタSW1、SW2にはそれぞれ、ドレイン端子とソース端子との間にダイオードD1、D2が寄生している。また、出力トランジスタSW1のドレイン端子と電源109との間には配線のインダクタンスLs110が存在する。同様に、出力トランジスタSW2のソース端子と接地電位との間には配線のインダクタンスLs111が存在する。また、一対の出力トランジスタSW1、SW2の直列接続点(ノード)には負荷であるコイル112が接続している。また、出力トランジスタSW1、SW2にはそれぞれ、ゲート端子とドレイン端子との間に容量113が寄生し、且つゲート端子とソース端子との間に容量114が寄生している。
【0005】
各出力トランジスタSW1、SW2のゲート端子には、スイッチング素子制御装置(駆動回路)101が接続している。スイッチング素子制御装置101は、ON/OFF制御回路102とゲート抵抗103を備える。
【0006】
出力トランジスタSW1に接続するスイッチング素子制御装置101のON/OFF制御回路102は、電源106と接地電位との間にON制御トランジスタ(P型MOSFET)104とOFF制御トランジスタ(N型MOSFET)105が直列に接続された構成となっている。また、ON制御トランジスタ104のゲート端子は入力端子107aに接続され、OFF制御トランジスタ105のゲート端子は入力端子108aに接続されている。このON制御トランジスタ104とOFF制御トランジスタ105の接続点(ノード)が、ゲート抵抗103の一端に接続し、ゲート抵抗103の他端が出力トランジスタSW1のゲート端子に接続している。
【0007】
出力トランジスタSW1に接続するスイッチング素子制御装置101のON/OFF制御回路102は、入力端子107a、108aに入力されたオン指令またはオフ指令を受信すると、ゲート抵抗103を介してオン電圧またはオフ電圧を出力トランジスタSW1のゲート端子に印加して、出力トランジスタSW1をターンオンまたはターンオフさせる。
【0008】
なお、出力トランジスタSW2に接続するスイッチング素子制御装置101の構成および動作は、出力トランジスタSW1に接続するスイッチング素子制御装置101と同様である。
【0009】
ところで、出力トランジスタ(電圧駆動型スイッチング素子)のスイッチング動作は、その制御端子に生じる寄生容量の充放電動作として理解することができる。つまり、出力トランジスタの制御端子にオン電圧またはオフ電圧が印加された場合、ゲート電圧やゲート電流は、制御端子に寄生する容量とON/OFF制御回路から制御端子までの抵抗成分によって決まる時定数により制御される。
【0010】
また、出力トランジスタの入力端子または出力端子と電源間には配線のインダクタンス成分Lsが存在する。そのため、スイッチング時における出力電流の変化dIDS/dtによりノイズ(スイッチングノイズ)が発生する。
【0011】
そこで、従来は、図14に示すように、出力トランジスタSW1、SW2の制御端子(ゲート端子)とON/OFF制御回路102との間にゲート抵抗103を設けて、そのゲート抵抗103の抵抗値を調整することによりゲート電流のピーク値や変化率を低減して、スイッチング時に発生するノイズを抑えていた。
【0012】
図15に、従来のスイッチング素子制御装置における出力トランジスタSW1のターンオン時の各動作波形について説明する。なお、図15には上から順に、入力端子107a、108aに入力されるオン/オフ指令のグラフ、ON/OFF制御回路102のOFF制御トランジスタ105のドレイン電圧のグラフ、ゲート電流Iのグラフ、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSのグラフ、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vのグラフ、出力トランジスタSW1のドレイン−ソース間電圧VDSのグラフ、出力トランジスタSW1の出力電流IDSのグラフ、出力電流IDSの変化dIDS/dtのグラフ、出力トランジスタSW1のスイッチング損失Pのグラフを示している。
【0013】
図15に示すように、時刻t1にて、入力端子107a、108aにオン指令が入力されると、OFF制御トランジスタ105のドレイン電圧(オン電圧)が上昇し、それによりゲート電流Iが流れ始め、それにより出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量113、114への充電が開始され、それにより出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが上昇し始める。なお、ゲート電流Iは、前述したように、出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量113、114とゲート抵抗103によって決まる時定数により制御される。
【0014】
時刻t2では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vtに到達し、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが流れ始める。
【0015】
時刻t3では、出力電流IDSが一定となり、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vが上昇し始めるとともに、出力トランジスタSW1のドレイン−ソース間電圧VDSが減少し始める。
【0016】
上述したように、出力電流が変化する期間(時刻t2〜時刻t3)にスイッチングノイズが発生する。そこで、従来は、図15に破線で示すように、ゲート抵抗103の抵抗値を大きくしてゲート電流のピーク値や変化率を低減することで、スイッチングノイズを低減している。
【0017】
しかしながら、図15に示すように、ゲート抵抗103の抵抗値を大きく設定すると、スイッチング時間やスイッチング損失(図15に示すスイッチング損失Pの波形の面積)が増大する。逆に、ゲート抵抗103の抵抗値を小さく設定すると、出力トランジスタSW1の出力電流IDSの変化dIDS/dtやリカバリー電流が増大し、それらを原因とするスイッチングノイズが悪化する。
【0018】
つまり、従来のゲート抵抗を用いてゲート電流Iを調整する方法では、スイッチングノイズの低減とスイッチング損失およびスイッチング時間の低減との間にトレードオフの関係があるため、それらを同時に低減することができなかった。
【0019】
この種の駆動回路では、出力トランジスタのスイッチング時に発生するスイッチング損失やスイッチングノイズを共に低減することが望ましいため、様々な提案がなされている。例えば特許文献1には、インダクタを用いてゲート電流を調整する方法が提案されている。
【0020】
この駆動回路においては、インダクタに予め電流を発生させて、インダクタにエネルギーを蓄えさせる。このエネルギーにより、出力トランジスタのターンオンまたはターンオフ時に制御端子から急速に電流を充放電して、スイッチング速度を高めている。つまり、スイッチング時間を短縮することにより、スイッチング損失を抑えている。
【0021】
しかしながら、従来のインダクタを用いてゲート電流を調整する方法では、出力トランジスタがターンオンまたはターンオフする間にゲート電流は一定となる。そのため、例えばスイッチング損失に着目してゲート電流を設定する場合、ゲート電流を大きな値に設定する必要があるが、ゲート電圧の変化dVGS/dtおよび出力電流の変化dIDS/dtはゲート電流に比例するため、出力電流の変化dIDS/dtによるノイズが増大する。つまり、一定のゲート電流によりスイッチングする方法ではスイッチング損失とスイッチングノイズとのトレードオフの関係からは逃れられない問題がある。
【特許文献1】特開2006−230166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、スイッチング損失とスイッチングノイズを同時に低減可能なスイッチング素子の制御方法、スイッチング素子制御装置、モータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の請求項1記載のスイッチング素子の制御方法は、スイッチング素子のターンオン時に、スイッチング素子の制御端子に電流を充電する第1の充電期間のステップと第2の充電期間のステップを有し、スイッチング素子のターンオフ時に、スイッチング素子の制御端子から電流を放電する第1の放電期間のステップと第2の放電期間のステップを有し、前記第1の充電期間では、前記第2の充電期間に充電する電流よりも電流値が小さい電流で充電し、前記第2の放電期間では、前記第1の放電期間に放電する電流よりも電流値が小さい電流で放電し、前記第1の充電期間は、スイッチング素子の制御端子に電流を充電し始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となるまでの期間であり、前記第2の充電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となってから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間であり、前記第1の放電期間は、スイッチング素子の制御端子から電流を放電し始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少を開始するまでの期間であり、前記第2の放電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少し始めてから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項2記載のスイッチング素子制御装置は、オン指令またはオフ指令を受信すると、オン信号またはオフ信号を生成するON/OFF制御回路と、前記ON/OFF制御回路からオン信号が入力されるとスイッチング素子の制御端子に電流を充電させてそのスイッチング素子をターンオンさせ、前記ON/OFF制御回路からオフ信号が入力されるとスイッチング素子の制御端子から電流を放電させてそのスイッチング素子をターンオフさせる駆動回路と、備え、前記駆動回路によりスイッチング素子の制御端子に充電される電流は、第1の充電期間の波形と第2の充電期間の波形を有し、前記第1の充電期間に充電される電流の電流値は前記第2の充電期間に充電される電流の電流値よりも小さく、前記第1の充電期間は、スイッチング素子の制御端子に電流が充電され始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となるまでの期間であり、前記第2の充電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となってから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間であり、前記駆動回路によりスイッチング素子の制御端子から放電される電流は、第1の放電期間の波形と第2の放電期間の波形を有し、前記第2の放電期間に放電される電流の電流値は前記第1の放電期間に放電される電流の電流値よりも小さく、前記第1の放電期間は、スイッチング素子の制御端子から電流が放電され始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少を開始するまでの期間であり、前記第2の放電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少し始めてから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項3記載のスイッチング素子制御装置は、請求項2記載のスイッチング素子制御装置であって、前記駆動回路は、前記ON/OFF制御回路からのオン信号を、インダクタもしくはインダクタおよび容量を介してスイッチング素子の制御端子へ伝播させることにより、前記したスイッチング素子の制御端子に充電される電流の波形を形成し、前記ON/OFF制御回路からのオフ信号を、抵抗を介してスイッチング素子の制御端子へ伝播させることにより、前記したスイッチング素子の制御端子から放電される電流の波形を形成することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項4記載のスイッチング素子制御装置は、オン指令を受信するとオン信号を生成するON制御トランジスタと、前記ON制御トランジスタに直列に接続し、オフ指令を受信するとオフ信号を生成するOFF制御トランジスタとを有するON/OFF制御回路と、前記ON/OFF制御回路からのオン信号を基にスイッチング素子をターンオンさせるオン駆動信号を生成し、前記ON/OFF制御回路からのオフ信号を基にスイッチング素子をターンオフさせるオフ駆動信号を生成する駆動回路と、備え、前記駆動回路は、前記ON/OFF制御回路の前記ON制御トランジスタと前記OFF制御トランジスタとの接続部に一端が接続し、スイッチング素子の出力端子に他端が接続する容量と、前記ON/OFF制御回路の前記ON制御トランジスタと前記OFF制御トランジスタとの接続部に一端が接続し、スイッチング素子の制御端子に他端が接続するインダクタと、前記インダクタに並列に接続される抵抗と、前記スイッチング素子の制御端子に一端が接続し他端が任意の電源に接続するクリップ回路と、を有することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項5記載のスイッチング素子制御装置は、請求項4記載のスイッチング素子制御装置であって、前記駆動回路は、前記インダクタに直列に接続する逆流防止ダイオードをさらに有することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の請求項6記載のスイッチング素子制御装置は、請求項4もしくは5のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であって、前記クリップ回路は、少なくとも1個のダイオードまたはツェナーダイオードを含むことを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項7記載のスイッチング素子制御装置は、請求項2ないし6のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であって、当該スイッチング素子制御装置は、その全部又は一部が集積化されていることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の請求項8記載のスイッチング素子制御装置は、請求項2ないし6のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であって、当該スイッチング素子制御装置は、その一部が集積化されており、その集積化された部分とその余の部分が同一基板上に搭載されてハイブリッド化されていることを特徴とする。
【0031】
また、本発明の請求項9記載のモータ駆動装置は、第1の電源と第2の電源との間に直列接続され、その直列接続点に単相または複数相の誘導負荷を有するモータの一端が接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のそれぞれのオン/オフ動作をそれぞれ制御する各スイッチング素子制御装置と、を備え、前記第1および第2のスイッチング素子は前記モータの相数に応じて設けられ、前記モータの各相の前記第1または第2のスイッチング素子の少なくとも一方のオン/オフ動作を制御する前記スイッチング素子制御装置は、請求項2ないし6のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の請求項10記載のモータ駆動装置は、請求項9記載のモータ駆動装置であって、当該モータ駆動装置は、その全部又は一部が集積化されていることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の請求項11記載のモータ駆動装置は、請求項9記載のモータ駆動装置であって、当該モータ駆動装置は、その一部が集積化されており、その集積化された部分とその余の部分が同一基板上に搭載されてハイブリッド化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明の好ましい形態によれば、出力電流IDSが変化する期間では、ゲート端子に充放電される電流量が小電流に制御されるので、スイッチング時の電磁波ノイズ(スイッチングノイズ)の要因である出力電流の変化dIDS/dtが低減され、ノイズを低減することができる。また、出力電流IDSが一定の期間では、ゲート電流が大電流に制御されるので、スイッチング時間を短縮し、スイッチング損失を低減することができる。したがって、スイッチングノイズとスイッチング損失を同時に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1におけるスイッチング素子の制御方法およびスイッチング素子制御装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるスイッチング素子制御装置の一例を示す概略ブロック図である。
【0036】
図1に示すように、制御対象の電圧駆動型スイッチング素子である出力トランジスタSW1(第1のスイッチング素子)と出力トランジスタSW2(第2のスイッチング素子)は、電源(第1の電源)6と接地電位(第2の電源)との間に直列に接続されている。なお、ここでは、出力トランジスタ(電圧駆動型スイッチング素子)としてN型MOSFETを例に説明する。電圧駆動型スイッチング素子の他例としては、例えば、ゲート端子(制御端子)とコレクタ端子(入力端子)とエミッタ端子(出力端子)を有するIGBT等がある。
【0037】
各出力トランジスタSW1、SW2にはそれぞれ、ドレイン端子(入力端子)とソース端子(出力端子)との間にダイオードD1、D2が寄生している。また、出力トランジスタSW1のドレイン端子と電源6との間には配線のインダクタンスLs7が存在する。同様に、出力トランジスタSW2のソース端子と接地電位との間には配線のインダクタンスLs8が存在する。また、一対の出力トランジスタSW1、SW2の直列接続点(ノード)には負荷であるコイル9が接続している。また、出力トランジスタSW1、SW2にはそれぞれ、ゲート端子(制御端子)とドレイン端子との間に容量10が寄生し、且つゲート端子とソース端子との間に容量11が寄生している。
【0038】
各出力トランジスタSW1、SW2のゲート端子には、スイッチング素子制御装置1が接続している。スイッチング素子制御装置1は、ON/OFF制御回路2とゲート駆動回路3を備える。
【0039】
出力トランジスタSW1に接続するスイッチング素子制御装置1のON/OFF制御回路2は、入力端子4a、5aに入力されたオン指令またはオフ指令を受信するとオン電圧(オン信号)またはオフ電圧(オフ信号)を生成する。ゲート駆動回路3は、ON/OFF制御回路2からのオン電圧を基に出力トランジスタSW1をターンオンさせるオン駆動電圧(オン駆動信号)を生成し、ON/OFF制御回路2からのオフ電圧を基に出力トランジスタSW1をターンオフさせるオフ駆動電圧(オフ駆動信号)を生成する。
【0040】
同様に、出力トランジスタSW2に接続するスイッチング素子制御装置1のON/OFF制御回路2は、入力端子4b、5bに入力されたオン指令またはオフ指令を受信するとオン電圧(オン信号)またはオフ電圧(オフ信号)を生成する。ゲート駆動回路3は、ON/OFF制御回路2からのオン電圧を基に出力トランジスタSW2をターンオンさせるオン駆動電圧(オン駆動信号)を生成し、ON/OFF制御回路2からのオフ電圧を基に出力トランジスタSW2をターンオフさせるオフ駆動電圧(オフ駆動信号)を生成する。
【0041】
出力トランジスタSW1、SW2は、ゲート端子にスイッチング素子制御装置1(ゲート駆動回路3)からのオン駆動電圧が印加されるとターンオンし、オフ駆動電圧が印加されるとターンオフする。詳細には、電圧駆動型のスイッチング素子のスイッチング動作は、その制御端子に寄生する容量の充放電動作に換言することができる。すなわち、電圧駆動型のスイッチング素子は、制御端子にオン駆動電圧を印加することによりその制御端子に寄生する容量に電流(ゲート電流)が充電され、それにより制御端子と出力端子との間の電位差がゲート閾値以上に上昇することでターンオンする。また、電圧駆動型のスイッチング素子は、制御端子にオフ駆動電圧を印加することによりその制御端子に寄生する容量から電流(ゲート電流)が放電され、それにより制御端子と出力端子との間の電位差がゲート閾値Vt以下に減少することでターンオフする。
【0042】
続いて、図2(a)、図2(b)に示すタイムチャートを用いて出力トランジスタSW1のターンオンおよびターンオフ時の各動作波形について説明する。なお、図2(a)、図2(b)には、それぞれ上から順に、ON/OFF制御回路2が生成するオン/オフ電圧のグラフ、ゲート電流Iのグラフ、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSのグラフ、出力トランジスタSW1の出力端子電圧V(一対の出力トランジスタSW1、SW2の直列接続点の電圧)のグラフ、出力トランジスタSW1のドレイン端子とソース端子との間に流れる出力電流IDSのグラフ、出力トランジスタSW1のドレイン−ソース間電圧VDSのグラフ、出力トランジスタSW1のスイッチング損失Pのグラフを示している。
【0043】
まず図2(a)に示すタイムチャートを用いて、出力トランジスタSW1のターンオン時の各動作波形について説明する。なお、この図2(a)に示すタイムチャート中では、図1に示すコイル9のa方向に電流が流れており、かつ出力トランジスタSW2はオフしているものとする。
【0044】
時刻t1では、出力トランジスタSW1のゲート端子へのゲート電流Iの供給が開始されて、それにより出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11への充電が開始され、それにより出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが上昇し始める。
【0045】
時刻t2では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vtに到達し、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが流れ始める。
【0046】
時刻t3〜時刻t5の期間では、MOSFETの特性(ミラー効果)により、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが一定になる。また、時刻t3では、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vが上昇し始めるとともに、出力トランジスタSW1のドレイン−ソース間電圧VDSが減少し始める。
【0047】
時刻t3〜時刻t4の期間では、出力トランジスタSW2のダイオードD2に逆バイアスがかかり、数10nsの間、リカバリー電流が発生する。また、リカバリー電流が流れ終わる時刻t4以降は、出力トランジスタSW1の出力電流IDSは一定になる。
【0048】
時刻t5では、再び出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが上昇し始める。上昇を再開したゲート−ソース間電圧VGSは、時刻t6に規定値に達して、その変動を終える。
【0049】
続いて、図2(b)に示すタイムチャートを用いて、出力トランジスタSW1のターンオフ時の各動作波形について説明する。なお、この図2(b)に示すタイムチャート中では、図1のコイル9のa方向に電流が流れており、かつ出力トランジスタSW2はオフしているものとする。
【0050】
時刻t1では、出力トランジスタSW1のゲート端子からのゲート電流Iの放電が開始されて、それにより出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11からの放電が開始され、それにより出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが減少し始める。
【0051】
時刻t2〜時刻t3の期間では、MOSFETの特性(ミラー効果)により、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが一定になる。また、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vが急峻に減少するとともに、出力トランジスタSW1のドレイン−ソース間電圧VDSが急峻に上昇する。
【0052】
時刻t3では、再び出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが減少し始める。また、時刻t3では、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが減少し始める。
【0053】
時刻t4では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vt以下となり、出力電流IDSは遮断される。これ以降にコイル9に流れる電流は、第2の電源である接地電位からダイオードD2を介して発生する。この後、時刻t5において、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが‘0’Vに近づいて、その変動を終える。
【0054】
以上、出力トランジスタSW1のターンオンおよびターンオフ時の各動作波形について述べた。ここで、本発明におけるゲート電流Iの理想的な波形について説明する。本実施の形態1では、出力トランジスタSW1、SW2のゲート端子(制御端子)の充放電電流であるゲート電流Iの波形を、以下で説明する理想的な波形に近づけることで、出力トランジスタSW1、SW2のターンオンおよびターンオフ時に発生するスイッチングノイズ(以下、単に「ノイズ」と称す。)とスイッチング損失を同時に低減する。
【0055】
出力トランジスタSW1のターンオン時にノイズが発生する時間領域は、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが変化する時間領域(図2(a)に示す時刻t2〜時刻t3の期間)と、リカバリー電流が発生する時間領域(図2(a)に示す時刻t3〜時刻t4の期間)である。
【0056】
時刻t2〜時刻t3の期間(dIDS/dt時間領域)では、出力トランジスタSW1の出力電流IDSの変化dIDS/dtが配線のインダクタンスLs7に発生することで、V=Ls・dIDS/dtのノイズが発生するため、出力電流IDSの変化dIDS/dtを抑制することが望まれる。
【0057】
また、時刻t3〜時刻t4の期間(リカバリー時間領域)では、出力トランジスタSW2のダイオードD2に逆バイアスがかかり、数10nsの間、リカバリー電流が発生する。したがって、このリカバリー電流が配線のインダクタLs7、8に発生することでノイズが発生する。時刻t3〜時刻t4のリカバリー時間はダイオードD2に固有であり、その期間中にダイオードD2に逆バイアスされる電圧、つまり出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vによりノイズ源となるリカバリー電流が流れる。そのため、リカバリー時間領域では、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vのスルーレートを抑制して、出力端子電圧Vを低く抑えることが望まれる。
【0058】
また、ターンオン時にスイッチング損失が発生する時間領域は、図2(a)に示す時刻t2〜時刻t6の期間であるが、前記したように時刻t2〜t4の期間はノイズの観点からゲート電流Iを制御する必要があり、残りの時刻t4〜時刻t6の期間を短縮してスイッチング損失を低減することが望まれる。
【0059】
一方、出力トランジスタSW1のターンオフ時にノイズが発生する時間領域は、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが変化する時間領域(図2(b)に示す時刻t3〜時刻t4の期間)である。したがって、ターンオン時と同様に、この時間領域(dIDS/dt時間領域)において出力電流IDSの変化dIDS/dtを抑制することが望まれる。
【0060】
また、ターンオフ時にスイッチング損失が発生する時間領域は、図2(b)に示す時刻t1〜時刻t4の期間であるが、前記したように時刻t3〜時刻t4の期間はノイズの観点からゲート電流Iを制御する必要があり、残りの時刻t1〜時刻t3の期間を短縮してスイッチング損失を低減することが望まれる。
【0061】
ここで、出力電流IDSの変化dIDS/dtは次式の通りである。
【0062】
【数1】

したがって、出力電流IDSの変化dIDS/dtを小さくするためには、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの変化dVGS/dtを抑えることが効果的である。
【0063】
前述したように、電圧駆動型のスイッチング素子のスイッチング動作は、その制御端子に寄生する容量の充放電動作に換言することができ、ゲート−ソース間電圧VGSの変化dVGS/dtは次式のようになる。
【0064】
【数2】

【0065】
すなわち、出力電流の変化dIDS/dtにより発生するノイズの低減は、ゲート電流Iを小電流に抑えることで実現できる。また、リカバリー電流により発生するノイズの低減についても、ゲート電流Iを小電流に抑えることで実現できる。つまり、リカバリー時間領域においてゲート電流Iを小電流に抑えることで、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vのスルーレートを抑制して、出力端子電圧Vを低く抑える。また、スイッチング損失の低減は、ゲート−ソース間電圧VGSの変化時間を短時間に抑えることで実現できるので、ゲート電流Iを大電流(充電時には最大ゲート電流Igmax、放電時には最小ゲート電流−Igmin)にすることで実現できる。
【0066】
以上のように、出力トランジスタSW1のターンオン時には、リカバリー時間領域後の時刻t4〜時刻t6の期間(第2の充電期間)において最大ゲート電流Igmaxで充電し、dIDS/dt時間領域とリカバリー時間領域を含む時刻t1〜時刻t4の期間(第1の充電期間)において、第2の充電期間に充電するゲート電流I(最大ゲート電流Igmax)よりも電流値が小さいゲート電流Iで充電することにより、出力トランジスタSW1のターンオン時に発生するノイズとスイッチング損失を同時に低減できる。また、出力トランジスタSW1のターンオフ時には、時刻t1〜時刻t3の期間(第1の放電期間)において最小ゲート電流−Igminで放電し、その後のdIDS/dt時間領域を含む時刻t3〜時刻t5の期間(第2の放電期間)において、第1の放電期間に放電するゲート電流I(最小ゲート電流−Igmin)よりも電流値の絶対値が小さいゲート電流Iで放電することにより、出力トランジスタSW1のターンオフ時に発生するノイズとスイッチング損失を同時に低減できる。したがって、ゲート電流Iの理想的な波形は、図2(a)、(b)のゲート電流Iのグラフに一点鎖線で示す波形となる。
【0067】
本実施の形態1におけるゲート電流波形を、図2(a)、(b)に実線で示す。図2(a)に実線で示すゲート電流Iの波形は、ON/OFF制御回路2からのオン電圧を、インダクタもしくはインダクタおよび容量を介して出力トランジスタSW1のゲート端子へ伝播させることにより形成することができる。すなわち、ターンオン時の初期においては、インダクタの特性もしくはインダクタおよび容量の特性を利用してゲート電流Iの増加を抑制し、ゲート電流Iが最大ゲート電流Igmaxとなった後は、インダクタの特性を利用してその最大ゲート電流Igmaxを維持することにより、ゲート電流Iの波形を、一点鎖線で示す理想的な波形に近づけることが可能となる。また、図2(b)に実線で示すゲート電流Iの波形は、ON/OFF制御回路2からのオフ電圧を、抵抗を介して出力トランジスタSW1のゲート端子へ伝播させることにより形成することができる。すなわち、抵抗とゲート端子に寄生する容量により決まる時定数に従いゲート電流Iを減衰させることにより、ゲート電流Iの波形を、一点鎖線で示す理想的な波形に近づけることが可能となる。
【0068】
続いて、図2(a)に示すタイムチャートを用いて、本実施の形態1における出力トランジスタSW1のターンオン時のゲート電流波形について説明する。
【0069】
時刻t1において、図1に示すコイル9のa方向に流れている電流は、第2の電源である接地電位からダイオードD2を介して発生しているため、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vは負電位になっている。
【0070】
時刻t1に入力端子4a、5aにオン指令が入力されると、出力トランジスタSW1のゲート端子へのゲート電流Iの供給が開始される。それにより出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11への充電が開始され、それにより出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが上昇し始める。
【0071】
時刻t2では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vtに到達し、出力トランジスタSW1のドレイン端子とソース端子との間に出力電流IDSが流れ始める。つまり、時刻t2のタイミングから出力トランジスタSW1においてスイッチング損失が発生し始める。
【0072】
時刻t2〜時刻t3の期間では、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが変化する。この変化が配線のインダクタンスLs7に発生することでノイズが発生するが、本実施の形態1では、この期間のゲート電流Iは小電流に制御されており、そのノイズは低減される。
【0073】
時刻t3〜時刻t4の期間では、出力トランジスタSW2のダイオードD2に逆バイアスがかかり、数10nsの間、リカバリー電流が発生する。このリカバリー電流が配線のインダクタLs7、8に発生することでノイズが発生する。
【0074】
リカバリー時間はダイオードD2に固有であり、その間の逆バイアス電圧によりリカバリー電流が決まる。逆バイアス電圧は出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vである。よって、出力端子電圧Vのスルーレートを抑制して、出力端子電圧Vを低く抑えることでリカバリー電流を抑えることができる。すなわち、時刻t3〜時刻t4の期間(リカバリー時間の数10nsの間)においては、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vを低く抑えることでノイズの低減が可能である。本実施の形態1では、この期間のゲート電流Iは小電流に制御されており、それにより出力端子電圧Vのスルーレートが抑制されているので、リカバリー電流によるノイズは低減される。
【0075】
出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが一定となる時刻t4〜時刻t5の期間では、出力電流IDSに変化がないため、ターンオン時間を短くしてスイッチング損失を低減するために、ゲート−ソース間電圧VGSを急速に立ち上げることが望ましい。前述したようにゲート−ソース間電圧VGSの変化dVGS/dtはゲート電流Iの電流量に比例する。本実施の形態1では、この期間にゲート電流Iが最大ゲート電流Igmaxまで増加されるので、ゲート端子電圧を速やかに立ち上げ、出力端子電圧Vを速やかに上昇させてターンオン時間を短縮させることができる。
【0076】
以上のように、本実施の形態1では、時刻t2〜時刻t5の期間において、初期(時刻t2〜時刻t4)ではゲート電流Iを低電流に抑制し、リカバリー領域時間後の時刻t4〜t5においてゲート電流Iを大電流に増加させる。
【0077】
また、時刻t5〜時刻t6の期間では、再びゲート−ソース間電圧VGSが上昇する。この期間も出力電流IDSに変化がないため、ターンオン時間を短くしてスイッチング損失を低減するためにゲート−ソース間電圧VGSを急速に立ち上げることが望ましい。本実施の形態1では、ゲート電流Iはゲート−ソース間電圧VGSが規定値に達するまで最大ゲート電流Igmaxに維持されており、ゲート−ソース間電圧VGSを急峻に立ち上げてターンオン時間を短縮させることができる。
【0078】
以上のように、本実施の形態1では、出力トランジスタSW1のターンオン時に、第1の充電期間である時刻t1〜時刻t4の期間(出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する寄生容量10、11に電流を充電し始めてから、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが一定となるまでの期間)において、第2の充電期間である時刻t4〜時刻t6の期間(出力トランジスタSW1の出力電流IDSが一定となってから、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの変動が終わるまでの期間)に充電する電流よりも小さい電流値の電流で充電することにより、ノイズとスイッチング損失を同時に低減している。
【0079】
続いて、図2(b)に示すタイムチャートを用いて、本実施の形態1における出力トランジスタSW1のターンオフ時のゲート電流波形について説明する。
【0080】
時刻t1に入力端子4a、5aにオフ指令が入力されると、出力トランジスタSW1のゲート端子からのゲート電流Iの放電が開始されて、それにより出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11からの放電が開始され、それにより出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの減少が開始する。
【0081】
時刻t1〜時刻t2の期間では、出力電流IDSに変化がないため、ターンオフ時間を短くしてスイッチング損失を低減するために、ゲート−ソース間電圧VGSを急速に立ち下げることが望ましい。前述したようにゲート−ソース間電圧VGSの変化dVGS/dtはゲート電流Iの電流量に比例する。本実施の形態1では、時刻t1において最小ゲート電流−Igminが出力トランジスタSW1のゲート端子に供給され、時刻t1〜時刻t2の期間では、ゲート電流(放電電流)Iは大電流に制御されており、ターンオフ時間を短縮させることができる。
【0082】
時刻t2〜時刻t3の期間では、MOSFETの特性(ミラー効果)により、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが一定になり、時刻t3において、再びゲート−ソース間電圧VGSが減少し始める。この期間では、出力電流IDSに変化がないため、ターンオフ時間を短くしてスイッチング損失を低減するために、ゲート−ソース間電圧VGSを急速に立ち下げることが望ましい。本実施の形態1では、この期間のゲート電流(放電電流)Iは大電流に制御されており、ターンオフ時間を短縮させることができる。
【0083】
時刻t3では、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが減少し始める。時刻t4では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vt以下となり、出力電流IDSは遮断される。この時刻t3〜時刻t4の期間の出力電流IDSの変化が配線のインダクタンスLs7に発生することでノイズが発生するが、本実施の形態1では、この期間のゲート電流(放電電流)Iは小電流に制御されており、そのノイズは低減される。
【0084】
これ以降にコイル9に流れる電流は、第2の電源である接地電位からダイオードD2を介して発生するため、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vは負電圧となる。この後、時刻t5において、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが‘0’Vに近づいて、その変動を終える。
【0085】
以上のように、本実施の形態1では、出力トランジスタSW1のターンオフ時に、第2の放電期間である時刻t3〜時刻t5の期間(出力トランジスタSW1の出力電流IDSが減少し始めてから、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの変動が終わるまでの期間)において、第1の放電期間である時刻t1〜時刻t3の期間(出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する寄生容量10、11から電流を放電し始めてから、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが減少し始めるまでの期間)に放電する電流よりも小さい電流値の電流で放電することにより、ノイズとスイッチング損失を同時に低減している。
【0086】
以上、本実施の形態1におけるゲート電流波形について説明した。ここで、本実施の形態1における出力トランジスタのターンオンおよびターンオフ時の各動作波形のシミュレーション結果と、従来のゲート電流を一定に制御する方式による出力トランジスタのターンオンおよびターンオフ時の各動作波形のシミュレーション結果を比較する。
【0087】
図3(a)に本実施の形態1における出力トランジスタのターンオン時の各動作波形のシミュレーション結果を示し、図3(b)に従来のゲート電流を一定に制御する方式による出力トランジスタのターンオン時の各動作波形のシミュレーション結果を示す。また、図4(a)に本実施の形態1における出力トランジスタのターンオフ時の各動作波形のシミュレーション結果を示し、図4(b)に従来のゲート電流を一定に制御する方式による出力トランジスタのターンオフ時の各動作波形のシミュレーション結果を示す。
【0088】
なお、図3(a)と図3(b)および図4(a)と図4(b)には、消費電力量すなわちスイッチング損失波形の面積を同等にし、出力トランジスタで発生する発熱量をあわせたシミュレーション結果を示している。また、図3(a)、図3(b)、図4(a)、図4(b)には、それぞれ上から順に、ゲート電流I[mA]のグラフ、出力トランジスタのゲート−ソース間電圧VGS[V]のグラフ、出力トランジスタの出力端子電圧V[V]のグラフ、出力トランジスタのドレイン−ソース間電圧VDS[V]のグラフ、出力トランジスタの出力電流IDS[A]のグラフ、出力電流IDSの変化dIDS/dt[A/μs]のグラフ、出力トランジスタのスイッチング損失P[W]のグラフを示している。
【0089】
これらの図からわかるように、ターンオン時、ターンオフ時とも、従来のゲート電流を一定に制御する方法に比べて、dIDS/dtが大幅に低減されている。従来のように、ゲート電流を一定に制御する方法では、ノイズ発生の原因となる時間領域とスイッチング損失が発生する時間領域の両方においてゲート電流が一定であるため、ノイズを懸念してゲート電流を削減するとスイッチング損失が悪化する。このように、従来のゲート電流を一定に制御する方法では、ノイズの低減とスイッチング損失の低減がトレードオフの関係にあり、ノイズとスイッチング損失を同時に低減することが不可能であった。
【0090】
これに対して、本実施の形態1によれば、ターンオン時においては、出力トランジスタの出力電流IDSの変化時ではゲート電流Iを小電流に抑制してノイズを低減させ、ノイズ発生期間後では、ゲート電流Iを大電流に増加させてスイッチング時間を短縮させることによりスイッチング損失を低減させている。また、ターンオフ時においては、出力トランジスタの出力電流IDSが変化し始めるまでの期間は、ゲート電流Iを大電流にしてスイッチング時間を短縮させることによりスイッチング損失を低減させ、出力トランジスタの出力電流IDSの変化時にはゲート電流を減衰させてノイズを低減させている。
【0091】
このように、本実施の形態1によれば、従来はトレードオフ事項であったノイズの低減とスイッチング損失の低減を同時に実現することができる。
【0092】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2におけるスイッチング素子の制御方法およびスイッチング素子制御装置について、図面を参照しながら説明する。但し、前述した実施の形態1において説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。
【0093】
図5は、本発明の実施の形態2におけるスイッチング素子制御装置の具体的な回路の一例を示す図である。図5に示すように、出力トランジスタSW1に接続するスイッチング素子制御装置1のON/OFF制御回路2は、電源(第3の電源)14と接地電位(第4の電源)との間にON制御トランジスタ(P型MOSFET)12とOFF制御トランジスタ(N型MOSFET)13が直列に接続された構成となっている。また、ON制御トランジスタ12のゲート端子は入力端子4aに接続され、OFF制御トランジスタ13のゲート端子は入力端子5aに接続されている。このON制御トランジスタ12とOFF制御トランジスタ13の接続点(ノード)がゲート駆動回路3に接続している。
【0094】
ゲート駆動回路3は、図5に示すように、コンデンサ(キャパシタ)15、インダクタ16、逆流防止ダイオード17、ゲート抵抗18、ゲート電圧クリップダイオード(クリップ回路)19を備える。
【0095】
コンデンサ(容量)15は、その一端がON制御トランジスタ12とOFF制御トランジスタ13の接続点(接続部)に接続し、その他端が出力トランジスタSW1のソース端子に接続している。
【0096】
インダクタ16と逆流防止ダイオード17は直列に接続しており、インダクタ16は、その一端がON制御トランジスタ12とOFF制御トランジスタ13の接続点(接続部)に接続し、その他端が逆流防止ダイオード17のアノードに接続している。また、逆流防止ダイオード17のカソードは、出力トランジスタSW1のゲート端子に接続している。
【0097】
ゲート抵抗18は、インダクタ16と逆流防止ダイオード17が直列に接続された回路に並列に接続している。すなわち、ゲート抵抗18は、その一端がON制御トランジスタ12とOFF制御トランジスタ13の接続点(接続部)に接続し、その他端が出力トランジスタSW1のゲート端子に接続している。
【0098】
ゲート電圧クリップダイオード19は、その一端(アノード側)が出力トランジスタSW1のゲート端子に接続し、その他端(カソード側)がON/OFF制御回路2の電源14に接続している。
【0099】
なお、出力トランジスタSW2に接続するスイッチング素子制御装置1の構成は、出力トランジスタSW1に接続するスイッチング素子制御装置1と同様であるので、説明を省略する。
【0100】
続いて、図6(a)、図6(b)に示すタイムチャートを用いて出力トランジスタSW1のターンオンおよびターンオフ時の各動作波形について説明する。なお、図6(a)、図6(b)には、それぞれ上から順に、入力端子4a、5aに入力されるオン/オフ指令(入力信号S1およびS2)のグラフ、ON/OFF制御回路2のOFF制御トランジスタ13のドレイン電圧のグラフ、ゲート電流Iのグラフ、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSのグラフ、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vのグラフ、出力トランジスタSW1のドレイン−ソース間電圧VDSのグラフ、出力トランジスタSW1の出力電流IDSのグラフ、出力トランジスタSW1のスイッチング損失Pのグラフを示している。
【0101】
まず図6(a)に示すタイムチャートを用いて、出力トランジスタSW1のターンオン時の各動作波形について説明する。なお、この図6(a)に示すタイムチャート中では、図5に示すコイル9のa方向に電流が流れており、かつ出力トランジスタSW2はオフしているものとする。
【0102】
初期の時刻t0では、入力信号S1およびS2の論理レベルがハイレベルであるため、出力トランジスタSW1のゲート端子電圧は略‘0’Vとなっており、出力トランジスタSW1はオフ状態となっている。また、コイル9のa方向に流れる電流は、第2の電源である接地電位から出力トランジスタSW2のダイオードD2を介して発生しているため、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vは負電位になっている。
【0103】
時刻t1において、入力信号S1およびS2の論理レベルがハイレベルからローレベルに切り替わると、ON制御トランジスタ12がオン状態、OFF制御トランジスタ13がオフ状態となり、OFF制御トランジスタ13のドレイン電圧、すなわちON制御トランジスタ12とOFF制御トランジスタ13の接続点の電圧(オン電圧)が上昇を開始する。
【0104】
時刻t1〜時刻t2の期間では、オン電圧の上昇に伴い、出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11が充電されて、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが上昇する。ここで、オン電圧の上昇速度はコンデンサ15によって制限され、それに加えてインダクタ16の特性により、ゲート電流Iは緩やかに増加する。つまり、このコンデンサ15とインダクタ16の特性を用いることでゲート電流Iを小電流に制御している。
【0105】
時刻t2では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vtに到達し、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが流れ始める。
【0106】
時刻t2〜時刻t3の期間では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの上昇に伴い、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが上昇する。ところで、電源6と出力トランジスタSW1のドレイン端子との間の配線には配線のインダクタンスLs7が存在する。そのため、出力電流IDSの変化dIDS/dtが大きい場合、サージ電圧V=Ls・dIDS/dtが発生し、ノイズ(スイッチングノイズ)が発生する。本実施の形態2では、コンデンサ15とインダクタ16によりゲート電流Iが抑制されており、dVGS/dtが小さいため、ノイズは低減される。
【0107】
時刻t3では、出力トランジスタSW1が負荷(コイル9)に流れる全電流を供給できるようになるまで出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが増加して、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vが上昇を開始する。
【0108】
時刻t3〜時刻t4の期間では、MOSFETの特性(ミラー効果)により、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが一定になる。時刻t4〜時刻t5の期間では、インダクタ16の特性によって、それまでインダクタ16に流れていた電流(ゲート電流I)が流れ続けるため、出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11への充電が減衰せずに行われ、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSは急速に増大する。このように、インダクタ16の特性を利用することで、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSを急速に増大させることができるので、前述の実施の形態1において説明した図3(a)、図3(b)からわかるように、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの立ち上り時間は、従来に比べて約1/4となる。
【0109】
出力トランジスタSW1のゲート端子電圧は、ON/OFF制御回路2の電源14の電圧に対して、ゲート電圧クリップダイオード19によって決定されるクリップ電圧まで上昇する。時刻t5において、出力トランジスタSW1のゲート端子電圧がクリップ電圧に到達すると、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの増加が停止する。また、それまでインダクタ16から発生していたゲート電流Iは、ゲート電圧クリップダイオード19を介してON/OFF制御回路2へ還流される。
【0110】
このとき、インダクタ16を流れる電流は時間経過とともに減少する。インダクタ16に発生していた電流がなくなると共振現象によりインダクタ16は出力トランジスタSW1のゲート端子からON/OFF制御回路2へ電流を発生させる。それによりゲート端子電圧にリンギングが発生する。本実施の形態2では、インダクタ16に直列に逆流防止用のダイオード17を接続しているため、リンギングが発生しない。
【0111】
続いて、図6(b)に示すタイムチャートを用いて、出力トランジスタSW1のターンオフ時の各動作波形について説明する。なお、この図6(b)に示すタイムチャート中では、図5に示すコイル9のa方向に電流が流れており、かつ出力トランジスタSW2はオフしているものとする。
【0112】
初期の時刻t0では、入力信号S1およびS2は論理レベルがローレベルであるため、出力トランジスタSW1のゲート端子電圧は前記したクリップ電圧となっており、出力トランジスタSW1はオン状態となっている。つまり、コイル9のa方向に流れる電流は、第1の電源である電源6から出力トランジスタSW1を通って流れており、また、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vは、ほぼ電源6の電圧となっている。
【0113】
時刻t1において、入力信号S1およびS2の論理レベルがローレベルからハイレベルに切り替わると、ON制御トランジスタ12がオフ状態、OFF制御トランジスタ13がオン状態となり、OFF制御トランジスタ13のドレイン電圧、すなわちON制御トランジスタ12とOFF制御トランジスタ13の接続点の電圧(オフ電圧)が減少を開始する。
【0114】
時刻t1〜時刻t2の期間では、オフ電圧の減少に伴い、出力トランジスタSW1のゲート端子に寄生する容量10、11からゲート抵抗18を経て電流が放電され、それにより出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが減少する。ここで、オフ電圧の減少速度はコンデンサ15によって制限されるが、オフ電圧の減少に伴い、ゲート電流(放電電流)Iは増加する。
【0115】
時刻t2において、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが、出力トランジスタSW1が負荷(コイル9)に流れる全電流を流すことができる最小値に達すると、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vが減少を開始する。
【0116】
時刻t2〜時刻t3の期間では、MOSFETの特性(ミラー効果)により、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが一定になる。時刻t3において、出力トランジスタSW1がコイル9に流れる全電流を供給できないようになると、コイル9に流れる電流の不足分が第2の電源である接地電位からダイオードD2を経て供給され、出力トランジスタSW1の出力端子電圧Vは負電圧になり、再び出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが減少し始める。
【0117】
時刻t3〜時刻t4の期間では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSの低下に伴い、出力トランジスタSW1の出力電流IDSが減少する。既に述べたように出力電流IDSの変化dVGS/dtが大きい場合、ノイズが発生する。本実施の形態2では、ゲート電流(放電電流)Iはゲート抵抗18と容量10、11により決まる時定数で減衰するので、出力電流IDSの変化dVGS/dtが抑制されて、ノイズが低減される。
【0118】
時刻t4では、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSがゲート閾値Vtに到達して、出力トランジスタSW1はターンオフし、コイル9に流れる全電流は第2の電源である接地電位からダイオードD2を経て供給される。この後、時刻t5において、出力トランジスタSW1のゲート−ソース間電圧VGSが‘0’Vに近づいて、その変動を終える。
【0119】
このように本実施の形態2によれば、出力トランジスタのターンオン時には、その初期においてコンデンサ15とインダクタ16の特性によりゲート電流Iの変化が抑制されるため、ノイズを低減することができる。その上、ゲート電流Iが最大ゲート電流Igmaxとなった後は、インダクタの特性を利用してゲート電流Iを流し続けるので、ゲート端子に寄生する容量を速やか充電して、スイッチング損失を低減することができる。したがって、本実施の形態2によれば、出力トランジスタのターンオン時に発生するノイズとスイッチング損失を同時に低減させることができる。また、ターンオフ時においても、ゲート抵抗18により放電電流を時定数に従い減衰させることで、ノイズとスイッチング損失を同時に低減させることができる。
【0120】
なお、本実施の形態2では、ターンオン時の初期において、コンデンサとインダクタを用いてゲート電流Iの増加を抑制したが、インダクタのみを用いてもよい。
【0121】
また、本実施の形態2では、クリップ回路として1個のダイオード19を設けたが、クリップ回路は少なくとも1個のダイオードまたはツェナーダイオードを含む構成であればよく、任意に組合せることによりクリップ電圧を自在に可変することができる。また、ゲート電圧クリップダイオード19のカソードをON/OFF制御回路2の電源14に接続したが、他の任意の電源に接続させることができる。
【0122】
続いて、スイッチング素子制御装置1を集積化する場合の構成について説明する。スイッチング素子制御装置1は、その全部または一部を集積化することが可能である。図7に、スイッチング素子制御装置1の一部を集積化した構成の一例を示す。図7に示す例では、ON/OFF制御回路2と、ゲート駆動回路3の一部をIC20内に集積化している。
【0123】
5[A]や10[A]もしくはそれ以上の大電流を扱うスイッチング素子のオン/オフを制御する場合、スイッチング素子をIC内に内蔵させずに外付けにするケースがある。その場合、スイッチング素子が変更されても使えるように、ゲート電流調整用の部材も外付けにする。すなわち、図7に示すように、ゲート電流を調整する素子であるコンデンサ15、インダクタ16およびゲート抵抗18を外付け部品にて構成し、ON/OFF制御回路2、逆流防止ダイオード17およびゲート電圧クリップダイオード19をIC20に集積化する。素子定数設定例としては、コンデンサ15:500pF、インダクタ16:150uH、ゲート抵抗18:1.2kΩと設定することで、任意のスイッチング素子にて低スイッチング損失、低ノイズの実現を確認した。
【0124】
もし、ターンオン時においてノイズが問題となっている場合は、コンデンサ15の容量値を増加させることでノイズの低減が可能である。また、スイッチング時間やスイッチング損失が問題になっている場合は、ターンオン時に関してはインダクタ16を調整し、ターンオフ時に関してはゲート抵抗18を調整することでスイッチング時間の短縮やスイッチング損失の低減を行うことが可能である。
【0125】
なお、無論、スイッチング素子制御装置1の構成のうち集積化する部分は、図7に示す例に限定されるものではない。また、定電圧源14については、同一半導体基板上に集積化せずに、ON制御トランジスタ12のドレイン端子を電源ラインに接続する構成としてもよい。また、スイッチング素子制御装置1の一部を集積化したICチップと、その余の集積化していないディスクリート部品を同一基板上に搭載してハイブリッドIC化してもよい。
【0126】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3におけるモータ駆動装置について、図面を参照しながら説明する。但し、前述した実施の形態1、2において説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。
【0127】
図8は、本発明の実施の形態3におけるモータ駆動装置の一例を示す全体構成図である。図8に示すように、モータ駆動装置21は、3相の誘導負荷(巻線)を有するモータ22と、モータ22の各相U、V、Wの巻線に電力を供給する三相ブリッジ回路23と、三相ブリッジ回路23の各スイッチング素子(出力トランジスタSW1〜SW6)ごとに設けられた6個のスイッチング素子制御装置1を備えている。なお、スイッチング素子制御装置1の回路構成および特性は、前述した実施の形態1もしくは2と同様であるので、説明を省略する。
【0128】
三相ブリッジ回路23は、6個の出力トランジスタSW1〜SW6からなり、第1の電源である電源6と第2の電源である接地電位との間に、直列接続された一対の出力トランジスタSWを並列に3組接続した構成となっており、各一対の出力トランジスタSWの接続部分がモータ22の各相U、V、Wの巻線に接続されており、第1の電源である電源6および第2の電源である接地電位からモータ22の各相U、V、Wの巻線に電力を供給する。
【0129】
なお、ここでは、出力トランジスタ(電圧駆動型スイッチング素子)としてN型MOSFETを例示している。電圧駆動型スイッチング素子の他例としては、例えば、ゲート端子(制御端子)とコレクタ端子(入力端子)とエミッタ端子(出力端子)を有するIGBT等がある。
【0130】
また、本実施の形態3では、3相のモータを駆動するモータ駆動装置について説明したが、この場合に限らず、本発明は、単相または複数相のモータを駆動するモータ駆動装置に適用可能である。
【0131】
また、本実施の形態3では、三相ブリッジ回路23の各出力トランジスタSW1〜SW6のオン/オフ動作を制御するスイッチング素子制御装置として前述した実施の形態1もしくは2で説明したスイッチング素子制御装置1を用いているが、必ずしも全ての出力トランジスタに用いなくともよい。例えば、一対の出力トランジスタの片側のみに用いてもよい。例えば図9に示すように、第1の電源である電源6に接続する出力トランジスタSW1、SW3、SW5(ハイサイド側の出力トランジスタ)に、前述した実施の形態1もしくは2で説明したスイッチング素子制御装置1を接続し、第2の電源である接地電位に接続する出力トランジスタSW2、SW4、SW6(ローサイド側の出力トランジスタ)に、スイッチング素子制御装置としてON/OFF制御回路2を接続してもよいし、逆に、図10に示すように、ハイサイド側の出力トランジスタにスイッチング素子制御装置としてON/OFF制御回路2を接続し、ローサイド側の出力トランジスタに、前述した実施の形態1もしくは2で説明したスイッチング素子制御装置1を接続してもよい。
【0132】
また、モータ駆動装置21は、その全部又は一部を集積化することが可能である。例えば、前述の実施の形態2で説明したように、ON/OFF制御回路2と、ゲート駆動回路3の一部(逆流防止ダイオード17およびゲート電圧クリップダイオード19)をモータ駆動IC内に集積化し、ゲート駆動回路3の他の部分(コンデンサ15、インダクタ16およびゲート抵抗18)と、三相ブリッジ回路23を構成する出力トランジスタSW1〜SW6を外付け部品としてもよい。
【0133】
また、モータ駆動装置21の一部を集積化したモータ駆動ICチップと、その余の集積化していない部分を同一基板上に搭載してハイブリッドIC化してもよい。例えば、ON/OFF制御回路2と逆流防止ダイオード17とゲート電圧クリップダイオード19を集積化したモータ駆動ICと、コンデンサ15とインダクタ16とゲート抵抗18のディスクリード部品と、出力トランジスタSW1〜SW6とを絶縁基板上にハイブリッド集積化してもよい。
【0134】
この場合、モータ駆動ICは絶縁基板上に半田付けあるいはワイヤボンディングなどにより搭載する。ディスクリート部品も絶縁基板上に半田付あるいはワイヤボンディングなどにより搭載する。出力トランジスタも絶縁基板上に半田付けあるいはワイヤボンディングなどにより搭載する。また、ディスクリート部品をワイヤによりモータ駆動ICや出力トランジスタと接続する。
【0135】
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4における家電機器について、図面を参照しながら説明する。但し、前述した実施の形態1〜3において説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。ここでは、家電機器の一例として、洗濯機を例に説明する。図11は、本発明の実施の形態4における洗濯機の一例を示す概略構成図である。
【0136】
洗濯機30には、一般的に、洗濯モードでは高トルクかつ低速回転が求められ、脱水モードでは低トルクかつ高速回転が求められる。このように、洗濯機30では、動作モードに応じてモータ31の回転数とともに必要なトルクも変化する。また、洗濯モードでは攪拌体32によって洗濯槽33内の洗濯物34を攪拌するため、洗濯物34の絡み合いなどによってモータ31にかかる負荷が変化する。負荷が変動することでモータ31に供給する電流が増減する。特に高負荷時においては負荷電流が増大するため、ノイズ(スイッチングノイズ)やスイッチング損失が大きくなる。したがって、モータ31を駆動するモータ駆動装置35として前述の実施の形態3で説明したモータ駆動装置を設けることで、ノイズやスイッチング損失の低い洗濯機を実現できる。
【0137】
なお、ここでは家電機器として洗濯機を例に説明したが、本発明は、空気調和機や冷蔵庫、掃除機などのモータを備えた家電機器全般に適用可能である。
【0138】
(実施の形態5)
以下、本発明の実施の形態5における事務機器について、図面を参照しながら説明する。但し、前述した実施の形態1〜3において説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。ここでは、事務機器の一例として、プリンタを例に説明する。図12は、本発明の実施の形態5におけるプリンタの一例を示す概略構成図である。
【0139】
プリンタでは、モータ41を感光ドラム42や紙送り機構43などの回転駆動に用いる。プリンタで印字可能な用紙44は、上質紙、OHP用フォイル、封筒などさまざまであるため、紙送り機構43の回転速度が一定であったとしても給紙の種類によってモータ41にかかる負荷が変化する。負荷が変動することでモータ41に供給する電流が増減する。特に高負荷時においてはノイズ(スイッチングノイズ)やスイッチング損失が大きくなる。したがって、モータ41を駆動するモータ駆動装置45として前述の実施の形態3で説明したモータ駆動装置を設けることで、ノイズやスイッチング損失の低いプリンタを実現できる。
【0140】
なお、ここでは事務機器としてプリンタを例に説明したが、本発明は、複写機やシュレッダ装置などのモータを備えた事務機器全般に適用可能である。
【0141】
(実施の形態6)
以下、本発明の実施の形態6における移動体について、図面を参照しながら説明する。但し、前述した実施の形態1〜3において説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。ここでは、移動体の一例として、電気自動車を例に説明する。図13は、本発明の実施の形態6における電気自動車の一例を示す概略構成図である。
【0142】
ハイブリッドカーなどのモータ51を備えた電気自動車では、一定速度で走行中に道路状況や勾配などによりモータ51にかかる負荷が変化する。負荷が変動することでモータ51に供給する電流が増減する。特に高負荷時においてはノイズ(スイッチングノイズ)やスイッチング損失が大きくなる。したがって、モータ51を駆動するモータ駆動装置52として前述の実施の形態3で説明したモータ駆動装置を設けることで、ノイズやスイッチング損失の低い電気自動車を実現できる。
【0143】
なお、ここでは移動体として電気自動車を例に説明したが、本発明は、電気二輪車や電動アシスト自転車、列車、飛行機など、動力源としてモータを備えた移動体全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明にかかるスイッチング素子の制御方法およびスイッチング素子制御装置は、スイッチングノイズとスイッチング損失を同時に低減でき、PWM制御などによって駆動されるスイッチング素子を介してモータなどの誘導性負荷への通電を制御する制御回路などに有用である。
【0145】
また、本発明にかかるモータ駆動装置は、モータ負荷が変化しても低ノイズ、低損失の駆動が可能であり、モータの負荷が変化するような製品、例えば、空気調和機や洗濯機、冷蔵庫、掃除機などの家電機器、複写機やプリンタなどの事務機器、電動ハイブリッド自転車やハイブリッド自動車などの移動体に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスイッチング素子制御装置の一例を示す概略ブロック図
【図2】本発明の実施の形態1におけるスイッチング素子の動作タイムチャートの一例を示す図
【図3】本発明の実施の形態1および従来のスイッチング素子のターンオン時の各動作波形のシミュレーション結果の一例を示す図
【図4】本発明の実施の形態1および従来のスイッチング素子のターンオフ時の各動作波形のシミュレーション結果の一例を示す図
【図5】本発明の実施の形態2におけるスイッチング素子制御装置の具体的な回路の一例を示す図
【図6】本発明の実施の形態2におけるスイッチング素子の動作タイムチャートの一例を示す図
【図7】本発明の実施の形態2におけるスイッチング素子制御装置を集積化した構成の一例を示す図
【図8】本発明の実施の形態3におけるモータ駆動装置の一例を示す全体構成図
【図9】本発明の実施の形態3におけるモータ駆動装置の他の例を示す全体構成図
【図10】本発明の実施の形態3におけるモータ駆動装置の他の例を示す全体構成図
【図11】本発明の実施の形態4における洗濯機の一例を示す概略構成図
【図12】本発明の実施の形態5におけるプリンタの一例を示す概略構成図
【図13】本発明の実施の形態6における電気自動車の一例を示す概略構成図
【図14】従来のスイッチング素子制御装置の回路図
【図15】従来のスイッチング素子のターンオン時の各動作波形を示す図
【符号の説明】
【0147】
1、101 スイッチング素子制御装置
2、102 ON/OFF制御回路
3 ゲート駆動回路
4a〜4f、107a、107b 入力端子
5a〜5f、108a、108b 入力端子
6、109 電源
7、8、110、111 配線のインダクタンスLs
9、112 負荷(コイル)
10、113 ゲート−ドレイン間の容量
11、114 ゲート−ソース間の容量
12、104 ON制御トランジスタ
13、105 OFF制御トランジスタ
14、106 電源
15 コンデンサ
16 インダクタ
17 ダイオード
18、103 抵抗
19 ダイオード
20 IC
21 モータ駆動装置
22 モータ負荷
23 三相ブリッジ回路
30 洗濯機
31 モータ
32 攪拌体
33 洗濯槽
34 洗濯物
35 モータ駆動装置
41 モータ
42 感光ドラム
43 送り機構
44 印刷用紙
45 モータ駆動装置
50 自動車
51 モータ
52 モータ駆動装置
SW1〜SW2 電圧駆動型スイッチング素子(出力トランジスタ)
D1〜D6 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のターンオン時に、スイッチング素子の制御端子に電流を充電する第1の充電期間のステップと第2の充電期間のステップを有し、スイッチング素子のターンオフ時に、スイッチング素子の制御端子から電流を放電する第1の放電期間のステップと第2の放電期間のステップを有し、
前記第1の充電期間では、前記第2の充電期間に充電する電流よりも電流値が小さい電流で充電し、
前記第2の放電期間では、前記第1の放電期間に放電する電流よりも電流値が小さい電流で放電し、
前記第1の充電期間は、スイッチング素子の制御端子に電流を充電し始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となるまでの期間であり、
前記第2の充電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となってから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間であり、
前記第1の放電期間は、スイッチング素子の制御端子から電流を放電し始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少を開始するまでの期間であり、
前記第2の放電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少し始めてから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間である
ことを特徴とするスイッチング素子の制御方法。
【請求項2】
オン指令またはオフ指令を受信すると、オン信号またはオフ信号を生成するON/OFF制御回路と、
前記ON/OFF制御回路からオン信号が入力されるとスイッチング素子の制御端子に電流を充電させてそのスイッチング素子をターンオンさせ、前記ON/OFF制御回路からオフ信号が入力されるとスイッチング素子の制御端子から電流を放電させてそのスイッチング素子をターンオフさせる駆動回路と、備え、
前記駆動回路によりスイッチング素子の制御端子に充電される電流は、第1の充電期間の波形と第2の充電期間の波形を有し、前記第1の充電期間に充電される電流の電流値は前記第2の充電期間に充電される電流の電流値よりも小さく、前記第1の充電期間は、スイッチング素子の制御端子に電流が充電され始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となるまでの期間であり、前記第2の充電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が一定となってから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間であり、
前記駆動回路によりスイッチング素子の制御端子から放電される電流は、第1の放電期間の波形と第2の放電期間の波形を有し、前記第2の放電期間に放電される電流の電流値は前記第1の放電期間に放電される電流の電流値よりも小さく、前記第1の放電期間は、スイッチング素子の制御端子から電流が放電され始めてから、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少を開始するまでの期間であり、前記第2の放電期間は、スイッチング素子の入力端子と出力端子との間に流れる出力電流が減少し始めてから、スイッチング素子の制御端子と出力端子との間の電位差の変動が終わるまでの期間である
ことを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のスイッチング素子制御装置であって、前記駆動回路は、前記ON/OFF制御回路からのオン信号を、インダクタもしくはインダクタおよび容量を介してスイッチング素子の制御端子へ伝播させることにより、前記したスイッチング素子の制御端子に充電される電流の波形を形成し、前記ON/OFF制御回路からのオフ信号を、抵抗を介してスイッチング素子の制御端子へ伝播させることにより、前記したスイッチング素子の制御端子から放電される電流の波形を形成することを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項4】
オン指令を受信するとオン信号を生成するON制御トランジスタと、前記ON制御トランジスタに直列に接続し、オフ指令を受信するとオフ信号を生成するOFF制御トランジスタとを有するON/OFF制御回路と、
前記ON/OFF制御回路からのオン信号を基にスイッチング素子をターンオンさせるオン駆動信号を生成し、前記ON/OFF制御回路からのオフ信号を基にスイッチング素子をターンオフさせるオフ駆動信号を生成する駆動回路と、備え、
前記駆動回路は、
前記ON/OFF制御回路の前記ON制御トランジスタと前記OFF制御トランジスタとの接続部に一端が接続し、スイッチング素子の出力端子に他端が接続する容量と、
前記ON/OFF制御回路の前記ON制御トランジスタと前記OFF制御トランジスタとの接続部に一端が接続し、スイッチング素子の制御端子に他端が接続するインダクタと、
前記インダクタに並列に接続される抵抗と、
前記スイッチング素子の制御端子に一端が接続し他端が任意の電源に接続するクリップ回路と、を有する
ことを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項5】
請求項4記載のスイッチング素子制御装置であって、前記駆動回路は、前記インダクタに直列に接続する逆流防止ダイオードをさらに有することを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項6】
請求項4もしくは5のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であって、前記クリップ回路は、少なくとも1個のダイオードまたはツェナーダイオードを含むことを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であって、当該スイッチング素子制御装置は、その全部又は一部が集積化されていることを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項8】
請求項2ないし6のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置であって、当該スイッチング素子制御装置は、その一部が集積化されており、その集積化された部分とその余の部分が同一基板上に搭載されてハイブリッド化されていることを特徴とするスイッチング素子制御装置。
【請求項9】
第1の電源と第2の電源との間に直列接続され、その直列接続点に単相または複数相の誘導負荷を有するモータの一端が接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子のそれぞれのオン/オフ動作をそれぞれ制御する各スイッチング素子制御装置と、を備え、
前記第1および第2のスイッチング素子は前記モータの相数に応じて設けられ、
前記モータの各相の前記第1または第2のスイッチング素子の少なくとも一方のオン/オフ動作を制御する前記スイッチング素子制御装置は、請求項2ないし6のいずれかに記載のスイッチング素子制御装置である
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項10】
請求項9記載のモータ駆動装置であって、当該モータ駆動装置は、その全部又は一部が集積化されていることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項11】
請求項9記載のモータ駆動装置であって、当該モータ駆動装置は、その一部が集積化されており、その集積化された部分とその余の部分が同一基板上に搭載されてハイブリッド化されていることを特徴とするモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−213313(P2009−213313A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55657(P2008−55657)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】