説明

スイッチ装置

【課題】前端外周部に配置されたコイルアンテナの近傍に装飾部材が配置されるスイッチ装置において、コイルアンテナの通信障害を防止する。
【解決手段】前後方向に進退移動するスライダ16と、このスライダの前端に一体に設けられる押ボタン13と、この押ボタンが押し込まれる動作に伴ってオンオフ状態が切り替わるスイッチ接点を有するスイッチ本体41,42と、押ボタンを非操作位置に復帰させるリターンバネ18と、前記スイッチ接点、リターンバネ、及びスライダが内側に組み付けられ、前端の開口部内に前記押ボタンが配置されるケース11,12と、このケースの押ボタンの周囲に配設されたコイルアンテナ32と、このコイルアンテナ近傍に配置されてケースに取り付けられた前面外周部材15(装飾部材)と、を備えたスイッチ装置において、前記前面外周部材の意匠面に装飾用の非導通薄膜15bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両のエンジン始動用として好適なスイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、四輪自動車などの車両においては、キーをキーシリンダに差し込んで回すという従来の操作ではなく、いわゆるイモビライザなどの認証システムの装備を前提として、適正な電子キーを携帯したユーザが運転席に設けられたエンジン始動用スイッチ装置の押ボタンを押すだけでエンジンが始動する車種が普及しつつある。
上述したようなエンジン始動用スイッチ装置として、特許文献1に示されるものがある。これは、電子キーのバッテリが消耗した場合などの非常時に使用されるコイルアンテナを前端外周部(押ボタンの周囲)に備える。そして、このコイルアンテナの外周を囲む装飾筒は、前面に露出する意匠面にのみ装飾メッキが施され、それ以外の部分は、装飾メッキが施されずにコイルアンテナからの電波を透過させやすくする透過部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−319283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のスイッチ装置は、コイルアンテナからの電波を透過させやすくする透過部を一部に有するものの、コイルアンテナの前面側に位置する装飾筒の意匠面には装飾メッキが施されている。そのため、この装飾メッキがコイルアンテナからの出力電波を妨害し、コイルアンテナによる通信機能を阻害して通信障害を発生させる恐れがあった。
そこで本発明は、前端外周部にコイルアンテナが配置され、このコイルアンテナの近傍に装飾部材が配置されるスイッチ装置において、コイルアンテナの通信障害を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願のスイッチ装置は、
前後方向に進退移動するスライダと、
このスライダの前端に一体に設けられる押ボタンと、
前端の開口部内に前記押ボタンが配置されるケースと、
このケースの前記開口部における前記押ボタンの周囲に配設されたコイルアンテナと、
このコイルアンテナの近傍に配置されて前記ケースに取り付けられた装飾部材と、を備えたスイッチ装置であって、
前記装飾部材の意匠面には、装飾用の非導通薄膜を形成したものである。
【0006】
本願のスイッチ装置では、装飾部材の意匠面に施される装飾用の薄膜が非導通薄膜であるため、従来のメッキとは異なり、コイルアンテナからの出力電波を妨害しない。このため、装飾部材の意匠面によって電波が妨害されることによるコイルアンテナの通信障害を防止することができる。
なお、「装飾部材の意匠面」とは、装飾部材の表面のうち、装飾用の薄膜を形成すべき面を意味し、少なくともスイッチ装置の前面側に露出する面(スイッチ装置を操作しようとするユーザの視野に入る面)を含む。
また、「非導通薄膜」とは、例えば非導通蒸着(IVスパッタリング)によって形成される不連続膜であり、好ましくは金属光沢を有する金属光沢不連続膜である。
【0007】
また本願のスイッチ装置の好ましい態様は、前記ケースの前記開口部における前記押ボタンの周囲に配置されて前記ケースに取り付けられた前部構成部材をさらに備え、この前部構成部材に形成されたボビンにコイルの線を巻くことによって前記コイルアンテナが構成され、前記装飾部材は、前記前部構成部材の前端外周部と前記ケースの前端外周部を覆うように装着されて当該スイッチ装置の前面外周を飾るリング状の前面外周部材である態様である。この態様であると、当該スイッチ装置の前面外周(押ボタンの周囲)が非道通薄膜で装飾され、装飾性が高まるとともに、押ボタンの位置をユーザに明示することができる。また、非道通薄膜を形成する装飾部材が、コイルアンテナのボビンとして機能する複雑な形状の前部構成部材とは別個の部材であるため、非道通薄膜を形成する工程が容易になる効果もある。
【発明の効果】
【0008】
本願のスイッチ装置によれば、装飾部材の意匠面によって電波が妨害されることによるコイルアンテナの通信障害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)はスイッチ装置の正面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図2】(a)は前面外周部材の正面図、(b)は(a)におけるE−E断面拡大図である。
【図3】スイッチ装置(ニュートラル状態)の図1(a)におけるC−C断面図である。
【図4】スイッチ装置(フルストローク状態)の図1(a)におけるC−C断面図である。
【図5】スイッチ装置の図1(a)におけるD−D断面図である。
【図6】(a)は前部構成部材と前面外周部材の下面図、(b)は前部構成部材の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1〜6は、本例のスイッチ装置10の構造や部品を説明するための図である。このうち、図1(a)はスイッチ装置10の正面図、図1(b)はスイッチ装置10の水平断面図(図1(a)におけるA−A断面図)である。図2(a)は後述する前面外周部材15(装飾部材)の正面図である。図2(b)は前面外周部材15の図2(a)におけるE−E断面図である。図3,4はスイッチ装置10の側断面図(図1(a)におけるC−C断面図)であり、図3はニュートラル状態(非操作状態)を示し、図4はフルストローク状態(押ボタンが最大限押された操作状態)を示す。図5はスイッチ装置10の側断面図(図1(a)におけるD−D断面図)である。図6(a),(b)は後述する前部構成部材14(コイルアンテナ32含む)を示す図であり、図6(a)は前部構成部材14に前面外周部材15を取り付けた状態の下面図、図6(b)は前部構成部材14から前面外周部材15を取り外した状態の下面図である。
なお以下では、図1(a)において紙面に直交する方向を前後方向といい、図1(a)における左右方向を左右方向といい、図1(a)における上下方向を上下方向という。このため、例えば図1(b)における上下方向は、前後方向となる。また以下では、図1(b)における下方を前方といい、図1(b)における左方を左方という。
【0011】
スイッチ装置10は、図5に示すように、全体として前後方向に細長いもので、第1ケース11、第2ケース12、押ボタン13、前部構成部材14、前面外周部材15、スライダ16、下部プレート17、リターンバネ18、節度感用バネ19、節度感用ボール20、コネクタ31、コイルアンテナ32、回路基板40、及びスイッチ本体41,42を備える。ここで、節度感用バネ19や節度感用ボール20は、節度感発生機構21を構成している。また本例では、前面外周部材15が本発明の装飾部材に相当する。
なお、図1(b)において符号Pで示すのは、スイッチ装置10が取り付けられる車両の運転席のパネルの壁である。スイッチ装置10は、図1(b)に示すように、押ボタン13等の正面側のみを前面に露出させた状態で、ほぼ全体がパネルの壁Pの内側に配置される。
【0012】
第1ケース11は、合成樹脂の成形品であって、スイッチ装置10の下面と側面の下約半分(主に回路基板40の高さより下側の部分)とを覆う部材であり、上面が開口している。この第1ケース11の前端には、前面外周部材15を装着するためのフランジ(鍔状部)の下半分11aが形成されている。また第1ケース11の前側下面には、スイッチ装置10を車両の運転席パネルに取り付けるための係止片11bが前方に伸びるように形成されている。また第1ケース11の前側底部であって、係止片11bの左右両側位置には、排水口11c(図3に示す)が合計2箇所設けられている。
【0013】
また第1ケース11の中央底部には、下部プレート17のボール接触部17aを下方から装着し内側(上方)に露出させるための開口11dが形成されている。また第1ケース11の後側底部の左右両側には、下部プレート17のストッパ部17bを下方から内側(上方)に向けて貫通状態に装着するための開口11e(図3に示す)が左右に合計2箇所形成されている。また第1ケース11の後側底面上には、コネクタ31の前端面が接合する仕切壁11fが上方に伸びるように形成されている。また、この仕切壁11fの下部前面には、図5に示すように、リターンバネ18の後端に挿入されてリターンバネ18の後端を位置決めて保持する突起11gが形成されている。また第1ケース11の外周の所定位置(係止片11bの付け根の後側の位置)には、第2ケース12の前端面下部を接合するための段部11hが形成されている。
【0014】
また第1ケース11は、付勢部材であるリターンバネ18とスライダ16が内側に組み付けられるケースであり、スライダ16との間には、スライダ16を前後移動のみ可能に滑らかに案内する十分な長さの案内機構が設けられている。本例では、図1(b)に示すように、スライダ16の後述する板状部16bの左右両側の側面には、前後方向のガイド溝16mが板状部16bのほぼ全長に渡って形成されている。そしてこれに対して、この板状部16bの側面に対向する第1ケース11の内側面には、このガイド溝16m内に摺動可能にはまり込むガイド突起11tが前後2箇所の位置に設けられ、このガイド突起11tとガイド溝16mとが上記案内機構を構成している。また図示省略しているが、スライダ16の下面と第1ケース11の底面との間にも、同様の案内機構が設けられている。
【0015】
第2ケース12は、合成樹脂の成形品であって、スイッチ装置10の正面等を除くほぼ全面を覆う部材である。また、第1ケース11の段部11hよりも前側の部分の下半分を除いて、第2ケース12は第1ケース11の外面全体を覆うように装着される。この第2ケース12は、図示省略した係止部によって第1ケース11に対して取り付けられ、第1ケース11と一体化されている。この第2ケース12の前端には、図5に示すように、前面外周部材15を装着するためのフランジの上半分12aが形成されている。また第2ケース12の前側上面には、スイッチ装置10を車両の運転席パネルに取り付けるための係止片12b(前述の係止片11bと対を為すもの)が前方に伸びるように形成されている。また第2ケース12の後端の壁には、コネクタ31の後部を後方に突出させる開口12cが形成されている。
【0016】
押ボタン13は、合成樹脂の成形品であって、前面壁13aの後側に内筒部13bと外筒部13cとが形成されたキャップ状のものであり、前部構成部材14の内側に配置されてスライダ16の先端に取り付けられ、スライダ16と一体に前後動するものである。この押ボタン13の前面壁13aは、ここをユーザ(例えば車両の運転者)が指で押せるように、図5や図1(a)等に示すように、スイッチ装置10の正面中央に臨ませて配置されている(即ち、第1ケース11と第2ケース12で構成されるケースの前端側開口部内の中央に前方に臨ませて配置されている)。そして、この押ボタン13の前面壁13aには、エンジン始動用(及び停止用)のボタンであることを明示する文字が前面に形成されている。
【0017】
前部構成部材14は、合成樹脂の成形品であって、押ボタン13の外周に沿って押ボタン13の外筒部13cに同心円状に配置される外筒部14aと、この外筒部14aの前端外周から径方向外側に鍔状(つばじょう)に伸びるように形成された前壁部14bと、外筒部14aの後端側外周から径方向に鍔状に伸びるように形成された後壁部14cと、外筒部14aの後端から断面コ字状に内側に伸びるように形成された内筒部14dとを有する。この前部構成部材14は、図6(a),(b)に示すように、外筒部14aの側部後端から後方に伸びるように形成された係止片14sを左右両側にそれぞれ有し、これら係止片14sの先端側が第1ケース11の段部11hを突き抜けて、第1ケース11の外側面における段部11hよりも後方位置に形成された係止部(図示省略)に係止することによって第1ケース11に対して取り付けられ、第1ケース11と一体化されている。
ここで、外筒部14aにおける前壁部14bの位置から後壁部14cの位置までの部分と、前壁部14bと、後壁部14cとは、コイルアンテナ32を構成するコイルの線を巻き付けるためのボビン25を構成している。
【0018】
なお、押ボタン13の内筒部13b及び外筒部13cと、前部構成部材14の外筒部14a及び内筒部14dとは、前後方向の一つの中心線に対して全て同心円状に配置される。そして、この中心線に対する径方向において、押ボタン13の内筒部13bは前部構成部材14の内筒部14dよりも内側に位置しており、押ボタン13の外筒部13cは前部構成部材14の外筒部14aと内筒部14dの間に位置しており、押ボタン13が前部構成部材14に対して前後に摺動可能となっている。
また、この前部構成部材14の内筒部14dの先端側は、外筒部14aに沿って前方に伸びるように形成されており、押ボタン13が押し込まれる作動時には、図4に示すように押ボタン13の内筒部13bと外筒部13cの間に入り込む構成となっている。
【0019】
また前部構成部材14の内筒部14dの後端の左右両側部には、後方に突出するようにコイル端子支持部(図示省略)が形成されている。このコイル端子支持部には、インサート成形によって金属製のコイル端子33(図3等に示す)が固定支持されている。コイル端子33は、一端がコイル端子支持部から上方に伸びて回路基板40に接続され、他端がコイル端子支持部から後方に伸びてコイルアンテナ32に接続されるもので、側面から見ると全体としてL字形のものである。なお、コイルアンテナ32を構成するコイルの線は、前述のボビン25に、即ち前部構成部材14の外筒部14aの外周(前壁部14bと後壁部14cの間)に巻きつけられている。また、コイルアンテナ32を構成するコイルの線の各線端(図示省略)は、前部構成部材14の後端両側部に形成されたコイル線導出溝(図示省略)をそれぞれ経由してボビン25から導出され、左右両側のコイル端子33の他端にそれぞれ絡げて接続されている。なお、コイル端子33の一端(上端)は、回路基板40の所定のスルーホールに挿入されて半田付けされることによって、回路基板40の所定の回路導体に接続されている。
【0020】
また前部構成部材14の後端下部には、図6(a),(b)に示すように、押ボタン13の外筒部13cと前部構成部材14の外筒部14aの隙間から侵入した液体(雨水やジュースなど)をボビン25の内側を経由してボビン25の奥側下方に流下させて排水するための略上下方向の排水路14gが形成されている。この排水路14gの下端側は、後壁部14cの下端部や、内筒部14dの後端下部から下方に伸びる排水路後壁部14hや、後壁部14cの下端両側から後方に延びる排水路側壁部14j(図6(a),(b)に示す)によって、前後左右の全体を隙間無く囲まれており、コイルアンテナ32のある領域(前壁部14bと後壁部14cの間、即ちボビン25の内側)とは隔絶されている。そして図3に示すように、この排水路14gの上端側は、外筒部14aと内筒部14dの後端側連結部分を貫通するように形成され、外筒部14aと内筒部14dの間の空間の下部に連通しており、ここに侵入した水が排水路14gに流れ落ちるようになっている。
また排水路14gの下端側は、第1ケース11の下部に二つ並んで形成された排水口11cに隙間無く接合して連通しており、排水路14gに流れ落ちた液体はこれら排水口11cの何れか一方から装置下方に落下して排水される構成となっている。
【0021】
前面外周部材15(装飾部材)は、合成樹脂の成形品であって、スイッチ装置10の正面外周を飾るリング状の部材であり(図2(a)参照)、前部構成部材14の前壁部14bの外周部と、第1ケース11と第2ケース12の前端外周に形成されたフランジ11a,12aの前面及び外周面を覆うように装着される。この前面外周部材15は、図6(a)や図2(a)に示すように、後面側から後方に伸びる係止片15aを周方向4箇所の位置に有する。そしてこの前面外周部材15は、図6(a)に示すように、各係止片15aの先端に内側に向かって形成された爪(符号省略)が前部構成部材14の後壁部14cの裏面側に係合することによって、前部構成部材14の前壁部14bや後壁部14cの外周に対して取り付けられ、前部構成部材14と一体化されている。なお、図6(b)において符号14x、14yで示すものは、上記係止片15aをはめ込むために前部構成部材14の前壁部14bや後壁部14cの外周に形成された切欠きである。
【0022】
そして図2(b)に示すように、前面外周部材15の意匠面には、装飾用の非導通薄膜15bが形成されている。この場合、前面外周部材15の意匠面とは、前面外周部材15の表面のうち、装飾用の薄膜を形成すべき面を意味し、スイッチ装置10の前面側に露出する面(スイッチ装置10を操作しようとするユーザの視野に入る面)である。また、非導通薄膜15bは、例えばアルミやスズなどを材料とする非導通蒸着(IVスパッタリング)によって形成される不連続膜であり、金属光沢を有する金属光沢不連続膜である。なお図2(b)では、非導通薄膜15bの詳細を図示していないが、実際には、電波を透過するように薄膜が不連続に形成されている。なお、前面外周部材15の意匠面(即ち、押ボタン13の前面側周囲)が金属光沢を有すると、スイッチ装置10の見栄えが良くなる装飾性の向上という効果と、押ボタン13の存在位置をユーザに分かり易く示すことができるという効果とが得られる。
【0023】
スライダ16は、合成樹脂の成形品であって、押ボタン13の内筒部13b内にその前端部が装着される筒状部16aと、この筒状部16aの後端下部から後方に伸びるように形成された板状部16bとを有する。このスライダ16の板状部16bは、図1(b)に示すように上面から見ると全体として長方形状の外形であり、第1ケース11内の底面上に装着されて第1ケース11に対して前後方向に摺動可能とされている。
このスライダ16の板状部16bの後端部の左右両側には、下部プレート17のストッパ部17bの上端部が挿入されるストッパ用開口16cが上下に貫通状態に形成されている。スイッチ装置10の組立状態において、スライダ16やこれと一体の押ボタン13の前後動の移動範囲は、このストッパ用開口16cの前後両内端面とストッパ部17bの上端部との当接によって所定範囲に規制されている。所定範囲とは、図3に示すニュートラル状態(非操作状態)の位置から、図4に示すフルストローク状態の位置までの範囲である。
【0024】
また、板状部16bの上面における左側の位置(左側のストッパ用開口16cの前方位置)には、スライダ16が移動する所定方向(この場合、前後方向)に対して傾斜し後述する押圧操作部41a,42aに接触可能な傾斜面35,36が形成されている(図3参照)。傾斜面35,36は前後に並んで形成され、前側の傾斜面35が前側のスイッチ本体41の押圧操作部41aに接触し、後側の傾斜面36が後側のスイッチ本体42の押圧操作部42bに接触する構成となっている。ここで、傾斜面35は、後方に向かって下り傾斜しており、スイッチ装置10の作動時に押圧操作部41aを後退させる向きに傾斜した正方向傾斜面である。一方、傾斜面36は、後方に向かって上り傾斜しており、スイッチ装置10の作動時に押圧操作部42aを前進させる向きに傾斜した逆方向傾斜面である。
【0025】
また、図1(b)及び図5に示すように、スライダ16の板状部16bの後端部における左右方向中央位置の下面側には、リターンバネ18を配置する凹室16dが形成されている。この凹室16dの前方の内端面には、後方に突出する突起16e(図5に示す、図1等では省略)が形成されている。リターンバネ18の先端部は、この突起16eの外周に装着されることによって、位置決めされ保持されている。
また、図5に示すように、スライダ16の板状部16bの比較的前側における左右方向中央位置には、上方に突出するボス部16fが形成されている。このボス部16f内には、下面側に開口する円柱状凹室16gが形成され、図5に示すように、この円柱状凹室16g内に節度感用バネ19と節度感用ボール20が順に装填されている。
【0026】
下部プレート17は、合成樹脂の成形品であって、図5及び図7に示すように第1ケース11の下面に下方から装着されて、第1ケース11と一体化される部材である。この下部プレート17は、リターンバネ18とスライダ16を第1ケース11に組み付けた状態(但し、第2ケース12は取り外した状態)で、この下部プレート17のみを第1ケース11に対して着脱可能な構成である。また、この下部プレート17は、下面から見ると、左右方向の中央部が前方に細長く伸び、後端部が左右に伸びた、全体として略T字形の外形のものである。この下部プレート17の前方に伸びた前端部の上面側は、前述した第1ケース11の開口11dにはめ込まれ、上面が節度感用ボール20に接触するボール接触部17aを構成している。また下部プレート17の後端部の左右両端には、図3に示すように、前述した第1ケース11の開口11eにはめ込まれるストッパ部17bが左右に合計2箇所形成されている。
【0027】
リターンバネ18は、既述したようにスライダ16の後部と第1ケース11の仕切壁11fとの間に装着されるコイルバネであり、スライダ16を非操作位置に向かって(この場合、前方に)付勢する付勢部材として機能する。
【0028】
節度感発生機構21は、前述した節度感用バネ19と節度感用ボール20とボール接触部17aとよりなる。節度感用ボール20は、節度感用バネ19の付勢力によって常に下方に押されボール接触部17aの上面に押し付けられて圧接している。節度感用ボール20は、スライダ16とともに前後方向に移動するが、ボール接触部17aは第1ケース11と一体化されて動かない。また、ボール接触部17aの上面は概略山形状に隆起した形状となっているが、押ボタン13やスライダ16が非操作位置(図3や図5に示す)にあるニュートラル状態では、節度感用ボール20はボール接触部17aの上面における最も隆起した頂上位置よりも若干前方位置に圧接している(図5参照)。そして、スライダ16が非操作位置から所定の作動位置を越えて移動する作動時には、上記ボール接触部17aの頂上位置を節度感用ボール20が節度感用バネ19を押し縮めつつ乗り越える必要がある。この際、節度感用バネ19を押し縮めなければならい分だけ、スライダ16に抵抗力が発生し、この抵抗力が節度感を生じさせる。そして、この抵抗力の大きさが上述した作動位置より例えば若干手前の位置においてピーク(極大)になるように、ボール接触部17aの上面の形状が設定されている。
【0029】
コネクタ31は、スイッチ装置10と外部の装置(例えば、車両のエンジン制御用コントローラ或いはイモビライザ用の車載コントローラ)とを電気的に接続するためのコネクタである。このコネクタ31と、回路基板40の所定の回路導体との接続は、図5に符号31a,31bで示すようなL字状の端子(コネクタ31の前端から伸びて、先端が回路基板40のスルーホールに挿入されて半田付けされるもの)によって行われている。
【0030】
コイルアンテナ32は、既述したように、前部構成部材14の外筒部14aの外周(前壁部14bと後壁部14cの間)に、コイルの線(表面を絶縁被覆した導線)を巻きつけることによって構成されたもので、既述したコイル端子33を介して回路基板40の所定の回路導体に接続されている。なお、このコイルアンテナ32は、イモビライザ用の電子キーのバッテリが消耗したなどの理由で、前記電子キーとイモビライザ用の車載コントローラのアンテナとの間の照合確認用の通常の無線通信ができない場合の非常用のアンテナである。即ち、ユーザが電子キーを押ボタン13の近くに(即ち、コイルアンテナ32の近くに)持ってくると、コイルアンテナ32から送信される電磁波による電力転送によって電子キーが稼動し、この電子キーとコイルアンテナ32との間で照合確認用の無線通信が実行され、照合結果が肯定的であればエンジン始動が許可される、というものである。
【0031】
回路基板40は、スイッチ本体41,42等を実装したもので、コイルアンテナ32の駆動回路などがこの基板40に形成されていてもよい。この回路基板40は、基板表面が前後方向に平行で上下方向に直交する姿勢で、第1ケース11の上面を塞ぐように配置され、図示省略した係止部やネジなどによって第1ケース11及びコネクタ31に対して固定されている。
なお、図5等において符号37で示すものは、回路基板40の前部下面側に実装された発光素子よりなる発光部である。この発光部37は、押ボタン13に裏側から光を照射することによって押ボタン13を光らせ、押ボタン13の位置などの情報をユーザに報知するためのものである。
【0032】
スイッチ本体41,42は、出没するように進退移動可能で前進方向(この場合、下方に突出する方向)に付勢された押圧操作部41a,42a(図3に示す)をそれぞれ有するとともに、この押圧操作部41a,42aの進退移動によってオンオフ状態が切り替わるスイッチ接点を内蔵するモジュールタイプのスイッチであり、例えばいわゆる検出スイッチと呼ばれるものである(或いはマイクロスイッチと呼ばれるものでもよい)。これらスイッチ本体41,42は、例えば三つの接点端子A,B,Cを有し、押圧操作部41a,42aが押し込まれていない状態ではコモン端子Cと常閉端子Bが導通した非作動状態となり、押圧操作部41a,42aが所定量以上押し込まれた状態ではコモン端子Cと常開端子Aが導通した作動状態となる。この場合、コネクタ31を介してスイッチ装置10に接続された車両のエンジン始動コントローラ等は、このようなスイッチ本体41,42の接点の切り替わり動作を読み取って、エンジンの始動又は停止が指令されたと判定する。
なおこの場合、スイッチ本体41,42は、図3に示すように回路基板40の下面側に実装され、各押圧操作部41a,42aの進退方向が前後方向と交差する上下方向となるように設置される。
【0033】
ここで、スイッチ本体41の押圧操作部41aは、押ボタン13やスライダ16が非操作位置(図3に示す)にあるニュートラル状態では、前述した傾斜面35に圧接せずに最大限前進した状態(即ち、最大限下方に前進した状態、接点は非作動状態)となっており、押ボタン13やスライダ16が非操作位置よりも後方に押し込まれると、傾斜面35に圧接して後退動作を開始し(即ち、上方に押し込まれる動作が始まり)、押ボタン13やスライダ16が前記作動位置まで押し込まれると、スイッチ本体41の接点の状態が前述の非作動状態から作動状態に切り替わる位置まで後退する構成となっている。
またスイッチ本体42の押圧操作部42aは、前述のニュートラル状態では、前述した傾斜面36に圧接して最大限後退した状態(即ち、最大限上方に押し込まれた状態、接点は作動状態)となっており、押ボタン13やスライダ16が非操作位置よりも後方に押し込まれると、傾斜面36に圧接しつつ前進動作を開始し(即ち、下方に突出ように前進する動作が始まり)、押ボタン13やスライダ16が前記作動位置まで押し込まれると、スイッチ本体42の接点の状態が前述の作動状態から非作動状態に切り替わる位置まで前進する構成となっている。
【0034】
以上説明したスイッチ装置10では、ユーザが押ボタン13を押していないニュートラル状態では、リターンバネ18の付勢力によって図3に示すようにスライダ16は前述した非操作位置(ストッパ部17bの上端部がストッパ用開口16cの後側内端面に当接した位置)に保持され、これにより、スイッチ本体41は非作動状態でスイッチ本体42は作動状態にあるため、車両のエンジン始動又は停止の指令は出力されない(即ち、そのような指令が出力されたとコントローラ側で判断しない)。
ユーザがリターンバネ18の付勢力や節度感発生機構21の抵抗力に逆らって押ボタン13を後方へ押し込む操作を行い、押ボタン13やスライダ16が前記作動位置以降に押し込まれると、各傾斜面35,36が各スイッチ本体41,42の押圧操作部41a,42aにそれぞれ接触して各押圧操作部41a,42aを前述したように進退移動させ、各スイッチ本体41,42のスイッチ接点のオンオフ状態がそれぞれ切り替わる(この場合、スイッチ本体41は作動状態になり、スイッチ本体42は非作動状態になる)ため、車両のエンジン始動又は停止の指令が出力される(即ち、そのような指令が出力されたとコントローラ側で判断する)。
【0035】
なお、ユーザが押ボタン13を後方へ押し込む操作を行うと、通常はフルストロークまで押ボタン13やスライダ16が一時的に移動する。このフルストローク状態では、ストッパ部17bの上端部がストッパ用開口16cの前側内端面に当接して、押ボタン13やスライダ16のそれ以上後方への移動が阻止される。
また、車載コントローラ側では、各スイッチ本体41,42の接点の動作のAND条件で指令を判定してもよいし、OR条件で判定してもよい。即ち、各スイッチ本体41,42の両方の接点の状態(具体的には、接点の状態に対応した電圧などの信号の状態)が適正に変化したときに指令があったと判定してもよいし、スイッチ本体41,42の何れか一方の接点の状態が適正に変化したときに指令があったと判定してもよい。但し、スイッチ本体41,42の何れか一方が故障した時でも、確実にエンジン始動が指令できるようにするためには、スイッチ本体41,42の何れか一方の接点の状態が適正に変化したとき(即ちこの場合、スイッチ本体41の接点が非作動状態から作動状態になるか、或いはスイッチ本体42の接点が作動状態から非作動状態になったとき)に指令があったと判定する構成が望ましい。
このように、スイッチ装置10によれば、エンジンの始動又は停止の指令を二つのスイッチ本体41,42によって信頼性高く出力することができる。
【0036】
しかも本例のスイッチ装置10では、装飾部材である前面外周部材15の意匠面に施される装飾用の薄膜が非導通薄膜15bであるため、従来の金属メッキとは異なり、コイルアンテナ32からの出力電波を妨害しない。このため、装飾部材の意匠面によって電波が妨害されることによるコイルアンテナ32の通信障害を防止することができる。
また、当該スイッチ装置10の前面外周(押ボタン13の周囲)が非道通薄膜15bで装飾され、装飾性が高まるとともに、押ボタン13の位置をユーザに明示することができる。また、非道通薄膜15bを形成する装飾部材が、コイルアンテナ32のボビン25として機能する複雑な形状の前部構成部材14とは別個の部材(前面外周部材15)であるため、非道通薄膜15bを形成する工程が容易になる効果もある。
【0037】
なお、本発明は上記実施例に限られず、各種の変形や応用があり得る。例えば、前部構成部材14が本発明の装飾部材として機能する態様もあり得る。即ち、前部構成部材14の例えば前壁部14bの前面を意匠面とし、この前面に非導通薄膜を形成して装飾してもよい。但し、前部構成部材14は、コイルアンテナ32のボビン25として機能する複雑な形状の部材であるため、非導通薄膜を形成する工程が比較的めんどうになるとともに、コイルアンテナ32のコイルの線を巻く部材と、非導通薄膜を形成する装飾部材が同一品であることによって生産性が低下する不利がある。これに対して前記実施例のように、前部構成部材14とは別個の比較的小型かつ簡素な形状の前面外周部材15を装飾部材とし、この前面外周部材15に非導通薄膜を形成して装飾する態様であると、非導通薄膜を形成する工程が比較的簡単になるとともに、コイルアンテナ32のコイルの線を巻く工程と非導通薄膜を形成する工程の対象部品が別部品となるので、これら工程を別個に実行できるなどの生産工程上の自由度が高まって生産性が向上する利点がある。
【符号の説明】
【0038】
10 スイッチ装置
11 第1ケース(ケース)
12 第2ケース(ケース)
13 押ボタン
14 前部構成部材
15 前面外周部材(装飾部材)
15b 非導通薄膜
16 スライダ
18 リターンバネ(付勢部材)
25 ボビン
32 コイルアンテナ
40 回路基板
41,42 スイッチ本体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に進退移動するスライダと、
このスライダの前端に一体に設けられる押ボタンと、
前端の開口部内に前記押ボタンが配置されるケースと、
このケースの前記開口部における前記押ボタンの周囲に配設されたコイルアンテナと、
このコイルアンテナの近傍に配置されて前記ケースに取り付けられた装飾部材と、を備えたスイッチ装置であって、
前記装飾部材の意匠面には、装飾用の非導通薄膜を形成したことを特徴とするスイッチ装置。
【請求項2】
前記ケースの前記開口部における前記押ボタンの周囲に配置されて前記ケースに取り付けられた前部構成部材をさらに備え、この前部構成部材に形成されたボビンにコイルの線を巻くことによって前記コイルアンテナが構成され、
前記装飾部材は、前記前部構成部材の前端外周部と前記ケースの前端外周部を覆うように装着されて当該スイッチ装置の前面外周を飾るリング状の前面外周部材であることを特徴とする請求項1に記載のスイッチ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−218787(P2010−218787A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62287(P2009−62287)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】