説明

スクランブル装置

【課題】CATVネットワークにおける映像信号の再送信において、放送局が処理した秘匿性を保ちつつ、CATV局でのフォーマット変換を実現する。
【解決手段】CATV局で受信した信号のスクランブルを解除するために用いた復号情報を保持する暗号化情報抽出部を備え、フォーマット変換した後に再度スクランブルを行う際、先に保持した復号情報を用いて暗号化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像配信に用いるスクランブル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CATV事業者等の有線事業者において、衛星放送や地上波放送を受信して自伝送路へ再送信する仕組みが実現されている。衛星放送や、CATV事業者向けに番組をあらかじめ配信業者側でパッケージングしたHITS(Headend In The Sky)と呼ばれるサービスでは暗号化処理が施されている。CATV事業者ではサービス形態に応じて、暗号を一旦解除して、新たにC−CASと呼ばれるCATV用の暗号化処理を施したり、受信機で復号するために必要な情報の多重化を行なったり(例えば特許文献1)することで、CATV局から受信機までの伝送路での秘匿性を確保している。
【0003】
図5は、特許文献1に示された従来の暗号化システムに用いられる中継器の構成を示す。図5において、中継器500は受信復号装置510とセキュリティモジュール520を備えている。受信復号装置510は、デマルチプレクサ511、デスクランブラ512およびデコーダ513を備えており、デマルチプレクサ511で分離された映像信号や音声信号は、デスクランブラ512でデスクランブル処理された後、デコーダ513でデコードされ、モニタ530に出力される。一方、セキュリティモジュール520は、番組・個別情報解析部521および契約情報記憶部522を備えている。
【0004】
中継器500には、受信復号装置510に復調器514が設けられている他、CATV番組制御部540、番組情報暗号器550、CATV顧客管理部560、個別情報暗号器570、多重化器580、および変調器590が設けられている。
復調器514は、衛星放送伝送路501を介して送信されてくる衛星放送信号を復調処理し、デジタル信号としてデマルチプレクサ511に出力する。
【0005】
CATV番組制御部540は、CATV放送の事業者により設定されたCATV放送として放映される番組に対応したCATV番組番号を含むCATV番組情報を生成し、番組情報暗号器550に出力する。番組情報暗号器550は、番組・個別情報解析部521より入力されたスクランブル鍵と、CATV番組制御部540より入力されたCATV番組情報を、個別情報暗号器570より入力されたワーク鍵により暗号化し、多重化器580に出力する。
【0006】
CATV顧客管理部560は、CATV放送の受信契約をしている各顧客(視聴者)が契約している視聴可能チャンネル、有効期限、およびチャージ金額などの契約情報と、各視聴者の持つ全てのCATV放送受信装置(図示せず)に対応する個別鍵を記憶しており、これらを個別情報暗号器570に供給する。個別情報暗号器570はワーク鍵を生成し、番組情報暗号器550に供給すると共に、ワーク鍵とCATV顧客管理部560より供給された契約情報からなるCATV個別情報を、各CATV放送受信装置に対応する個別鍵で暗号化し、多重化器580に出力する。
【0007】
なお、図示しない衛星放送送信装置により生成されるワーク鍵と、個別情報暗号器570により生成されるワーク鍵は、同一のものとしても良いし異なるものとしても良い。また、個別鍵も、ワーク鍵と同様に、衛星放送送信装置のスクランブル制御部に記憶している個別鍵と、CATV顧客管理部560に記憶している個別鍵とは、同一のものとしても良いし異なるものとしても良い。
【0008】
多重化器580は、デマルチプレクサ511より入力された、スクランブル鍵によりスクランブル処理された映像信号および音声信号、番組情報暗号器550より入力されたCATV番組情報、並びに、個別情報暗号器570より入力されたCATV個別情報を時分割多重化し、変調器590に出力する。
【0009】
変調器590は、多重化器580より入力された時分割多重化されたCATV放送信号を変調処理し、CATV放送伝送路502を介して、各CATV放送受信装置にCATV放送信号として送信する。
【特許文献1】特開2001−339380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載された従来の処理では、CATV局で帯域確保のために映像信号を再圧縮しようとしても暗号化を解除できないので、再圧縮できないなどの課題を有していた。また、HITSサービスでは暗号を一旦解除するので再圧縮可能であるが、放送系とは異なる暗号化を行なうため、放送局が意図した秘匿性を確実に確保できないなどの課題も有していた。
【0011】
本発明は前記従来の課題に鑑み、放送系の暗号を解除する際に暗号化情報を抽出し、CATV局のネットワークに送信する際に抽出した暗号化情報で暗号化を行うことで、CATV局での信号処理を可能にしつつ放送局側の秘匿性を確保するスクランブル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスクランブル装置は、
第1のネットワークから送信される暗号化された信号を受信する受信手段と、前記受信手段で受信した信号の一部あるいは全部を復号する復号化手段と、
前記信号から暗号化のために用いた暗号化情報を抽出する暗号化情報抽出手段と、
前記暗号化情報抽出手段で抽出した暗号化情報を用いて前記復号化手段で復号された信号を暗号化する暗号化手段とを備えたことを特徴とする。
上記構成によって、復号した信号の暗号化情報を抽出し、再度暗号化することが可能になる。
【0013】
本発明のスクランブル装置において、前記暗号化情報は前記復号化手段で復号するために用いた情報を含むことが好ましい。同様に、前記暗号化手段で行なう暗号化は、第1のネットワークから送信された信号に対して処理された暗号化と同じであることが好ましい。
【0014】
また本発明のスクランブル装置において、前記復号化手段の出力信号を別のフォーマットに変換し、前記暗号化手段に入力するフォーマット変換手段を備えることが好ましい。同様に、前記フォーマット変換手段でフォーマット変換を行なわない信号を一時格納するバッファ手段を備えることが好ましい。
【0015】
また本発明のスクランブル装置は、前記フォーマット変換手段の出力と前記バッファ手段の出力を時分割多重化する多重化手段を備えることが好ましく、前記多重化手段は、前記暗号化情報抽出手段で抽出した情報を多重化することが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記スクランブル装置の機能をコンピュータで実行可能なプログラムとしても実現可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスクランブル装置によれば、放送の再送信時に、CATV局で帯域確保のために信号の再圧縮を行ないながらも、放送局の意図した秘匿性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態において、CATVネットワークでのトランスコード処理を行なう再送信システムの構成を示すブロック図である。なお、本実施の形態では、第1のネットワークにデジタル放送を、第2のネットワークにCATVネットワークを採用した例について説明するが、ネットワークの形態に関しては特にこれに限定されず、インターネットで構成しても良いことは云うまでもない。
【0019】
図1において、スクランブル装置100は、デジタル放送局110から地上デジタルネットワーク120を介して送られてくる放送波を受信するチューナ部101と、チューナ部101で誤り訂正処理されたTS(Transport Stream)信号を映像信号、音声信号等の種別毎に振り分けるTSデコード部102と、デジタル放送局110においてMULTI2方式で暗号化された信号を復号するデスクランブル部103と、TSデコード部102の出力TS信号のうち、音声やデータなど信号処理を行なわないデータを一時格納するバッファ部104と、TSデコード部102の出力TS信号のうち、映像信号をITU−T勧告H.264(以後単にH.264と称す)等にフォーマット変換するトランスコード部105と、TSデコード部102の出力TS信号のうち、暗号に関する情報であるECM(Entitle Control Message)パケットなどを格納する暗号化情報抽出部106と、バッファ部104に格納された音声TSやトランスコード部105でフォーマット変換された映像TSと暗号化情報抽出部106に格納されたECMパケットなどを時分割多重化する多重化部107と、多重化部107の出力を暗号化情報抽出部106に格納された暗号化情報で暗号化する再スクランブル部108と、64QAM変調を行なう変調部109で構成され、CATVネットワーク130を経由して受信機であるSTB140へ放送を再送信する。
【0020】
次に、スクランブル装置100の動作について説明する。チューナ部101は放送番組を受信すると、復調および誤り訂正処理などを行ない、TSパケットを復元する。TSデコーダ部102はチューナ部101で復元されたTSパケットからMPEG2−SYSTEMSで規定されている番組情報パケットであるPAT(Program Association Table)およびPMT(Program Map Table)パケットを抽出する。抽出したPMTに記載されているPIDやディスクリプタを基に、映像や音声やデータおよび暗号化情報であるECMパケットに振り分けてデスクランブル部103に送る。
【0021】
図2にPMTのデータ構造を示す。ECMのPIDはARIB(電波産業会)TR−B10で規定されているdescriptor203に記載されている。descriptor203に記載されているPIDを持つECMはスクランブルを対象PID全てに対して有効である。サービス毎にECMを変更する場合はdescriptor204にECMが記載される。いずれの場合もdescriptor tagはCA_descriptorを示す09である。descriptor203に記載されたECMのPIDを基に、デスクランブル部103ではECMを識別する。
【0022】
デスクランブル部103では、図示しない通信線や外部装置から入力されたECMの暗号化を解くための情報であるワーク鍵のKwを保持しており、このワーク鍵KwでECMの暗号化を解除する。ECMには映像や音声TSに施された暗号を解除するための番組鍵(スクランブル鍵)であるKsが格納されている。
【0023】
ECMはセクション形式で構成される。ECMセクションのデータ構造を図3に示す。スクランブル鍵Ksにはoddとevenの2種類があり、一方が現在の放送に対してスクランブルを施している鍵、もう一方が次に使用するスクランブル鍵である。いずれの鍵を用いてスクランブルされているかはトンラスポートストリームパケットのヘッダにある、transport_scrambling_controlフィールドの値で確認可能である。transport_scrambling_controlフィールドで示されたoddあるいはevenのKsを用いて放送局が施した暗号を復号する。なお、ワーク鍵KwはECMと同じ放送波で送られてきてもよい。
【0024】
デスクランブル部103は、暗号を解除したらPMTから得た信号種別情報を基にTSパケットのIDあるPID別にTSパケットを振り分ける。映像や音声などは図2のstream type201が個別に割り当てられており、該当する種別のPID202とセットになってPMTに記載されている。音声情報やデータ情報などTSパケットに手を加えない情報はバッファ部104に、暗号化されたままのECMおよび番組鍵であるoddおよびevenのKsと対象PIDは暗号化情報抽出部106に格納される。
【0025】
暗号化情報抽出部106に格納されるデータ構成の一例を図4に示す。ECM401とKsのodd402、Ksのeven403およびスクランブル対象PID404が1つのグループとして格納されている。
【0026】
映像TSはトランスコード部105に送られ、MPEG2からH.264に変換される。トランスコード部105には入力TSと同じPIDでTSが出力されるように設定されている。多重化部107ではH.264に変換された映像TSとバッファ部104に格納された音声TSやデータTSを時分割多重化する。このとき、映像と音声の同期を取るためトランスコード部105での処理時間を考慮してバッファ部104からの読出しを遅らせた後、MPEG2−SYSTEMSで規定されている、PTS(Presentation_Time_Stamp)やDTS(Decoding_Time_Stamp)およびPCR(Program_Clock_Reference)などの時刻情報を補正する。
【0027】
また、多重化部107では暗号化されたままのECMも多重化する。再スクランブル部108では、暗号化情報抽出部106に格納されているKsを用いて指定された映像や音声TSのPIDをもつTSパケットに対してMULTI2方式の暗号化処理を行なう。
【0028】
スクランブル鍵Ksでの暗号化処理に先立って、多重化部107では暗号化に用いるKsを格納したECMを暗号化情報抽出部106から受け取り多重化しておき、変調器109で64QAM変調したあとCATVネットワーク130を経由してSTB140に送信する。
【0029】
本構成ではECMを一旦抽出し、暗号化情報抽出部106に格納した後、多重化部107ではECMをARIBで規定された周期で多重化するが、デジタル放送局110から新たなECMが送信された場合は、新たなECMの多重化タイミングを後段の再スクランブル部108におけるKsの更新タイミングにあわせることで、鍵更新のタイミングを調整することが可能になる。これにより、STB140ではKsで暗号化された信号も復号することが可能となる。
【0030】
なお、復号後の処理に関してトランスコードを例に説明したが、同一フォーマットで符号レートを変換するトランスレートなどでもよく、特に限定しない。データの置換など、全体のデータ量に変更がなくデータの並びも変更がない場合には多重化部107での時刻情報の補正は不要である。
【0031】
また、暗号化についてもMULTI2方式を例に説明したが、特に限定しない。また、暗号化情報抽出部106に格納されるECMは暗号が解除されたままでもよい。この場合、多重化部107で多重化する前にKwで再度暗号化する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明にかかるスクランブル装置は、放送波の秘匿性を確保しつつ、信号のフォーマット変換などが可能となり、放送波の通信ネットワークへの再送信等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態における再送信システムの構成を示すブロック図
【図2】同実施の形態におけるPMTのデータ構造を示す図
【図3】同実施の形態におけるECMのデータ構造を示す図
【図4】同実施の形態における暗号化情報抽出部のデータ構成の一例を示す図
【図5】従来の暗号化システムに用いられる中継器の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0034】
100 スクランブル装置
110 放送局
120 放送ネットワーク
101 チューナ部
102 TSデコード部
103 デスクランブル部
104 バッファ部
105 トランスコード部
106 暗号化情報抽出部
107 多重化部
108 再スクランブル部
109 変調部
130 CATVネットワーク
140 STB
201 stream type
202 PID
203、204 descriptor
401 ECM
402 スクランブル鍵Ks(odd)
403 スクランブル鍵Ks(even)
404 PID群



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のネットワークから送信される暗号化された信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した信号の一部あるいは全部を復号する復号化手段と、
前記信号から暗号化のために用いた暗号化情報を抽出する暗号化情報抽出手段と、
前記暗号化情報抽出手段で抽出した暗号化情報を用いて前記復号化手段で復号された信号を暗号化する暗号化手段とを備えたことを特徴とするスクランブル装置。
【請求項2】
前記暗号化情報は前記復号化手段で復号するために用いた情報を含むことを特徴とする請求項1に記載のスクランブル装置。
【請求項3】
前記暗号化手段で行なう暗号化処理は、前記第1のネットワークから送信された信号に対する暗号化処理と同じであることを特徴とする請求項1又は2に記載のスクランブル装置。
【請求項4】
前記復号化手段の出力信号を別のフォーマットに変換し、前記暗号化手段に入力するフォーマット変換手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスクランブル装置。
【請求項5】
前記フォーマット変換手段でフォーマット変換を行なわない信号を一時格納するバッファ手段を備えたことを特徴とする請求項4に記載のスクランブル装置。
【請求項6】
前記フォーマット変換手段の出力と前記バッファ手段の出力を時分割多重化する多重化手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載のスクランブル装置。
【請求項7】
前記多重化手段は前記暗号化情報抽出手段で抽出した情報を多重化することを特徴とする請求項6に記載のスクランブル装置。
【請求項8】
受信した信号を暗号化するスクランブル装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、当該コンピュータを、
第1のネットワークから送信される暗号化された信号を受信する受信手段、
前記受信手段で受信した信号の一部あるいは全部を復号する復号化手段、
前記信号から暗号化のために用いた暗号化情報を抽出する暗号化情報抽出手段、および前記暗号化情報抽出手段で抽出した暗号化情報を用いて前記復号化手段で復号された信号を暗号化する暗号化手段として機能させるためのコンピュータプログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−81810(P2007−81810A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266753(P2005−266753)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】