説明

スズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物、および複合塗膜

【課題】スズ薄膜またはインジウム薄膜の変質による透明化を抑制できるスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物、および金属独特の風合い有し、意匠性に優れた複合塗膜を提供する。
【解決手段】塗膜形成成分と、該塗膜形成成分100質量部に対して、0.005〜5.400質量部の金属石ケンとを含有することを特徴とするスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物、および該塗料組成物より形成される下塗り層および/または上塗り層をスズ薄膜またはインジウム薄膜に隣接して備えた複合塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物、および複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面には、表面加飾等を目的として、蒸着法やスパッタリング法などの公知の方法により金属薄膜が形成されることがある。
金属薄膜を形成する金属としては、アルミニウム、銀、スズ、インジウム等が用いられる。特に、独特な風合いを付与でき、かつ変質部分の伝播が起こりにくい不連続膜を形成できる点で、スズやインジウムが用いられる場合が多く、中でもスズは安価であるため好適である。不連続の金属薄膜は、光輝性の外観を付与できるのと同時に、水平方向においては不導通となるため、静電気により放電された電流が機器内部に達しにくく機器の保護につながる他、電波を透過させることができるので、携帯電話等の通信機器の表面の加飾に使用できるなどの利点があり、デジタルカメラや携帯電話などへの採用が増えている。
【0003】
不連続の金属薄膜を形成する方法として、例えば特許文献1には、基材上に樹脂塗膜層を形成した後、該樹脂塗膜層上にスズ、またはスズとインジウムを含む合金を真空蒸着させ、そのグレインが金属膜として連続してつながる前に成膜を止めることで、非導通の金属蒸着膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
また、スズ薄膜(特に不連続のスズ薄膜)に対する付着性に優れた下塗り塗料として、例えば特許文献2には、特定のポリエステルジオールに、トリレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネート、およびヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレートと、光重合開始剤を含むスズ膜のアンダーコート層成形用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−281726号公報
【特許文献2】特開2007−211094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、不連続膜になるように形成されたスズ薄膜やインジウム薄膜は、時間の経過と共に変質して透明化(不可視化)し、金属独特の風合いが薄れて意匠性が低下するといった現象が起こりやすかった。特に、湿度の高い環境下では金属の変質による透明化の現象が顕著であった。
特許文献2に記載のアンダーコート層成形用組成物は、スズ薄膜に対する付着性は有するものの、金属の変質による透明化の対策がなされていない。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、スズ薄膜またはインジウム薄膜の変質による透明化を抑制できるスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物、および金属独特の風合い有し、意匠性に優れた複合塗膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物は、塗膜形成成分と、該塗膜形成成分100質量部に対して、0.005〜5.400質量部の金属石ケンとを含有することを特徴とする。
また、本発明の複合塗膜は、基材上に形成されたスズ薄膜またはインジウム薄膜と、該スズ薄膜またはインジウム薄膜に隣接して形成された下塗り層および上塗り層とを備えた複合塗膜において、前記下塗り層および/または上塗り層が、前記スズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物より形成されたことを特徴とする。
また、前記スズ薄膜またはインジウム薄膜が、真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物によれば、スズ薄膜またはインジウム薄膜の変質による透明化を抑制できる。
また、本発明の複合塗膜は、金属独特の風合い有し、意匠性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[スズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物]
本発明のスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」という。)は、塗膜形成成分と、金属石ケンとを含有する。
なお、本発明において「スズ薄膜」とは、スズまたはスズ合金を材質とする薄膜のことであり、「インジウム薄膜」とは、インジウムまたはインジウム合金を材質とする薄膜のことである。
【0011】
[金属石ケン]
金属石ケンは、基材上に形成されるスズ薄膜またはインジウム薄膜の変質による透明化を抑制することを目的で塗料組成物に配合される。
金属石ケンとは、任意のアルキル鎖長を有する脂肪酸などの金属塩(ただし、ナトリウム塩とカリウム塩を除く)のことである。
【0012】
本発明に用いる金属石ケンとしては、炭素数4〜30のアルキル基を有する脂肪酸の金属塩(ただし、ナトリウム塩とカリウム塩を除く)が好ましい。
また、金属石ケンは、常温(25℃)で固体状であっても液体状であってもよいが、塗料組成物中に均一に分散(溶解)できる点で、液体状が好ましい。金属石ケンの状態は、脂肪酸のアルキル鎖長が長くなるほど固体状となる傾向にある。
液体状の金属石ケンとしては、例えばナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム、ナフテン酸リチウム、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸ジルコニウム等のナフテン酸の金属塩;オクチル酸コバルト、オクチル酸鉛、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、オクチル酸スズ、オクチル酸バリウム、オクチル酸リチウム、オクチル酸マンガン、オクチル酸ジルコニウム等のオクチル酸の金属塩などが挙げられる。
【0013】
一方、固体状の金属石ケンとしては、例えばステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸の金属塩;ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛等のラウリン酸の金属塩;リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等のリシノール酸の金属塩などが挙げられる。
【0014】
上述した金属石ケンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、これら固体状の金属石ケンを用いる場合は、本発明の塗料組成物より得られる塗膜の表面を平滑にするため、平均粒子径が0.5μm以下程度になるまで細かく粉砕して用いるのが好ましい。粉砕することで、固体状の金属石ケンを塗料組成物中に均一に分散させることができ、金属石ケンが均一に分散(存在)した塗膜(後述する下塗り層および/または上塗り層)が得られる。従って、金属石ケンによる透明化の抑制効果が全体に行渡りやすくなると共に、平滑な塗膜表面を得ることができる。
ただし、液体状の金属石ケンであれば、そのままの状態で塗料組成物中に均一に溶解させることができるので、粉砕の手間が省くことができ、作業性が向上する。
【0015】
金属石ケンの含有量は、後述する塗膜形成成分100質量部に対して0.005〜5.400質量部であり、0.010〜1.400質量部が好ましい。金属石ケンの含有量が0.005質量部以上であれば、金属の変質による透明化の防止効果が十分に得られる。一方、金属石ケンの含有量が5.400質量部以下であれば、塗料組成物中に均一に溶解または分散しやすくなり、表面が平滑な塗膜が形成されやすい。その結果、光が乱反射するのを抑制できるので、複合塗膜とした際に白化などの発生を抑制できる。
なお、金属石ケンの含有量は、塗膜形成成分の固形分を100質量部としたときの値である。
【0016】
上述した金属石ケンは触媒作用を有するため、塗料組成物中に配合させると塗料組成物が劣化することがあった。特に、熱硬化型の塗料組成物は、塗膜形成成分に含まれる樹脂成分が反応性の官能基を多く有するため、金属石ケンによる触媒作用の影響を受けやすい。そのため、ポットライフやシェルライフが短くなりやすかった。従って、塗料組成物は、長期間保存できる点で非熱硬化型とするのが好ましい。
なお、熱硬化型の塗料組成物に適用する場合には、反応性の樹脂分と金属石ケン成分とを塗装直前まで分離させておき、塗装直前でこれらを混合することが可能な、直前混合ガン等のシステムを使用して塗装するのが望ましい。
【0017】
非熱硬化型としては、活性エネルギー線の照射により硬化して塗膜を形成する形態(活性エネルギー線硬化型)や、常温(25℃)乾燥または加熱(80℃)乾燥により塗膜を形成する形態(乾燥型)などが挙げられる。
一方、熱硬化型としては、キレート硬化型、二液ウレタン硬化型、二液エポキシ硬化型、二液メラミン硬化型等が挙げられる。
【0018】
[塗膜形成成分]
上述したように、塗料組成物は熱硬化型でも非熱硬化型でもよいが、非熱硬化型が好ましい。従って、塗膜形成成分には、活性エネルギー線硬化性化合物や、熱可塑性樹脂が含まれるのが好ましい。
【0019】
<活性エネルギー線硬化性化合物>
活性エネルギー線硬化性化合物としては、ウレタン(メタ)アクリレート、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
【0020】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0021】
ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、多価アルコールとアジピン酸などの多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。中でも、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリルレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
上述したポリイソシアネート化合物とポリオールを反応させ、得られた生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって、ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。この際、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの当量比は化学量論的に決定すればよいが、例えば、ポリオール:ポリイソシアネート化合物:水酸基を有する(メタ)アクリレート=1:1.1〜2.0:0.1〜1.2程度で使用することが好適である。また、反応には公知の触媒を使用できる。
【0024】
また、ウレタン(メタ)アクリレートとしては市販のものを用いてもよく、例えば、サートマージャパン株式会社製の「CN975」、東亞合成株式会社製の「アロニックスM−1100」等が挙げられる。
【0025】
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも脂環構造を有する化合物が好ましく、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、およびイソボロニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物は、形成される被覆膜の硬度をより高めることができる。具体例としては、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0028】
これら活性エネルギー線硬化性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、10〜100質量%が好ましく、30〜95質量%がより好ましい。
【0029】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸2−エチルヘキシルなどのホモポリマーや、これらの共重合体などの(メタ)アクリル樹脂が例示できる。これらの中でも、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
また、熱可塑性樹脂としては市販のものを用いてもよく、例えば、藤倉化成株式会社製のアクリル樹脂「LH−101」、日本ユピカ株式会社製のアクリル樹脂「AC3004」等が挙げられる。
これら熱可塑性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
[その他成分]
塗料組成物は、レベリング性向上のために、表面調整剤を含有してもよい。
表面調整剤の含有量は、塗料組成物100質量部に対して、0.01〜3.00質量部が好ましい。
【0031】
また、塗料組成物が活性エネルギー線硬化型の場合、塗料組成物には、通常、光重合開始剤が含まれる。
光重合開始剤としては、例えばチバスペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の「イルガキュア184」、「イルガキュア184D」、「イルガキュア149」、「イルガキュア651」、「イルガキュア907」、「イルガキュア754」、「イルガキュア819」、「イルガキュア500」、「イルガキュア1000」、「イルガキュア1800」、「イルガキュア754」;BASF社製の「ルシリンTPO」;日本化薬株式会社製の「カヤキュアDETX−S」、「カヤキュアEPA」、「カヤキュアDMBI」等が挙げられる。これら光重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、光重合開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
光重合開始剤の含有量は、塗膜形成成分100質量部に対して、0.1〜15.0質量部が好ましく、0.5〜10.0質量部がより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であれば、十分な架橋密度が得られる。
【0032】
また、塗料組成物は、必要に応じて各種溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノールなどのアルコール系溶剤;トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
さらに、塗料組成物は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、通常の塗料に用いられる添加剤や、艶消し剤、染料、顔料を適量含んでいてもよい。
【0034】
[塗料組成物の製造]
塗料組成物は、上述した金属石ケンと、塗膜形成成分と、溶剤と、必要に応じて表面調整剤、光重合開始剤、各種添加剤等のその他成分とを混合することにより調製できる。
塗料組成物中の塗膜形成成分の割合は必要に応じて設定できるが、塗料組成物100質量%中、20〜98質量%が好ましく、30〜80質量%が好ましい。
【0035】
以上説明した本発明の塗料組成物は、特定量の金属石ケンを含有するので、基材上に形成されるスズ薄膜またはインジウム薄膜の透明化を抑制できる。
本発明の塗料組成物は、該塗料組成物より形成される塗膜がスズ薄膜またはインジウム薄膜に隣接していることで金属の変質による透明化の抑制効果を発揮できる。従って、本発明の塗料組成物は、基材上に形成されるスズ薄膜またはインジウム薄膜の下塗り用および/または上塗り用として使用される。
【0036】
[複合塗膜]
本発明の複合塗膜は、基材上に形成されたスズ薄膜またはインジウム薄膜と、該スズ薄膜またはインジウム薄膜に隣接して形成された下塗り層および上塗り層とを備える。
基材としては、プラスチック基材や金属基材などが挙げられる。
プラスチック基材の材料としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等が挙げられる。
一方、金属基材の材質としては、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
スズ薄膜の材質としては、スズおよびその合金が挙げられる。
インジウム薄膜の材質としては、インジウムおよびその合金が挙げられる。
スズ薄膜およびインジウム薄膜(以下、これらを総称して「金属薄膜」という場合がある。)は、連続膜であってもよく、不連続膜であってもよい。金属薄膜が連続膜であるか不連続膜であるかは、一般的に金属薄膜の膜厚で決定される。通常、金属薄膜の膜厚が40nm以下であれば不連続膜となる傾向にあり、40nmよりも厚い場合は連続膜となる傾向にある。
【0038】
下塗り層は金属薄膜に隣接し、金属薄膜よりも前に基材上に形成される層である。通常、基材の表面は凹凸状になっているため、基材に直接金属薄膜を形成すると基材表面の凹凸が反映され、光が乱反射して白化しやすい。基材上に下塗り層を形成することで、金属薄膜が形成される表面が滑らかになり、白化を抑制できる。
下塗り層の厚さは、1〜50μmが好ましく、3〜30μmがより好ましい。
【0039】
一方、上塗り層は金属薄膜に隣接し、金属薄膜よりも後に形成される層である。上塗り層は、金属薄膜を保護する役割を果たす。
上塗り層の厚さは、1〜50μmが好ましく、3〜30μmがより好ましい。
【0040】
下塗り層および上塗り層は、それぞれ下塗り層、上塗り層の形成に用いられる通常の塗料より形成してもよいが、本発明においては、下塗り層および上塗り層の少なくとも一方が、本発明の塗料組成物より形成される。また、本発明の塗料組成物により、下塗り層を形成する場合は活性エネルギー線硬化型を用いるのが好ましく、上塗り層を形成する場合は熱硬化型、乾燥型、または活性エネルギー線硬化型を用いるのが好ましい。
以下、本発明の塗料組成物のうち、下塗り層を形成する場合に用いる塗料組成物を「下塗り用塗料組成物」、上塗り層を形成する場合に用いる塗料組成物を「上塗り用塗料組成物」とする。
【0041】
本発明の複合塗膜は、基材と下塗り層との間にベースコート層が設けられていてもよい。また、上塗り層上にトップコート層が設けられていてもよい。これらベースコート層やトップコート層は、それぞれベースコート層、トップコート層の形成に用いられる通常の塗料より形成される。
【0042】
<複合塗膜の製造方法>
本発明の複合塗膜の製造方法の一例について具体的に説明する。
本発明の複合塗膜は、基材上に下塗り層を形成する工程と、下塗り層上にスズ薄膜またはインジウム薄膜を形成する工程と、スズ薄膜またはインジウム薄膜上に上塗り層を形成する工程とを経て製造される。なお、以下の説明は、本発明の塗料組成物により下塗り層および上塗り層の両方を形成する場合の一例である。
【0043】
下塗り層を形成する工程では、まず、本発明の下塗り用塗料組成物を、硬化後の厚さが上記範囲内となるように基材上に塗布する。塗布方法としては、例えばスプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などが挙げられる。
ついで、例えば5000mJ/cmを上限として、100〜3000mJ/cm程度(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値)の紫外線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を用いて1〜10分間程度照射して、ベースコート層を形成する。活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、ガンマ線なども使用できる。
【0044】
スズ薄膜またはインジウム薄膜を形成する工程では、蒸着法またはスパッタリング法により膜厚が上記範囲内となるように、下塗り層上にスズ薄膜またはインジウム薄膜を形成するのが好ましい。
蒸着法およびスパッタリング法としては、それぞれ公知の方法を採用できる。特に、一般に普及しているという点で蒸着法によりスズ薄膜またはインジウム薄膜を形成するのが好ましく、中でも真空蒸着法が特に好ましい。
【0045】
上塗り層を形成する工程では、まず、本発明の上塗り用塗料組成物を、硬化後の厚さが上記範囲内となるように、スズ薄膜またはインジウム薄膜に塗布する。塗布方法は、下塗り用塗料組成物の塗布方法と同様である。
ついで、上塗り用塗料組成物が熱硬化型または乾燥型の場合は、50〜100℃で乾燥させて上塗り層を形成する。上塗り用塗料組成物が活性エネルギー線硬化型の場合は、活性エネルギー線を照射して上塗り層を形成する。活性エネルギー線の照射条件は、下塗り層を形成する際の活性エネルギー線の照射条件と同様である。
【0046】
このようにして得られた本発明の複合塗膜は、本発明の塗料組成物より形成される下塗り層および/または上塗り層をスズ薄膜またはインジウム薄膜に隣接して備える。従って、時間が経過してもスズ薄膜やインジウム薄膜が変質して透明化することなく、金属独特の風合いを有する。特に、スズ薄膜やインジウム薄膜が連続膜の場合、不連続膜に比べて金属の変質による透明化が起こりやすいが、本発明であれは、スズ薄膜やインジウム薄膜が連続膜であっても透明化を抑制し、意匠性に優れる複合塗膜が得られる。
【0047】
本発明の複合塗膜の用途としては特に制限はなく、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオ、パーソナルコンピューター、家電、オーディオ等、種々のものが例示できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
[ウレタンアクリレートオリゴマーの合成]
1,6−ヘキサンジオール59.0g、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート118.0gを、攪拌機、温度計を備えた500mLのフラスコに仕込み、窒素気流下において70℃で4時間反応させた。ついで、このフラスコ中にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート116.0g、ハイドロキノン0.6g、ジブチルスズジラウレート0.3gを加え、フラスコ内の内容物に空気をバブリングしながら、70℃でさらに5時間反応させ、ウレタンアクリレートオリゴマーを得た。
【0050】
[塗料組成物の調製]
表1、2に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合して、下塗り用塗料組成物(B−1〜B−11)および上塗り用塗料組成物(T−1〜T−11)を調製した。
なお、金属石ケンは、ステアリン酸亜鉛が固体状(粉体)であり、残りは液体状である。
【0051】
表1、2中の各成分は以下の通りである。
・6官能アクリレート:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート。
・2官能アクリレート:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート。
・ウレタンアクリレート:先に合成したウレタンアクリレートオリゴマー。
・アクリル樹脂1:藤倉化成株式会社製の「アクリルベースLH101」、樹脂固形分:40質量%、溶剤:トルエン。
・アクリル樹脂2:日本ユピカ株式会社製の「AC3004」、樹脂固形分:44質量%、溶剤:トルエン、n−ブタノール、酢酸エチル。
・表面調整剤:ビックケミー・ジャパン株式会社製の「BYK−301」。
・光重合開始剤:チバスペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の「イルガキュア184D」。
・PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
[実施例1]
基材としてポリカーボネート樹脂板(Sabic Innovative Plastics Japan社製、「LEXAN−2」、100×100×3mm)をイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥後、下塗り用塗料組成物(B−3)を硬化後の厚さが12μmになるように、ポリカーボネート樹脂基板の表面にスプレーガンでエアースプレー塗装した。ついで、熱風乾燥炉内にて60℃×10分の条件で溶剤を乾燥させた後、高圧水銀灯により積算光量800mJ/cm(日本電池社製の「UVR−N1」による測定値)の紫外線を照射して、基材上に下塗り層を形成した。
ついで、蒸着装置(株式会社アルバック製、「EX−200」)にセットし、真空度が5×10−3Paになるまで減圧した後、スズを280℃に加熱することで、下塗り層上にスズを真空蒸着させ、スズ薄膜を形成した。該スズ薄膜の膜厚は40nmであった。
ついで、スズ薄膜上に、上塗り用塗料組成物ベース(T−1)を硬化後の厚さが10μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装し、80℃×10分の条件で溶剤を乾燥させて、スズ薄膜上に上塗り層を形成し、これを試験片とした。
【0055】
<評価>
このようにして得られた試験片について、以下に示す各条件にて、外観(スズ薄膜蒸着後および上塗り層形成後)の状態、および耐湿試験後の金属の変質による透明化の有無について、それぞれ評価した。また、総合評価を行った。各結果を表3に示す。
【0056】
(外観の評価:スズ薄膜蒸着後)
スズ薄膜蒸着後のスズ薄膜の状態について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:白化が確認されない。
×:白化が確認された。
【0057】
(外観の評価:上塗り層形成後)
試験片の外観について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:白化が確認されない。
×:白化が確認された。
【0058】
(透明化の有無)
試験片を温度65℃、湿度95%RHの雰囲気中に240時間放置して耐湿試験を行った。耐湿試験後の試験片の外観について目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:金属の変質による透明化が確認されない。
△:部分的に透明化が確認されたが僅かであり、実用上問題はない。
×:全体的に透明化が確認された。
【0059】
(総合評価)
以下の評価基準により総合評価した。なお、「○」と「△」を合格とする。
○:スズ薄膜蒸着後の外観の評価、上塗り層形成後の外観の評価、および透明化の有無のいずれもが「○」である。
△:評価項目の少なくとも1つが「△」である。
×:評価項目の少なくとも1つが「×」である。
【0060】
[実施例2〜16、比較例1〜5]
下塗り用塗料組成物および上塗り用塗料組成物として、表3〜5に示す種類のものを用い、硬化後の下塗り層および上塗り層の厚さが表3〜5に示す値になるように変更した以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価した。結果を表3〜5に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
表3、4から明らかなように、各実施例で得られた試験片は、スズ薄膜蒸着後および上塗り層形成後の外観に白化が見られず良好であり、意匠性に優れていた。また、耐湿試験を行っても金属の変質による透明化を概ね抑制できた。
なお、塗膜形成成分100質量部に対する金属石ケンの割合が0.005質量部である下塗り用塗料組成物(B−3)または上塗り用塗料組成物(B−3)を用いた実施例1、9の場合、耐湿試験を行うと僅かに金属の変質による透明化が確認された。
【0065】
一方、表5から明らかなように、金属石ケンを含有しない塗料組成物を用いて下塗り層および上塗り層を形成した比較例1の場合、耐湿試験後を行うと金属の変質により透明化が起こり、意匠性が低下した。
塗膜形成成分の固形分100質量部に対する金属石ケンの割合が0.002質量部と少ない下塗り用塗料組成物(B−2)を用いた比較例2の場合、耐湿試験後を行うと金属の変質により透明化が起こり、意匠性が低下した。
塗膜形成成分の固形分100質量部に対する金属石ケンの割合が8.500質量部と多い下塗り用塗料組成物(B−11)を用いた比較例3の場合、透明化は抑制できたが、スズ薄膜蒸着後および上塗り層形成後の外観に白化が見られ、意匠性が低下した。
塗膜形成成分の固形分100質量部に対する金属石ケンの割合が0.002質量部と少ない上塗り用塗料組成物(T−2)を用いた比較例4の場合、耐湿試験後を行うと金属の変質により透明化が起こり、意匠性が低下した。
塗膜形成成分の固形分100質量部に対する金属石ケンの割合が6.500質量部と多い上塗り用塗料組成物(T−11)を用いた比較例5の場合、透明化は抑制できたが、上塗り層形成後の外観に白化が見られ、意匠性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成成分と、該塗膜形成成分100質量部に対して、0.005〜5.400質量部の金属石ケンとを含有することを特徴とするスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物。
【請求項2】
基材上に形成されたスズ薄膜またはインジウム薄膜と、該スズ薄膜またはインジウム薄膜に隣接して形成された下塗り層および上塗り層とを備えた複合塗膜において、
前記下塗り層および/または上塗り層が、請求項1に記載のスズ薄膜またはインジウム薄膜用塗料組成物より形成されたことを特徴とする複合塗膜。
【請求項3】
前記スズ薄膜またはインジウム薄膜が、真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されたことを特徴とする請求項2に記載の複合塗膜。

【公開番号】特開2011−178887(P2011−178887A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44260(P2010−44260)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】