説明

スターポリマーおよびその製造方法ならびに屈折率変換材料および光−熱エネルギー変換蓄積材料

【課題】光照射によって屈折率が変化し、かつ、屈折率の変化量が大きく、しかも、容易に成膜することができる新規な化合物、その製造方法およびその化合物からなる屈折率変換材料、光−熱エネルギー変換蓄積材料を提供する。
【解決手段】上記化合物は、下記式(1)で表される。


[mは4〜8の整数、Rは側鎖にノルボルナジエン環を有する(メタ)アクリル系ポリマーを主鎖とする基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スターポリマーおよびその製造方法ならびに前記スターポリマーからなる屈折率変換材料および光−熱エネルギー変換蓄積材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルナジエン(以下、「NBD」ともいう。)は、紫外線の照射により、分極率の低いクワドリシクラン(以下、「QC」ともいう。)に光原子価異性化し、また、QCは、触媒との接触または短波長の光の照射により、放熱を伴ってNBDに異性化する特性を有することから、NBD構造を有する化合物は、光エネルギーを熱エネルギーに変換して蓄積する光−熱エネルギー変換蓄積材料として注目されている(非特許文献1および非特許文献2参照)。
また、NBD構造を有する化合物は、異性化したQC構造を有する化合物と異なる屈折率を有する、すなわち光の照射によって屈折率が変化する特性を有することから、例えば光記憶素子や光スイッチシステムに用いられる屈折率変換材料への応用が期待されている(非特許文献3参照)。
【0003】
このような光−熱エネルギー変換蓄積材料および屈折率変換材料においては、容易に成膜され得るものであることが肝要である。そして、従来、成膜化が可能なNBD構造を有する化合物として、NBD構造が導入された種々のポリマーが提案されている(非特許文献4参照)。
しかしながら、従来のNBD構造が導入されたポリマーは、光照射による屈折率の変化量が0.01程度またはそれ以下であり、屈折率の変化量が十分に大きいものではない。
【非特許文献1】T.Nishikubo et al.,Macromolecules,22,8(1989)
【非特許文献2】T.Nishikubo et al.,Macromolecules,31,2789(1998)
【非特許文献3】K.Kinoshita et al.,Appl.Lett.,70,2940(1997)
【非特許文献4】C.D.Gutsche(ED),Calixarenes,Royal Soc.Chem.(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、光照射によって屈折率が変化し、かつ、屈折率の変化量が大きく、しかも、容易に成膜することができる新規な化合物およびその製造方法を提供することにある。
本発明の更なる目的は、屈折率の変化量が大きく、しかも容易に成膜することができる屈折率変換材料を提供することにある。
本発明の更なる目的は、蓄熱量が大きく、しかも容易に成膜することができる光−熱エネルギー変換蓄積材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、下記式(1)で表されるスターポリマーによって達成される。
【0006】
【化1】

【0007】
[式(1)中、mは4〜8の整数であり、Rは下記式(2)で表される基である。]
【0008】
【化2】

【0009】
[式(2)中、nは5〜500の整数であり、iは1〜6の整数であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Arは炭素数6〜12のアリール基である。]
上記式(1)で表されるスターポリマーは、例えば下記の方法によって製造することができる。すなわち、先ず、下記式(3)で表される化合物の存在下、下記式(4)で表される化合物を重合することにより、中間体を製造する。
【0010】
【化3】

【0011】
[式(3)中、mは上記式(1)と同じであり、Xはハロゲン原子である。]
【0012】
【化4】

【0013】
[式(4)中、iおよびRは上記式(2)と同じである。]
ここで得られる中間体は、下記式(5)で表される化合物である。
【0014】
【化5】

【0015】
[式(5)中、mは上記式(1)と同じであり、Rは下記式(6)で表される基である。]
【0016】
【化6】

【0017】
[式(6)中、n、iおよびRは上記式(2)と同じである。]
次いで、上記式(5)で表される中間体と、下記式(7)で表される化合物とを反応させることにより、上記式(1)で表されるスターポリマーを製造することができる。
【0018】
【化7】

【0019】
[式(7)中、Arは上記式(2)と同じである。]
上記式(1)で表されるスターポリマーは、光の照射により、下記式(8)で表されるスターポリマーに異性化し、きわめて大きい屈折率変化を示す。
【0020】
【化8】

【0021】
[式(8)中、mは上記式(1)と同じであり、Rは下記式(9)で表される基である。]
【0022】
【化9】

【0023】
[式(9)中、n、i、RおよびArは上記式(2)と同じである。]
上記式(8)で表されるスターポリマーは、触媒との接触または短波長の光の照射により、放熱を伴って上記式(1)で表されるスターポリマーに異性化する。
したがって、式(1)および式(8)で表されるスターポリマーのうちから選択される少なくとも1種のスターポリマーは、屈折率変換材料または光−熱エネルギー変換蓄積材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のスターポリマーは、上記式(1)で表される。式(1)中、mは4〜8の整数であるが、好ましくは4である。上記式(1)中のRは、上記式(2)で表される基である。式(2)中、nは5〜500の整数であるが、この値は好ましくは5〜40である。また、式(2)中のiは1〜6の整数であるが、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1または2である。式(2)中のArの具体例としては、例えばフェニル基、ナフタニル基、アントラセニル基等を挙げることができ、これらのうちフェニル基が好ましい。
式(1)で表されるスターポリマーは、式(2)で表される基を複数有するが、式(2)で表される基のそれぞれにおけるn、iおよびArは、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
上記式(1)で表されるスターポリマーは、どのような方法によって製造されたものであってもよいが、例えば、先ず上記式(3)で表される化合物の存在下に上記式(4)で表される化合物を重合して中間体を得、次いでこの中間体に上記式(7)で表される化合物を反応させる方法によることができる。
【0026】
式(3)中のmは、式(1)中のmと同じであり、所望のスターポリマーの構造によって選択される。式(3)中のXとしては、塩素原子または臭素原子が好ましく、特に臭素原子が好ましい。
【0027】
式(4)中のiおよびRは、式(2)中のiおよびRと同じであり、所望のスターポリマーの構造によって選択される。式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル等を挙げることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−6,7−エポキシヘプチルが好ましい。
式(4)で表される化合物の使用量は、所望のスターポリマーの構造、すなわち式(2)中の所望のnの値により適宜に選択されるが、例えば式(3)で表される化合物1モルあたり、10〜300モルであることが好ましく、60〜300モルであることがより好ましい。
【0028】
式(3)で表される化合物の存在下における式(4)で表される化合物の重合反応は、溶媒の存在下に行われることが好ましい。ここで使用できる溶媒としては、例えばアミド化合物、N−アルキル置換ラクタム、芳香族化合物、カルボン酸アルキルエステル、炭酸ジアルキルエステル、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、スルホキシド、ハロゲン化合物等を挙げることができる。これらのうち、アミド化合物、N−アルキル置換ラクタム、スルホキシドまたはハロゲン化合物を好ましく使用でき、特にN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドまたはハロゲン化ベンゼンを使用することが好ましい。
溶媒の使用量としては、溶液中における式(4)で表される化合物の濃度が、10重量%以上となる量であることが好ましく、30〜50重量%となる量であることがより好ましい。
【0029】
上記重合反応をおこなう温度としては、0〜100℃であることが好ましく、25〜60℃であることがより好ましい。重合時間としては、1〜5,000時間であることが好ましく、48〜72時間であることがより好ましい。
このようにして得られた中間体は、上記式(5)で表される化合物である。
【0030】
上記の如くして得られた中間体を、次いて上記式(7)で表される化合物と反応させることにより、上記式(1)で表されるスターポリマーが得られる。
式(7)中のArは、式(2)中のArと同じであり、所望のスターポリマーの構造によって選択される。
式(7)で表される化合物の使用量としては、式(5)で表される中間体の有するエポキシ基の総量に対して0.5〜1.0当量であることが好ましい。
【0031】
上記反応は、触媒の存在下で実施することが好ましい。ここで使用できる触媒としては、例えばアンモニウム塩、ホスホニウム塩等を挙げることができ、特にテトラブチルアンモニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド等が好ましく使用できる。
上記反応は、溶媒の存在下に行われることが好ましい。ここで使用できる溶媒としては、式(3)で表される化合物の存在下における式(4)で表される化合物の重合反応で使用できる溶媒として例示した溶媒を挙げることができる。
溶媒の使用量としては、溶液中の溶媒以外の成分の全重量が溶液中に占める割合として10重量%以上となる量であることが好ましく、30〜60重量%となる量であることがより好ましい。
上記反応をおこなう温度としては、0〜200℃であることが好ましく、60〜90℃であることがより好ましい。反応時間としては、1〜200時間であることが好ましく、48〜72時間であることがより好ましい。
【0032】
かくして得られる上記式(1)で表される本発明のスターポリマーは、光を照射することにより、分子中のNBD部位がQC構造へと変換し、上記式(8)で表されるスターポリマーへと異性化する。これによりきわめて大きい屈折率変化を示す特性を有するので、本発明のスターポリマーは屈折率変換材料として機能する。ここで使用できる光としては、例えば紫外線、遠紫外線等が好ましく、特に波長313nmの光を含む紫外線が好ましく使用できる。
また、式(8)で表される本発明のスターポリマーは、触媒との接触、短波長の光の照射により、放熱を伴って式(1)で表されるスターポリマーへ異性化する特性を有する。したがって、本発明のスターポリマーは、光エネルギーを熱エネルギーに変換して蓄積し、必要に応じて熱エネルギーを放出する光−熱エネルギー変換蓄積材料として機能する。ここで使用できる短波長の光としては、例えば波長250nm以下の紫外線が好ましい。
【0033】
また、本発明のスターポリマーは、容易に成膜することが可能である。成膜の方法としては、例えば本発明のスターポリマーを適当な溶媒に溶解して基体上に塗布した後に溶媒を除去する方法、本発明のスターポリマーの適当量をそのまま、または加熱下においてプレスする方法等によることができる。前者の方法に使用できる溶媒としては、式(3)で表される化合物の存在下における式(4)で表される化合物の重合反応で使用できる溶媒として例示した溶媒を好ましく使用できる。
本発明のスターポリマーは、各種光学素子や、光記憶素子、光スイッチシステム、光−熱エネルギー変換蓄積材料として有用である。
【実施例】
【0034】
実施例1
(1)CRA−poly(GMA)(中間体)の合成
CRA−BIB(上記式(3)においてmが4であり、Xが臭素原子である化合物。)17.4mg、メタクリル酸グリシジル(GMA)114mg、CuBr12.8mgおよびビピリジン27.2mgをジメチルホルムアミド1.6mL中に溶解し、室温(25℃)で48時間攪拌して重合反応を行うことにより、式(5)においてm=4であり、式(6)においてn=10、i=1である中間体(CRA−poly(GMA)(10))を129mg得た。
【0035】
(2)CRA−poly(GMA)−NBD(10)の合成
上記で合成したCRA−poly(GMA)(10)25mg、3−フェニル−2,5−ノルボルナジエン−2−カルボン酸47mgおよびテトラブチルアンモニウムブロミド1.3mgをN−メチルピロリドン5mLに溶解し、70℃にて48時間攪拌して反応を行ルことにより、式(1)においてm=4であり、式(2)においてn=10、i=1、Ar=フェニル基であるスターポリマー(CRA−poly(GMA)−NBD(10))を57mg得た(収率71%)。
【0036】
(3)屈折率変化の測定
上記で合成したCRA−poly(GMA)−NBD(10)を厚さ0.1μmのフィルムとし、このフィルムに超高圧水銀灯(照度10mW/cm、波長313nm)を用いて30分間光照射を行い、光照射前後の屈折率を測定した。結果を表1に示した。
なお、屈折率の測定は、エリプソメータ((株)溝尻光学工業所製、形式「DHA−OLX」、波長632.8nm)を用いて行った。
【0037】
実施例2
実施例1の「(2)CRA−poly(GMA)(中間体)の合成」において、メタクリル酸グリシジルの使用量を228mgとしたほかは実施例1と同様にして実施し、式(1)においてm=4であり、式(2)においてn=20、i=1、Ar=フェニル基であるスターポリマー(CRA−poly(GMA)−NBD(20))を90mg得た(収率71%)。
上記で得たCRA−poly(GMA)−NBD(20)を使用して実施例1と同様にして屈折率変化の測定を行った。結果を表1に示す。
【0038】
実施例3
実施例1の「(2)CRA−poly(GMA)(中間体)の合成」において、メタクリル酸グリシジルの使用量を342mgとしたほかは実施例1と同様にして実施し、式(1)においてm=4であり、式(2)においてn=30、i=1、Ar=フェニル基であるスターポリマー(CRA−poly(GMA)−NBD(30))を178mg得た(収率71%)。
上記で得たCRA−poly(GMA)−NBD(30)を使用して実施例1と同様にして屈折率変化の測定を行った。結果を表1に示す。
【0039】
比較例1
(1)poly(GMA)の合成
2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸フェニルエステル24mg、メタクリル酸グリシジル(GMA)426mg、CuBr16mgおよびビピリジン34mgをジメチルホルムアミド1.5mL中に溶解し、室温(25℃)、24時間攪拌して重合反応を行うことにより、数平均分子量(Mn)が6,820である中間体(poly(GMA)(30))を437mg得た。
【0040】
(2)poly(GMA)−NBD(30)の合成
上記で合成したpoly(GMA)(30)100mg、3−フェニル−2,5−ノルボルナジエン−2−カルボン酸211mgおよびテトラブチルアンモニウムブロミド6mgをN−メチルピロリドン5mLに溶解し、70℃にて48時間攪拌して反応を行うことにより、NBD変性されたポリGMA(poly(GMA)−NBD(30))を235mg得た(収率74%)。
(3)屈折率の測定
このpoly(GMA)−NBD(30)を使用して実施例1と同様にして屈折率変化の測定を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記実施例で示したように、本発明のスターポリマーは光の照射により極めて大きな屈折率変化を示す。このことの理由としては、本発明のスターポリマーにおいてはNBD部位が高密度に存在するために、光異性化による屈折率の変化量が大きくなったためと推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、スターポリマー。
【化1】

[式(1)中、mは4〜8の整数であり、Rは下記式(2)で表される基である。]
【化2】

[式(2)中、nは5〜500の整数であり、iは1〜6の整数であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Arは炭素数6〜12のアリール基である。]
【請求項2】
下記式(3)で表される化合物の存在下、下記式(4)で表される化合物を重合することを特徴とする、スターポリマーを製造するための中間体の製造方法。
【化3】

[式(3)中、mは上記式(1)と同じであり、Xはハロゲン原子である。]
【化4】

[式(4)中、iおよびRは上記式(2)と同じである。]
【請求項3】
下記式(5)で表され、請求項1に記載のスターポリマーを製造するために用いられることを特徴とする、スターポリマーを製造するための中間体。
【化5】

[式(5)中、mは上記式(1)と同じであり、Rは下記式(6)で表される基である。]
【化6】

「式(6)中、n、iおよびRは上記式(2)と同じである。」
【請求項4】
請求項3に記載の中間体と、下記式(7)で表される化合物とを反応させて請求項1に記載のスターポリマーを得ることを特徴とする、スターポリマーの製造方法。
【化7】

[式(7)中、Arは上記式(2)と同じである。]
【請求項5】
下記式(8)で表される、スターポリマー。
【化8】

[式(8)中、mは上記式(1)と同じであり、Rは下記式(9)で表される基である。]
【化9】

[式(9)中、n、i、RおよびArは上記式(2)と同じである。]
【請求項6】
上記式(1)で表されるスターポリマーに光を照射して上記式(8)で表されるスターポリマーに異性化することを特徴とする、スターポリマーの異性化方法。
【請求項7】
請求項1に記載のスターポリマーおよび請求項5に記載のスターポリマーのうちの少なくとも1種からなる、屈折率変換材料。
【請求項8】
請求項1に記載のスターポリマーおよび請求項5に記載のスターポリマーのうちの少なくとも1種からなる、光−熱エネルギー変換蓄積材料。

【公開番号】特開2007−238664(P2007−238664A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59361(P2006−59361)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】