説明

スチレンイソブチレン共重合体に基づくポリマー領域を有する医療デバイス

本発明の一側面によれば、1つ以上のポリマー領域を含有する埋め込み型または挿入型医療デバイスが提供される。これらのポリマー領域は、今度は、1つ以上のポリマーを含有し、その少なくとも1つは、スチレンモノマーおよびイソブチレンモノマーを含む共重合体である。さらに、共重合体のスチレンモノマー含量は、典型的には、25mol%から50mol%の範囲である。本発明の利点は、より低いスチレン含量を有する共重合体と比べて低減されたタックおよび低減されたウェビングを示す材料を、医療デバイスに提供することができることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の陳述
この出願は、2007年2月27日に出願された、表題「Medical Devices Having Polymeric Regions Based on Styrene−Isobutylene Copolymers」の米国仮特許出願第60/903,589号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、医療デバイスに関し、より具体的には、ポリマー領域を含有する埋め込み型または挿入型医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
埋め込み型または挿入型医療デバイスの作製における使用に好適な材料は、典型的には、生体適合性、押出し性、成形性、繊維形成特性、引張強度、弾性、耐久性等の品質のうちの1つ以上を示す。さらに、そこから治療薬が放出される医療デバイスでは、使用に好適な材料は、典型的には、治療されている疾患または状態に適切な放出プロファイルを示す。例えば、体内への治療薬の送達のために多数のポリマーベースの医療デバイスが開発されている。その例には、Boston Scientific Corp.(TAXUS)、Johnson & Johnson (CYPHER)等から市販されている、薬剤溶出冠状動脈ステントが含まれる。非特許文献1および非特許文献2を参照されたい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.V.Ranadeら、Acta Biomater.2005 Jan; 1(1): 137−44
【非特許文献2】R.Virmaniら、Circulation 2004 Feb 17,109(6) 701−5
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、例えば、医療デバイス全体または医療デバイスの1つ以上の部分(例えば、被覆等)に対応し得る1つ以上のポリマー領域を含有する、埋め込み型または挿入型医療デバイスが提供される。これらのポリマー領域は、今度は、1つ以上のポリマーを含有し、その少なくとも1つは、スチレンおよびイソブチレンを含む共重合体である。さらに、共重合体のスチレン含量は、典型的には、17mol%から50mol%の範囲である。
【0006】
本発明の利点は、より低いスチレン含量を有する共重合体と比べて低減されたタックおよび低減されたウェビング(webbing)を示す材料を、医療デバイスに提供することができることである。
【0007】
本発明の別の利点は、より低いスチレン含量を有する共重合体と比べて低減されたタックおよび低減されたウェビングを示し、またより高いスチレン含量を有する共重合体と比べて使用中に永久歪を生じる傾向が低減された材料を、医療デバイスに提供することができることである。
【0008】
さらなる利点には、幅広い組成物の範囲にわたり調整可能な特性が含まれる。比較的高いスチレン含量を使用して、低減されたタック、摩擦およびウェビングを必要とするが、弾性も維持する医療デバイスを得ることができる。比較的低いスチレン含量を使用して、向上した可撓性を必要とする医療デバイスを得ることができる。特に好適な範囲は、25〜40mol%スチレンである。
【0009】
本発明のこれらの側面および他の側面、実施形態ならびに利点は、続く詳細な説明および請求項を吟味すれば、当業者にすぐに明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ステンレス鋼試料に対する種々のSIBS組成物の、表面タック対%スチレンのプロットである。
【図2】ポリ(エーテル−ブロック−アミド)共重合体試料に対する種々のSIBS組成物の、表面タック対%スチレンのプロットである。
【図3】ポリエーテル−ブロック−ポリアミド共重合体試料に対する種々のSIBS組成物の、平均力学的摩擦対%スチレンのプロットである。
【図4】種々のSIBS組成物の、被覆されたステント(模擬的な湾曲動脈で展開)からバルーンカテーテルを引き抜くために必要な平均ピークモータ力(peak motor force)対%スチレンのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
前述のように、一側面において、本発明は、1つ以上のポリマー領域を含有する埋め込み型または挿入型医療デバイスを提供する。一方、これらのポリマー領域は、1つ以上のポリマーを含有し、その少なくとも1つは、スチレンモノマーおよびイソブチレンモノマーを含む共重合体である。さらに、共重合体のスチレンモノマー含量は、典型的には、17mol%から50mol%(すなわち、17mol%から18mol%から19mol%から20mol%から21mol%から22mol%から23mol%から24mol%から25mol%から26mol%から27mol%から28mol%から29mol%から30mol%から31mol%から32mol%から33mol%から34mol%から35mol%から36mol%から37mol%から38mol%から39mol%から40mol%から42mol%から45mol%から50mol%)であり、ステント被覆等のある特定の用途には、25mol%から40mol%がより典型的である。
【0012】
本明細書において使用される場合、「ポリマー領域」は、1つ以上の種類のポリマーを含有する領域であり、典型的には、少なくとも50重量%のポリマー、少なくとも75重量%のポリマー、またはさらにより多くを含有する。
【0013】
本明細書において使用される場合、「ポリマー」は、一般にモノマーと称される1つ以上の構成単位の複数の複製(例えば、5から10から25から50から100から250から500から1000またはそれ以上の複製)を含有する分子である。本明細書で使用される場合、「モノマー」という用語は、遊離したモノマーおよびポリマーに組み込まれたモノマーを意味することができ、その区別は、その用語が使用されている文脈から明白である。ポリマーはいくつかの構成をとることができ、これは、例えば、環式、線状、分岐、およびネットワーク状(例えば、架橋)構成から選択することができる。分岐鎖構成は、星状構成(例えば、3つ以上の鎖が、種分子等の単一の分岐点から広がる構成)、櫛状構成(例えば、主鎖および複数の側鎖を有する構成)、樹枝状構成(例えば、枝分かれした超分岐ポリマー)等を含む。
【0014】
本明細書において使用される場合、「ホモポリマー」は、単一構成単位の複数の複製を含有するポリマーである。「共重合体」は、少なくとも2種の異なる構成単位の複数の複製を含有するポリマーであり、その例は、ランダム、統計的(statistical)、グラジエント、周期的(例えば、交互)、およびブロック共重合体を含む。本明細書において使用される場合、「ブロック共重合体」は、2つ以上の異なるポリマーブロックを含有する共重合体であり、例えば、別のポリマーブロックには見られない構成単位(すなわち、モノマー)が1つのポリマーブロックに見られるためである。本明細書において使用される場合、「ポリマーブロック」は、構成単位の一群である(例えば、5から10から25から50から100から250から500から1000またはそれ以上の単位)。ある特定の実施形態において、ポリマーブロックは、10,000を超える構成単位を含有する。例えば、以下の実施例で説明されるSIBS共重合体は、約80,000イソブチレン反復単位および約30,000から50,000のポリスチレン反復単位を含有する。
【0015】
ブロックは、分岐鎖であっても、非分岐鎖であってもよい。ブロックは、例えば、ランダム、統計、グラジエント、または周期(例えば、交互)分布として提供され得る、単一種類の構成単位(「ホモポリマーブロック」)または複数種類の構成単位(「共重合体ブロック」)を含有し得る。
【0016】
そのような構造の例は、(a)(SI)、I(SI)、およびS(IS)(ここで、Sはポリ(スチレン)ブロック、Iはポリ(イソブチレン)ブロック、mは1以上の正の自然数である)の型の交互ブロックを有するブロック共重合体、ならびに(b)複数の腕を持つ幾何学形状、例えば、X(IS)およびX(SI)(nは2以上の正の自然数、Xは、ハブ種(例えば、開始剤分子残基、予め形成されたポリマー鎖が結合している分子の残基等)である)を有するブロック共重合体を含む。上述のハブ種に加えて、上述のもの等の共重合体は、一般に共重合体中に存在するキャッピング分子および連結残基を含む種々の他の非ポリマー鎖種を含有することができる。ハブ種、連結種等の非ポリマー種は、概して、ブロック共重合体形態を説明する上では無視され、例えば、X(IS)は、SISトリブロック共重合体として指定されることに留意されたい。ブロック共重合体の他の例には、I鎖骨格および複数のS側鎖を有する櫛状共重合体、ならびにS鎖骨格および複数のI側鎖を有する櫛状共重合体が含まれる。
【0017】
本発明による共重合体は、M.Gyorら、J.of Macromolecular Sci,Pure and Applied Chem.,1992,A29(8),639およびPinchukらに対する米国特許出願第2002/0107330号に記載されるようなリビングカチオン重合(living cationic polymerization)により生成され得る。
【0018】
本発明から利益を得る医療デバイスは、手順における使用のため、またはインプラントとして、対象に移植または挿入される、種々の埋め込み型または挿入型医療デバイスを含む。その例には、ステント(冠動脈ステント、末梢血管ステント、例えば、脳ステント、尿道ステント、尿管ステント、胆管ステント、気管ステント、胃腸ステントおよび食道ステントを含む)、ステントグラフト、血管グラフト、カテーテル(例えば、バルーンカテーテル等の腎臓または血管カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルタ(例えば、大静脈フィルタ)、血管アクセスポート、脳動脈瘤充填コイル(cerebral aneurysm filler coil)(Guglilmi着脱可能コイルおよび金属コイルを含む)を含む閉塞デバイス、心筋プラグ、ペースメーカーリード、左心室補助心臓およびポンプ、完全人工心臓、心臓弁、血管弁、蝸牛インプラント(cochlear implant)、組織充填デバイス、軟骨、骨、皮膚、およびその他の体内組織再生のための組織工学スキャフォールド、縫合糸、縫合糸アンカー、吻合クリップおよびリング、手術部位での組織ステープルおよび結紮クリップ、カニューレ、金属ワイヤ結紮糸、人工関節、ならびに、体内への移植または挿入に適合された種々の他の医療デバイスが含まれる。
【0019】
本発明の医療デバイスは、全身治療に使用される埋め込み型および挿入型医療デバイス、ならびに、任意の哺乳動物の組織または器官の局所治療に使用されるものを含む。限定されない例は、腫瘍;心臓、冠血管および末梢血管系(概略的に「血管系」と称する)、腎臓、膀胱、尿道、尿管、前立腺、膣、子宮および卵巣を含む泌尿生殖器系、眼、肺、気管、食道、腸、胃、脳、肝臓および膵臓、骨格筋、平滑筋、胸部、皮膚組織、軟骨、歯および骨である。
【0020】
本明細書において使用される場合、「治療」は、疾患もしくは状態の予防、疾患もしくは状態と関連した症状の軽減もしくは排除、または疾患もしくは状態の実質的もしくは完全な排除を指す。好ましい対象は、脊椎動物対象、より好ましくは、哺乳動物対象、より好ましくは、ヒト対象である。
【0021】
いくつかの実施形態において、本発明のポリマー領域は、医療デバイス全体に対応する。他の実施形態において、ポリマー領域は、医療デバイスの1つ以上の部分に対応する。例えば、ポリマー領域は、1つ以上の医療デバイス構成要素の形態、医療デバイスに組み込まれる1つ以上の繊維の形態、その下の医療デバイス基材のすべての上または一部の上のみに形成された1つ以上のポリマー層の形態等であってもよい。層は、その下の基材上の種々の場所に、種々の形状で(例えば、適切な塗布またはマスキング技術等を使用して所望のパターンで)設けることができ、また、それらは異なる組成物のものであってもよい。本明細書において使用される場合、所与の材料の「層」は、その厚さがその長さおよび幅に比べて小さい当該材料の領域である。本明細書において使用される場合、層は平面である必要はなく、例えば、その下の基材の輪郭に沿っている。層は不連続であってもよい(例えば、パターニングされている)。「フィルム」、「層」、および「被覆」等の用語は、本明細書において、交換可能に使用され得る。
【0022】
その下の基材としての使用のための材料は、ポリマー材料、セラミック材料、およびステンレス鋼またはニチノール等の金属材料を含む。
【0023】
いくつかの側面において、本発明のポリマー領域は、1つ以上の治療薬の放出を制御し、この場合、治療薬は、例えば、ポリマー領域の下および/またはその中に配置され得る。そのような「ポリマー放出領域」は、キャリア領域およびバリア領域を含む。「キャリア領域」とは、治療薬をさらに含み、そこから治療薬が放出されるポリマー放出領域を意味する。例えば、いくつかの実施形態において、キャリア領域は、医療デバイス全体を構成する(例えば、ステント本体の形態で提供される)。他の実施形態において、キャリア領域は、デバイスの一部のみに対応する(例えば、ステント本体等の医療デバイス基材を覆う被覆)。「バリア領域」とは、治療薬の源と、意図される放出部位との間に配置され、治療薬が放出される速度を制御する領域を意味する。例えば、いくつかの実施形態において、医療デバイスは、治療薬の源を囲むバリア領域から成る。他の実施形態において、バリア領域は、治療薬の源の上に配置され、一方この源は医療デバイス基材のすべてまたは一部の上に配置される。
【0024】
ポリマー放出領域を構成する1つまたは複数のポリマーの属性に加えて、治療薬放出プロファイルは、デバイス内のポリマー放出領域のサイズ、数および/または位置等の他の要因により影響される。例えば、本発明によるポリマーキャリアおよびバリア層の放出プロファイルは、その層の厚さおよび/または表面積を変えることにより変更することができる。さらに、複数のポリマー領域を使用して放出プロファイルを変更することができる。例えば、同一または異なる含量(例えば、異なるポリマーおよび/または治療薬含量)を有する複数のキャリア層またはバリア層を、互いの上に重ね合わせたり(したがって、いくつかの実施形態において、キャリア層はバリア層として機能し得る)、互いに対して側方に位置させたりすることができる。
【0025】
特定の例として、(例えば、レーザにより、または機械的に切断された管、1つ以上の編組の、織布の、または編まれたフィラメント等を含み得る)ステント等の管状デバイスでは、ポリマー放出層は、管腔側表面上、反管腔側表面上、管腔側および反管腔側表面の間の側方表面(端部を含む)に設けたり、デバイスの管腔側または反管腔側の長さに沿ってパターニングしたりすることができる。さらに、放出層は、同一または異なる治療薬の放出を制御することができる。したがって、例えば、医療デバイス上の異なる場所から異なる治療薬を放出することが可能である。例えば、その内側の内腔表面に第1の生物活性薬(例えば、抗血栓薬)を含有するか、もしくはその上に配置される第1の放出層を有し、その外側の反内腔表面に(同様に所望に応じて、端部上に)第1の生物活性薬とは異なる第2の生物活性薬(例えば、抗増殖薬)を含有するか、もしくはその上に配置される第2の放出層を有する、管状医療デバイス(例えば、血管ステント)を提供することができる。
【0026】
上記共重合体に加えて、本発明と関連した使用のためのポリマー領域はまた、随意に、補助ポリマーを含有する。補助ポリマーの例は、例えば、多くのもののうち、Richardらに対する米国特許公開第2006/0013867号に列挙されたものから選択され得る。補助ポリマーは、種々の理由で提供され得る。補助ポリマーは、例えば、他の理由のなかでも、該当する場合には、ポリマー領域をより親水性として治療薬の放出プロファイルを調整するために導入することができる。
【0027】
前述のように、本発明の医療デバイスはまた、随意に1つ以上の治療薬を含有する。「治療薬」、「薬剤」、「薬学的活性薬」、「薬学的活性材料」、および他の関連した用語は、本明細書において交換可能に使用することができる。これらの用語は、遺伝子治療薬、非遺伝子治療薬、および細胞を含む。本発明に関連して、広範な種々の疾患および状態の治療(すなわち、疾患もしくは状態の予防、疾患もしくは状態と関連した症状の軽減もしくは排除、または疾患もしくは状態の実質的または完全な排除)のために使用されるものを含む、広範な種々の治療薬を使用することができる。
【0028】
本発明に関連した使用のための例示的非遺伝子治療薬は、(a)ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、クロピドグレル、およびPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)等の抗血栓薬;(b)デキサメサゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、およびメサラミン等の抗炎症薬;(c)パクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンジオスタチン、アンジオペプチン、平滑筋細胞増殖をブロックすることができるモノクローナル抗体、およびチミジンキナーゼ阻害剤等の抗腫瘍薬/抗増殖薬/抗縮瞳薬;(d)リドカイン、ブピバカイン、およびロピバカイン等の麻酔薬;(e)D−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、ダニ抗血小板ペプチド等の抗凝固薬;(f)成長因子、転写活性化因子、および翻訳活性化因子等の血管細胞成長促進物質;(g)成長因子阻害剤、成長因子受容体拮抗薬、転写リプレッサー、複製阻害剤、阻害抗体、成長因子に向けられた抗体、成長因子および細胞毒素からなる二官能性分子、抗体および細胞毒素からなる二官能性分子等の血管細胞成長阻害剤;(h)プロテインキナーゼおよびチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チロホスチン、ゲニステイン、キノキサリン);(i)プロスタサイクリン類似体;(j)コレステロール降下薬;(k)アンジオポイエチン;(l)トリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシド、およびニトロフラントイン等の抗菌薬;(m)細胞毒性薬、細胞増殖抑制薬および細胞増殖影響因子;(n)血管拡張薬;(o)内因性血管作用機構に干渉する薬剤、(p)モノクローナル抗体等の白血球動員阻害剤;(q)サイトカイン;(r)ホルモン;(s)ゲルダナマイシンを含む、HSP90タンパク質の阻害剤(すなわち、分子シャペロンまたはハウスキーピングタンパク質であり、細胞の成長および生存に関与する他のクライアントタンパク質/信号伝達 タンパク質の安定性および機能に必要とされる、熱ショックタンパク質)、(t)α受容体拮抗薬(ドキサゾシン、タムスロシン等)およびβ受容体作用薬(ドブタミン、サルメテロール等)、β受容体拮抗薬(アテノロール、メタプロロール、ブトキサミン等)、鎮痙薬(塩化オキシブチニン、フラボキサート、トルテロジン、硫酸ヒヨスチアミン、ジクロミン等)、(u)bARKct阻害剤、(v)ホスホランバン阻害剤、(w)Serca 2遺伝子/タンパク質、(x)アミノキゾリン、例えば、レシキモドおよびイミキモド等のイミダゾキノリンを含む免疫反応調整因子、(y)ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI、All、AIII、AIV、AV等)を含む。
【0029】
非遺伝子治療薬の具体例は、パクリタキセル(その粒子形態、例えば、アルブミン結合パクリタキセルナノ粒子、例えば、ABRAXANE等のタンパク質結合パクリタキセル粒子を含む)等のタキサン、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス、Epo D、デキサメサゾン、エストラジオール、ハロフギノン、シロスタゾール、ゲルダナマイシン、ABT−578(Abbott Laboratories)、トラピジル、リプロスチン、Actinomcin D、Resten−NG、Ap−17、アブシキシマブ、クロピドグレル、リドグレル、βブロッカー、bARKct阻害剤、ホスホランバン阻害剤、Serca 2遺伝子/タンパク質、イミキモド、ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI−AV)、成長因子(例えば、VEGF−2)、および、とりわけ上記物質の誘導体を含む。
【0030】
本発明に関連した使用のための例示的な遺伝子治療薬は、アンチセンスDNAおよびRNA、ならびに、種々のタンパク質のためのDNAコード(およびタンパク質自体):(a)アンチセンスRNA、(b)欠陥のある、または不完全な内因性分子と置き換わるtRNAまたはrRNA、(c)酸性および塩基性線維芽細胞成長因子、血管内皮成長因子、内皮マイトジェン成長因子(endothelial mitogenic growth factor)、上皮成長因子、トランスホーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮成長因子、血小板由来成長因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞成長因子、およびインスリン様成長因子等の成長因子を含む、血管新生因子および他の因子、(d)CD阻害剤を含む細胞周期阻害剤、ならびに(e)チミジンキナーゼ(「TK」)および細胞増殖への干渉に有用な他の物質を含む。また、興味深いのは、BMP2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6(Vgr−1)、BMP−7(OP−1)、BMP−8、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13、BMP−14、BMP−15、およびBMP−16を含む骨形態形成タンパク質(「BMP」)のファミリーのDNAコード化である。現在好ましいBMPは、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6およびBMP−7のいずれかである。これらの二量体タンパク質は、単独で、または他の分子とともに、ホモ二量体、ヘテロ二量体、またはそれらの組み合わせとして提供することができる。代替として、または加えて、BMPの上流または下流効果を誘引し得る分子を提供することができる。そのような分子は、「ヘッジホッグ」タンパク質、またはそれらをコード化するDNAのいずれかを含む。
【0031】
遺伝子治療薬送達のためのベクターは、アデノウイルス、中身のないアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、αウイルス(Semliki Forest、Sindbis等)、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、複製可能ウイルス(例えば、ONYX−015)、およびハイブリッドベクター等のウイルスベクター;ならびに、人工染色体およびミニ染色体、プラスミドDNAベクター(例えば、pCOR)、陽イオン性ポリマー(例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン(PEI))、グラフト共重合体(例えば、ポリエーテル−PEIおよびポリエチレンオキシド−PEI)、中性ポリマーPVP、SP1017(SUPRATEK)、陽イオン性脂質、リポソーム、リポプレックス(lipoplex)、ナノ粒子、またはマイクロ粒子(タンパク質導入ドメイン(PTD)等の標的配列を有するおよび有さない)等の非ウイルスベクターを含む。
【0032】
本発明に関連した使用のための細胞は、全骨髄、骨髄由来単核球、前駆細胞(例えば、内皮前駆細胞)、幹細胞(例えば、間充織幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞)、多能性幹細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、衛星細胞、周皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞もしくはマクロファージを含む、ヒト起源細胞(自己細胞または同種異系細胞)、または、対象となるタンパク質を送達するために所望に応じて遺伝子操作されていてもよい、動物、細菌、もしくは真菌起源(異種)の細胞を含む。
【0033】
必ずしも上記のものを除くわけではなく、多数の治療薬が、例えば、再狭窄を標的とする薬等、血管治療計画の候補として特定されている。そのような薬は、本発明の実践に有用であり、(a)ジルチアゼムおよびクレンチアゼム等のベンゾチアゼピン、ニフェジピン、アムロジピン、およびニカルジピン等のジヒドロピリジン、ならびにベラパミル等のフェニルアルキルアミンを含む、Ca−チャネルブロッカー、(b)ケタンセリンおよびナフチドロフリル等の5−HT拮抗薬およびフルオキセチン等の5−HT吸収阻害剤を含む、セロトニン経路調整剤、(c)シロスタゾールおよびジピリダモール等のホスホジエステラーゼ阻害剤、ホルスコリン等のアデニル酸/グアニル酸シクラーゼ刺激物質、さらにアデノシン類似体を含む、環状ヌクレオチド経路物質、(d)プラゾシンおよびブナゾシン等のα拮抗薬、プロプラノロール等のβ拮抗薬、ならびにラベタロールおよびカルベジロール等のα/β−拮抗薬を含む、カテコールアミン調整物質、(e)エンドセリン受容体拮抗薬、(f)ニトログリセリン、二硝酸イソソルビドおよび亜硝酸アミル等の有機硝酸塩/亜硝酸塩、ニトロプルシドナトリウム等の無機ニトロソ化合物、モルシドミンおよびリンシドミン等のシドノンイミン、ジアゼニウムジオレートおよびアルカンジアミンのNO付加体等のノノエート、低分子量化合物(例えば、カプトプリル、グルタチオンおよびN−アセチルペニシラミンのS−ニトロソ誘導体)および高分子量化合物 (例えば、タンパク質、ペプチド、オリゴ糖、多糖類、合成ポリマー/オリゴマーおよび天然ポリマー/オリゴマーのS−ニトロソ誘導体)を含むS−ニトロソ化合物、さらにC−ニトロソ化合物、O−ニトロソ化合物、N−ニトロソ化合物、およびL−アルギニンを含む、酸化窒素供与体/放出分子、(g)シラザプリル、ホシノプリルおよびエナラプリル等のACE阻害剤、(h)サララシンおよびロサルタン等のATII−受容体拮抗薬、(i)アルブミンおよびポリエチレンオキシド等の血小板付着阻害剤、j)シロスタゾール、アスピリンおよびチエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)、ならびにアブシキシマブ、エプチフィバチド、およびチロフィバン等のGPIIb/IIIa阻害剤を含む、血小板凝集阻害剤、(k)ヘパリン、低分子量ヘパリン、デキストランサルフェートおよびβシクロデキストリンテトラデカサルフェート等のヘパリノイド、ヒルジン、ヒルログ、PPACK(D−phe−L−プロピル−L−arg−クロロメチルケトン)およびアルガトロバン等のトロンビン阻害剤、アンチスタチンおよびTAP(ダニ抗凝固ペプチド)等のFXa阻害剤、ワルファリン等のビタミンK阻害剤、さらに活性化タンパク質Cを含む、凝固経路調整物質、(l)アスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシンおよびスルフィンピラゾン等のシクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、(m)デキサメサゾン、プレドニゾロン、メタプレドニゾロンおよびヒドロコルチゾン等の天然および合成コルチコステロイド、(n)ノルジヒドログアイアレチン酸およびコーヒー酸等のリポキシゲナーゼ経路阻害剤、(o)ロイコトリエン受容体拮抗薬、(p)E−およびP−セレクチンの拮抗薬(q)VCAM−1およびICAM−1相互作用阻害剤、(r)PGElおよびPGI2等のプロスタグランジン、ならびにシプロステン、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロストおよびベラプロスト等のプロスタサイクリン類似体を含む、プロスタグランジンおよびその類似体、(s)ビスホスホネート等のマクロファージ活性化防止薬、(t)ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチンおよびセリバスタチン等のHMG−CoA還元酵素阻害剤、(u)魚油およびオメガ−3−脂肪酸、(v)プロブコール、ビタミンCおよびE、エブセレン、トランス−レチノイン酸ならびにSOD模倣体等のフリーラジカルスカベンジャー/抗酸化物質、(w)FGF抗体およびキメラ融合タンパク質等のFGF経路物質、トラピジル等のPDGF受容体拮抗薬、アンジオペプチンおよびオクレオチド等のソマトスタチン類似体を含むIGF経路物質、ポリアニオン系物質(ヘパリン、フコイジン)、デコリンおよびTGF−β抗体等のTGF−β経路物質、EGF抗体、受容体拮抗薬およびキメラ融合タンパク質等のEGF経路物質、サリドマイドおよびその類似体等のTNF−α経路物質、スロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベンおよびリドグレル等のトロンボキサンA2(TXA2)経路調整物質、さらに、チロホスチン、ゲニステインおよびキノキサリン誘導体等のタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤を含む、種々の成長因子に影響する物質、(x)マリマスタット(marimastat)、イロマスタット(ilomastat)およびメタスタット(metastat)等のMMP経路阻害剤、(y)サイトカラシンB等の細胞運動阻害剤、(z)プリン類似体(例えば、塩素化プリンヌクレオシド類似体である、6−メルカプトプリンまたはクラドリビン)、ピリミジン類似体(例えば、シタラビンおよび5−フルオロウラシル)、およびメトトレキサート等の代謝拮抗物質、窒素マスタード、アルキルスルホネート、エチレンイミン、抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソウレア、シスプラチン、微小管動態に影響する物質(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、Epo D、パクリタキセルおよびエポチロン)、カスパーゼ活性化物質、プロテアソーム阻害剤、血管形成阻害剤(例えば、エンドスタチン、アンジオスタチン、およびスクアラミン)、ラパマイシン(シロリムス)およびその類似体(例えば、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス等)、セリバスタチン、フラボピリドールおよびスラミンを含む、抗増殖/抗腫瘍薬、(aa)ハロフギノンまたは他のキナゾリノン誘導体およびトラニラスト等の基質蓄積/組織化経路阻害剤、(bb)VEGFおよびRGDペプチド等の内皮化促進物質、ならびに(cc)ペントキシフィリン等の血液流動学調整物質、のうちの1つ以上を含む。
【0034】
本発明の実践に有用なさらなる追加の治療薬はまた、参照することによってその全体の開示が本明細書に組み入れられる、NeoRx Corporationに譲渡される米国特許第5,733,925号に記載されている。
【0035】
治療薬が含められる場合、本発明の医療デバイスに関連して広範な治療薬投入量を使用することができ、治療上有効な量は、当業者に容易に決定され、究極的には、他の要因のなかでも、例えば、処置される状態、対象の年齢、性別および状態、治療薬の性質、ポリマー領域(複数を含む)の性質、医療デバイスの性質に依存する。
【0036】
本発明によるポリマー領域の形成には、多数の技術が利用可能である。
【0037】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明のポリマー領域を形成するために熱可塑性加工技術が使用される。これらの技術を使用して、ポリマー領域は、第1に、他の任意選択の添加剤のなかでも、所望に応じて、ポリマー領域を形成するポリマー(複数を含む)を含有する溶融物を提供し、続いて溶融物を冷却することにより形成され得る。熱可塑性物質技術の例は、圧縮成形、射出成形、吹き込み成形、紡糸、真空成形およびカレンダリング、ならびに、種々の長さのシート、繊維、ロッド、チューブ、および他の横断面形状への押出しを含む。これらの技術または他の熱可塑性加工技術を使用して、種々のポリマー領域を形成することができる。
【0038】
他の実施形態において、本発明のポリマー領域を形成するために、溶媒に基づく技術が使用される。これらの技術を使用して、ポリマー領域は、第1に、他の任意選択の添加剤のなかでも、所望に応じて、ポリマー領域を形成するポリマー(複数を含む)を含有する溶液を提供し、続いて溶媒を除去することにより形成され得る。究極的には、選択される溶媒は、概して、ポリマー領域を構成するポリマー(複数を含む)および任意選択の添加剤を溶解する能力、ならびに、乾燥速度、表面張力等の他の要因に基づいて選択される1つ以上の溶媒種を含有する。溶媒に基づく技術の例は、なかでも、溶媒キャスティング技術、スピン被覆技術、ウェブ被覆技術、溶媒スプレー技術、浸漬技術、エアサスペンション(air suspension)を含む機械的懸濁を介した被覆を含む技術、インクジェット技術、静電技術、およびこれらのプロセスの組み合わせを含む。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において、溶液を含むポリマー(溶媒に基づく加工が使用される場合)またはポリマー溶融物(熱可塑性加工が使用される場合)が、基材に塗布されてポリマー領域を形成する。例えば、基材は、ポリマー領域が塗布される、埋め込み型または挿入型医療デバイスのすべてまたは一部に対応し得る。基材はまた、例えば、固化後にポリマー領域が取り外される型等のテンプレートであってもよい。他の実施形態、例えば、繊維紡糸、押出しおよび共押出し技術においては、1つ以上のポリマー領域が、基材の補助なしに形成される。
【0040】
1つ以上の治療薬(および/または任意の他の任意選択の添加剤)をポリマー領域内に提供することが望ましい場合は、これらの薬が加工条件下で安定である限り、それらをポリマー含有溶液またはポリマー溶融物中に提供してポリマー(複数を含む)とともに共押出しすることができる。
【0041】
代替として、治療薬および/または他の任意選択の添加剤は、いくつかの実施形態において、ポリマー領域の形成後に導入されてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、治療薬および/または他の任意選択の薬を溶媒中に溶解または分散し、得られた溶液を、(例えば、浸漬、スプレー等の上述の塗布技術のうちの1つ以上を使用して)以前に形成されたポリマー領域と接触させる。
【0042】
前述のように、バリア領域は、本発明のいくつかの実施形態において、治療薬含有領域上に設けられる。これらの実施形態において、ポリマーバリア領域は、例えば、上述の溶媒に基づく技術または熱可塑性物質技術のうちの1つを使用して、治療薬含有領域上に形成することができる。代替として、以前に形成されたポリマー領域を、治療薬含有領域上に接着することができる。
【0043】
実施例1.SIBS共重合体組成物の調製
既知の技術を使用して、ポリ(スチレン−b−イソブチレン−b−スチレン)トリブロック共重合体(SIBS)を調製した。例えば、Pinchukらに対する、M.Gyorら、J.of Macromolecular Sci.,Pure and Applied Chem.,1992,A29(8),639および米国特許出願第2002/0107330号を参照されたい。
【0044】
数平均分子量、ポリイソブチレンの多分散性指数(ポリスチレンブロック合成前)、および全体的なトリブロック共重合体の多分散性指数を各々測定し、表1に示す。
【0045】
【表1】

実施例2.溶媒に基づく被覆
上記SIBS試料の各々に対し、溶液を形成した。具体的には、(1)94%トルエン、(2)5%テトラヒドロフラン、および(3)1% SIBSを含有する溶液を作製した。対象となる溶液を、次いで、注射器ポンプに入れてスプレーノズルに供給した。ステント、具体的にはExpress(登録商標)SD、SVおよびWHステンレス鋼ステントおよびLiberte(商標)WHステンレス鋼ステント(Boston Scientific Inc.,Natick MA,USA)を、以下のように被覆した。第1に、ステントを保持デバイスに装着し、均一な被覆を確実とするために、スプレーの間、(例えば、45RPMで)回転させた。例えば、6.3mL/hrの流速で加圧されたノズルを、ステントから1.0インチの距離のところに設置し、回転するステントに対し縦方向に0.3〜0.5mm/secの間で前後に動かし、20ミクロンの厚さを有する被覆を生成してもよい。次いで、ステントを予熱したオーブン内に配置することによって乾燥させた(例えば、65℃で30分間、その後70℃で3時間)。
【0046】
実施例3.ステント試験
実施例2で調製された、被覆されたステントを、想定される拡張直径まで名目上拡張し、また、好適な直径のバルーンを用いて過剰に拡張した。
【0047】
SEM(走査電子顕微鏡法)を利用して、トポロジーおよび被覆の完全性の不整合を評価した。具体的には、各試料をアルミニウムスタブに載せ、軽く金で被覆した(約200オングストロームの被覆厚)。75倍から2000倍の倍率を使用して画像を得た。
【0048】
FESEM(電界放射型走査電子顕微鏡法)を利用して、最初のSEM分析(測定深さなし)中に特定された関心領域をさらに評価し、JEOL 6300F、Oxford INCA−300 EDS(エネルギー分散型分光計)、5kV加速電圧の機器を利用した。各試料をアルミニウムスタブに載せ、白金で被覆した(約200オングストロームの被覆厚)。各ステントに対し代表的な比較像を生成した。50,000倍までの倍率、および種々の画像傾斜角を利用して、約700マイクロメートルから20マイクロメートルの範囲のサイズの画像を得た。
【0049】
名目上のステント拡張後のSEM調査は、比較的スチレン含量が低い(すなわち、17.3、24.1、31.6および39.1mol%)SIBS試料の被覆が、事実上欠陥を含まず、微小な変型の形跡も亀裂の形跡も見られないことを示していた。比較的高いスチレン含量(50.8mol%)の被覆されたステント試料は、試験されたすべてのステント試料の比較的高い歪み領域の多くで、微小な変形(ひび割れ)を有していた。
【0050】
過剰の拡張後、SEMおよびFESEMを利用した調査では、17.3、24.1、および31.6mol%スチレンSIBS試料が事実上欠陥を含まず、被覆の微小な変形の形跡も亀裂の形跡も見られないが、一方39.1および50.8mol%スチレンSIBS試料は、評価されたすべてのステント試料の比較的高い歪み領域の多くで、微小な変形(ひび割れ)を呈していることが示された。代表的な微小形成の、EDSを介した微小試料セットの分析は、39.1mol%スチレンSIBS試料において、微小な変形が金属ステント基材を露出しないことを示した。さらに、過剰に拡張された、50.8mol%スチレンSIBSで被覆されたステントのほとんどは、実際の被覆の亀裂または裂けの視覚的形跡を呈し、金属ステント基材が露出していた(FESEMを利用したEDSにより確認)。50.8mol%スチレンSIBS被覆において観察された微小な変形は、39.1mol%SIBS被覆において観察されたものよりも、サイズが大きく、発生頻度も高かった(ほぼすべてのストラットのヒンジ領域に観察された)。
【0051】
また、被覆されたステントを確立された速度で進むステンレス鋼プローブが、決められた期間、被覆されたステント表面と接触し、次いで、モータ駆動デバイスを利用して決められた速度で引き抜かれる技術を用いて、試料の各々に対し表面タックを評価した。被覆されたステントプローブ表面からプローブを取り除くために必要なピーク力は、ステントの表面タックを示すものであった。結果を図1に示す。Atofina Pebax(登録商標)7233グレードポリエーテル−ブロック−ポリアミドを使用して、同様の試験を行った。結果を図2に示す。
【0052】
収集したデータの分析は、SIBSのタック特性は、SIBSのポリスチレン含量に反比例することを示し、より低いタックが送達性能の改善をもたらす用途には、より少ないタックがより望ましい。特に、17.3mol%スチレンSIBSから31.6mol%スチレンSIBSとすると、ほぼ100%のタックの低下が観察された。31.6、39.1、および50.8mol%スチレンSIBS組成物のタック特性は、非常に低いことが観察された。
【0053】
(Atofina Pebax(登録商標)7233グレードポリエーテル−ブロック−ポリアミド被覆マンドレルに対する)相対静摩擦係数および動摩擦係数の、試料間の差を決定するために、(Liberte(商標)BEステント上に被覆された)種々のSIBS組成物の表面 摩擦特性を、卓上型機械的試験システム(MTS、Bionix 100)を利用して評価した。結果を図3に示す。タックと同様に、静摩擦および動摩擦分析は、差はそれほど劇的ではないものの、摩擦特性が共重合体のポリスチレン含量に反比例することを示した。
【0054】
また、模擬的な湾曲動脈で展開された被覆されたLiberte(商標)ステントから、Pebax(登録商標)バルーンカテーテルを引き抜くために必要な平均ピーク力を測定し、図4に示した。SIBS被覆中17mol%から32mol%スチレンとすると、引き抜き力の低下が観察された。
【0055】
コンピュータが統合されたEnduraTec Pulsatile Fatigue Tester(4チューブシステム)を利用して、疲労特性を評価した。試験器は、被覆されたステント(すなわちExpress(登録商標)SD)が中で展開されたラテックスチューブにおいて膨張パルスを形成する。1000万サイクル後、光学的に80倍の倍率、およびSEMを利用して50倍から5,000倍の倍率の両方で、疲労破壊検査を行った。17.3〜39.1mol%スチレンSIBS組成物の分析は、疲労関連の被覆破壊の兆候は全く示さなかった。50.8mol%スチレンSIBS組成物は、ひび割れによる変形の形跡を示したが、ステント金属基材は露出していなかった。
【0056】
ステントストラット間のウェビングの発生は、スチレン含量と反比例しているようであった。ステントの過剰の拡張後、50.8、39.1、および31.6mol%スチレンSIBS組成物で被覆されたステントに対する肉眼およびSEMによる検査では、被覆のウェビングは観察されなかった。しかしながら、24.1および17.3mol%スチレンSIBSで被覆されたステントではウェビングが認められ、また17.3mol%スチレンSIBSで被覆されたステントでは24.1mol%スチレンSIBSで被覆されたものよりもウェビングが強く観察された。
【0057】
本明細書において種々の実施形態を具体的に例示し説明したが、本発明の修正および変形が上記教示に包含され、本発明の精神および意図される範囲から逸脱することなく、添付の請求項の範囲内であることを理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー領域を備える埋め込み型または挿入型医療デバイスであって、該ポリマー領域は、スチレンモノマーおよびイソブチレンモノマーを含む共重合体を含み、該共重合体のスチレンモノマー含量は、25mol%から50mol%の範囲である、医療デバイス。
【請求項2】
前記共重合体は、ポリスチレンブロックおよびポリイソブチレンブロックを含むブロック共重合体である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記共重合体のスチレンモノマー含量は、25mol%から40mol%の範囲である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記共重合体のスチレンモノマー含量は、26mol%から30mol%の範囲である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記共重合体のスチレンモノマー含量は、30mol%から35mol%の範囲である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記共重合体のスチレンモノマー含量は、35mol%から40mol%の範囲である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記共重合体のスチレンモノマー含量は、40mol%から45mol%の範囲である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記共重合体のスチレンモノマー含量は、45mol%から50mol%の範囲である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記ブロック共重合体は、分岐共重合体である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記ブロック共重合体は、線状共重合体である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記ブロック共重合体は、ポリイソブチレン中央ブロックおよび2つのポリスチレン末端ブロックを含むトリブロック共重合体である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記ポリマー領域は、少なくとも75重量%の前記ブロック共重合体を含む、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記医療デバイスは、治療薬をさらに備える、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項14】
前記治療薬は、前記ポリマー領域内に配置される、請求項13に記載の医療デバイス。
【請求項15】
前記治療薬は、抗血栓薬、抗増殖剤、抗炎症薬、抗遊走薬、細胞外基質産生および組織化に影響する薬剤、抗腫瘍薬、抗有糸分裂薬(anti−mitotic agent)、麻酔薬、抗凝固薬、血管細胞成長促進物質、血管細胞成長阻害剤、コレステロール降下薬、血管拡張薬、内因性血管作用機構に干渉する薬剤、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項13に記載の医療デバイス。
【請求項16】
前記ポリマー領域は、前記ブロック共重合体に加えて、補助ポリマーをさらに含む、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記医療デバイスは、ガイドワイヤ、バルーン、大静脈フィルタ、カテーテル、ステント、ステントグラフト、血管グラフト、脳動脈瘤充填コイル、心筋プラグ、心臓弁、血管弁、ペースメーカーリード、および蝸牛インプラントから選択される、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項18】
前記ポリマー領域は、医療デバイス基材上に配置される被覆である、請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項19】
前記医療デバイス基材は、金属ステントである、請求項18に記載の医療デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−518944(P2010−518944A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550609(P2009−550609)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/002504
【国際公開番号】WO2008/106121
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】