説明

ステアリングダストシール

【課題】外部の泥水がリップ摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないようにリップ摺動部および潤滑材を保護する機能を備えるステアリングダストシールを提供する。
【解決手段】シール取付部の内周側にベロー部が設けられ、ベロー部の内周側にダンパー部が設けられ、ダンパー部の軸方向端部にステアリング軸の周面に摺動自在に密接するシールリップが設けられ、使用時、軸とシールリップとの摺動部に潤滑材が用いられるステアリングダストシールにおいて、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないようにシールリップと別体の保護カバーおよび/またはシールリップと一体の保護リップが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両のステアリング装置において、ステアリング軸の回りで主にダストをシールするために用いられるステアリングダストシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に示されるステアリングダストシールを装着するステアリング軸は、従来、メッキ軸(表面をメッキした軸)が主流であったところ、昨今VAのために塗装軸(表面を塗装した軸)への変更が行なわれている。塗装軸はメッキ軸と比較して低コストである反面、塗装の種類によってはシールの鳴きや塗装の剥がれが発生することが懸念される。このシールの鳴きや塗装の剥がれについてはシールのリップ摺動部における潤滑状態が大きく影響し、特に塗装の剥がれはリップ摺動部の潤滑不足によるドライ摩耗により大きく促進され、軸錆やこれに伴う軸の強度低下に繋がることになる。リップ摺動部の潤滑不足は、軸の大きな偏心やリップ近傍の厳しい泥水環境による潤滑材(グリース)掻き取りが原因で引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−242880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上の点に鑑みて、外部の泥水がリップ摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないようにリップ摺動部および潤滑材を保護する機能を備えるステアリングダストシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるステアリングダストシールは、シール取付部の内周側にベロー部が設けられ、前記ベロー部の内周側にダンパー部が設けられ、前記ダンパー部の軸方向一方の端部にステアリング軸の周面に摺動自在に密接するシールリップが設けられ、使用時、前記軸とシールリップとの摺動部に潤滑材が用いられるステアリングダストシールにおいて、外部の泥水が前記摺動部に達して前記潤滑材を掻き取ることがないように前記シールリップと別体の保護カバーおよび/または前記シールリップと一体の保護リップを有することを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の請求項2によるステアリングダストシールは、上記した請求項1記載のステアリングダストシールにおいて、前記保護カバーは、前記ダンパー部に装着されて前記シールリップの外周を覆っていることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の請求項3によるステアリングダストシールは、上記した請求項1記載のステアリングダストシールにおいて、前記保護リップは、前記シールリップの先端部に一体成形されていることを特徴とするものである。
【0008】
更にまた、本発明の請求項4によるステアリングダストシールは、上記した請求項1、2または3記載のステアリングダストシールにおいて、前記保護カバーおよび/または保護リップは、その先端部が前記軸との間に微小な径方向間隙を設定する構造、またはその先端部が前記軸に接触する構造を有することを特徴とするものである。
【0009】
上記構成を備える本発明のステアリングダストシールにおいては、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないように保護カバーおよび/または保護リップが設けられているために、泥水がこの保護カバーおよび/または保護リップに遮られることにより摺動部に達しにくく、よって泥水による潤滑材の掻き取りが抑制される。
【0010】
保護カバーはシールリップと別体であって、ダンパー部に装着され、シールリップの外周を覆うものである。保護リップはシールリップと一体であって、シールリップの先端部に一体成形されている。保護カバーおよび/または保護リップの先端部は、摺動トルクの増大を抑制するため、軸との間に微小な径方向間隙を設定するものとするが、泥水浸入の抑制や潤滑材の保持を優先する場合には、先端部を軸に接触させても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0012】
すなわち、本発明のステアリングダストシールにおいては、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないように保護カバーおよび/または保護リップが設けられているため、泥水が保護カバーおよび/または保護リップに遮られることにより摺動部に達しにくく、よって泥水による潤滑材の掻き取りが抑制される。したがってリップ摺動部が潤滑不足に陥るのを抑制し、ステアリング軸が塗装軸である場合に、ドライ摩耗による塗装の剥がれが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施例に係るステアリングダストシールの要部断面図
【図2】本発明の第二実施例に係るステアリングダストシールの要部断面図
【図3】本発明の第三実施例に係るステアリングダストシールの要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)上記目的を達成すべくシール側でのリップ潤滑不足改善のため、リップを厳しい泥水環境から保護するカバーを設け、塗装の剥がれを改善する。大気側に付けることで、厳しい泥水環境からシールを保護する。
(2)リップを泥水環境から保護するカバーおよび/またはリップを設定することで、リップの偏心追随性を損なうことなく、厳しい泥水環境でも潤滑材(グリース)を保持することができるので、潤滑状態が良好となり、塗装軸の塗装剥がれを低減することができる。
(3)カバー単独でも、保護リップ単独でも、また、カバーと保護リップ併用でも可。
(4)カバー、保護リップは共に接触・非接触のいずれでも良い。但し、軸接触ありの方がグリース保持性が良い。
【実施例】
【0015】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0016】
第一実施例・・・
図1は、本発明の第一実施例に係るステアリングダストシールの要部断面を示しており、当該シールは、自動車等車両のステアリング装置において、軸の回りで主にダストをシールするために用いられる。図の上側が大気側、下側が室内側である。
【0017】
当該シールにおいて、符号1は、ハウジング51の軸孔内周に固定(嵌合)される円筒状のシール取付部(外周取付部)を示しており、この取付部1におけるゴム部2の内周側に環状のベロー部(ベロー状の可撓部)3が一体成形され、ベロー部3の内周側に環状のダンパー部(軸偏心追随部)4が一体成形され、ダンパー部4の軸方向一方(大気側)の端部に、ステアリング軸52の周面に摺動自在に密接する環状のシールリップ5が一体成形されている。取付部1の外周部には金属製の補強環6が埋設されている。ダンパー部4の外周部には金属製の補強環7が埋設され、ダンパー部4の内周部には低摩擦樹脂よりなる摺動環8が組み付けられている。
【0018】
また、当該シールは、上記取付部1にベロー部3を介してバンパー部4およびシールリップ5を一体成形した第一成形品のほかに、この第一成形品の取付部1の内周に固定される第二取付部21に第二ベロー部23を介して第二バンパー部24および第二シールリップ25を一体成形した第二成形品を有しており、この第二成形品が第一成形品の軸方向他方(室内側)の側に組み付けられている。
【0019】
上記第一成形品において、シールリップ5は、リップ本体5aと、リップ本体5aの先端に一体成形された薄肉状の小リップ(いわゆるヒゲリップ)5bとを有している。このリップ本体5aおよび小リップ5bは共に軸52の周面に摺動自在に密接するもので、潤滑性を高めるべく軸52との摺動部に潤滑材(グリース、図示せず)が供給されているので、この潤滑材が大気側から浸入して来る泥水(図示せず)によって掻き取られる虞がある。そこで当該シールでは、以下の対策がなされている。
【0020】
すなわち、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないようにシールリップ5と別体の保護カバー11が用意され、この保護カバー11がダンパー部4に装着されてシールリップ5の外周を覆っている。
【0021】
保護カバー11は、金属または硬質樹脂などの剛材によって筒状に成形され、ダンパー部4の外周面に嵌合される円筒部11aの軸方向一方(大気側)の端部に径寸法が徐々に窄まる形状の円錐面部11bが一体成形されている。保護カバー11の先端部11cは小径であるが軸52の周面に接触しておらず、軸52の周面との間に微小な径方向間隙cが設定されている。尚、このカバー11はシールリップ5に対しても非接触である。
【0022】
上記構成のシールにおいては、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないように保護カバー11が装着されているために、泥水が保護カバー11に遮られることにより摺動部に達しにくく、よって泥水による潤滑材の掻き取りが抑制される。したがって摺動部が潤滑不足に陥るのを抑制し、軸52が塗装軸である場合、ドライ摩耗による塗装の剥がれが発生するのを抑制することができる。保護カバー11はダンパー部4に装着されるため、軸52が偏心しても軸52と接触することはない。
【0023】
第二実施例・・・
図2に示す第二実施例では、上記第一実施例と同様な構成の保護カバー11に加えて、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないようにシールリップ5と一体の保護リップ12が設けられている。
【0024】
保護リップ12は、シールリップ5の先端に一体成形されている。また上記したようにシールリップ5は、リップ本体5aと、リップ本体5aの先端に一体成形された薄肉状の小リップ5bとを有しているので、保護リップ12はリップ本体5aの先端において薄肉状の小リップ5bとともに二又状に一体成形されている(保護リップ12が外周側、小リップ5bが内周側)。
【0025】
保護リップ12は軸方向一方(大気側)へ向けて長く延び、その先端部12aが保護カバー11の先端部11cの内周まで達している。すなわち保護リップ12の先端部12aは保護カバー11の先端部11cの内周側に配置されている。また保護リップ12の先端部12aは小径であるが軸52の周面に接触しておらず、軸52の周面との間に微小な径方向間隙cが設定されている。保護リップ12は保護カバー11に対しても非接触であるが、保護リップ12の先端部12aが保護カバー11の先端部11c内周面に接触しても良い。
【0026】
上記構成のシールにおいては、外部の泥水が摺動部に達して潤滑材を掻き取ることがないように保護カバー11とともに保護リップ12が併設されているために、泥水が保護カバー11および保護リップ12に遮られることにより摺動部に一層達しにくく、泥水による潤滑材の掻き取りが一層抑制される。したがって摺動部が潤滑不足に陥るのを抑制し、軸52が塗装軸である場合、ドライ摩耗による塗装の剥がれが発生するのを抑制することができる。保護リップ12には潤滑材を保持する機能もある。尚、保護リップ12は単独で(保護カバー11無しで)、設けることもできる。
【0027】
第三実施例・・・
上記第一および第二実施例において、保護カバー11の先端部11cおよび保護リップ12の先端部12aは共に軸52の周面に接触しない構造とされているので、これらカバー11やリップ12が設けられても摺動トルクが増大することはない。但し、泥水浸入の抑制(対泥水性の向上)や潤滑材の保持を優先する場合には、これらの先端部11c,12aを軸52の周面に接触させる構造としても良い。この観点から図3に示す第三実施例では、保護リップ12の先端部12aが軸52の周面に接触する構造とされている。保護リップ12は小リップ5bの外周面部に一体成形され、斜め内方へ向けて長く延び、これにより先端部12aが軸52の周面に接触する構造とされている。保護カバー11の先端部11cおよび保護リップ12の先端部12aが共に軸52に接触する場合には、保護リップ12の先端部12aが軸52に接触し、その軸方向一方(大気側)の側で保護カバー11の先端部11cが軸52に接触する。
【符号の説明】
【0028】
1 シール取付部
2 ゴム部
3 ベロー部
4 ダンパー部
5 シールリップ
5a リップ本体
5b 小リップ
6,7 補強環
8 摺動環
11 保護カバー
11a 円筒部
11b 円錐面部
11c,12a 先端部
12 保護リップ
21 第二取付部
23 第二ベロー部
24 第二バンパー部
25 第二シールリップ
51 ハウジング
52 ステアリング軸
,c 径方向間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール取付部の内周側にベロー部が設けられ、前記ベロー部の内周側にダンパー部が設けられ、前記ダンパー部の軸方向一方の端部にステアリング軸の周面に摺動自在に密接するシールリップが設けられ、使用時、前記軸とシールリップとの摺動部に潤滑材が用いられるステアリングダストシールにおいて、
外部の泥水が前記摺動部に達して前記潤滑材を掻き取ることがないように前記シールリップと別体の保護カバーおよび/または前記シールリップと一体の保護リップを有することを特徴とするステアリングダストシール。
【請求項2】
請求項1記載のステアリングダストシールにおいて、
前記保護カバーは、前記ダンパー部に装着されて前記シールリップの外周を覆っていることを特徴とするステアリングダストシール。
【請求項3】
請求項1記載のステアリングダストシールにおいて、
前記保護リップは、前記シールリップの先端部に一体成形されていることを特徴とするステアリングダストシール。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のステアリングダストシールにおいて、
前記保護カバーおよび/または保護リップは、その先端部が前記軸との間に微小な径方向間隙を設定する構造、またはその先端部が前記軸に接触する構造を有することを特徴とするステアリングダストシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−249149(P2010−249149A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95858(P2009−95858)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】