説明

ステアリング中間軸継手

【課題】防錆性に優れたステアリング中間軸継手を提供する。
【解決手段】自動車用操舵装置のステアリング中間軸継手30は、自在継手25,26及びシャフト1,2からなる。そして、インナーシャフト1はアウターシャフト2に嵌入されてセレーション嵌合され、衝撃を受けると所定荷重でインナーシャフト1がアウターシャフト2内にさらに嵌入されて衝撃を吸収するようになっている。インナーシャフト1の表面のうちアウターシャフト2の外部に露出する露出部13には、亜鉛メッキ層が形成され、さらにその上に導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜が被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の操舵装置等に用いられるステアリングのステアリング中間軸継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の操舵装置においては、ステアリングホイールの動きをステアリングギアに伝達するために、図3に示すような機構が用いられている。ステアリングホイール121が固定されたステアリングシャフト120が、ステアリングコラム123内に回転自在に挿通されている。そして、このステアリングコラム123は、固定部材122,124により車体ボディ127に固定されている。ステアリングシャフト120の回転は、自在継手125,126及びシャフト101,102からなるステアリング中間軸継手130を介して、図示しないステアリングギアのシャフト128に伝達される。
【0003】
このような操舵装置においては、車輌の衝突時等に受ける衝撃から運転者を保護するために、衝撃を吸収するコラプス構造が一般的に採用されている。すなわち、ステアリング中間軸継手130のシャフトの全長が衝撃に伴って縮まることにより、衝突による衝撃を操舵装置で吸収するようになっている。
そして、ステアリング中間軸継手のシャフトが縮まる機構としては、該シャフトが互いにセレーション嵌合したアウターシャフトとインナーシャフトとにより構成され、これら両シャフトが軸方向に相対移動する構造が広く用いられている。例えば、図4に示す従来のステアリング中間軸継手130においては、所定荷重以上の衝撃が加わると、インナーシャフト102はアウターシャフト101内を摺動しつつ図4の左方へ移動する。
【0004】
このような操舵装置は、ステアリングホイールの動きをステアリングギアに伝達するために、自動車の車室内とエンジンルームとの間の隔壁を貫通して設置されているが、ステアリング中間軸継手は車室外に配されているため、防錆性が要求される。
【特許文献1】特許第3332374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インナーシャフト102の表面のうちアウターシャフト101の外部に露出している露出部113は、製品輸送時や車輌への取り付け作業時に他の物体(例えば工具)と接触して傷が生じることがあるため、その損傷部から錆が発生するおそれがあった。また、防錆を目的として油脂類を塗布しても、油脂類が空気と接触することにより乾燥したり塵埃で劣化したりするので、長期間にわたってその効果を持続することは困難であった。
【0006】
このような問題を解決するため、クロメート被膜を被覆するクロメート処理が施される場合があるが、クロメート被膜は有害物質である6価クロムを含有するため、今後は使用できなくなる。また、6価クロムは含有せず3価クロムを含有するクロメート被膜を亜鉛及び亜鉛合金メッキ層上に被覆する技術が開示されているが(特許文献1を参照)、前記露出部に傷による変形や錆があると、設定した荷重で衝撃を吸収することができずに、ステアリングホイールの突き上げが生じるおそれがあった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、防錆性に優れたステアリング中間軸継手を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のステアリング中間軸継手は、アウターシャフトと、該アウターシャフトに嵌入されセレーション嵌合するインナーシャフトと、を備え、衝撃を受けると所定荷重で前記インナーシャフトが前記アウターシャフト内にさらに嵌入されて前記衝撃を吸収するようになっているステアリング中間軸継手において、前記インナーシャフトの表面のうち前記アウターシャフトの外部に露出する露出部に、亜鉛メッキ層を形成し、さらにその上に導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜を被覆したことを特徴とする。
【0008】
導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜は、犠牲防食作用を有しているので、インナーシャフトの表面のうちアウターシャフトの外部に露出する露出部に傷が生じても、その防錆作用及び自己修復作用によって防錆性を長期間にわたって維持できる。
なお、亜鉛メッキ層と防錆被膜との間に酸化ジルコニウム層を設ければ、防錆被膜の自己修復作用をより長期間にわたって維持できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のステアリング中間軸継手は防錆性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るステアリング中間軸継手の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には、ステアリングホイールの動きをステアリングギアに伝達する自動車用操舵装置が示されている。ステアリングホイール21が固定されたステアリングシャフト20が、ステアリングコラム23内に回転自在に挿通されている。そして、このステアリングコラム23は、固定部材22,24により車体ボディ27に固定されている。ステアリングシャフト20の回転は、自在継手25,26及びシャフト1,2からなるステアリング中間軸継手30を介して、図示しないステアリングギアのシャフト28に伝達される。
【0011】
このような操舵装置においては、車輌の衝突時等に受ける衝撃から運転者を保護するために、衝撃を吸収するコラプス構造が採用されている。すなわち、ステアリング中間軸継手30のシャフトの全長が衝撃に伴って縮まることにより、衝突による衝撃を操舵装置で吸収するようになっている。
ステアリング中間軸継手30のシャフトが縮まって衝撃を吸収する機構を、図2を参照しながら説明する。該シャフトは、互いにセレーション嵌合したアウターシャフト1とインナーシャフト2とにより構成されており、所定荷重以上の衝撃が加わると、これら両シャフト1,2が軸方向に相対移動するようになっている。図2においては、インナーシャフト2がアウターシャフト1内を摺動しつつ左方へ移動して、シャフトの全長が縮まるので、衝突による衝撃を操舵装置で吸収することができる。
【0012】
このような操舵装置は、ステアリングホイールの動きをステアリングギアに伝達するために、自動車の車室内とエンジンルームとの間の隔壁を貫通して設置されている。ステアリング中間軸継手は車室内外のいずれに設置してもよいが、車室外に設置された場合には防錆性が要求される。
衝撃を受ける前の段階においては、インナーシャフト2の一端部がアウターシャフト1に嵌入していて、衝撃を受けるとインナーシャフト2がアウターシャフト1のさらに奥まで嵌入して、ステアリング中間軸継手30のシャフトの全長が縮まることとなる。そして、衝撃を受ける前の段階においてアウターシャフト1の外部に露出しているインナーシャフト2の露出部13は、製品輸送時や車輌への取り付け作業時に他の物体(例えば工具等)と接触して傷が生じ、その損傷部から錆が発生するおそれがある。
【0013】
本実施形態のステアリング中間軸継手30においては、この露出部13に以下のような防錆処理が施してある。すなわち、まず下層として亜鉛メッキ層を形成し、さらに上層として、導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜を被覆するという処理である。
導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜は、犠牲防食作用を有しているので、インナーシャフト1の表面のうちアウターシャフト2の外部に露出する露出部13に傷が生じても、その防錆作用及び自己修復作用によって防錆性を長期間にわたって維持できる。また、衝撃を受けてインナーシャフト2がアウターシャフト1のさらに奥まで嵌入する際には、防錆被膜の変形抵抗があっても安定した摺動性が得られるので、設定した荷重で安定的にコラプスが生じ、ステアリングホイールの突き上げが生じるおそれがほとんどない。
【0014】
以下に、防錆被膜について詳細に説明する。導電性有機重合体の種類は特に限定されるものではないが、ポリアニリンが好ましい。ポリアニリンは、アニリン又はアニリン誘導体の重合体であり、アニリン又はアニリン誘導体を酸化剤の存在下で酸化重合することによって得ることができる。重合条件は、通常の条件で差し支えない。例えば、−10℃〜40℃の反応温度で30分間〜48時間程度、常圧下で撹拌するという条件である。
【0015】
そして、所望のプロトン酸を添加して酸化重合を行うと、プロトン酸がドープされたポリアニリンが得られる。もしくは、酸化重合により得られたポリアニリンを所望のプロトン酸で処理して、プロトン酸をドープすることもできる。さらに、プロトン酸を添加して酸化重合を行うことによって得られたプロトン酸がドープされたポリアニリンを、アンモニア水等の塩基で処理することにより脱ドープし、再び所望のプロトン酸で処理してプロトン酸をドープすることもできる。
【0016】
このようにして得られたプロトン酸がドープされたポリアニリンは、防錆被膜の耐スクラッチ性,加工性,及び加工密着性の初期性能及び二次性能の向上や耐食性の向上に寄与する。なお、ドーパントであるプロトン酸の含有量は、ポリアニリンに対して1当量となる量が好ましい。また、ポリアニリンとドーパントとの合計の含有量は、樹脂組成物全体の0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
ポリアニリンの原料となるアニリン及びアニリン誘導体の種類は特に限定されるものではないが、例えば、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、o−エトキシアニリン、m−ブチルアニリン、m−ヘキシルアニリン、m−オクチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、o−シアノアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2−ブロモアニリン、5−クロロ−2−メトキシアニリン、3−フェノキシアニリンがあげられる。
【0018】
さらに、ドーパントであるプロトン酸としては、酸解離定数pKa値が4.0以下のものがあげられる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸等の無機酸や、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、m−ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸等の有機酸や、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸等のポリマー酸があげられる。これらの中でも、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸や、下記化学式(I)で表されるスルホン酸化合物が好適である。
【0019】
【化1】

【0020】
なお、上記化学式(I)中のR1 は、炭素数が1〜15のアルキル基、アルケニル基、アルキルチオアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又は水素原子を示し、複数存在する場合は同一種であってもよいし異なっていてもよい。また、R2 は、炭素数が1〜15のアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アルキルチオアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルスルフィニル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルキルスルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ハロゲン基、又は水素原子を示し、複数存在する場合は同一種であってもよいし異なっていてもよい。
【0021】
防錆被膜を構成する樹脂組成物は、導電性有機重合体とともに熱硬化性樹脂を含有することが好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂,アルキド樹脂,ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,フェノール樹脂,メラミン樹脂,尿素樹脂,フラン樹脂,ベンゾグアナミン樹脂,ポリイソシアネート樹脂(ブロック化されていてもよい)があげられる。これらの中でも、アクリル樹脂,アルキド樹脂が好ましい。
【0022】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。まず、ステアリング中間軸継手のインナーシャフトの露出部に防錆処理を施す方法について、一例を示して説明する。ステアリング中間軸継手をラックに吊し、水洗,酸洗,及び脱脂処理を行った。そして、ジンケート亜鉛メッキ浴に浸して電気を通し、亜鉛メッキを行った。次いで、1%硝酸液に浸した後、ディップソール株式会社製のクロメート処理剤ZT−444SR(pH2.0、浴温30℃)の浴に50秒間浸し、60℃で10分間乾燥させ、黄白色クロム酸化物(III )被膜を形成させた。こうして得られた亜鉛メッキ層の厚さは5〜13μmであり、クロム酸化物被膜の厚さは0.7μmである。
【0023】
次に、導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜を被覆した。日本カーリット株式会社製のポリアニリンスルホン酸(ドーパントをドープされたポリアニリン)と、アルキド樹脂(関西ペイント株式会社製のラスタイトNC10)及びアクリル樹脂(関西ペイント株式会社製のマジクロン1000)とを混合し、岩田カップを用いて17〜25秒で排出する粘度に調整した。そして、この樹脂組成物にステアリング中間軸継手を浸漬して、防錆被膜を形成させた。なお、ポリアニリンスルホン酸の含有量は、得られる防錆被膜を構成する樹脂組成物全体に対して1質量%となるような量とした。
【0024】
このようして防錆処理が施されたステアリング中間軸継手のインナーシャフトの露出部に、亜鉛メッキ層の下層の母材に達するクロスカット状の傷を付けて、JIS Z 2371に規定の方法による塩水噴霧試験に供した。試験時間は144時間とし、クロスカット傷の部分に母材の鋼が腐食されて赤錆が生じるか否かを目視により評価した。
結果を表1に示す。なお、比較例1は、ポリアニリンスルホン酸を含有していないアルキド樹脂及びアクリル樹脂で防錆被膜が構成されているものである。また、比較例2は、6価クロムを含有するクロメート処理剤(タイホー株式会社製のクロメート624)を用いてクロメート処理が行われたものである。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から分かるように、比較例1は母材の鋼が腐食され赤錆が発生したのに対し、実施例1は赤錆が発生しなかった。防錆被膜がポリアニリンスルホン酸を含有しているので、防錆被膜で覆われている部分はもちろんのこと、防錆被膜に傷が付いている部分についても耐食性が優れていた。これは、ポリアニリンスルホン酸による不動態化が寄与していると思われる。なお、比較例2については、赤錆の発生は無かったが、クロム酸化物被膜が発ガン性有害物質である6価クロムを含有しているので問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るステアリング中間軸継手が組み込まれた操舵装置の模式図である。
【図2】図1のステアリング中間軸継手の拡大図である。
【図3】従来のステアリング中間軸継手が組み込まれた操舵装置の模式図である。
【図4】図3のステアリング中間軸継手の拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 アウターシャフト
2 インナーシャフト
13 露出部
20 ステアリングシャフト
21 ステアリングホイール
23 ステアリングコラム
25,26 自在継手
30 ステアリング中間軸継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターシャフトと、該アウターシャフトに嵌入されセレーション嵌合するインナーシャフトと、を備え、衝撃を受けると所定荷重で前記インナーシャフトが前記アウターシャフト内にさらに嵌入されて前記衝撃を吸収するようになっているステアリング中間軸継手において、
前記インナーシャフトの表面のうち前記アウターシャフトの外部に露出する露出部に、亜鉛メッキ層を形成し、さらにその上に導電性有機重合体を含有する樹脂組成物で構成された防錆被膜を被覆したことを特徴とするステアリング中間軸継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−55380(P2007−55380A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241546(P2005−241546)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】