説明

ステアリング用ダイナミックダンパ及びその取付構造

【課題】製造時に使用される成形型の構造の簡略化と取り数の増大が有利に図られ得ると共に、入力振動による質量部材の過剰な振動が抑えられて、質量部材の他部材との干渉が効果的に防止され得るステアリング用ダイナミックダンパを提供する。
【解決手段】ブラケット14に設けられる連結面に対して、二つの板状ゴム弾性体からなる弾性連結体30a,30bを、ハの字状又は逆ハの字状に配置した状態で立設して、かかるブラケット14の連結面と質量部材16との間に介装すると共に、それらブラケット14の連結面と質量部材16とを、二つの弾性連結体30a,30bにて弾性的に連結して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング用ダイナミックダンパとその取付構造とに係り、特に、車両のステアリングホイールやステアリングコラムに装着されて、ステアリングホイールの振動を低減させるステアリング用ダイナミックダンパと、そのようなステアリング用ダイナミックダンパのステアリングホイールやステアリングコラムへの有利な取付構造とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両におけるステアリングホイールの振動を減衰乃至は吸収を図る装置の一種として、ステアリング用ダイナミックダンパ(以下、単に、ダイナミックダンパと言う)が知られている。このダイナミックダンパは、一般に、ステアリングホイールやステアリングコラムに取り付けられるブラケットの連結面に対して、質量部材が、弾性連結体にて弾性連結されて構成されている。そして、そのようなダイナミックダンパによって構成される副振動系の固有振動数が、主振動系としてのステアリング系(ステアリングホイール)の固有振動数にチューニングされることによって、ステアリングホイールの振動低減が図られるようになっている。
【0003】
ところで、従来のステアリング用ダイナミックダンパでは、多くの場合、例えば、特開2009−196607号公報(特許文献1)に記載されるように、弾性連結体が、ブロック状乃至は柱状のゴム弾性体からなると共に、質量部材が、矩形のブロック体からなり、かかる質量部材が、ブラケットの連結面と所定距離を隔てて対向配置される一方、弾性連結体の四つのものが、ブラケットの連結面に立設されて、ブラケットの連結面と、それに対向する質量部材の対向面の四隅の部分とを互いに連結して、構成されている。そして、このようなダイナミックダンパにあっては、ステアリングシャフト等にて伝達される振動の入力により、四つの弾性連結体が弾性変形することで、それら四つの弾性連結体と質量部材とからなる振動系が共振し、以て、ステアリングホイールの振動を低減乃至は吸収するようになっているのである。
【0004】
ところが、かくの如き従来のダイナミックダンパには、以下のような問題が存していた。即ち、従来のダイナミックダンパは、所定の成形型内で、ゴム弾性体からなる四つの弾性連結体が加硫成形されると共に、ブラケットの連結面と質量体とが、それら四つの弾性連結体のそれぞれの高さ方向(ブラケットと質量体との対向方向)両側に加硫接着されて製造される。そして、そのようにして製造されるダイナミックダンパでは、互い独立した四つの弾性連結体が、ブラケットの連結面と対向する、質量部材の矩形状の対向面に対して、その四隅に立設した状態とされるため、成形型の型開き方向を、少なくとも二方向とする必要があった。それ故、使用される成形型の構造が複雑となってしまうばかりでなく、1個の成形型での取り数が少なくなってしまうことが避けられなかったのである。
【0005】
また、上記した特開2009−196607号公報や実用新案登録第2533963号公報(特許文献2)には、質量体とブラケットとをゴム弾性体からなる二つの弾性連結体にて連結してなるダイナミックダンパも明らかにされている。このようなダイナミックダンパは、型開き方向が、一方向とされた成形型を用いての製造が可能となる。それ故、二つの弾性連結体を有するダイナミックダンパは、質量体とブラケットとが四つの弾性連結体にて弾性連結されたダイナミックダンパに比して、その製造に際して、使用される成形型の構造が有利に簡略化され得ると共に、1個の成形型での取り数の増大が効果的に図られ得る。
【0006】
しかしながら、本発明者が、質量体とブラケットとが二つの弾性連結体にて弾性連結された従来のダイナミックダンパについて、様々な角度から検討を加えたところ、かかる従来のダイナミックダンパには、以下の如き問題が内在していることが判明した。
【0007】
すなわち、二つの弾性連結体を有する従来のダイナミックダンパのうち、特開2009−196607号公報に開示されるものにあっては、二つの弾性連結体が、質量体のブラケットとの対向面の四つの辺部のうち、平行に延びる二つの辺部の略全長に沿って延びる長手形状を有している。そして、それら二つの弾性連結体が、互いに所定距離を隔てて正対する状態、つまり、互いに対向して、平行に延びるように配置されている。このようなダイナミックダンパでは、ステアリングホイールの低い固有振動数に対応して、弾性連結体のばね定数を低い値に設定するために、長手形状とされた弾性連結体の厚さを、長さが長くされた分だけ薄くする必要があった。それ故、かかる従来のダイナミックダンパにおいては、弾性連結体が厚さ方向に容易に曲げ変形するようになっており、そのために、ステアリングシャフト等から伝達される振動の入力時に、質量部材が、弾性連結体の厚さ方向において大きく振動(首振り振動)して、周囲に位置する他部材と干渉する恐れがあったのである。
【0008】
一方、実用新案登録第2533963号公報に開示されるダイナミックダンパにおいては、二つの弾性連結体が、質量体とブラケットとの間に、質量体のブラケットとの対向面の四つの辺部のうちの一つの辺部に沿って、一直線に並んで位置するように配置されている。このようなダイナミックダンパでは、質量体の対向面の一つの辺部の略全長に沿って延びる長手の二つの弾性連結体を備えたダイナミックダンパに比して、弾性連結体の長さが短くされており、その分だけ、弾性連結体の厚さを厚くすることができる。しかしながら、かかる従来のダイナミックダンパにあっても、二つの弾性連結体が直列に配置されているため、質量体とブラケットとの間に、それら二つの弾性連結体の配列方向に対して直角な方向、即ち、各弾性連結体の厚さ方向に振動が入力された際に、弾性連結体の厚さ方向での質量部材の振動(首振り振動)が大きくなってしまうことが避けられず、それによって、質量部材が、周囲に位置する他部材と干渉してしまう可能性があったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−196607号公報
【特許文献2】実用新案登録第2533963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、ステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けられて、ステアリングホイールの振動を低減させるステアリング用ダイナミックダンパにおいて、製造時に使用される成形型の構造の簡略化と取り数の増大が有利に図られ得ると共に、入力振動による質量部材の過剰な振動が抑えられて、質量部材の他部材との干渉が効果的に防止され得るように改良された構造を提供することにある。また、そのようなステアリング用ダイナミックダンパのステアリングホイール又はステアリングコラムへの有利な取付構造を提供することをも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、ステアリング用ダイナミックダンパに係る課題の解決のために、車両のステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けられるブラケットと、該ブラケットに設けられる連結面に対して間隔を隔てて対向配置された質量部材と、該ブラケットの連結面と該質量部材との間に介装されて、それらブラケットの連結面と質量部材とを弾性的に連結する、ゴム弾性体からなる複数の弾性連結体とを含んで構成されたステアリング用ダイナミックダンパであって、前記複数の弾性連結体が、横断面形状が長手形状とされた二つの板状ゴム弾性体からなると共に、かかる二つの弾性連結体が、前記ブラケットの連結面に対してハの字状又は逆ハの字状に配置された状態で立設されて、該ブラケットと前記質量部材とを連結していることを特徴とするステアリング用ダイナミックダンパを、その要旨とするものである。
【0012】
なお、本発明の好ましい態様の一つによれば、前記弾性連結体が、厚さが一定の板状ゴム弾性体にて構成される。
【0013】
また、本発明の有利な態様の一つによれば、前記ブラケットの前記ステアリングホイール又はステアリングコラムへの取付状態下で、前記二つの弾性連結体が、互いの間隔が下方又は上方に向かうに従って次第に広がるハの字状又は逆ハの字状に配置されるように、該ブラケットの前記連結面に立設される。
【0014】
そして、本発明にあっては、ステアリング用ダイナミックダンパの取付構造に係る課題の解決のために、上記に記載のステアリング用ダイナミックダンパをステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けるための構造であって、前記二つの弾性連結体が、互いの間隔が下方又は上方に向かうに従って次第に広がるハの字状又は逆ハの字状に配置されるように、前記ブラケットを位置させた状態で、該ブラケットをステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けることを特徴とするステアリング用ダイナミックダンパの取付構造をも、また、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従うステアリング用ダイナミックダンパにあっては、複数の弾性連結体が、二つの板状ゴム弾性体にて構成されているため、四個のブロック状乃至は柱状のゴム弾性体からなる複数の弾性連結体を有する従来のダイナミックダンパとは異なって、製造時に使用される成形型の型開き方向を、一方向とすることができる。また、そのような二つの弾性連結体が、ハの字状又は逆ハの字状に、斜めに対向配置された状態で、ブラケットの連結面に立設されているところから、各弾性連結体の厚さに拘わらず、二つの弾性連結体の対向方向とそれに直交する方向の振動の入力時における各弾性連結体の弾性変形量が有利に小さく抑えられ得る。
【0016】
従って、かくの如き本発明に従うステアリング用ダイナミックダンパにあっては、製造時に使用される成形型の構造が有利に簡略化され得ると共に、1個の成形型での取り数の増大が効果的に図られ得る。また、入力振動による質量部材の過剰な振動が抑えられて、質量部材の他部材との干渉が効果的に防止され得る。
【0017】
そして、本発明に従うステアリング用ダイナミックダンパの取付構造によれば、二つの弾性連結体が質量部材の自重によって容易に曲げ変形することが、有利に抑制され得る。その結果、質量部材の自重に加えて、振動荷重が、二つの弾性連結体に対して上下方向に入力されたときにも、質量部材の過剰な振動が抑制され、以て、質量部材の他部材との干渉が効果的に防止され得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従うステアリング用ダイナミックダンパの一実施形態を、ステアリングコラムに取り付けた状態において示す説明図である。
【図2】図1に示されたステアリング用ダイナミックダンパの正面説明図である。
【図3】図2の III矢視説明図である。
【図4】図2のIV矢視説明図である。
【図5】図3のV−V断面説明図である。
【図6】本発明に従うステアリング用ダイナミックダンパの別の実施形態を示す、図5に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0020】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有するステアリング用ダイナミックダンパの一実施形態としての自動車のステアリング用ダイナミックダンパが、自動車のステアリングコラムに取り付けられた状態において示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態ステアリング用ダイナミックダンパ10(以下、単にダイナミックダンパ10と言う)は、ステアリングコラム12に取り付けられる長手のブラケット14と、質量部材としてのダンパマス16と、ゴム弾性体からなる連結部材18とを有している。そして、ダンパマス16が、ブラケット14に対して、連結部材18にて弾性連結されて、構成されている。なお、以下からは、ダイナミックダンパ10のステアリングコラム12への取付状態に基づいて、ブラケット14の長手方向(図1の左右方向)を前後方向と言い、ブラケット14の長手方向に直角な方向(図1の上下方向)を上下方向と言うこととする。
【0021】
より詳細には、図2乃至図4に示されるように、ブラケット14は、全体として、長手矩形状を呈し、剛性の高い金属製乃至は合成樹脂製の板材にて構成されている。このブラケット14の長さ方向の中間部には、段差部22が設けられている。そして、かかるブラケット14においては、段差部22よりも長さ方向一方側の前側部分が、取付部23とされて、この取付部23に対して、2個のボルト挿通孔25,25が、前後方向に並んで穿設されている。一方、ブラケット14の段差部22よりも長さ方向他方側の後側部分は、連結部24とされて、この連結部24の厚さ方向一方の面が、矩形形状を呈する平坦面からなる連結面26とされている。なお、段差部22は、ダイナミックダンパ10のステアリングコラム12への装着状態下で、ブラケット14が、ダイナミックダンパ10の周囲に位置する他部品と干渉するのを避けること、或いはブラケット14の剛性を高めること等を目的として、ブラケット14に形成されるものであって、省略されても、何等差し支えない。
【0022】
ダンパマス16は、全体として、横長の略直方体形状(六面体形状)を呈し、鉄等の高比重の金属製のブロック体にて構成されている。そして、かかるダンパマス16の六つの面のうちの一つの面が対向面28とされ、この対向面28を、ブラケット14の連結面26に対向させた状態で、ダンパマス16が、ブラケット14の連結面26に対して離間配置されている。このダンパマス16の対向面28は、矩形の平坦面からなり、連結面26と平行に位置している。なお、ここでは、ダンパマス16の六つの面のうちの対向面28と隣り合う一つの面が、ダイナミックダンパ10のステアリングコラム12への取付状態下で他部材との干渉を避けるために傾斜面とされている。
【0023】
一方、図3乃至図5に示されるように、連結部材18は、弾性連結体としての二つの連結ゴム脚部30a,30bと、二つのゴムシート32a,32bとを一体的に有している。二つの連結ゴム脚部30a,30bは、長円形状を呈する一定の横断面と一定の厚さとを有する、互いに同一形状の平板状ゴム弾性体からなっている。二つのゴムシート32a,32bは、各連結ゴム脚部30a,30bよりも十分に薄肉で、ブラケット14の連結面26やダンパマス16の対向面28よりも一周り小さな長手矩形状を呈するシート状ゴム弾性体からなっている。そして、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、互いに並列して配置されている一方、二つのゴムシート32a,32bが、それら並列配置された二つの連結ゴム脚部30a,30bを間に挟んで、各連結ゴム脚部30a,30bの高さ方向の両側に、互いに対向して平行に延びるように配置されている。また、かかる配置状態下で、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、それらの高さ方向の両側の端面において、二つのゴムシート32a,32bの互いの対向面の略中央部に対して一体的に接合されている。かくして、ここでは、連結部材18が、並列配置された二つの連結ゴム脚部30a,30bと、それら二つの連結ゴム脚部30a,30bの高さ方向両端に一体形成された二つのゴムシート32a,32bとからなる一体加硫成形品にて構成されているのである。
【0024】
そして、そのような連結部材18は、ブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28との間に、二つの連結ゴム脚部30a,30bの高さ方向を、それら連結面26と対向面28との対向方向に一致させた状態で配置されている。また、かかる配置状態下で、二つのゴムシート32a,32bのうちの一方のゴムシート32aにおける二つの連結ゴム脚部30a,30b側とは反対側の面に対して、ブラケット14の連結面26が加硫接着されている一方、それらのうちの他方のゴムシート32bにおける二つの連結ゴム脚部30a,30b側とは反対側の面に対して、ダンパマス16の対向面28が加硫接着されている。
【0025】
これにより、連結部材18の二つの連結ゴム脚部30a,30bが、ゴムシート32aを介して、ブラケット14の連結面26に立設され、また、二つのゴムシート32a,32bと共に、ブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28との間に、並列配置された状態で介装されて、それらブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28を相互に連結しているのである。
【0026】
そして、かくの如き構造とされた本実施形態のダイナミックダンパ10は、図1に示されるように、ステアリングコラム12の側方において、ダンパマス16を、ブラケット14の連結部24と連結部材18とを間に挟んで、ステアリングコラム12側とは反対側に位置させた向きで配置されている。また、かかる向きで、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、前後方向において並列して位置し、且つブラケット14の連結部24の連結面26とダンパマス16の対向面28とが、水平方向において互いに対向位置するように配置されている。即ち、ダイナミックダンパ10は、連結部材18の二つの連結ゴム脚部30a,30bに対して、ダンパマス16の自重による剪断荷重が加えられる向きで、ステアリングコラム12の側方に配置されているのである。そして、そのような配置状態下で、ブラケット14の取付部23が、ステアリングコラム12に固着された固定金具34に対して、取付部23のボルト挿通孔25,25にそれぞれ挿通された取付ボルト36,36によりボルト止めされている。
【0027】
かくして、ステアリングコラム12の上下方向や前後方向の振動に伴って、ダンパマス16が、連結部材18の、主に二つの連結ゴム脚部30a,30bを剪断方向に弾性変形させつつ振動するように、ダイナミックダンパ10が、ステアリングコラム12に取り付けられており、以て、かかるダイナミックダンパ10にて、ステアリングホイール20を含んで構成される主振動系としてのステアリング系に対する副振動系が構成されているのである。
【0028】
ところで、本実施形態のダイナミックダンパ10では、特に、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、ブラケット14の連結面26に対して、ハの字状に配置された状態で立設されて、かかる連結面26とダンパマス16の対向面28と間に介装されている。
【0029】
より具体的には、図1及び図5に示されるように、また、前記したように、ここでは、ブラケット14の連結部24の連結面26とダンパマス16の対向面28とが水平方向において互いに対向位置する状態で、ダイナミックダンパ10が、ステアリングコラム12に取り付けられている。このため、ダイナミックダンパ10のステアリングコラム12への取付状態下において、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、ブラケット14の連結面26に対して、その略中央部から水平方向に突設された状態で位置している。そして、それら二つの連結ゴム脚部30a,30bは、ブラケット14の連結面26上において、上下方向においてハの字となるように、斜めに対向配置されている。
【0030】
すなわち、二つの連結ゴム脚部30a,30bは、ダイナミックダンパ10のステアリングコラム12への取付状態下で、鉛直方向に延びる連結部材18の中心線:Pを含んで二つのゴムシート32a,32bに直交する鉛直面:αを間に挟んで前側(図1及び図5の左側)と後側(図1及び図5の右側)のそれぞれに位置している。そして、それら各連結ゴム脚部30a,30bにおける長円状の横断面の長手方向が上下方向に延び、且つ二つの連結ゴム脚部30a,30b間の間隔が、下方に向かって次第に大きくなるように配置されているのである。
【0031】
換言すれば、鉛直面:αよりも前側に位置する連結ゴム脚部30aが、前方に向かって下傾するように配置されている一方、鉛直面:αよりも後側に位置する連結ゴム脚部30bが、後方に向かって下傾するように配置されている。つまり、前側に位置する連結ゴム脚部30aの後側の側面31aが、鉛直面:αに対して、下方に向かうに従って徐々に離間するように傾斜配置され、また、後側に位置する連結ゴム脚部30bの前側の側面31bが、鉛直面:αに対して、下方に向かうに従って徐々に離間するように傾斜配置されているのである。
【0032】
このように、本実施形態のダイナミックダンパ10では、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、ブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28との間において、前記鉛直面:αを間に挟んだ前側と後側の両側に、ハの字状を呈するように、斜めに対向配置された状態で、鉛直面:αに対して対称に位置している。それ故、かかるダイナミックダンパ10にあっては、型開き方向が、二つの連結ゴム脚部30a,30bの対向方向に対して直角な一方向、即ち、中心線:Pに沿った方向とされた成形型を用いての製造が可能となっている。
【0033】
また、かかるダイナミックダンパ10においては、ステアリングコラム12への取付状態下で、二つの連結ゴム脚部30a,30bのそれぞれが、ダンパマス16とブラケット14との間において、前記鉛直面:αに対して傾斜配置されている。そのため、ダンパマス16とブラケット14との間に上下方向(ステアリングコラム12の軸直角方向)の振動が入力されて、上下方向にダンパマス16が振動したときの各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量が、各連結ゴム脚部30a,30bを鉛直面:αと直交するように、つまり前後方向に水平に延びるように配置した場合に比して、可及的に小さく為され得るようになっている。また、ダンパマス16とブラケット14との間に前後方向(ステアリングコラム12の軸方向)の振動が入力されて、前後方向にダンパマス16が振動したときの各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量も、各連結ゴム脚部30a,30bを鉛直面:αと平行に配置した場合、つまり鉛直方向に延びるように配置した場合に比して、可及的に小さく為され得るようになっている。
【0034】
すなわち、ダイナミックダンパ10において上下方向と前後方向の入力振動に対する一定のばね特性を確保するには、各連結ゴム脚部30a,30bの上下方向のばね定数と前後方向のばね定数とを、各連結ゴム脚部30a,30bの配置形態(各連結ゴム脚部30a,30bの向き)に拘わらず、それぞれ一定とする必要がある。一方、鉛直方向に延びるように配置された、横断面長手形状を呈する各連結ゴム脚部30a,30bの上下方向のばね定数と、鉛直面:αに対して傾斜配置された、横断面長手形状を呈する各連結ゴム脚部30a,30bの上下方向のばね定数とを同一の値に設定するには、鉛直面:αに対して傾斜配置された各連結ゴム脚部30a,30bの厚さ:W1 ,W2 を、鉛直方向に延びるように配置された各連結ゴム脚部30a,30bの厚さよりも厚くする必要がある。また、前後方向に水平に延びるように配置された、横断面長手形状を呈する各連結ゴム脚部30a,30bの前後方向のばね定数と、鉛直面:αに対して傾斜配置された、横断面長手形状を呈する各連結ゴム脚部30a,30bの前後方向のばね定数とを同一の値に設定する場合にあっても、鉛直面:αに対して傾斜配置された各連結ゴム脚部30a,30bの厚さ:W1 ,W2 を、前後方向に水平に延びるように配置された各連結ゴム脚部30a,30bの厚さよりも厚くしなければならない。
【0035】
従って、本実施形態のダイナミックダンパ10では、各連結ゴム脚部30a,30bが鉛直面:αに対して傾斜配置されていることにより、上下方向と前後方向の入力振動に対して、ステアリングホイールの低い固有振動数に対応した一定のばね特性を安定的に確保しつつ、各連結ゴム脚部30a,30bの厚肉化が、有利に図られている。そして、それによって、かかるダイナミックダンパ10においては、上下方向に振動が入力されたときの各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量が、各連結ゴム脚部30a,30bを前後方向に水平に延びるように配置した場合に比して、有利に小さく為され得ると共に、前後方向に振動が入力されたときの各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量が、各連結ゴム脚部30a,30bを鉛直方向に延びるように配置した場合に比して、十分に小さく為され得る。また、それら上下方向と前後方向に加えて、ブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28と平行な全ての方向の振動が入力されたときにも、各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量が、効果的に小さく為され得るのである。
【0036】
しかも、本実施形態のダイナミックダンパ10にあっては、鉛直面:αに対して傾斜配置された二つの連結ゴム脚部30a,30bが、ハの字状を呈するように斜めに対向配置されている。このため、例えば、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、鉛直面:αに対して傾斜した状態で、互いに平行に配置される場合、つまり、二つの連結ゴム脚部30a,30bの両方が、前方に向かって下傾するように配置されるか、或いは後方に向かって下傾するように配置される場合に比して、上下方向や前後方向、更にはブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28と平行なあらゆる方向の振動入力時における各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量が、安定して、より小さく為され得る。
【0037】
なお、各連結ゴム脚部30a,30bの鉛直面:αに対する傾斜角度、具体的には、鉛直面:αよりも前側に位置する連結ゴム脚部30aの後側側面31aと鉛直面:αとのなす角:θ1 、及び鉛直面:αよりも後側に位置する連結ゴム脚部30bの前側側面31bと鉛直面:αとのなす角:θ2 は、それぞれ鋭角とされておれば、具体的な大きさが、特に限定されるものではない。それらのなす角:θ1 、θ2 は、例えば、ダイナミックダンパ10にて、上下方向の振動が主として低減されるべきか、或いは前後方向の振動が主に低減されるべきかの違い等によって、適宜に決定される。
【0038】
すなわち、例えば、上下方向の振動と前後方向の振動の両方をダイナミックダンパ10にてバランス良く低減する必要がある場合には、なす角:θ1 、θ2 の大きさが45°程度とされていることが、望ましい。そして、ダイナミックダンパ10にて低減されるべき振動として、上下方向の振動よりも前後方向の振動の方が重要である場合には、有利には、なす角:θ1 、θ2 の大きさが45°よりも大きくされる。一方、ダイナミックダンパ10にて低減されるべき振動として、前後方向の振動よりも上下方向の振動の方が重要である場合には、好ましくは、なす角:θ1 、θ2 の大きさが45°よりも小さくされるのである。
【0039】
なお、二つの連結ゴム脚部30a,30bは、鉛直面:αに対して、必ずしも対称となるように配置されている必要はない。即ち、それら二つの連結ゴム脚部30a,30bと鉛直面:αとのなす角:θ1 、θ2 は、必ずしも同一の大きさとされていなくとも良い。また、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、連結面26上における上下方向での位置がずれていたり、各連結ゴム脚部30a,30bと鉛直面:αとの間の距離が互いに異なっていても、何等差し支えない。
【0040】
また、各連結ゴム脚部30a,30bの厚さ:W1 ,W2 も、特に限定されるものではなく、適宜に決定されるところである。そして、例えば、なす角:θ1 、θ2 が小さくされる場合には、ダイナミックダンパ10による振動低減に関して、各連結ゴム脚部30a,30bの上下方向のばね定数が重要となるときに限って、各連結ゴム脚部30a,30bの厚さ:W1 ,W2 を薄くすることができる。また、なす角:θ1 、θ2 が大きくされる場合には、ダイナミックダンパ10による振動低減に関して、各連結ゴム脚部30a,30bの前後方向のばね定数が重要となるときに限って、各連結ゴム脚部30a,30bの厚さ:W1 ,W2 を薄くすることができる。
【0041】
上述の説明から明らかなように、本実施形態のダイナミックダンパ10にあっては、その製造に際して、連結部材18の中心線:Pに沿った一方向において型開き/型閉じされる成形型の使用が可能となっている。従って、例えば、ダンパマス16とブラケット14とが四つのブロック状のゴム弾性体にて弾性連結された従来のダイナミックダンパを製造する場合とは異なって、製造時に使用される成形型の構造が有利に簡略化され得ると共に、1個の成形型での取り数の増大が効果的に図られ得る。
【0042】
また、本実施形態のダイナミックダンパ10にあっては、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、一定の厚さを有して、前記鉛直面:αを間に挟んだ両側に配置されている。それによって、製造時に使用される成形型の、中心線:Pに沿った一方向での型開きに際して、アンダーカットとなる部分が有利に無くされ、以て、製作性の向上が効果的に実現され得る。
【0043】
そして、かかるダイナミックダンパ10では、特に、上下方向や前後方向、更にはブラケット14の連結面26とダンパマス16の対向面28と平行なあらゆる方向の振動入力時における各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量が、それらの方向のばね特性を有効に維持しつつ、有利に小さく為され得る。これによって、様々な方向の振動の入力に伴うダンパマス16の過剰な振動が効果的に抑制され、以て、ダンパマス16の振動による他部材との干渉が有利に防止され得る。そして、その結果として、ステアリングコラムから伝達される低周波数の振動に対する防振性能が、極めて安定的に発揮され得ることとなるのである。
【0044】
また、本実施形態のダイナミックダンパ10においては、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、ダンパマス16とブラケット14との間において、互いの間隔が下方に向かうに従って次第に広がるハの字状に配置されている。それによって、ダンパマス16の自重による各連結ゴム脚部30a,30bの弾性変形量も有利に小さくされ得る。このため、上下方向の振動入力時に、その振動荷重とダンパマスの自重によって、ダンパマス16の振動が過剰に大きくなってしまうことが、効果的に防止され得るのである。
【0045】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0046】
例えば、板状ゴム弾性体からなる二つの連結ゴム脚部30a,30b横断面形状は、長手形状とされておれば、その具体的形状が、特に限定されるものではない。従って、それら各連結ゴム脚部30a,30bの横断面形状が、例えば、長方形状や細長い楕円形状とされていても、何等差し支えない。
【0047】
また、ダイナミックダンパ10を、ステアリングコラム12に代えて、ステアリングホイール20に取り付けても良い。そして、ダイナミックダンパ10をステアリングコラム12とステアリングホイール20の何れに取り付ける場合にあっても、ダイナミックダンパ10の配置形態を、ダンパマス16の自重が二つの連結ゴム脚部30a,30bに対して剪断荷重として負荷されるような配置形態とする他、二つの連結ゴム脚部30a,30bに対して、ダンパマス16の自重が圧縮荷重として、或いは引張荷重として負荷されるような配置形態とすることも可能である。つまり、ステアリングコラム12とステアリングホイール20に対するダイナミックダンパ10の取付位置も、特に限定されるものではないのである。
【0048】
さらに、図6に示されるように、ダイナミックダンパ10のステアリングコラムやステアリングホイールへの取付状態下で、二つの連結ゴム脚部30a,30bを、ブラケット14の連結面26上において、水平方向に延びる連結部材18の中心線:Qを含む、二つのゴムシート32a,32bと平行な水平面:βを間に挟んだ上側と下側とに、互いに斜めに対向するように、それぞれ配置しても良い。即ち、二つの連結ゴム脚部30a,30bを、互いの配置間隔が後方に向かうに従って次第に広がるハの字状に配置されるように、ブラケット14の連結面26に立設することも可能である。なお、この場合にあっても、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、水平面:βに対して、必ずしも対称に配置されている必要はない。
【0049】
そして、図示されてはいないものの、二つの連結ゴム脚部30a,30bを、互いの配置間隔が上方に向かうに従って次第に広がるハの字状に配置されるように、ブラケット14の連結面26に立設しても良い。また、二つの連結ゴム脚部30a,30bを、互いの配置間隔が前方に向かうに従って次第に広がるハの字状に配置されるように、ブラケット14の連結面26に立設することも可能である。勿論、それらの場合にも、二つの連結ゴム脚部30a,30bが、鉛直面:αや水平面:βに対して、必ずしも対称に配置されている必要はない。なお、二つの連結ゴム脚部30a,30bを、互いの配置間隔が前方や後方に向かうに従って次第に広がるハの字状に配置する場合には、ブラケット14の段差部22は省略されることとなる。
【0050】
さらに、二つの連結ゴム脚部30a,30bは、ダイナミックダンパ10の製造時に使用される成形型の型開き方向に延びる仮想平面を間に挟んだ両側において、アンダーカットとならないように、ハの字状に配置されておれば良い。従って、二つの連結ゴム脚部30a,30bの間に配置される仮想平面は、鉛直面:αや水平面:βに限定されるものではない。また、かかる仮想平面は、連結部材18の鉛直方向や水平方向に延びる中心線:P,Qを必ずしも含んでいる必要はなく、それらの中心線:P,Qと所定の距離を隔てて、平行に位置していても、何等差し支えない。
【0051】
さらに、前記実施形態では、弾性連結体としての二つの連結ゴム脚部30a,30bに対して、二つのゴムシート32a,32bが一体形成されていたが、それら二つのゴムシート32a,32bは省略可能である。
【0052】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車のステアリング用ダイナミックダンパと、その取付構造に適用したものの具体例を示したが、本発明は、自動車以外の車両のステアリング用ダイナミックダンパと、その取付構造の何れに対しても有利に適用され得ることは、勿論である。
【0053】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0054】
10 ダイナミックダンパ 12 ステアリングコラム
14 ブラケット 16 ダンパマス
18 連結部材 26 連結面
28 対向面 30a,30b 連結ゴム脚部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けられるブラケットと、該ブラケットに設けられる連結面に対して間隔を隔てて対向配置された質量部材と、該ブラケットの連結面と該質量部材との間に介装されて、それらブラケットの連結面と質量部材とを弾性的に連結する、ゴム弾性体からなる複数の弾性連結体とを含んで構成されたステアリング用ダイナミックダンパであって、
前記複数の弾性連結体が、横断面形状が長手形状とされた二つの板状ゴム弾性体からなると共に、かかる二つの弾性連結体が、前記ブラケットの連結面に対してハの字状又は逆ハの字状に配置された状態で立設されて、該ブラケットと前記質量部材とを連結していることを特徴とするステアリング用ダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記弾性連結体が、厚さが一定の板状ゴム弾性体からなっている請求項1に記載のステアリング用ダイナミックダンパ。
【請求項3】
前記ブラケットの前記ステアリングホイール又はステアリングコラムへの取付状態下で、前記二つの弾性連結体が、互いの間隔が下方又は上方に向かうに従って次第に広がるハの字状又は逆ハの字状に配置されるように、該ブラケットの前記連結面に立設されている請求項1又は請求項2に記載のステアリング用ダイナミックダンパ
【請求項4】
前記請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載のステアリング用ダイナミックダンパをステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けるための構造であって、
前記二つの弾性連結体が、互いの間隔が下方又は上方に向かうに従って次第に広がるハの字状又は逆ハの字状に配置されるように、前記ブラケットを位置させた状態で、該ブラケットをステアリングホイール又はステアリングコラムに取り付けることを特徴とするステアリング用ダイナミックダンパの取付構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−67300(P2013−67300A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208283(P2011−208283)
【出願日】平成23年9月24日(2011.9.24)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】