説明

ステアリング用防音装置

【課題】車室A内の騒音を低減することが可能なステアリング用防音装置を提供する。
【解決手段】ステアリングシャフト31が貫通された共鳴器10を備え、この共鳴器10に音響孔10aが開設されている。音響孔10aが開設された共鳴器10はヘルムホルツ共鳴器を構成するものであり、共鳴器10の容積及び音響孔10aのサイズによって決まる共鳴器10内の空洞10bの共鳴周波数を適切に設定することによって、定常走行時のエンジン振動等に起因する車室A内の騒音を有効に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリングの振動による騒音を抑制するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンアイドリング時におけるステアリングの振動を抑制するための技術としては、下記の特許文献1に記載のものが知られており、また、エンジンルームからの車室への伝達音を低減する技術としては、下記の特許文献2に記載のものが知られている。
【特許文献1】実開平5−78664号公報
【特許文献2】実開平5−30680号公報
【0003】
すなわち、特許文献1は、自動車のエンジンアイドリング時におけるステアリング装置の振動を低減するためのダイナミックダンパを備え、このダイナミックダンパの共振周波数が、アイドリング周波数の変化に追従するように変化するようになっているので、ステアリングホイールの振動を、常に低いレベルに抑制することができるものである。
【0004】
また、特許文献2は、自動車の車室とエンジンルームとの間を仕切る仕切壁(ダッシュパネル)に、ステアリングシャフトが貫通するために開設された穴と、前記ステアリングシャフトとの間の隙間から、エンジンルーム内の騒音が車室内へ漏れるのを、シール部材によって防止しているものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術によれば、アイドリングによるステアリング装置の振動を低減することはできるが、ステアリングシャフト自体に発生する高周波域の共振(1000Hz程度)によりステアリングホイールから車室内に放射される騒音や、定常走行時(例えば40km/h程度)のエンジン騒音(200Hz程度)を低減することはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、車室内の騒音を低減することが可能なステアリング用防音装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るステアリング用防音装置は、ステアリングシャフトが貫通された共鳴器を備え、この共鳴器に音響孔が開設されたものである。
【0008】
また、請求項2の発明に係るステアリング用防音装置は、請求項1に記載の構成において、共鳴器が、軸方向一端が開放された共鳴器本体と、その開放端部を閉塞するように設けられたダイナミックダンパとからなり、このダイナミックダンパが、ステアリングシャフトに固定された内環と、前記共鳴器本体側に配置された環状質量体と、前記内環と環状質量体を弾性的に連結している弾性体とからなるものである。
【0009】
また、請求項3の発明に係るステアリング用防音装置は、請求項1に記載の構成において、音響孔がステアリングシャフト挿通部に形成されたものである。
【0010】
また、請求項4の発明に係るステアリング用防音装置は、請求項1に記載の構成において、共鳴器におけるステアリングシャフト挿通部に、ステアリングシャフトの外周を密封する密封手段を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るステアリング用防音装置によれば、音響孔が開設された共鳴器はヘルムホルツ共鳴器を構成するものであり、共鳴器の容積及び音響孔のサイズによって決まる共鳴器内の空洞の共鳴周波数を適切に設定することによって、エンジン振動等に起因する車室内の騒音を有効に低減することができる。
【0012】
また、本発明において、請求項2に記載の構成のように、共鳴器の一部をダイナミックダンパで構成し、このダイナミックダンパの共振周波数を、ステアリングシャフトの共振周波数域に設定することによって、ステアリングシャフト自体の共振を低減することができる。
【0013】
また、本発明において、請求項3に記載の構成のように、音響孔がステアリングシャフト挿通部を兼ねるものであれば、共鳴器にステアリングシャフト挿通用の穴のほかに音響孔を開設する必要がない。
【0014】
また、本発明において、請求項4に記載の構成のように、共鳴器におけるステアリングシャフト挿通部に、ステアリングシャフトの外周を密封する密封手段を設けることによって、この密封手段が遮音機能を兼備するので、一層優れた防音効果が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るステアリング用防音装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1は、第一の形態をステアリング装置の一部と共に示す断面図、図2は、図1の要部を示す断面図である。
【0016】
図1において、参照符号2は、車室AとエンジンルームBとの間を仕切っているダッシュパネル、参照符号3はダッシュパネル2の開口部2aを貫通したステアリングシャフト31と、その車室A側の端部に取り付けられた操舵ハンドル部としてのステアリングホイール32を有するステアリング装置である。ダッシュパネル2の開口部2aにはカップ状のハウジング21が設けられ、ステアリングシャフト31はこのハウジング21を貫通している。
【0017】
本発明の第一の形態に係る防音装置1は、ステアリングシャフト31が貫通した共鳴器10を備え、この共鳴器10に音響孔10aが開設されたものである。詳しくは、図2に示されるように、共鳴器10は、軸方向一端が開放された共鳴器本体11と、その開放端部11cを閉塞するように設けられたダイナミックダンパ12とからなる。
【0018】
共鳴器10における共鳴器本体11は、軟質の合成樹脂又はゴム状弾性材料で有底円筒状に成形されたものであって、底部11aの内周に形成された小径の筒状取付部11bが、金属バンド111によってステアリングシャフト31の外周面に締付固定されている。
【0019】
共鳴器10におけるダイナミックダンパ12は、ステアリングシャフト31の外周面にセットスクリュ124によって固定された内環121と、共鳴器本体11の開放端部11c(底部11aと反対側の端部)の内周に配置され金属バンド112によって締付固定された金属製の環状質量体122と、半径方向に互いに対向する前記内環121の外周面と環状質量体122の内周面の間にゴム状弾性材料で一体に成形されることによって、この内環121と環状質量体122を弾性的に連結している弾性体123とからなる。また、音響孔10aは、内環121に開設されている。
【0020】
したがって、共鳴器10は、ステアリングシャフト31と一体的に回転するもので、共鳴周波数を中心とする周波数帯域の音を取り込んで共鳴作用により音を吸収するヘルムホルツ共鳴吸音機能を有する。そして、音響孔10aの内周に存在する気柱の質量と、内部空洞10bの容積に依存される空気ばねのばね定数とによって決まる共鳴器10の共鳴周波数(吸音周波数)は、自動車の定常走行時(例えば40km/h程度)のエンジン騒音(2,000rpmの6次成分の振動:200Hz程度)の周波数域にチューニングされている。詳しくは、音響孔10aの断面積をS、長さをL、内部空洞10bの容積V、音速をCとすると、共鳴周波数fは、
f=C/2π×√(S/LV)
であり、したがって、例えば内部空洞10bの容積Vは一定としても、S、Lによって適切に吸音域のチューニングを行うことができる。
【0021】
また、共鳴器10における壁面の一部を構成するダイナミックダンパ12は、その環状質量体122をマスとし、弾性体123及び共鳴器本体11をばねとするばね−マス系の径方向(上下方向)共振周波数が、ステアリングシャフト31の共振周波数域(1000Hz程度)に設定されている。
【0022】
したがって、以上のように構成されたステアリング用防音装置1によれば、ステアリングシャフト31自体に発生する高周波域の共振が、ダイナミックダンパ12によって抑制されるので、ステアリングホイール32を介して車室A内に放射される騒音を低減することができると共に、定常走行時のエンジン騒音が、共鳴器10によって共鳴吸収される。このため、車室A内の静粛性を向上することができる。
【0023】
なお、上記第一の形態においては、音響孔10aをダイナミックダンパ12における内環121に開設したが、これを、例えば共鳴器本体11に開設しても良く、その場合、共鳴器本体11の小径の筒状取付部11bを、ステアリングシャフト31の外周面に対して遊嵌することによって、この筒状取付部11bとステアリングシャフト31の間の隙間を音響孔10aとすることもできる。この場合は、共鳴器本体11も、環状質量体122と共にダイナミックダンパ12におけるばね−マス系のマスの一部を構成することになる。
【0024】
次に、図3は、本発明に係るステアリング用防音装置の第二の形態をステアリング装置の一部と共に示す断面図である。
【0025】
この第二の形態に係る防音装置1も、図3に示されるように、ステアリングシャフト31が貫通された共鳴器10を備え、この共鳴器10に音響孔10aが開設されたものである。詳しくは、共鳴器10は、車室A側を向いた軸方向一端が開放された共鳴器本体13と、その大径端部を閉塞するように設けられた遮音壁14と、この遮音壁14の内周のステアリングシャフト挿通筒部14aに取り付けられたダストシール15からなる。なお、ステアリングシャフト挿通筒部14aは請求項4に記載されたステアリングシャフト挿通部に相当し、ダストシール15は、請求項4に記載された密封手段に相当するものである。
【0026】
共鳴器10における共鳴器本体13は、合成樹脂又はゴム状弾性材料で円錐筒状に成形されたものであって、大径端部に形成されたフランジ13aが、遮音壁14と重合した状態で、螺子部材131によってダッシュパネル2の開口部2aを塞ぐように、かつ斜め下方を向いた小径端部がエンジンルームB側へ突出するように取り付けられている。また、共鳴器本体13の小径端部に形成された円筒部13bには、遮音壁14ステアリングシャフト31が遊挿されており、このステアリングシャフト31と円筒部13bとの隙間が音響孔10aとなっている。
【0027】
また、共鳴器10における遮音壁14は、合成樹脂又はゴム状弾性材料で円盤状に形成されたものであって、内周に、ステアリングシャフト挿通筒部14aが共鳴器本体13の円筒部13bと同軸上に並ぶように傾斜して形成されており、その内周に取り付けられたゴム状弾性材料からなるダストシール15は、内周端部がステアリングシャフト31の外周面に摺動可能に密接されている。
【0028】
そしてこの形態においては、共鳴器10は非回転であり、共鳴作用によって音を吸収するヘルムホルツ共鳴吸音機能を有するものである。共鳴器10の共鳴周波数(吸音周波数)fは、音響孔10aの断面積(円筒部13bの内周孔の断面積からステアリングシャフト31の断面積を引いた値)、円筒部13bの長さ、あるいは内部空洞10bの容積によって、好ましくは自動車の定常走行時(例えば40km/h程度)のエンジン騒音(2,000rpmの6次成分の振動:200Hz程度)の周波数域にチューニングされている。
【0029】
したがって、以上のように構成された第二の形態のステアリング用防音装置1によれば、定常走行時のエンジン騒音が、共鳴器10によって共鳴吸収される。また、共鳴吸収されない周波数域の騒音は、遮音壁14及びダストシール15によって車室Aへの放射が低減される。このため、車室A内の静粛性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るステアリング用防音装置の第一の形態をステアリング装置の一部と共に示す断面図である。
【図2】図1の要部を示す断面図である。
【図3】本発明に係るステアリング用防音装置の第二の形態をステアリング装置の一部と共に示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 防音装置
10 共鳴器
10a 音響孔
10b 内部空洞
11,13 共鳴器本体
12 ダイナミックダンパ
121 内環
122 環状質量体
123 弾性体
14 遮音壁
14a ステアリングシャフト挿通筒部
15 ダストシール(密封手段)
2 ダッシュパネル
3 ステアリング装置
31 ステアリングシャフト
A 車室
B エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフト(31)が貫通された共鳴器(10)を備え、この共鳴器(10)に音響孔(10a)が開設されたことを特徴とするステアリング用防音装置。
【請求項2】
共鳴器(10)が、軸方向一端が開放された共鳴器本体(11)と、その開放端部(11c)を閉塞するように設けられたダイナミックダンパ(12)とからなり、このダイナミックダンパ(12)が、ステアリングシャフト(31)に固定された内環(121)と、前記共鳴器本体(11)側に配置された環状質量体(122)と、前記内環(121)と環状質量体(122)を弾性的に連結している弾性体(123)とからなることを特徴とする請求項1に記載のステアリング用防音装置。
【請求項3】
音響孔(10a)が共鳴器(10)におけるステアリングシャフト挿通部に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のステアリング用防音装置。
【請求項4】
共鳴器(10)におけるステアリングシャフト挿通部に、ステアリングシャフト(31)の外周を密封する密封手段(15)を有することを特徴とする請求項1に記載のステアリング用防音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−290432(P2007−290432A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117847(P2006−117847)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】