説明

ステアリング装置

【課題】操舵軸および左右転舵軸間の交差伝動部と、左右転舵軸間の同回転・逆回転切り替え機構部とを1ユニット化したステアリング装置を提案する。
【解決手段】ステアリングホイールから延在する操舵軸の先端に入力傘歯車16を設け、これに噛合させて出力傘歯車17L,17Rを設け、左右輪から延在する左右転舵軸12L,12Rのうち、軸12Lに傘歯車17Lを固設し、軸12R上に傘歯車17Rを回転自在に支持する。軸12Rにシフタ24をスプライン嵌合し、該シフタ24の両側にそれぞれ、傘歯車17L,17Rと共に回転するクラッチ部材25L,25Rを配置する。シフト部材26を介してアクチュエータ27によりシフタ24を軸線方向へ変位させ、シフタ24をクラッチ部材25Lまたは25Rにクラッチ係合させることにより、左右転舵軸同回転駆動状態と左右転舵軸逆回転状態との間での切り替えを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右輪からそれぞれ車幅方向内方へ延在し、個々の延在軸線周りにおける回転によって左右輪を転舵する左右転舵軸と、操舵入力により回転されて左右転舵軸を個々の延在軸線周りに回転させる共通な操舵軸と、左右転舵軸を相互に同方向へ回転させるか、相互に逆方向へ回転させるかの切り替えを行う同逆転切り替え機構とを具えたステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種ステアリング装置としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが知られており、
図17(a)に例示するごとく、主操舵輪(左右前輪)1L,1Rや左右後輪2L,2Rに用いて、左右前輪1L,1Rのみの転舵により、車両を通常通りに旋回走行させる通常旋回モードに有用であるのはもとより、
図17(b)に例示するごとく、主操舵輪(左右前輪)1L,1Rおよび左右後輪2L,2Rに用いて、左右前輪1L,1Rの転舵時に左右後輪2L,2Rを逆方向へ転舵することにより(後輪逆相転舵により)、車両を小さな半径で旋回走行させる小廻り旋回モードや、
図17(c)に例示するごとく、左右前輪1L,1Rの転舵時に左右後輪2L,2Rを同方向へ転舵することにより(後輪同相転舵により)、車両の安定した(アンダーステア傾向の)旋回走行を行わせる旋回走行安定モードや、
図17(d)に例示するごとく、左右前輪1L,1Rの相互逆向き転舵および左右後輪2L,2Rの相互逆向き転舵と、4輪の個別モータ駆動とにより、車両を同じ位置において回転させる定点回転モードや、
図17(e)に例示するごとく、左右前輪1L,1Rの90度転舵および左右後輪2L,2Rの90度転舵と、4輪の個別モータ駆動とにより、車両を車幅方向に走行させる横移動モードを実現することができる。
【0003】
ところで従来のステアリング装置は、上記のごとき多用なモードを実現し得るよう左右転舵軸と操舵軸との間を連結するに際し、以下の構成を採用していた。
ステアリングホイールや操舵アクチュエータからの操舵入力を伝達される操舵軸を、右転舵軸の一方と交差するよう配置してこの交差部に、操舵軸から当該一方の転舵軸へ操舵入力が回転として伝達されるようにする伝動機構を設け、
当該一方の転舵軸と他方の転舵軸との間に、該一方の転舵軸から他方の転舵軸へ回転がそのまま伝達される左右転舵軸同回転状態、および、上記一方の転舵軸から他方の転舵軸へ回転が逆転下に伝達される左右転舵軸逆回転状態の間での状態切り替えを司る同逆転切り替え機構を設けていた。
【特許文献1】特開2007−022159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来のように、操舵軸および左右転舵軸間の交差部に設けて操操舵軸から左右転舵軸へ操舵入力を伝達するための伝動機構と、操舵軸から操舵入力を伝達される左右転舵軸の一方に対し他方の左右転舵軸を直結または逆転下に結合するための同逆転切り替え機構とが別ユニットであるのでは、
ステアリング装置の小型化、コンパクト化が困難であり、ステアリング装置の設置スペースに制限のある車両用ステアリング装置として、その応用範囲が限られるという問題を生ずる。
【0005】
本発明は、上記の伝動機構および同逆転切り替え機構を1ユニット化して操舵軸および左右転舵軸間の交差部に設け得る構成となすことで、ステアリング装置の小型化およびコンパクト化を可能にし、ステアリング装置の設置スペースに制約の多い車両用としても大いに有用なステアリング装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため、本発明のステアリング装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず、本発明の前提となるステアリング装置を説明するに、これは、
左右輪からそれぞれ車幅方向内方へ延在し、個々の延在軸線周りにおける回転によって左右輪を転舵する左右転舵軸を具え、操舵入力により回転されて前記左右転舵軸を個々の延在軸線周りに回転させる共通な操舵軸を設け、前記左右転舵軸を相互に同方向へ回転させる状態と相互に逆方向へ回転させる状態との間での切り替えを行う同逆転切り替え機構を有したものである。
【0007】
本発明は、かかるステアリング装置において、
前記操舵軸を、前記左右転舵軸の延在軸線と交差する方向へ延在させて、該延在する操舵軸先端と左右転舵軸の相互隣接端部との間にそれぞれ歯車組を介在させ、
これら歯車組のうち、一方の歯車組は対応する左右転舵軸へ回転が伝達され得るよう該対応する左右転舵軸に結合するが、他方の歯車組は対応する左右転舵軸へ回転が伝達されないよう該対応する左右転舵軸に対し非結合とし、
前記他方の歯車組に係わる左右転舵軸を、前記一方の歯車組に係わる左右転舵軸に結合するか、前記他方の歯車組に結合するかの切り替えを行う切り替えクラッチにより、前記同逆転切り替え機構を構成したものである。
【発明の効果】
【0008】
かかる本発明のステアリング装置によれば、以下の作用効果が奏し得られる。
操舵軸への操舵入力は、上記一方の歯車組を介して対応する側の左右転舵軸へ常時伝達される。
切り替えクラッチが、上記他方の歯車組に係わる左右転舵軸を上記一方の歯車組に係わる左右転舵軸に結合する場合、左右転舵軸はそれぞれ同じ方向に回転され、左右輪を同じ方向へ転舵することができる。
この間、上記他方の歯車組は操舵軸への操舵入力により逆方向へ回転される。
よって、切り替えクラッチが、上記他方の歯車組に係わる左右転舵軸を当該他方の歯車組に結合する場合、左右転舵軸は相互に逆方向に回転され、左右輪を逆向きに転舵することができる。
【0009】
ところで上記した本発明の構成によれば、操舵軸から左右転舵軸へ操舵入力を伝達する伝動機構の用をなす上記の歯車組と、左右転舵軸を相互に同回転させるか逆回転させるかの切り替えを行う同逆転切り替え機構の用をなす切り替えクラッチとを、左右転舵軸および操舵軸の三者交差部に1ユニット化して設けることができる。
従って、ステアリング装置の小型化およびコンパクト化が可能であり、ステアリング装置の設置スペースに制約の多い車両用としても本発明のステアリング装置は大いに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施例になるステアリング装置の全体構成図である。
実施例1のステアリング装置は、前輪ステアリング機構101と、後輪ステアリング機構102と、操舵モード設定スイッチ(操舵モード設定手段)201と、コントロールユニット(転舵制御手段)202と、アクチュエータドライバ203と、を備えている。
【0011】
図2は、前輪ステアリング機構101の構成図である。
ステアリングホイール103が連結されたコラムシャフト上には、操舵角、操舵速度の検出手段である操舵角センサ(操舵状態検出手段)104が配置されている。
【0012】
操舵力アシストモータ105で増幅されたステアリングホイール103の回転トルクはステアリング装置10の操舵軸11に入力される。ステアリング装置10は、詳しくは後述するが、この回転トルクを車幅方向に配された左転舵軸12Lに伝達するとともに、この回転トルクの回転方向を正逆転方向で切り替え可能に右転舵軸12Rに伝達する。
【0013】
左右の転舵軸12L,12Rに伝達された回転トルクは、それぞれ等速ジョイント3L,3Rを介して交差軸歯車組4L,4Rに伝達され、非円形歯車列からなる車輪操向歯車組5L,5Rを駆動することにより、左右のナックル6L,6Rが回転し、前輪1L,1Rが転舵する。
【0014】
前輪1L,1Rには、駆動モータ106L,106Rのモータ軸が連結されている。交差軸歯車組4L,4Rおよび車輪操向歯車組5L,5Rは、サスペンションサポート107L,107Rとアッパアーム108L,108Rにより車体に懸架されている。また、駆動モータ106L,106Rは、ロアアーム109L,109Rにより車体に懸架されている。
【0015】
図3は、後輪2L,2Rを転舵する後輪ステアリング機構102の構成図である。このステアリング機構102は、転舵モータ(転舵手段)111により駆動される。転舵モータ111には、転舵モータ111の回転角を検出するモータ角度センサ112が付設されている。なお、前述した前輪ステアリング機構101と共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】
操舵モード設定スイッチ201は、運転者が図17(a)〜(e)に示す通常走行(通常旋回)、小回り旋回、旋回走行安定、その場回転(定点回転),あるいは横移動のいずれかを選択するスイッチであり、操舵モード設定スイッチ201から出力されるモード選択信号は、コントロールユニット202へ出力される。
【0017】
コントロールユニット202は、操舵角センサ104、モータ角度センサ112、操舵モード設定スイッチ201からのモード選択信号、車速等の走行状態に応じて、目標アシスト量、左右輪の目標転舵方向、目標後輪転舵量をそれぞれ算出し、アクチュエータドライバ203へ出力する。
【0018】
アクチュエータドライバ203は、目標アシスト量に応じて操舵力アシストモータ105を駆動し、運転者の操舵をアシストする。また、左右輪の目標転舵方向に応じて前輪ステアリング機構101に設けたステアリング装置10の正逆転方向を切り替える。また、目標後輪転舵量に応じて転舵モータ111を駆動する。また、左右輪の目標転舵方向に応じて後輪ステアリング機構102に設けたステアリング装置10の正逆転方向を切り替える。
【0019】
図4は、本発明によるステアリング装置10の一実施例を示す横断平面図で、11は、ステアリングホイール103や転舵モータ111からの操舵入力を受けて回転される操舵軸を示し、12L,12Rはそれぞれ、図4に示す主操舵輪(左右前輪)1L,1Rや左右後輪2L,2Rから車幅方向内方へ延在する左右転舵軸を示す。
【0020】
左右転舵軸12L,12Rは、操舵軸11により延在軸線周りに回転されて左右輪1L,1R(2L,2R)を転舵するものとし、操舵軸11および左右転舵軸12L,12R間の結合は、これを以下のようにして行う。
左右転舵軸12L,12Rは、左右輪1L,1R(2L,2R)から遠い両者の隣接端部を端面12aにおいて相互に同軸に突き合わせ、この突き合わせ部において左右転舵軸12L,12Rの延在軸線と交差するよう操舵軸11を配置する。
【0021】
操舵軸11はボールベアリング13,14により回転自在に支持してケース15内に支承し、ケース15内における操舵軸11の先端に入力傘歯車16を固設する。
そして、入力傘歯車16に噛合する出力傘歯車17L,17Rを設け、出力傘歯車17Lは、左転舵軸12Lにセレーション嵌合してこれと共に回転可能とし、出力傘歯車17Rは、右転舵軸12R上に回転自在に嵌合してこれに対し相対回転可能とする。
【0022】
出力傘歯車17Rとケース15との間に介在させたボールベアリング18、および、右転舵軸12Rとケース15との間に介在させたボールベアリング19により、右転舵軸12Rをケース15に対し回転自在に支持する。
出力傘歯車17Lとケース15との間に介在させたニードルベアリング21、および、左転舵軸12Lとケース15との間に介在させたニードルベアリング22により、左転舵軸12Lをケース15に対し回転自在に支持する。
【0023】
左右転舵軸12L,12Rの相互突き合わせ部に配して切り替えクラッチ23を設け、この切り替えクラッチ23は、右転舵軸12Rを左転舵軸12Lに結合するか、右転舵軸12R上で回転する出力傘歯車17Rに結合するかの切り替えを行い得る以下の構成とする。
つまり、左右転舵軸12L,12Rの突き合わせ端面12aに連なる右転舵軸12Rの端部に、シフタ24を軸線方向へ変位可能に回転係合するようスプライン嵌合して設け、
左転舵軸12Lに近いシフタ24の側にあって、出力傘歯車17L(従って左転舵軸12L)に同軸に結合したクラッチ部材25L、および、右転舵軸12Rに近いシフタ24の側にあって、出力傘歯車17Rに同軸に結合したクラッチ部材25Rをそれぞれ設け、
これらシフタ24およびクラッチ部材25L,25Rにより切り替えクラッチ23を構成する。
【0024】
シフタ24は図5に明示するごとく、軸線方向両側にそれぞれ円周方向等間隔に配した複数個の同様な係合突起24L,24Rを有し、
シフタ24を図4に示す左右転舵軸同回転位置に変位させるとき、係合突起24Lが図示のごとくクラッチ部材25Lの係合凹部内に進入して、シフタ24(従って右転舵軸12R)を左転舵軸12Lに直結させ、
シフタ24を図4に示す左右転舵軸同回転位置から逆方向へ変位させて左右転舵軸逆回転位置にするとき、係合突起24Rがクラッチ部材25Rの係合凹部内に進入して、シフタ24(従って右転舵軸12R)を出力傘歯車17Rに結合させるものとする。
【0025】
ただし、シフタ24に設ける係合突起24L,24Rの高さは、クラッチ部材25L,25R間の間隔との関連において、シフタ24の上記変位中に係合突起24L(24R)が対応するクラッチ部材25L(25R)の係合凹部から抜け出る前に、反対側におけるクラッチ部材25R(25L)の係合凹部に進入し始めるような高さとし、
これによりシフタ24の如何なる変位位置においても、係合突起24L,24Rの双方が同時に対応するクラッチ部材25L(25R)の係合凹部に対し非係合にされることのないようにするのが良い。
【0026】
シフタ24の上記変位を行わせるためのシフト機構は以下の構成とする。
シフタ24の外周に図5に明示するごとく、一対の外周突条24a,24bで画成された外周条溝24cを設け、この外周条溝24cに図4のごとく進入して、一定の遊びをもって軸線方向に係合するシフト部材26を設ける。
シフト部材26は、ケース15に固設したシフトアクチュエータ27のプッシュロッド27aに固設し、これらシフト部材26およびプッシュロッド27aをリターンスプリング28により図示の非作動位置に弾支する。
【0027】
シフトアクチュエータ27のOFF時は、リターンスプリング28によりシフト部材26およびプッシュロッド27aが図4に示す非作動位置に保たれ、シフト部材26は突条24aとの係合によりシフタ24を、その突起24Lがクラッチ部材17L(左転舵軸12L)と係合した左右転舵軸同回転位置にするものとする。
シフトアクチュエータ27のON時は、プッシュロッド27aがリターンスプリング28に抗して突出し、シフト部材26を図4に示す位置から図の右方向へ作動させることから、シフト部材26は突条24bとの係合によりシフタ24を、その突起24Rがクラッチ部材17R(出力傘歯車17R)と係合した左右転舵軸逆回転位置にするものとする。
【0028】
上記実施例の作用を以下に説明する。
左右輪を相互に同じ方向へ転舵するに際してはシフトアクチュエータ27をOFFする。
この時、シフト部材26およびプッシュロッド27aがリターンスプリング28により図4に示す非作動位置にされ、シフト部材26は図6に明示するごとく突条24aとの係合によりシフタ24を、突起24Lがクラッチ部材25L(左転舵軸12L)と係合した左右転舵軸同回転位置にする。
この場合、図6に矢印で示すごとく、操舵軸11からの操舵入力が入力傘歯車16および出力傘歯車17Lを順次経て左転舵軸12Lに伝達されると共に、出力傘歯車17Lからクラッチ部材25Lおよびシフタ24を順次経て右転舵軸12Rにも同様に伝達され、左右転舵軸12L,12Rを相互に同じ方向へ回転させることになる結果、左右輪を要求通り共に同じ方向へ転舵することができる。
【0029】
左右輪を相互に逆の方向へ転舵するに際してはシフトアクチュエータ27をONする。
この時、プッシュロッド27aがシフト部材26をリターンスプリング28に抗して図4に示す非作動位置から図7に示す位置へと変位させる。これがためシフト部材26は図7に明示するごとく突条24bとの係合によりシフタ24を、突起24Rがクラッチ部材25R(出力傘歯車17R)と係合した左右転舵軸逆回転位置にする。
この場合、図7に矢印で示すごとく、操舵軸11からの操舵入力が入力傘歯車16および出力傘歯車17Lを順次経て左転舵軸12Lに伝達されると共に、入力傘歯車16、出力傘歯車17R、クラッチ部材25Rおよびシフタ24を順次経て右転舵軸12Rにも伝達される。
ところで、入力傘歯車16に噛合する出力傘歯車17L,17Rが相互に逆向きに回転されていることから、左右転舵軸12L,12Rは相互に逆の方向へ回転されることとなり、左右輪を要求通り相互に逆の方向へ転舵することができる。
【0030】
ところで本実施例のステアリング装置によれば図4に示すように、操舵軸11から左右転舵軸12L,12Rへ操舵入力を伝達する伝動機構の用をなす歯車組16,17Lおよび16,17Rと、左右転舵軸12L,12Rを相互に同回転させるか逆回転させるかの切り替えを行う同逆転切り替え機構の用をなす切り替えクラッチ23とを、左右転舵軸12L,12Rおよび操舵軸11の三者交差部に1ユニット化して設けることができるため、
ステアリング装置の小型化およびコンパクト化が可能であり、ステアリング装置の設置スペースに制約の多い車両用としても本実施例のステアリング装置は大いに有用である。
【0031】
そして本実施例のように、上記の歯車組を操舵軸11に結合した入力傘歯車16、および、左右転舵軸12L,12R上に設けた出力傘歯車17L,17Rにより構成し、これら出力傘歯車17L,17Rのうち、一方の出力傘歯車17Lを対応する左右転舵軸12L上に結合し、他方の出力傘歯車17Rを対応する左右転舵軸12R上に回転自在に嵌合させ、
上記の切り替えクラッチ23を、上記他方の出力傘歯車17Rに係わる左右転舵軸12Rに対し軸線方向相対変位可能に回転係合させたシフタ24と、該シフタ24を軸線方向に変位させるアクチュエータ27とで構成し、
アクチュエータ27によるシフタ24の一方向変位によりシフタ24を上記一方の出力傘歯車17Lに係わる左右転舵軸12Lに回転係合させて左右転舵軸同回転状態を得ることができるよう、また、アクチュエータ27によるシフタ24の他方向変位によりシフタ24を上記他方の出力傘歯車17Rに回転係合させて左右転舵軸逆回転状態を得ることができるようにしたから、
コンパクトな構成で、歯車組16,17Lおよび16,17Rと、切り替えクラッチ23との上記1ユニット化を実現することができ、更なるステアリング装置の小型化およびコンパクト化が可能であって前記の作用効果を一層顕著なものにすることができる。
【0032】
ところで上記実施例においては、シフタ24を出力傘歯車17Lに係わる左右転舵軸12Lと回転係合する左右転舵軸同回転位置(図16参照)、および、出力傘歯車17Rと回転係合する左右転舵軸逆回転位置(図7参照)間で変位させるに際し、左右輪が転舵されていない中立位置にないときに(左右輪が転舵された状態にあるときに)当該シフタ24の変位による状態切り替えを行うと、当該切り替え後の操舵で左右輪が運転者の意図しないバラバラな転舵角を持つ状態に転舵される不都合を生ずる。
かかる不都合を回避するため、シフタ24の変位による状態切り替えは、左右輪が転舵されていない中立位置にある時にのみ可能となるようにし、それ以外ではシフタ24の変位による状態切り替えを行うことができないようにするクラッチ切り替え制限手段を切り替えクラッチ23に設けるのが好ましい。
【0033】
図8,図9は、図4〜図7に示す実施例に用いるよう構成した上記クラッチ切り替え制限手段の一例構成である。
図8に示すごとく、シフタ24の外周に指向する入力傘歯車16の端面(図示例では、この端面に操舵軸11の内端面が露出しているため、当該操舵軸11の内端面)に中心突起11aと、これに同心の円環12bとを設ける。
そして、入力傘歯車16(操舵軸11)が左右輪を転舵しない中立位置にする回転位置にある時において、左側の転舵軸12Lに最も近い上記同心円環11bの箇所を部分的に切除することにより、同心円環11bに切り欠き11cを設定する。
【0034】
中心突起11aおよび同心円環11bの高さは、図10(a),(b)に示すようにシフタ24の前記した変位時にその外周突条24a,24bと干渉する高さとし、
同心円環11bの直径は、図10(b)に示すようにシフタ24の外周突条24a,24bを同時に収容し得る直径とし、
切り欠き11cの大きさおよび深さは、シフタ24の図10(a),(b)に示す変位時にその外周突条24a,24bの通過を許容する大きさおよび深さとする。
【0035】
図9に示すように、シフタ24が左右輪を転舵しない中立位置にする回転位置にある時、シフタ変位方向において中心突起11aと整列する外周突条24bの箇所を部分的に切除することにより、外周突条24bに切り欠き24dを設定する。
該切り欠き24dの大きさおよび深さは、シフタ24の図10(a),(b)に示す変位時に中心突起11aの通過を許容する大きさおよび深さとする。
【0036】
かかる構成のクラッチ切り替え制限手段は以下のように機能する。
左右輪が中立位置にあるとき、入力傘歯車16(操舵軸11)およびシフタ24はそれぞれ、図10(a),(b)に示すように切り欠き11c,24dおよび中心突起11aがシフタ24の変位方向において相互に整列した回転位置にある。
これがため、シフタ24を図10(a)に矢印で示すごとく同図の左右転舵軸同回転位置から図10(b)に示す左右転舵軸逆回転位置へ変位させるとき、外周突条24bが切り欠き24dの存在によって中心突起11aを通過し得ると共に、外周突条24aが切り欠き11cの存在によって円環11bを通過し得ることから、シフタ24の図10(a)に示す左右転舵軸同回転位置から図10(b)に示す左右転舵軸逆回転位置への変位を妨げられることがなく、左右輪の非転舵中立状態のもとでは左右転舵軸同回転状態から左右転舵軸逆回転状態への切り替えが許可される。
【0037】
逆にシフタ24を図10(b)に矢印で示すごとく同図の左右転舵軸逆回転位置から図10(a)に示す左右転舵軸同回転位置へ変位させるときも、外周突条24bが切り欠き24dの存在によって中心突起11aを通過し得ると共に、外周突条24aが切り欠き11cの存在によって円環11bを通過し得ることから、シフタ24の図10(b)に示す左右転舵軸逆回転位置から図10(a)に示す左右転舵軸同回転位置への変位を妨げられることがなく、左右輪の非転舵中立状態のもとでは左右転舵軸逆回転状態から左右転舵軸同回転状態への切り替えが許可される。
【0038】
しかし左右輪が中立位置にないときは、入力傘歯車16(操舵軸11)およびシフタ24はそれぞれ、図10(a),(b)に示す相対回転位置からずれており、切り欠き11c,24dおよび中心突起11aがシフタ24の変位方向において相互に整列しない。
これがため、シフタ24を図10(a)に矢印で示すごとく同図の左右転舵軸同回転位置から図10(b)に示す左右転舵軸逆回転位置へ変位させようとしても、外周突条24bが中心突起11aに衝突すると共に、外周突条24aが円環11bに衝突することから、シフタ24の図10(a)に示す左右転舵軸同回転位置から図10(b)に示す左右転舵軸逆回転位置への変位を妨げられ、左右輪が転舵されている状態のもとでは左右転舵軸同回転状態から左右転舵軸逆回転状態への切り替えが禁止される。
【0039】
逆にシフタ24を図10(b)に矢印で示すごとく同図の左右転舵軸逆回転位置から図10(a)に示す左右転舵軸同回転位置へ変位させようとする場合も、外周突条24bが中心突起11aに衝突すると共に、外周突条24aが円環11bに衝突することから、シフタ24の図10(b)に示す左右転舵軸逆回転位置から図10(a)に示す左右転舵軸同回転位置への変位を妨げられ、左右輪が転舵されている状態のもとでは左右転舵軸逆回転状態から左右転舵軸同回転状態への切り替えが禁止される。
【0040】
以上のように、左右輪の非転舵中立状態のもとでのみ、シフタ24の変位による左右転舵軸逆回転状態から左右転舵軸同回転状態への切り替えを許可し、左右輪が転舵されている状態のもとでは当該切り替えを禁止するよう制限する場合、
左右輪が転舵されていない中立位置にないときに(左右輪が転舵された状態にあるときに)シフタ24の変位による状態切り替えが行われる場合の前記した不都合、つまり、当該切り替え後の操舵で左右輪が運転者の意図しないバラバラな転舵角を持つ状態に転舵される不都合を回避することができる。
【0041】
なお、かかる作用効果を達成するためのクラッチ切り替え制限手段を図8,図9に示すごとく、シフタ24の外周突条24bの特定部位に設けた切り欠き24dと、シフタ24の外周に指向する入力傘歯車16の端面(操舵軸11の内端面)に設けた中心突起11aおよび切り欠き11c付きの同心円環11bとで構成する場合、
切り欠き24dと、中心突起11aおよび切り欠き11c付き同心円環11bとを追加するのみで所期の目的を安価に達成することができる。
【0042】
ところで図8,図9に示すクラッチ切り替え制限手段では、歯車組16,17Lおよび16,17Rのギヤ比を1:1にすると、以下の理由から上記の作用効果を確実に達成するという訳にはゆかなくなる。
つまり、歯車組16,17Lおよび16,17Rのギヤ比を1:1にすると、操舵軸11および左右転舵軸12L,12Rが整数回転する度に、左右輪が中立位置でないにもかかわらず図10(a),(b)の整列状態が何回も発生し、左右輪が中立位置でないのに前記の状態切り替えが可能になって前記の問題解決を実現し得なくなる。
従って、図8,図9に示すクラッチ切り替え制限手段を採用する場合、歯車組16,17Lおよび16,17Rのギヤ比を1:1以外のギヤ比にする必要があって、設計上の制約が発生する。
【0043】
図11は、かかる設計上の制約を受けることがなく、歯車組16,17Lおよび16,17Rのギヤ比を1:1にしても前記の作用効果を奏し得るようにしたクラッチ切り替え制限手段を示す。
本例では図11(a),(b)に示すように、シフタ24の変位方向におけるシフト部材26の両側にそれぞれ爪車31L,31Rを設け、これらを個々の軸32L,32Rによりシフト部材26に対し回転自在に支持する。
これら爪車31L,31Rはそれぞれ、図11(c)に示すごとく多数の外周爪31a,31bを有し、これら外周爪31a,31bを円周方向等間隔に配置する。
【0044】
シフト部材26は前記した通り、シフタ24の外周条溝24c内に軸線方向の遊びをもって係合することによりシフタ24の前記変位を行うものとする。
そして、シフタ24がシフト部材26により図11(a)の左右転舵軸同回転位置にされるとき、対応する側とは反対側における爪車31Rの外周爪31a,31bに係合して該爪車31Rを外周爪31a,31bの1配列ピッチ分ずつ回転させる1個の駆動ピン33Rをシフタ24の外周(突条24bの外周)に設ける。
また、シフタ24がシフト部材26により図11(b)の左右転舵軸逆回転位置にされるとき、対応する側とは反対側における爪車31Lの外周爪31a,31bに係合して該爪車31Lを外周爪31a,31bの1配列ピッチ分ずつ回転させる1個の駆動ピン33Lをシフタ24の外周(突条24aの外周)に設ける。
【0045】
駆動ピン33L,33Rによる両爪車31L,31Rの回転時に、これら爪車31L,31Rが確実に外周爪31a,31bの1配列ピッチ分ずつ回転されるようにするために、両爪車31L,31Rの相互に隣り合う外周爪31a,31b間に進入する弾性ピン34L,34Rをシフト部材26に設ける。
これら弾性ピン34L,34Rは爪車31L,31Rから遠い端部をシフト部材26に固設し、反対側の先端を自由に弾性変形可能な状態にしておく。
かくして弾性ピン34L,34Rは、爪車31L,31Rが駆動ピン33L,33Rにより外周爪31a,31bの1配列ピッチ分だけ回転される間は弾性変形して当該回転を許容し、当該回転後は爪車31L,31Rが慣性で更に回転されるのを、弾性ピン34L,34Rの先端が爪車31L,31Rの隣り合う外周爪31a,31b間に進入して阻止することができる。
【0046】
なお、両爪車31L,31Rの外周爪31a,31bのうち、左右輪が非転舵中立位置にあるときクラッチ部材25L,25Rに接近する外周爪31bは、クラッチ部材25L,25Rと軸線方向に重合しないよう短くし、それ以外の外周爪31aは、クラッチ部材25L,25Rと軸線方向に重合するような長さとする。
【0047】
上記したクラッチ切り替え制限手段は以下のように機能する。
シフタ24がシフト部材26により図11(a)に示すごとく左右転舵軸同回転位置にされている間、駆動ピン33Rはシフタ24の1回転毎に爪車31Rを外周爪31a,31bの1配列ピッチ分ずつ回転させ、
また、シフタ24がシフト部材26により図11(b)に示すごとく左右転舵軸逆回転位置にされる間、駆動ピン33Lはシフタ24の1回転毎に爪車31Lを外周爪31a,31bの1配列ピッチ分ずつ回転させるが、
何れの場合においても、左右輪が非転舵中立位置になる時、爪車31L,31Rは図11(a),(b)に示すごとく、短い外周爪31bがクラッチ部材25L,25Rに接近した回転位置となる。
【0048】
ところで、短い外周爪31bが前記した通りクラッチ部材25L,25Rと軸線方向に重合しない長さであることから、シフト部材26はシフタ24を、図11(a)に示す左右転舵軸同回転位置と、図11(b)に示す左右転舵軸逆回転位置との間で、何ら制限されることもなく自由に変位可能であり、左右輪が非転舵中立位置である場合は、左右転舵軸同回転状態と左右転舵軸逆回転状態との間での切り替えが可能である。
【0049】
しかして、左右輪が中立位置にない転舵状態である間は、以下のようにして上記の切り替えが禁止される。
図12(a)に示すようにシフタ24がシフト部材26により左右転舵軸逆回転位置にされている場合につき説明する。
左右輪が中立位置にない転舵状態である間は、駆動ピン33Lを介してシフタ24に連れ回される爪車31Lが図12(a)に示すごとく、短い外周爪31bではなく長い外周爪31aがクラッチ部材25Lに接近した回転位置となる。
【0050】
ところで、長い外周爪31aが前記した通りクラッチ部材25Lと軸線方向において重合するため、シフト部材26によりシフタ24を図12(a)の左右転舵軸逆回転位置から図の左方へ変位させて左右転舵軸逆回転位置にしようとする時、図12(b),(c)に示すごとくクラッチ部材25Lに接近した長い外周爪31aがクラッチ部材25Lに衝接して、それ以上はシフタ24を図の左方へ変位させ得ず、左右転舵軸同回転位置に向け変位させることができない。
よって、左右輪が中立位置にない転舵状態である間は、図12(a)の左右転舵軸逆回転状態から図11(a)の左右転舵軸同回転状態への切り替えを禁止することができる。
なお、シフト部材26によりシフタ24を逆に左右転舵軸同回転位置から左右転舵軸逆回転位置へと切り替える場合も、左右輪が中立位置にない転舵状態である間は、同様の原理により当該切り替え(左右転舵軸同回転状態から左右転舵軸逆回転状態への切り替え)を禁止することができる。
【0051】
本実施例においても、左右輪の非転舵中立状態のもとでのみ、シフタ24の変位による左右転舵軸逆回転状態から左右転舵軸同回転状態への切り替えを許可し、左右輪が転舵されている状態のもとでは当該切り替えを禁止するよう制限するため、前記したと同様の作用効果を達成し得る。
しかも本実施例のクラッチ切り替え制限手段の構成によれば、歯車組16,17Lおよび16,17Rのギヤ比を1:1以外のギヤ比にした場合においても当該作用効果を達成することができ、設計上の制約を受けることがない利点がある。
【0052】
図13(a)は、シフタ24に設ける係合突起24L(24R)のうち、任意の係合突起24L’(24R’)を他の係合突起24L(24R)と形状を異ならせると共に、左右輪が中立位置にある時に当該異形の係合突起24L’(24R’)を係合させるべきクラッチ部材25L,25Rの係合凹部25aを、当該異形の係合突起24L’(24R’)が係合可能なように対応した形状となしたものである。
かかる構成になるクラッチ係合制限手段によれば、図13(b)に示すように左右輪1L,1Rが中立位置である場合、図13(a)に示すように異形の係合突起24L’(24R’)がクラッチ部材25L,25Rの対応する形状の係合凹部25aと正対し、クラッチ切り替えが可能である。
【0053】
ところで、図14(a)に矢印で示すシフタ24の回転により図14(b)のごとく左右輪1L,1Rが転舵されている場合は、図14(a)に示すように異形の係合突起24L’(24R’)がクラッチ部材25L,25Rの対応する形状の係合凹部25aと正対せず、クラッチ切り替えが禁止される。
よって本実施例でも、左右輪1L,1Rが非転舵中立である時のみ、シフタ24の変位による左右転舵軸逆回転状態および左右転舵軸同回転状態間での切り替えが許可され、左右輪1L,1Rが転舵されている状態のもとでは当該切り替えを禁止することとなり、前記したと同様の作用効果を達成することができる。
【0054】
なお、上記のように係合突起24L’(24R’)および対応する係合凹部25aの形状を他のものと異ならせる代わりに、
係合突起24L(24R)を不均等配置にすると共に、クラッチ部材25L,25R上の対応する係合凹部も同様な不均等配置にすることでも、所期の目的を達成することができる。
かように、係合突起24L’(24R’)および対応する係合凹部25aの形状を他のものと異ならせるだけのクラッチ切り替え制限手段や、係合突起24L(24R)を不均等配置にすると共に、クラッチ部材25L,25R上の対応する係合凹部を同様な不均等配置にするだけのクラッチ切り替え制限手段は、クラッチ切り替え制限手段のコスト低減に大いに有利である。
【0055】
なお図11に示す実施例では、シフタ24の外周(突条24a,24bの外周)に設ける駆動ピン33L,33Rを1個ずつとし、シフタ24の1回転当たり爪車31L,31Rが外周爪31a,31bの1配列ピッチずつ回転するようにしたが、
図15および図16に示すように、複数個(図示例では3個)の駆動ピン33a,33b,33cをシフタ24の外周に設けて、シフタ24の1回転当たりにおける爪車31L,31Rの回転角を大きくしてもよい。
ただしこの場合、1個の駆動ピン33aは、左右輪が中立位置になる時のシフタ24および爪車31L,31Rの回転位置において、爪車31L,31Rに指向するようシフタ24の外周に設ける。
【0056】
そして、他の駆動ピン33b,33cは、駆動ピン33aを挟んでその両側に配置するが、該駆動ピン33aに対する円周方向離間角度θを、最大で図15に示すごとく係合突起24L(24R)の配列ピッチ角αの半分とし、最小で図16に示すごとく外周爪31a,31bの配列ピッチ角βとし、円周方向離間角度θをこれら両者間の値とする(β<θ<α/2)。
この場合、シフタ24の1回転当たり、駆動ピン33a,33b,33cの個数に呼応して外周爪31a,31bの3配列ピッチずつ回転され、左右輪が中立位置にある時のみシフタ24を軸線方向に変位させて、左右転舵軸同回転状態および左右転舵軸逆回転状態間での切り替えを許可することができる。
【0057】
なお、上記した何れの実施例を採用するにしても、入力傘歯車16および出力傘歯車17L,17Rの歯数は偶数とするのが良い。
この場合、両出力傘歯車17L,17Rの歯先および歯底が対称になり、シフタ24の両側に設ける係合突起24L,24Rを左右で同位置に配置し得るため、左右で部品を共通化し得て部品管理を容易にすることができる。
【0058】
また前記した通り、シフタ24に設ける係合突起24L,24Rの高さを、クラッチ部材25L,25R間の間隔との関連において、シフタ24の変位中に係合突起24L(24R)が対応するクラッチ部材25L(25R)の係合凹部から抜け出る前に、反対側におけるクラッチ部材25R(25L)の係合凹部に進入し始めるような高さとしたから、
シフタ24の如何なる変位位置においても、係合突起24L,24Rの双方が同時に対応するクラッチ部材25L(25R)の係合凹部に対し非係合にされることがなくなり、左右輪が運転者の意図に反してバラバラに転舵される懸念を払拭することができる。
【0059】
また、左右転舵軸12L,12Rを両者の捻り剛性が等しくなるよう構成するのがよく、この場合、左右転舵軸12L,12Rの捻り剛性が異なることで左右輪転舵角が異なってしまうという弊害を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例になるステアリング装置の全体構成図である。
【図2】同実施例の前輪ステアリング機構の構成図である。
【図3】同実施例の後輪ステアリング機構の構成図である。
【図4】同実施例のステアリング装置の要部を示す横断平面図である。
【図5】同実施例におけるシフタの詳細を示す斜視図である。
【図6】同実施例のステアリング装置を、左右転舵軸同回転状態で示す作用説明用要部拡大断面図である。
【図7】同実施例のステアリング装置を、左右転舵軸逆回転状態で示す作用説明用要部拡大断面図である。
【図8】本発明の他の実施例になるステアリング装置の入力傘歯車を示す斜視図である。
【図9】同実施例のステアリング装置に、図8の入力傘歯車と組み合わせて用いるシフタを示す、図5と同様な斜視図である。
【図10】同実施例におけるシフタの変位動作説明図で、 (a)は、左右輪が中立位置にされている時においてシフタを左右転舵軸同回転位置にした場合の動作説明図、 (b)は、同じく左右輪が中立位置にされている時においてシフタを左右転舵軸逆回転位置にした場合の動作説明図である。
【図11】本発明の更に他の実施例になるステアリング装置の左右転舵軸同回転・逆回転切り替えクラッチを示し、 (a)は、該切り替えクラッチを左右転舵軸同回転状態で示す断面図、 (b)は、該切り替えクラッチを左右転舵軸逆回転状態で示す断面図、 (c)は、該切り替えクラッチに用いる爪車の正面図である。
【図12】同実施例における左右転舵軸同回転・逆回転切り替えクラッチの動作説明図で、 (a)は、左右輪が転舵されている場合において該切り替えクラッチが左右転舵軸逆回転状態である時の断面図、 (b)は、同じく左右輪が転舵されている場合において該切り替えクラッチを左右転舵軸逆回転状態から左右転舵軸同回転状態へ切り替える途中での断面図、 (c)は、該クラッチ切り替え途中において爪車の外周爪がクラッチ部材に衝接して該切り替えが禁止された状態を示す正面図である。
【図13】本発明の更に別の実施例になるステアリング装置の左右転舵軸同回転・逆回転切り替えクラッチの説明図で、 (a)は、該切り替えクラッチを成すシフタおよびクラッチ部材を相互に係合可能な相対回転位置で示す正面図および断面図、 (b)は、これらシフタおよびクラッチ部材が相互に係合可能な相対回転位置になる時における左右輪の非転舵中立状態を示す車両の車輪配置図である。
【図14】同実施例になるステアリング装置の左右転舵軸同回転・逆回転切り替えクラッチの動作説明図で、 (a)は、該切り替えクラッチを成すシフタおよびクラッチ部材を、左右輪の転舵で相互に係合不能な相対回転位置になった状態を示す正面図および断面図、 (b)は、これらシフタおよびクラッチ部材が相互に係合不能な相対回転位置になる時における左右輪の転舵状態を示す車両の車輪配置図である。
【図15】本発明の更に他の実施例になるステアリング装置に設けたシフタおよび爪車の相関関係を示す正面図である。
【図16】本発明の更に別の実施例になるステアリング装置に設けたシフタおよび爪車の相関関係を示す正面図である。
【図17】本発明のステアリング装置を左右前輪に用いたり、左右後輪にも用いることで可能な、これら前後左右輪の転舵形態を示し、 (a)は、通常旋回(後輪非転舵)モードでの前後左右輪の転舵状態を示す車両の車輪配置図、 (b)は、小廻り旋回(後輪逆相転舵)モードでの前後左右輪の転舵状態を示す車両の車輪配置図、 (c)は、旋回走行安定(後輪同相転舵)モードでの前後左右輪の転舵状態を示す車両の車輪配置図、 (d)は、車両を同じ位置で回転させる定点回転モードでの前後左右輪の転舵状態を示す車両の車輪配置図、 (e)は、車両を車幅方向に横移動走行させる横移動モードでの前後左右輪の転舵状態を示す車両の車輪配置図である。
【符号の説明】
【0061】
1L,1R 左右前輪(主操舵輪)
2L,2R 左右後輪(副操舵輪)
10 ステアリング装置
11 操舵軸
11a 中心突起
11b 円環
11c 切り欠き
12L 左転舵軸
12R 右転舵軸
15 ケース
16 入力傘歯車
17L 出力傘歯車
17R 出力傘歯車
23 切り替えクラッチ
24 シフタ
24L,24R 係合突起
24a,24b 外周突条
24c 外周条溝
24d 切り欠き
25L,25R クラッチ部材
26 シフト部材
27 シフトアクチュエータ
31L,31R 爪車
31a,31b 外周爪
33L,33R 爪車駆動ピン
33a,33b,33c 爪車駆動ピン
34L,34R 弾性ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右輪からそれぞれ車幅方向内方へ延在し、個々の延在軸線周りにおける回転によって左右輪を転舵する左右転舵軸を具え、操舵入力により回転されて前記左右転舵軸を個々の延在軸線周りに回転させる共通な操舵軸を設け、前記左右転舵軸を相互に同方向へ回転させる状態と相互に逆方向へ回転させる状態との間での切り替えを行う同逆転切り替え機構を有したステアリング装置において、
前記操舵軸を、前記左右転舵軸の延在軸線と交差する方向へ延在させて、該延在する操舵軸先端と左右転舵軸の相互隣接端部との間にそれぞれ歯車組を介在させ、
これら歯車組のうち、一方の歯車組は対応する左右転舵軸へ回転が伝達され得るよう該対応する左右転舵軸に結合するが、他方の歯車組は対応する左右転舵軸へ回転が伝達されないよう該対応する左右転舵軸に対し非結合とし、
前記他方の歯車組に係わる左右転舵軸を、前記一方の歯車組に係わる左右転舵軸に結合するか、前記他方の歯車組に結合するかの切り替えを行う切り替えクラッチにより、前記同逆転切り替え機構を構成したことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置において、
前記切り替えクラッチによる切り替えを、左右輪が非転舵状態の中立位置にある時のみ許可するクラッチ切り替え制限手段を設けたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のステアリング装置において、
前記歯車組をそれぞれ、前記操舵軸の延在先端に固設した入力傘歯車と、該入力傘歯車に噛合させて前記左右転舵軸の相互隣接端部上にそれぞれ設けた出力傘歯車とで構成し、
これら出力傘歯車のうち、一方の出力傘歯車は対応する左右転舵軸上に結合するが、他方の出力傘歯車は対応する左右転舵軸上に回転自在に嵌合させたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載のステアリング装置において、
前記切り替えクラッチは、前記他方の歯車組に係わる左右転舵軸に対し軸線方向相対変位可能に回転係合させたシフタと、該シフタを軸線方向に変位させるアクチュエータとを具え、
該アクチュエータによるシフタの一方向変位により該シフタを前記一方の出力傘歯車に係わる左右転舵軸に回転係合させた左右転舵軸同回転位置となし、該アクチュエータによるシフタの他方向変位により該シフタを前記他方の出力傘歯車に回転係合させた左右転舵軸逆回転位置となすものであることを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
前記アクチュエータが、前記シフタの外周に設けた条溝内に係合するシフト部材を介し該シフタの前記変位を行うものである、請求項4に記載のステアリング装置において、
前記シフタの外周条溝を画成する突条および該突条の一部に設けた切り欠きと、前記シフタの外周に指向する前記入力傘歯車の端面に設けた中心突起、同心円環、および該同心円環の一部に設けた切り欠きとで前記クラッチ切り替え制限手段を構成し、
前記シフタの突条および切り欠きと、前記入力傘歯車の端面における中心突起、同心円環、および同心円環に設けた切り欠きとの相関により、前記切り替えクラッチによる切り替えを、左右輪が中立位置にある時のみ許可するよう構成したことを特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
前記アクチュエータが、前記シフタの外周に設けた条溝内に軸線方向の遊びをもって係合するシフト部材を介し該シフタの前記変位を行うものであり、該変位によりシフタが対応する側におけるクラッチ部材に回転係合して前記切り替えを行うものである、請求項4に記載のステアリング装置において、
前記シフタの変位方向における前記シフト部材の両側にそれぞれ、個々に回転自在に設けた爪車と、
前記シフタが前記左右転舵軸同回転位置にあるとき、対応する側とは反対側における前記爪車の外周爪に係合して該爪車を所定量だけ回転させるよう前記シフタの外周に設けた駆動ピン、および、前記シフタが前記左右転舵軸逆回転位置にあるとき、対応する側とは反対側における前記爪車の外周爪に係合して該爪車を所定量だけ回転させるよう前記シフタの外周に設けた駆動ピンとで前記クラッチ切り替え制限手段を構成し、
前記両爪車の外周爪のうち、左右輪が中立位置にあるとき前記クラッチ部材に接近する外周爪は、前記クラッチ部材と軸線方向に重合しないよう短くして前記切り替えクラッチによる切り替えを妨げないようにするが、それ以外の外周爪は、前記クラッチ部材と軸線方向に重合するような長さとして前記切り替えクラッチによる切り替えを禁止するようにすることで、左右輪が中立位置にある時のみ前記切り替えクラッチによる切り替えを許可するよう構成したことを特徴とするステアリング装置。
【請求項7】
前記シフタが前記変位により対応する側におけるクラッチ部材と、凹凸嵌合により回転係合して前記切り替えを行うものである、請求項4に記載のステアリング装置において、
前記シフタおよび両クラッチ部材に設ける前記凹凸嵌合部の形状を変えるか、若しくは、前記凹凸嵌合部を不均等配置にすることにより、左右輪が中立位置にある時のみ前記切り替えクラッチによる切り替えを許可するよう構成したことを特徴とするステアリング装置。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載のステアリング装置において、
前記入出力傘歯車の歯数を偶数としたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のステアリング装置において、
前記切り替えクラッチは、前記他方の歯車組に係わる左右転舵軸を、前記一方の歯車組に係わる左右転舵軸に結合するか、前記他方の歯車組に結合するかの切り替えを行うに際し、切り替え前の状態が解除される前に切り替え後の状態のための結合を開始しているよう構成したことを特徴とするステアリング装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のステアリング装置において、
前記左右転舵軸の捻り剛性が等しくなるよう構成したことを特徴とするステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2009−12685(P2009−12685A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178778(P2007−178778)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】