説明

ステッチング装置及びタイヤ成型装置

【課題】 グリーンタイヤを構成するゴム部材をステッチングする際に、皺や蛇行等が生じるのを防止しつつ、ゴム部材同士の圧着強度を高くしてゴム部材間の剥離及びエア入り等の欠陥の発生を抑制する。
【解決手段】 ゴム部材をステッチングする回転自在なステッチャーロール21の外周面に、複数のスパイク状のピン部材22を所定の間隔で配列させる。グリーンタイヤの成型時にはステッチャーロール21を矢印F方向に移動させ、円筒状のタイヤ成型ドラム10の外周に巻回されるゴム部材にピン部材22を所定の圧力で押し付ける。このピン部材22によりゴム部材を押圧し、部材間のエアを抜きながら部材同士を圧着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンタイヤ(生タイヤ)の成型工程において、タイヤ成型ドラムに巻回されたゴム部材を押圧して圧着するためのステッチング装置、及びこのステッチング装置とタイヤ成型ドラムとを備えたタイヤ成型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のタイヤとして、空気等の内圧を充填して使用される空気入りタイヤの他に、内圧充填の必要のないニューマチック形クッションタイヤ等の総ゴム構造のソリッドタイヤが知られている。このソリッドタイヤは、空気入りタイヤに比べて重量が高くなるものの、パンクやバースト等の故障が起こり難いとともに、荷重を負荷した際の変形が少なく車両の安定感が高いという特徴を有する。そのため、ソリッドタイヤは、高重量物の運搬や悪路面を走行する、例えばフォークリフト等の産業車両用タイヤとして広く用いられている。
【0003】
このようなソリッドタイヤの製造方法として、従来、未加硫のシート状ゴム部材を積層してグリーンタイヤを成型し、加硫成型して所定形状に成型する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この従来のソリッドタイヤの製造方法は、大きく分けて、グリーンタイヤの成型工程と、予熱工程と、加硫成型工程の3工程からなる。
図5は、このグリーンタイヤの成型工程を説明するための模式図であり、図5Aは、グリーンタイヤ70の成型途中の状態をタイヤ軸方向から見た断面図であり、図5Bは、成型後のグリーンタイヤ70の幅方向半断面図である。
【0005】
グリーンタイヤ70の成型工程では、図示のように、円筒状のタイヤ成型ドラム10上に、厚さ5mm程度の未加硫のシート状ゴム部材71を径方向内側から外側に向かって重ねて巻回してグリーンタイヤ70を成型する。成型後のグリーンタイヤ70は、図5Bに示すように、タイヤ成型ドラム10の外周上にゴム部材71が多層に積層されて断面略矩形に形成される。なお、このグリーンタイヤ70では、境界面72を挟んで径方向内側と外側に、それぞれベースゴム層73とトレッドゴム層74を構成する異なる特性を有するゴム部材71が積層されている。
【0006】
次に、予熱工程で、成型後のグリーンタイヤ70を加硫温度以下の所定温度まで加熱して予熱する。これは、このグリーンタイヤ70は、総ゴム構造で肉厚が極めて厚く中心部が昇温しにくいため、室温から加硫温度まで加熱する場合には、外表部に対して中心部が遅れて加硫温度に達し、その結果、中心部が最適加硫状態に達したときには、先に昇温した外表部が過加硫状態となり、タイヤ内外の性能が不均一となるからである。即ち、予熱工程でタイヤ内部の温度を上昇させて中心部の昇温遅れを抑制し、タイヤ内外の性能の不均一化を防止している。その後、グリーンタイヤ70を加硫成型用金型内に装入して所定の加硫温度に加熱しつつ、プレス圧を加えて型付けとゴム部材の一体化を行い、所定形状のソリッドタイヤを製造する。
【0007】
以上説明したソリッドタイヤを代表に、シート状のゴム部材71等を積層してグリーンタイヤ70を成型する際には、一般に、タイヤ成型ドラム10に巻回したゴム部材71をステッチングしてゴム部材71同士を圧着するためのステッチング装置が使用される。このステッチング装置として、空気入りタイヤを成型する場合には、比較的幅狭の回転自在なステッチャーロールを備えた装置が広く用いられている。この装置では、左右一対のステッチャーロールの外周面をグリーンタイヤ外周面の中央部に押し付けながらタイヤ成型ドラムを回転させ、その回転に連動させて各ステッチャーロールをタイヤ幅方向に移動させてステッチングを行う。これによりゴム部材を押圧して部材間のエアを抜きながら、それらを互いに圧着してグリーンタイヤを成型する。
【0008】
しかしながら、上記したソリッドタイヤを成型する場合には、ゴム部材71を多数周に渡って巻回し、最終的に肉厚な総ゴム構造のグリーンタイヤ70を形成するため、成型後のグリーンタイヤ70の外周面からステッチングを行っても、内部のゴム部材71まで十分に押圧できず、その結果、外表面近くのゴム部材71は圧着等されるものの、内周側のゴム部材71の圧着等は十分に行えない。従って、この場合には、ゴム部材71をタイヤ成型ドラム10に巻回・積層しながら、1層ずつステッチングを行う必要がある。そのため、ソリッドタイヤの成型時には、ステッチャーロールのタイヤ幅方向の移動を伴う上記した空気入りタイヤ成型用のステッチング装置は使用できず、通常、軸方向長さがゴム部材の幅よりも長いステッチャーロールを備えたステッチング装置を用いて、ゴム部材の全幅を一度にステッチングしている。
【0009】
従来、このステッチャーロールとしては、回転可能な円筒状の芯金の外周にウレタン等の弾性部材を接着したものが広く用いられている。このステッチャーロールは、ゴム部材71に押し付けた際に、外周面がゴム部材71表面の凹凸等の外周形状に応じて変形するため、凹部等を含めてゴム部材71を比較的均一に押圧できる。しかしながら、この従来のステッチング装置では、ゴム部材71同士の圧着強度等を高めるために、ステッチャーロールのゴム部材71への押し付け圧力を高くした場合には、表面のウレタン等が変形する等してゴム部材71に押圧方向以外、例えば幅方向等の力が掛かりゴム部材が変形等することがある。その結果、ゴム部材71が蛇行したり、或いは皺が生じる等してグリーンタイヤ70に欠陥が生じるという問題がある。
【0010】
従って、この従来のステッチング装置では、ゴム部材71の押圧力を充分に高くできず、ゴム部材71同士の圧着強度が不足してゴム部材71が剥離しやすいという問題が生じる。その結果、例えば上記した予熱工程でのゴムの膨張による周方向の引っ張り力等によりゴム部材71が剥離し、その部分に隙間が生じてエアが入ることがある。この状態でグリーンタイヤ70を加硫成型すると、そのまま加硫後のタイヤの内部にエアが残ってエア溜り等の欠陥が生じ、製品タイヤとしての性能・機能を満足できない。従って、このようなエア入り等が生じた場合には、グリーンタイヤ70を加硫成型用金型へ装入する前に、人手により千枚通しや錐等でエアの入った部分を突き刺す等してエアを抜く作業が必要であり、その分の時間や労力等が余計に掛かり生産効率が低下するという問題もある。
【0011】
【特許文献1】特開平6−198763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、グリーンタイヤを構成するゴム部材をステッチングする際に、皺や蛇行等が生じるのを防止しつつステッチャーロールによりゴム部材を充分な力で押圧し、ゴム部材同士の圧着強度を高くしてゴム部材間の剥離及びエア入り等の欠陥の発生を抑制し、タイヤの生産効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、タイヤ成型ドラムの外周に巻回されたゴム部材を押圧して圧着するステッチング装置であって、外周面に複数のピン部材を有し、周方向に回転自在なステッチャーロールと、該ステッチャーロールの前記ピン部材を前記ゴム部材の外周に押し付ける押し付け手段とを備え、前記ステッチャーロールの前記ピン部材により前記ゴム部材を外周から押圧して圧着することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載されたステッチング装置において、前記ピン部材が、先端に向かって細くなるスパイク状に形成されていることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載されたステッチング装置において、前記ピン部材が、前記ステッチャーロールの周方向及び/又は軸方向に所定の間隔で配列されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載されたステッチング装置において、前記ステッチャーロールの軸方向長さが、前記ゴム部材の幅よりも長いことを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載されたステッチング装置において、前記ステッチャーロールが交換可能であることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載されたステッチング装置において、前記押し付け手段は、前記ステッチャーロールの前記ピン部材を前記ゴム部材へ押し付けたときにできる押圧痕が前記ゴム部材の厚さの40%以上60%未満の深さになるように、前記ピン部材の押し付け圧力を調節可能であることを特徴とする。
請求項7の発明は、ゴム部材を積層して圧着しグリーンタイヤを成型するタイヤ成型装置であって、請求項1ないし6のいずれかに記載されたステッチング装置と、タイヤ成型ドラムと、を備えたことを特徴とする。
【0014】
(作用)
本発明によれば、タイヤ成型ドラムの外周に巻回されたゴム部材をステッチャーロールの外周面に設けられた複数のピン部材により押圧し、部材間のエアを抜きながらゴム部材同士を圧着する。この際、各ピン部材でゴム部材を突いてピン留めし、ゴム部材に皺や蛇行等の変形が生じるのを防止する。同時に、ステッチャーロールの押し付け圧力をピン部材に集中し、ゴム部材を充分な力で押圧してゴム部材同士の圧着強度を高める。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、グリーンタイヤを構成するゴム部材をステッチングするステッチャーロールの外周面に複数のピン部材を設けたため、押圧時にゴム部材をピン留めしてゴム部材に皺や蛇行等の変形が生じるのを防止できる。また、ゴム部材を充分な力で押圧できるため、ゴム部材同士の圧着強度を高くしてゴム部材間の剥離及びエア入り等の欠陥の発生を抑制でき、タイヤの生産効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態のタイヤ成型装置は、図5を用いて説明した従来のタイヤ成型方法と同様に、総ゴム構造のソリッドタイヤを製造するための装置であり、未加硫のシート状ゴム部材を重ねて積層してグリーンタイヤを成型する。しかし、このタイヤ成型装置では、外周面に複数のピン部材を有するステッチャーロールを押し付けてゴム部材をステッチングしつつ、グリーンタイヤを成型する点で、前記図5の成型方法と相違する。
【0017】
図1は、本実施形態のタイヤ成型装置1の要部を示す模式図であり、図1Aは平面図、図1Bは図1Aの矢視Kから見た一部を断面で示す側面図である。
このタイヤ成型装置1は、図示のように、シート状のゴム部材を巻回して積層するタイヤ成型ドラム10と、ゴム部材のステッチングを行うステッチング装置20等を備える。
【0018】
タイヤ成型ドラム10は、略円筒状をなし、一方(図1Aでは右方)の側面に略円柱状の支持軸11が同芯状に固定され、図示しない駆動手段により支持軸11を中心に回転する。その外周面は、周方向に分割された複数のセグメントから構成され、タイヤ成型ドラム10の内部には、各セグメントを径方向に移動させて外周を拡径・縮径するための、例えばピストン・シリンダ機構等を用いた周知の手段を備える。これにより、タイヤ成型ドラム10は、外周面を拡径させた状態で回転して外周にシート状のゴム部材を巻回して積層し、環状のグリーンタイヤを成型する。成型したグリーンタイヤは、タイヤ成型ドラム10の外周面を縮径させて、図示しない搬送装置によりドラム軸方向に移動させて外周面から取り外される。
【0019】
なお、本実施形態のゴム部材は、未加硫ゴム等を原材料として、押出機等の成形機により、成型するグリーンタイヤの幅と略同一の幅のシート状(例えば約5mm程度の厚さ)に連続して成形する。本実施形態のタイヤ成型装置1は、この長尺なシート状のゴム部材を図示しない供給装置によりタイヤ成型ドラム10へ連続して供給し、ステッチング装置20によりステッチングしつつ、一層ずつ重ね合わせて積層して所定形状のグリーンタイヤを成型する。
【0020】
ステッチング装置20は、タイヤ成型ドラム10に巻回されたゴム部材をステッチングするステッチャーロール21と、ステッチャーロール21を支承するホルダー23等を備える。
【0021】
ステッチャーロール21は、図1Aに示すように、略円柱状をなし、その外周面には、径方向外側へ向かって延びる複数のピン部材22が固定されている。また、その軸方向の長さが、タイヤ成型ドラム10の軸方向の長さよりも長く、即ちステッチングするゴム部材よりも長くなるように形成されている。各ピン部材22は、スパイク状、即ち千枚通しのような細長い円錐状や先端の尖った棒状等、先端に向かって細くなる形状に形成されている。従って、このステッチャーロール21は、ピン部材22の鋭い先端部に圧力を集中させて、タイヤ成型ドラム10に巻回されたゴム部材の外周面の全幅を一度に押圧してステッチングする。
【0022】
各ピン部材22は、図1Bに示すように、ステッチャーロール21の周方向に等間隔で複数列(図では6列)配列され、各列内では、図1Aに示すように、ステッチャーロール21の軸方向に所定の間隔で配置されている。また、ピン部材22の軸方向の位置は、図1Aに示すように、相隣り合う列間で前記所定の間隔の約半分ずらせて配置されており、周方向で見た場合にはジグザグ状に配列されている。
【0023】
ここで、ピン部材22のロール周方向及び軸方向の間隔や、寸法・形状等は、ステッチングするゴム部材の幅や厚さ等に応じて、適切な押圧力及び押圧部の密度等になるように、即ち、押圧によるゴム部材同士の圧着強度が充分高くなるように決定する。従って、本実施形態のステッチング装置20は、ピン部材22の形状や配置間隔等が異なる複数種類のステッチャーロール21を有し、ステッチングするゴム部材等に応じてそれらを交換して使用するようになっている。
【0024】
なお、ステッチャーロール21は、上記したように、軸方向へ移動せずにゴム部材の全幅を一度にステッチングできればよく、従って、軸方向の長さは、ステッチングするゴム部材の幅よりも長ければよい。また、各ピン部材22は、細長い三角錐や四角錐状、又は楔状等、先端に向かって細くなる他の形状に形成してもよく、或いは、先端部を曲面や平面に形成する等、尖頭以外の形状に形成してもよい。このような形状であっても、上記したスパイク状と同様に、ピン部材22の先端部に圧力を集中してゴム部材を押圧できる。更に、ピン部材22は、上記した周方向にジグザグ状に配列する他に、周方向に直線状に配列する等、ゴム部材の寸法等に応じて他の位置に配置してもよい。
【0025】
ホルダー23は、ステッチャーロール21の各両端部に設けられた一対の板状部材等からなり、その上方の先端部にベアリングを設ける等してステッチャーロール21の両端部を回転自在に支承する。また、ホルダー23は、ステッチャーロール21の軸線をタイヤ成型ドラム10の軸線と略平行に保持するとともに、図の矢印Fで示すように、その状態のままステッチャーロール21をタイヤ成型ドラム10に接近・離間させて、ピン部材22をタイヤ成型ドラム10の外周に巻回されるゴム部材に押し付ける。
【0026】
このステッチャーロール21の接近・離間及びゴム部材への押し付けは、例えば前記板状部材の下方の他端部を図示しない床面に回動自在に取り付けて、その部分を中心にホルダー23を図示しないピストン・シリンダ機構等の駆動手段により回動させる等して行う。従って、ホルダー23は、ステッチャーロール21を保持する他に、前記駆動手段等とともにピン部材22をゴム部材の外周に押し付ける押し付け手段を構成する。なお、本実施形態のステッチング装置20は、前記駆動手段の駆動力を調節する等して、ステッチャーロール21のピン部材22をゴム部材に押し付ける圧力を任意に設定できるようになっている。
【0027】
また、上記したようにゴム部材の寸法等に応じてステッチャーロール21を交換するため、ホルダー23は、例えばステッチャーロール21の支承部を上下に分割可能な構造にする等、ステッチャーロール21を取り外し可能な周知の構造を有する。なお、ステッチャーロール21をホルダー23ごと交換することで、ステッチャーロール21の交換を行うようにしてもよい。
【0028】
次に、このタイヤ成型装置1を用いてグリーンタイヤを成型する手順について説明する。
図2は、このタイヤ成型装置1によりグリーンタイヤ70を成型する手順を示す模式図である。
【0029】
まず、図2Aに示すように、ステッチャーロール21をタイヤ成型ドラム10から離間させた状態で、外周を拡径させたタイヤ成型ドラム10を図の矢印R方向に回転させるとともに、未加硫のシート状ゴム部材71を図の矢印Sで示すように、タイヤ成型ドラム10の外周へ向かって供給する。そのまま、タイヤ成型ドラム10の外周にゴム部材71を巻回し、図2Bに示すように、ゴム部材71が1周程度巻回されたときに、ステッチャーロール21をタイヤ成型ドラム10に接近させて、ピン部材22の先端をゴム部材71に所定の圧力で押し付ける。この所定の圧力は、ゴム部材71の寸法やピン部材22の配列状況等に応じて、充分な押圧力が得られるような、かつピン部材22でゴム部材71を突き通して貫通孔を形成しないような適切な圧力に設定する。
【0030】
ステッチャーロール21は、タイヤ成型ドラム10(ゴム部材71)の回転により、それとは逆方向の図の矢印T方向に回転し、ピン部材22でゴム部材71の全幅を一度に押圧してステッチングし、部材間のエアを抜きながら、それらを互いに圧着する。このとき、ゴム部材71に押し付けられた各ピン部材22は、ゴム部材71からその回転方向(図の矢印R方向)の力を受けて同方向に移動する。これによりステッチャーロール21は、図の矢印T方向に回転し、ピン部材22をゴム部材71に連続して押し付けてステッチングを行う。この際、各ピン部材22でゴム部材71を突いてピン留めし、ゴム部材71に皺や蛇行等の変形が生じるのを防止する。
【0031】
同時に、ステッチャーロール21の押し付け圧力をピン部材22に集中するとともに、その押し付け圧力を適切に設定し、ゴム部材71を充分な力で押圧してゴム部材71同士の圧着強度を向上させる。この圧着強度は、ピン部材22により押圧された部分の周辺で最も高くなるが、その間のゴム部材71も配列したピン部材22により張力を受けた状態で下層のゴム部材71に押し付けられるため、充分強固に圧着する。
【0032】
その状態で、ゴム部材71をタイヤ成型ドラム10の外周上に径方向内側から外側に向かって重ねて巻回しつつピン部材22によるゴム部材71の押圧を続け、図2Cに示すように、ゴム部材71を多層に積層して環状のグリーンタイヤ70を成型する。次に、ステッチャーロール21をグリーンタイヤ70から離間させ、タイヤ成型ドラム10の外周を縮径させてグリーンタイヤ70の拘束を解く。その後、グリーンタイヤ70を、図示しない搬送装置により軸方向に移動させてタイヤ成型ドラム10から取り外して次工程の予熱装置に搬送する。
【0033】
この予熱装置でグリーンタイヤ70を加硫温度以下の所定温度まで予熱した後、加硫成型用金型内に装入して所定の加硫温度に加熱しつつ、プレス圧を加えて型付けとゴム部材の一体化を行い、所定形状のソリッドタイヤを製造する。一方、タイヤ成型装置1では、以上の手順を繰り返してグリーンタイヤ70の成型を連続して行う。
【0034】
図3は、以上のように成型したグリーンタイヤ70の外観をタイヤ径方向から見た側面図であり、図4は、ピン部材22でステッチングした後のゴム部材71の厚さ方向の拡大断面図である。
【0035】
グリーンタイヤ70の外周面には、図3に示すように、ピン部材22の先端が押し付けられて凹状に変形した押圧痕80が、ピン部材22の配列間隔に応じた間隔で形成される。各押圧痕80は、図4に示すように、ピン部材22の形状に対応して、ゴム部材71表面の開口部81から厚さ方向下側の先端部82に向かって徐々に細くなるスパイク状に形成される。この押圧痕80は、グリーンタイヤ70の外表面だけでなく径方向内側に積層したゴム部材71にも形成されるが、これらは上記した加硫成型用金型内でのプレス圧で潰れて消滅するため、製品タイヤに欠陥が生じることがない。
【0036】
なお、ゴム部材71の厚さHが通常の厚さ(約5mm前後)である場合には、押圧痕80の深さDは、ゴム部材71の厚さHの40%以上60%未満、即ち約50%程度の深さにすることが好ましい。これは、押圧痕80の深さDがゴム部材71の厚さHの40%未満の深さの時には、ゴム部材71の押圧力が不足して圧着強度が不十分となる恐れがあり、逆に、60%以上の深さの時には、ゴム部材71の変形及び押圧痕80が大きくなりすぎて加硫成型後のタイヤに欠陥が生じる恐れがあるからである。従って、ピン部材22をゴム部材71に押し付ける圧力を調節して、押圧痕80の深さDが前記範囲内になるようにステッチングすることが好ましい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態のタイヤ成型装置1では、ゴム部材71をステッチングするステッチャーロール21の外周面に複数のピン部材22を設けたため、押圧時にピン部材22でゴム部材71をピン留めしてゴム部材71に皺や蛇行等の変形が生じるのを防止できる。同時に、ステッチャーロール21の押し付け圧力をピン部材22に集中できるとともに、その押し付け圧力を任意に設定できるため、ゴム部材71を適切な力で押圧してゴム部材71同士の圧着強度を向上できる。その結果、上記したグリーンタイヤ70の予熱時等にゴム部材71間が剥離してエア入り等の欠陥が生じるのが抑制でき、従来必要であった加硫前のエア抜き作業等が不要となって、タイヤの生産効率を向上できる。
【0038】
なお、本実施形態のステッチング装置20は、他の方法でグリーンタイヤ70を成型する場合、例えば、成型するグリーンタイヤ70の幅よりも幅狭なリボン状のゴム部材を、タイヤ成型ドラム10の軸方向にずらせながら重ねて巻回してグリーンタイヤ70を形成する場合等のステッチングにも使用できる。また、総ゴム構造以外のタイヤ、例えば、一部にスチール製のビードワイヤ等を備えたソリッドタイヤや、複数のタイヤ構成部材を組み合わせて成型する空気入りタイヤ等、ゴム部材等を圧着して形成されるタイヤの成型時にも使用できる。以上のような場合でも、上記と同様に部材間の圧着強度を向上させて、エア入り等の欠陥の発生を抑制できる。
【0039】
(グリーンタイヤ成型試験)
このタイヤ成型装置1の効果を確認するため、以上説明したように成型したグリーンタイヤ70(以下、実施品という)と、従来の方法、即ちウレタンロールによりゴム部材71をステッチングして成型したグリーンタイヤ(以下、従来品という)を製造し、ゴム部材71の圧着強度を比較した。なお、使用するゴム部材71は、厚さ約5mmのシート状であり、幅の異なる数種類のゴム部材71を用いて数種類の実施品と従来品を製造した。
【0040】
各実施品は、上記した複数のピン部材22が外周面に固定されたステッチャーロール21でステッチングして成型した。各ピン部材22は、長さ11.5mm、固定端の直径3.5mmの、先端に向かって徐々に細くなり先端が鋭いスパイク状に形成した。この各ピン部材22を、ステッチャーロール21の周方向に等間隔で6列(図1B参照)配列し、各列内で30mm間隔に配置した。また、相隣り合う列間では、ピン部材22の配置位置を半分ずらせて(図1A参照)、週方向にジグザグ状に配列した。
【0041】
ステッチャーロール21のゴム部材71への押し付け圧力は、ピン部材22の押圧により生じる押圧痕80の深さD(図4参照)がゴム部材71の厚さHの約50%程度の深さ(約2.5mm程度)になるように設定した。この圧力は、具体的には、ゴム部材71の幅が250mm未満の場合には約0.35MPaであり、ゴム部材71の幅が250mm以上の場合には約0.50MPaである。
【0042】
圧着強度の比較は、成型後の各グリーンタイヤ70を構成するゴム部材71を剥離させたときの抵抗力を測定することで行った。測定した剥離抵抗力は、従来品を100とすると、実施品では250〜300と極めて高くなっており、この結果から、本発明により、ゴム部材71同士の圧着強度が大幅に向上することが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態のタイヤ成型装置の要部を示す模式図である。
【図2】本実施形態のタイヤ成型装置によりグリーンタイヤを成型する手順を示す模式図である。
【図3】成型後のグリーンタイヤを示す側面図である。
【図4】ステッチング後のゴム部材の拡大断面図である。
【図5】従来のソリッドタイヤの成型方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1・・・タイヤ成型装置、10・・・タイヤ成型ドラム、11・・・支持軸、20・・・ステッチング装置、21・・・ステッチャーロール、22・・・ピン部材、23・・・ホルダー、70・・・グリーンタイヤ、71・・・ゴム部材、80・・・押圧痕、81・・・開口部、82・・・先端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ成型ドラムの外周に巻回されたゴム部材を押圧して圧着するステッチング装置であって、
外周面に複数のピン部材を有し、周方向に回転自在なステッチャーロールと、
該ステッチャーロールの前記ピン部材を前記ゴム部材の外周に押し付ける押し付け手段とを備え、
前記ステッチャーロールの前記ピン部材により前記ゴム部材を外周から押圧して圧着することを特徴とするステッチング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたステッチング装置において、
前記ピン部材が、先端に向かって細くなるスパイク状に形成されていることを特徴とするステッチング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたステッチング装置において、
前記ピン部材が、前記ステッチャーロールの周方向及び/又は軸方向に所定の間隔で配列されていることを特徴とするステッチング装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたステッチング装置において、
前記ステッチャーロールの軸方向長さが、前記ゴム部材の幅よりも長いことを特徴とするステッチング装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたステッチング装置において、
前記ステッチャーロールが交換可能であることを特徴とするステッチング装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたステッチング装置において、
前記押し付け手段は、前記ステッチャーロールの前記ピン部材を前記ゴム部材へ押し付けたときにできる押圧痕が前記ゴム部材の厚さの40%以上60%未満の深さになるように、前記ピン部材の押し付け圧力を調節可能であることを特徴とするステッチング装置。
【請求項7】
ゴム部材を積層して圧着しグリーンタイヤを成型するタイヤ成型装置であって、
請求項1ないし6のいずれかに記載されたステッチング装置と、タイヤ成型ドラムと、を備えたことを特徴とするタイヤ成型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−76221(P2007−76221A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268170(P2005−268170)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】