説明

ステータコイル及びその製造方法

【課題】コア端面近傍におけるコイルエンド部の高占積率化を実現させ、組み付け時に生じるダメージを減少させる。
【解決手段】ステータコイル20は、ステータコア11のスロット14に挿入されるコイル辺部21aとステータコア11の軸方向の端面から突出するコイルエンド部21b,21cとが蛇行するように周方向に交互に形成されて一周する単位波巻きコイル21が径方向に複数連続して形成される。1の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aよりその1の単位波巻きコイル21の外周側に隣接する他の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aが長い。そのコイル辺部21aの一方の端部におけるコイルエンド部21bが描く円の直径が他方の端部におけるコイルエンド部21cが描く円の直径と異なる。その製造方法は、第1係止部材と第2係止部材に線材17を交互に掛け回して蛇行させつつ周回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に用いられるステータコイルに関する。更に詳しくは、ステータコアのスロットに挿入されるコイル辺部とそのスロットから突出するコイルエンド部とが交互に形成された波巻きのステータコイル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータは、放射状に並んで内径方向に突出する複数のティース(磁極)及びその間に開口する複数のスロットを有する円筒状のステータコアと、そのスロットにコイル辺部を納めることによりそのコアに組み付けられたステータコイルとを備える。このステータコイルの組み付けに関しては、ステータコイルをステータコアと別に予め製造し、その後このコイルをコアの各スロットに収容するいわゆるインサータ方法が知られている。そして、このインサータ方法に用いられるコイルの巻線方式にあっては、線材を各ティースの上下を交互に通るように巻回する波巻き方式(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【0003】
この引用文献1における波巻き方式では、ティースと同数の内側治具と外側治具がそれぞれ放射状に移動するように設けられた波巻きコイルの製造装置が用いられる。その製造装置では、先ず内側治具を環状に配置し、その外側に外側治具を環状に配置させる。そして環状に配置された複数の内側治具に線材を所定ターン数だけ巻回して円形のコイルを形成する。その後、図12に示すように、内側治具2と外側治具3をそれぞれ放射状に移動させ、複数の内側治具2が描く円よりも内側に外側治具3を移動させることにより、複数の内側治具2の周囲に円形に巻回されたコイルを星型に成形する。このようにして形成された星形の波巻きコイル4は、その後図示しないインサータ装置を用いてコアのティース間におけるスロットに押し込まれ、これによってステータが形成される。
【0004】
一方、このステータには回転子が挿入されるため、スロットに収容されずにステータコアの軸方向の端面から突出するコイルのコイルエンド部がステータコアの内周面より内側に進入することを防止する必要がある。また、その回転電機が3相式のものであれば、単一のステータコアに3相分のステータコイルが組み付けられる。このため、3相式の回転電機では、各相コイルのスロットから突出する3相分のコイルエンド部が互いに重複する結果となる。このようなことを考慮して、従来から最初に組み付けられたステータコイルのスロットより突出するコイルエンド部をステータコアの外径側へ逃がす逃がし成形を行い、その後、別のステータコイルをスロットに挿入している。そして、単一のステータコアに3相分のステータコイルを組み付けた後、各相コイルのコイルエンド部全体を再び外径側に逃がす仕上げ成形を行い、3相の全てのコイルにおけるコイルエンド部がステータコアの内周面より内側に進入することを防止している。
【0005】
ここで、図12に示す星形の波巻きコイル4は、ステータコアのスロットに挿入される真っ直ぐなコイル辺部4cと、そのコイル辺部4cの端部同士を連結しステータコアの軸方向の端面から突出する円弧状のコイルエンド部4a,4bに分類できる。すると、この星形の波巻きコイル4では、コイル辺部4cの長さが全て同一となり、コイルエンド部4a,4bにあっても全て同一形状となる。このため、コイルエンド部4a,4bがコアの径方向に重複することを回避するため、その逃がし成形では、図11の一点鎖線で示すように、各コイルエンド部4a,4bのコア6の端面からの突出量を順次異ならせることが従来から行われている。すると、コイルエンド部4a,4bがコアの径方向に重複することはなくなり、図11の実線で示すように、逃がし成形においてそれらのコイルエンド部4a,4bはコア6の軸方向において互いに重複するので、それらのコイルエンド部4a,4bの双方をステータコア6の外径側へ逃がすことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−513320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、コア6の径方向に隣接するコイル辺部4cの長さはそれぞれ等しいので、コア6の一方の端面6b(図11の下面)から突出するコイルエンド部4bをコア6の外径側から内径側に従ってその突出量を減少させると、コア6の他方の端面6a(図11の上面)から突出するコイルエンド部4aはコア6の外径側から内径側に従ってその突出量が増加することになる。このため、一方の端面6b(図11の下面)から突出するコイルエンド部4bを外径側へ逃がすことができたとしても、コア6の他方の端面6a(図11の上面)から突出するコイルエンド部4aは、その全体が当初よりステータコア6の内径側に寄っており、逃がし成形において内径側のコイルエンド部が外径側のコイルエンド部のコア側に入り込むようなことはない。このため、内側に存在するコイルエンド部4aは比較的大きな円弧を描かなければ外径側のコイルエンド部4aとコア6の軸方向において重複させることができず、それらのコイルエンド部4aの全体をステータコア6の外径側へ十分に逃がすことは困難であった。そして、この比較的大きな円弧を描く部分がコア内径側端面に残存すると、後に組み付けられる他のステータコイルにおけるコイルエンド部と干渉する不具合が残存していた。
【0008】
この比較的大きな円弧を描くコイルエンド部4aとの干渉を回避するためには、他のステータコイルにおけるコイルエンド部をコア6の端部6aから比較的大きく突出させ、その比較的大きな円弧を描くコイルエンド部4aを超えさせる必要があるけれども、このようにコイルエンド部4aをコアの端部6aから比較的大きく突出させると、他のコイル4が大型化してそのコイル4を製造するための線材の全長が増加する不具合があった。そして、このようにコイル4が大型化すると、コイル4におけるいわゆる銅損が増加して、そのコイル4を用いる回転電機の効率が悪化するとともに、その回転電機の外形も大型化する不具合がある。
【0009】
また、従来の方法では、図12に示すような星型に成形された波巻きコイル4を、図示しないインサータ装置を用いてコアのティース間におけるスロットに押し込むので、平面内にある複数のコイル辺部4cはその際に起立して互いに平行状態となる。即ち、図示しないインサータ装置は、平面内にある複数のコイル辺部4cの方向を略直角に転換して起立させるので、その転換する角度が比較的大きく、その起立の際にそのコイル4を構成する線材にダメージを与える可能性もあった。このようなダメージは波巻きコイル4を構成する線材が太ければ更に増加するおそれがあった。
【0010】
本発明の目的は、コイルエンド部の干渉を回避しつつその突出量を減少させてコア端面近傍におけるコイルエンド部の占積率を向上させ得るステータコイル及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、組み付け時に生じるダメージを減少し得るステータコイル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のステータコイルは、ステータコアのスロットに挿入されるコイル辺部とステータコアの軸方向の端面から突出するコイルエンド部とが蛇行するように周方向に交互に形成されて一周する単位波巻きコイルが径方向に複数連続して形成されたものである。
【0013】
その特徴ある構成は、1の単位波巻きコイルのコイル辺部より1の単位波巻きコイルの外周側に隣接する他の単位波巻きコイルのコイル辺部が長いところにある。
【0014】
その単位波巻きコイルにおけるコイル辺部の一方の端部におけるコイルエンド部が描く円の直径がコイル辺部の他方の端部におけるコイルエンド部が描く円の直径と異なることが好ましい。
【0015】
本発明のステータコイルの製造方法は、複数の第1係止部材を所定の間隔を空けて環状に配置し、第1係止部材間に所定の間隔を空けて対向する複数の第2係止部材を環状に配置し、第1係止部材と第2係止部材に線材を交互に掛け回して蛇行させつつ周回させ、第1係止部材と第2係止部材の間に掛け渡された線材からなるコイル辺部と第1及び第2係止部材に掛け回されて周方向に沿う線材からなるコイルエンド部とが交互に形成されたステータコイルを得る方法である。
【0016】
この製造方法では、第1係止部材の掛け回し面と第2係止部材の掛け回し面の間隔が径方向外側に向かって拡がるように第1及び第2係止部材のいずれか一方又は双方の掛け回し面を傾斜させ、第1係止部材と第2係止部材に交互に掛け回されて蛇行する線材を2周以上周回させて一周する1の単位波巻きコイルのコイル辺部より1の単位波巻きコイルの外周側に隣接して一周する他の単位波巻きコイルのコイル辺部を長くすることが好ましい。
【0017】
また、環状に配置された複数の第1係止部材が描く円より環状に配置された複数の第2係止部材が描く円を相違させ、単位波巻きコイルにおけるコイル辺部の一方の端部におけるコイルエンド部が描く円の直径とコイル辺部の他方の端部におけるコイルエンド部が描く円の直径を異ならせることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のステータコイルでは、1の単位波巻きコイルのコイル辺部より1の単位波巻きコイルの外周側に隣接する他の単位波巻きコイルのコイル辺部を長くしたので、ステータコアに組み付けた状態で、コアの両端面から突出するコイルエンド部は、コアの外径側から内径側に従ってその突出量がそれぞれ減少して傾斜することになる。すると、それらのコイルエンド部は、その全体が当初よりステータコアの外径側に寄ることになり、それらのコイルエンド部をコアの径方向外側に押すと、内径側のコイルエンド部が外径側のコイルエンド部のコア側に入り込み、それにより、そのコイルエンド部の全体をステータコアの外径側へ比較的容易に逃がすことができる。よって、最初に組み付けたコイルのコイルエンド部が径方向外側に押されて空いた空間に、その後に組み付けられる他のコイルにおけるコイルエンド部を引き回してその空間に設置することにより、コアの端面近傍空間におけるコイルエンド部の占積率を向上させることができる。
【0019】
また、コイルを組み付けると、コイル辺部は起立して互いに平行になるけれども、コイル辺部の端部におけるコイルエンド部が描く円を異ならせてそのコイル辺部が円錐面に沿うようにすれば、平面内にあるコイル辺部を略直角に転換させて起立させる従来の方法に比較して、コイル辺部の転換する角度は比較的小さくなり、コイル辺部に加わるダメージを減少させることができる。例え線材が太い場合であってもダメージは減少するので、このコイルを用いた回転電機の信頼性を著しく高めることができる。そして、本発明の製造方法では、このようなステータコイルを比較的容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のステータコイルがコアに組み付けられた図3のA−A線断面図である。
【図2】そのコイルの斜視図である。
【図3】そのコイルをコアに組み付けた斜視図である。
【図4】3相分のコイルをコアに組み付けた図3に対応する斜視図である。
【図5】図4のB−B線断面図である。
【図6】そのコイルをコアに組み付けるインサータ装置の断面構成図である。
【図7】そのコイルを得るための巻き治具を有する巻き線機の側面図である。
【図8】その巻き治具の平面図である。
【図9】その第1係止部材に線材が掛け回された状態を示す図である。
【図10】その第2係止部材に線材が掛け回された状態を示す図である。
【図11】従来のコイルを示す図1に対応する断面図である。
【図12】その従来のコイルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳しく説明する。
【0022】
図4に、本発明のステータコイル20がステータコア11に組み付けられて得られたステータ10の斜視図を示す。ステータコア11は、円環状の環状部12と、この環状部12の内周面からその環状部12の中心に向けて突出している複数のティース13とを備えた磁性材料からなり、複数のティース13の間にはステータコイル20の後述するコイル辺部21aを収容する複数のスロット14が形成される。この実施の形態におけるステータコア11は、一定厚さの環状部12及びティース13を備えた形状のコア板を、所定の厚さとなるように積層して固定することにより構成された積層型のものを示す。
【0023】
本発明のステータコイル20はコア11に組み付けられる以前のものであって、図2に示すように、径方向に複数連続して形成された単位波巻きコイル21を備える。その単位波巻きコイル21はステータコア11のスロット14に挿入される真っ直ぐなコイル辺部21aと、そのステータコア11の軸方向の端面から突出してステータコア11の周方向に沿うコイルエンド部21b,21cとが周方向に交互に形成されて一周するものである。このような単位波巻きコイル21が径方向に複数連続するステータコイル20は単一の線材17(図7)を湾曲させ、屈折させ及び伸長させることにより作られ、この実施の形態における線材17は、表面に絶縁皮膜が形成された断面円形の丸線である場合を示す。
【0024】
また、この実施の形態におけるステータコイル20は、単位波巻きコイル21におけるコイル辺部21aの一方の端部におけるコイルエンド部21bが描く円Cの直径と、そのコイル辺部21aの他方の端部におけるコイルエンド部21cが描く円Dの直径が異なるように形成される。これは、コイル辺部21aとその両端に連続するコイルエンド部21b,21cを有する単位波巻きコイル21はその全ての線材17が単一の円錐面に沿うことを意味する。具体的に、最外周に位置する単位波巻きコイル21において説明すると、図2の下側のコイルエンド部21cが底面周囲にある一点鎖線で示す円錐を仮想した場合に、コイル辺部21aはその円錐の頂点Tと底面の周囲の点をつなぐ直線に沿い、そのコイル辺部21aの他方の端部におけるコイルエンド部21cはその底面の外周における円Dに沿い、そのコイル辺部21aの一方の端部におけるコイルエンド部21bはその底面と頂点Tとの間であってその底面と平行の仮想面が円錐面と交差して描かれる円Cに沿うように作られる。
【0025】
そして、本発明のステータコイル20の特徴ある構成は、1の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aより、その1の単位波巻きコイル21の外周側に隣接する他の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aが長いことを特徴とする。即ち、図1に詳しく示すように、このコイル辺部21aをステータコア11のスロット14に挿入すると、コア11の両端面から突出するコイルエンド部21b,21cは、コア11の外径側から内径側に従ってその突出量がそれぞれ減少するように外径側と内径側のコイル辺部21aの長さが異なることを特徴とする。
【0026】
また、ステータコイル20は、単位波巻きコイル21が径方向に複数連続するものであるので、図2に示すように、1の単位波巻きコイル21のコイルエンド部21b,21cよりその1の単位波巻きコイル21の外周側に隣接する他の単位波巻きコイル21のコイルエンド部21b,21cを長く形成し、放射状に形成されてコイル辺部21aが挿入されるスロット14とスロット14の間の距離にそのコイルエンド部21b,21cの長さを適合させることにより、スロット14へのコイル辺部21aの挿入が容易になるように構成される。
【0027】
次にこのようなステータコイルを得る本発明の製造方法を説明する。
【0028】
図7に、このステータコイル20を得るための巻き線機30を示す。この巻き線機30には、複数の第1係止部材41と複数の第2係止部材42を備える巻き治具40が設けられる。図7及び図8に示すように、複数の第1係止部材41は所定の間隔を空けて環状に配置され、複数の第2係止部材42も所定の間隔を空けて環状に配置される。環状に配置された複数の第1係止部材41を含む平面と環状に配置された複数の第2係止部材42を含む平面は所定の間隔を空けて互いに平行になり、かつその第1係止部材41間に所定の間隔を空けて複数の第2係止部材42が対向するように、第1及び第2係止部材41,42が配置される。この第1及び第2係止部材41,42は、その和がステータコア11のティース13の数を単一のコア11に組み込まれるコイル20の数で除した数と同一になるように定められ、この実施の形態では、ティース13が36個のステータコア11を用い、そのコア11に3個のコイル20が組み込まれる3相式の回転電機用ステータ10(図4)である場合を例示するので、6個の第1係止部材41と6個の第2係止部材42が用いられる場合を示す。
【0029】
図8に示すように、6個の第1係止部材41は第1円盤43の周囲にその全周(360°)を第1係止部材41の数で除した所定の角度、この実施の形態では60°毎に放射状に取付けられ、6個の第2係止部材42は第2円盤44の周囲に60°毎に放射状に取付けられる。第1及び第2係止部材41,42はそれぞれ同一構造であり、この第1及び第2係止部材41,42は第1及び第2円盤43,44にそれぞれ取付けられる取付部41a,42aと、その取付部41a,42aに連続し第1及び第2円盤43,44の外周から外側に突出する掛け回し部41b,42bと、その掛け回し部41b,42bの突出端縁に互いに遠ざかる方向に形成されたフランジ41c,42cとを有し、それぞれの掛け回し部41b,42bは第1及び第2円盤43,44の外周から外側に向かって円周方向に拡がる扇状を成すように形成される。また、図7に示すように、第1及び第2係止部材41,42の円盤43,44に取付けられる面は平坦であるけれども、その掛け回し部41b,42bの厚さは取付部41a,42aから円盤43,44の外周から外側に向かって厚肉に形成される。これにより、掛け回し部41b,42bの取付面の反対側における掛け回し面は図7における側面視において傾斜して形成される。
【0030】
巻き線機30は、図示しないモータが内蔵された本体30aと、その本体30aに傾動可能に取付けられモータにより回転可能な回転軸31とを備える。その回転軸31には、第1及び第2係止部材41,42が周囲に取付けられた第1円盤43と第2円盤44が、第1及び第2係止部材41,42が取付けられた面を互いに外側に向け、かつ所定の間隔を空けた状態でそれらの中心を同軸状にして取付けられる。このように第1円盤43と第2円盤44を所定の間隔を空けた状態で互いに平行に取付けることにより第1係止部材41間に所定の間隔を空けて複数の第2係止部材42を対向させる。ここで、第1円盤43と第2円盤44の所定の間隔とは、得ようとするステータコイル20のコイル辺部21aの長さに略等しいものであって、この実施の形態では、第1円盤43と第2円盤44の間にスペーサ30bを介装することにより確保される。そして、第1及び第2係止部材41,42が取付けられた面を互いに外側に向けることから、第1係止部材41の掛け回し面と第2係止部材42の掛け回し面の間隔は、径方向外側に向かって拡がるように取付けられる。
【0031】
また、この実施の形態では、第1円盤43の外径より第2円盤44の外径を大きくし、環状に配置された複数の第1係止部材41が描く円より、環状に配置された複数の第2係止部材42が描く円が相違するように構成される。この第1円盤43と第2円盤44は巻き線機30の回転軸31に取付けられるけれども、図8に詳しく示すように、回転軸31の軸方向から観察した場合に、60°毎に円盤に取付けられた第1又は第2係止部材42を他の第2又は第1係止部材41に対して30°円周方向に移動させた状態で取付けられる。これにより第1係止部材41とその第1係止部材41に隣接する第1係止部材41の間の隙間に第2係止部材42が位置することになり、巻き線機30はその回転軸31を第1及び第2円盤43,44とともに30°毎に回転可能に構成される。なお、符号43aは、線材17の端部を絡げるために第1円盤43に取付けられた絡げ部材43aである。
【0032】
図7に示すように、巻き線機30には、回転軸31が設けられた前面から前方に突出するノズル軸32が出没可能に設けられ、そのノズル軸32には、線材17が挿通されて先端が第1係止部材41と第2係止部材42の間の隙間に進入可能な管状のノズル33がそのノズル軸32に直交するように設けられる。回転軸31は、ノズル軸32を出没させた場合に、ノズル33の線材17を繰り出す端部が第1及び第2係止部材41,42における掛け回し部41b,42bの外周近傍を通過するように傾斜して固定される。また、この巻き線機30には、線材17が巻回された図示しないドラムから供給された線材17をノズル33に案内する複数のプーリ35,36が設けられる。その内の1つはノズル軸32に設けられ、その内の1つが板バネ37を介して揺動可能に本体30aに取付けられる。板バネ37は、線材17のたるみをその弾性により吸収してその線材17に張りを与えるように構成される。
【0033】
この巻き線機30を用いたステータコイルの製造方法は、図7の一点鎖線で示すように、先ずノズル軸32を突出させてノズル33を第1係止部材41と第2係止部材42の間の隙間に通過させ、そのノズル33に挿通された線材17を第1係止部材41と第2係止部材42の間に挿通させ、その線材17の端部を絡げ部材43aに絡げた状態から初められる。次に、巻き線機30はノズル軸32を没入させてそのノズル33を第1係止部材41と第2係止部材42の間の隙間に通過させ、その後巻き線機30は回転軸31を回転させて、その回転軸31に取付けられた第1及び第2円盤43,44の双方を第1及び第2係止部材41,42とともにを30°周方向に回転させる。すると、先にノズル33が通過した第1係止部材41と第2係止部材42の間に隣接する次の第1係止部材41と第2係止部材42の間にそのノズル33が対向し、巻き線機30はノズル軸32を突出させてそのノズル33をその次の第1係止部材41と第2係止部材42の間の隙間に通過させる。すると、そのノズル33に挿通された線材17は、第2係止部材42に掛け回された後にその隣接する次の第1係止部材41と第2係止部材42の間に挿通されることになり、第2係止部材42に掛け回されてU字状を成す。
【0034】
その後、巻き線機30は回転軸31を再び同方向に回転させて、第1及び第2円盤43,44の双方を第1及び第2係止部材41,42とともにを30°周方向に回転させる。すると先にノズル33が通過した第1係止部材41と第2係止部材42の間に隣接する更に次の第1係止部材41と第2係止部材42の間の隙間にそのノズル33が対向し、巻き線機30はノズル軸32を再び没入させてそのノズル33をその隙間に通過させる。すると、そのノズル33に挿通された線材17は、第1係止部材41に掛け回された後にその更に隣接する次の第1係止部材41と第2係止部材42の間に挿通され、その第1係止部材41に掛け回されて蛇行し、S字状を成す。
【0035】
このような動作を繰り返すことにより第1係止部材41と第2係止部材42に線材17を交互に掛け回しつつ蛇行させることができ、これを継続することによりその線材17は第1及び第2円盤43,44の外周に沿って周回し、第1係止部材41と第2係止部材42の間に掛け渡された真っ直ぐな線材17からなるコイル辺部21a(図2)と、第1及び第2係止部材41,42に掛け回されて周方向に沿う線材17からなるコイルエンド部21b,21c(図2)とが交互に形成され、全ての第1及び第2係止部材41,42に線材17を1回掛け回した状態で、その線材17は蛇行しつつ第1及び第2円盤43,44の外周に沿って一周し、単位波巻きコイル21となる。
【0036】
ノズル軸32を出没させた場合に、ノズル33の線材17を繰り出す端部が第1及び第2係止部材41,42における掛け回し部41b,42bの外周近傍を通過するので、既に単位波巻きコイル21が形成された後も上記動作を繰り返すと、図9及び図10に示すように、第1係止部材41と第2係止部材42に先に掛け回された線材17に径方向外側から隣接して新たな線材17が掛け回される。即ち、図9に示すように、ノズル軸32を突出させて回転軸31を30°周方向に回転させると、第1係止部材41の掛け回し部41bに線材17が先に掛け回された線材17と離間した状態で掛け回される。けれども、図10に示すように、そのノズル軸32を没入させて回転軸31を再び30°回転させると、その線材17は第2係止部材42の掛け回し部42bに掛け回され、このとき第1係止部材41の掛け回し部41bに掛け回された線材17は周方向に引っ張られ、図10の破線矢印で示すように先に掛け回されていた線材17側に移動してその先の線材に外周側から隣接することになる。
【0037】
特に、この実施の形態では、第1及び第2係止部材41,42におけるそれぞれの掛け回し部41b,42bを円盤43,44の外径に沿って外側に向かって拡がる扇状を成すように形成し、第1係止部材41の掛け回し面と第2係止部材42の掛け回し面の間隔が、径方向外側に向かって拡がるように構成したので、その第1及び第2係止部材41,42のそれぞれの掛け回し部41b,42bに線材17を掛け回すと、その線材17は扇状であって傾斜している掛け回し部41b,42bにおける掛け回し面に案内されて取付部41a,42a側に移動することになる。この結果、第1係止部材41と第2係止部材42に後に掛け回す線材17を先に掛け回された線材17に径方向外側から確実に隣接させることができる。
【0038】
従って、第1係止部材41と第2係止部材42に交互に掛け回されて蛇行する線材17を第1及び第2円盤43,44の外周に沿って2周以上周回させることにより、先に形成された単位波巻きコイル21に外周側から隣接する新たな単位波巻きコイル21を形成することができ、これにより単位波巻きコイル21が径方向に複数連続して形成されたステータコイル20を得ることができる。そして、第1係止部材41の掛け回し面と第2係止部材42の掛け回し面の間隔を径方向外側に向かって拡がるように第1及び第2係止部材41,42の双方の掛け回し面を傾斜させたので、第1及び第2円盤43,44の外周に沿って一周する1の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aよりその1の単位波巻きコイル21の外周側に隣接して一周する他の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aを長くすることができる。
【0039】
また、第1及び第2係止部材41,42のそれぞれの掛け回し部41b,42bは、第1及び第2円盤43,44の外周から外側に向かって円周方向に拡がる扇状を成すように形成したので、その掛け回し部41b,42bに掛け回された線材からなるコイルエンド部21b,21c(図2)はその掛け回される位置においてその長さが異なり、径方向外側の方が長くなる。このため、1の単位波巻きコイル21のコイルエンド部21b,21cよりその1の単位波巻きコイル21の外周側に隣接する他の単位波巻きコイル21のコイルエンド部21b,21cを長くすることができる。
【0040】
また、この実施の形態では、環状に配置された複数の第1係止部材41が描く円より環状に配置された複数の第2係止部材42が描く円を相違させたので、図2に示すように単位波巻きコイル21におけるコイル辺部21aの一方の端部におけるコイルエンド部21bが描く円Cは、そのコイル辺部21aの他方の端部におけるコイルエンド部21cが描く円Dより小さいか或いは大きくすることができる。そして、蛇行する線材17を第1及び第2円盤43,44の外周に沿って所定の回数周回させた後には、図7に示す第1及び第2円盤43,44を巻き線機30の回転軸31から取り外し、第1及び第2係止部材41,42を離脱することにより本発明のステータコイル20を得る。
【0041】
このようにして製造されたステータコイル20は、図6に示すようなインサータ装置50を用いてステータコア11に組み付けられる。図に示すインサータ装置50は、ティース13(図3)の内側に沿って配置される棒状のブレード51と、コア11の内側を移動するストリッパ52と、ブレード51に外側から重合してコア11のティース13下面を支持する受容冠53と、そのコア11の環状部12を上側から押さえる押圧リング54を備える。また、このインサータ装置50には、押圧リング54側に突出したコイルエンド部21bをコア11の半径方向外側に逃がす押圧ジョー56が複数設けられる。
【0042】
ステータコイル20の装着は、大径側のコイルエンド部21cを受容冠53の外側に位置させ、小径側のコイルエンド部21bをブレード51の内側に位置させることにより行われる。その後コア11を受容冠53に支持させて押圧リング54により押さえて固定する。この状態で、図6に示すように、ストリッパ52をコア11の内側に挿通させてブレード51の内側に位置する小径側のコイルエンド部21bを図の上方に引き上げる。これによりその小径側のコイルエンド部21bに連続するコイル辺部21aも引き上げられてスロット14の中に押し込まれながら上昇し、その小径側のコイルエンド部21bがコア11の上方にまで達した状態で全てのコイル辺部21aはそのスロット14内に収容される。3相式の回転電機を例示するこの実施の形態では、図3に示すように隣接するコイル辺部21aは3つのティース13を跨いで各スロット14に挿入される。
【0043】
ここで、インサータ装置50へのステータコイル20の装着にあっては、一方のコイルエンド部21cを受容冠53の外側に位置させ、他方のコイルエンド部21bをブレード51の内側に位置させる必要があるけれども、本発明のステータコイル20では、コイル辺部21aの端部におけるコイルエンド部21b,21cが描く円を異ならせて円錐面に単位波巻きコイル21を沿わせたので、その装着を容易にすることができる。また、コイル辺部21aがスロット14に収容された状態では、円錐面に沿うコイル辺部21aは起立して互いに平行になるけれども、平面内にある複数のコイル辺部21aを略直角に転換させて起立させる図12に示す従来品に比較して、その転換する角度を著しく小さくすることができる。このため、コイル辺部21aを起立させる際に線材17にストリッパ52等が過度に接触することに起因するダメージを与えるようなことはない。よって、例え線材17が太線であったとしても、線材17の絶縁被膜が破損することはなく、ステータコア11と線材17との間の絶縁、或いは線材17同士間の絶縁を確保される結果、アースやレア等の不具合を回避してその信頼性を著しく高めることができる。
【0044】
そして、コア11の軸方向における端面から突出したコイルエンド部21b,21cは押圧ジョー56を用いた逃がし成形により、コア11の半径方向外側に押される。ここで、本発明では、1の単位波巻きコイル21のコイル辺部21aより、その外周側に隣接する他のコイル辺部21aを長くしたので、図1に示すように、コア11の両端面から突出するコイルエンド部21b,21cは、コア11の外径側から内径側に従ってその突出量がそれぞれ減少して傾斜することになる。すると、それらのコイルエンド部21b,21cは、その全体が当初よりステータコア20の外径側に寄ることになり、押圧ジョー56による逃がし成形時に、その内側に存在するコイルエンド部21b,21cはそのコア11の端面に沿った後に外径側のコイルエンド部21b,21cのコア11側である内側に入り込むので、それらのコイルエンド部21b,21cの全体をステータコア11の外径側へ比較的容易に逃がすことができる。
【0045】
3相式の回転電機を例示するこの実施の形態では、図4に示すように、最初のコイル20におけるコイル辺部21aが挿入されなかったスロット14には、別の相を形成するコイルのコイル辺部21aが挿入され、このようにして3相分のステータコイル20が単一のステータコア11に組み込まれて回転電機のステータ10が得られる。このステータ10では、図5に示すように、最初のコイル20のコイルエンド部21b,21cが径方向外側に押されて空いた空間に、その後に組み付けられた他の相のコイル20におけるコイルエンド部21b,21cを引き回してその空間に設置することができ、これによりコア11の端面近傍空間におけるコイルエンド部21b,21cの占積率を高めることができる。すると、コイル20を製造するための線材17の全長も減少し、そのコイル20における銅損が減少し、本発明のコイル20を用いる回転電機の効率を向上させるとともに、その回転電機の外形を小型化することも可能となる。
【0046】
なお、上述した実施の形態では、第1係止部材41の掛け回し面と第2係止部材42の掛け回し面の間隔が径方向外側に向かって拡がるように第1及び第2係止部材41,42の双方の掛け回し面を傾斜させたけれども、第1及び第2係止部材41,42のいずれか一方の掛け回し面を傾斜させても良い。
【0047】
また、上述した実施の形態では、直径が異なる第1及び第2円盤43,44を用い、コイル辺部21aの端部におけるコイルエンド部21b,21cが描く円を異ならせて円錐面に沿う単位波巻きコイル21を用いて説明したけれども、インサータ装置50の装着が容易であるならば、第1及び第2円盤43,44の直径を同一とし、コイル辺部21aの端部におけるコイルエンド部21b,21cが描く円を同一として円柱の外周面に沿うような円筒状の単位波巻きコイル21を得るようにしても良い。
【符号の説明】
【0048】
10 回転電機用ステータ
11 ステータコア
14 スロット
17 線材
20 ステータコイル
21 単位波巻きコイル
21a コイル辺部
21b,21c コイルエンド部
41 第1係止部材
42 第2係止部材
C コイル辺部の一方の端部におけるコイルエンド部が描く円
D コイル辺部の他方の端部におけるコイルエンド部が描く円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコア(11)のスロット(14)に挿入されるコイル辺部(21a)と前記ステータコア(11)の軸方向の端面から突出するコイルエンド部(21b,21c)とが蛇行するように周方向に交互に形成されて一周する単位波巻きコイル(21)が径方向に複数連続して形成されたステータコイル(20)であって、
1の単位波巻きコイル(21)のコイル辺部(21a)より前記1の単位波巻きコイル(21)の外周側に隣接する他の単位波巻きコイル(21)のコイル辺部(21a)が長いことを特徴とするステータコイル。
【請求項2】
単位波巻きコイル(21)におけるコイル辺部(21a)の一方の端部におけるコイルエンド部(21b)が描く円の直径が前記コイル辺部(21a)の他方の端部におけるコイルエンド部(21c)が描く円の直径と異なる請求項1記載のステータコイル。
【請求項3】
複数の第1係止部材(41)を所定の間隔を空けて環状に配置し、
前記第1係止部材(41)間に所定の間隔を空けて対向する複数の第2係止部材(42)を環状に配置し、
前記第1係止部材(41)と前記第2係止部材(42)に線材(17)を交互に掛け回して蛇行させつつ周回させ、
前記第1係止部材(41)と前記第2係止部材(42)の間に掛け渡された線材(17)からなるコイル辺部(21a)と前記第1及び第2係止部材(41,42)に掛け回されて周方向に沿う線材(17)からなるコイルエンド部(21b,21c)とが交互に形成されたステータコイル(20)を得るステータコイルの製造方法。
【請求項4】
第1係止部材(41)の掛け回し面と第2係止部材(42)の掛け回し面の間隔が径方向外側に向かって拡がるように前記第1及び第2係止部材(41,42)のいずれか一方又は双方の掛け回し面を傾斜させ、
前記第1係止部材(41)と前記第2係止部材(42)に交互に掛け回されて蛇行する線材(17)を2周以上周回させて一周する1の単位波巻きコイル(21)のコイル辺部(21a)より前記1の単位波巻きコイル(21)の外周側に隣接して一周する他の単位波巻きコイル(21)のコイル辺部(21a)を長くする請求項3記載のステータコイルの製造方法。
【請求項5】
環状に配置された複数の第1係止部材(41)が描く円より環状に配置された複数の第2係止部材(42)が描く円を相違させ、単位波巻きコイル(21)におけるコイル辺部(21a)の一方の端部におけるコイルエンド部(21b)が描く円の直径と前記コイル辺部(21a)の他方の端部におけるコイルエンド部(21c)が描く円の直径を異ならせる請求項3又は4記載のステータコイル20の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載のステータコイル(20)若しくは請求項3ないし5いずれか1項に記載の方法により得られたステータコイル(20)を備える回転電機用ステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−268616(P2010−268616A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118501(P2009−118501)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【出願人】(592053103)株式会社林工業所 (4)
【Fターム(参考)】