説明

ストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するための方法および装置

本発明は、ストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するための方法および装置であって、金属溶融物が、注湯容器から鋳造樋を通り、サイホン状に鋳造ノズルとして構成された流出領域から、水平型ストリップ鋳造設備の回動する鋳造ベルト上に、保護ガスを当てながら供給される方法および装置に関する。ここで、本発明の方法によれば、少なくとも鋳造プロセス中に、作用領域を不活性化して加熱する少なくとも1本のプラズマビームが、鋳造ノズルの出口側領域およびそこから吐出する金属溶融物に作用する。このために、本発明の装置によれば、鋳造方向とは逆向きに鋳造ノズルの流出領域に向けられ、プラズマビームを発生する少なくとも1つのプラズマバーナーが提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念によるストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するための方法、および請求項10に記載の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するためのその種の方法は既知である(非特許文献1参照)。特に、DSC法として知られているこの製造法は、軽量鋼からなる熱間ストリップの製造に適している。
【0003】
既知の方法では、溶融物が、注湯容器(Zulaufgefas)から鋳造樋を通り、サイホン状に鋳造ノズルとして構成された流出領域から、水平型ストリップ鋳造設備の回動する鋳造ベルト上に供給される。鋳造ベルトの集中冷却により、供給された溶融物は硬化して、6〜20mmの範囲内の厚さの半製品ストリップになる。完全に硬化した後、半製品ストリップに熱間圧延プロセスが施される。
【0004】
鋳造ベルト上での溶融物の分散を一様にするために、供給領域で、熊手形の不活性ガスの複数本のビームが、幅にわたって分散されて、輸送方向とは逆向きに溶融物浴に向けられる。
【0005】
このストリップ鋳造設備での欠点は、稼動中に鋳造ノズルの排出側領域で焼き付き(Anbackung)が生じる可能性があることであり、この焼き付きは、溶融物のための出口断面を次第に狭める。これにより、ベルト上への溶鋼の供給が一様でなくなり、鋳造エラーが生じる。
【0006】
焼き付きの原因の調査から判明したこととして、一方では、溶融物に比べて鋳造ノズルでの温度が低いことで初めて付着物形成の可能性が生じ、また他方では、セラミックからなる鋳造ノズルが、溶融物出口で、溶融物浴の表面上に生じる酸化物で濡らされ、酸化物がそこに付着して留まり、それにより焼き付きがさらに成長するのに理想的な表面を形成する。
【0007】
焼き付きは、特に、セラミック鋳造ノズルと、冷却式の回動する鋳造ベルトと、液状金属溶融物との臨界三重点、および流れに好適でない領域で生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】steel research 74 (2003), No. 11/12, page 724 − 731
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するための方法であって、前述した問題を解消するか、少なくともかなり軽減する方法を提供することである。さらなる課題は、その方法を実施するための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、前提部を基に、請求項1の特徴部と関連付けて解決される。有利な変形形態および熱間ストリップを製造するための装置は、他の請求項の対象である。
【0011】
本発明の教示によれば、少なくとも鋳造プロセス中に、作用領域を不活性化して加熱する少なくとも1本のプラズマビームが、鋳造ノズルの出口側領域およびそこから吐出する溶融物に作用する。
【0012】
本発明による方法は、基本的には、様々な金属材料からなる熱間ストリップを製造するのに適しており、特に軽量鋼、例えばマンガン含有量の高いHSD(登録商標)鋼にも適している。
【0013】
実験から、鋳造ノズルの出口領域および吐出する金属溶融物の表面に対するプラズマビームの作用により(大きな化学的活性、非常に効果的な不活性化、および加熱により)、焼き付きの発生が効果的に妨げられることが判明した。
【0014】
それにより、ストリップ鋳造設備の動作時間、ひいては、その経済性、ならびに鋳造されるストリップの品質を大幅に向上させることができる。
【0015】
プラズマは、それ自体知られている様式で、高電圧または高周波数によって誘導的または容量的に、バーナー自体の中で、または金属溶融物に向けて点火され、直流または交流によって維持される。ここで、プラズマの強さ(強度)は、有利には、ガス混合量、圧力、および流量の調整器と、電気的パラメータに関する調整機構とからなる調整セットによって調節される。
【0016】
プラズマの正確に制御可能な出力およびプラズマの高温により、有利には、例えば鋳造取鍋内での温度プロファイルまたは鋳造時の温度勾配をなくすために、鋳造ノズル領域への規定の入熱を調節することができる。
【0017】
不活性化を実現し、ひいては、鋳造ノズルに焼き付きを生じる原因となりうる溶融物表面上での酸化物の形成を防止するために、有利には、プラズマ用のプロセスガスとして不活性ガス、例えばアルゴンや窒素が使用される。
【0018】
しかし、プラズマガスとして、アルゴンおよび窒素以外にも、他の単独のガス、またはH、CO、CO、もしくはCHの添加を伴うガス混合物、さらにまた他の組合せを使用することもできる。
【0019】
規定通りに調節可能な不活性化により、金属薄膜の表面(表面張力)に非常に良い影響を及ぼすことができる。例えば、存在する水素が、溶融物表面の酸化を非常に良く妨げる。
【0020】
出口領域の不活性化、および溶融物浴表面の的確な温度制御により、有利には、焼き付き防止に関して、金属薄膜の流動挙動、ひいてはセラミックの濡れ性に影響を及ぼすことができる。
【0021】
セラミック鋳造ノズルと、鋳造ベルトと、液状金属溶融物との特に臨界の三重点での蓄積は、本発明による方法によって有利に妨げることができる。
【0022】
従来技術で既に知られているように、鋳造ノズルの前に、アルゴン熊手型噴射器(Argonrechen)として形成されたノズル状要素が配置されており、このノズル状要素は、溶鋼を鋳造ノズル上に一様に分散させる。
【0023】
本発明の第1の有利な実施形態では、アルゴン熊手型噴射器は、システム内に1つまたは複数のプラズマバーナーを横並びに、または溶融物が流れる方向で見て前後に組み込むことができるように修正され、それにより構造ユニットが形成される。ここで、プラズマバーナーは、鋳造ノズルの全幅にわたって、特に縁部領域にも作用することができるように位置決めされる。不活性化および加熱の効率を高めることができるので複数のバーナーの採用が有利である。
【0024】
第2の有利な実施形態では、プラズマバーナーが、出口側鋳造ノズル領域に区分毎に作用し、個々のバーナーの的確な個別の温度制御によって、鋳造ノズルの幅にわたって、または吐出する溶融物浴の幅にわたって、鋳造ノズルの最適な加熱を行うことができる。
【0025】
本発明によれば、構造ユニットは、熱伝導性の良い材料、例えば銅から製造され、水で集中冷却される。
【0026】
しかし、それぞれの用途にとってより有用と思われるときには、プラズマバーナーをアルゴン熊手型噴射器とは関係なく配置することもできる。
【0027】
溶融物浴表面にも的確に影響を及ぼすことができるように、プラズマバーナーのビーム方向は、鋳造方向とは逆向きに、有利にはわずかに下向きに傾けて溶鋼の方向に調節される。また、そのために、鋳造ノズルの縁部領域では、プラズマバーナーは、吐出する溶融物の縁部領域の方向にわずかに向けられる。
【0028】
図面で、本発明による方法をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるストリップ鋳造設備の鋳造ノズル領域の概略上面図である。
【図2】図1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に、本発明によるストリップ鋳造設備の鋳造ノズル領域の概略上面図を示す。
【0031】
鋳造ノズルの2つのセラミック側部1、1’、および回動する鋳造ベルト3の共に移動する側壁2、2’を見ることができる。金属溶融物7の鋳造方向は、この図では左から右であり、矢印によって示されている。
【0032】
鋳造ノズルから金属溶融物7が出る領域に、銅からなる本発明による構造ユニット4が示されており、この構造ユニット4は、鋳造ベルト3の表面上に溶融物を一様に分散させるためのアルゴン熊手型噴射器と、プラズマバーナー9(図2)とからなる。
【0033】
プラズマバーナー9は、そのプラズマビーム5が、鋳造ノズルからの金属溶融物7の出口領域および溶融物表面を完全に不活性化し、溶融物の温度を制御することができるように構成される。
【0034】
鋳造ベルト3上での溶融物の分散を一様にするために、アルゴン熊手型噴射器のノズル6は、斜め下向きに金属溶融物7に向いている。
【0035】
図2に、鋳造ノズル領域が、図1のA−A線断面による側面図で示されている。この図から、同様にセラミックからなる鋳造ノズルの上部8と下部8’を見て取れる。
【0036】
アルゴン熊手型噴射器およびプラズマバーナー9を備える構造ユニット4は、鋳造ノズルからの金属溶融物7の出口領域において、一方では、アルゴン熊手型噴射器のノズル6(図1)が、吐出する金属溶融物を鋳造ベルト3上に一様に分散させることができるように、他方では、プラズマバーナー9のプラズマビーム5が、出口領域を完全に不活性化することができるように構成される。
【0037】
金属溶融物7の的確な温度制御のために、本発明によれば、プラズマバーナー9は、吐出する溶融物の方向に傾けられている。
【0038】
プラズマバーナー9は、冷却水穴10によって水で冷却され、プラズマガス供給路11を通してプラズマガスを供給される。
【0039】
構造ユニット4に組み込まれるプラズマバーナーの電気供給用の導線は図示されていない。
【符号の説明】
【0040】
1、1’ 鋳造ノズルの側部
2、2’ 鋳造ベルトの側壁
3 鋳造ベルト
4 アルゴン熊手型噴射器とプラズマバーナーからなる構造ユニット
5 プラズマビーム
6 ノズル状要素
7 金属溶融物
8、8’ 鋳造ノズルの上部および下部
9 プラズマバーナー
10 冷却水穴
11 プラズマガス供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するための方法であって、金属溶融物(7)を、注湯容器から鋳造樋を通り、鋳造ノズルとしてサイホン状に構成された流出領域から、水平型ストリップ鋳造設備の回動する鋳造ベルト(3)上に、保護ガスを当てながら供給する方法において、
少なくとも鋳造プロセス中に、作用領域を不活性化してかつ加熱する少なくとも1本のプラズマビーム(5)を、前記鋳造ノズルの出口側領域および前記出口側領域から吐出する金属溶融物(7)に作用させることを特徴とする方法。
【請求項2】
複数のプラズマビーム(5)を、前記鋳造ノズルの前記出口側領域全体および前記出口側領域から吐出する溶融物(7)に区分毎に作用させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発生した前記プラズマビーム(5)の出力および温度が区分毎に制御可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマを発生させるために、不活性ガス、または不活性ガスを含むガス混合物を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
不活性ガスとしてアルゴンまたは窒素を使用することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ガス混合物として、H、CO、CO、またはCHの添加を伴う不活性ガスを使用することを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
作用する前記プラズマビーム(5)によって、吐出する前記金属溶融物(7)の温度に的確に影響が及ぼされ、発生する前記注湯容器から前記鋳造ノズルの前記流出領域への温度勾配がなくされることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記鋳造ノズルから吐出する前記金属溶融物(7)の表面張力、ひいては粘性に的確に影響が及ぼされることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プラズマビーム(5)を、鋳造プロセスの前に既に前記鋳造ノズルの前記出口領域に作用させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法を実施するための、ストリップ鋳造によって鋼ストリップを製造するための装置であって、水平に延びる鋳造樋およびサイホン状に鋳造ノズルとして構成された流出領域を備える、前記金属溶融物を含む注湯容器と、2つの方向転換ロールおよび1つの冷却式の回動する鋳造ベルト(3)を備える一次冷却区域とからなる装置において、
鋳造方向とは逆向きに前記鋳造ノズルの前記流出領域に向けられ、プラズマビーム(5)を発生する少なくとも1つのプラズマバーナー(9)が配置されていることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記鋳造ノズルの幅にわたって分散されて、前記鋳造ノズルに区分毎に作用する複数のプラズマバーナー(9)が、前記プラズマビーム(5)が前記鋳造ノズルの全幅に及ぶように配置されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記プラズマバーナー(9)が、溶融物が流れる方向で見て前後に配置されていることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記鋳造ベルト(3)上への前記金属溶融物(7)の前記供給領域に、前記鋳造ベルト(3)上での溶融物の分散を一様にするために不活性ガスの複数本のガスビームを放出するための、熊手型噴射器として構成された少なくとも1つのノズル状要素(6)が配置されている請求項10〜12のいずれか一項に記載の装置において、
前記プラズマバーナー(9)と前記ノズル状要素(6)が構造ユニット(4)に一体化されることを特徴とする装置。
【請求項14】
前記構造ユニット(14)が水冷されていることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記プラズマバーナー(9)と前記ノズル状要素(6)が別々に配置されていることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記プラズマバーナー(9)と前記ノズル状要素(6)がそれぞれ水冷されていることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記鋳造ノズルの前記下側出口領域への前記プラズマバーナー(9)のビーム方向が、前記金属溶融物(7)の方向に傾いていることを特徴とする請求項10〜16のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−530607(P2012−530607A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516506(P2012−516506)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/DE2010/000551
【国際公開番号】WO2010/149125
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(390035426)エス・エム・エス・ジーマーク・アクチエンゲゼルシャフト (320)
【Fターム(参考)】