スパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法
【課題】カルーセルのような回転ドラムを使用した成膜において、カルーセルの回転軸と装置本体の軸受けの非常に微小な偏芯が製品の特性バラツキに影響を及ぼす。
【解決手段】チャンバーであるチャンバー3内に円筒状または多角形状のドラムが回転可能に設けられ、該ドラムの外周面上に基板10が格納される基板ホルダ9が取り付けられ、該ドラムが垂直な回転軸の周りを回転しながら基板10に成膜するカルーセル型のスパッタ成膜装置において、チャンバーであるチャンバー3内壁に設けられ基板10に成膜するターゲット7,8と、基板ホルダ9がターゲット7、8と正面に対向した位置のターゲットと基板10との距離を測定して回転ドラムの偏芯量を測定する偏芯測定装置13と、を備え、偏芯測定装置13からの出力により、各基板ターゲットに対応してターゲット電力を修正する。
【解決手段】チャンバーであるチャンバー3内に円筒状または多角形状のドラムが回転可能に設けられ、該ドラムの外周面上に基板10が格納される基板ホルダ9が取り付けられ、該ドラムが垂直な回転軸の周りを回転しながら基板10に成膜するカルーセル型のスパッタ成膜装置において、チャンバーであるチャンバー3内壁に設けられ基板10に成膜するターゲット7,8と、基板ホルダ9がターゲット7、8と正面に対向した位置のターゲットと基板10との距離を測定して回転ドラムの偏芯量を測定する偏芯測定装置13と、を備え、偏芯測定装置13からの出力により、各基板ターゲットに対応してターゲット電力を修正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクター等に用いられる光学多層膜をスパッタ方式により成膜する場合の、スパッタ方式による光学多層膜の成膜装置及びスパッタ成膜方法に関するものであり、特に、カルーセル型スパッタ成膜装置のような回転式スパッタ成膜装置において成膜される光学多層膜の光学特性の安定性の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学多層膜は基板上に高屈折率と低屈折率の2種類の膜の交互積層膜あるいは3種類以上の膜の積層膜で構成されている。そして、これら各層の膜厚が光学特性を決定する最も重要な要素であり、この膜厚をより正確に制御することが成膜装置では重要な事項である。現在この光学多層膜では膜厚の誤差は数%以下から厳しい仕様では1%以下に抑えることが必要とされている。そのため成膜レートの安定性が確保されなければ、透過率、透過帯の半値波長等の要求光学特性を得られない。更に、量産機で連続成膜を行うためには、前記安定性が確保できなければ、ロット間の再現性が得られない。
【0003】
従来、光学多層膜の成膜には、真空蒸着法を利用するのが一般的であったが、付着粒子の運動エネルギーが非常に低いため、近年は緻密な微細構造を持ち、波長シフトのない薄膜を成膜するには、基板加熱やイオンアシスト蒸着法やイオンプレーティング法のようにイオンのプラズマアシストによって付着粒子にエネルギーを与えるようなPassive
Energeticプロセスやスパッタ方式等が提案されている。また、スパッタ方式による成膜技術では、安定したプラズマの発生により高い再現性が得られ、特に膜厚モニタを設置せずとも、予め設定した成膜レートに従って所定の膜厚を成膜するのに必要な時間を算定して制御することで成膜中の各層の膜厚制御精度がますます良くなっている。従ってスパッタ方式における成膜レートは、真空蒸着法に比べると極めて安定しており、膜厚の制御は、水晶式膜厚計や光学式膜厚計等を使用しなくても時間管理の制御が可能であるという利点がある。
【0004】
特にスパッタ方式の中でも大面積成膜が可能なカルーセル型の回転スパッタ方式による成膜技術および成膜装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。カルーセルと言われる回転ドラムを搭載したスパッタ成膜装置では、このカルーセルを回転させながら、金属ターゲット材及びこれとは別の金属ターゲット材を交互に放電させ、反応性スパッタもしくは酸化アシストプロセスにより光学多層膜を形成する方法が取られている。
【特許文献1】特開平8−176821号公報
【特許文献2】特開2003−27226号公報
【特許文献3】特開昭62−284076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルーセル型の回転スパッタ方式は、大面積の基板、又は多数の基板への成膜が可能であるが、膜厚分布のバラツキが起因する金光学特性の面内バラツキの制御が非常に困難であるといった課題がある。そのバラツキの要因としては、基板縦方向、基板横方向、基板ホルダ間、ロット間バラツキが挙げられる。
【0006】
基板縦方向の膜厚調整は、基板とターゲット間に膜厚補正板を設けることで、ターゲットからスパッタされて基板方向へ飛散する粒子の一部を遮ることができるため、この補正板の形状を調整することにより膜厚分布を均一に補正することや場所により膜厚を変える所望の不均一膜にすることを可能にすることができる。また、基板横方向の膜厚バラツキ
としては、基板の中央部周辺と基板の両端部ではプラズマの密度が違いによるスパッタ原子の付着確率の違いから生じるためにスパッタ条件の最適化、またはカルーセルの回転速度の調整により付着確率の均一化を可能することができる。基板ホルダ間においては、カルーセルの調整による取り組み、ロット間の膜厚調整においては、成膜結果をフィードバックする取り組みでそれぞれ安定化を図っている。
しかしながら、現在この光学多層膜では益々厳しい光学仕様が必要とされており、上記の取り組みのみでは現行の面内バラツキ特性を実現するのが非常に困難になっており、中でも特に基板ホルダ間の取り組みのような機械的な寸法調整には限界がきている。現にカルーセルの回転軸と装置本体の軸受けの非常に微小な偏芯が光学特性のバラツキに影響を及ぼすといった問題が浮上してきている。本発明は、前記従来の課題を解決するもので、この基板ホルダ間の光学特性を均一にすることができるスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスパッタ成膜装置は、チャンバー内に円筒状または多角形状のドラムと、前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダと、前記チャンバーの内壁に設けられ前記基板に成膜するターゲットと、を有するスパッタスパッタ成膜装置において、前記基板ホルダが前記ターゲットと正面に対向した位置の前記ターゲットと前記基板との距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する偏芯測定装置を有し、前記偏芯量に基づいて各基板ホルダに対しるターゲット電力を修正することを特徴としたものである。
【0008】
また本発明のスパッタ成膜装置は、前記偏芯測定装置において、非接触型センサを用いて前記ターゲットと各基板との距離を測定することを特徴としたものである。
【0009】
また本発明のスパッタ成膜方法は、チャンバー内に円筒状または多角形状のドラムが回転可能に設けられ、前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダが取り付けられ、前記ドラムが垂直な回転軸の周りを回転しながら前記基板に成膜するスパッタ成膜方法において、前記基板に成膜するターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程と、を備えることを特徴としたものである。
【0010】
また本発明のスパッタ成膜方法は、前記前記基板に成膜するターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程とが、チャンバー内の真空排気中に行われることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法によれば、ターゲットと基板ホルダに格納される基板間の距離によって、ターゲット電力の制御を行うことで、カルーセルの回転軸と装置本体の軸受けの偏芯による光学特性のバラツキを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明のスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明にかかるスパッタ成膜装置の構成を模式的に示す断面図で、上から見た断面図である。図2は、本発明にかかるスパッタ成膜装置に用いられるカルーセル1及び基
板ホルダ9の構成を示す斜視図である。
【0014】
図1のスパッタ成膜装置はカールセルといわれるドラム1を出し入れする真空室2とスパッタ成膜処理をするチャンバー3とで構成されたスパッタ成膜装置である。真空室2とチャンバー3は連結されており、真空室2には、カルーセル1の搬入、搬出を行うための扉4が備えられている。また、真空室2とチャンバーであるチャンバー3の間には、各々の部屋を独立して真空化するためにゲートバルブ5が備えられている。カルーセル1は、搬送機構によって、真空室2からチャンバーであるチャンバー3、もしくはチャンバー3から真空室2へ搬送される。また、ドラム1は、チャンバー3内に設置されている回転機構6によって、回転することが出来、チャンバーの側面に対向して備え付けている2つのターゲット7、8によって、このチャンバー3内においてカルーセル1上の複数の基板ホルダ9に備えられている基板10上にスパッタ成膜をすることができる。
【0015】
成膜としては、スパッタガスに例えばアルゴン、反応ガスには例えば酸素を一定の圧力になるようにガスを流しながら保ち、Aターゲット7(ここではSi)を保持するスパッタカソード11に外部から電力を印加し、反応性スパッタ状態の中をドラム1が回転機構6により回転することで、ドラム1上の基板10上に反応性スパッタ法によってSiO2膜が形成される。次に同様にもう一方のBターゲット8(ここではNb)を保持するスパッタカソード12にも電力を印加することでドラム1上の基板10に反応性スパッタ法によってNb2O5膜が形成される。このような繰り返しによってSiO2とNb2O5の多層膜が基板10上に形成される。なお、スパッタ方式に反応性スパッタ法を用いているが、プラズマアシスト法等の酸化物スパッタ方式でも良い。また、ターゲット7の材質はSi、ターゲット8の材質にはNbを用いているが、他にもTi、Ta、Zrやその酸化物、窒化物、炭化物など様々な材質をターゲットに用いることが出来る。ターゲットの数は1つでもよく、3以上であってもよい。また、このスパッタ装置には偏芯測定機構13やターゲット電力調整機構14が備え付けてられている。
【0016】
図1、図2に示すように、一実施態様として、ドラム1に24個の基板ホルダ9を取り付け、正24面体を構成し、それぞれの基板ホルダ9には、3個の基板を格納している。
【0017】
図2に示されるように、カルーセル1は円筒状に形成されており、そのドラム1の外周には基板ホルダ9が取り付けられている。そしてドラム1の外周に設けられた基板ホルダ9の外周の各側面には、基板10が配列されている。このドラム1の中心軸15とチャンバー3内の回転軸16とは鉛直方向にのびるチャンバー3内の中心線と一致するように回転可能に設けられている。基板ホルダ9は、正24角形筒等の多角形筒状に形成され、このドラム1をチャンバー3内で回転させることにより、基板ホルダ9および基板10が回転軸16を中心に回転し、チャンバー3内のターゲット7、8の前を順次通過するようになっている。なお、基板ホルダ9は正24面体に限定されるものではなく、基板10の形状、大きさなどにより他の多面体でも良い。基板に関しても基板ホルダ内に格納されれば、いかなる形状、サイズも問題はない。
【0018】
偏芯測定装置13は、チャンバー3内に取り付けられた光マイクロセンサ18によってカルーセル1が回転軸16に取り付けられた状態で回転動作を行い、各基板ホルダ9がターゲット7の正面に位置した時の基板10との距離(以下、T/S間距離17とする)を測定している。光マイクロセンサ18は、基板ホルダ9の中心軸15に対して垂直方向に取り付けられており、スパッタ電子の影響を受けない領域に設置されている。即ち、図1において、ターゲット7、8の配置されない側に配置される。なお、この光マイクロセンサ18の基板ホルダ9上のセンシング領域19は高平坦化処理、もしくは鏡面処理等を施している方が高精度な測定をするためにはなお良い。なお、T/S距離17の測定には光マイクロセンサ18を用いているが、他の磁気センサ等の非接触式による距離測定装置、
ならびにタッチプローブのような接触式の距離測定装置を用いても良い。
【0019】
次に、偏芯に伴う不都合について説明する。偏芯は、回転軸16に取り付けられたドラム1において、回転軸16とドラム1の中心軸15の寸法公差、ならびに取り付け公差から生じてしまう回転時のカルーセル1のブレのことで、偏芯が生じてしまうとT/S間距離17が基板ホルダ9毎に異なってしまい、基板10上に成膜される材料の膜厚が異なってしまうので制御することが必要である。ここで、更に図3を用いて詳細に説明する。図3は、本発明にかかるスパッタ成膜装置の構成の一部を説明する図であって、図3(a)は基板ホルダAがスパッタ成膜されている様子を模式的に示す断面図であり、図3(b)は基板ホルダBがスパッタ成膜されている様子を模式的に示す断面図である。図3において、偏芯が生じているとドラム1の回転軸16とドラムの中心軸15は一致していない。したがってターゲット7と基板ホルダA間の距離T1とターゲット7と基板ホルダB間の距離T2との関係がT1>T2、もしくはT1<T2となってしまう。図3においてはT1<T2となっている。同様にその他の基板ホルダ9においてもT/S間距離17がカルーセル1の回転に応じて変化する。そして、この各基板ホルダ9のT/S距離17と偏芯量がゼロの場合のT/S距離の差が各基板ホルダ9の偏芯量となる。T/S間距離17が短くなると、スパッタ電子の付着確率が大きくなり、基板10上の膜厚も厚くなる。その結果、光学薄膜の光学特性も長波長側にシフトしてしまい、各基板ホルダ9の光学特性にも差が出る。
【0020】
次に、ターゲット電力調整機構14に関して説明する。ターゲット電力調整機構14は、偏芯測定装置13によって偏芯量を測定した後に、各基板ホルダ9の偏芯量に応じてターゲット電力プログラムを修正する機構のことで、偏芯量に応じて、予め制御PC20内のメモリ21に格納している偏芯量とターゲット電力の関係を用いて、各基板ホルダに対してのターゲット電力を割り当てる機能のことである。
【0021】
ここで、偏芯量とターゲット電力の関係の導出方法について説明する。まず成膜に使用する材料のターゲット電力と成膜レート変動量との関係を調べる。成膜レート変動量とは、一秒間に成膜される成膜レートの変動量のことで、ここでは本実施の形態での基本成膜条件であるSiO2ではターゲット電力6kW、Nb2O5ではターゲット電力4.5kWでの成膜レートで規格化したものである。実際に図4にSiO2とNb2O5についてのターゲット電力と成膜レート変動量の関係を示す。図4に示すようにどちらの材料においてもターゲット電力と成膜レート変動量は直線上の比例関係があり、ターゲット電力を減少させることで成膜レート変動量、つまり同一時間で成膜できる膜厚を減少させることが可能であることがわかる。そして、次に膜厚変動量と偏芯量の関係を調べる。膜厚変動量とは、成膜された製品の膜厚の変動量のことで、仕様で決められた製品の総膜厚で規格化したものである。図5に膜厚変動量と偏芯量との関係を示す。膜厚変動量と偏芯量は直線上の比例関係があり、偏芯量が変わることで膜厚変動量が変化することがわかる。また、この膜厚変動量は製品の総膜厚に対するものであり、偏芯量がSiO2膜に寄与する膜厚変動量は、総膜厚変動量×SiO2膜厚/総膜厚で、Nb2O5膜に寄与する膜厚変動量は、総膜厚変動量×Nb2O5膜厚/総膜厚で表現できる。上記のように求められたターゲット電力と成膜レート変動量の関係と各ターゲットの膜厚変動量と偏芯量との関係から、各基板ホルダの偏芯量に対するターゲット電力が決められる。そして、この関係式が予めメモリ21に格納される。また、これらの関係式は各ターゲット、ならびに各製品に対して格納されている。
【0022】
次に図6は本発明のスパッタ成膜方法に関するフローチャートである。まず、カルーセル1に基板ホルダ9および基板10をセットする。次にカルーセル1を真空室2に搬入し、扉を閉めて真空排気を行う。真空室2が所定の真空度まで排気した後に、ゲートバルブ5を開放し、カルーセル1を搬送機構によってチャンバー3に搬入する。そして、ゲート
バルブ5を閉じ、チャンバー3が所定真空度まで真空排気を行う。この真空排気の間にドラム1を回転させ、偏芯測定装置13により偏芯測定を行う。その偏芯測定結果に応じて、ターゲット電力調整機構14を通じて各基板ホルダに対応したターゲット電力の修正を行う。その後、チャンバー3が所定真空度に排気されるとスパッタ成膜が開始し、光学多層膜が形成される。
【0023】
ここで、ドラムはφ960mm、基板ホルダとしては正24角形筒の多角形筒でサイズはW:250mm×H:550mm、基板はW:100mm×H:100mmが縦方向に3枚格納されているものを用いた。偏芯測定時のドラムの回転速度としては7rpm、スパッタ成膜時の回転速度としては100rpmで行った。図7に偏芯制御をしない場合の光マイクロセンサ18で測定した各基板ホルダ偏芯量、および成膜後の各基板の光学特性として半値波長の変化をそれぞれ示す。ここで、T/S距離17が本来の距離である場合をゼロとし、T/S距離17が短くなる方向を正とする。また、成膜後の基板10の透過光量を測定し、透過光量が半分に低下する波長を半値波長とする。図7(a)は、24個の基板ホルダ10に任意のホルダから順次番号を付し、本来のT/S距離からのズレを偏芯量として測定したものであり、図7(b)は、成膜後の基板の半値波長の測定例を示すものである。光学特性としては、各基板ホルダに格納されている3枚の基板のうちの真ん中に位置する1枚のみの測定結果を示している。図を見てわかるように回転方向にSINカーブのような特性を示し、ピークトゥピークで約4000umの偏芯量、ピークトゥピークで約8nmの半値波長の特性バラツキが見られている。このように回転方向にSINカーブのような傾向を示していることからも回転の軸ズレが原因による偏芯に起因する半値波長のバラツキが発生していることがわかる。また、図8に偏芯量と半値波長の関係を示す。偏芯量と半値波長では直線上の比例関係があり、偏芯量を減少させることで半値波長のバラツキを減少させることが可能であることがわかる。ここで図9にカルーセルの回転速度を変化させた場合の5番目の基板ホルダの偏芯量の測定結果を示す。測定としては回転速度を変えて1つの基板ホルダのみを測定した結果である。図9を見てわかるように回転速度を変化させても偏芯量は変わらないことがわかる。つまり、偏芯測定時の回転速度は装置内での許容回転速度内であればいずれの回転速度で行っても良い。
【0024】
図10に本実施例で成膜したLong Wave Pass Filter膜(以下LWPF膜と略記する)の構成図を示す。表1に本実施例で成膜したLWPF膜の各層の膜厚を示す。ガラス基板22上に、Nb2O5層23とSiO224層を交互に各15層(全部で30層)を、表1に示す膜圧にて積層した。
【0025】
【表1】
【0026】
図11に本実施例に使用したLWPFの総膜厚:2007nm(内訳は、SiO2膜厚:1246nm、Nb2O5膜厚:761nm)において、導出された各基板ホルダに対応したターゲット電力を示す。このように偏芯量に応じて基板ホルダ毎にターゲット電力
を変化させることがわかる。
【0027】
図12に従来の場合と本発明の偏芯測定機構13とターゲット電力調整機構14によって修正して成膜を行ったLWPFの半値波長を示す。半値波長はピークトゥピークで従来の場合では8nmであったものが、本発明の場合では1nm以下と改善されていることがわかる。本実施のようにターゲット電力を変化させることで、光学特性のバラツキを低減することができた。
【0028】
このようにして、スパッタ成膜前に基板ホルダ毎のT/S距離を測定し、それに応じてターゲット電力を制御することにより、基板上の光学特性分布を均一にすることができる。なお、本発明の実施の形態は例示であり、基板サイズ、ターゲット材に応じて、好適なターゲット電力の設定を行う。
【0029】
なお、本実施例においては、図2に示すとおり、円筒形のドラムを用いたが、このドラムの形状は、ターゲット7と基板10との距離が測定できる形状であればよく、例えば、正多角形や、円錐形のドラムを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明にかかるスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法は、ターゲットと基板間の距離に応じてターゲット電力の調整を行うことで、偏芯による光学特性の面内バラツキを抑制し、このような均一な光学特性を持つ映像機器等の光学フィルタの成膜装置、及び成膜方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例におけるスパッタ成膜装置の構成を模式的に示す上面図
【図2】本発明の実施例におけるドラム及び基板ホルダの構成を示す斜視図
【図3】本発明にかかるスパッタ成膜装置の構成の一部を説明する図
【図4】本実施例におけるターゲット電力と成膜レート変動の関係を示す図
【図5】本実施例における膜厚変動と偏芯量の関係を示す図
【図6】本発明の実施例におけるスパッタ成膜方法を示すフローチャート
【図7】従来の各基板ホルダ偏芯量および各基板の光学特性として半値波長の変化を示す図
【図8】本実施例におけるドラムの回転速度と偏芯量を示す図
【図9】本実施例における偏芯量と半値波長の関係を示す図
【図10】実施例で成膜したLWPF膜の構成図
【図11】本実施例における各基板ホルダに対応したターゲット電力の関係を示す図
【図12】従来と本実施例における光学特性を示す図
【符号の説明】
【0032】
1 カルーセル
2 真空室
3 チャンバー
4 扉
5 ゲートバルブ
6 回転機構
7、8 ターゲット
9 基板ホルダ
10 基板
11、12 スパッタカソード
13 偏芯測定機構
14 ターゲット電力調整機構
15 中心軸
16 回転軸
17 T/S間距離
18 光マイクロセンサ
19 センシング領域
20 制御PC
21 メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクター等に用いられる光学多層膜をスパッタ方式により成膜する場合の、スパッタ方式による光学多層膜の成膜装置及びスパッタ成膜方法に関するものであり、特に、カルーセル型スパッタ成膜装置のような回転式スパッタ成膜装置において成膜される光学多層膜の光学特性の安定性の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学多層膜は基板上に高屈折率と低屈折率の2種類の膜の交互積層膜あるいは3種類以上の膜の積層膜で構成されている。そして、これら各層の膜厚が光学特性を決定する最も重要な要素であり、この膜厚をより正確に制御することが成膜装置では重要な事項である。現在この光学多層膜では膜厚の誤差は数%以下から厳しい仕様では1%以下に抑えることが必要とされている。そのため成膜レートの安定性が確保されなければ、透過率、透過帯の半値波長等の要求光学特性を得られない。更に、量産機で連続成膜を行うためには、前記安定性が確保できなければ、ロット間の再現性が得られない。
【0003】
従来、光学多層膜の成膜には、真空蒸着法を利用するのが一般的であったが、付着粒子の運動エネルギーが非常に低いため、近年は緻密な微細構造を持ち、波長シフトのない薄膜を成膜するには、基板加熱やイオンアシスト蒸着法やイオンプレーティング法のようにイオンのプラズマアシストによって付着粒子にエネルギーを与えるようなPassive
Energeticプロセスやスパッタ方式等が提案されている。また、スパッタ方式による成膜技術では、安定したプラズマの発生により高い再現性が得られ、特に膜厚モニタを設置せずとも、予め設定した成膜レートに従って所定の膜厚を成膜するのに必要な時間を算定して制御することで成膜中の各層の膜厚制御精度がますます良くなっている。従ってスパッタ方式における成膜レートは、真空蒸着法に比べると極めて安定しており、膜厚の制御は、水晶式膜厚計や光学式膜厚計等を使用しなくても時間管理の制御が可能であるという利点がある。
【0004】
特にスパッタ方式の中でも大面積成膜が可能なカルーセル型の回転スパッタ方式による成膜技術および成膜装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。カルーセルと言われる回転ドラムを搭載したスパッタ成膜装置では、このカルーセルを回転させながら、金属ターゲット材及びこれとは別の金属ターゲット材を交互に放電させ、反応性スパッタもしくは酸化アシストプロセスにより光学多層膜を形成する方法が取られている。
【特許文献1】特開平8−176821号公報
【特許文献2】特開2003−27226号公報
【特許文献3】特開昭62−284076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルーセル型の回転スパッタ方式は、大面積の基板、又は多数の基板への成膜が可能であるが、膜厚分布のバラツキが起因する金光学特性の面内バラツキの制御が非常に困難であるといった課題がある。そのバラツキの要因としては、基板縦方向、基板横方向、基板ホルダ間、ロット間バラツキが挙げられる。
【0006】
基板縦方向の膜厚調整は、基板とターゲット間に膜厚補正板を設けることで、ターゲットからスパッタされて基板方向へ飛散する粒子の一部を遮ることができるため、この補正板の形状を調整することにより膜厚分布を均一に補正することや場所により膜厚を変える所望の不均一膜にすることを可能にすることができる。また、基板横方向の膜厚バラツキ
としては、基板の中央部周辺と基板の両端部ではプラズマの密度が違いによるスパッタ原子の付着確率の違いから生じるためにスパッタ条件の最適化、またはカルーセルの回転速度の調整により付着確率の均一化を可能することができる。基板ホルダ間においては、カルーセルの調整による取り組み、ロット間の膜厚調整においては、成膜結果をフィードバックする取り組みでそれぞれ安定化を図っている。
しかしながら、現在この光学多層膜では益々厳しい光学仕様が必要とされており、上記の取り組みのみでは現行の面内バラツキ特性を実現するのが非常に困難になっており、中でも特に基板ホルダ間の取り組みのような機械的な寸法調整には限界がきている。現にカルーセルの回転軸と装置本体の軸受けの非常に微小な偏芯が光学特性のバラツキに影響を及ぼすといった問題が浮上してきている。本発明は、前記従来の課題を解決するもので、この基板ホルダ間の光学特性を均一にすることができるスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明のスパッタ成膜装置は、チャンバー内に円筒状または多角形状のドラムと、前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダと、前記チャンバーの内壁に設けられ前記基板に成膜するターゲットと、を有するスパッタスパッタ成膜装置において、前記基板ホルダが前記ターゲットと正面に対向した位置の前記ターゲットと前記基板との距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する偏芯測定装置を有し、前記偏芯量に基づいて各基板ホルダに対しるターゲット電力を修正することを特徴としたものである。
【0008】
また本発明のスパッタ成膜装置は、前記偏芯測定装置において、非接触型センサを用いて前記ターゲットと各基板との距離を測定することを特徴としたものである。
【0009】
また本発明のスパッタ成膜方法は、チャンバー内に円筒状または多角形状のドラムが回転可能に設けられ、前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダが取り付けられ、前記ドラムが垂直な回転軸の周りを回転しながら前記基板に成膜するスパッタ成膜方法において、前記基板に成膜するターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程と、を備えることを特徴としたものである。
【0010】
また本発明のスパッタ成膜方法は、前記前記基板に成膜するターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程とが、チャンバー内の真空排気中に行われることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法によれば、ターゲットと基板ホルダに格納される基板間の距離によって、ターゲット電力の制御を行うことで、カルーセルの回転軸と装置本体の軸受けの偏芯による光学特性のバラツキを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明のスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明にかかるスパッタ成膜装置の構成を模式的に示す断面図で、上から見た断面図である。図2は、本発明にかかるスパッタ成膜装置に用いられるカルーセル1及び基
板ホルダ9の構成を示す斜視図である。
【0014】
図1のスパッタ成膜装置はカールセルといわれるドラム1を出し入れする真空室2とスパッタ成膜処理をするチャンバー3とで構成されたスパッタ成膜装置である。真空室2とチャンバー3は連結されており、真空室2には、カルーセル1の搬入、搬出を行うための扉4が備えられている。また、真空室2とチャンバーであるチャンバー3の間には、各々の部屋を独立して真空化するためにゲートバルブ5が備えられている。カルーセル1は、搬送機構によって、真空室2からチャンバーであるチャンバー3、もしくはチャンバー3から真空室2へ搬送される。また、ドラム1は、チャンバー3内に設置されている回転機構6によって、回転することが出来、チャンバーの側面に対向して備え付けている2つのターゲット7、8によって、このチャンバー3内においてカルーセル1上の複数の基板ホルダ9に備えられている基板10上にスパッタ成膜をすることができる。
【0015】
成膜としては、スパッタガスに例えばアルゴン、反応ガスには例えば酸素を一定の圧力になるようにガスを流しながら保ち、Aターゲット7(ここではSi)を保持するスパッタカソード11に外部から電力を印加し、反応性スパッタ状態の中をドラム1が回転機構6により回転することで、ドラム1上の基板10上に反応性スパッタ法によってSiO2膜が形成される。次に同様にもう一方のBターゲット8(ここではNb)を保持するスパッタカソード12にも電力を印加することでドラム1上の基板10に反応性スパッタ法によってNb2O5膜が形成される。このような繰り返しによってSiO2とNb2O5の多層膜が基板10上に形成される。なお、スパッタ方式に反応性スパッタ法を用いているが、プラズマアシスト法等の酸化物スパッタ方式でも良い。また、ターゲット7の材質はSi、ターゲット8の材質にはNbを用いているが、他にもTi、Ta、Zrやその酸化物、窒化物、炭化物など様々な材質をターゲットに用いることが出来る。ターゲットの数は1つでもよく、3以上であってもよい。また、このスパッタ装置には偏芯測定機構13やターゲット電力調整機構14が備え付けてられている。
【0016】
図1、図2に示すように、一実施態様として、ドラム1に24個の基板ホルダ9を取り付け、正24面体を構成し、それぞれの基板ホルダ9には、3個の基板を格納している。
【0017】
図2に示されるように、カルーセル1は円筒状に形成されており、そのドラム1の外周には基板ホルダ9が取り付けられている。そしてドラム1の外周に設けられた基板ホルダ9の外周の各側面には、基板10が配列されている。このドラム1の中心軸15とチャンバー3内の回転軸16とは鉛直方向にのびるチャンバー3内の中心線と一致するように回転可能に設けられている。基板ホルダ9は、正24角形筒等の多角形筒状に形成され、このドラム1をチャンバー3内で回転させることにより、基板ホルダ9および基板10が回転軸16を中心に回転し、チャンバー3内のターゲット7、8の前を順次通過するようになっている。なお、基板ホルダ9は正24面体に限定されるものではなく、基板10の形状、大きさなどにより他の多面体でも良い。基板に関しても基板ホルダ内に格納されれば、いかなる形状、サイズも問題はない。
【0018】
偏芯測定装置13は、チャンバー3内に取り付けられた光マイクロセンサ18によってカルーセル1が回転軸16に取り付けられた状態で回転動作を行い、各基板ホルダ9がターゲット7の正面に位置した時の基板10との距離(以下、T/S間距離17とする)を測定している。光マイクロセンサ18は、基板ホルダ9の中心軸15に対して垂直方向に取り付けられており、スパッタ電子の影響を受けない領域に設置されている。即ち、図1において、ターゲット7、8の配置されない側に配置される。なお、この光マイクロセンサ18の基板ホルダ9上のセンシング領域19は高平坦化処理、もしくは鏡面処理等を施している方が高精度な測定をするためにはなお良い。なお、T/S距離17の測定には光マイクロセンサ18を用いているが、他の磁気センサ等の非接触式による距離測定装置、
ならびにタッチプローブのような接触式の距離測定装置を用いても良い。
【0019】
次に、偏芯に伴う不都合について説明する。偏芯は、回転軸16に取り付けられたドラム1において、回転軸16とドラム1の中心軸15の寸法公差、ならびに取り付け公差から生じてしまう回転時のカルーセル1のブレのことで、偏芯が生じてしまうとT/S間距離17が基板ホルダ9毎に異なってしまい、基板10上に成膜される材料の膜厚が異なってしまうので制御することが必要である。ここで、更に図3を用いて詳細に説明する。図3は、本発明にかかるスパッタ成膜装置の構成の一部を説明する図であって、図3(a)は基板ホルダAがスパッタ成膜されている様子を模式的に示す断面図であり、図3(b)は基板ホルダBがスパッタ成膜されている様子を模式的に示す断面図である。図3において、偏芯が生じているとドラム1の回転軸16とドラムの中心軸15は一致していない。したがってターゲット7と基板ホルダA間の距離T1とターゲット7と基板ホルダB間の距離T2との関係がT1>T2、もしくはT1<T2となってしまう。図3においてはT1<T2となっている。同様にその他の基板ホルダ9においてもT/S間距離17がカルーセル1の回転に応じて変化する。そして、この各基板ホルダ9のT/S距離17と偏芯量がゼロの場合のT/S距離の差が各基板ホルダ9の偏芯量となる。T/S間距離17が短くなると、スパッタ電子の付着確率が大きくなり、基板10上の膜厚も厚くなる。その結果、光学薄膜の光学特性も長波長側にシフトしてしまい、各基板ホルダ9の光学特性にも差が出る。
【0020】
次に、ターゲット電力調整機構14に関して説明する。ターゲット電力調整機構14は、偏芯測定装置13によって偏芯量を測定した後に、各基板ホルダ9の偏芯量に応じてターゲット電力プログラムを修正する機構のことで、偏芯量に応じて、予め制御PC20内のメモリ21に格納している偏芯量とターゲット電力の関係を用いて、各基板ホルダに対してのターゲット電力を割り当てる機能のことである。
【0021】
ここで、偏芯量とターゲット電力の関係の導出方法について説明する。まず成膜に使用する材料のターゲット電力と成膜レート変動量との関係を調べる。成膜レート変動量とは、一秒間に成膜される成膜レートの変動量のことで、ここでは本実施の形態での基本成膜条件であるSiO2ではターゲット電力6kW、Nb2O5ではターゲット電力4.5kWでの成膜レートで規格化したものである。実際に図4にSiO2とNb2O5についてのターゲット電力と成膜レート変動量の関係を示す。図4に示すようにどちらの材料においてもターゲット電力と成膜レート変動量は直線上の比例関係があり、ターゲット電力を減少させることで成膜レート変動量、つまり同一時間で成膜できる膜厚を減少させることが可能であることがわかる。そして、次に膜厚変動量と偏芯量の関係を調べる。膜厚変動量とは、成膜された製品の膜厚の変動量のことで、仕様で決められた製品の総膜厚で規格化したものである。図5に膜厚変動量と偏芯量との関係を示す。膜厚変動量と偏芯量は直線上の比例関係があり、偏芯量が変わることで膜厚変動量が変化することがわかる。また、この膜厚変動量は製品の総膜厚に対するものであり、偏芯量がSiO2膜に寄与する膜厚変動量は、総膜厚変動量×SiO2膜厚/総膜厚で、Nb2O5膜に寄与する膜厚変動量は、総膜厚変動量×Nb2O5膜厚/総膜厚で表現できる。上記のように求められたターゲット電力と成膜レート変動量の関係と各ターゲットの膜厚変動量と偏芯量との関係から、各基板ホルダの偏芯量に対するターゲット電力が決められる。そして、この関係式が予めメモリ21に格納される。また、これらの関係式は各ターゲット、ならびに各製品に対して格納されている。
【0022】
次に図6は本発明のスパッタ成膜方法に関するフローチャートである。まず、カルーセル1に基板ホルダ9および基板10をセットする。次にカルーセル1を真空室2に搬入し、扉を閉めて真空排気を行う。真空室2が所定の真空度まで排気した後に、ゲートバルブ5を開放し、カルーセル1を搬送機構によってチャンバー3に搬入する。そして、ゲート
バルブ5を閉じ、チャンバー3が所定真空度まで真空排気を行う。この真空排気の間にドラム1を回転させ、偏芯測定装置13により偏芯測定を行う。その偏芯測定結果に応じて、ターゲット電力調整機構14を通じて各基板ホルダに対応したターゲット電力の修正を行う。その後、チャンバー3が所定真空度に排気されるとスパッタ成膜が開始し、光学多層膜が形成される。
【0023】
ここで、ドラムはφ960mm、基板ホルダとしては正24角形筒の多角形筒でサイズはW:250mm×H:550mm、基板はW:100mm×H:100mmが縦方向に3枚格納されているものを用いた。偏芯測定時のドラムの回転速度としては7rpm、スパッタ成膜時の回転速度としては100rpmで行った。図7に偏芯制御をしない場合の光マイクロセンサ18で測定した各基板ホルダ偏芯量、および成膜後の各基板の光学特性として半値波長の変化をそれぞれ示す。ここで、T/S距離17が本来の距離である場合をゼロとし、T/S距離17が短くなる方向を正とする。また、成膜後の基板10の透過光量を測定し、透過光量が半分に低下する波長を半値波長とする。図7(a)は、24個の基板ホルダ10に任意のホルダから順次番号を付し、本来のT/S距離からのズレを偏芯量として測定したものであり、図7(b)は、成膜後の基板の半値波長の測定例を示すものである。光学特性としては、各基板ホルダに格納されている3枚の基板のうちの真ん中に位置する1枚のみの測定結果を示している。図を見てわかるように回転方向にSINカーブのような特性を示し、ピークトゥピークで約4000umの偏芯量、ピークトゥピークで約8nmの半値波長の特性バラツキが見られている。このように回転方向にSINカーブのような傾向を示していることからも回転の軸ズレが原因による偏芯に起因する半値波長のバラツキが発生していることがわかる。また、図8に偏芯量と半値波長の関係を示す。偏芯量と半値波長では直線上の比例関係があり、偏芯量を減少させることで半値波長のバラツキを減少させることが可能であることがわかる。ここで図9にカルーセルの回転速度を変化させた場合の5番目の基板ホルダの偏芯量の測定結果を示す。測定としては回転速度を変えて1つの基板ホルダのみを測定した結果である。図9を見てわかるように回転速度を変化させても偏芯量は変わらないことがわかる。つまり、偏芯測定時の回転速度は装置内での許容回転速度内であればいずれの回転速度で行っても良い。
【0024】
図10に本実施例で成膜したLong Wave Pass Filter膜(以下LWPF膜と略記する)の構成図を示す。表1に本実施例で成膜したLWPF膜の各層の膜厚を示す。ガラス基板22上に、Nb2O5層23とSiO224層を交互に各15層(全部で30層)を、表1に示す膜圧にて積層した。
【0025】
【表1】
【0026】
図11に本実施例に使用したLWPFの総膜厚:2007nm(内訳は、SiO2膜厚:1246nm、Nb2O5膜厚:761nm)において、導出された各基板ホルダに対応したターゲット電力を示す。このように偏芯量に応じて基板ホルダ毎にターゲット電力
を変化させることがわかる。
【0027】
図12に従来の場合と本発明の偏芯測定機構13とターゲット電力調整機構14によって修正して成膜を行ったLWPFの半値波長を示す。半値波長はピークトゥピークで従来の場合では8nmであったものが、本発明の場合では1nm以下と改善されていることがわかる。本実施のようにターゲット電力を変化させることで、光学特性のバラツキを低減することができた。
【0028】
このようにして、スパッタ成膜前に基板ホルダ毎のT/S距離を測定し、それに応じてターゲット電力を制御することにより、基板上の光学特性分布を均一にすることができる。なお、本発明の実施の形態は例示であり、基板サイズ、ターゲット材に応じて、好適なターゲット電力の設定を行う。
【0029】
なお、本実施例においては、図2に示すとおり、円筒形のドラムを用いたが、このドラムの形状は、ターゲット7と基板10との距離が測定できる形状であればよく、例えば、正多角形や、円錐形のドラムを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明にかかるスパッタ成膜装置及びスパッタ成膜方法は、ターゲットと基板間の距離に応じてターゲット電力の調整を行うことで、偏芯による光学特性の面内バラツキを抑制し、このような均一な光学特性を持つ映像機器等の光学フィルタの成膜装置、及び成膜方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例におけるスパッタ成膜装置の構成を模式的に示す上面図
【図2】本発明の実施例におけるドラム及び基板ホルダの構成を示す斜視図
【図3】本発明にかかるスパッタ成膜装置の構成の一部を説明する図
【図4】本実施例におけるターゲット電力と成膜レート変動の関係を示す図
【図5】本実施例における膜厚変動と偏芯量の関係を示す図
【図6】本発明の実施例におけるスパッタ成膜方法を示すフローチャート
【図7】従来の各基板ホルダ偏芯量および各基板の光学特性として半値波長の変化を示す図
【図8】本実施例におけるドラムの回転速度と偏芯量を示す図
【図9】本実施例における偏芯量と半値波長の関係を示す図
【図10】実施例で成膜したLWPF膜の構成図
【図11】本実施例における各基板ホルダに対応したターゲット電力の関係を示す図
【図12】従来と本実施例における光学特性を示す図
【符号の説明】
【0032】
1 カルーセル
2 真空室
3 チャンバー
4 扉
5 ゲートバルブ
6 回転機構
7、8 ターゲット
9 基板ホルダ
10 基板
11、12 スパッタカソード
13 偏芯測定機構
14 ターゲット電力調整機構
15 中心軸
16 回転軸
17 T/S間距離
18 光マイクロセンサ
19 センシング領域
20 制御PC
21 メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に設けられたドラムと、
前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダと、
前記チャンバーの内壁に設けられ前記基板に成膜するターゲットと、
を有するスパッタ成膜装置において、
前記基板ホルダが前記ターゲットと正面に対向した位置の前記ターゲットと前記基板との距離を測定する偏芯測定装置を有し、
前記距離に基づいて各基板ホルダに対するターゲット電力を修正することを特徴とするスパッタ成膜装置。
【請求項2】
前記偏芯測定装置において、非接触型センサを用いて前記ターゲットと各基板との距離を測定することを特徴とする請求項1に記載のスパッタ成膜装置。
【請求項3】
チャンバー内にドラムが回転可能に設けられ、
前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダが設けられ、
前記ちゃんバーの内壁に前記基盤に成膜するターゲットが設けられ、
前記ドラムが垂直な回転軸の周りを回転しながら前記基板に成膜するスパッタ成膜方法において、
前記基板と前記ターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、
前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程と、
を備えることを特徴とするスパッタ成膜方法。
【請求項4】
前記基板と前記ターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、
前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程と、
が、チャンバー内の真空排気中に行われることを特徴とする請求項3に記載のスパッタ成膜方法。
【請求項1】
チャンバー内に設けられたドラムと、
前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダと、
前記チャンバーの内壁に設けられ前記基板に成膜するターゲットと、
を有するスパッタ成膜装置において、
前記基板ホルダが前記ターゲットと正面に対向した位置の前記ターゲットと前記基板との距離を測定する偏芯測定装置を有し、
前記距離に基づいて各基板ホルダに対するターゲット電力を修正することを特徴とするスパッタ成膜装置。
【請求項2】
前記偏芯測定装置において、非接触型センサを用いて前記ターゲットと各基板との距離を測定することを特徴とする請求項1に記載のスパッタ成膜装置。
【請求項3】
チャンバー内にドラムが回転可能に設けられ、
前記ドラムの外周面上に基板が格納される基板ホルダが設けられ、
前記ちゃんバーの内壁に前記基盤に成膜するターゲットが設けられ、
前記ドラムが垂直な回転軸の周りを回転しながら前記基板に成膜するスパッタ成膜方法において、
前記基板と前記ターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、
前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程と、
を備えることを特徴とするスパッタ成膜方法。
【請求項4】
前記基板と前記ターゲットとの距離を測定して前記回転ドラムの偏芯量を測定する工程と、
前記偏芯量に基づいて各基盤ホルダの対するターゲット電力を制御する工程と、
が、チャンバー内の真空排気中に行われることを特徴とする請求項3に記載のスパッタ成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−228062(P2009−228062A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74907(P2008−74907)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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