説明

スパッタ用ターゲット装置

【課題】酸化膜のスパッタリング効率を向上させる。
【解決手段】ターゲット室15から区画して酸素供給室27を設ける。導入口26を通してターゲット室15にアルゴンガスを導入し、導入口30を通して酸素供給室27に酸素ガスを導入する。円筒状のターゲット12の内部に磁石ユニット22aを設け、マグネトロン方式でスパッタリングを行う。酸素供給室27はスパッタ原子が飛散する経路に面して吐出口31を備え、スパッタ原子を酸化する。酸素供給室27の内部に、放電電極35が設けられ、酸素供給室27内で酸素ガスを活性化する。ターゲット室15と酸素供給室27とがそれぞれ空間的に区画されているので、スパッタリングと酸素ガスの活性化とが互いに影響を受けずに効率化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタ用ターゲット装置に関するもので、詳しくは酸化膜を高い効率で成膜することが可能なターゲット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空槽内に放電ガスを導入し、グロー放電によって発生した陽イオンを加速してターゲットに衝突させ、その衝突エネルギーでターゲットから叩き出されたスパッタ原子を下地基板の表面に被着させて薄膜を形成する手法はスパッタリングとして広く知られている。安定なグロー放電を生じさせるために、高真空にした真空槽内には放電ガスとしてアルゴンガスなどの不活性ガスが適宜のガス圧まで導入されるが、酸化膜の成膜を行うときには酸素ガスも導入される。放電ガスのほかに酸素ガスを導入する酸化反応性スパッタリングでは、放電ガスだけを導入するいわゆる物理スパッタリングと比較してスパッタリングレートが低下するのが通常である。また、ターゲット近傍に磁界を発生させ、陽イオンを加速してその衝突エネルギーを高めるようにしたマグネトロンスパッタリングにおいても、やはり酸化反応性スパッタリングではスパッタリングレートの低下を避けることができず、その改善が望まれている。
【0003】
スパッタリングによる成膜過程では、高エネルギーの原子や分子がターゲットに衝突を繰り返すためターゲットが加熱され、ターゲットに対向配置される下地基板もその輻射熱によって加熱される。したがって、下地基板が例えばアクリル樹脂などのように耐熱性に乏しいもの、あるいはフラットパネルディスプレイなどに保護シートや反射防止シートとして用いられているPET(ポリエチレンテレフタレート)シートの表面に成膜を行おうとする際には、スパッタリングに要する時間が長くなると輻射熱の影響で熱変形のおそれがでてくる。その対策として、特許文献1記載の手法では、酸素ガスを含むガスの放電プラズマ中で酸化反応を伴いつつ下地基板に薄膜を被着させるスパッタリング工程と、このスパッタリング工程で得られた亜酸化状態の薄膜を非放電領域中のオゾン雰囲気中で酸化処理を促進する酸化工程とを交互に繰り返して酸化膜を形成してゆく手法が知られている。
【特許文献1】特許第3446765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の成膜方法によれば、スパッタリング工程と薄膜の酸化工程とを真空槽内で空間的に分離し、スパッタリング工程では高いスパッタリングレートで薄膜形成を行い、その後の酸化工程で薄膜の酸化処理を行うようにしているため、下地基板の温度上昇を抑えつつ酸化膜を効率的に形成してゆくことができる。しかしながら、上記手法を採る場合、基板にある厚みで被着された薄膜に対してその表面側から内部に向かって酸化反応が進むため、厚み方向で酸化が不均一になりやすく薄膜の物理化学的な特性が厚み方向で変化するおそれがある。また、充分な酸化反応を行わせるには酸化領域で時間を要するだけでなく、限られた真空槽内のスペースを、全く別工程となる物理スパッタリング領域と酸化反応領域とに区画し、これらの領域に順次に基板を通過させなくてはならず、製造効率が悪いという欠点がある。さらに、PETシートを走行させながら連続的に成膜を行おうとする際には著しい不利を伴う。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、真空槽内を工程ごとに区画することなく、真空槽の内部にコンパクトに組み込むことができ、しかも高いスパッタリングレートで酸化膜の成膜ができるスパッタ用ターゲット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するにあたり、下地基板に対向するようにターゲットを支持するターゲット装置を改良し、ターゲットから効率的にスパッタ原子を飛散させるだけでなく、下地基板に向かうスパッタ原子の酸化が充分に促進されるように工夫されている。すなわち本発明のスパッタ用ターゲット装置は、ターゲットを収容し薄膜の被着対象となる下地基板側に向かって開放されたターゲット室と、このターゲット室から区画され前記ターゲットから飛散するスパッタ原子の経路の少なくとも一方の側に面して設けられた酸素供給室とを備え、前記ターゲット室に放電ガスの導入口が設けられるとともに、前記酸素供給室には下地基板から離れた位置に酸素の導入口が、下地基板に寄った位置に酸素の吐出口が設けられていることを構成上の基本的な特徴としている。
【0007】
特に好ましくは、酸素供給室はその長手方向がスパッタリング原子の飛散経路の少なくとも一方の側方に沿って設けられ、酸素の導入口がターゲット寄りに、酸素の吐出口が下地基板側に設けられる。さらには、酸素供給室に導入する酸素を活性化し、あるいは導入された酸素を活性化する放電電極あるいは紫外光放射ランプの少なくともいずれかを酸素供給室内に設けることによって低温で活性化酸素イオンを生成し、スパッタ原子のより確実な酸化を行うことができる。また、ターゲットとして中空円筒状のものを用い、その中空部内に磁石を配置したマグネトロン方式を用いることによってスパッタリングの効率を高めることも効果的で、前述した酸素供給室との併用により、高効率でターゲットから飛散してくるスパッタ原子に対しても充分な酸化を行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスパッタ用ターゲット装置によれば、高い効率で酸化反応性スパッタリングを行うことができるので成膜時間の大幅な短縮が可能となり、耐熱性の乏しい下地基板に対しても酸化膜を形成することができるようになる。また、本発明のスパッタ用ターゲット装置は、放電ガスのプラズマによってスパッタ原子をターゲットから飛散させるスパッタ作用のほかに、ターゲットから飛散したスパッタ原子が下地基板に到達する過程と下地基板に付着した直後でも充分に酸化を促進させる酸化作用との双方を併せもつ一体的なユニットとして構成することもできるので、スパッタリング装置への組み込みも容易になり、酸化反応性スパッタ機能をもつスパッタリング装置の製造コストを低く抑える上でも効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を用いたスパッタリング装置の外観を図1及び図2に示す。略円筒形の真空槽2の内部に円筒状の回転ドラム3が回転自在に設けられている。回転ドラム3の外周面に下地基板4が保持され、回転ドラム3とともに垂直な軸の回りに回転する。真空槽2の底部は真空ポンプ5に連通し、真空槽2の内部はスパッタリングに必要な真空度まで排気される。なお、符号7は支持台を示す。また、回転ドラム3や下地基板4の装填・取り出しのために、真空槽2は大気圧までリークした後には周知の構造により自在に開放することができる。
【0010】
真空槽2にはターゲット装置10が組み込まれている。図示の実施形態ではターゲット装置10が3台組み込まれているが、目的とする薄膜の厚みや異種の薄膜を積層するときの薄膜の種類数に応じ、ターゲット装置10の組み込み個数は適宜増減することが可能である。詳しくは後述するように、各々のターゲット装置10の内部にはターゲット12が設けられ、個別に設けられたシャッタ13を開放して成膜を開始すると、ターゲット12からスパッタ原子が飛散して後述する酸化処理の後、回転ドラム3とともに対面する位置に移動してきた下地基板4に被着される。
【0011】
ターゲット装置10の水平断面の要部を図3に示す。ターゲット装置10は、ターゲット室15を形成する隔壁16と、この隔壁16から回転ドラム3に向かって連設された隔壁17とを備え、これらの隔壁16,17はいずれも非磁性体のプレートで構成されている。ターゲット室15は回転ドラム3側(下地基板4側)に向かって開放され、紙面と垂直な方向に延びた非磁性体からなるブロック18,18で間口が狭められている。
【0012】
ターゲット室15には円筒状のターゲット12が収容される。ターゲット12は、導電性の支持筒12aの外周面を覆うようにターゲット材料12bを固着したもので、支持筒12aは放電電極(陰電極)としても用いられる。支持筒12aの中空部内に中空筒21が挿通され、その内部には磁石ユニット22が設けられる。磁石ユニット22による磁界効果を高めるために、中空筒21は支持筒12a内で偏芯して設けられる。支持筒12aの内周面には絶縁処理が施され、中空筒21との間のスペースには冷却水が通される。なお、中空筒21の内部は磁石ユニット22の劣化を防ぐために大気圧にしておくことが望ましい。
【0013】
磁石ユニット22はターゲット12の長手方向に延びた3列の磁石列24a,24bを備え、図示のように中央の磁石列24aがN極、両側の磁石列24b,24bがS極をそれぞれ回転ドラム3側に向けている。これにより、ターゲット12の外周面近傍にはターゲット12の母線に直交する磁力線がターゲット12の長手方向に沿って分布するようになる。この磁力線によって生じる磁界は、スパッタリングを行うときにターゲット表面に衝突する放電ガスの陽イオンを加速する作用をもつ。なお、この磁界効果をさらに高めるために、ブロック18には先端をS極に帯磁させた磁石25が固定されている。
【0014】
ターゲット室15の背面壁にガスの導入口26が設けられ、アルゴンガスが放電としてターゲット室15内に導入される。したがってターゲット室15内はアルゴンガスがリッチな状態となり、ターゲット12とブロック18との隙間を通って回転ドラム3側に供給されるようになる。
【0015】
ブロック18に隣接し、ターゲット室15から回転ドラム3側に向かうように酸素供給室27が設けられている。酸素供給室27は、一対のブロック18,18の間から露呈したターゲット12から回転ドラム3側に向かうスパッタ原子の飛散経路を両側から挟むように設けられ、非磁性体材料からなる隔壁28によってスパッタ原子の飛散経路から区画されている。この酸素供給室17の内壁は絶縁性を確保するために石英板29で覆われている。それぞれの酸素供給室17には、酸素の導入口30と酸素の吐出口31とが設けられている。導入口30は吐出口31よりもターゲット12寄りに設けられ、吐出口31は導入口30よりも回転ドラム3側でスパッタ原子の飛散経路に面して設けられている。
【0016】
酸素の導入口35からは酸素ガスが導入される。図ではO2で示してあるが、好ましくはイオン銃などの利用により活性化した酸素ガスを導入するのがよい。活性化された酸素ガスは高い酸化力をもつので、吐出口31からスパッタ原子の飛散経路に向かって吐出したときにスパッタ原子を充分に酸化することができる。さらに、酸素供給室17の内部にはそれぞれ放電電極35が設けられ、回転ドラム3を陽電極とする陰電極となる。この両者間の放電により酸素ガスの活性化をさらに促進させることができる。放電電極35はパイプ状をしており、その内部には冷却水が通される。なお、そのほかの適宜の箇所にも冷却水を通じる配管が設けられ、これらについては円形の内部にドットハッチングを施して簡略的に示してある。
【0017】
酸素供給室17の内部に吐出口31に向かってS極に帯磁した磁石38が設けられ、吐出口31を挟む両側に先端をN極に帯磁させた磁石39との間に磁力線が生じるようにしてある。これらの磁石38,39によって生じる磁力線は図中に矢印Xで示す酸素ガスイオンの流れ方向に対してほぼ直交するから、陰電極となる回転ドラム3に向かう酸素ガスの陽イオンを加速する作用をもつ。なお符号37はマスクプレートを示し、吐出口31からの酸素ガスイオンができるだけターゲット12の近傍に回り込んでくることを防ぎ、またスパッタ原子の飛散経路を整える作用ももつ。
【0018】
以上のように構成されたターゲット装置の作用について説明する。真空ポンプを動作させ真空槽2の内部を例えば10-6Torrオーダーの高真空にした後、真空槽内部の平均的な真空度が1×10-2Torr〜4×10-4Torr程度になるまで導入口26からアルゴンガスを導入する。この状態では、ターゲット室12の内部及びブロック18の近傍には、真空槽内部の平均的なアルゴンガスの分布量よりもかなりリッチな状態でアルゴンガスが存在している。さらに、導入口30からは酸素ガス、好ましくはイオン銃などにより活性化された酸素ガスを酸素供給室27内に導入する。その導入量は、真空槽2内での平均的な導入圧力比がアルゴンガスに対して1:0.5〜1:1.5程度である。
【0019】
下地基板4を保持した回転ドラム3を回転し、シャッタ13を閉じた状態にして回転ドラム3を陽電極、ターゲット12の支持筒12a及び酸素供給室27内の放電電極35を陰電極として放電を開始する。これにより、回転ドラム3とターゲット12との間でグロー放電が行われ、特にアルゴンガスが豊富であるターゲット12の近傍には放電によってイオン化されたアルゴンガスのプラズマPが発生する。そして、アルゴンガスの陽イオンがターゲット表面に高エネルギーで衝突し、ターゲット12の表面からはターゲット材料12bの原子がスパッタ原子として叩き出され、回転ドラム3に向かって飛散する。
【0020】
なお、磁石ユニット22だけを用いた従来装置では、ターゲット近傍での放電パターンが図4(A)のようになるが、本発明装置では磁石ユニット22の磁石列24bと互いに反発し合う磁極をもつ磁石25を併設しているため、放電パターンは図4(B)に示すように回転ドラム3に対面する側でより平坦になるように圧縮される。この結果、ターゲット12の表面からのスパッタ原子の散放射角を従来装置の約1/2まで抑えることができ、下地基板4に向かうスパッタ原子の量を増やすことが可能となる。
【0021】
また、酸素供給室27内では放電電極35と回転ドラム3との間の放電により酸素ガスの活性化が促進され、活性化された酸素は吐出口31を通ってスパッタ原子の飛散経路へと供給されるようになる。放電電圧が安定した後にシャッタ13が開放され、ターゲット12から飛散したスパッタ原子は吐出口31から供給される活性化された酸素ガスイオンで酸化され下地基板4に被着する。
【0022】
以上のように、本発明のターゲット装置は、下地基板4の近傍にスパッタ原子が飛散する経路を両側から囲むようにターゲット室16から区画した酸素供給室27を設け、下地基板4の近傍で吐出口31から酸素をスパッタ原子の飛散経路に供給する構造となっている。このため、ターゲット12の近傍に生じるアルゴンガスのプラズマPにほとんど影響を与えずに充分な酸素ガスイオンを供給することができ、高いスパッタリング効率のもとで充分に酸化した酸化膜を下地基板4に堆積することが可能となる。
【0023】
なお、上記のターゲット装置を用いて酸化反応性スパッタリングを行うにあたっては、アルゴンガス及び酸素ガスの導入比率あるいは放電の制御については種々の態様を取り得るが、例えば特許第3261049号公報で知られる手法を用いると、本発明との相乗効果により、より高い効率のもとで酸化膜を成膜することができ、徒に下地基板4を加熱せずに済むようになる。
【0024】
図5に示す実施形態では、酸素供給室27内にさらに紫外光放射ランプ40が設けられている。なお、そのほかの主要な構成は、先の実施形態と同様であるので同符号を付して詳細な説明は省略する。この紫外光放射ランプ40は172nm〜300nmの波長域の光を放射し、この波長域の紫外光はいわゆるエキシマ光として酸素ガスの活性化に寄与する。この波長域のエキシマ光は、特に酸化力の強い3dレベルのスピン構造をもつ活性化酸素を得るのに非常に有効である。
【0025】
本発明で使用される紫外線放射ランプ40としては、低圧水銀ランプや誘電体バリア放電エキシマランプが好適である。図6は低圧水銀ランプの一例を示す概略断面図である。低圧水銀ランプは、水銀原子の共鳴線である波長254nmまたは185nmの紫外線を最も効率的に得るために、定常点灯中の水銀の蒸気圧が1Pa(パスカル)前後となるように設計された放電ランプである。始動用ガスとして圧力数Torrの希ガス、主にアルゴンガスが封入される。
【0026】
図6に示すように、低圧水銀ランプは両端に封止部41を有する例えば石英ガラス製の直管型の放電容器42を備え、この放電容器42によって囲まれた領域が放電空間S1となっている。放電空間S1内には、一対の電極43が放電容器42の管軸に沿って互いに対向して配置されている。電極43の各々には放電容器42の管軸に沿って配置された内部リード棒43aが固着され、内部リード棒43aの基端部は放電容器43の封止部41で支持されるとともに、当該封止部41内に気密に埋設されたモリブデンよりなる金属箔44に接続され、この金属箔44は封止部41から外方に延びた外部リード棒45に接続されている。電子回路型安定器などの点灯回路(図示省略)から外部リード棒45間に給電を行うと電極43の相互間で放電が行われ点灯するようになる。
【0027】
また、図7は誘電体バリア放電エキシマランプの一例を示す概略断面図である。この誘電体バリア放電エキシマランプは円筒外部放射型のもので、放電容器48は石英ガラスなどの誘電体で構成されている。放電容器48は、円筒状をした外壁49と、その内側に筒軸を共通にした円筒状の内壁50と、これらの外壁49と内壁50とを両端で封止する封止壁51,52からなり、これらの各壁で囲まれた円筒状の領域が放電空間S2となる。外壁49の表面に密着して網状の第一電極53が設けられ、内壁50の筒軸側の表面に密着してアルミニウムなどからなる第二電極54が密着して設けられている。これらの第一,第二電極間には高周波電源55が接続される。高周波電源55により第一電極53と第二電極54との間に高周波電圧を印加すると、放電空間S2内に誘電体バリア放電による直径0.02〜0.2mm程度の多数のマイクロプラズマが発生する。これにより放電空間S2内にエキシマが生成されエキシマ光が放出される。このエキシマ光は、外壁49を透過し第一電極53の網目を通って外部に放射されるようになる。
【0028】
放電空間S2内に封入される放電ガスとしては、希ガスあるいは希ガスとハロゲンガスとの混合ガスが用いられるが、放電ガスの種類を変えることによって、それぞれ発光中心波長が異なるエキシマ光を放射させることが可能である。キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)、アルゴン(Ar)などの希ガスを用いた場合には、それぞれ172nm、146nm、126nmの発光中心波長をもつエキシマ光を得ることができ、またクリプトンと塩素(Cl)ガスとの混合ガスを用いた場合には発光中心波長が222nmのエキシマ光が得られる。なお、図示の構造では網状をした第一電極53が酸化しやすく短寿命になるので、窒素ガスを封入した石英ガラス管の中に放電容器48を包み込むようにして使用するのが好ましい。
【0029】
エキシマ光は下地基板4への照射により表面の清浄化に用いることも可能であることが知られているが、本発明においては、下地基板4側から吐出口31を見込んだときに、隔壁28で遮られる位置に紫外光放射ランプ40が固定され、エキシマ光が直接下地基板4に照射されることがないようにしてある。これは、酸化膜の成膜過程でエキシマ光が下地基板4に向けて照射されると、すでに被着された酸化膜から酸素が離脱し、適正に形成された酸化膜の亜酸化物化現象が起きると推定されるからである。この現象を軽減するには、吐出口31の近傍に適宜のマスクを設けることも有効で、できるだけエキシマ光が下地基板4に照射されることを防ぐようにすればよい。
【0030】
図8に酸素供給室60の別の構成例を示す。この酸素供給室60は先の実施形態と同様にターゲット室15から空間的に区画して設けられている。酸素供給室60を構成する隔壁61は接地電位に保たれ、酸素供給室60の内部には陰電極となる放電電極62が設けられている。この放電電極62はパイプ状になっており、その内部に中空筒63が挿通される。放電電極62の内壁には絶縁処理が施され、中空筒63との間には冷却水が通される。
【0031】
中空筒63の内部には磁石ユニット64が設けられている。この磁石ユニット64は図3に示す磁石ユニット22と同様に、紙面と垂直な方向に延びた磁石列24aと、その両側に平行に並べた磁石列24bとを備えている。酸素供給室60には導入口30から酸素ガスが導入され、この導入口30の近傍には紫外光放射ランプ40が設置されている。導入口30から入った酸素ガスに紫外光が照射され、酸素ガスの活性化が促進され酸化力が強い活性化酸素が生成される。もちろん、導入口30からイオン銃などによりすでに活性化した酸素を導入することも可能である。
【0032】
また、隔壁61と放電電極62との間で放電を行うことにより酸素ガスの活性化がさらに促進される。両者間で放電を開始すると、磁石ユニット54による磁界作用により酸素ガスのプラズマPSが発生し、この部分での放電電流が大きくなり酸素ガスの活性化をより活発化することができる。こうして発生した活性化酸素は、スパッタ原子の飛散経路(矢印Mで示す)面した吐出口66から吐出し、飛散中のスパッタ原子を効率よく酸化する。なお、吐出口66から吐出した活性化酸素の一部が下地基板に達するようにしておいてもよい。
【0033】
また、酸素供給室60内での放電による温度上昇を抑えるために、隔壁61の所要部には冷却水を通す配管が設けられ、これらについては先の実施形態と同様に円形の内部にドットハッチングを施して簡略的に示した。酸素供給室60内での放電によって酸素ガスを充分に活性化できるのであれば、紫外光放射ランプ40は省略することも可能である。
【0034】
なお、回転ドラム3を用いずに、ターゲット装置10に対面して下地基板4を固定したスパッタリング装置や、下地基板4を平行移動させながらターゲット装置10に対面させるようにしたスパッタリング装置にも本発明は等しく適用可能である。さらに、図9に示すように、例えばPETシート70を供給側リール71から巻取りリール72で巻き取る途中で酸化膜のスパッタリング成膜を行うことも可能である。
【0035】
図9に示す実施形態では、図5に示す実施形態から一方の酸素供給室27を省略したもので、共通の構成には同符号を付している。このように、一方の酸素供給室27から酸化力の強い活性化酸素が充分に得られるのであれば、必ずしもスパッタ原子の飛散経路を両側から挟むように酸素供給室27を設けなくてもよい。なお、一方の酸素供給室を省略した場合には、その代わりに隔壁68を設けてスパッタ原子の飛散経路を制限し、スパッタ原子が散漫に飛び散らないようにしておくのがよい。
【0036】
以上、図示した実施形態にしたがって本発明について説明してきたが、本発明は磁石ユニット22を併用したマグネトロン方式のスパッタリング装置だけでなく、磁石を用いずにグロー放電だけでスパッタリングを行う通常のスパッタリング装置にも適用できる。また、酸化膜の種類にしても、金属酸化膜に限らず、例えばSiO2などのような誘電体酸化膜のいずれを成膜するにも本発明は有効であり、被着対象となる下地基板にしても、ガラス製あるいはプラスチック製のプレートやレンズ、またPETやそれ以外のプラスチック製の柔軟なシート材など、種々のものが選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を用いたスパッタリング装置全体の平面図である。
【図2】本発明を用いたスパッタリング装置全体の側面図である。
【図3】本発明のターゲット装置の要部断面図である。
【図4】放電パターンの説明図である。
【図5】本発明の別の実施形態を示す要部断面図である。
【図6】紫外光放射ランプの一例を示す概略断面図である。
【図7】紫外光放射ランプの他の例を示す概略断面図である。
【図8】酸素供給室の別の構成を示す要部断面図である。
【図9】本発明のさらに別の例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0038】
2 真空槽
3 回転ドラム
4 下地基板
10 ターゲット装置
15 ターゲット室
12 ターゲット
22 磁石ユニット
24a,24b 磁石列
25,38,39 磁石
26 導入口(アルゴンガス用)
27 酸素供給室
30 導入口(酸素ガス用)
31 吐出口
35 放電電極
40 紫外光放射ランプ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを収容し薄膜の被着対象となる下地基板側に向かって開放されたターゲット室と、このターゲット室から区画され前記ターゲットから飛散するスパッタ原子の経路の少なくとも一方の側方に面して設けられた酸素供給室とを備え、前記ターゲット室に放電ガスの導入口が設けられるとともに、前記酸素供給室には、前記下地基板から離れた位置に酸素の導入口が設けられ、かつ下地基板に寄った位置にスパッタ原子の経路に向けて開放された酸素の吐出口が設けられていることを特徴とするスパッタ用ターゲット装置。
【請求項2】
前記酸素供給室は、その長手方向が前記ターゲットから飛散するスパッタ原子の経路の少なくとも一方の側方に沿って設けられ、前記酸素の導入口がターゲット寄りの位置に、前記吐出口が下地基板寄りの位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載のスパッタ用ターゲット装置。
【請求項3】
前記酸素の導入口から活性化された酸素が導入されることを特徴とする請求項2記載のスパッタ用ターゲット装置。
【請求項4】
前記酸素供給室の内部に、その室内に導入された酸素を活性化する放電電極または紫外光放射ランプの少なくともいずれかを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のスパッタ用ターゲット装置。
【請求項5】
前記紫外光放射ランプは172nm〜300nmの紫外光を放射し、かつ放射した紫外光が前記吐出口を通して直接下地基板に照射されない位置に設けられていることを特徴とする請求項4記載のスパッタ用ターゲット装置。
【請求項6】
前記ターゲットが中空の円筒状ターゲットで構成され、その中空部内には、前記ターゲットの長手方向に沿って配置されターゲットの表面近傍にターゲットの母線に直交する磁力線を発生させる少なくとも一対の磁石列が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のスパッタ用ターゲット装置。
【請求項7】
前記ターゲットの外部に前記磁力線をターゲット表面側に向けて圧縮する一対の磁石列を設けたことを特徴とする請求項6記載のスパッタ用ターゲット装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−31798(P2007−31798A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219616(P2005−219616)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(592166403)株式会社ライク (8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(596039969)
【Fターム(参考)】