説明

スパッタ装置

【課題】基板表面に対してターゲット表面を任意の角度で傾斜することができ、材料に適した傾斜角度を見出し、良質の薄膜を再現性良く作製し、生産に結びつけることができるスパッタ装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバ11内に配置されたターゲット電極12及び基板ホルダ13と、ターゲット電極12に保持されたターゲット14と、基板ホルダ13に保持された基板15と、真空チャンバ11の内外に跨り且つ軸線O1を中心として回転可能な導入パイプ16と、導入パイプ16の先端とターゲット電極12とを接続すると共にターゲット14を基板15に対して傾斜状態で対向させるエルボパイプ17と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置、特に、基板に均一な良質薄膜を成長させるためのスパッタ電極の位置決めを可能としたスパッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2007−182617号公報
【特許文献2】特開平05−004804号公報
【特許文献3】特開2001−202618号公報
【特許文献4】特開2006−307303号公報
【0003】
従来から、大面積基板等の表面に均一な薄膜を成長させるために、ターゲットの大型化やターゲットと基板の中心線軸からの距離を調整する機構を設ける方法が提案されている。
【0004】
具体的には、図9(A)に示すように、真空チャンバ(図示せず)内にターゲット電極1と基板ホルダ2とが設置されている。ターゲット電極1にはターゲット3が取り付けられており、一般の成膜では、ターゲット3の表面は基板ホルダ2に保持された基板4の表面と対向配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この配置法は、on−axis法と呼ばれている。この配置状態では、スパッタの特徴である高エネルギー粒子が基板4の表面に入射し、薄膜の成長を阻害する。このため、完全な結晶成長を要求する半導体活性層の作製にはスパッタ法は使用されていない。
【0006】
酸化物超伝導体では、ターゲット3の構成原子の配列状態や酸素含有量に超伝導特性は非常に敏感であることから、ターゲット3と基板4とが対向した状態でのスパッタ法では良質の薄膜が得られていない。
【0007】
高エネルギー粒子が薄膜成長面に入射した場合、既に堆積した薄膜原子を再スパッタすることで薄膜から離脱させるが、軽元素や蒸気圧の高い元素ほど再スパッタされ易く、得られた薄膜の組成は変化する。また、高エネルギー粒子は、薄膜に応力・歪を導入し、多くの欠陥を発生させる。
【0008】
スパッタリングは、このようなメカニズムを有するため、規則的な原子配列の必要な多元系の化合物薄膜や結晶欠陥に敏感な材料系の薄膜の作製においては、高エネルギー粒子の薄膜成長面への入射を極力抑制する必要がある。
【0009】
この高エネルギー粒子の薄膜成長面への入射を回避する方法としては、高エネルギー粒子が飛び出す前面に基板4を設置しないことが望ましい。
【0010】
そこで、図9(B)に示すように、ターゲット3の表面に平行に基板4をずらせるoff−center方式(例えば、特許文献1参照)や、図9(C)に示すように、ターゲット3の端に基板4を立てかける(ターゲット3の表面と基板4の表面とが直交)off−axis方式とがある(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
これらの方法では、良質膜が得られる領域は狭く、また、膜厚が不均一となる等の欠点を有する。
【0012】
また、このoff−axis法の発展形態として、図9(D)に示すように、2つのターゲット電極1を一定間隔にして対向させ、それらの中間位置上に基板4を配置して成膜する対向ターゲットスパッタ法が存在する(例えば、特許文献3参照)。
【0013】
この方法では、1つのターゲットを使用したoff−axis法よりも良質な薄膜を比較的大きなサイズで得られることができるものの、大型化には限界がある他、量産性やターゲット材料の効率性等に問題があり、実用的な生産装置の機能を備えていないのが実情である。
【0014】
そこで、off−center法とoff−axis法の略中間として、図10に示すように、ターゲット3の表面に対して基板4を斜角して配置することによって高エネルギー粒子の基板面への入射を抑制することが考えられる(例えば、特許文献4参照)。
【0015】
ここで、ターゲット3の中心から基板4の中心を仰ぐ角度θ(仰角)、基板4の鉛直軸からの角度をφ、ターゲット3と基板4との各中心間距離をrとすれば、(r,θ,φ)でターゲット3と基板4との相互位置が定まる。
【0016】
この表記法を用いた場合、on−axis法では(r,0,0)、off−center法では(r,θ,0)、off−axis法では(r,θ,90)となる。
【0017】
電子機能を利用する薄膜では、歪の少ない結晶性、原子の規則的な配列、構成原子の結晶格子内での所定位置の占有、単一の成長方位と面内単一配向、化学量論の組成、添加元素の均一分散等を実現することが必要である。
【0018】
多元系の酸化物超伝導材料では、化学量論組成からの僅かなズレは、超伝導特性の大幅な低下を招くが、この超伝導体は、結合力の弱い酸素原子を含むため、スパッタ法では高エネルギー粒子により酸素脱離を生じさせ、化学量論組成より酸素量の少ない超伝導特性の悪い薄膜が得られ易い。
【0019】
従って、例えば、図9(B)に示した方法で、良質の超伝導薄膜を得るためには、基板4の表面に対するターゲット3の表面の最適な傾き(θ)と距離(r)とが存在するが、その領域は限定されてしまうことになる。
【0020】
このような基板配置状態に範囲が存在する理由としては、スパッタリングによって空間に飛び出した原子団は、ターゲット3の表面近傍では、ターゲット3の組成とあまり変わらないが、高エネルギー粒子が入射する位置に基板4を配置した場合、基板4の表面上に付着した原子は再スパッタにより結果的には薄膜の組成ずれを生じさせる。
【0021】
一方、スパッタ原子団は、空間中でスパッタ原子の高エネルギー粒子により散乱されるが、原子の種類によって散乱の程度が異なるため、傾斜角度が大きく、遠方に配置された基板4上の薄膜ほどターゲット組成から大きくずれることになる。
【0022】
この様な理由から、材料の構成原子により、ターゲット3の表面に対して傾斜した角度と距離(傾斜角度・位置;θ、r)に最適値が存在することになる。
【0023】
すなわち、化合物半導体と酸化物超伝導体とでは構成元素が異なるため、一般的には適切な傾斜角度・位置は異なる。また、半導体の中でも成分の異なる半導体では良質の薄膜を作製できる固有の傾斜角度・位置が存在することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、電子機能を利用する機能薄膜をスパッタ法で作製する技術分野では、上述したように、高エネルギー粒子に起因する課題を持つため、材料に適した傾斜角度を見出し、良質の薄膜を再現性良く作製し、生産に結びつけることができないという問題が生じていた。
【0025】
そこで、本発明は、上記問題を解決するため、基板表面とターゲット表面とを任意の角度で傾斜状態で対向させることができ、材料に適した相対的な傾斜角度を見出すことによって良質の薄膜を再現性良く作製し、生産に結びつけることができるスパッタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に係る発明は、チャンバー内においてターゲットと基板とを対向させてスパッタリングを行うスパッタリング装置において、前記ターゲットと前記基板とを任意の角度の傾斜状態で対向させることができるようにしたことを特徴とするスパッタリング装置である。
請求項2に係る発明は、前記ターゲット又は基板を保持するホルダー部と、前記ホルダー部を支持しチャンバーに取り付けるための支持・導入機構部とを、曲がりを有する接続部材を介して接続することを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置である。
請求項3に係る発明は、前記ホルダー部と支持・導入機構部とは取り外し可能であることを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置である。
請求項4に係る発明は、前記接続部材を複数個用いて接続することを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置である。
請求項5に係る発明は、前記複数の接続部材同士は回転フランジを用いて接続されていることを特徴とする請求項4記載のスパッタリング装置である。
複数に分割された接続部を相対的に回転させることにより、より複雑且つ精密な傾斜角度を設定することができる。
請求項6に係る発明は、前記接続部材はエルボーパイプであることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項7に係る発明は、前記支持・導入機構部は、軸心を中心として、チャンバー室外部から、回動可能とした請求項2乃至6のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項8に係る発明は、前記支持・導入機構部は直線条のパイプからなることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項9に係る発明は、前記パイプの一端は、前記チャンバー室の導入フランジからチャンバー室外へ取り出され、バイトンシールにより真空シールされていることを特徴とする請求項2乃至8のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項10に係る発明は、前記スパッタリング装置は、ターゲット又は基板が移動するインラインスパッタリング装置であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項11に係る発明は、前記ターゲットは長方形であり、その長軸を中心として回動可能とした請求項10記載のスパッタリング装置である。
請求項12に係る発明は、前記ホルダー部はターゲットを保持するホルダー部の場合であって、そのホルダー部内部にマグネットを配置したことを特徴とする請求項2乃至10のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項13に係る発明は、前記ホルダー部はターゲットを保持するホルダー部であって、支持・導入機構部の内部に冷却パイプ及びスパッタリング用電線が配置されていることを特徴とする請求項2乃至11のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
請求項14に係る発明は、前記ホルダー部は基板を保持するホルダー部であることを特徴とする請求項2乃至11のいずれか1項記載のスパッタリング装置である。
本発明では、基板とターゲットとの傾斜角度を任意に選択することが可能であるため、材料に適した傾斜角度を選定することができ、最良の薄膜形成を行うことが可能となる。
ホルダー部と支持・導入機構部とを曲がりを有する接続部材で接続するという簡便な部材構成で任意の角度の傾斜状態を実現することができる。
【0027】
導入部を軸線中心に回転させることにより、接続部に接続されたターゲット電極又は基板ホルダの何れか一方を他方に対して傾斜状態で対向させることができると同時に、その相対距離を変更することができる。
【0028】
導入機構部や接続部にパイプを用いることによって各種配線の配索を容易に確保しつつ、ターゲット電極と基板ホルダとの相対角度並びに相対距離を容易に変更することができる。
【0029】
曲がり(傾斜)を有する接続部を複数に分割されていると、両者を相対的に回転させることにより、より複雑且つ精密な傾斜角度を設定することができる。
特に、支持・導入機構部をその軸線周りで外部から回転をさせることができるようにすることにより、傾斜角度の制御とともに、基板とターゲットとの距離の制御も可能となる。また、外部から回転を制御できる場合には、例えば、移動中のものであっても移動に合わせて距離、角度を適宜設定することも可能となる。
また、ホルダーと支持・導入機構部とが90°の角度となった場合には、支持・導入機構部をその軸心まわりに回転させることにより基板とターゲットとの相対的角度が平行とならないようにすることができる。
ホルダー部を基板ホルダーとして基板ホルダーと支持・導入機構部とを傾斜を持たせて接続する場合には、ターゲットホルダーは直線状にチャンバー内に支持・導入できるため、例えば冷却パイプとして可撓性のものを用いる必要がなくなり複雑化を避けることが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のスパッタ装置によれば、基板表面に対してターゲット表面を任意の角度で傾斜することができ、材料に適した傾斜角度を見出し、良質の薄膜を再現性良く作製し、生産に結びつけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明のスパッタ装置に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
図1は本発明に係わるスパッタ装置の側面から電極を導入した時(基板は装置上方に設置)の縦断面図である。図2は本発明に係わるスパッタ装置の長方形の角型チャンバ内でのスパッタ電極、基板、基板の移動方向を上方からみた説明図である。この場合、スパッタ電極は真空チャンバの底板(ベース板)から導入している。図3はターゲット電極の説明図である。
これらの図では、排気系、真空計、バルブ、シャッタ機構等の本発明に直接関係の無い冶具は省略して示している。
【0033】
図1及び図2において、スパッタ装置10は、真空チャンバ11内に配置されたターゲット電極12及び基板ホルダ13と、ターゲット電極12に保持されたターゲット14と、基板ホルダ13に保持された基板15と、真空チャンバ11の内外に跨り且つ軸線O1を中心として回転可能な導入パイプ16と、導入パイプ16の先端とターゲット電極12とを接続すると共にターゲット14を基板15に対して傾斜状態で対向させるエルボパイプ17と、を備えている。真空シール部(真空シールアダプタ)20は、真空シールするとともに導入パイプ16を出入り可能(適切な位置の選択)としており、また、導入パイプの回転動作も可能な機能を有する。
【0034】
これにより、導入パイプ16を軸線O1を中心に回転させることにより、エルボパイプ17に接続されたターゲット電極12の傾斜角度θを可変することができると同時に、導入パイプ16のチャンバからの出入りでターゲット14と基板15との相対距離を変更することができる。
【0035】
この際、エルボパイプ17の屈曲角度は、ターゲット14の中心法線O2と基板15の中心法線O3とが平行とならないようにターゲット電極12の傾斜角度を確保するように設定されている。尚、中心法線O2は、図2に示すように、エルボパイプ17の中心軸と一致している。
【0036】
これにより、実質的にターゲット14の表面と基板15の表面とが適切な角度で傾斜させることができる。
【0037】
尚、エルボパイプ17は、図4乃至図6に示すように、複数に分割すると共に相対的に各軸線O4,O5を中心に相対回転可能としても良い。
【0038】
これにより、複数に分割されたエルボパイプ17を相対的に回転させることにより、より複雑且つ精密な傾斜角度を設定することができる。
【0039】
以下、本発明のスパッタ装置10に係わる各構成部材を詳細に説明する。
【0040】
ターゲット電極12は、図3に示すように、ターゲット15を保持するように円筒形状又は直方体形状を呈する電極部18と、エルボパイプ17から真空チャンバ11の外部に至る配管構造の導入機構部19と、を備えている。
【0041】
電極部18は、例えば、マグネットや水冷部(図示せず)等を備えているが、周知の構成のものを使用することができる。また、電極部18を直接真空チャンバ11に取り付けて導入機構部19を省略したターゲット電極も存在するが、このような場合にあっては、電極は固定され、任意の角度の選択は不可能であるため、ここでは除外して上述した2つの機構部からなるものを対象とする。
【0042】
ところで、ターゲット電極12は、基板15の表面に対し、種々の角度で傾斜する構成を採用する場合が考えられる。
【0043】
ここで、例えば、基板15が真空チャンバ11の上部に設置されている場合、ターゲット電極12が真空チャンバ11の側面から導入されるとき(図1)と、真空チャンバ11の底面から導入される(図2)ことが考えられる。
【0044】
ターゲット電極12を真空チャンバ11の側面から導入した場合、導入機構部19の軸線O1と電極部18の軸線O2とは、90°の角度で固定(ターゲット14と基板15とが平行した対面状配置となる)される場合と、任意の角度θで傾斜する場合とがある。
【0045】
90°の角度で固定した場合では、ターゲット13と基板15とを相対的に傾斜させるためには、導入機構部19を軸線O1を中心として回転(例えば、真空シール部20)で回転することにより達成できる。
【0046】
一方、真空チャンバ11の底面からターゲット電極12を導入した場合(図2)、導入パイプ16と電極部18は90°のエルボパイプで接続されている。ターゲットを保持するホルダー部(電極部)18と導入機構部19とは、その接合部分である電極部フランジ18aとエルボパイプフランジ17aが接続されていることになる。基板面に対し電極面を傾斜させるためには導入パイプ16を真空シール部20の位置で回転させればよい。
【0047】
また、電極部フランジ18aの設置位置が斜めになっている場合、例えば、導入パイプ16の軸線方向が基板15の表面と直角(真空チャンバ11の側面から導入)又は平行(真空チャンバ11の底面から導入)以外の斜め方向からの導入や基板15の中心に向かっていない導入の場合には、電極部フランジ18a又はエルボパイプフランジ17aの接合面が傾斜している必要がある。
【0048】
尚、これらの例は、基板ホルダ13が成膜中において一方向に移動しない場合である。
【0049】
一方、インライン方式では、基板15が一方向に移動し、膜厚と特性とが均一な薄膜を基板15に連続的に成膜することができる。この方法は量産機能を持つ作製法である。
【0050】
この場合、真空チャンバ11は円筒状ではなく筐体状となっており、基板15が側面に立てかけられた配置で、この基板15が一方向に移動しつつ成膜される。
【0051】
ターゲット14の表面は長方形で、長軸が鉛直方向に一致するように(基板15の移動方向と垂直)配置されている。一般的には、基板15の表面と電極面とが対向している。
【0052】
本発明の一実施形態においては、長軸を回転させることで電極面を傾斜させる。また、真空チャンバ11の底面からターゲット電極12を導入する場合、ターゲット14の表面と導入機構部19とは90°の角度で固定され、導入機構部19を真空シール部20で回転させる。このターゲット電極の挿入方式では、ターゲット電極の下端に直接ストレート(真直ぐな)な導入パイプを接続しても良い。この場合、水冷用のパイプ導入、電力線の取り付け等の点で構造がエルボ短管を使用する前者の構造とは異なるが、基板面とターゲット面の傾斜状態は導入パイプの回転により付与することができる。
【0053】
一方、基板15と対面している真空チャンバ11の側面からターゲット電極12を導入する場合、電極部フランジ18aとエルボパイプフランジ17aとの接合部分で、ターゲット電極12を左右に回転させることにより、傾斜電極としての機能を果たす配置が実現できる。
【0054】
ターゲット電極12が真空チャンバ11の斜め方向から導入される場合、一方向に移動のない基板15では傾斜機能により滑らかに変化させることは容易であるが、一方向に移動する基板15に対しては、基板15とターゲット14とが一定間隔で滑らかに傾斜することは容易ではなく、構造に合致した傾斜機構を付与することが必要である。
【0055】
しかし、斜めからのターゲット電極12の導入は特殊な例であり、真空チャンバ11の側面又は底面からの導入が一般的である。一般的な場合について説明する。
【0056】
高エネルギー粒子の基板面への入射を回避するためには基板面とターゲット面とを傾斜させる必要がある。
その際、電極部18と支持・導入機構部16との関係として、(i)90°の角度を持たせて接続する場合、(ii)傾斜機能を持たせて接続する場合がある。
真空チャンバ11の側面から導入する場合には、(i)、(ii)のいずれでもよく、(i)の場合には支持・導入機構部16をその軸心を中心として回動可能としておき、回転させることにより基板面とターゲット面とを傾斜させることができる。(ii)は、後述する短管の組み合わせたよって実現することができる。なお、(ii)の場合であっても支持・導入機構部は回動可能としてもよい。
真空チャン場11の底面から導入する場合には、(ii)が好ましい。
【0057】
本例においては、導入機構部19には、一対の水冷パイプ21とスパッタ用の電力線22とが挿入されている。
【0058】
ここで、上記2つの機能を実現するためには、次のことを満足しなければならない。
【0059】
即ち、ターゲット14を固定する電極とエルボパイプ17とは絶縁する必要がある。また、電極部18と導入機構部19との接合部での傾斜(90°も含む)機能を確保する必要がある。さらに、ターゲット電極12が傾斜している。そのため、水冷パイプ21はエルボパイプ17の屈曲角度に応じて変形可能なフレキシブルな材質(硬質ナイロンチューブ;シンフレックスチューブ、ウレタンチューブ等)でなければならない。
【0060】
電極部18と導入機構部19との接合部分に角度を持つ短管を2つ組み合わせることにより傾斜機能をもたせることができる。
【0061】
この場合、回転フランジ付短管が不可欠である。また、簡単にはベローズ付き短管フランジも利用することができる。
【0062】
真空チャンバ11の側面からターゲット電極12を導入している際(図4)、エルボパイプ17を複数に分割することにより、図4及び図6に示すように、導入パイプ16の軸線O1に対してエルボパイプ17の軸線O2を全体として45°傾斜させると同時に各エルボパイプ17の相対角度を可変とする。
また、真空チャンバ11の底面からターゲット電極12を導入している際、図5に示す状態においては、基板面とターゲット面は傾斜していない。この場合も、図6に示すように、エルボパイプ17の相対角度を可変とする。なお、エルボパイプ17の構成は複数でも構わない。
【0063】
この際、分割された各エルボパイプ17は、全体としての角度の半分としても良いし、別々としても良い。
【0064】
(実施例1)
上記の構成において、例えば、3インチのアルニコ製の円筒磁石(例えば、高さ:46mm、中心磁石:20mmφ×40mm)を用い、ターゲット電極12を作製した。
【0065】
また、ターゲット電極12の裏側中央部には、電極支持/導入パイプ(SUS304)を接続したが、この中央には図6に示した45°で分割したエルボパイプ17を2個介在させた。
【0066】
このターゲット電極12には、水冷パイプ21用の1対の3/8インチシンフレックスチューブと電力供給用のシールド銅線とが接続されており、これらが各パイプ16,17を通して真空チャンバ11の外部へと引き出されている。また、ターゲット電極12を円筒形の真空チャンバ11に設置した。
【0067】
真空チャンバ11は、真空チャンバ11の底面(底面)と円筒形状のフィードスルカラー(側面)及びチャンバ開閉機構(図示せず)を備えた上部フランジ(上面)からなっている。
【0068】
基板ホルダ13は、真空チャンバ11の上面に取り付けられており、回転機構23を備えている。また、基板15の成膜面は下方に向いており、基板15の裏側には加熱用のヒ−タ24が設置されている。基板15の温度は、800℃まで可能である。ターゲット電極は、フィードスルカラー(側面)に溶接固定された管状の導入フランジ25からターゲット電極12を挿入した。
【0069】
この導入パイプ16は、導入フランジ25を貫通し、フィードスルカラー(側面)の内外でバイトンシール機構を持つ締め付け金具(真空シール金具)とコンフラットフランジ等を介して接合され、導入パイプ16は金具の締め付けによってバイトンで真空シールされる。
【0070】
このようなターゲット電極12の導入では、ターゲット電極12は真空チャンバ11の中心方向に対し自由に出入り可能となっているため、基板15の中心に対して適切な位置の選択が可能である。
【0071】
また、分割されたエルボパイプ17を用いることにより、基板15の表面に対しスパッタ面が種々の角度で、対向させることが可能である。
【0072】
このようなターゲット電極12を用いて、EuBaCu(EBCO)薄膜を作製した。
【0073】
尚、基板15には1インチ角のR面サファイアを用いた。また、R面サファイアの表面に、反応防止用バッファ層として、650℃で(001)配向させた80ÅのCeOエピタキシャル膜を形成した。EBCO薄膜の作製には、化学量論組成のEuBaCu焼結ターゲットを使用した。サイズは、86mmφ×6mmtであった。
【0074】
EBCO薄膜は、Ar+8%O中、7Paの雰囲気のもとで、直流電源で0.55Aの条件でスパッタして作製した。このときの基板15の温度は660℃であった。EBCO薄膜の膜厚を2000Åとした。
【0075】
基板15とターゲットとの各中心距離rを約70mmとし、ターゲットの鉛直軸との傾きをθとし、φ=90−θとなる条件(基板15はrの動径方向に向いている)で、EBCO薄膜を作製した。
【0076】
そのうえで、ターゲット14の表面の傾斜角θに対するEBCO薄膜の超伝導臨界温度(Tce;抵抗がゼロとなる温度)の変化を測定した。その測定結果を図7に示す。
【0077】
θがゼロ付近では、ターゲット14の表面と基板15の表面とがほぼ対向している(on−axis)状態にあり、Tceは4.2Kの低温でも超伝導を示さなかった。また、θが大きくなるにつれ、Tceが上昇し、θ=80−90°でこの材料系の限界である90−91KのTceのEBCO薄膜が得られた。θ=90°は、off−axis配置に一致するが、θが70°以上の高角側は、高エネルギー粒子の基板15の表面への入射が極力回避された状態であり、この角度領域では高品質な超伝導薄膜が得られることが分かる。
【0078】
(実施例2)
外側磁極間隔を81mm(横)×250mm(縦)(厚さ:8.3mm)及び内側磁極20mm×191mm長の方形マグネットを備えたターゲット電極12(外形サイズ:87×80×273)を作製した。
【0079】
また、ターゲット電極12の裏側中央部に導入パイプ(SUS304)16を接続した。この接続部分には90°エルボパイプ17を介在せ、ターゲット電極12の長軸方向とパイプ軸方向とが平行になるように接続した。また、このターゲット電極12には水冷パイプ用の1対の3/8インチシンフレックスチューブと電力供給用のシールド銅線とが接続され、電極支持/導入パイプを通して真空外に取り出されている。
【0080】
真空チャンバ11は角型形状しており、基板15は真空チャンバ11の側面と平行に立てた状態に設置されている。また、基板15は50−600℃の温度で加熱でき、任意の速度で左右に移動でき、前後にターゲット14との間隔を調整できる機構となっている。
【0081】
ターゲット電極12は、真空チャンバ11の底面からコンフラットフランジポートを通して導入されていると共に、バイトンシールド機構を持つ金具が取り付けられ、その導入部で電極位置を選択し、固定及び真空シールされる。
【0082】
所定の位置が定まった場合、真空チャンバ11内のターゲット電極12の下部に支持台を介在させた。真空チャンバ11の側面と平行に立てかけた基板15の成膜面に対して、真空チャンバ11の底面からのターゲット電極12の導入・設置では、ターゲット電極12は左右に回転することができ、on−axis状態から任意の傾斜角まで変化が可能である。
【0083】
このターゲット電極12を用いて、Gaを添加したZnO(GZO)薄膜の作製を行った。
【0084】
GZOターゲットとして、Gaを4重量%添加したZnO焼結体(6×75×250mm)を使用した。
【0085】
厚さ1mmの銅板にGZO焼結体ターゲット14を張り付け、これをターゲット電極12に設置した。基板15としては、76×26×lmmのスライドガラスを使用し、温度は150℃とした。スパッタ電源として高周波電源を使用し、電力300Wで、また、1PaのAr雰囲気でスパッタした。基板15は、2mm/minで移動させた。作製したGZO薄膜の膜厚を約2000Åとした。
【0086】
基板15とターゲット14の表面の中心間距離rが70mmで、基板15の表面とターゲット14の表面とが完全に対向している場合から水平面内で回転することにより基板15の表面に対しターゲット14の表面を傾斜させることができる。
【0087】
この角度が傾斜角θとなる。φ=90−θとなる条件(基板15はrの動径方向に向いている)で、GZO薄膜を作製した。ターゲット14の表面の傾斜角θに対するGZO薄膜の室温における電気抵抗率ρを測定した。その結果を図8に示す。
【0088】
θがゼロ付近では、on−axis状態になるが、その結果、高エネルギー粒子の衝撃により、結晶欠陥等により結晶性の悪い薄膜が形成され、電気抵抗率の高い薄膜が得られている。この薄膜の電気抵抗率ρは、1〜0.1Ωcmであった。傾斜させていくと、電気抵抗率は減少していき、40°では10−3Ωcmの薄膜が得られ、それ以上の角度では、ρ=(2.5〜3.7)×10−4Ωcmを得た。
【0089】
ところで、スパッタ法によって発生する粒子のエネルギーは、蒸着法のものより2桁以上高い。この高ネネルギ−粒子が基板15の表面(薄膜堆積面)に入射すると基板15にもぐりこみ、強固な薄膜が得られるものの、原子の規則的な配列や欠陥の少ない薄膜、組成ずれのない薄膜を得ることはできない。
【0090】
そこで、ターゲット電極12を傾斜させると、高エネルギー粒子の入射を回避することができ、良質なエピタキシャル薄膜成長が可能となる。この方法を適用すれば、半導体活性層の形成や結晶性・欠陥・組成ズレ・構造ひずみに非常に敏感な酸化物超伝導薄膜等の機能性薄膜の作製に利用できる。
【0091】
また、成膜によって発生する粒子のエネルギーは全て原子の成長に有害なものではなく、材料系により、薄膜の成長をアシストする効果を有する。スパッタによって発生する粒子のエネルギーは、主として傾斜角度に依存する。傾斜角度が増加するにつれて粒子のエネルギーは低下する(双方の距離rにも依存するが)。
【0092】
これに対し、本発明のスパッタ装置10では、ターゲット電極12の傾斜角度を任意に選択することが可能になっているため、材料に適した傾斜角度の選定することができ、最良の薄膜作製ができる。
【0093】
また、インライン方式の場合において、傾斜機能を持つ長方形電極を使用すると、適切な傾斜角度を見出すことが出来、良質の薄膜を量産できる装置設計が可能になる。
【0094】
尚、本発明のスパッタ装置10は、傾斜機構を有するため、高エネルギー粒子から蒸着法(MBE法を含む)の低エネルギー粒子までの広範な粒子での成膜が可能であり、要求に応じた種々の薄膜形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係わるスパッタ装置の一方向の縦断面図である。
【図2】本発明に係わるスパッタ装置の側面から電極を導入した時(基板は装置上方に設置)の縦断面図である。
【図3】本発明に係わるスパッタ装置の長方形の角型チャンバ内でのスパッタ電極、基板、基板の移動方向を上方からみた説明図説明図である。
【図4】本発明に係わる他のスパッタ装置の一方向の縦断面図である。
【図5】本発明に係わるさらに他のスパッタ装置の一方向の縦断面図である。
【図6】本発明に係わるさらに他のスパッタ装置における要部の説明図である。
【図7】ターゲット表面の傾斜角に対するEBCO薄膜の超伝導臨界温度の変化測定グラフ図である。
【図8】ターゲット表面の傾斜角に対するGZO薄膜の室温における電気抵抗率の測定グラフ図である。
【図9】従来のスパッタ装置を示し、(A)〜(D)は要部の説明図である。
【図10】他の従来のスパッタ装置の要部の説明図である。
【符号の説明】
【0096】
1…ターゲット電極
2…基板ホルダ
3…ターゲット
4…基板
10…スパッタ装置
11…真空チャンバ
12…ターゲット電極
13…基板ホルダ
14…ターゲット
15…基板
16…導入パイプ
16a…導入パイプフランジ
17…エルボパイプ
17a…エルボパイプフランジ
18…電極部
19…導入機構部
20…真空シール部
21…水冷パイプ
22…電力線
23…回転機構
24…ヒータ
25…導入フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内においてターゲットと基板とを対向させてスパッタリングを行うスパッタリング装置において、前記ターゲットと前記基板とを任意の角度の傾斜状態で対向させることができるようにしたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記ターゲット又は基板を保持するホルダー部と、前記ホルダー部を支持しチャンバーに取り付けるための支持・導入機構部とを、曲がりを有する接続部材を介して接続することを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ホルダー部と支持・導入機構部とは取り外し可能であることを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記接続部材を複数個用いて接続することを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記複数の接続部材同士は回転フランジを用いて接続されていることを特徴とする請求項4記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記接続部材はエルボーパイプであることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記支持・導入機構部は、軸心を中心として、チャンバー室外部から、回動可能とした請求項2乃至6のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記支持・導入機構部は直線条のパイプからなることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記パイプの一端は、前記チャンバー室の導入フランジからチャンバー室外へ取り出され、バイトンシールにより真空シールされていることを特徴とする請求項2乃至8のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記スパッタリング装置は、ターゲット又は基板が移動するインラインスパッタリング装置であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項11】
前記ターゲットは長方形であり、その長軸を中心として回動可能とした請求項10記載のスパッタリング装置。
【請求項12】
前記ホルダー部はターゲットを保持するホルダー部の場合であって、そのホルダー部内部にマグネットを配置したことを特徴とする請求項2乃至10のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項13】
前記ホルダー部はターゲットを保持するホルダー部であって、支持・導入機構部の内部に冷却パイプ及びスパッタリング用電線が配置されていることを特徴とする請求項2乃至11のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項14】
前記ホルダー部は基板を保持するホルダー部であることを特徴とする請求項2乃至11のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項15】
支持・導入機構部の内部に基板加熱用の電線が配置されていることを特徴とする請求項14記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−235429(P2009−235429A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79289(P2008−79289)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(592180166)株式会社倉元製作所 (11)
【出願人】(505354257)有限会社 鬼沢ファインプロダクト (5)
【Fターム(参考)】