説明

スピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維

【課題】高低音域のバランスが良好で、雑音が低減され、音響特性に優れたスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維を提供すること。
【解決手段】全繰返し単位の90モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレート単位からなるポリエチレンナフタレート繊維であって、(A)固有粘度≧0.65、(B)単糸繊度7〜18dtex、(C)強度5〜8cN/dtex、(D)180℃乾熱収縮率≦6%、(E)最大tanδ温度≦190℃を同時に満足するスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維。さらに、ポリエチレンナフタレート繊維の最大tanδが、0.1以上であることや、ポリエチレンナフタレート繊維の総繊度が、200〜2000dtexの範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響特性に優れ、スピーカー用振動板に最適なポリエチレンナフタレート繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスピーカー用振動板は主に紙パルプ製のものが使用されており、適度な内部損失はあるものの、比弾性率、比強度に欠けると共に、剛性が不足するため、分割振動域が低周波帯域から起きて、周波数特性上、ピーク、ディップが発生したり、鳴きが発生するという問題がある。
【0003】
そこで、高強度・高弾性率繊維から構成された布帛により強化された樹脂層、あるいは高強度・高弾性率繊維から構成された布帛により強化された樹脂層と、該高強度・高弾性率繊維以外の繊維から構成された布帛により強化された樹脂層とが積層されたスピーカー用振動板などが開発されている(特許文献1)。しかしながら、これらの高強度・高弾性率繊維は一般的に価格が高く、スピーカー振動板のコストが高くなる上、常温における内部損失が低いので、音響特性としても十分ではないという問題があった。その高強度繊維使用のスピーカー振動板のコストを下げる手段としては、ポリエチレンテレフタレート繊維等の汎用繊維を併用することが考えられるが、ポリエチレンテレフタレート繊維は弾性率が低く、優れた音響特性を得るためには不十分であった。
【0004】
そこでこのような課題に対し、高い強度と弾性率を有し、音響特性に優れたスピーカー用振動板として、ポリエチレンナフタレート繊維から構成された布帛で許可された樹脂層を用いることが開示されている(特許文献2)。なるほど、このものは振動板全体としては内部損失が優れており、スピーカー用振動板としての音響特性の向上が得られている。
【0005】
だが、近年、音響設備の音量及びサイズを大きくする要求がますます高まっており、より高性能のスピーカー用振動板に適した繊維の開発が待たれている。また、スクリーンスピーカーのように画面とスピーカー振動板が一体化した巨大な音響設備の開発が行われており、音質向上のために、スピーカー振動板のさらなる音響特性の向上が求められてきている。より具体的な課題としては、高低音域のバランスが良好で、雑音が少ない、高音質が得られるスピーカー振動板用の素材の開発が待たれていたのである。
【0006】
【特許文献1】特開平1−144893号公報
【特許文献2】特開2005−217716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の課題を改良するためになされたもので、その目的は、高低音域のバランスが良好で、雑音が低減され、音響特性に優れたスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維は、全繰返し単位の90モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレート単位からなるポリエチレンナフタレート繊維であって、下記(A)〜(E)を同時に満足することを特徴とする。
(A)固有粘度≧0.65
(B)単糸繊度7〜18dtex
(C)強度5〜8cN/dtex
(D)180℃乾熱収縮率≦6%
(E)最大tanδ温度≦190℃
【0009】
さらに、ポリエチレンナフタレート繊維の最大tanδが、0.1以上であることや、ポリエチレンナフタレート繊維の総繊度が、200〜2000dtexの範囲であることが好ましい。
【0010】
また、もうひとつの本発明のスピーカー用振動板は、上記の本発明のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維から構成された布帛と、樹脂層とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高低音域のバランスが良好で、雑音が低減され、音響特性に優れたスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維は、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が90モル%以上、好ましくは95モル%以上のポリエステル繊維であり、10モル%以下の割合で共重合成分を共重合したものであっても良い。上記共重合成分としては、例えば、酸成分としてはイソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができ、また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を挙げることが出来る。さらに、上記ポリエステル繊維中には少量の他の重合体や酸化防止剤、静電剤、顔料、蛍光増白剤その他の添加剤が含有されていても良い。
【0013】
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の固有粘度は0.65以上、特に0.7〜1.0の範囲であることが好ましい。ここでいう固有粘度は、繊維をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容量比6:4)に溶解し、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定した値である。固有粘度が0.65未満の場合には、補強用繊維として要求される高強度、高タフネスな糸質の繊維を安定的に得難くなる。一方、固有粘度が1.0を超えるためには、紡糸工程が不良となりやすく実用上望ましくない。
【0014】
次に、本発明のポリエチレンナフタレート繊維の単糸繊度は7〜18dtexであることが必須である。特に8〜15dtexが好ましい。単糸繊度が7dtexより低い場合には、繊維の表面積が増大するために音の干渉が発生しやすくなり、音質のブレや割れが発生しやすくなる。一方、単糸繊度が18dtexを超える場合には、布帛密度が粗くなるために含浸樹脂の接着が悪くなるため音質低下を招いてしまう。
【0015】
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の強度としては5〜8dtexであることが必要である。特に5.5〜7.5dtexであることが好ましい。強度が5cN/dtex以下であると、繊維の分子配向が低くなるため音響特性に優れたスピーカー振動板に必要な高弾性率が得られない。一方、8cN/dtexを超える場合、繊維製造において高倍率延伸が必要なために繊維中の毛羽欠点が増え、スピーカー振動板用布帛の加工工程における加工トラブルを招くために、結果的にスピーカー振動板の品位、音響特性の低下を招くこととなる。
【0016】
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の180℃における乾熱収縮率は6%以下であることを特徴とする。乾熱収縮率が6%を超える場合は、布帛の熱セット、樹脂含浸や乾燥などの加工において寸法安定性が低下するため、得られるスピーカー振動板の厚みや目付にばらつきが生じ、品位及び音響特性が低下し優れたスピーカー用振動板を得ることができない。特に好ましいはポリエチレンナフタレート繊維の180℃乾熱収縮率の範囲は、1〜5.5%であることである。
【0017】
さらに、本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、最大tanδ温度が190℃以下であることが必須である。ここでいうtanδは周波数10kHzにおける繊維の内部損失特性を示し、これが大きいほど優れた音響特性を有すると言えるが、最大tanδ温度が高いほど室温における内部損失が小さい傾向があり、最大tanδ温度が190℃を超える場合には、室温における音響特性が低下し、本発明の目的とする優れたスピーカー振動板を得ることができなくなる。さらには、最大tanδ温度が160〜190℃の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、繊維の最大tanδは0.1以上であることが好ましい。tanδが0.1を下回る場合、繊維が振動を伝えにくいために音響特性が劣る傾向にある。さらにはtanδが0.11〜0.15の範囲にあることが好ましい。
【0019】
このような本発明のポリエチレンナフタレート繊維の総繊度としては、200〜2000dtexの範囲であることが好ましく、特には500〜1700dtexの範囲が好ましい。繊度が200dtexを下回る場合、繊維の捲取時間が長くなるため生産性が低下し、得られる繊維の生産コストが増加する傾向にある。一方、2000dtexを超える場合、布帛の目付が粗くせざるを得ないばかりでなく布帛が厚くなりすぎるため目付調整が困難となり、音響特性を満足させにくい傾向にある。
【0020】
以上のような本発明のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維の好ましい製造方法としては、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とするナフタレート系ポリエステルチップを、固有粘度が0.65以上となるように固相重合し、次いで溶融紡糸し、加熱ロールを用いて延伸する方法が挙げられる。
【0021】
特にポリエチレンナフタレート繊維の最大tanδ温度は、ポリエチレンナフタレート繊維の分子配向を低下させることにより低減することができ、例えば延伸倍率を低くすることにより最大tanδ温度を下げることが出来る。また紡糸速度を向上させ、高速紡糸を行うことによっても最大tanδ温度を190℃以下となるように適宜調整することができる。通常工業用繊維の製造方法においては、高倍率延伸によりポリエチレンナフタレート繊維の強度を高める場合が多いが、そのような通常の製造方法を採用した場合には最大tanδ温度が190℃を超えてしまい本発明の目的から外れる。
【0022】
また、tanδの値はポリエチレンナフタレート繊維の結晶化度を低下させることにより上げることができ、例えば、tanδを0.1以上とするためには延伸倍率を下げるか延伸熱セット温度を下げるなどして調整することが出来る。
【0023】
さらに詳細を述べれば、本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、例えば以下のような方法で製造することが出来る。
まず、ポリエステルの重縮合に用いる通常の重縮合装置で、固有粘度0.50〜0.65の範囲まで重縮合せしめ、ペレット状にカットし、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンナフタレート樹脂チップとなす。この樹脂チップを乾燥機に仕込み、113Pa以下の真空下で100〜150℃、より好ましくは120〜140℃の範囲で予備乾燥を行った後、210〜250℃、より好ましくは220〜240℃の範囲で、固有粘度が0.65以上、好ましくは0.70〜1.2となるように乾燥熱処理する(以下固相重合と称する)。このような条件下で固相重合することにより、ポリエチレンナフタレート樹脂の重合度を高めることが出来る。
【0024】
次いでポリエチレンナフタレート樹脂チップの溶融紡糸は、通常ポリエステル繊維の溶融紡糸に用いられている、溶融押出機を装備した溶融紡糸機で行う。溶融されスピンパックで濾過されたポリマー流は紡糸口金より吐出され、一旦、紡糸口金下が保温された雰囲気を通過し、室温付近の温度に調整された冷却風で、冷却・固化され、平滑剤成分や制電剤成分が配合された繊維油剤が付与されて紡糸引き取られる。紡糸安定性、延伸性を考慮すると紡糸温度は310〜330℃が好ましい。
【0025】
次に、紡糸引き取られた未延伸糸は延伸工程に供給される。一旦引き取った未延伸糸を別途延伸しても良いが、紡糸引き取りしつつ、連続して延伸操作を行う紡糸・直延伸方式がより好ましい。この時、紡糸引取り速度を400〜3000m/min及び延伸倍率を1.5〜6.0倍の範囲とすれば、本発明のポリエチレンナフタレート繊維を安定して製造することが出来る。尚、延伸は複数組の回転加熱ローラ群間で複数回の多段延伸を行うことが好ましい。
【0026】
もうひとつの本発明のスピーカー用振動板は、上記のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維から構成された布帛と樹脂とからなるものである。
【0027】
ここで本発明における、上記ポリエチレンナフタレート繊維から構成される布帛の形態は特に限定はなく、織物、編物、不織布などいずれの形態であっても良い。また、布帛におけるポリエチレンナフタレート繊維の混率は、50重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70重量%以上である。用いられるポリエチレンナフタレート繊維における、その断面形状や繊維形態(長繊維、紡績糸やカットファイバー等)についても特に限定はなく、目的に応じて適宜選択設定すればよい。
【0028】
本発明のスピーカー振動板は、上記ポリエチレンナフタレート繊維から構成される布帛で強化された樹脂層から形成されるが、この際、使用される樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂等の熱可塑性樹脂、或いはエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂など、従来耕地の樹脂を任意に使用することができる。
【0029】
なお、布帛で強化された樹脂層を形成させる方法としては、例えば布帛をエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸して半硬化状態とし、エポキシプリプレグを作成した後、該プリプレグを20cm×20cm程度の大きさに切断し、切断された布帛を積層して、振動用マッチドダイ金型を使用して130〜180℃で、10〜15分間熱プレス処理する方法などの公知の方法が使用できる。
【0030】
さらには、スピーカー振動板としては、上記のポリエチレンナフタレート繊維から構成された布帛で強化された樹脂層を一方の表面に配置し、他方表面(裏面)には、ポリエチレンナフタレート繊維以外の、たとえばポリエチレンテレフタレート繊維から構成された布帛で強化された樹脂層を配置し、最終的に複合体からなるスピーカー振動板を形成させることも好ましい態様である。
【0031】
このような本発明のスピーカー用振動板は、高強度・高弾性率を有するもうひとつの本発明のポリエチレンナフタレート繊維を含むものであり、本発明特有のポリエチレンナフタレート繊維から構成された高品位の布帛により強化された樹脂層から構成されている。そしてこのスピーカー用振動板は、高低音域のバランスが良好で、雑音が低減され、音響特性に優れているため、音響機器等に好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0032】
以下実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)繊度
JIS−L1013に準拠して測定した。尚、単糸繊度とは、繊維の総繊度を単糸数で除したものである。
(2)強度
JIS−L1013に準拠して測定した。
(3)乾熱収縮率
JIS L1013 B法(フィラメント収縮率)に準拠し、180℃で30分間の収縮率とした。
(4)内部損失(tanδ)
岩本製作所製の粘弾性測定装置(VES−HC型)を用い、周波数10kHzにおけるポリエチレンナフタレート繊維の内部損失(tanδ)を測定した。
(5)音質
実施例で得られた振動板をスピーカーに取り付けた際、比較例で得られた振動板よりも高低音域のバランスが良く、雑音が低減し、音質の向上が見られたものを○、変化が見られなかったものを×で示した。
【0033】
[実施例1]
固有粘度0.62のポリエチレンナフタレート樹脂チップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、固有粘度0.75のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。このチップを、スクリュー押出機を装備した溶融紡糸機に導入し、溶融し、スピンパックで濾過後、孔径0.6mm、吐出孔数72ホールを穿設した紡糸口金より紡糸温度315℃で吐出し、400℃の温度に加温された口金下200mmの雰囲気下を通過させ、25℃の冷却風で冷却固化し、オイリングローラで繊維油剤(油剤付着量0.5重量%)を付与した後、670m/分の紡糸速度で引き取った。
【0034】
引き続き、紡糸引き取られた未延伸糸条を、合計延伸倍率が4.5倍となるように、150℃に加熱した予熱ローラと、155℃に加熱した延伸ローラとの間で1段延伸し、次いで該延伸ローラと第2延伸ローラとの間で1.005倍の倍率で2段延伸しつつ、該第2延伸ローラ(熱セットローラ)にて200℃で熱セットした。次いで、冷ローラを介して捲取機で3,000m/minの速度で巻き取り、固有粘度0.70、繊度890dtex、単糸繊度12.4dtex、強度6.3cN/dtex、180℃乾熱収縮率4.5%、最大tanδが0.125、最大tanδ温度が181℃のポリエチレンナフタレート繊維を得た。
【0035】
さらに得られたポリエチレンナフタレート繊維を経糸及び緯糸に配した平織布(密度20本/2.54cm(インチ))を製織し、エポキシ樹脂に含浸した後、常法により乾燥、半硬化させてエポキシプリプレグを得た。
次に、該エポキシプリプレグを所定の大きさに切断した後、該プリプレグを6枚積層し、振動用マッチドダイ金型を用いて150℃×12分間熱プレス処理し、口径16cm、厚さ0.32mmのスピーカー振動板を得た。得られたスピーカー振動板を用いたスピーカーは、高低音のバランスが良く、雑音が低減されており、優れた音質であった。
【0036】
[実施例2〜3]
表1に示す紡糸口金、紡糸速度、延伸条件にて実施例1と同様にしてポリエチレンナフタレート繊維及びスピーカー用振動板を得た。得られたポリエチレンナフタレート繊維の物性及びスピーカー振動板を用いたスピーカーの音質結果を表1にまとめて示す。表1の通りいずれも高低音域バランスが良好で、雑音が少なく音質の向上が見られた。
【0037】
[比較例1]
紡糸口径0.7mm、孔数250ホールの紡糸口金を用い、紡糸速度を500m/分、延伸条件を6.0倍とした以外は実施例1と同様にして固有粘度0.71、繊度1670dtex、単糸繊度6.7dtex、強度8.4cN/dtex、180℃乾熱収縮率7.0%、最大tanδが0.103、最大tanδ温度が194℃のポリエチレンナフタレート繊維を得た。得られた該繊維を実施例1と同様にしてスピーカー用振動板に得た。該ポリエチレンナフタレート繊維は、通常用いられる細繊度ポリエチレンナフタレート繊維であるが、本発明の範囲よりも単糸繊度が小さく、強度と乾熱収縮率が高く、布帛及びスピーカー振動板成形時の寸法安定性がやや低下した。さらに、最大tanδ温度が高く、最大tanδの値も低下し、得られたスピーカー振動板の音質は高音域がやや強く、スピーカーの振動に対しやや雑音の発生傾向があり、音質の向上が得られなかった。結果を表1に併せて示す。
【0038】
[比較例2]
紡糸口径0.7mm、孔数48ホールの紡糸口金を用い、紡糸速度を670m/分、延伸条件を4.5倍とした以外は実施例1と同様にして固有粘度0.72、繊度890dtex、単糸繊度18.6dtex、強度6.0cN/dtex、180℃乾熱収縮率4.5%、最大tanδが0.120、最大tanδ温度が182℃のポリエチレンナフタレート繊維を得た。得られた該繊維を実施例1と同様にしてスピーカー用振動板とした。該ポリエチレンナフタレート繊維の単糸繊度は、本発明の範囲外の大きいものであり、スピーカーの振動に対し音割れの発生およびエポキシ樹脂の剥離が見られ、音質の向上が得られなかった。
【0039】
[比較例3]
紡糸口径0.5mm、孔数250ホールの紡糸口金を用い、紡糸速度を670m/分、延伸条件を4.5倍とした以外は実施例1と同様にして繊度890dtex、単糸繊度3.6dtex、強度6.4cN/dtex、180℃乾熱収縮率5.0%、最大tanδが0.115、最大tanδ温度が185℃のポリエチレンナフタレート繊維を得た。得られた該繊維を実施例1と同様にしてスピーカー用振動板に得た。該ポリエチレンナフタレート繊維の単糸繊度が本発明の範囲から外れて小さく、スピーカーの振動に対しやや雑音の発生傾向があり、音質の向上が得られなかった。
【0040】
[比較例4]
固有粘度0.62のポリエチレンナフタレート樹脂チップを固相重合せず、紡糸速度を600m/分、延伸条件を5.0倍とした以外は実施例1と同様にして固有粘度0.59、繊度890dtex、単糸繊度12.4dtex、強度5.8cN/dtex、180℃乾熱収縮率4.2%、最大tanδが0.120、最大tanδ温度が180℃のポリエチレンナフタレート繊維を得た。得られた該繊維を実施例1と同様にしてスピーカー用振動板に得た。該ポリエチレンナフタレート繊維の固有粘度が本発明の範囲から外れて小さく、繊維の強度が出難くい上に毛羽品位が劣っていた。得られたスピーカー振動板は構成する布帛に毛羽欠点が多く、そのため、音質の向上は得られなかった。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全繰返し単位の90モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレート単位からなるポリエチレンナフタレート繊維であって、下記(A)〜(E)を同時に満足することを特徴とするスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維。
(A)固有粘度≧0.65
(B)単糸繊度7〜18dtex
(C)強度5〜8cN/dtex
(D)180℃乾熱収縮率≦6%
(E)最大tanδ温度≦190℃
【請求項2】
ポリエチレンナフタレート繊維の最大tanδが、0.1以上である請求項1記載のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維。
【請求項3】
ポリエチレンナフタレート繊維の総繊度が、200〜2000dtexの範囲である請求項1または2記載のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載のスピーカー振動板用ポリエチレンナフタレート繊維から構成された布帛と、樹脂層とからなることを特徴とするスピーカー用振動板。

【公開番号】特開2010−21735(P2010−21735A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179493(P2008−179493)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】