説明

スピーカ

【課題】D級アンプを有していながら、電気的構成が複雑なHブリッジドライバや出力フィルタを必要とせず、トロイダルコアやコイルも不要にして、小型で磁気飽和による歪を無くすことができるスピーカを得る。
【解決手段】磁界の変動に応じて変位する超磁歪部材20と、超磁歪部材20の周囲に間隔を設けて配置され、駆動電流に応じて超磁歪部材20の変位方向に沿った向きの磁界を発生するコイルと、超磁歪部材20の一端に支持された振動板30と、コイルに駆動電流を供給するD級アンプと、を備え、コイルは、D級アンプのアップ側駆動電流で駆動されるアップ側コイル22と、D級アンプのダウン側駆動電流で駆動されるダウン側コイル24を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D級アンプによって駆動されるスピーカに関するもので、特に、駆動方式に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
D級アンプと呼ばれるスイッチングアンプが知られている。D級アンプは電力効率が高いという特徴があり、スピーカを駆動するオーディオアンプとしても使用されている。D級アンプには、デジタル信号を入力とするデジタルアンプがある。デジタルアンプは、入力信号のサンプリング周波数を16倍あるいは32倍というように高い周波数にする一方、数ビットの低い分解能で量子化し、量子化した信号でパルス幅変調をかけて生成したPWM信号を入力信号とする。上記デジタルアンプは、入力されたPWM信号に対応してスイッチング動作し、その出力信号はローパスフィルタに通し、パワー成分のみをスピーカに入力してスピーカを駆動するようになっている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
また、上記のようなD級アンプに入力するPWM信号の生成過程で発生する高調波歪をあらかじめ予測し、高調波成分を元の信号から差し引いた後パルス幅変調を行なうことにより、パルス幅変調によって発生する高調波歪を相殺するPWM信号発生装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】実開平5−55691号公報
【特許文献2】特開平6−29857号公報
【特許文献3】特開2005−218070号公報
【0005】
図2は、従来のD級アンプを備えたスピーカの例を示す。図2において、例えば、音声信号がパルス幅変調されたPWM信号は、ゲートドライバ40を経てHブリッジドライバ42に入力され、Hブリッジドライバ42の出力が出力フィルタ44を経てスピーカ46に入力され、スピーカ46を駆動するようになっている。ゲートドライバ40とHブリッジドライバ42を含む部分がD級アンプを構成している。スピーカ46は、一般的にはダイナミック型である。すなわち、永久磁石を含む磁気回路と、この磁気回路内において磁界が形成された磁気ギャップに配置されたボイスコイルと、このボイスコイルの一端が固着された振動板と、この振動板の外周縁および上記磁気回路を保持するフレームを有してなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載されているような、あるいは図2に示すようなスピーカの駆動に用いられる従来のD級アンプは、シングルエンド出力にするために、トランジスタなどの能動素子をH形に接続したHブリッジドライバが必要であり、加えて、上記能動素子をコンプリメンタリ接続する必要があることから、回路構成が複雑になる。また、D級アンプをシングルエンド出力にするために、不要な高周波を除去するローパスフィルタからなる出力フィルタを必要とする。
【0007】
また、従来のD級アンプでは、十分大きなインダクタンスを得るためにトロイダルコアおよびこのコアに巻いたコイルが用いられているが、磁気飽和によって信号に歪が発生しないように、大型のトロイダルコアが必要であり、また、上記コイルの直流抵抗はできるだけ低いことが望ましく、そのためには太い線材でコイルを形成することが望ましい。しかし、大型のトロイダルコアと太い線材からなるコイルを使用すると、これらが嵩張って、D級アンプを備えたスピーカが大型化し、また、コスト高になる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、D級アンプを有していながら、電気的構成が複雑なHブリッジドライバや出力フィルタを必要とせず、トロイダルコアやコイルも不要にして、小型で磁気飽和による歪を無くすことができるスピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るスピーカは、磁界の変動に応じて変位する超磁歪部材と、超磁歪部材の周囲に間隔を設けて配置され、駆動電流に応じて超磁歪部材の変位方向に沿った向きの磁界を発生するコイルと、超磁歪部材の一端に支持された振動板と、上記コイルに駆動電流を供給するD級アンプと、を備え、上記コイルは、上記D級アンプのアップ側駆動電流で駆動されるアップ側コイルと、上記D級アンプのダウン側駆動電流で駆動されるダウン側コイルを備えていることを最も主要な特徴とする。
超磁歪部材の変位方向一端は機械フィルタを介して基台に結合し、超磁歪部材の変位方向他端には別の機械フィルタを介して振動板を結合するとよい。
【発明の効果】
【0010】
スピーカの振動板の機械的な駆動原理は、超磁歪部材による超磁歪現象によるものである。超磁歪部材の周囲に巻かれているコイルに音声信号に対応した電流を流すと、この電流に応じた磁界がコイルに発生し、この磁界の変化に応じて超磁歪部材が伸縮する。この伸縮運動が振動板に伝達されて振動板が振動し、振動板から上記音声信号に対応した音波が放射される。
【0011】
超磁歪部材の周囲に巻かれているコイルはアップ側とダウン側に分かれていて、各コイルにはD級アンプからそれぞれに対応した駆動電流が供給され、アップ側の駆動とダウン側の駆動が行われる。したがって、従来のように、D級アンプをシングルエンド出力にする必要がないから構成の複雑なHブリッジドライバは不要である。また、インダクタを使用する必要もなく、インダクタの磁気飽和による音の歪が発生することもない。
【0012】
超磁歪部材の変位方向両端に機械フィルタを設け、これらの機械フィルタを介して超磁歪素子の各端を基台および振動板に結合することにより、不要な高周波は機械フィルタで除去され、有害な音波の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明にかかるスピーカの実施例を、図1を参照しながら説明する。
図1において、右側にスピーカの機械的な構成を示し、左側に駆動回路の構成を示している。スピーカは、円柱形状に形成された超磁歪部材20を備えている。超磁歪部材20は、磁界の変動に応じて変位(伸縮)する性質を有する超磁歪素子からなり、適宜の筐体内に配置されている。超磁歪素子とは、たとえばテルビウム、ディスプロシウム、及び鉄などを主成分とする単結晶合金から作られた素子であり、外部から磁界が印加されると、ジュール効果によって外部磁界の方向に沿って伸びる寸法の変化を起こす性質を有している。また、外部から応力を受けると、ビラリ効果によって磁化量の変化を生じて圧縮変形する性質を有する。超磁歪素子は、粉末冶金で作成され、圧縮強度が600×10(Pa)、引っ張り強度が20×10(Pa)と、極めて高い機械強度を有する。ヤング率も2.0×10(N/m)と極めて高い。
【0014】
超磁歪部材20の周囲には、超磁歪部材20の外周面との間に間隔をおいて二つのコイル22,24が配置され、超磁歪部材20の周囲にコイル22,24が巻かれた形になっている。二つのコイル22,24は後述のD級アンプから駆動電流が供給され、駆動電流に応じて超磁歪部材20の変位方向に沿った向きの磁界を発生するようになっている。コイル22はアップ側の駆動コイル、コイル24はダウン側の駆動コイルとなっていて、それぞれの駆動コイルに供給される駆動電流に応じて超磁歪部材20をアップ側とダウン側に駆動する。
【0015】
超磁歪部材20の変位方向である長さ方向両端には機械フィルタ26,28が固着されている。機械フィルタ26,28は、例えばゴムなどの弾性体からなり、高周波成分を吸収して外部へ伝達するのをカットする機能を持っている。超磁歪部材20の変位方向一端(図1において下端)は機械フィルタ26を介してスピーカの筐体の一部をなす基台29に結合されている。超磁歪部材20の変位方向他端(図1において上端)には機械フィルタ28を介して振動板30が結合されている。振動板30はコーン形になっていて、コーン形振動板30の基部が機械フィルタ28に結合され、コーン形振動板30の開放端外周縁部はスピーカの筐体の一部をなすフレーム等に結合されている。コイル22,24に入力される音声信号に対応して発生する磁界により超磁歪部材20が伸縮し、この伸縮運動が振動板30に伝達されて振動板30が振動し、振動板30から音波が放射される。
【0016】
次に、上記のように構成されたスピーカの機械的構成部分を駆動する駆動回路について説明する。駆動回路はD級アンプを構成していて、図1に示す例では、ゲートドライバ10と、MOS−FETドライバ12で構成されている。ゲートドライバ10には、例えば、前述のように、入力信号のサンプリング周波数を16倍あるいは32倍というように高い周波数にする一方、数ビットの低い分解能で量子化し、量子化した信号でパルス幅変調をかけて生成したPWM信号を入力信号とする。MOS−FETドライバ12は、前記アップ側のコイル22を駆動するアップ側のMOS−FET14と、ダウン側のコイル24を駆動するダウン側のMOS−FET16を有してなる。MOS−FET14とコイル22は、電源18とアースとの間に直列的に接続され、MOS−FET16とコイル24は、電源18とアースとの間に直列的に接続されている。上記PWM信号はアップ側とダウン側に分かれてゲートドライバ10に入力し、ゲートドライバ10は、アップ側とダウン側のPWM信号に基づいてスイッチング信号をMOS−FET14,16のゲートに入力し、MOS−FET14,16を駆動するように構成されている。MOS−FET14,16は、ゲートに入力される信号に応じてスイッチング動作し、コイル22,24に駆動電流を供給する。
【0017】
以上説明した実施例によれば、アップ側のコイル22にはアップ側のMOS−FET14から駆動電流が供給され、ダウン側のコイル24にはダウン側のMOS−FET16から駆動電流が供給される。コイル22,24はそれぞれに供給される駆動電流に応じて磁界を発生し、それぞれの磁界に応じて超磁歪部材20がアップ側とダウン側に伸縮する。超磁歪部材20の伸縮に応じて振動板30が振動し、音波が放射される。
【0018】
このように、二つのコイル22,24と超磁歪部材20の組み合わせによって振動板30をアップ側とダウン側に駆動し、アップとダウンを機械的に合成するため、従来のD級アンプを用いたスピーカのように、D級アンプをシングルエンド出力にする必要がなく、構成の複雑なHブリッジドライバは不要である。また、インダクタを使用する必要もないから、インダクタの磁気飽和による音の歪が発生することもない。
【0019】
不要な高周波成分は、機械フィルタ26,28で除去され、振動板30や基台29に高周波成分が伝達されるのを阻止するため、高周波成分による有害な音波の発生を防止することができる。また、従来のように、電気的に複雑な出力フィルタを使用する必要がないから、コストを低減することができる。
【0020】
上記のように、インダクタが不要であるなどの理由から、D級アンプの物理的な大きさを小さくすることができ、D級アンプをスピーカの筐体内に内蔵することが容易になる。また、D級アンプをスピーカの筐体内に内蔵しかつコイル22,24の近傍に配置することも容易で、これにより、デジタル信号部分の電気配線を短くすることができ、不要な輻射を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るスピーカの実施例をスピーカ部分の断面図とともに示す回路図である。
【図2】従来のD級アンプを備えるスピーカの例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0022】
10 ゲートドライバ
12 MOS−FETドライバ
14 MOS−FET
16 MOS−FET
20 超磁歪部材
22 コイル
24 コイル
26 機械フィルタ
28 機械フィルタ
29 基台
30 振動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界の変動に応じて変位する超磁歪部材と、
超磁歪部材の周囲に間隔を設けて配置され、駆動電流に応じて超磁歪部材の変位方向に沿った向きの磁界を発生するコイルと、
超磁歪部材の一端に支持された振動板と、
上記コイルに駆動電流を供給するD級アンプと、を備え、
上記コイルは、上記D級アンプのアップ側駆動電流で駆動されるアップ側コイルと、上記D級アンプのダウン側駆動電流で駆動されるダウン側コイルを備えてなるスピーカ。
【請求項2】
超磁歪部材の変位方向一端は機械フィルタを介して基台に結合され、超磁歪部材の変位方向他端には別の機械フィルタを介して振動板が結合されている請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
機械フィルタは弾性体からなる請求項2記載のスピーカ。
【請求項4】
D級アンプのアップ側駆動回路およびダウン側駆動回路はそれぞれ駆動用FETを備えている請求項1記載のスピーカ。
【請求項5】
アップ側駆動回路およびダウン側駆動回路の駆動用FETには、ゲートドライバを介してそれぞれに、音声信号をパルス幅変調してなるPWM信号が入力される請求項4記載のスピーカ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−258719(P2008−258719A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96186(P2007−96186)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】