説明

スプライシングバリアント

【課題】細胞の性質や疾患に係る、実際に発現している選択的スプライシングバリアントを同定する方法を提供する。
【解決手段】トランスクリプトーム解析とプロテオーム解析とを組み合わせることにより、細胞の性質や疾患に係る、実際に発現している選択的スプライシングバリアントを同定する。mRNAのシークエンシングを行い、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントの塩基配列を同定する工程;同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質を、スプライシングバリアントタンパク質として同定する工程を含む。さらにかかる方法により、胃がん細胞の転移性に関与する、実際に発現している選択的スプライシングバリアントを同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプライシングバリアントや、スプライシングバリアントのスクリーニング方法や、スプライシングバリアントを検出することによる胃がんの判定方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
プレmRNAの選択的スプライシングは、ヒトゲノム上の限られた数の遺伝子から複雑さを生み出す重要なプロセスであり、多くのヒト遺伝子が選択的スプライシングを受けると予測されている(非特許文献1及び2)。選択的スプライシングは正常細胞における分子プロセスだけでなく、がんにも関連することが明らかになっており(非特許文献3)、その解析が急がれている。
【0003】
本発明者らは、エクソンアレイを用いた遺伝子発現パターンのスクリーニングにより、大腸がん、特に転移性大腸がんのマーカーや、胃がんのマーカーARHGDIB遺伝子、GFRA3遺伝子、及びBX538254遺伝子の新規スプライシングバリアントを同定している(特許文献1)。また、BHMT、EPSTI1及びNEBLの新規エクソン配列を同定し、これらの新規スプライシングバリアントが、胃がん細胞及び大腸がん細胞に発現することを見いだした(特許文献2)。また、DNAJC12、ULBP1、及びXAF1の新規スプライシングバリアントが高転移性胃がんのマーカーとなりうることや、このULBP1の新規バリアントは胃がん、膵がん、大腸がん、又は乳がんのマーカーとなりうることを開示している(特許文献3)。特許文献4にはGSDMB及びGSDMBスプライシングバリアントの発現や変異を指標としたがんの検査方法が、特許文献5にはペリオスチンのスプライシングバリアント(PN−1)が原発巣の増殖並びに原発巣からの転移をおこす機能を有していることなどが開示されている。
【0004】
スプライシングバリアントのスクリーニング方法としては、転写配列断片のデータベース及びゲノムデータベスから、既知遺伝子のスプライシングバリアントを網羅的に解析する方法(特許文献6)や、エクソンアレイから得られたエクソン発現データの解析システム及び解析方法を用いた、疾患特異的選択的スプライシング同定法(特許文献7)などが開示されている。しかしながら、従来のスプライシングバリアントのスクリーニング方法はいずれも転写産物の発現情報やゲノム情報に基づいて転写産物のバリエーションに注目したものであり、その産物であるタンパク質が安定に存在するかも定かではないという問題があった。選択的スプライシングバリアントから翻訳されたタンパク質アイソフォームは、タンパク質の構造、ひいてはその機能が変化することから、遺伝子配列の変異を伴わずに細胞機能の変化や疾患を引き起こす可能性が考えられる。したがって、スプライシングバリアントタンパク質が実際に発現しており、そして細胞の性質や疾患に係るスプライシングバリアントを網羅的に解析する方法が望まれていた。
【0005】
日本の胃がん死亡率の年次推移は、1960年代から男女とも大幅な減少傾向にあるが、2004年にがんで亡くなった人の数では胃がんは男性で第2位、女性で第1位であり、また2000年の罹患数は死亡数の約2倍であり、治療法や検査法の開発が必要とされていることには変わりがない。また、胃がんでは、早期発見及び手術治療が最も有効で標準的な治療であり、胃がんの転移が胃がん患者の生存率に大きく影響する。したがって、胃がんの判定や胃がんの転移性の判定は、治療法の選択の上でも重要であり、開発が望まれている。
【0006】
C型アルドラーゼ(aldolase C, fructose-bisphosphate;ALDOC)は脳で見いだされ、海馬及びプルキンエ細胞での高い発現が知られる、解糖系におけるフルクトース−1,6−ビスリン酸やフルクトース−1−リン酸からジヒドロキシアセトンリン酸及びグリセルアルデヒド−3−リン酸又はグリセルアルデヒドへの分解反応を触媒する酵素である。ALDOC遺伝子については、ALDOC遺伝子の発現レベルの変化が患者の治療に対する感受性を有することを意味する、がんの治療に対するがん患者の感受性を推定する方法(特許文献8)や、試料中のALDOC遺伝子又はそれによりコードされたタンパク質の発現レベルを分析する、エポチロンによる病的障害の治療に対する対象の可能性のある反応性を決定する方法(特許文献9)や、ALDOC遺伝子の低発現を示すか決定する工程を含む、IGF1R阻害剤に対する悪性細胞または新生物細胞の感受性を評価するための方法(特許文献10)が開示されているが、ALDOC遺伝子のスプライシングバリアントについては何ら明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−252787号公報
【特許文献2】特開2009−254365号公報
【特許文献3】特開2009−254364号公報
【特許文献4】特開2006−061108号公報
【特許文献5】再表2009−001940号公報
【特許文献6】特開2005−135053号公報
【特許文献7】特開2008−027244号公報
【特許文献8】特表2009−523011号公報
【特許文献9】特表2010−531985号公報
【特許文献10】特表2011−505873号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kampa D. et al., Genome Res., 14, 331-342 (2004)
【非特許文献2】Modrek B. et al., Nucl. Acids Res. 29 (13), 2850-2859 (2001)
【非特許文献3】Grosso A. R., EMBO reports 9, 1087-1093 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、細胞の性質や疾患に係る、実際に発現している選択的スプライシングバリアントを同定する方法を提供することや、細胞の性質や疾患に係る選択的スプライシングバリアントを同定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、トランスクリプトーム解析とプロテオーム解析とを組み合わせることにより、細胞の性質や疾患に係る、実際に発現している選択的スプライシングバリアントを同定できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は[1](a)性質が異なる2種類の細胞において発現しているmRNAを検出し、2種類の細胞間で発現量に有意差があるmRNAの遺伝子名を同定する工程;(b)前記2種類の細胞において発現しているタンパク質を検出し、その遺伝子名を同定する工程;(c)工程(a)で同定され、かつ工程(b)で同定された遺伝子を、一次候補遺伝子として選択する工程;(d)前記2種類の細胞間で一次候補遺伝子の部分領域のmRNA発現量を比較し、一部の部分領域の発現量に有意差がある遺伝子を、二次候補遺伝子として選択する工程;(e)二次候補遺伝子のmRNAのシークエンシングを行い、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントの塩基配列を同定する工程;(f)工程(e)で同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、工程(b)において検出されたタンパク質を、スプライシングバリアントタンパク質として同定する工程;の工程(a)〜(f)を備えた、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントのスクリーニング方法や、[2]工程(a)においてmRNAを検出し、2種類の細胞間で発現量に有意差があるmRNAの遺伝子名を同定する方法が、エクソンアレイ又はcDNAマイクロアレイを使用する方法であることを特徴とする前記[1]記載のスクリーニング方法や、[3]工程(b)においてタンパク質を検出し、その遺伝子名を同定する方法が、LC−MS/MSを使用する方法であることを特徴とする前記[1]記載のスクリーニング方法や、[4]細胞の性質が、胃がん細胞の転移性であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか記載のスクリーニング方法に関する。
【0012】
また、本発明は[5]配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント核酸や、[6]配列番号1〜3のいずれかで示される塩基酸配列と90%以上の配列相同性を有する塩基酸配列からなるALDOCスプライシングバリアント核酸や、[7]配列番号4〜14のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるALDOCスプライシングバリアントタンパク質や、[8]配列番号4〜14のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列からなるALDOCスプライシングバリアントタンパク質に関する。
【0013】
また、本発明は[9]前記[7]又は[8]に記載のALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出する抗体や、[10]配列番号15〜22のいずれかで示される塩基配列からなる、前記[5]又は[6]に記載のALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマーや、[11]前記[9]記載の抗体、又は前記[10]記載のプライマーを備えた、ALDOCスプライシングバリアントを検出することを特徴とする胃がんの判定用キットや、[12](A)試料における前記[5]〜[8]のいずれかに記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bの発現量を測定する工程;(B)工程(A)の発現量がコントロールと比較して高い場合、胃がんと判定する工程;の工程(A)及び(B)を備えた、胃がんの判定方法や、[13]さらに、(C)試料における前記[5]〜[8]のいずれかに記載のALDOCスプライシングバリアント4a発現量とALDOCスプライシングバリアント4b発現量を比較する工程;(D)ALDOCスプライシングバリアント4bの発現量がALDOCスプライシングバリアント4a発現量より高い場合、転移性胃がんと評価する工程;の工程(C)及び(D)を備えた、前記[12]記載の判定方法や、[14]試料が胃組織であることを特徴とする前記[12]又は[13]記載の判定方法に関する。
【0014】
また、本発明は[15]前記[5]〜[8]のいずれかに記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bの核酸又はタンパク質を阻害することを特徴とする胃がん予防・治療剤や、[16]前記[5]又は[6]に記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4b核酸に対するアンチセンスDNAあるいはアンチセンスRNA、又はsiRNA及びmiRNAを有効成分とすることを特徴とする前記[15]記載の胃がん予防・治療剤や、[17]前記[7]又は[8]に記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bタンパク質に対する特異的抗体を有効成分とすることを特徴とする前記[16]記載の胃がん予防・治療剤に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞の性質や疾患に係る、実際に発現している選択的スプライシングバリアントをスクリーニングにより同定することができ、かかる方法で同定された新規のALDOCスプライシングバリアントを提供することや、かかるALDOCスプライシングバリアントを検出することにより胃がん及び/又は胃がんの転移性を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エクソンマイクロアレイ及びcDNAマイクロアレイを使用したトランスクリプトーム解析、並びにプロテオーム解析の2種の独立したアッセイ系を使用した、スプライシングバリアントのスクリーニング方法の概略を表す図である。
【図2】エクソンマイクロアレイを用いた、MKN45P細胞(黒丸)及びMKN45細胞(白丸)における、ALDOC、PDIA3、LMNAの個別のエクソン及びイントロンに相当するmRNA部分領域の発現レベルを解析した結果を示す図である。グラフの横軸はプローブ番号を示し、縦軸は各プローブで検出したmRNA発現レベルを示し、グラフ上にプローブ領域との対応する各遺伝子のエクソン構造を示す。また、エクソン構造に付された黒いバーはcDNAマイクロアレイのプローブの領域を示す。
【図3】MKN45P細胞及びMKN45細胞におけるALDOC遺伝子及びTUBA4A遺伝子のmRNA(上段パネル)及びタンパク質(中段パネル)の発現と、その定量結果(平均値±標準偏差)(下段グラフ)を示す。ALDOCタンパク質の発現量はTUBA4Aの発現量で標準化し、ALDOC遺伝子の発現量はMKN45P細胞におけるALDOC遺伝子mRNA量を1.0とした発現量比で示す。アスタリスクはp<0.01(t検定)を表す。
【図4】ALDOC遺伝子の(i)既知のエクソン構造(アクセッション番号NM_005165)、並びに(ii)スプライシングバリアント4a及び(iii)スプライシングバリアント4bのエクソン構造を示す図である。新規の選択的スプライシング領域をグレーボックスで表す。RT−PCR用プライマー(配列番号15及び16)の位置を黒矢印で、リアルタイムRT−PCR用プライマー(配列番号17〜20)の位置をグレー矢印で示す。これらのエクソン構造における、MS/MS解析で同定されたペプチド断片の位置を黒いバーで表し、またその配列も示す。
【図5】各種胃がん細胞株、胃組織におけるALDOC遺伝子の(i)既知のエクソン構造、並びに(ii)スプライシングバリアント4a及び(iii)スプライシングバリアント4bのmRNA発現量を示す図である。RT−PCRによる増幅産物の電気泳動結果を上側のパネルに、リアルタイムRT−PCRによる(ii)スプライシングバリアント4a及び(iii)スプライシングバリアント4bの発現量の定量結果を下側のグラフに示す。発現レベルは、正常胃組織における各バリアントの発現量を1とした発現量比で表す。
【図6】ALDOC遺伝子の(i)既知のエクソン構造、(ii)スプライシングバリアント4a、(iii)スプライシングバリアント4b、並びにスプライシングバリアント4c及びスプライシングバリアント4dのエクソン構造を示す図である。新規の選択的スプライシング領域をグレーボックスで表す。RT−PCR用プライマーα(配列番号15)、β(配列番号16)及びγ(配列番号22)の位置を黒矢印で示す。プライマーα及びγを用いてRT−PCRを行い、各サンプルにおけるスプライシングバリアント4c及びスプライシングバリアント4dのmRNA発現量を調べた結果を下のパネルに示す。A及びBは正常組織、Cは正常組織近接部位、D〜Fはがん組織、Gは転移性がん組織のサンプルを、Nはテンプレートなしのネガティブコントロールサンプル、MはDNA ladderのマーカーを表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、スプライシングバリアントとは、ゲノムDNAの一次転写産物である不均質核内RNA(hnRNA)から、イントロンを切除し、エクソン配列を連結して最終的なmRNA分子を形成するスプライシング過程において、複数のそれぞれ異なるパターンのスプライシングが起こることにより産生される、同じゲノムDNAの一次転写産物由来でありながら塩基配列がそれぞれ異なるmRNA、その逆転写物である塩基配列がそれぞれ異なるcDNA、及びそれらの翻訳産物であるアミノ酸配列がそれぞれ異なるタンパク質を意味する。本発明において、スプライシングバリアントのmRNAやcDNA、タンパク質と区別するために、従来知られた遺伝子のmRNAやcDNA、タンパク質を、それぞれ、基本的mRNA、基本的cDNA、基本的タンパク質等と記載することもある。ある遺伝子のスプライスバリアントのmRNAは、その遺伝子の基本的mRNAとは異なるエクソン・イントロン配列構造や、異なる転写開始位置をもつこともある。そのためスプライシングバリアントmRNAからは、遺伝子の基本的cDNAとは異なる塩基配列のcDNAが逆転写され、基本的タンパク質とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質が翻訳される。上記スプライシングバリアントmRNAは、上記スプライシングバリアントタンパク質の製造やスプライシングバリアントmRNAのアンチセンス鎖からなるスプライシングバリアント検出用プローブの作製に有用であり、上記スプライシングバリアントcDNAは上記スプライシングバリアントタンパク質の製造やスプライシングバリアント検出用プライマーセットの作製に有用であり、上記スプライシングバリアントタンパク質は、スプライシングバリアント検出用抗体作製用の抗原として有用である。
【0018】
本発明の細胞の性質に関与するスプライシングバリアントのスクリーニング方法としては、
(a)性質が異なる2種類の細胞において発現しているmRNAを検出し、2種類の細胞間で発現量に有意差がある遺伝子名を同定する工程;
(b)前記2種類の細胞において発現しているタンパク質を検出し、その遺伝子名を同定する工程;
(c)工程(a)で同定され、かつ工程(b)で同定された遺伝子を、一次候補遺伝子として選択する工程;
(d)前記2種類の細胞間で、一次候補遺伝子の部分領域のmRNA発現量を比較し、一部の部分領域の発現量に有意差がある遺伝子を、二次候補遺伝子として選択する工程;
(e)二次候補遺伝子のmRNAのシークエンシングを行い、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントの塩基配列を同定する工程;
(f)工程(e)で同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、工程(b)において検出されたタンパク質を、スプライシングバリアントタンパク質として同定する工程;
の工程(a)〜(f)を備えた方法であれば特に制限されず、使用する細胞を適宜変更することで、様々な細胞の性質に関与するスプライシングバリアントや、細胞の種類や疾患のマーカーとなるスプライシングバリアントを同定することができる。本発明において「細胞の性質」とは、複数の細胞の特徴を比較することによって見いだすことができる特徴であればよく、細胞の形態的、物理的、生物学的な特徴を挙げることができる。細胞の形態的特長としては、細胞の形や大きさ等を挙げることができ、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡等の光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などを利用した観察により見いだすことができ、このとき細胞に適宜固定や染色等の処理を施してから観察することができる。また細胞の物理的な性質としては、細胞の大きさ、体積、質量、弾力性、細胞膜の透過性等の物理的な特徴を挙げることができる。また、細胞の物理的な性質は、例えば圧力、応力、引力、温度、浸透圧、塩濃度、光、湿度等の外部の物理的刺激に対する細胞の耐性や応答性とすることもでき、かかる耐性や応答性などは、物理的刺激の有無による、細胞の物理的な特徴の変化や、生存率、成長率、代謝の速度や効率、適当な細胞シグナル経路の活性化などの変化を調べることにより評価することができる。細胞の生物学的特長としては、細胞の増殖速度や走向性や移動性、増殖因子などサイトカイン刺激に対する応答性、免疫応答性、細菌やウイルスの感染に対する応答性、遺伝子発現やタンパク質発現などを挙げることができ、これらは、免疫染色法やレポーターアッセイ法等、細胞生物学、分子生物学、遺伝学等の分野の常法によって調べることができる。また、細胞の性質としては疾患等により引き起こされた、正常細胞とは異なる細胞の特徴、例えば正常細胞と疾患細胞、正常細胞とがん細胞を比較することにより見いだされる特徴を挙げることができ、かかる疾患としては細菌やウイルスの感染による外因性のものや、内因性のものを挙げることができる。また、例えば、胃がん細胞の転移性という細胞の性質に着目した場合は、胃がん細胞MKN45及び転移性の胃がん細胞MKN45Pを使用することにより、胃がんの転移性に関与するスプライシングバリアントをスクリーニングすることができ、同様にして、2種類の細胞の種類や性質等の差異に関与するスプライシングバリアントをスクリーニングすることができる。ここで、細胞とは、細胞株でも、初代培養細胞でも、生体の体液から採取された細胞でも、生体の組織等から採取された細胞等でもよく、その由来としてはヒト、サル、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、トリ、ウサギ、ラット、ハムスター、マウス、魚等を挙げることができ、好ましくはヒト由来の細胞を挙げることができる。また、ヒト由来の性質が異なる2種類の細胞や、物理的、化学的又は生物的に異なる環境にさらされた2種類の細胞や、ヒトから採取された疾患組織由来の細胞及び正常組織由来の細胞や、健常人から採取された細胞及び患者から採取された細胞などを例示することができる。的確に2種類の細胞の性質等の差異に関するスプライシングバリアントを同定するためには、これら2種類の細胞のバックグラウンドや、目的の性質以外の性質は似ていることが好ましい。
【0019】
また、本発明のスクリーニング方法の工程(a)は、mRNAを検出し、2種類の細胞間で発現量に有意差がある遺伝子名を同定することができる方法を用いた工程である限りは特に制限されず、RT−PCR法やリアルタイムPCR法によりmRNAを増幅してシークエンシグを行うことによりmRNAを検出し、発現量を調べ、データベースを参照して遺伝子名の同定を行うこともできるが、多量のサンプルを短時間で扱うことができる、DNAアレイを使用する方法が好ましい。また、SOLEXA、SOLiD、454 GS FLX、HeliScope、SMRT及びION PGMなどの次世代シーケンサーを用いても構わない。DNAアレイとしては、遺伝子の各エクソンやイントロンの発現パターン変化を見いだすのに優れているエクソンアレイや、発現量を比較的正確に反映することができる、cDNAマイクロアレイを挙げることができ、好ましくはエクソンアレイ又はcDNAマイクロアレイを使用する方法、さらに好ましくはエクソンアレイ及びcDNAマイクロアレイを併用する方法を例示することができる。cDNAマイクロアレイを用いた解析により、精度よく2種類の細胞における発現量の差を有意に調べることができ、発現量における有意差としては、発現量の差が好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.5倍以上、最も好ましくは2倍以上を挙げることができる。cDNAマイクロアレイによって2種類の細胞間の発現量における有意差が確認された遺伝子に絞ってエクソンアレイ解析を行うことで、スクリーニングの確実性を上げることができる。また、さらに必要に応じてmRNAやそのエクソンの発現量の定量解析を、定量PCR法などの他の方法と組み合わせて行うこともできる。mRNAの調製方法やDNAアレイのアッセイ条件、検出方法、データの解析方法等は適宜選択することができ、前記エクソンアレイやcDNAマイクロアレイは市販品を入手し(例えば、Affymetrix社製やAgilent社製)、手引きに従って解析を行うことができる。
【0020】
本発明のスクリーニング方法の工程(b)は、タンパク質を検出し、その遺伝子名を同定することができる方法を用いた工程であれば特に制限されず、質量分析計を用いて細胞から抽出したタンパク質を解析し、タンパク質を同定する方法を好適に例示することができる。かかる質量分析計としては特に制限されず、イオン源としてEI法、CI法、FD法、FAB法、MALDI法、ESI法などを使用することができ、分析部として磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間(TOF)型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型などの方法を適宜選択することができる。また、2以上の質量分析法を組み合わせたタンデム型質量分析(MS/MS)を使用することも、試料を質量分析計へ導入する前に液体クロマトグラフ(LC)やHPLCの工程を経ることもでき、検出部やデータ処理方法も適宜選択することができ、中でもLC−MS/MSを使用する方法を好適に例示することができる。
【0021】
上記工程(a)で同定され、かつ工程(b)で同定された遺伝子を、一次候補遺伝子として選択する工程(c)の次工程である、本発明のスクリーニング方法の工程(d)は、前記2種類の細胞間で、一次候補遺伝子の部分領域のmRNA発現量を比較し、一部の部分領域の発現量に有意差がある遺伝子を、二次候補遺伝子として選択する工程であれば特に制限されず、ここで部分領域とは、一次候補遺伝子の塩基配列を複数個に分割することにより得られる領域であり、ゲノム上の各エクソン及び各イントロンを各部分領域とすることもできる。一次候補遺伝子の部分領域のmRNA発現量の測定は、リアルタイムPCRや定量PCR及び次世代シーケンサーで行うこともでき、好ましくはエクソンアレイ解析によって行う例を挙げることができる。基本的mRNA以外にスプライシングバリアントmRNAが発現している場合には、遺伝子の部分領域のmRNA発現量は一定せずそれぞれ異なると考えられ、特に、2種類の細胞間で発現量に有意差がある部分領域が一部存在する場合には、基本的mRNAの他、前記2種類の細胞間で発現量に差があるスプライシングバリアントmRNAが発現していることを示唆する。
【0022】
また、本発明のスクリーニング方法の工程(e)は、細胞において発現している二次候補遺伝子のmRNAのシークエンシングを行う工程であれば特に制限されず、二次候補遺伝子のmRNAのシークエンシングは常法で行うことができ、サンガー法の原理による、蛍光標識ジデオキシリボヌクレオチド三リン酸を使用するシークエンシング方法を例示することができる。シークエンシングのリアクション反応は、細胞から抽出したmRNA自体をテンプレートとすることも、かかるmRNAを逆転写したcDNAをテンプレートとすることもでき、2種類の細胞の一方、又は好ましくは両方から抽出したサンプルにおける、二次候補遺伝子のmRNAのシークエンシングを行うことができる。また、シークエンシングに使用するプライマーは、二次候補遺伝子のゲノム塩基配列や、ゲノム上の二次候補遺伝子近傍領域の塩基配列や、二次候補遺伝子の基本的mRNAや基本的cDNAの塩基配列に基づいて、適宜設計することができる。シークエンシングにより、基本的mRNAの塩基配列と異なる塩基配列であるスプライシングバリアントの塩基配列を同定することができ、かかる塩基配列を、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)及びEnSembl(http://www.ensembl.org/)などの適当なデータベースに参照することにより、既知のスプライシングバリアントであるか、新規のスプライシングバリアントであるか、または予測されているスプライシングバリアントであるか調べることができる。さらに、前記2細胞におけるスプライシングバリアントの発現量を調べ、これらの発現量に有意差がある場合、かかるスプライシングバリアントを、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントとして同定することができる。スプライシングバリアントの発現量の測定方法は特に制限されず、RT−PCR法やリアルタイムPCR法、定量PCR法などを挙げることができる。これらのPCR法で使用するプライマーはスプライシングバリアントの塩基配列から適宜設計することができ、スプライシングバリアントのみを増幅するよう設計されたプライマーや、スプライシングバリアントmRNAをテンプレートとして増幅されるPCR増幅産物が、基本的mRNAをテンプレートとして増幅されるPCR増幅産物のサイズと異なるよう設計されたプライマーであることが好ましい。
【0023】
また、本発明のスクリーニング方法の工程(f)は、工程(e)で同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、工程(b)において検出されたタンパク質を、スプライシングバリアントタンパク質として同定する工程であればよく、スプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質が、細胞において実際に発現していることを確認できればよい。また、工程(b)とは別に、同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質が細胞において実際に発現していることを確認してもよく、同定したスプライシングバリアントの塩基配列から予想されるスプライシングバリアントタンパク質を特異的に認識することができる抗体がある場合は、かかる抗体を用いて細胞可溶化液をウェスタンブロッティングで解析して、細胞におけるスプライシングバリアントタンパク質の発現を確認することもできる。しかしながら、特異的な抗体を入手することができないことが多いことや、取得したデータの有効利用や作業効率の観点から、工程(e)で同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質の全部又は一部が、工程(b)において検出されたタンパク質に含まれることを確認する方法が好ましく、以下の質量分析法を使用した方法を好適に例示することができる。すなわち、工程(b)において、細胞から抽出したタンパク質を質量分析計で解析し、得られたピークリストファイルを、例えばMASCOT MS/MS ion search(www.matrixscience.com)やX! Tandem(www.thegpm.org)ソフトウェアを用いて入手可能な適当なデータセットで解析し、発現しているタンパク質の部分配列とその遺伝子名を同定する。そして、工程(f)においては工程(e)で同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列を含む、自作のデータセットを用いて、MASCOT MS/MS ion searchなどで、工程(b)における質量分析計を用いた解析で取得した全ピークリストファイルを再検索することにより、ピークリストファイルにおけるスプライシングバリアントタンパク質由来のペプチドのピークを同定し、スプライシングバリアントタンパク質が発現していることを確認することができる。
【0024】
本発明のスプライシングバリアント核酸としては、前記本発明のスクリーニング方法によって同定されたALDOC(aldolase C, fructose-bisphosphate;アクセッション番号NM_005165)のスプライシングバリアント核酸を挙げることができ、具体的には配列番号1に示される塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント4a核酸や、配列番号2に示される塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント4b核酸や、配列番号3に示される塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント4d核酸の、一部又は全部を挙げることができ、これらの塩基酸配列と90%以上の配列相同性を有する塩基酸配列からなるALDOCスプライシングバリアント核酸を挙げることができる。また、ALDOCスプライシングバリアント4aの塩基配列としては、配列番号1に示される塩基配列における塩基番号288番目のグアニン(G)がアデニン(A)に置換されたG288Aや、塩基番号127番目のチミン(T)がシトシン(C)に置換されたT127Cなどの一塩基多型(SNP)を含む塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント4a核酸も例示することができる。また、ALDOCスプライシングバリアント4bの塩基配列としては、配列番号2に示される塩基配列におけるA469G、A931G、T458C、A841CなどのSNPを含む塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント4b核酸を例示することができる。これらの核酸は、DNAだけでなく、DNA塩基配列のチミンがウラシルである、RNAであってもよく、PCR法等を用いてクローニングして得ることも、人工的に化学合成して作製することができ、メチル化などの修飾や蛍光物質などの標識物質や安定同位体などにより標識されていてもよい。
【0025】
本発明のスプライシングバリアントタンパク質としては、前記スプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができ、具体的には配列番号4〜14で示されるアミノ酸配列の一部又は全部を含むスプライシングバリアントタンパク質を例示することができ、前記アミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列からなるALDOCスプライシングバリアントタンパク質であってもよい。これら本発明のスプライシングバリアントタンパク質は、スプライシングバリアントの塩基配列DNAを組み込んだ発現ベクターで大腸菌や細胞を形質転換し、タンパク質を発現させる遺伝子工学的手法や、人工化学合成の手法により作製することができ、糖化、リン酸化等の修飾を受けてもよく、また蛍光物質などの標識物質や安定同位体により標識されていてもよく、ヒスチジンタグやGSTタグ、FLAGタグ、HAタグなどのタグが融合したタンパク質であってもよい。
【0026】
本発明のALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出する抗体としては、ALDOCスプライシングバリアント4a、ALDOCスプライシングバリアント4b、及び/又はALDOCスプライシングバリアント4cタンパク質を特異的に検出することができる抗体であればよく、前記スプライシングバリアントタンパク質の一部又は全部は抗原として用いることができる。ALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出するためには、基本的なALDOCタンパク質とは異なるアミノ酸配列である部分を抗原として使用することが好ましく、また他に適宜クライテリアを設けて抗原とするALDOCスプライシングバリアントタンパク質の領域を選択することができる。かかる抗原は、スプライシングバリアントタンパク質の抗原領域の塩基配列からなるDNAを組み込んだ発現ベクターで大腸菌や細胞を形質転換し、抗原タンパク質を発現させることにより得ることができ、GSTなどのタグを付加したタンパク質とすることもできる。抗原タンパク質はアフィニティーカラムや塩析などの常法で精製することもでき、かかる抗原をマウスやウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の実験動物に1〜複数回、1〜10日ごとに注射して免疫することにより、実験動物体内でALDOCスプライシングバリアントタンパク質に対する抗体を産生させることができる。かかる抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体として、免疫した動物の血中あるいは、かかる動物由来の抗体産生ハイブリドーマの培養上清等から回収することができる。
【0027】
本発明のALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマーとしては、前記ALDOCスプライシングバリアント核酸とハイブリダイズし、PCR反応において反応産物を得ることができる限り特に制限されず、基本的mRNAやcDNAをテンプレートとして得られる増幅産物とスプライシングバリアントmRNAやcDNAをテンプレートとして得られる増幅産物のサイズが異なることが好ましく、あるいは基本的及びスプライシングバリアントmRNAやcDNAが混在するサンプルを用いても、スプライシングバリアントをテンプレートとした増幅産物のみが得られることが好ましい。具体的には、配列番号15〜22で示される塩基配列からなる、ALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマーを例示することができる。これらのプライマーは、PCR反応が損なわれない限り一部の塩基が置換、削除又は任意の塩基が挿入、付加されていてもよい。また、本発明のプライマーは標識物質により適宜標識されていてもよく、標識物質としては、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質を挙げることができる。前記ALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出する抗体や、ALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマーは、胃がんの判定用キットとして提供することもできる。本発明の胃がんの判定用キットとしては、本発明のALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出する抗体や本発明のALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマーを備えたキットであれば特に制限されず、他にPCR酵素、バッファーや洗浄液、検出用試薬、コントロール用サンプルや反応用容器等を備えていてもよい。
【0028】
本発明の胃がんの判定方法としては、
(A)試料におけるALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bの発現量を測定する工程;
(B)工程(A)の発現量がコントロールと比較して高い場合、胃がんと判定する工程;
の工程(A)及び(B)を備えていれば特に制限されず、通常医師による診断行為は除かれる。また、実施の一形態として工程(A)及び(B)を備えた胃がんの診断のためのデータを収集する方法を例示することもできる。工程(A)において測定するスプライシングバリアントは、本発明のスプライシングバリアント核酸や、本発明のスプライシングバリアントタンパク質を挙げることができる。ALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bのいずれか一方でも、両方でもよく、また測定対象はスプライシングバリアントのmRNAでもタンパク質でも、その両方でもよい。本発明の胃がんの判定方法は、前記工程(A)及び(B)に加え、
(C)試料におけるALDOCスプライシングバリアント4a発現量とALDOCスプライシングバリアント4b発現量を比較する工程;
(D)ALDOCスプライシングバリアント4bの発現量がALDOCスプライシングバリアント4a発現量より高い場合、転移性胃がんと評価する工程;
の工程(C)及び(D)を加えて転移性胃がんの判定方法とすることもできる。かかる転移性胃がんの判定方法は、工程(A)〜(D)を備えた転移性胃がんの判定方法であれば特に制限されず、通常医師による診断行為は除かれる。工程(C)において比較するスプライシングバリアントとしては、本発明のスプライシングバリアント核酸や、本発明のスプライシングバリアントタンパク質を挙げることができ、測定対象はmRNAでもタンパク質でも、その両方でもよい。また、実施の一形態として工程(A)〜(D)を備えた転移性胃がんの診断のためのデータを収集する方法を例示することもでき、胃がん治療法の選択に利用可能なデータを提供することができる。
【0029】
本発明の胃がんの判定方法において、スプライシングバリアントタンパク質を測定する方法としては、質量分析法を用いることも、前記ALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出する抗体を用いて、ELISA法や、免疫染色法や、ウエスタンブロット法等を用いることも、前記胃がんの判定用キットを用いることもできる。また、スプライシングバリアント核酸を測定する方法としては、適宜設計したプライマーやプローブや、前記ALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマーを用いて、RNA−FISH法や、RT−PCR法や、ノーザンブロット法等により検出することも、市販のエクソンアレイやcDNAマイクロアレイを用いて検出することもでき、前記胃がんの判定用キットを用いることもできる。また、工程(B)のコントロールのALDOCスプライシングバリアントの発現量としては、試料と同条件にて測定された正常サンプルにおけるALDOCスプライシングバリアントの発現量であることが好ましく、試料と同時に測定された発現量でも、試料と別途測定され、判断基準とされたコントロール発現量でもよい。また、「発現量がコントロールと比較して高い場合」としては、試料中のスプライシングバリアントの発現量が、コントロールの2倍以上、好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上を例示することができる。工程(D)の「ALDOCスプライシングバリアント4bの発現量がALDOCスプライシングバリアント4a発現量より高い場合」としては、ALDOCスプライシングバリアント4bの発現量が、ALDOCスプライシングバリアント4aの2倍以上、好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上を例示することができる。
【0030】
本発明おける試料としては、被検者から採取された生体試料であればよく、すなわち組織、細胞、血液、便などであっても、これらの試料由来の培養細胞などであってもよく、また、被検者から手術等により切除した胃組織などを挙げることができ、これらは適宜防カビ剤や防腐剤の添加、ホルマリン処理などの保存処理を施されていてもよい。あるいは手術等により切除したリンパ節組織や、生検などによりリンパ節から採取された複数のリンパ節細胞用いることにより、原発巣からこのリンパ節組織にがん細胞が転移しているか否かを判定することもできる。
【0031】
本発明の胃がん予防・治療剤としては、ALDOCスプライシングバリアント4a及び/又はALDOCスプライシングバリアント4bの、核酸及び/又はタンパク質を阻害するものであれば特に制限されず、ALDOCスプライシングバリアント4cやALDOCスプライシングバリアント4dの核酸又はタンパク質も合わせて阻害してもよく、またこれらのスプライシングバリアントの核酸及びタンパク質を同時に又は順次阻害してもよい。ALDOCスプライシングバリアント核酸を阻害する方法としては、ALDOCスプライシングバリアントのmRNAと相補的な配列からなる、アンチセンスRNA又はアンチセンスDNAや、si(short interfering)RNA及びmi(micro)RNAを使用する方法挙げることができ、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAやsiRNA及びmiRNAがターゲットとする配列の選択、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAやsiRNA及びmiRNAの設計等は常法により行うことができ、またこれらは適宜標識物質などで標識されていてもよい。また、ALDOCスプライシングバリアントタンパク質を阻害する方法としては、ALDOCスプライシングバリアントタンパク質に対する特異的抗体を使用する方法を挙げることができ、ALDOCスプライシングバリアントタンパク質とその特異的抗体が結合することにより、ALDOCスプライシングバリアントタンパク質と他のタンパク質などの因子との相互作用が阻害され、ALDOCスプライシングバリアントタンパク質の機能を阻害することができる。
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
〔スクリーニング〕
ヒト胃がん細胞株MKN45及び、その分化株である高転移ヒト胃がん細胞株MKN45Pの間の、転移に関与する選択的スプライシングのバリエーションを調べるために、トランスクリプトーム解析及びプロテオーム解析の2種の独立したアッセイ系を使用したスクリーニングを行った(図1)。
(細胞及びtotal RNA)
実施例において使用した細胞は次の通りである。MKN45、AZ−521、KATOIII、MKN74細胞はJCRBバンク(Japanese Collection of Research Bioresources)より、SNU1、SNU16、Hs746T細胞はATCC(American Type Culture Collection)より、AGS細胞は大日本住友製薬株式会社より購入した。MKN45P、AZ−P7a細胞株はYonemura Yutaka博士及びEndo Yoshio博士より提供された。これらの細胞株は、10%FBS、グルタミン(0.3mg/ml)、ペニシリン(100Unit/ml)、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)を含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)にて、5%COインキュベーターで培養した。
【0034】
1.トランスクリプトーム解析
エクソンマイクロアレイHuman Exon 1.0 ST array及びcDNAマイクロアレイWhole Human Genome Oligo Microarrayを用いてMKN45及びMKN45Pにおいて発現している転写産物を以下に示す方法で調べ、両アレイにおいてそれぞれの基準を満たした、転移に関与するスプライシングバリアントに関する1083遺伝子を抽出した。
(cDNAマイクロアレイ)
RNeasy Plus Mini Kit(キアゲン社製)を用いて、MKN45P及びMKN45細胞からtotal RNAを抽出した。このRNA濃度をNanoDrop spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific社製)で測定し、精製度はAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies社製)で確認した。mRNA発現プロファイリング解析のために、500ngのtotal RNAをQuick Amp Labeling Kit(Agilent Technologies社製)で増幅し蛍光標識した。蛍光標識されたサンプルをWhole Human Genome amicroarrays(4×44K、Agilent Technology社製)にハイブリダイズさせ、マイクロアレイスライドを洗浄後、DNA Microarray Scanner(Agilent Technologies社製)でスキャンし画像を読み取った。スキャン画像はAgilent Feature Extraction software(Agilent Technologies社製)を用いて解析し、データ解析はGeneSpring GX software(Agilent Technologies社製)で行った。全サンプルは、コントロールサンプルの中央値で標準化した。標準化したデータはt検定で調べた。補正なしのP値が0.05未満かつ、MKN45細胞と比較してMKD45P細胞において2倍以上mRNA発現が増加することが、転移に関与した遺伝子発現に有意なものとした。その結果、予測転写物を含む、1533遺伝子がこの判断基準に合致した。
【0035】
(エクソンマイクロアレイ)
MKN45P及びMKN45細胞から抽出したtotal RNAはさらにIVT cRNA Cleanup Kit(Affymetrix社製)を用いて精製し、精製度はAgilent 2100 Bioanalyzerで確認した。精製したtotal RNAはGeneChip(登録商標) Whole Transcript (WT) Sense Target Labeling Assay(Affymetrix社製)で増幅し標識した。標識されたサンプルをHuman Exon 1.0 ST Array(Affymetrix社製)に16時間ハイブリダイズさせた後、GeneChip(登録商標) Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)でスキャンした。エクソンパターンを解析するため、エクソンマクロアレイの生データをPartek Genomics Suite Software(Partek社製)を用いて解析した。プローブセット標準化はRMA(Robust Multi-Chip Average)を用いて行い、これにはバックグラウンド補正、quantile normalization、log2-transformationや、median polish probe set summarizationも含まれる。全プローブセットがスプライシングパターン解析に用いられた。各エクソン、個別遺伝子の発現レベルは、Partek社製ソフトウェアのAlt−Splice ANOVA(Alternative splice analysis of variance)を用いて解析した。補正なしのP値が0.05未満であることが、選択的スプライシング現象に有意なものとした。スプライシングインデックス(SI)を全プローブセットに対して計算した(SI=log(プローブセット強度/転写発現レベル))結果、予測転写物を含む、26449遺伝子がこの判断基準に合致した。
【0036】
2.プロテオーム解析
HPLCシステムを使用したタンパク質分画によって、プロテオーム解析を以下に示す方法で行った。分画されたタンパク質はトリプシン処理し、information-based acquisition技術(Ito, S., et al., J. Chromatogr. A2004, 1051, 19-23)を利用したnano-flow LC−ESI linear ion trap-TOF質量分析計で解析した。その結果、240タンパク質をMKN45細胞及びMKN45P細胞のそれぞれ、又は両細胞から同定した。
(タンパク質抽出及び消化)
MKN45P及びMKN45細胞はTrypsin-EDTA(インビトロジェン社製)を用いて回収し、PBS(pH7.4)で2回洗浄した。上清を除去した後、細胞ペレットはlysis buffer(7.5M urea、2.5M thiourea、12.5% glycerol、50mM Tris、2.5% n-octyl-β-D-glucoside、6.25mM TCEP、1.25mM protease inhibotor)を用いて4℃で60分間インキュベートし、lysateを作製した。lysateを15,000gで30分間遠心操作を行い、上清を回収しタンパク質抽出液とした。このタンパク質抽出液中のタンパク質濃度はBradfordタンパク質アッセイにより調べた。タンパク質抽出液を脱塩した後、250mm×4.6mm Intrada WP-RP(3μm粒子と30nm穴サイズ、Imtakt社製)を使用したAgilent 1200 HPLC system(Agilent technologies社製)を用いて分画した。500μlのタンパク質抽出液(40μl/ml)を移動相A(0.1%TFA/水)/移動相B(0.08%TFA/アセトニトリル)グラジエントにロードした。移動相Bのグラジエントプロフィールは次の通りである;0.75ml/分により30分間で0−100%、5分間で100%。タンパク質抽出液の分画のために、溶出過程をモニターし、0.25分ごとに溶出液を96wellプレート(Nunc社製)に回収した。タンパク質抽出液は2回ロードし(2×500μl)、溶出液を96wellプレート(Nunc社製)に回収した。回収した分画はSpeedVac(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて濃縮し、50mM ammonium bicarbonateに溶解した。最後に、トリプシン消化を最終濃度8.3μg/mlにて37℃で18時間行った。
【0037】
(質量分析法による解析)
トリプシン消化物をZipTipμ-C18(Millipore社製)で脱塩し、SpeedVacを用いて濃縮した後、0.1% formic acidに溶解し10〜12μlとした。各サンプルはNano-flow LC−ESI LIT−TOF mass spectrometer(NanoFrontier L、Hitachi Hith-Technologies社製)を用いて、LC−MS/MSにより解析した。溶解した消化物は、0.05mm×150mm Monolith Trap C18-50-150(Hitachi Hith-Technologies社製)を介して0.05mm×150mm MonoCap for Fast-flow(GL science社製)に注入し、ペプチドを溶媒A(0.1%formic acid及び2%acetonitrile/水)/溶媒B(0.1%formic acid及び2%水/acetonitrile)グラジエントを用いて分画した。溶媒Bのグラジエントプロフィールは次の通りである;200nl/分により120分間で2−40%、10分間で95%。各分画のLC−MS/MS解析は、duplicateで行った。上記の実験は、2度繰り返し行った。
【0038】
(データ解析)
LC−ESI生データはNanoFrontier L Data Processing(Hitachi Hith-Technologies社製)によってさまざまなピークリストファイルに変換した。タンパク質を同定するために、このピークリストファイルをMASCOT MS/MS ion search(www.matrixscience.com)及びX! Tandem(www.thegpm.org)ソフトウェアに供した。ペプチド配列アノテーションには、以下のパラメーターと共にSwissProt database of Homo sapiens (human)を使用した:酵素、トリプシン又はなし(自作のデータセットを使用したときのみ);最大誤切断数、1;peptide tolerance、0.2Da;MS/MS tolerance、0.2Da;可変修飾、メチオニン酸化;ペプチド電荷、(1+、2+及び3+)。信頼性レベル95%以下のMASCOT閾値スコアで、かつ同定されたペプチド数が2より少ない同定されたタンパク質は全てScaffold software(Proteome Software社製)によってタンパク質リストから除外された。MKN45P細胞及びMKN45細胞において同定されたタンパク質のリストを表1〜表5に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
以上の結果のうち、トランスクリプトーム解析で抽出された1083遺伝子の中で、プロテオーム解析によりタンパク質の存在が確認された遺伝子は、ALDOC(ALDOC_HUMAN、Fructose-bisphosphate aldolase C、アクセッション番号P09972)、PDIA3(PDIA3_HUMAN、Protein disulfide-isomerase A3 precursor、アクセッション番号P30101)、LMNA(LMNA_HUMAN、Lamin-A/C、アクセッション番号P02545)であった。すなわち、ALDOC(aldolase C, fructose-bisphosphate)、PDIA3(protein disulfide isomerase family A,member 3)、LMNA(lamin A/C)を一次候補遺伝子として同定した(表6)。
【0045】
【表6】

【0046】
〔一次候補遺伝子のスプライシングパターン解析〕
これら3つの一次候補遺伝子(ALDOC、PDIA3、LMNA)の選択的スプライシングパターンを評価するために、個別のエクソン及びイントロンに相当する局所的な発現レベルのシグナルをthe Partek Genomics Suite software(Partek社製)を用いて可視化した(図2)。Exon 1.0 ST Arrayのプローブセットは、既知のエクソン・イントロンだけでなく、アブイニシオ遺伝子予測により予測される転写産物をコードすると予測される遺伝子領域をもカバーする。そのため、このマイクロアレイを用いて、知られていない選択的スプライシングを調べることができる。ALDOCについては、MKN45細胞よりもMKN45P細胞において、エクソン8及び9をカバーするプローブ番号5−7やエクソン3、5及び6をカバーするプローブ番号9−11の領域の発現レベルが高かった。PDIA3においては、同様に、MKN45P細胞におけるプローブ番号12によりエクソン13の領域の高発現が検出された。その一方で、MKN45細胞及びMKN45P細胞におけるLMNA遺伝子の各エクソン領域の発現レベルに顕著な違いは見られなかった。これらの結果はALDOC及びPDIA3遺伝子に新規のスプライシングバリアントが存在することを示唆する。なお、ALDOCのプローブ番号5領域及びLMNAのプローブ番号33及び35領域は、使用したcDNAマクロアレイでも同じ領域にプローブが位置している(図2中、黒いバーで示す)。
【0047】
〔ALDOC遺伝子のmRNA及びタンパク質発現レベルの検証〕
以上の結果より、ALDOC及びPDIA3遺伝子のタンパク質及びmRNAの存在、スプライシングパターンの変化が明らかになった。ALDOC遺伝子はMKN45Pにおいて高く発現すること、またそのスプライシングパターンがPDIA3と比較して変化が大きかった。そのため、ALDOC遺伝子を二次候補遺伝子として選択し、以降ALDOC遺伝子に着目し、そのmRNA発現レベルをRT−PCT及びリアルタイムPCRによって、またそのコードされたALDOCタンパク質をイムノブロッティングにより検証した。
【0048】
(RT−PCR及びリアルタイムPCR、シークエンシング解析)
前記の方法で採取し精製したtotal RNAをThermoScript Reverse transcriptase(インビトロジェン社製)及びoligo(dT)20プライマーを用いて、ThermoScript RT-PCR System(インビトロジェン社製)の手順により逆転写反応を行った。RT−PCR解析には、LA Taq polymerase(タカラバイオ社製)を用いて、PCRサイクル(95℃30秒間、60℃30秒間、68度2分間)を35サイクル行い、cDNAを合成した。使用したプライマーを表7に示す。ALDOC遺伝子は1317塩基対が増幅される、エクソン1及びエクソン9に位置するコーディング領域のプライマー(配列番号21及び22)を用いて増幅し、ALDOCスプライシングバリアントについてはエクソン1a及びエクソン5に位置する特異的プライマー(配列番号15及び16)用いた。コントロールとして、TUBA4A(Tubulin α4a)を用いた(プライマー;5'-CCGGGCAGTTTTTGTGGAT-3'、5'-GGGCCATTTCGGATCTCAT-3')。PCR産物は、1−2%アガロースゲルを用いた電気泳動とSYBR Safe(インビトロジェン社製)により解析した。DNAシークエンシングには、ウルトラバイオレットにより可視化されたバンドを単離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製し、この精製したサンプルを、TOPO TA Cloning Kit for Sequencing(インビトロジェン社製)を用いてpCR 2.1-TOPO vector(インビトロジェン社製)にクローニングした。Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)及びABI 3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)を用いてポジティブ形質転換体のシークエンスを確認した。リアルタイムPCRは、ABI PRISM 7900HT Fast Real Time PCR Systems(Applied Biosystems社製)を用いてSYBR Green dye技術によって行った。合成したcDNAにおけるターゲットフラグメントは表7に示す特異的プライマー、配列番号17〜20、23及び24を用いてを用いて、以下のプロトコールで行った:95℃で15秒間preheatingした後、PCRサイクル(95℃1秒間及び60℃30秒間、95℃15秒間融解、60℃15秒間、95℃15秒間)を40サイクル。
【0049】
【表7】

【0050】
(イムノブロッティング)
前記プロテオーム解析の方法で定量したライセートを、常法により12%ポリアクリルゲルにより一次元SDS−PAGE(10μgのライセートタンパク質/well)を行い、PVDF膜(Millipore社製)へ電圧により転写した。この転写物は抗ALDOCヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)又は抗TUBA4Aウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)の一次抗体と反応させ、それぞれHRP(horseradish peroxidase)標識抗ヤギIgG二次抗体又はHRP標識抗ウサギIgG二次抗体(Jackson Laboratories社製)と反応させた。ECL Plus Western Blotting Detection System(GE Healthcare社製)及びFUJIFILM Luminescent Image Analyzer LAS3000(フジフイルム社製)で可視化した。相対的なタンパク質の発現レベルは、ImageJ(http://rsbweb.nih.gov/ij/)を用いて測定した。
【0051】
イムノブロッティングの結果から、ALDOC遺伝子の理論上の発現タンパク質分子量(40kDa)のシグナルが確認され、MKN45細胞及びMKN45P細胞においてタンパク質発現量に顕著な違いがないことが確認された。リアルタイムPCRの結果からは、MKN45細胞と比べて、MKN45P細胞においてALDOC遺伝子のmRNA発現量は著しく高いことがわかった(図3)。
【0052】
〔ALDOC遺伝子の選択的スプライシングバリアント4a及び4bの同定〕
ALDOC遺伝子の予想された選択的スプライシング現象を、DNAシークエンシグ及び、RT−PCR解析により上記の方法で検証した。MKN45P細胞において2種の新規スプライシングバリアント、ALDOCスプライシングバリアント4a及びALDOCスプライシングバリアント4bを同定した。EnSemble及びHavana models(http://www.ensembl.org/)により、ALDOC遺伝子はALDOC−004と名づけられたスプライシングバリアントを産生することが予測されていたが、これらALDOCスプライシングバリアント4a及びALDOCスプライシングバリアント4bとは異なっており、ALDOCスプライシングバリアント4a及びALDOCスプライシングバリアント4bは新規のスプライシングバリアントであった。なお、MKN45細胞及びMKN45P細胞においてALDOC−004の発現は認められなかった。バリアント4aは5エクソンからなり、最初のエクソン(エクソン1a)は既知のALDOC遺伝子転写産物(アクセッション番号NP_005165)におけるイントロン由来であり、エクソン2−4は基本的ALDOC遺伝子mRNAと同じであり、5番目のエクソン(エクソン5a)は基本的ALDOC遺伝子mRNA(アクセッション番号NP_005165)のエクソン5の一部であった。ALDOCスプライシングバリアント4a及びALDOCスプライシングバリアント4bのエクソン1a及びエクソン2の間のイントロン領域(エクソン1a−ext)を含んでいた(図4)。
【0053】
スプライシングバリアントから翻訳されたタンパク質アイソフォームのペプチド断片を見いだすために、同定されたスプライシングバリアント配列を含む、自作のデータセットを用いて、MASCOT MS/MS ion searchで全ピークリストファイルを再検索した。自作のデータセットは、6つの読み枠を検索することにより、既知のALDOC遺伝子転写産物の配列の一部を含むアミノ酸配列をALDOCバリアントのアミノ酸配列として同定し、新規ALDOCバリアントのアミノ酸配列を含むデータセットとしてデザインした。自作データセットを用いたタンパク質検索のパラメーターは前記MS/MS解析と同様である。この自作データセットを使用し、正しくない読み枠から作成されたシュードシークエンスを除くために、既知のALDOCシーケンスと同じ読み枠から作成されたペプチド配列のみを許容した。その結果、バリアント4bのエクソン1a−ext由来のペプチド断片(GLMPRTAAL)をMKN45P細胞において同定した(図4)。また、エクソン4及びエクソン5由来のペプチド断片(VDKGVVPLAGTDGETTTQGLDGLSER及びGVVPLAGTDGETTTQGLDGLSER)をMKN45細胞及びMKN45P細胞において同定した。さらに、既知の転写産物及びバリアント4bのエクソン4−5の一部に相当するペプチド断片が、MKN45細胞及びMKN45P細胞において同定された。3つのペプチド断片が同定されたことにより、バリアント4bタンパク質の存在が強く示唆される。protein-protein BLAST検索によっても、利用可能なデータベースにおいて、同定されたペプチドを含む1a−extペプチド配列と高い相同性の配列は見出されなかった。
【0054】
〔胃細胞におけるALDOCスプライシングバリアント4a及び4bの発現〕
ALDOCスプライシングバリアントとがんの転移との関係を明らかにするために、他の胃がん細胞株(AGS,AZ−521,AZ−P7a,SNU1,SNU16,KATOIII,MKN74,Hs746T)並びに、ヒトの胃の正常組織及びがん組織における、(i)既知のALDOC遺伝子転写産物(アクセッション番号NM_005165)、(ii)ALDOCスプライシングバリアント4a、(iii)ALDOCスプライシングバリアント4bの発現レベルを調べた。KATOIII、MKN74、及びHs746Tは転移性組織由来の細胞株である。SNU1及びSNU16は未分化がんから樹立された細胞株であり、転移活性に関与するERBB2(HER2/neu)が過剰発現していることが知られている。またヒトの胃の正常組織及びがん組織のtotal RNAはClontech社より購入し、かかる胃がん組織は、77歳コーカサス人女性から単離された腺がんであり、リンパ節への転移が確認されたものである。上記(i)〜(iii)のRT−PCR増幅産物の電気泳動結果を図5上パネルに示す。また、リアルタイムRT−PCRを行い、正常胃組織における各スプライシングバリアントの発現量を1とした、各細胞及び組織における各スプライシングバリアントの発現量比を図5下のグラフに示す。標準偏差はトリプリケートのデータから算出した。
【0055】
RT−PCRの結果より、(i)既知のALDOC遺伝子転写産物(アクセッション番号NM_005165)及び(iii)ALDOCスプライシングバリアント4bは全ての胃がん細胞株、胃がん組織、胃正常組織において発現しているが、(ii)ALDOCスプライシングバリアント4aは細胞株及び組織において比較的発現量が低かった。ALDOCスプライシングバリアント4a及び4bを定量するために、リアルタイムRT−PCRを行ったところ、(iii)ALDOCスプライシングバリアント4bの発現レベルは10細胞株中7細胞株(MKN45P,AGS,SNU1,SNU16,KATOIII,MKN74,Hs746T)並びに、胃がん組織及び胃正常組織において特に高い発現が見られた。それに対し、(ii)ALDOCスプライシングバリアント4aは10細胞株中6細胞株(AGS,AZ−521,SNU1,SNU16,KATOIII,MKN74)及び胃がん組織において高い発現が見られた。中でも、SNU1、SNU16及び胃がん組織におけるALDOCスプライシングバリアント4a及び4bの発現量は、正常組織と比較して20倍以上であった。
【0056】
〔ALDOC遺伝子の選択的スプライシングバリアント4c及び4dの同定〕
胃の正常組織(A:Clontech社製)、正常組織(B:Biochain社製)、Adjacent normal tissue(C:Biochain社製)、がん組織(D:Clontech社製)、がん組織(E:Biochain社製)、がん組織(F:Biochain社製)、転移性がん組織(G:Biochain社製)のtotal RNAをテンプレートとし、プライマーα(配列番号15)及びプライマーγ(配列番号22)を用いて、RT−PCRを行った。Nはテンプレートなしのネガティブコントロールサンプル、MはDNAマーカーである。結果を図6に示す。ALDOC遺伝子の選択的スプライシングバリアント4c及び4dの発現が確認されたが、ALDOC遺伝子の選択的スプライシングバリアント4cの増幅は、ゲノムをテンプレートとした、ゲノム由来の増幅産物と考えられる。ALDOC遺伝子の選択的スプライシングバリアント4dは、N末端側、エクソン1aからエクソン5aの一部はALDOC遺伝子の選択的スプライシングバリアント4bと共通するものの、C末端側にエクソン6〜9を含む構造と考えられる。スプライシングバリアント4dはスプライシングバリアント4aや4bとは異なり、胃がん組織や転移性胃がん組織において高い発現は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、遺伝子解析の分野や、スプライシングバリアントのスクリーニングの分野や、疾患に関するスプライシングバリアントをスクリーニングする医療・研究の分野に好適に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)〜(f)を備えた、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントのスクリーニング方法。
(a)性質が異なる2種類の細胞において発現しているmRNAを検出し、2種類の細胞間で発現量に有意差があるmRNAの遺伝子名を同定する工程;
(b)前記2種類の細胞において発現しているタンパク質を検出し、その遺伝子名を同定する工程;
(c)工程(a)で同定され、かつ工程(b)で同定された遺伝子を、一次候補遺伝子として選択する工程;
(d)前記2種類の細胞間で一次候補遺伝子の部分領域のmRNA発現量を比較し、一部の部分領域の発現量に有意差がある遺伝子を、二次候補遺伝子として選択する工程;
(e)二次候補遺伝子のmRNAのシークエンシングを行い、細胞の性質に関与するスプライシングバリアントの塩基配列を同定する工程;
(f)工程(e)で同定したスプライシングバリアントの塩基配列を翻訳して得られたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、工程(b)において検出されたタンパク質を、スプライシングバリアントタンパク質として同定する工程;
【請求項2】
工程(a)においてmRNAを検出し、2種類の細胞間で発現量に有意差があるmRNAの遺伝子名を同定する方法が、エクソンアレイ又はcDNAマイクロアレイを使用する方法であることを特徴とする請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
工程(b)においてタンパク質を検出し、その遺伝子名を同定する方法が、LC−MS/MSを使用する方法であることを特徴とする請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
細胞の性質が、胃がん細胞の転移性であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
配列番号1〜3のいずれかで示される塩基配列からなるALDOCスプライシングバリアント核酸。
【請求項6】
配列番号1〜3のいずれかで示される塩基酸配列と90%以上の配列相同性を有する塩基酸配列からなるALDOCスプライシングバリアント核酸。
【請求項7】
配列番号4〜14のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるALDOCスプライシングバリアントタンパク質。
【請求項8】
配列番号4〜14のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列からなるALDOCスプライシングバリアントタンパク質。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のALDOCスプライシングバリアントタンパク質を特異的に検出する抗体。
【請求項10】
配列番号15〜22のいずれかで示される塩基配列からなる、請求項5又は6に記載のALDOCスプライシングバリアント核酸を検出するためのプライマー。
【請求項11】
請求項9記載の抗体、又は請求項10記載のプライマーを備えた、ALDOCスプライシングバリアントを検出することを特徴とする胃がんの判定用キット。
【請求項12】
以下の工程(A)及び(B)を備えた、胃がんの判定方法。
(A)試料における請求項5〜8のいずれかに記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bの発現量を測定する工程;
(B)工程(A)の発現量がコントロールと比較して高い場合、胃がんと判定する工程;
【請求項13】
さらに、以下の工程(C)及び(D)を備えた、請求項12記載の判定方法。
(C)試料における請求項5〜8のいずれかに記載のALDOCスプライシングバリアント4a発現量とALDOCスプライシングバリアント4b発現量を比較する工程;
(D)ALDOCスプライシングバリアント4bの発現量がALDOCスプライシングバリアント4a発現量より高い場合、転移性胃がんと評価する工程;
【請求項14】
試料が胃組織であることを特徴とする請求項12又は13記載の判定方法。
【請求項15】
請求項5〜8のいずれかに記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bの核酸又はタンパク質を阻害することを特徴とする胃がん予防・治療剤。
【請求項16】
請求項5又は6に記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4b核酸に対するアンチセンスDNAあるいはアンチセンスRNA、又はsiRNA及びmiRNAを有効成分とすることを特徴とする請求項15記載の胃がん予防・治療剤。
【請求項17】
請求項7又は8に記載のALDOCスプライシングバリアント4a又はALDOCスプライシングバリアント4bタンパク質に対する特異的抗体を有効成分とすることを特徴とする請求項16記載の胃がん予防・治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−39111(P2013−39111A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179788(P2011−179788)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2011年4月1日、http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pmic.201100016/abstractにてオンライン公開 〔刊行物等〕 2011年5月5日、PROTEOMICS,Volume 11,Issue 11,No.11 June 2011、2275〜2282ページに掲載
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】