説明

スペクトラム拡散クロック発生回路

【課題】従来のスペクトラム拡散クロック発生回路では、回路内で前もって設定された複数値の拡散率の中に、他に及ぼす電磁ノイズ(EMI)の影響を最も良好に遮断できる拡散率が無い可能性が生じ、スペクトラム拡散クロック発生回路のEMI対策効果が不十分となる虞がある。
【解決手段】基準クロック信号と帰還クロック信号の位相差を検出する周波数位相比較器と、この位相差に応じて充電又は放電信号を発生するCPと、この充電信号に応じた差信号を発生する充放電回路と、電圧制御発振器を具備するスペクトラム拡散クロック発生回路において、上記スペクトラム拡散変調回路は、制御電圧VC値を可変させることで複数の異なる振幅で変化するスペクトラム拡散アナログ電圧信号を発生する変調器と、差信号にスペクトラム拡散アナログ電圧信号を加算する電圧加算器とを具備するスペクトラム拡散クロック回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロック発生回路に関し、特にスペクトラム拡散方式を用いたクロック発生回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の各種電子機器において、電子機器から生じる不要な電磁ノイズに起因する不具合が、様々な安全基準により規制されている。このため高速処理が進んだ電子機器においては、電磁ノイズ(例えばEMI等)による影響を低減させる方法の一つとして、スペクトラム拡散クロック発生回路を用いている。
【0003】
具体的には、図3のように、PLL回路を用いて基準クロック信号から所望する倍数のクロック信号を発生させる回路である。即ち、周波数位相比較器32が、基準クロック発生器31で生成した基準クロック信号と、分周器36により分周し帰還させた分周クロック信号との位相差を検出し、その位相差に応じてチャージポンプ33(以下、CPという)を制御する信号を出力する。CP33は位相差に応じて充放電回路34を動作させる信号を出力し、充放電回路34の一端に位相差に応じた差電圧が発生する。この差電圧が電圧制御発振器35(以下、VCOという)に印加し、それに応じて一定の周期の出力クロック信号が生成される。
【0004】
このVCO35では、差電圧が差電流信号に変換された後、この差電流信号に小振幅で且つ一定周期の信号を加算しスペクトラム変調信号を発生させ、このスペクトラム変調信号をVCO35内の発振回路に印加する。これにより、生成される出力クロック信号は、基準クロック信号の周波数から所望する倍数の周波数を中心値とし、且つ所定のサイクルで変動することになる。
【0005】
上述したようなスペクトラム拡散クロック発生回路については、以下の先行技術文献に開示がある。
【特許文献1】特開2000−101424号公報
【特許文献2】特開2004−207846号公報
【0006】
尚、出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようなスペクトラム拡散クロック発生回路は集積化され図4のような集積回路素子(IC)として形成されている。又、スペクトラム拡散クロック発生回路は、その使用用途に応じてスペクトラム拡散変調のタイプやその拡散率を変更しなければならない。従来のスペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵したICでは、ICの複数個の外部接続用電極端子(図4では端子1、端子2及び端子3に該当)にスペクトラム拡散変調のタイプやその拡散率を切り換える回路を接続させておき、これら外部接続用電極端子をVddやGNDにスイッチングすることで、それぞれの外部接続用電極端子に設定されている変調タイプや拡散率に設定して使用している。
【0008】
このスペクトラム拡散クロック発生回路の拡散率は、実際にスペクトラム拡散クロック発生回路が内蔵されたICを外部の電気回路基板に搭載したときに、前もってIC内に設定されている拡散率から選択する方法が用いられる。しかし、このような構成のスペクトラム拡散クロック発生回路では、IC内に前もって設定された拡散率(例えば、1つの外部接続用電極端子に2つの拡散率が設定されている)の中に、他に及ぼす電磁ノイズの影響を最も良好に遮断できる拡散率が無い可能性が生じ、スペクトラム拡散クロック発生回路のEMI対策効果が不十分となる虞がある。
【0009】
又、設定できる拡散率の選択肢を増やした場合、この拡散率を設定するICの外部接続用電極端子の数を増やさなくてはならず、スペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵したICの小型化に悪影響を及ぼす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、分周器を含む基準クロック発生器で生成した基準クロック信号と帰還クロック信号の位相差を検出する周波数位相比較器と、この周波数位相比較器の検出した位相差に応じて充電又は放電信号を発生するチャージポンプと、この充電信号に応じた差信号を発生する充放電回路と、この差信号を変調してスペクトラム拡散変調信号を生成するスペクトラム拡散変調回路と、このスペクトラム拡散変調信号に応じた周波数のクロック信号を発生する発振回路とから成る電圧制御発振器を具備するスペクトラム拡散クロック発生回路において、
上記スペクトラム拡散変調回路は、制御電圧VC値を可変させることで複数の異なる振幅で変化するスペクトラム拡散アナログ電圧信号を発生する変調器と、差信号にスペクトラム拡散アナログ電圧信号を加算する電圧加算器とを具備するスペクトラム拡散クロック回路である。
【発明の効果】
【0011】
本発明において、制御電圧VC値を可変させることで振幅が変化するスペクトラム拡散アナログ電圧信号を発生する変調器と、差信号にスペクトラム拡散アナログ電圧信号を加算する電圧加算器とをスペクトラム拡散クロック発生回路に具備することにより、制御電圧VC値を可変させることにより無段階にスペクトラム拡散クロック発生回路としての拡散率を可変させることができ、これにより実装する外部電子回路基板等に最も適したEMI対策効果を奏する拡散率を設定することが可能となる。
【0012】
又、本発明では拡散率の設定に要するスペクトラム拡散クロック発生回路が内蔵されたICの外部接続用電極端子は1つのみであり、この外部接続用電極端子に制御電圧VCを適宜印加してスペクトラム拡散クロック発生回路の拡散率をコントロールすることができる。因ってスペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵したICにおいて、拡散率設定に使用する外部接続用電極端子数を著しく少なくすることが可能となる。
【0013】
以上のことから、本発明のスペクトラム拡散クロック発生回路により、実装時にEMI対策効果が最も良好な拡散率を容易に設定でき、且つ内蔵されるICの小型化にも適したスペクトラム拡散クロック発生回路を提供できる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明におけるスペクトラム拡散クロック発生回路の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明におけるスペクトラム拡散クロック発生回路を示した回路ブロック図である。図2は、図1のスペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵したICの一形態を示した概略平面図及び拡散率と制御電圧VC値との略相関グラフである。尚、各図では、説明を明りょうにするため構造体の一部を図示せず、また寸法も一部誇張して図示している。
【実施例】
【0015】
即ち、本発明のスペクトラム拡散クロック発生回路は、分周器を内部に搭載している基準クロック発生器11、周波数位相比較器12、チャージポンプ(CP)13、充放電回路14、電圧加算器15、変調器16、電圧制御発振器(VCO)17及び帰還ループの分周器18より構成されている。まず、周波数位相比較器12が基準クロック発生器11により生成された基準クロック信号(基準クロック発生器11内の分周器(図示しない)により分周されている)と、分周器18を介して帰還された分周クロック信号との位相差を検出し、その位相差に応じてチャージポンプ13を制御する信号を出力する。
【0016】
次に、CP13は位相差に応じて充放電回路14を動作させる信号を出力し、充放電回路14の一端に位相差に応じた差電圧が発生する。この差電圧に、制御電圧VCを適宜可変させることで変調器16の変調率を可変し、それにより生成した複数の異なる振幅で変化したスペクトラム拡散アナログ電圧を電圧加算器15により加算する。これにより電圧制御発振器(VCO)17に入力されたVCO制御電圧信号は振幅が順に変化する。又、これにより電圧制御発振器(VCO)17が生成する出力クロック信号の周波数は、このVCO制御電圧信号で設定した周波数となり、且つ出力クロック信号の周波数は、制御電圧信号VCの振幅レベルの変化に応じて遷移し、スペクトラムが拡散する。
【0017】
このスペクトラムの拡散率は、変調器16の制御電圧VC値を無段階に可変することにより任意に可変設定できるので、スペクトラム拡散クロック発生回路を搭載する外部電子回路基板おいて、最も良好なEMI対策効果を奏する拡散率を容易に選択できる。
【0018】
上記のようなスペクトラム拡散クロック発生回路は集積化され、図2のような樹脂材等でモールドされた集積回路素子(IC)21として形成される。この際、本実施例のスペクトラム拡散クロック発生回路を構成する変調器16の制御電圧VCを外部より印加するために、集積回路素子に形成された複数個の外部接続用電極端子うち1つだけを使用する。図4に示した従来のスペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵した集積回路素子41と比較して、拡散率を制御する信号入力端子(外部接続用電極端子)の使用個数を少なくすることができ、スペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵する集積回路素子の小型化が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明におけるスペクトラム拡散クロック発生回路を示した回路ブロック図である。
【図2】図2は、図1のスペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵したICの一形態を示した概略平面図及び拡散率と制御電圧VC値との略相関グラフである。
【図3】図3は、従来のスペクトラム拡散クロック発生回路を示した回路ブロック図である。
【図4】図4は、図3の従来のスペクトラム拡散クロック発生回路を内蔵したICの形態及び各端子の機能を示した概略平面図である。
【符号の説明】
【0020】
11・・・基準クロック発生器
12・・・周波数位相比較器
13・・・チャージポンプ(CP)
14・・・充放電回路
15・・・電圧加算器
16・・・変調器
17・・・電圧制御発振器(VCO)
18・・・分周器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分周器を含む基準クロック発生器より生成した基準クロック信号と帰還クロック信号の位相差を検出する周波数位相比較器と、
該周波数位相比較器の検出した位相差に応じて充電又は放電信号を発生するチャージポンプと、
該充電信号に応じた差信号を発生する充放電回路と、
該差信号を変調してスペクトラム拡散変調信号を生成するスペクトラム拡散変調回路と、該スペクトラム拡散変調信号に応じた周波数のクロック信号を発生する発振回路と
から成る電圧制御発振器を具備するスペクトラム拡散クロック発生回路において、
該スペクトラム拡散変調回路は、制御電圧VC値を可変させることで振幅が変化するスペクトラム拡散アナログ電圧信号を発生する変調器と、該差信号に該スペクトラム拡散アナログ電圧信号を加算する電圧加算器とを具備することを特徴とするスペクトラム拡散クロック発生回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−158466(P2007−158466A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347144(P2005−347144)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】