説明

スペクトルドプラ利得を自動調整するための方法及び装置

【課題】スペクトルドプラ撮像において超音波システムのシステムパラメータの自動調整を提供する。
【解決手段】ドプラスペクトル画像の表示で使用されるパラメータを自動調整するための方法及び装置は、ドプラデータの複数のスペクトル線を収集することを含む。ドプラデータの複数のスペクトル線からドプラデータの部分組が決定される。このドプラデータの部分組のノイズ特性が計算され、かつドプラデータの部分組の信号特性が特定される。ノイズ特性と信号特性が比較され、この比較工程の結果に基づいてシステムパラメータが調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的にはスペクトルドプラ技法を用いて血流の速度を計測する超音波診断システムに関し、また具体的には、オペレータに対して最適表示を提供するためのスペクトルドプラ利得の自動調整に関する。
【背景技術】
【0002】
ドプラ効果に基づいて血流を検出するための超音波スキャナはよく知られている。超音波トランスジューサ・アレイが対象物内に超音波を送信し、後方散乱された超音波エコーを受信している。血流特性の計測では、戻された超音波が周波数基準と比較され、戻される音波に対して血球などの散乱体のフローによって与えられる周波数シフトが決定される。この周波数シフトが血流の速度に変換される。
【0003】
典型的な臨床ドプラ検査は時間がかかると共に、サンプルボリュームのサイズやサンプリング・ゲート、フローの方向、カーソル角度、速度制限やパルス繰返し周波数(PRF)、基準ラインシフト及び反転、自動最大/平均速度トレース、システム利得などの走査パラメータを設定及び調整するための多種多様な制御キーやスイッチに対する調整が必要となる可能性がある。波形内でノイズ・バックグラウンド及び信号強度を検出するためや、PRFの自動調整によりエイリアシングを除去するためなどについて、ある種の自動化を利用することができる。しかし、ドプラ検査の速度と信頼度の両方を向上させるためにこれ以外のドプラ調整を自動化する要求は存在したままである。
【0004】
パルスドプラ波形や連続波(CW)ドプラ波形は、スペクトル・パワーに従った変調を受けたグレイスケール強度(または、カラー)を用いて、時間に対するドプラ周波数(または、速度)のスペクトルとしてまたはスペクトル画像としてリアルタイムで計算され表示される。各スペクトル線は、サンプリング・ゲート内の血流に関する瞬時計測値を意味している。各スペクトル線内のデータは、様々な周波数間隔に対する複数の周波数ビンを備えており、各周波数ビンに関連付けされた信号強度(パワー)がディスプレイ上の対応する画素位置に表示される。スペクトル線のすべてを総合すると1つのスペクトル像すなわちスペクトルが形成される。
【0005】
このスペクトルの各垂直線は、所与の時刻におけるドプラ周波数スペクトルに対応する。ゼロに等しい周波数を基準ラインにとると正のドプラ周波数はトランスジューサに向かう方向のフローに対応し、また負の周波数はトランスジューサから離れる方向のフローに対応する。
【特許文献1】米国特許第5935074号
【特許文献2】米国特許第6577967号
【特許文献3】米国特許第6663566号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
典型的には、オペレータは、表示させるスペクトルの調整のために利得などのシステムパラメータを調整しなければならない。例えば、スペクトルの信号成分が小さいため、ノイズ成分から識別することが困難であることがある。また一方、その信号成分が極めて大きいために、モニタが飽和しデータの全レンジを表示できないことがある。いずれのケースでも、そのシステムをオペレータが手作業で調整する必要がある。このことは時間の浪費に繋がることがあり、またシステムパラメータが適正に設定されないと診断の誤り及び/または困難に繋がることがある。
【0007】
したがって、フロー信号及びノイズ・バックグラウンドを最適輝度レベルで表示できるように、スペクトルドプラ撮像の際に超音波システムのシステムパラメータを自動調整する必要性が存在する。本発明のある種の実施形態は、これらの要求並びに記載する説明及び図面から明らかとなるようなその他の目的を満足させることを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態では、ドプラスペクトル画像の表示で使用されるパラメータを自動調整するための方法は、ドプラデータの複数のスペクトル線を収集する工程を含む。ドプラデータの複数のスペクトル線から、ドプラデータの部分組が決定される。ドプラデータの部分組のノイズ特性が計算されると共に信号特性が特定される。ノイズ特性と信号特性が比較され、この比較の結果に基づいてシステムパラメータが調整される。
【0009】
別の実施形態では、ドプラスペクトル・データを収集しかつドプラスペクトルの表示で使用されるパラメータを自動調整する超音波システムは、対象物の走査面内部で超音波信号を送信かつ受信するトランスジューサを備える。ビーム形成器が、走査面の内部のサンプルゲートに関する超音波信号を表すデータサンプルを導出する。ドプラ処理モジュールがデータサンプルからドプラデータの未処理周波数ビンの組を作成しており、また走査変換モジュールが該ドプラデータの未処理周波数ビンの組を走査変換している。制御処理モジュールが、ドプラデータの複数のスペクトル線を解析しノイズ特性及び信号特性を特定する。この制御処理モジュールは、ノイズ特性と信号特性の比較に基づいてシステムパラメータを自動調整している。表示アーキテクチャが走査面内部の該サンプルゲートに対応するドプラスペクトルを表示する。
【0010】
別の実施形態では、超音波システムのモニタ上に表示されるスペクトルのスペクトル利得を自動調整するための方法は、ある時間期間にわたって収集したドプラデータの複数のスペクトル線に基づいてノイズ強度及び周波数の所定のレベルを決定する工程を含む。所定のレベルの周波数及びゼロ周波数に基づいて、ある周波数の位置における信号強度が時間期間の関数として計算される。その信号強度内において信号成分が特定されると共に、信号成分とノイズ強度の比較に基づいてシステム利得が調整される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上述した要約、並びに本発明のある種の実施形態に関する以下の詳細な説明は、添付の図面と共に読むことによってさらに十分な理解が得られよう。これらの図面は、様々な実施形態の機能ブロックの図を表したものである。これらの機能ブロックは、必ずしもハードウェア回路間で分割させることを意味するものではない。したがって例えば、1つまたは複数の機能ブロック(例えば、プロセッサやメモリ)を単一のハードウェア(例えば、汎用の信号処理装置や信号処理ブロックやランダム・アクセス・メモリ、ハードディスク、その他)内で実現させることがある。同様にそのプログラムは、スタンドアロンのプログラムとすること、オペレーティングシステム内のサブルーチンとして組み込まれること、インストールした撮像ソフトウェアパッケージの形で機能させること、その他とすることができる。様々な実施形態は図面に示した配置や手段に限定されるものではないことを理解すべきである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態によるスペクトルドプラ画像を作成し制御するための超音波システム5のブロック概要図である。超音波システム5の図示した要素は、フロントエンド10、処理アーキテクチャ70、表示アーキテクチャ120、及び入力145である。フロントエンド10は、トランスジューサ・アレイ20(複数のトランスジューサ・アレイ素子25を含む)、送信/受信切り替え回路30、送信器40、受信器50、及びビーム形成器60を備える。処理アーキテクチャ70は、自動スペクトル利得調整85を有する制御処理モジュール80、復調モジュール90、ドプラ処理モジュール100、及び走査変換モジュール110を備える。表示アーキテクチャ120は、表示処理モジュール130及びモニタ140を備える。入力145は、キーボード、トラックボール、マイクロフォン、スイッチ、ノブ、制御キー、その他を備えることがある。
【0013】
アーキテクチャ及びモジュールは、ディジタル信号プロセッサを備えた回路基板などの専用のハードウェア素子とすることや、市販の出来合いのPCなどの汎用コンピュータやプロセッサ上で動作するソフトウェアとすることがある。様々なアーキテクチャ及びモジュールは、組み合わせることや別々とすることができるため、図示した構成に限定されるものではない。
【0014】
フロントエンド10において、トランスジューサ・アレイ20は送信/受信(T/R)切り替え回路30に接続されている。T/R切り替え回路30は送信器40の出力と受信器50の入力に接続されている。受信器50の出力はビーム形成器60に入力される。ビーム形成器60はさらに、送信器40の入力と、処理アーキテクチャ70内の制御処理モジュール80及び復調モジュール90の入力と、に接続されている。
【0015】
処理アーキテクチャ70において、復調モジュール90の出力はドプラ処理モジュール100の入力に接続されている。制御処理モジュール80は、ドプラ処理モジュール100、走査変換モジュール110、表示アーキテクチャ120内の表示処理モジュール130、及び入力145とインタフェースを取っている。ドプラ処理モジュール100の出力は走査変換モジュール110の入力に接続されている。走査変換モジュール110の出力は表示アーキテクチャ120内の表示処理モジュール130の入力に接続されており、また表示処理モジュール130の出力はモニタ140の入力に接続されている。入力145の出力は表示処理モジュール130に接続されている。
【0016】
送信する超音波ビームを作成するために、制御処理モジュール80はビーム形成器60に対して、あるステアリング角度でトランスジューサ・アレイ20の表面上のある点から発せられるようにある形状をしたビームを生成させる送信パラメータを作成するようにビーム形成器に伝えるコマンドデータを送る。この送信パラメータはビーム形成器60から送信器40へ送られる。送信器40はこの送信パラメータを用いて、T/R切り替え回路30を通してトランスジューサ・アレイ20に送られるように送信信号を適正にエンコードしている。この送信信号は、互いに対してあるレベル及び位相となるように設定されると共に、トランスジューサ・アレイ20の個々のトランスジューサ素子25に提供される。この送信信号がトランスジューサ・アレイ20のトランスジューサ素子25を励起させ、位相及びレベルの関係が同じである超音波を放出させる。その結果、例えば超音波ジェルを用いてトランスジューサ・アレイ20をある対象に音響結合させたときに走査線155に沿って走査面150内部の対象内(図2参照)に超音波エネルギーの送信ビームが形成される。この過程のことを電子走査(electronic scanning)と呼んでいる。
【0017】
トランスジューサ・アレイ20は双方向トランスジューサである。対象内に超音波が送信された後、超音波が構造内の組織や血液サンプルから後方散乱される。後方散乱された音波は、その音波を戻した組織までの距離並びにその音波が戻されたトランスジューサ・アレイ20の表面に対する角度に応じて、様々な時点でトランスジューサ・アレイ20に到達する。トランスジューサ・アレイ20のトランスジューサ素子25は後方散乱された音波に応答し、後方散乱音波からの超音波エネルギーを受信電気信号に変換する。
【0018】
この受信した電気信号はT/R切り替え回路30を経由して受信器50に至る。受信器50は、この受信信号を増幅しかつディジタル化すると共に、利得補償などの別の機能を提供する。このディジタル化される受信信号は各トランスジューサ素子25が様々な時点で受信した後方散乱音波に対応しており、後方散乱音波の振幅及び位相情報を保持している。
【0019】
ディジタル化された受信信号はビーム形成器60に送られる。制御処理モジュール80はコマンドデータをビーム形成器60に送っており、ビーム形成器60はこのコマンドデータを用いて、トランスジューサ・アレイ20の表面上のある点から典型的にはこの点に対応するステアリング角度並びに走査線155に沿って送信された直前の超音波ビームのステアリング角度で発せられる受信ビームを形成させる。ビーム形成器60は、制御処理モジュール80からのコマンドデータの命令に従って時間遅延及び集束を実行し、対象内部の走査面150内の走査線155に沿ったサンプルボリュームに対応する受信ビーム信号を生成することによって、適当な受信信号に対して操作を行っている。様々なトランスジューサ素子25からの受信信号の位相、振幅及びタイミング情報を使用して受信ビーム信号が生成される。スペクトルドプラ撮像モードでは、サンプルゲート160(図2)内部のサンプルボリューム位置に対応する受信信号はさらに処理されてモニタ140上のスペクトルドプラ・タイムライン表示が作成される。
【0020】
この受信ビーム信号はディジタル・インタフェース117を介して処理アーキテクチャ70に送られる。復調モジュール90はこの受信ビーム信号に対して復調を実行し、サンプルゲート160内部のサンプルボリュームに対応するI及びQの復調データ値の対が生成される。復調は受信ビーム信号の位相及び振幅を基準周波数と比較することによって実現される。I及びQの復調データ値は、受信信号内のドプラシフトによって誘導された位相及び振幅情報を保持している。
【0021】
この復調データはドプラ処理モジュール100に転送される。ドプラ処理モジュール100は離散形フーリエ変換(DFT)処理法などの標準的な技法を用いて、サンプルゲート160から受信した信号に対応するスペクトルドプラ・データの組を作成する。このスペクトルドプラ・データは図3に示すようなスペクトル線としてメモリ内に保存される。
【0022】
図3は、水平方向の次元が時間170でありかつ垂直方向の次元がドプラ周波数180であるようにしてスペクトル線の部分組を表したものである。スペクトル線は垂直方向の縦列として表現されており、これらの各々は周波数(速度)ビンの組に分割されている。スペクトル線190は、サンプルゲート160内の血流の具体的なある時点におけるドプラ周波数成分(すなわち、速度成分)を表しており、また周波数ビン200はこのサンプルゲート160に対応する具体的なある速度に関する時間の経過を追った信号データを包含している。
【0023】
ドプラ周波数データのスペクトル線190は、走査シーケンス形式から表示形式への変換を実行する走査変換モジュール110に送られる。この変換は、時間対周波数の表示形式でスペクトル表示画素データを生成するためにドプラ周波数データのスペクトル線190に対して補間演算を実行することを含む。したがって各周波数ビン200は、モニタ140上に表示されたスペクトルに関して対応する1つの画素強度を有する。
【0024】
走査変換した画素データは表示アーキテクチャ120に送られる。表示アーキテクチャ120は、走査変換された画素データに対して最終的な任意の空間または時間フィルタ処理を実行し、走査変換画素データに対してグレイスケールまたは色相を付与し、かつモニタ140上に表示させるようにディジタル画素データをアナログデータに変換するための表示処理モジュール130を備える。オペレータは、走査、システム及び/または表示のパラメータを調整するために入力145を用いることがある。
【0025】
図4は、本発明の一実施形態に従ってノイズ及びフロー信号を最適強度でモニタ140上に表示するためにシステムパラメータを自動設定するための方法を表している。例えば、ノイズ・バックグラウンドとフロー信号強度の両者はシステム利得の関数であり、システム利得が増大するとノイズと信号強度の両者が増大する。ノイズ・バックグラウンドとフロー信号強度のうちの一方または両方を調整するために別のシステムパラメータが用いられることがあることを理解されたい。最適強度は、ノイズを最小化しながらフロー信号を最良に表示させるような設定として規定することができる。最適強度は、使用している超音波システム5、走査対象の解剖構造の種類、及び/またはオペレータの選好に基づいて設定されることがある。
【0026】
工程300において、所望のビュー、データ、その他を達成するために、オペレータは超音波システム5によって患者を走査する。このデータは、収集されるに連れて処理されてモニタ140上に表示される。サンプルゲート160は、所望のスペクトルデータを含むようにオペレータによって調整される。スペクトルデータに対してアンチエイリアシングなどの別の自動処理法及び/またはオペレータ呼び出し式処理法を作用させることがある。
【0027】
工程302では、オペレータは自動スペクトル利得調整85を有効にする。自動スペクトル利得調整85は、モニタ140上のスペクトルの表示を最適強度となるように自動調整し、モニタ140を飽和させることなくノイズ成分を最小化しかつフロー信号成分を最大化する。オペレータは、入力145を用いてボタン、スイッチまたはノブを選択することや、音声起動式コマンドを受け付けるマイクロフォンを用いることがある。任意選択では、その自動スペクトル利得調整85は、あるプロトコルの域内で自動で呼び出されることがある。工程304において、超音波システム5は所定の量のスペクトルデータ(概ね1秒間分のスペクトルデータなど)を収集する。
【0028】
図5は、本発明の一実施形態に従って収集した概ね1秒間分のスペクトルデータのスペクトル350を表している。例えば、スペクトル350はサンプルゲート160(図2)に対応した時間364の経過を追ったデータのスペクトル線を表すことがある。収集されるスペクトルデータはこれより多いことや少ないことがあり得ることを理解されたい。基準ライン352はゼロドプラ周波数の表示基準であり、またスペクトル350のフローは正のドプラ周波数354(基準ライン352より上)のこと、負のドプラ周波数356(基準ライン352より下)のこと、あるいはこの両方のことがあり得る。観察を容易にするために、エイリアシングが存在しないようにスペクトル350を調整することがある。さらに、スペクトル350は反転されていない(すなわち、正のドプラシフトは基準ライン352の上側に来るように表示され、かつ負のドプラシフトは基準ライン352の下側に来るように表示される)。
【0029】
図4に戻り工程306において、自動スペクトル利得調整85及び/または制御処理モジュール80は平均ノイズ強度Iなどのノイズ特性を計算し、スペクトル350向けのフロー信号を有する周波数ビン200を検出する。平均ノイズ強度Iが計算されているが、最大ノイズ特性や最小ノイズ特性など別のノイズ特性も同様に使用できることを理解されたい。平均ノイズ強度I及びフロー信号は周知の方法、処理及び式を用いて計算することができる。工程308において、制御処理モジュール80は、スペクトル350のフロー信号が正のドプラ周波数354及び/または負のドプラ周波数356であるかを判定する。フロー信号が正のドプラ周波数354と負のドプラ周波数356のいずれかでありこれら両者でない場合、本方法は工程312に進む。スペクトル350が正のドプラ周波数354と負のドプラ周波数356の両方を有している場合、本方法は工程310に進む。
【0030】
スペクトル350のフローが正と負の両方のドプラ周波数354及び356を有しているとき、本方法は2つの方式のうちの一方で動作することがある。一実施形態では、制御処理モジュール80は基準ライン352より上側の周波数データのみを使用してドプラデータの部分組の信号特性を決定する。一例として、最大(すなわち、最高)信号強度I(t,f)、あるいは平均値(すなわち、平均信号強度)が決定されることがある。別法として、制御処理モジュール80はドプラ周波数354及び356のうちの有するシフトが大きい方を検出することがある。次いで、より大きなドプラ周波数シフトを有する方を用いて信号強度I(t,f)が決定される。
【0031】
本方法は工程308及び310の両方から、制御処理モジュール80がスペクトル350のフロー信号内の最高周波数ビンf362など所定のレベルの周波数を検出する工程312に進む。工程314において、制御処理モジュール80は、最高周波数ビンf362と基準ライン352の間に位置する周波数ビンf358を特定する。この例では、周波数ビンf358は、最高周波数ビンf362と基準ライン352の概ね中間にある。周波数ビンf358は、最高周波数ビンf362と基準ライン352の間で別の周波数に位置することがあることを理解されたい。工程316において、制御処理モジュール80が信号強度I(t,f)を時間の関数として計算する。
【0032】
図6は、本発明の一実施形態による周波数ビンf358の各周波数位置における信号強度386を時間388の関数としてグラフ380で表したものである。ライン382は、サイズがn個の周波数ビン及びm個のタイムラインであるカーネル360を有する平均強度であるI(t,f)を表しており、(式1)を用いて計算することができる。
【0033】
【数1】

(式1)
工程318において、制御処理モジュール80は、I(t,f)386に沿った最高信号強度I(t,f)、あるいはライン382に沿った最高信号強度384を特定する。上で述べたように、ドプラデータの別の成分または特性が用いられることもある。工程320において、制御処理モジュール80は、(式2)を用いて最高信号強度384と平均ノイズ強度I390(上の工程306で計算済み)の間の差を計算する。
【0034】
S=I(t,f)−I (式2)
最適利得の決定はその一部で、平均ノイズ強度I390と比較して最高信号強度384がどの程度大きいかに依存する。工程322において、平均ノイズ強度I390がゼロであれば、本方法はシステム利得を増加させるなどのシステムパラメータが調整される工程324に進み、次いで工程304に戻ってスペクトルデータの収集及び評価が行なわれる。別法として、平均ノイズ強度I390に対する制限は、その値以下ではシステム利得を増加させるように事前決定されることがある。1〜10のレンジ域内で利得を変更できる場合、利得は例えば1単位で増加させることがある。システム利得の増加は制御処理モジュール80によって受信器50や別の適当な回路に伝達されることがある。利得の増加は、モニタ140上に表示されるスペクトル350の輝度増加に反映される。
【0035】
工程322に戻って平均ノイズ強度I390がゼロに等しくない場合、本方法は、(式2)によって計算された信号Sが所定のしきい値392より大きいか否かを制御処理モジュール80によって判定する工程326に進む。この所定のしきい値392は信号Sが強いか弱いかを判定するために使用されることがある。単に一例として、所定のしきい値392は平均ノイズ強度I390を超えるある所望のレベルに規定されることがある。
【0036】
信号Sが所定のしきい値392より大きければ、信号Sは強く本方法は信号Sがモニタ140を飽和させているか否かを制御処理モジュール80によって判定する工程328に進む。この飽和は、1つまたは複数の画素でモニタ140上に表示される輝度が最大輝度を超えている点として表記されることがある。したがって、飽和したすべての画素は、当該点に現れる信号レベルに関わらず最高輝度レベルで表示される。より大きな信号成分を示す飽和画素もより小さい信号成分を示す飽和画素と同じ表示となり、したがって信号データの全部をオペレータに対して適正に表示できない。一例として、制御処理モジュール80は、モニタ140上の任意の画素が飽和しているか否かを判定するために表示処理モジュール130と通信することがある。
【0037】
モニタ140が飽和していない場合、本方法は工程330に進む。モニタ140を飽和させないような強い信号Sでは、システムパラメータを調整することができる。例えばシステム利得は、平均ノイズ強度I390がゼロに極めて近くなるように設定されることがある。これによってモニタ140は、信号Sのすべてを依然として表示しながらノイズの大部分を表示させることがない。
【0038】
工程328に戻ると、信号Sが強くかつモニタ140を飽和させている場合、本方法は工程332に進み、ここで制御処理モジュール80は、信号Sがモニタ140の飽和点の直ぐ下の点までシステム利得を低減すなわち減少させるように要求する。
【0039】
工程326に戻ると、信号Sが所定のしきい値392より小さい場合、信号Sは弱いと見なされ本方法は工程334に進む。信号Sがより弱いケースでは、平均ノイズ強度I390が事前設定値に等しくなるように利得が設定される。これによって、ノイズ・バックグラウンドが視認可能でありかつ信号強度が弱すぎないような表示が得られる。この事前設定値は、超音波システム5その他の内部のノイズレベルに基づいて製造者、オペレータによって選択されることがある。
【0040】
工程330、332及び334においてシステム利得を調整し終えた後、自動スペクトル利得調整85は終了となる。別法として、工程302で自動スペクトル利得調整85を有効にした後、制御処理モジュール80は、一定間隔で、あるいはサンプルゲート位置、サイズ、その他などの撮像パラメータが変更された場合に、利得調整処理を反復することがある。任意選択では、オペレータによる関与なしにプロトコルによって自動スペクトル利得調整85を有効にさせることがある。
【0041】
自動スペクトル利得調整85の技術的効果は、超音波システム5によってシステム利得などのシステムパラメータを自動設定し、ノイズ及び信号を最適な強度または輝度で表示することが可能であることにある。自動スペクトル利得調整85はボタンや音声コマンドなどのオペレータ入力を介して容易に呼び出すことができる。ノイズ及び信号のレベルが収集されると共に、システム利得を調整すべきか否かを判定するために互いに及び/またはしきい値レベルと比較されている。弱い信号レベルでは強度を増加させるようにシステム利得を増加させ、かつ強い信号レベルでは強度を低下させるようにシステム利得を低下させ、これにより強い信号によって表示が飽和しないように保証している。
【0042】
具体的な様々な実施形態に関して本発明を記載してきたが、当業者であれば、本発明が本特許請求の範囲の精神及び趣旨の域内にある修正を伴って実施できることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態による超音波システムのブロック概要図である。
【図2】スペクトルドプラ・モードにおける走査線に沿ったサンプルゲートを用いたセクタ走査を表した図である。
【図3】サンプルゲート内の血流を示しているスペクトル線の部分組及び周波数ビンを表した図である。
【図4】本発明の一実施形態に従ってノイズ及びフロー信号が最適強度で表示されるようにシステムパラメータを自動設定するための方法を表した図である。
【図5】本発明の一実施形態に従って収集した概ね1秒間分のスペクトルデータのスペクトルを表した図である。
【図6】本発明の一実施形態に従って周波数ビンfの各周波数位置の信号強度を時間の関数として表したグラフである。
【符号の説明】
【0044】
5 超音波システム
10 フロントエンド
20 トランスジューサ・アレイ
25 トランスジューサ素子
30 送信/受信(T/R)切り替え回路
40 送信器
50 受信器
60 ビーム形成器
70 処理アーキテクチャ
80 制御処理モジュール
85 自動スペクトル利得調整
90 復調モジュール
100 ドプラ処理モジュール
110 走査変換モジュール
117 ディジタル・インタフェース
120 表示アーキテクチャ
130 表示処理モジュール
140 モニタ
145 入力
150 走査面
155 走査線
160 サンプルゲート
170 時間
180 ドプラ周波数
190 スペクトル線
200 周波数ビン
350 スペクトル
352 基準ライン
354 正のドプラ周波数
356 負のドプラ周波数
358 周波数ビンf
360 カーネル
362 最高周波数ビンf
364 時間
380 グラフ
382 ライン
384 最高信号強度
386 信号強度
388 時間
390 平均ノイズ強度I
392 所定のしきい値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドプラスペクトル画像の表示で使用されるパラメータを自動調整するための方法であって、
ドプラデータの複数のスペクトル線を収集する工程と、
前記ドプラデータの複数のスペクトル線からドプラデータの部分組を決定する工程と、
前記ドプラデータの部分組のノイズ特性を計算する工程と、
前記ドプラデータの部分組の信号特性を特定する工程と、
前記ノイズ特性と前記信号特性を比較する工程と、
前記比較工程の結果に基づいてシステムパラメータを調整する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記信号特性が最適強度に基づくしきい値より大きい場合に信号特性を調整する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信号特性を最適強度に基づくしきい値と比較する工程と、
前記信号特性が前記しきい値より大きい場合にモニタが飽和しているか否かを判定する工程と、
モニタが飽和している場合にシステムパラメータを調整する工程と、
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記システムパラメータはさらにシステム利得を含むと共に、
前記ドプラデータの部分組をモニタ上に表示する工程と、
前記モニタが飽和しているか否かを判定する工程と、
前記モニタが飽和している場合に前記システム利得を低下させる工程と、
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記信号特性がしきい値未満である場合に前記ノイズ特性がある事前設定値に設定されるように前記システムパラメータを調整する工程であって、該しきい値は該ノイズ特性を超える所定のレベルに規定されている調整工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ドプラスペクトル・データを収集しかつドプラスペクトルの表示で使用されるシステムパラメータを自動調整する超音波システムであって、
対象物の走査面内部で超音波信号を送信かつ受信するトランスジューサと、
走査面の内部のサンプルゲートに関する超音波信号を表すデータサンプルを導出するビーム形成器と、
前記データサンプルからドプラデータの未処理周波数ビンの組を作成するドプラ処理モジュールと、
ドプラデータの前記未処理周波数ビンの組を走査変換する走査変換モジュールと、
ドプラデータの複数のスペクトル線を解析しノイズ特性及び信号特性を特定する制御処理モジュールであって、該ノイズ特性と信号特性の比較に基づいてシステムパラメータを自動調整している制御処理モジュールと、
走査面内部のサンプルゲートに対応するドプラスペクトルを表示する表示アーキテクチャと、
を備える超音波システム。
【請求項7】
システムパラメータを自動調整するために前記制御処理モジュールを呼び出すコマンドをオペレータから受け取るための入力をさらに備える請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記表示アーキテクチャはさらにある表示飽和点を有するモニタを備えており、前記制御処理モジュールは該表示飽和点に基づいてシステムパラメータを自動調整する、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記システムパラメータはさらにシステム利得を含んでおり、前記制御処理モジュールは信号特性を所定のしきい値と比較し、該比較に基づいて該システム利得を調整している、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記制御処理モジュールは、複数のスペクトル線の内部で最高周波数ビンとドプラデータの基準ラインとを検出し、該最高周波数ビンと該基準ラインの間の1つの周波数ビンを特定しており、該周波数ビンに基づいて前記信号特性が決定されている、請求項6に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−152111(P2007−152111A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−326192(P2006−326192)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】