説明

スラグからのフッ素溶出防止方法

【課題】フッ素を含有する転炉スラグを用いて高強度な水和硬化体を製造するとともに、この水和硬化体を再粉砕及び整粒して路盤材等として使用する場合におけるフッ素の溶出を安価かつ確実に抑制する。
【解決手段】フッ素を含む転炉スラグ83%以上と、17%以下の潜在水硬性を有するSiO含有物質とからなる混合物に、消石灰、生石灰又はセメントから選ばれた1種以上と、水とを加えてから混練する際に、パラメータS=W(CaO)+0.13W(2CaO・SiO2)−0.22W(F)−15.4の値を60以上130以下とすることにより、スラグからのフッ素の溶出を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグからのフッ素溶出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑の精錬では、スラグの生成を促進するために蛍石CaFを使用することがある。しかし、蛍石を含有するスラグからはフッ素が溶出して環境上問題となるので、近年では蛍石を使用しない精錬方法も開発されている。しかし、精錬の目的によっては蛍石を全く使用しないことが難しい場合があり、このような場合には、スラグからのフッ素の溶出が問題となるので、スラグの再利用が制限される。スラグの再利用技術は、これまでにも多数提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、溶銑予備処理スラグやステンレス鋼脱炭炉スラグ等の製鋼スラグの粉粒物70〜85%(本明細書では特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味する)と、高炉水砕スラグの微粉末等の潜在水硬性を有するSiO含有物質10〜40%との混合物に、外数で0.5〜4%の消石灰又は生石灰と、外数で10〜20%の水とを加えてから常温で混練することにより、強固で性状が安定した製鋼スラグの水和硬化体を製造する発明が開示されている。
【0004】
特許文献2には、転炉スラグ等の製鋼スラグを含有する骨材と、高炉水砕スラグの微粉末等の潜在水硬性を有するSiO含有物質とフライアッシュ等のポゾラン反応性を有するSiO含有物質のうち1種又は2種を50%以上含有する水和反応によって硬化する結合材とを有する、製鋼スラグの水和硬化体に係る発明が開示されている。
【0005】
特許文献3には、フッ素を含有する製鋼スラグにカルシウムを含む化合物及びアルミニウムを含む化合物としてカルシウム酸化物とアルミニウム酸化物の複酸化物であるカルシウムアルミネートを添加することによって、フッ素の溶出を抑制する発明が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、フッ素を含有する製鋼スラグにセメント及び硫酸根を含む粉末を添加することによってフッ素の溶出を抑制する発明が開示されている。
【特許文献1】特開2001−114550号公報
【特許文献2】特開平10−152364号公報
【特許文献3】特開2000−225383号公報
【特許文献4】特開2001−316143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜4により開示されたいずれの発明によっても、フッ素を含有する転炉スラグを用いて高強度な水和硬化体を製造するとともに、この水和硬化体を再粉砕及び整粒して路盤材等として使用する場合におけるフッ素の溶出を、安価かつ確実に抑制することは、難しい。
【0008】
すなわち、特許文献1、2により開示された発明は、製鋼スラグを素材として高強度なスラグの水和硬化体を製造することのみを目的としており、ブロックとして使用する以外の用途には適用できない。スラグのブロックを再粉砕及び整粒することにより路盤材等に用いようとすると、素材である転炉スラグに蛍石が含まれていると、未反応の転炉スラグ粒の内部が直接溶出液と接触することになるため、フッ素の溶出が避けられない。
【0009】
特許文献3により開示された発明は、カルシウムアルミネートの微粉末を固定剤として用いるために確かにフッ素の溶出を防止することができるものの、比較的処理コストが嵩む。
【0010】
さらに、特許文献4により開示された発明を実施するには、セメント及び硫酸根を含む粉末を比較的多量に使用する必要があるため、やはり比較的処理コストが嵩む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、フッ素を含む転炉スラグ83%以上と、17%以下の潜在水硬性を有するSiO含有物質とからなる混合物に、消石灰、生石灰又はセメントから選ばれた1種以上と、水とを加えてから混練する際に、下記(1)〜(6)式により規定されるパラメータS=W(CaO)+0.13W(2CaO・SiO)−0.22W(F)−15.4の値を、60以上130以下とすることにより、スラグからのフッ素の溶出を防止することを特徴とするスラグからのフッ素溶出防止方法である。
【0012】
【数7】

【0013】
【数8】

【0014】
【数9】

【0015】
【数10】

【0016】
【数11】

【0017】
【数12】

【0018】
ただし、(1)式により求められる(%CaO)AVは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンCa2+の供給源の質量パーセント表示の平均組成を示し、(2)式により求められる(%SiOAVは、転炉スラグに添加する、潜在水硬性を有するSiO含有物質の質量パーセント表示の平均組成を示し、(3)式により求められるWAVは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンCa2+、及び潜在水硬性を有するSiO含有物質のkg表示の総重量を示し、(4)式により求められるW(CaO)は、CaOの転炉スラグ1kg当りの質量(g)を示し、(5)式により求められるW(2CaO・SiO)は、2CaO・SiOの転炉スラグ1kg当りの質量(g)を示し、(1)〜(5)式における添字1、2、・・・・・、nは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンの供給源、及び潜在水硬性を有するSiO含有物質の種類を示し、(6)式により求められるW(F)は、転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量(g)を示し、(4)式及び(5)式におけるWは、転炉スラグのkg表示の総重量を示し、さらに、(6)式における(%F)は、質量パーセント表示の転炉スラグのフッ素濃度を示す。
【0019】
なお、(%CaO)AVを計算するに際しては、カルシウムイオンCa2+の供給源として添加する消石灰、生石灰又はセメントの中に含まれるCa含有化合物である水酸化カルシウムCa(OH)、炭酸カルシウムの組成をCaO組成に換算する。具体的には各化合物の分子量を考慮して水酸化カルシウムCa(OH)の含有量に56/74を乗じた値を、炭酸カルシウムの含有量に56/100を乗じた値をCaOの含有量として考慮する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るスラグからのフッ素溶出防止方法により、フッ素を含有する転炉スラグを用いて高強度な水和硬化体を製造するとともに、この水和硬化体を再粉砕及び整粒して路盤材等として使用する場合におけるフッ素の溶出を、安価かつ確実に抑制することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るスラグからのフッ素溶出防止方法を実施するための最良の形態を、詳細に説明する。
上述したように、特許文献1、2により開示された発明にしたがって製鋼スラグ、中でも転炉スラグを原料として高強度のスラグの水和硬化体を形成する際に、転炉スラグに蛍石が含まれていると、形成された水和硬化体を粉砕して路盤材等として使用しようとすると未反応の転炉スラグ粒が直接溶出液と接触することになるため、フッ素が溶出する。
【0022】
本発明者らの知見によれば、形成された水和硬化体からフッ素の溶出を抑制するのに必要なカルシウムイオンCa2+の供給量は、水和硬化体を形成するに必要なカルシウムイオンCa2+の供給量よりも多量である。このため、転炉スラグに蛍石が含まれている場合であっても形成された水和硬化体からのフッ素の溶出を抑制するために、高強度なスラグの水和硬化体を製造することができるだけではなく、フッ素の溶出を抑制することができる十分な量のカルシウムイオンCa2+を放出する物質、例えば消石灰、生石灰又はセメント等を添加する。
【0023】
すなわち、転炉スラグを含んだ水和硬化体を形成するために、転炉スラグと、潜在水硬性を有するSiO含有物質との混合物を混練して成形する。さらに、例えば消石灰や生石灰等のカルシウムイオンCa2+を放出する物質を添加することにより、転炉スラグおよび消石灰、生石灰等からカルシウムイオンCa2+が供給されてSiO含有物質との水和反応が促進され、フッ素の固定化に有効な高Ca/Si濃度比を有する水和硬化体が形成される。
【0024】
フッ素の溶出はフッ素イオンFの形で進行する。カルシウムイオンCa2+を多量に供給すると、水溶液中でフッ素イオンFとカルシウムイオンCa2+との反応が起こってフッ化カルシウムCaFの沈殿物が生成し、これにより、水溶液中のフッ素イオンFの量が減少するので、水和硬化体からのフッ素の溶出が抑制される。
【0025】
また、カルシウムイオンCa2+を多量に供給すると、転炉スラグ中のカルシウムシリケート相が水和反応する際に高Ca/Si濃度比のCaO−SiO−HO系化合物が生成し、水溶液中のフッ素イオンFを取り込む。これによっても、水和硬化体からのフッ素の溶出が抑制される。
【0026】
カルシウムイオンCa2+の供給源としては、消石灰、生石灰の他にセメントといった、酸化カルシウムや水酸化カルシウムを比較的高濃度で含む物質が例示される。
特許文献1により開示された発明のように水和硬化体を形成することだけが目的であるならば、カルシウムイオンCa2+の供給量は少量で十分である。特に転炉スラグにも酸化カルシウムが含まれているから、転炉スラグ及び潜在水硬性を有するSiO含有物質の混合物を混錬するだけでも十分に水和硬化体を形成できることもある。しかし、上述したように、この水和硬化体からのフッ素の溶出を防止することはできない。
【0027】
フッ素を含む転炉スラグからのフッ素の溶出の有無、すなわち固化体からのフッ素の溶出の有無は、転炉スラグに添加するカルシウムイオンCa2+の供給源、および潜在水硬性を有するSiO含有物質の平均組成から計算されるカルシウム含有鉱物相の種類と量、及び、転炉スラグに含まれるフッ素量の両者によって、決定される。
【0028】
カルシウムイオンCa2+の供給源となるカルシウム含有鉱物相は、単体のCaO及びダイカルシウムシリケート2CaO・SiOであると考えられる。
転炉スラグに添加するカルシウムイオンCa2+の供給源及び潜在水硬性を有するSiO含有物質それぞれの質量パーセント表示の平均組成(%CaO)AV、(%SiOAV、kg表示の総重量WAVは、それぞれ(1)式、(2)式及び(3)式により表される。
【0029】
また、これらの鉱物相の転炉スラグ1kg当りの質量(g)であるW(CaO)、W(2CaO・SiO)は、それぞれ(4)式、(5)式により表される。(4)式及び(5)式におけるWは、転炉スラグのkg表示の総重量を示す。
【0030】
これら(1)式〜(5)式における添字の1、2、nは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンの供給源、及び潜在水硬性を有するSiO含有物質の種類を示す。
転炉スラグ1kgに含まれるF量(g)であるW(F)は(6)式により表される。この(6)式における(%F)は質量パーセント表示の転炉スラグのフッ素濃度を示す。
【0031】
【数13】

【0032】
【数14】

【0033】
【数15】

【0034】
【数16】

【0035】
【数17】

【0036】
【数18】

【0037】
図1は、2CaO・SiOの添加量が転炉スラグ1kg当り190gであるとともに転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量が60gである条件下で、CaOの添加量と水和硬化体からのフッ素の溶出量の対数との関係を示すグラフである。なお、水和硬化体からのフッ素の溶出量は、環境庁告示46号に準拠して測定した。また、フッ素の溶出量の測定方法は以降の例でも本例と同じである。
【0038】
図1にグラフで示すように、フッ素の溶出量の対数は、CaOの添加量が上昇するにつれて直線的に低下する。
図2は、CaOの添加量が転炉スラグ1kg当り29gであるとともに転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量が60gである条件下で、2CaO・SiOの添加量と水和硬化体からのフッ素の溶出量の対数との関係を示すグラフである。
【0039】
図2にグラフで示すように、フッ素の溶出量の対数は、2CaO・SiOの添加量が上昇するにつれて直線的に低下する。
図3は、CaOの添加量が転炉スラグ1kg当り29gであり、2CaO・SiOの添加量が転炉スラグ1kg当り190gである条件下で、転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量(g)と水和硬化体からのフッ素の溶出量の対数との関係を示すグラフである。
【0040】
図3にグラフで示すように、フッ素の溶出量の対数は、フッ素量が上昇するにつれて直線的に上昇する。
そして、転炉スラグを含んだ水和硬化体からのフッ素の溶出量の常用対数は、(7)式の右辺に比例する。
【0041】
【数19】

【0042】
【数20】

【0043】
(7)式の右辺である(8)式で示されるパラメータSを種々変更し、転炉スラグを含んだ水和硬化体からのフッ素の溶出量を調査した結果、このパラメータSを60以上130以下とすることにより、水和硬化体からのフッ素の溶出を適正な範囲に抑制できることがわかった。
【0044】
このように、本発明は、転炉スラグを含んだ水和硬化体からのフッ素の溶出量を適正な範囲に制御することができる指標を、現に提供する点に技術的意義を有するものであり、このような指標は本願出願前には得られていないものである。
【0045】
このパラメータSを60以上130以下に制御することにより、フッ素を含有した転炉スラグを用いて水和硬化体からのフッ素の溶出を抑制することができ、生成スラグの用途拡大と、廃棄時の環境負荷の低減とを同時に実現することができる。
【0046】
パラメータSを60以上130以下とする手段は特に限定されるものではなく、水和硬化体を製造する際に配合する転炉スラグ、潜在水硬性を有するSiO含有物質、消石灰、生石灰さらにはセメント等の、カルシウムイオンCa2+を放出する物質を適宜配合し、その条件で計算される2CaO・SiOの添加量、フッ素量及びCaO添加量が(7)式を満足するように定めればよい。
【0047】
このように、本実施の形態では、実際上には常時監視することができない、スラグからのフッ素の溶出を制御する手段としてパラメータSを用い、このパラメータSの制御因子として、2CaO・SiOの添加量、フッ素量及びCaO添加量等といった、直接制御することが可能な因子を用いるので、スラグからのフッ素の溶出を確実に防止でき、実用上の利益は大きい。
【0048】
パラメータSの値が130を超えると転炉スラグに対する潜在水硬性を有するSiO含有物質、消石灰、生石灰、セメント等のカルシウムイオンCa2+を放出する物質の添加量が多くなってコストが嵩むとともに、水和硬化体の発生量が転炉スラグに対して過大となり、スラグの有効利用が困難となる。一方、パラメータSの値が60未満ではカルシウムイオンCa2+の供給量が不足し、フッ素の溶出量が増加して環境上の問題が生じる。そこで、本発明では、パラメータSの値を60以上130以下と限定する。同様の観点から、パラメータSの値は68以上130以下であることが望ましい。
【0049】
本実施の形態では、このパラメータSの値が60以上130以下となるようにして、フッ素を含む転炉スラグと、高炉水砕スラグ等の潜在水硬性を有するSiO含有物質とからなる混合物に、消石灰、生石灰、セメント等のカルシウムイオンCa2+を放出する物質を混合し、水とを加えてから混練する。その後、養生期間を経て硬化した水和硬化体を形成することによって、フッ素の溶出を防止する。
【0050】
ここで、「転炉スラグ」とは、転炉の精錬で発生したスラグを意味する。この場合の転炉精錬の目的は、脱炭、脱りん又は昇温を目的としたものでもよいし、脱炭は最小限として脱りんを主目的とするいわゆる転炉型溶銑脱りんでもよい。
【0051】
転炉スラグは、精錬容器である転炉の攪拌が十分であるため、冷却後のスラグが比較的均一で未反応の遊離石灰も少ない特徴がある。このため、転炉スラグは、転炉等の製鋼炉へ装入する前の脱燐、脱珪又は脱硫工程で発生する溶銑予備処理スラグや、転炉から出鋼した溶鋼を真空脱ガス装置で二次精錬する際に生じる二次精錬スラグ等に比較すると、骨材としての効果を十分に発揮することができ、水和硬化体の形成に一層有利である。
【0052】
潜在水硬性を有するSiO含有物質とは代表的には高炉水砕スラグであるが、類似の組成を有するごみ溶融スラグ等を使用することができる。高炉水砕スラグ等の潜在水硬性を有するSiO含有物質は、未粉砕のものをそのまま使用してもよいが、それを微粉砕したものを使用すれば水硬性が向上するため、より好ましい。
【0053】
本実施の形態により、フッ素を含有する転炉スラグを用いて高強度な水和硬化体を製造するとともに、この水和硬化体を再粉砕及び整粒して路盤材等に使用する場合におけるフッ素の溶出を安価かつ確実に抑制することができる。
【実施例1】
【0054】
さらに、本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
(本発明例1)
表1に示す組成を有する原料を用い、フッ素を6%含有した転炉スラグ1:87.5%、及び高炉スラグ微粉末:12.5%の混合物に対して、水酸化カルシウムを外数で13.8%、水を外数で10.0%加えて混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。本例では、パラメータSの値は80とした。
【表1】

【0055】
この水和硬化体の圧壊強度をJIS A 1108により定められる圧縮強度試験により求め、処理コストを配合する転炉スラグ以外の原料費用により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は25.5N/mmであり、処理コストは転炉スラグ1トン当りの指数で100であり、いずれも、路盤材として使用するのに十分に満足されるものであった。
【0056】
さらに、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠した方法により振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定した。その結果、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.04mgと極めて良好であり、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準である0.8mgを十分にクリアできた。
【0057】
(本発明例2)
フッ素を1.4%含有した転炉スラグ2:87.5%、及び高炉スラグ微粉末:12.5%の混合物に対して、水酸化カルシウムを外数で13.8%、水を外数で10.0%加えてから混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。本例では、パラメータSの値は90とした。
【0058】
この水和硬化体の圧壊強度及び処理コストを実施例1と同様の手段により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は23.5N/mmであり、処理コスト指数は転炉スラグ1トン当り100であり、いずれも、路盤材に使用するのに十分に満足されるものであった。
【0059】
さらに、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、実施例1と同様の振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定した。その結果、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.02mmgと極めて良好であり、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準を十分にクリアできた。
【0060】
(本発明例3)
フッ素を6%含有した転炉スラグ1:92.8%、高炉スラグ微粉末7.3%の混合物に対して、水酸化カルシウムを外数で12.7%、水を外数で9.7%加えてから混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。この場合のパラメータSの値は69とした。
【0061】
この水和硬化体の圧壊強度及び処理コストを実施例1と同様の手段により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は23N/mmであり、処理コスト指数は転炉スラグ1トン当り78であり、いずれも、路盤材に使用するのに十分に満足されるものであった。
【0062】
さらに、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、実施例1と同様の振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定した。その結果、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.05mmgと極めて良好であり、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準を十分にクリアできた。
【0063】
(本発明例4)
フッ素を6%含有した転炉スラグ1:82.6%、高炉スラグ微粉末:17.4%の混合物に対して、水酸化カルシウムを外数で12.3%、水を外数で9.3%加えてから混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。この場合のパラメータSの値は69とした。
【0064】
この水和硬化体の圧壊強度及び処理コストを実施例1と同様の手段により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は23.5N/mmであり、処理コスト指数は転炉スラグ1トン当り109であり、いずれも、路盤材に使用するのに十分に満足されるものであった。
【0065】
さらに、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、実施例1と同様の振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定した。その結果、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.06mmgと極めて良好であり、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準を十分にクリアできた。
【0066】
(本発明例5)
フッ素を6%含有した転炉スラグ1に対して、CaO含有量53%、SiO含有量25%のセメント1を外数で57.1%、水を外数で14.3%加えてから混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。この場合のパラメータSの値は61とした。
【0067】
この水和硬化体の圧壊強度及び処理コストを実施例1と同様の手段により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は24N/mmであり、処理コスト指数は転炉スラグ1トン当り249であり、いずれも、路盤材に使用するのに十分に満足されるものであった。
【0068】
さらに、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、実施例1と同様の振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定した。その結果、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.1mmgと良好であり、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準をクリアできた。
【0069】
(本発明例6)
フッ素を6%含有した転炉スラグ1:92.1%、高炉スラグ微粉末:7.9%の混合物に対して、CaO含有量65%、SiO2含有量22%のセメント2を外数で32.9%、水を外数で13.2%加えてから混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。この場合のパラメータSの値は80とした。
【0070】
この水和硬化体の圧壊強度及び処理コストを実施例1と同様の手段により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は24N/mmであり、処理コスト指数は転炉スラグ1トン当り172であり、いずれも、路盤材に使用するのに十分に満足されるものであった。
【0071】
さらに、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、実施例1と同様の振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定した。その結果、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.07mmgと良好であり、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準をクリアできた。
【0072】
(比較例)
フッ素を6%含有した転炉スラグ1:83.7%、高炉スラグ微粉末16.3%の混合物に対して、水酸化カルシウムを外数で7.6%、水を外数で10.9%加えてから混練し、5週間養生して水和硬化体を生成した。この場合のパラメータSの値は27とした。
【0073】
生成した水和硬化体の圧壊強度及び処理コストを実施例1と同様の手段により求めて、それぞれ評価した。その結果、圧壊強度は22.5N/mmであり、処理コスト指数は転炉スラグ1トン当り80であり、いずれも、路盤材に使用するのに十分に満足されるものであった。
【0074】
しかし、この水和硬化体を粉砕して2mm以下の粉末とし、実施例1と同様の振盪試験を行い、水溶液1L当たりのフッ素含有量を測定したところ、水溶液1L当たりのフッ素含有量は0.6mmgと、環境庁が定めたフッ素溶出防止基準はクリアできたが、本発明例での値よりは高かった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】2CaO・SiOの添加量が転炉スラグ1kg当り190gであるとともに転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量が60gである条件下で、CaOの添加量と水和硬化体からのフッ素の溶出量の対数との関係を示すグラフである。
【図2】CaOの添加量が転炉スラグ1kg当り29gであるとともに転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量が60gである条件下で、2CaO・SiOの添加量と水和硬化体からのフッ素の溶出量の対数との関係を示すグラフである。
【図3】CaOの添加量が転炉スラグ1kg当り29gであり、2CaO・SiOの添加量が転炉スラグ1kg当り190gである条件下で、転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量(g)と水和硬化体からのフッ素の溶出量の対数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、フッ素を含む転炉スラグ83%以上と、17%以下の潜在水硬性を有するSiO含有物質とからなる混合物に、消石灰、生石灰又はセメントから選ばれた1種以上と、水とを加えてから混練する際に、下記(1)〜(6)式により規定されるパラメータSの値を60以上130以下とすることにより、スラグからのフッ素の溶出を防止することを特徴とするスラグからのフッ素溶出防止方法。
S=W(CaO)+0.13W(2CaO・SiO)−0.22W(F)−15.4
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

ただし、
(1)式により求められる(%CaO)AVは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンCa2+の供給源の質量パーセント表示の平均組成を示し、
(2)式により求められる(%SiOAVは、転炉スラグに添加する、潜在水硬性を有するSiO含有物質の質量パーセント表示の平均組成を示し、
(3)式により求められるWAVは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンCa2+、及び潜在水硬性を有するSiO含有物質のkg表示の総重量を示し、
(4)式により求められるW(CaO)は、CaOの転炉スラグ1kg当りの質量(g)を示し、
(5)式により求められるW(2CaO・SiO)は、2CaO・SiOの転炉スラグ1kg当りの質量(g)を示し、
(1)〜(5)式における添字1、2、・・・・・、nは、転炉スラグに添加するカルシウムイオンの供給源、及び潜在水硬性を有するSiO含有物質の種類を示し、
(6)式により求められるW(F)は、転炉スラグ1kgに含まれるフッ素量(g)を示し、
(4)式及び(5)式におけるWは、転炉スラグのkg表示の総重量を示し、さらに、
(6)式における(%F)は、質量パーセント表示の転炉スラグのフッ素濃度を示す。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−195568(P2008−195568A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32149(P2007−32149)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(507047805)
【Fターム(参考)】