スラスト玉軸受
【課題】負荷容量を大きくして、寿命および信頼性を向上することができるスラスト玉軸受を提供する。
【解決手段】スラスト玉軸受21は、回転軸線を含む平面で切断した断面において、内輪22aおよび外輪22bのそれぞれの軌道面24a、24bと玉23とが軸方向の異なる接触点25a、25bで接触してスラスト荷重を支持する。ここで、内輪22aの接触点25aの位置する側の軌道面24aと内輪22aの外側面となる外径面26aとの角に位置するエッジ27aは、回転軸線と平行であって玉23の中心を通る直線29aを径方向の境界として、内輪22aの主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置するよう構成されている。
【解決手段】スラスト玉軸受21は、回転軸線を含む平面で切断した断面において、内輪22aおよび外輪22bのそれぞれの軌道面24a、24bと玉23とが軸方向の異なる接触点25a、25bで接触してスラスト荷重を支持する。ここで、内輪22aの接触点25aの位置する側の軌道面24aと内輪22aの外側面となる外径面26aとの角に位置するエッジ27aは、回転軸線と平行であって玉23の中心を通る直線29aを径方向の境界として、内輪22aの主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置するよう構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト玉軸受に関し、特に、負荷容量の大きい箇所に使用されるスラスト玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な風力発電機は、ブレードによって受けた風力エネルギーを基に、発電機等を利用して発電する。図12は、従来における風力発電機の主軸支持構造の図解的側面図である。図12を参照して、風力発電機101は、風力を受けるブレード102と、ブレード102を一端に固定する主軸103と、主軸103の他端に接続された増速機104と、ロータ軸を介して増速機104に連結された発電機105と、ナセル106とを含む。発電機105等は、ナセル106内に収容されている。ナセル106は、高所において、内輪の内径を2m前後とする大型旋回軸受(図示せず)を介して支持台(図示せず)に旋回可能に取り付けられている。ナセル106を支持する大型旋回軸受には、スラスト荷重を受けることができるスラスト軸受が使用される。また、ブレード102についても、受ける風力の調整等の観点から、スラスト荷重を受けることができる大型旋回軸受107によって旋回可能に支持されている。なお、このようなナセルを支持する大型旋回軸受が、特許第3706396号(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特許第3706396号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブレード102やナセル106は風等により様々な方向から荷重を受けるため、風力発電機に使用される大型旋回軸受には、大きなスラスト荷重やモーメント荷重が作用する。ここで、上記した大型旋回軸受の転動体が玉であると、このような荷重が作用したときにスラスト軸受に含まれる軌道輪の軌道面と玉との接触角が大きくなる。そうすると、玉と軌道面との接触楕円が軌道面を乗り上げて、玉がエッジ当たりとなる虞がある。
【0004】
これを、図13を用いて説明する。図13は、上記した大型旋回軸受として使用される従来におけるスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。図13を参照して、スラスト玉軸受111は、内輪112aと、外輪112bと、内輪112aおよび外輪112bの軌道面114a、114b上を転動する玉113とを備える。なお、一点鎖線で、玉113のピッチ円119aを示す。
【0005】
軌道面114a、114bと玉113とは、二点鎖線で示す同じ作用線119b上にある接触点115a、115bにて、それぞれ接触する。また、図13中のハッチング部分で、玉113と軌道面114a、114bとの接触時における接触楕円118a、118bを示している。ここで、例えば、内輪112aが受ける矢印XIIIの方向またはその逆の方向のスラスト荷重やモーメント荷重が大きくなると、玉113と軌道面114bとの接触角θが大きくなる。接触角θとは、図13において、軸受の回転軸に垂直な直線119cと作用線119bとが交わる角度である。なお、図13中、直線119cは点線で示している。そうすると、内輪112aのうち、接触点115aの位置する側の軌道面114aのエッジ117a、すなわち、軌道面114aと外径面116aとの交わる角に位置するエッジ117aに玉113の接触楕円118aが重なるようになる。その結果、玉113がエッジ117aを乗り越えて、玉113と内輪112aとがエッジ当たりしてしまう虞がある。
【0006】
従来は、このようなエッジ当たりを防止するために、玉113と軌道面114aとの初期の接触角θを約45度とし、θを小さくして対応していた。しかし、θが小さいと、スラスト玉軸受111の荷重の負荷容量が小さくなってしまう。このようなスラスト玉軸受111は、寿命が短く、また、信頼性が低いものとなってしまう。
【0007】
この発明の目的は、負荷容量を大きくして、寿命および信頼性を向上することができるスラスト玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るスラスト玉軸受は、外径側に軌道面を有する内輪、および内輪に対向して設けられ内径側に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、軌道面上を転動する複数の玉とを備える。また、スラスト玉軸受は、回転軸線を含む平面で切断した断面において、内輪および外輪のそれぞれの軌道面と玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持する。ここで、上記した断面において、軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、接触点の位置する側の軌道面と軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、回転軸線と平行であって玉の中心を通る直線を径方向の境界として、軌道輪の主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置する。
【0009】
このようなスラスト玉軸受は、荷重負荷時において、玉の接触楕円が軌道面のエッジに重なる虞を低減して、玉のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉と軌道面とが接触する初期接触角を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0010】
この発明の他の局面においては、スラスト玉軸受は、外径面に軌道面を有する内輪、および内輪に対向して設けられ内径面に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、軌道面上を転動する複数の玉とを備える。また、スラスト玉軸受は、回転軸線を含む平面で切断した断面において、内輪および外輪のそれぞれの軌道面と玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持する。ここで、上記した断面において、軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、接触点の位置する側の軌道面と軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、軌道輪と玉との接触時に形成される接触楕円の外側にある。
【0011】
このようなスラスト玉軸受についても、スラスト玉軸受の負荷容量を大きくすることができ、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0012】
好ましくは、玉と軌道面との初期接触角は、50度以上70度以下である。玉と軌道面との初期接触角をこのような範囲とすることにより、スラスト玉軸受の負荷容量を確実に大きくすることができ、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0013】
さらに好ましくは、エッジには、面取りが設けられている。こうすることにより、エッジと玉が接触した場合であっても、玉とエッジとの接触によるエッジ応力を緩和することができる。面取りは、R面取りが好ましい。こうすることにより、軌道面とエッジを滑らかに連ねることができる。
【0014】
さらに好ましくは、スラスト玉軸受は、複列である。こうすることにより、さらに負荷容量を大きくして、さらに、寿命および信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
このようなスラスト玉軸受は、荷重負荷時において、玉の接触楕円が軌道面のエッジに重なる虞を低減して、玉のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉と軌道面とが接触する初期接触角を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図2は、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受を、例えば、ナセルやブレードを支持する軸受として適用した風力発電機の一例を示す図である。図2を参照して、風力発電機11は、風力を受けるブレード12と、ブレード12を一方端に固定された主軸13と、主軸13を支持する主軸支持軸受14と、主軸支持軸受14を組み込む軸受ハウジング15と、主軸13の他方端に取り付けられた増速機16と、増速機16に連結された発電機17と、発電機17等を覆うナセル18とを含む。増速機16の出力軸は、発電機17のロータ軸に結合されている。ナセル18は、内輪の内径を2m前後とする大型旋回軸受19aで支持台20上に旋回自在に支持されている。ナセル18は、旋回用モータにより、減速機を介して任意の角度に旋回させられる。また、ブレード12についても、受ける風力の調整等の観点から、スラスト荷重を受けることができる大型旋回軸受19bによって支持されている。ここで、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受は、ナセル18を旋回自在に支持する大型旋回軸受19aやブレード12を支持する大型旋回軸受19bとして適用される。
【0017】
次に、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。図1は、スラスト玉軸受21が支持する回転軸の回転軸線(図示せず)を含む平面で切断した場合の断面図である。
【0018】
図1を参照して、スラスト玉軸受21は、外径側に軌道面24aを有する内輪22a、および内輪22aに対向して設けられ内径側に軌道面24bを有する外輪22bを含む軌道輪と、軌道面24a、24b上を転動する複数の玉23と、複数の玉23を保持する保持器(図示せず)とを備える。内輪22aの外径面26aおよび外輪22bの内径面26bは、スラスト玉軸受21の回転軸線方向に真直ぐに延びている。なお、玉23の中心を通り、回転軸線に平行な直線29aを図1中の一点鎖線で示している。また、図1においては、理解の容易の観点から、保持器の図示を省略している。
【0019】
スラスト玉軸受21は、内輪22aおよび外輪22bのそれぞれの軌道面24a、24bと玉23とが軸方向の異なる接触点25a、25bで接触し、図1中の矢印Iの方向またはその逆の方向に負荷されるスラスト荷重を支持する。接触点25aと接触点25bはそれぞれ、玉23の中心を通り、図1中の二点鎖線で示す荷重の作用線29b上にある。なお、図1中のハッチング部分で、玉23と軌道面24a、24bとの接触時における接触楕円28a、28bを示している。また、軸受の回転軸線に垂直な直線29cと作用線29bとのなす角を接触角α1として示している。図1中、直線29cは、点線で示し、作用線29bは、二点鎖線で示している。
【0020】
ここで、図1に示す断面において、内輪22aの接触点25aの位置する側の軌道面24aと内輪22aの外側面となる外径面26aとの角に位置するエッジ27aは、回転軸線と平行であって玉23の中心を通る直線29aを径方向の境界として、内輪22aの主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置するよう構成されている。ここで、内輪22aの場合、主要部が位置する一方側は、直線29aよりも内径側となり、エッジ27aが位置する他方側は、直線29aよりも外径側となる。すなわち、玉23のピッチ円の直径であるPCD(Pitch Circle Diameter)をL1とし、エッジ27aを含む外径面26aの直径をL2とすると、L2>L1となるよう構成されている。また、外輪22bの接触点25bの位置する側の軌道面24bと外輪22bの外側面となる内径面26bとの角に位置するエッジ27bについても、回転軸線と平行であって玉23の中心を通る直線29aを径方向の境界として、外輪22bの主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置するよう構成されている。外輪22bの場合、主要部が位置する一方側は、直線29aよりも外径側となり、エッジ27bが位置する他方側は、直線29aよりも内径側となる。すなわち、エッジ27bを含む内径面26bの直径をL3とすると、L3<L1となるよう構成されている。
【0021】
このように構成することにより、スラスト玉軸受21の荷重負荷時において、玉23の接触楕円28aが軌道面24aのエッジ27aに重なる虞を低減して、玉23のエッジ当たりを防止することができる。同様に、玉23の接触楕円28bが軌道面24bのエッジ27bに重なる虞を低減して、玉23のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉23と軌道面24aとが接触する初期接触角α1を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受21の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受21の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0022】
なお、エッジ27a、27bについては、面取りを設けていることが好ましい。こうすることにより、突発的に多大なスラスト荷重等が作用し、万が一、玉23とエッジ27a、27bが接触した場合であっても。玉23とエッジ27a、27bとの接触によるエッジ応力を緩和することができる。この場合、面取りは、R面取りとすることがさらに好ましい。こうすることにより、軌道面24aとエッジ27a、および軌道面24bとエッジ27bを滑らかに連ねるよう構成することができ、さらに玉23のエッジ当たりを防止することができる。
【0023】
次に、この発明の他の実施の形態について説明する。図3は、この発明の他の実施の形態に係るスラスト玉軸受31の一部を示す断面図であり、図1に対応する。スラスト玉軸受31の基本的な構成は、図1に示すスラスト玉軸受21と同様であるため、その説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0024】
図3を参照して、スラスト玉軸受31は、内輪32a、外輪32b、および玉33を含む。また、軸受の回転軸線に垂直な直線39cと作用線39bとのなす角を接触角α2として示している。図3中、直線39cは、点線で示し、作用線39bは、二点鎖線で示している。ここで、図3に示す断面において、内輪32aの接触点35aの位置する側の軌道面34aと内輪32aの外側面となる外径面36aの角に位置するエッジ37aは、内輪32aと玉33との接触時に形成される接触楕円38aの外側にあるよう構成されている。ここでは、玉33のPCDをL4とし、エッジ37aを含む外径面36aの直径をL5とすると、L5≒L4となるよう構成されている。また、外輪32bの接触点35bの位置する側の軌道面34bと外輪32bの外側面となる内径面36bの角に位置するエッジ37bは、外輪32bと玉33との接触時に形成される接触楕円38bの外側にあるよう構成されている。ここでは、エッジ37bを含む内径面36bの直径をL6とすると、L6≒L4となるよう構成されている。
【0025】
このように構成することによっても、スラスト玉軸受31の荷重負荷時において、玉33の接触楕円38aが軌道面34aのエッジ37aに重なる虞を低減して、玉33のエッジ当たりを防止することができる。同様に、玉33の接触楕円38bが軌道面34bのエッジ37bに重なる虞を低減して、玉33のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉33と軌道面34aとが接触する初期接触角α2を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受31の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受31の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0026】
ここで、上記の実施の形態においては、初期接触角α1、α2は、50度以上70度以下とすることが好ましい。このように構成することにより、スラスト玉軸受21、31の負荷容量を確実に大きくすることができ、スラスト玉軸受21、31の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0027】
次に、この発明のさらに他の実施の形態について説明する。図4は、この発明に係る単列のスラスト玉軸受41の一部を示す断面図である。スラスト玉軸受41の基本的な構成は、上記したスラスト玉軸受21、31と同様であるため、その説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0028】
図4を参照して、スラスト玉軸受41は、内輪42aと、外輪42bと、玉43とを備える。内輪42aには、外部となる内径面45から軌道面44aまで貫通する転動体挿入孔46が設けられている。転動体挿入孔46は、玉43を挿入可能な大きさである。転動体挿入孔46は、環状の内輪42aのうち、周方向の一部に設けられている。
【0029】
このようなスラスト玉軸受41は、内輪42aと外輪42bとを組み合わせた後、軌道面44a、44bで構成される環状のスペースに、転動体挿入孔46から玉43を矢印IVで示す方向に順次組入れるようにして形成される。すなわち、環状のスペースに挿入した玉43を順次、図4の紙面表側方向または裏側方向に移動させながら、玉43を挿入する。この場合、予め保持器(図示せず)を環状のスペースに配置するようにしてもよい。また、各玉43間に間座型保持器(図示せず)を転動体挿入孔46から挿入してもよい。組立て後、転動体挿入孔46には、止め栓(図示せず)が嵌合される。止め栓は、略円柱状であって、転動体挿入孔46に嵌合して転動体挿入孔46を塞ぐ形状である。止め栓の一方の端面は、転動体挿入孔46に嵌合されたときに、内輪42aの軌道面44aと連なって軌道面を形成する形状である。このようにして、スラスト玉軸受41は組立てられる。
【0030】
また、図5に示すように、スラスト玉軸受を複列に構成することにしてもよい。図5は、この発明に係る複列のスラスト玉軸受51の一部を示す断面図であり、図4に対応する。図5を参照して、スラスト玉軸受51は、内輪52aと、外輪52bと、複数の玉53a、53bとを備える。玉53a、53bは、複列、すなわち、軸方向に2列で配列されている。また、図4に示すスラスト玉軸受41と同様に、内輪52aには、外部となる内径面55から軌道面54a、54bまで貫通する2列の転動体挿入孔56a、56bが設けられている。
【0031】
この場合、スラスト玉軸受51は複列であるため、さらに負荷容量を大きくして、さらに、寿命および信頼性を向上することができる。
【0032】
なお、このような複列のスラスト玉軸受51は、組立てる際に、図5中のVで示す部分において、玉53a、53bと内輪52aとが接触してしまうため、以下のようにして組立てられる。まず、内輪52aと外輪52bを組み合わせた後、外輪52bの外径側に加熱装置(図示せず)を配置して外輪52bを加熱する。そして、外輪52bを外径側に熱膨張させる。このようにして、軌道面54a、54bで構成される環状のスペースを径方向に大きくする。次に、玉53a、53bを、転動体挿入孔56a、56bから順次挿入する。玉53a、53bを全て挿入した後に、内径側から止め栓(図示せず)で転動体挿入孔56a、56bを塞ぐ。その後、加熱を止め、外輪52bを元の温度に戻す。このようにして、図5に示す複列のスラスト玉軸受51は組立てられる。
【0033】
また、複列のスラスト玉軸受については、軌道輪が軸方向に分割可能な構成であってもよい。図6は、この場合における複列のスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。図6を参照して、スラスト玉軸受61に備えられる内輪62aは、軸方向に2分割された構成である。すなわち、内輪62aは、2つの内輪部材62c、62dを軸方向に組み合わせて構成されている。このようなスラスト玉軸受61は、内輪62aが軸方向に分割されているため、外輪62bを熱膨張させることなく、それぞれの玉63a、63bを組み込んで組立てることができる。
【0034】
なお、上記の実施の形態においては、外輪を加熱して熱膨張させ、外輪の熱的変形により環状のスペースを大きくして玉を挿入することにしたが、これに限らず、例えば、内輪の内径側に内輪冷却装置を配置し、これにより内輪を冷却して熱収縮させ、内輪の熱的変形により環状のスペースを大きくして玉を挿入することにしてもよい。
【0035】
また、上記の実施の形態においては、内輪に転動体挿入孔を設けることにしたが、これに限らず、外輪に転動体挿入孔を設けることにしてもよい。この場合、例えば、外輪の外径面から軌道面まで貫通するように、転動体挿入孔を設ける。また、転動体挿入孔は、径方向および軸方向に延びるよう構成してもよい。さらに、周方向の異なる位置に、複数の転動体挿入孔を設けることにしてもよい。
【0036】
なお、上記の実施の形態において、面取りは、R面取りとすることにしたが、これに限らず、他の面取り、例えば、C面取りを設けることにしてもよい。
【0037】
また、上記の実施の形態においては、エッジを構成する外径面または内径面は、回転軸線方向に真直ぐに延びた形状としたが、これに限らず、回転軸線に対して傾きを有する形状としてもよい。
【0038】
ここで、上記した図1等において、理解の容易の観点から図示を省略した保持器を備えるスラスト玉軸受の構成を図示すると、図7に示す通りである。図7は、保持器を含む断面で図1に示すスラスト玉軸受21を切断した場合の断面図である。また、図8は、スラスト玉軸受21に備えられる保持器の一部を示す斜視図である。図1、図7および図8を参照して、スラスト玉軸受21に備えられる保持器71は、環状であって、一対の環状部72a、72bと、一対の環状部72a、72bを連結して玉23を収容するポケット73を形成するように延びる複数の柱部74とを含む。一対の環状部72a、72bは、径が異なるように構成されている。このような保持器71の材質としては、樹脂製であることが好ましいが、用途等に応じて砲金製や鉄製としてもよい。
【0039】
また、上記した図4等において、理解の容易の観点から図示を省略したスラスト玉軸受41に備えられる間座型保持器を図示すると、図9および図10に示す通りである。図9は、図4に示すスラスト玉軸受41内に配置された際の間座型保持器76を周方向から見た図であり、図10は、図9に示す矢印Xの方向から見た図である。また、図11は、スラスト玉軸受41内に組み込まれた状態の玉43および間座型保持器76を示す図である。図4、図9〜図11を参照して、スラスト玉軸受41に備えられる間座型保持器76は、円筒状部材を構成する一対の面77a、77bに、玉43を受け入れるよう球面状に凹んだ凹部78を設けた形状である。スラスト玉軸受41内における玉43は、隣接するように配置された間座型保持器76の凹部78で保持される(図11参照)。このような間座型保持器76の材質としては、樹脂製や鉄製が好まれる。
【0040】
なお、上記した保持器71や間座型保持器76を備える構成は、上記したいずれのスラスト玉軸受についても適用される。
【0041】
また、上記したスラスト玉軸受において、保持器を有しない構成、すなわち、総転動体形式としてもよい。
【0042】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明に係るスラスト玉軸受は、風力発電機の旋回部において、有効に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図2】この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受を用いた風力発電機の主軸支持構造の一例を示す図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る複列スラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図7】図1に示すスラスト玉軸受を、保持器を含む断面で切断した場合の断面図である。
【図8】図1に示すスラスト玉軸受に備えられる保持器の一部を示す斜視図である。
【図9】図4に示すスラスト玉軸受に備えられる間座型保持器を示す図である。
【図10】図9に示す間座型保持器を図9中の矢印Xの方向から見た図である。
【図11】スラスト玉軸受内に組み込まれた状態の玉および間座型保持器を示す図である。
【図12】従来における風力発電機の主軸支持構造の図解的側面図である。
【図13】従来におけるスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
11 風力発電機、12 ブレード、13 主軸、14 主軸支持軸受、15 軸受ハウジング、16 増速機、17 発電機、18 ナセル、19a,19b 大型旋回軸受、20 支持台、21,31,41,51,61 スラスト玉軸受、22a,32a,42a,52a,62a 内輪、22b,32b,42b,52b,62b 外輪、23,33,43,53a,53b,63a,63b 玉、24a,24b,34a,34b,44a,44b,54a,54b 軌道面、25a,25b,35a,35b 接触点、26a,36a 外径面、26b,36b,45,55 内径面、27a,27b,37a,37b エッジ、28a,28b,38a,38b 接触楕円、29a,29c,39c 直線、29b,39b 作用線、46,56a,56b 転動体挿入孔、62c,62d 内輪部材、71 保持器、72a,72b 環状部、73 ポケット、74 柱部、76 間座型保持器、77a,77b 面、78 凹部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト玉軸受に関し、特に、負荷容量の大きい箇所に使用されるスラスト玉軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な風力発電機は、ブレードによって受けた風力エネルギーを基に、発電機等を利用して発電する。図12は、従来における風力発電機の主軸支持構造の図解的側面図である。図12を参照して、風力発電機101は、風力を受けるブレード102と、ブレード102を一端に固定する主軸103と、主軸103の他端に接続された増速機104と、ロータ軸を介して増速機104に連結された発電機105と、ナセル106とを含む。発電機105等は、ナセル106内に収容されている。ナセル106は、高所において、内輪の内径を2m前後とする大型旋回軸受(図示せず)を介して支持台(図示せず)に旋回可能に取り付けられている。ナセル106を支持する大型旋回軸受には、スラスト荷重を受けることができるスラスト軸受が使用される。また、ブレード102についても、受ける風力の調整等の観点から、スラスト荷重を受けることができる大型旋回軸受107によって旋回可能に支持されている。なお、このようなナセルを支持する大型旋回軸受が、特許第3706396号(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特許第3706396号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブレード102やナセル106は風等により様々な方向から荷重を受けるため、風力発電機に使用される大型旋回軸受には、大きなスラスト荷重やモーメント荷重が作用する。ここで、上記した大型旋回軸受の転動体が玉であると、このような荷重が作用したときにスラスト軸受に含まれる軌道輪の軌道面と玉との接触角が大きくなる。そうすると、玉と軌道面との接触楕円が軌道面を乗り上げて、玉がエッジ当たりとなる虞がある。
【0004】
これを、図13を用いて説明する。図13は、上記した大型旋回軸受として使用される従来におけるスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。図13を参照して、スラスト玉軸受111は、内輪112aと、外輪112bと、内輪112aおよび外輪112bの軌道面114a、114b上を転動する玉113とを備える。なお、一点鎖線で、玉113のピッチ円119aを示す。
【0005】
軌道面114a、114bと玉113とは、二点鎖線で示す同じ作用線119b上にある接触点115a、115bにて、それぞれ接触する。また、図13中のハッチング部分で、玉113と軌道面114a、114bとの接触時における接触楕円118a、118bを示している。ここで、例えば、内輪112aが受ける矢印XIIIの方向またはその逆の方向のスラスト荷重やモーメント荷重が大きくなると、玉113と軌道面114bとの接触角θが大きくなる。接触角θとは、図13において、軸受の回転軸に垂直な直線119cと作用線119bとが交わる角度である。なお、図13中、直線119cは点線で示している。そうすると、内輪112aのうち、接触点115aの位置する側の軌道面114aのエッジ117a、すなわち、軌道面114aと外径面116aとの交わる角に位置するエッジ117aに玉113の接触楕円118aが重なるようになる。その結果、玉113がエッジ117aを乗り越えて、玉113と内輪112aとがエッジ当たりしてしまう虞がある。
【0006】
従来は、このようなエッジ当たりを防止するために、玉113と軌道面114aとの初期の接触角θを約45度とし、θを小さくして対応していた。しかし、θが小さいと、スラスト玉軸受111の荷重の負荷容量が小さくなってしまう。このようなスラスト玉軸受111は、寿命が短く、また、信頼性が低いものとなってしまう。
【0007】
この発明の目的は、負荷容量を大きくして、寿命および信頼性を向上することができるスラスト玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るスラスト玉軸受は、外径側に軌道面を有する内輪、および内輪に対向して設けられ内径側に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、軌道面上を転動する複数の玉とを備える。また、スラスト玉軸受は、回転軸線を含む平面で切断した断面において、内輪および外輪のそれぞれの軌道面と玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持する。ここで、上記した断面において、軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、接触点の位置する側の軌道面と軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、回転軸線と平行であって玉の中心を通る直線を径方向の境界として、軌道輪の主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置する。
【0009】
このようなスラスト玉軸受は、荷重負荷時において、玉の接触楕円が軌道面のエッジに重なる虞を低減して、玉のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉と軌道面とが接触する初期接触角を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0010】
この発明の他の局面においては、スラスト玉軸受は、外径面に軌道面を有する内輪、および内輪に対向して設けられ内径面に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、軌道面上を転動する複数の玉とを備える。また、スラスト玉軸受は、回転軸線を含む平面で切断した断面において、内輪および外輪のそれぞれの軌道面と玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持する。ここで、上記した断面において、軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、接触点の位置する側の軌道面と軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、軌道輪と玉との接触時に形成される接触楕円の外側にある。
【0011】
このようなスラスト玉軸受についても、スラスト玉軸受の負荷容量を大きくすることができ、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0012】
好ましくは、玉と軌道面との初期接触角は、50度以上70度以下である。玉と軌道面との初期接触角をこのような範囲とすることにより、スラスト玉軸受の負荷容量を確実に大きくすることができ、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0013】
さらに好ましくは、エッジには、面取りが設けられている。こうすることにより、エッジと玉が接触した場合であっても、玉とエッジとの接触によるエッジ応力を緩和することができる。面取りは、R面取りが好ましい。こうすることにより、軌道面とエッジを滑らかに連ねることができる。
【0014】
さらに好ましくは、スラスト玉軸受は、複列である。こうすることにより、さらに負荷容量を大きくして、さらに、寿命および信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
このようなスラスト玉軸受は、荷重負荷時において、玉の接触楕円が軌道面のエッジに重なる虞を低減して、玉のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉と軌道面とが接触する初期接触角を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図2は、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受を、例えば、ナセルやブレードを支持する軸受として適用した風力発電機の一例を示す図である。図2を参照して、風力発電機11は、風力を受けるブレード12と、ブレード12を一方端に固定された主軸13と、主軸13を支持する主軸支持軸受14と、主軸支持軸受14を組み込む軸受ハウジング15と、主軸13の他方端に取り付けられた増速機16と、増速機16に連結された発電機17と、発電機17等を覆うナセル18とを含む。増速機16の出力軸は、発電機17のロータ軸に結合されている。ナセル18は、内輪の内径を2m前後とする大型旋回軸受19aで支持台20上に旋回自在に支持されている。ナセル18は、旋回用モータにより、減速機を介して任意の角度に旋回させられる。また、ブレード12についても、受ける風力の調整等の観点から、スラスト荷重を受けることができる大型旋回軸受19bによって支持されている。ここで、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受は、ナセル18を旋回自在に支持する大型旋回軸受19aやブレード12を支持する大型旋回軸受19bとして適用される。
【0017】
次に、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。図1は、スラスト玉軸受21が支持する回転軸の回転軸線(図示せず)を含む平面で切断した場合の断面図である。
【0018】
図1を参照して、スラスト玉軸受21は、外径側に軌道面24aを有する内輪22a、および内輪22aに対向して設けられ内径側に軌道面24bを有する外輪22bを含む軌道輪と、軌道面24a、24b上を転動する複数の玉23と、複数の玉23を保持する保持器(図示せず)とを備える。内輪22aの外径面26aおよび外輪22bの内径面26bは、スラスト玉軸受21の回転軸線方向に真直ぐに延びている。なお、玉23の中心を通り、回転軸線に平行な直線29aを図1中の一点鎖線で示している。また、図1においては、理解の容易の観点から、保持器の図示を省略している。
【0019】
スラスト玉軸受21は、内輪22aおよび外輪22bのそれぞれの軌道面24a、24bと玉23とが軸方向の異なる接触点25a、25bで接触し、図1中の矢印Iの方向またはその逆の方向に負荷されるスラスト荷重を支持する。接触点25aと接触点25bはそれぞれ、玉23の中心を通り、図1中の二点鎖線で示す荷重の作用線29b上にある。なお、図1中のハッチング部分で、玉23と軌道面24a、24bとの接触時における接触楕円28a、28bを示している。また、軸受の回転軸線に垂直な直線29cと作用線29bとのなす角を接触角α1として示している。図1中、直線29cは、点線で示し、作用線29bは、二点鎖線で示している。
【0020】
ここで、図1に示す断面において、内輪22aの接触点25aの位置する側の軌道面24aと内輪22aの外側面となる外径面26aとの角に位置するエッジ27aは、回転軸線と平行であって玉23の中心を通る直線29aを径方向の境界として、内輪22aの主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置するよう構成されている。ここで、内輪22aの場合、主要部が位置する一方側は、直線29aよりも内径側となり、エッジ27aが位置する他方側は、直線29aよりも外径側となる。すなわち、玉23のピッチ円の直径であるPCD(Pitch Circle Diameter)をL1とし、エッジ27aを含む外径面26aの直径をL2とすると、L2>L1となるよう構成されている。また、外輪22bの接触点25bの位置する側の軌道面24bと外輪22bの外側面となる内径面26bとの角に位置するエッジ27bについても、回転軸線と平行であって玉23の中心を通る直線29aを径方向の境界として、外輪22bの主要部が位置する一方側から延びて境界を越え他方側に位置するよう構成されている。外輪22bの場合、主要部が位置する一方側は、直線29aよりも外径側となり、エッジ27bが位置する他方側は、直線29aよりも内径側となる。すなわち、エッジ27bを含む内径面26bの直径をL3とすると、L3<L1となるよう構成されている。
【0021】
このように構成することにより、スラスト玉軸受21の荷重負荷時において、玉23の接触楕円28aが軌道面24aのエッジ27aに重なる虞を低減して、玉23のエッジ当たりを防止することができる。同様に、玉23の接触楕円28bが軌道面24bのエッジ27bに重なる虞を低減して、玉23のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉23と軌道面24aとが接触する初期接触角α1を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受21の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受21の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0022】
なお、エッジ27a、27bについては、面取りを設けていることが好ましい。こうすることにより、突発的に多大なスラスト荷重等が作用し、万が一、玉23とエッジ27a、27bが接触した場合であっても。玉23とエッジ27a、27bとの接触によるエッジ応力を緩和することができる。この場合、面取りは、R面取りとすることがさらに好ましい。こうすることにより、軌道面24aとエッジ27a、および軌道面24bとエッジ27bを滑らかに連ねるよう構成することができ、さらに玉23のエッジ当たりを防止することができる。
【0023】
次に、この発明の他の実施の形態について説明する。図3は、この発明の他の実施の形態に係るスラスト玉軸受31の一部を示す断面図であり、図1に対応する。スラスト玉軸受31の基本的な構成は、図1に示すスラスト玉軸受21と同様であるため、その説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0024】
図3を参照して、スラスト玉軸受31は、内輪32a、外輪32b、および玉33を含む。また、軸受の回転軸線に垂直な直線39cと作用線39bとのなす角を接触角α2として示している。図3中、直線39cは、点線で示し、作用線39bは、二点鎖線で示している。ここで、図3に示す断面において、内輪32aの接触点35aの位置する側の軌道面34aと内輪32aの外側面となる外径面36aの角に位置するエッジ37aは、内輪32aと玉33との接触時に形成される接触楕円38aの外側にあるよう構成されている。ここでは、玉33のPCDをL4とし、エッジ37aを含む外径面36aの直径をL5とすると、L5≒L4となるよう構成されている。また、外輪32bの接触点35bの位置する側の軌道面34bと外輪32bの外側面となる内径面36bの角に位置するエッジ37bは、外輪32bと玉33との接触時に形成される接触楕円38bの外側にあるよう構成されている。ここでは、エッジ37bを含む内径面36bの直径をL6とすると、L6≒L4となるよう構成されている。
【0025】
このように構成することによっても、スラスト玉軸受31の荷重負荷時において、玉33の接触楕円38aが軌道面34aのエッジ37aに重なる虞を低減して、玉33のエッジ当たりを防止することができる。同様に、玉33の接触楕円38bが軌道面34bのエッジ37bに重なる虞を低減して、玉33のエッジ当たりを防止することができる。そうすると、玉33と軌道面34aとが接触する初期接触角α2を大きくすることができる。したがって、スラスト玉軸受31の負荷容量を大きくすることができる。また、スラスト玉軸受31の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0026】
ここで、上記の実施の形態においては、初期接触角α1、α2は、50度以上70度以下とすることが好ましい。このように構成することにより、スラスト玉軸受21、31の負荷容量を確実に大きくすることができ、スラスト玉軸受21、31の寿命および信頼性を大きく向上することができる。
【0027】
次に、この発明のさらに他の実施の形態について説明する。図4は、この発明に係る単列のスラスト玉軸受41の一部を示す断面図である。スラスト玉軸受41の基本的な構成は、上記したスラスト玉軸受21、31と同様であるため、その説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0028】
図4を参照して、スラスト玉軸受41は、内輪42aと、外輪42bと、玉43とを備える。内輪42aには、外部となる内径面45から軌道面44aまで貫通する転動体挿入孔46が設けられている。転動体挿入孔46は、玉43を挿入可能な大きさである。転動体挿入孔46は、環状の内輪42aのうち、周方向の一部に設けられている。
【0029】
このようなスラスト玉軸受41は、内輪42aと外輪42bとを組み合わせた後、軌道面44a、44bで構成される環状のスペースに、転動体挿入孔46から玉43を矢印IVで示す方向に順次組入れるようにして形成される。すなわち、環状のスペースに挿入した玉43を順次、図4の紙面表側方向または裏側方向に移動させながら、玉43を挿入する。この場合、予め保持器(図示せず)を環状のスペースに配置するようにしてもよい。また、各玉43間に間座型保持器(図示せず)を転動体挿入孔46から挿入してもよい。組立て後、転動体挿入孔46には、止め栓(図示せず)が嵌合される。止め栓は、略円柱状であって、転動体挿入孔46に嵌合して転動体挿入孔46を塞ぐ形状である。止め栓の一方の端面は、転動体挿入孔46に嵌合されたときに、内輪42aの軌道面44aと連なって軌道面を形成する形状である。このようにして、スラスト玉軸受41は組立てられる。
【0030】
また、図5に示すように、スラスト玉軸受を複列に構成することにしてもよい。図5は、この発明に係る複列のスラスト玉軸受51の一部を示す断面図であり、図4に対応する。図5を参照して、スラスト玉軸受51は、内輪52aと、外輪52bと、複数の玉53a、53bとを備える。玉53a、53bは、複列、すなわち、軸方向に2列で配列されている。また、図4に示すスラスト玉軸受41と同様に、内輪52aには、外部となる内径面55から軌道面54a、54bまで貫通する2列の転動体挿入孔56a、56bが設けられている。
【0031】
この場合、スラスト玉軸受51は複列であるため、さらに負荷容量を大きくして、さらに、寿命および信頼性を向上することができる。
【0032】
なお、このような複列のスラスト玉軸受51は、組立てる際に、図5中のVで示す部分において、玉53a、53bと内輪52aとが接触してしまうため、以下のようにして組立てられる。まず、内輪52aと外輪52bを組み合わせた後、外輪52bの外径側に加熱装置(図示せず)を配置して外輪52bを加熱する。そして、外輪52bを外径側に熱膨張させる。このようにして、軌道面54a、54bで構成される環状のスペースを径方向に大きくする。次に、玉53a、53bを、転動体挿入孔56a、56bから順次挿入する。玉53a、53bを全て挿入した後に、内径側から止め栓(図示せず)で転動体挿入孔56a、56bを塞ぐ。その後、加熱を止め、外輪52bを元の温度に戻す。このようにして、図5に示す複列のスラスト玉軸受51は組立てられる。
【0033】
また、複列のスラスト玉軸受については、軌道輪が軸方向に分割可能な構成であってもよい。図6は、この場合における複列のスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。図6を参照して、スラスト玉軸受61に備えられる内輪62aは、軸方向に2分割された構成である。すなわち、内輪62aは、2つの内輪部材62c、62dを軸方向に組み合わせて構成されている。このようなスラスト玉軸受61は、内輪62aが軸方向に分割されているため、外輪62bを熱膨張させることなく、それぞれの玉63a、63bを組み込んで組立てることができる。
【0034】
なお、上記の実施の形態においては、外輪を加熱して熱膨張させ、外輪の熱的変形により環状のスペースを大きくして玉を挿入することにしたが、これに限らず、例えば、内輪の内径側に内輪冷却装置を配置し、これにより内輪を冷却して熱収縮させ、内輪の熱的変形により環状のスペースを大きくして玉を挿入することにしてもよい。
【0035】
また、上記の実施の形態においては、内輪に転動体挿入孔を設けることにしたが、これに限らず、外輪に転動体挿入孔を設けることにしてもよい。この場合、例えば、外輪の外径面から軌道面まで貫通するように、転動体挿入孔を設ける。また、転動体挿入孔は、径方向および軸方向に延びるよう構成してもよい。さらに、周方向の異なる位置に、複数の転動体挿入孔を設けることにしてもよい。
【0036】
なお、上記の実施の形態において、面取りは、R面取りとすることにしたが、これに限らず、他の面取り、例えば、C面取りを設けることにしてもよい。
【0037】
また、上記の実施の形態においては、エッジを構成する外径面または内径面は、回転軸線方向に真直ぐに延びた形状としたが、これに限らず、回転軸線に対して傾きを有する形状としてもよい。
【0038】
ここで、上記した図1等において、理解の容易の観点から図示を省略した保持器を備えるスラスト玉軸受の構成を図示すると、図7に示す通りである。図7は、保持器を含む断面で図1に示すスラスト玉軸受21を切断した場合の断面図である。また、図8は、スラスト玉軸受21に備えられる保持器の一部を示す斜視図である。図1、図7および図8を参照して、スラスト玉軸受21に備えられる保持器71は、環状であって、一対の環状部72a、72bと、一対の環状部72a、72bを連結して玉23を収容するポケット73を形成するように延びる複数の柱部74とを含む。一対の環状部72a、72bは、径が異なるように構成されている。このような保持器71の材質としては、樹脂製であることが好ましいが、用途等に応じて砲金製や鉄製としてもよい。
【0039】
また、上記した図4等において、理解の容易の観点から図示を省略したスラスト玉軸受41に備えられる間座型保持器を図示すると、図9および図10に示す通りである。図9は、図4に示すスラスト玉軸受41内に配置された際の間座型保持器76を周方向から見た図であり、図10は、図9に示す矢印Xの方向から見た図である。また、図11は、スラスト玉軸受41内に組み込まれた状態の玉43および間座型保持器76を示す図である。図4、図9〜図11を参照して、スラスト玉軸受41に備えられる間座型保持器76は、円筒状部材を構成する一対の面77a、77bに、玉43を受け入れるよう球面状に凹んだ凹部78を設けた形状である。スラスト玉軸受41内における玉43は、隣接するように配置された間座型保持器76の凹部78で保持される(図11参照)。このような間座型保持器76の材質としては、樹脂製や鉄製が好まれる。
【0040】
なお、上記した保持器71や間座型保持器76を備える構成は、上記したいずれのスラスト玉軸受についても適用される。
【0041】
また、上記したスラスト玉軸受において、保持器を有しない構成、すなわち、総転動体形式としてもよい。
【0042】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明に係るスラスト玉軸受は、風力発電機の旋回部において、有効に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図2】この発明の一実施形態に係るスラスト玉軸受を用いた風力発電機の主軸支持構造の一例を示す図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態に係るスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る複列スラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【図7】図1に示すスラスト玉軸受を、保持器を含む断面で切断した場合の断面図である。
【図8】図1に示すスラスト玉軸受に備えられる保持器の一部を示す斜視図である。
【図9】図4に示すスラスト玉軸受に備えられる間座型保持器を示す図である。
【図10】図9に示す間座型保持器を図9中の矢印Xの方向から見た図である。
【図11】スラスト玉軸受内に組み込まれた状態の玉および間座型保持器を示す図である。
【図12】従来における風力発電機の主軸支持構造の図解的側面図である。
【図13】従来におけるスラスト玉軸受の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
11 風力発電機、12 ブレード、13 主軸、14 主軸支持軸受、15 軸受ハウジング、16 増速機、17 発電機、18 ナセル、19a,19b 大型旋回軸受、20 支持台、21,31,41,51,61 スラスト玉軸受、22a,32a,42a,52a,62a 内輪、22b,32b,42b,52b,62b 外輪、23,33,43,53a,53b,63a,63b 玉、24a,24b,34a,34b,44a,44b,54a,54b 軌道面、25a,25b,35a,35b 接触点、26a,36a 外径面、26b,36b,45,55 内径面、27a,27b,37a,37b エッジ、28a,28b,38a,38b 接触楕円、29a,29c,39c 直線、29b,39b 作用線、46,56a,56b 転動体挿入孔、62c,62d 内輪部材、71 保持器、72a,72b 環状部、73 ポケット、74 柱部、76 間座型保持器、77a,77b 面、78 凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径側に軌道面を有する内輪、および前記内輪に対向して設けられ内径側に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、前記軌道面上を転動する複数の玉とを備え、
回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記内輪および前記外輪のそれぞれの軌道面と前記玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持するスラスト玉軸受であって、
前記断面において、前記軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、前記接触点の位置する側の前記軌道面と前記軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、前記回転軸線と平行であって前記玉の中心を通る直線を径方向の境界として、前記軌道輪の主要部が位置する一方側から延びて前記境界を越え他方側に位置する、スラスト玉軸受。
【請求項2】
外径面に軌道面を有する内輪、および前記内輪に対向して設けられ内径面に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、前記軌道面上を転動する複数の玉とを備え、
回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記内輪および前記外輪のそれぞれの軌道面と前記玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持するスラスト玉軸受であって、
前記断面において、前記軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、前記接触点の位置する側の前記軌道面と前記軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、前記軌道輪と前記玉との接触時に形成される接触楕円の外側にある、スラスト玉軸受。
【請求項3】
前記玉と前記軌道面との初期接触角は、50度以上70度以下である、請求項1または2に記載のスラスト玉軸受。
【請求項4】
前記エッジには、面取りが設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載のスラスト玉軸受。
【請求項5】
前記面取りは、R面取りである、請求項4に記載のスラスト玉軸受。
【請求項6】
前記スラスト玉軸受は、複列である、請求項1〜5のいずれかに記載のスラスト玉軸受。
【請求項1】
外径側に軌道面を有する内輪、および前記内輪に対向して設けられ内径側に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、前記軌道面上を転動する複数の玉とを備え、
回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記内輪および前記外輪のそれぞれの軌道面と前記玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持するスラスト玉軸受であって、
前記断面において、前記軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、前記接触点の位置する側の前記軌道面と前記軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、前記回転軸線と平行であって前記玉の中心を通る直線を径方向の境界として、前記軌道輪の主要部が位置する一方側から延びて前記境界を越え他方側に位置する、スラスト玉軸受。
【請求項2】
外径面に軌道面を有する内輪、および前記内輪に対向して設けられ内径面に軌道面を有する外輪を含む軌道輪と、前記軌道面上を転動する複数の玉とを備え、
回転軸線を含む平面で切断した断面において、前記内輪および前記外輪のそれぞれの軌道面と前記玉とが軸方向の異なる接触点で接触してスラスト荷重を支持するスラスト玉軸受であって、
前記断面において、前記軌道輪のうちの少なくとも一方のうち、前記接触点の位置する側の前記軌道面と前記軌道輪の外側面との角に位置するエッジは、前記軌道輪と前記玉との接触時に形成される接触楕円の外側にある、スラスト玉軸受。
【請求項3】
前記玉と前記軌道面との初期接触角は、50度以上70度以下である、請求項1または2に記載のスラスト玉軸受。
【請求項4】
前記エッジには、面取りが設けられている、請求項1〜3のいずれかに記載のスラスト玉軸受。
【請求項5】
前記面取りは、R面取りである、請求項4に記載のスラスト玉軸受。
【請求項6】
前記スラスト玉軸受は、複列である、請求項1〜5のいずれかに記載のスラスト玉軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−174688(P2009−174688A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16536(P2008−16536)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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