スラスト転がり軸受
【課題】保持器3aとスラストレース2、2とを組み合わせる際にこの保持器3aを損傷しにくくできて、しかも、組み合わせ後にはこれら保持器3aとスラストレース2、2とを確実に非分離状態にできる構造を実現する。
【解決手段】上記保持器3aとして、内周縁部に円筒状部13を、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目12を、それぞれ設けたものを使用する。上記保持器3aの自由状態で、上記円筒状部13の先端部の外径が上記両スラストレース2、2の内周縁部に形成した係止突条部5、5の内径よりも大きい。又、上記円筒状部13の外周面に形成した1対の係止凹溝10、10の底部の直径が、上記両係止突条部5、5の内径未満である。上記切れ目12を利用して、上記保持器3aの直径を弾性的に縮めつつ、上記両係止突条部5、5と上記両係止凹溝10、10とを係合させられるので、上記課題を解決できる。
【解決手段】上記保持器3aとして、内周縁部に円筒状部13を、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目12を、それぞれ設けたものを使用する。上記保持器3aの自由状態で、上記円筒状部13の先端部の外径が上記両スラストレース2、2の内周縁部に形成した係止突条部5、5の内径よりも大きい。又、上記円筒状部13の外周面に形成した1対の係止凹溝10、10の底部の直径が、上記両係止突条部5、5の内径未満である。上記切れ目12を利用して、上記保持器3aの直径を弾性的に縮めつつ、上記両係止突条部5、5と上記両係止凹溝10、10とを係合させられるので、上記課題を解決できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばステアリングホイールの位置調節装置の締付装置の構成部品の如く、大きなスラスト荷重を受けつつ相対回転する1対の部材同士の間に組み込むスラスト転がり軸受の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
チルト式ステアリング装置、テレスコピックステアリング装置、チルト&テレスコピックステアリング装置等のステアリングホイールの位置調節装置の締付装置には、スラスト転がり軸受を組み込んだものがある。このスラスト転がり軸受としては、複数の転動体を保持した保持器と1対のスラストレースとを非分離且つ相対回転を自在に組み合わせたものを使用する事が、部品管理、上記締付装置の組立作業を容易にする為に好ましい。この様な事情に鑑みて、図8〜13に示す様なスラスト転がり軸受1を使用する事が考えられている。
【0003】
上記スラスト転がり軸受1は、2枚のスラストレース2、2と、保持器3と、それぞれが転動体である複数個のころ4、4とを備える。このうちのスラストレース2、2は、それぞれが軸受鋼、肌焼鋼等の硬質金属板により円輪状に形成されたもので、内周縁の軸方向内端部(互いに近い方の端部)に、上記両スラストレース2、2の本体部分よりも薄肉の係止突条部5、5を、全周に亙って形成している。又、上記保持器3は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の合成樹脂を射出成形する事により全体を円輪状に造られたもので、円輪状の本体部分6の内周縁部に円筒部7を、全周に亙り、この本体部分6から軸方向両側に突出する状態で形成している。又、この本体部分6の径方向中間部に複数のポケット8、8を、円周方向に関して等間隔に設けると共に、円周方向に隣り合うポケット8、8同士の間を柱部9、9としている。円周方向に隣り合う柱部9、9同士の間隔(これら各ポケット8、8の内寸)は、これら各ポケット8、8の軸方向両端開口部で上記各ころ4、4の外径よりも少しだけ小さく、その間部分でこれら各ころ4、4の外径よりも少しだけ大きい。従って上記各ポケット8、8内にはこれら各ころ4、4を、上記各柱部9、9を円周方向に弾性変形させつつ挿入できる。そして、挿入後は上記各ポケット8、8の内部に上記各ころ4、4を転動自在に保持できる。又、上記円筒部7の外周面の軸方向2個所位置で上記本体部分6を軸方向両側から挟む位置に、それぞれ係止凹溝10、10を、全周に亙って形成している。
【0004】
それぞれが上述の様な形状を有する、上記各部材2、3、4は、次の様に組み合わせて、上記スラスト転がり軸受1を構成する。即ち、これら各ころ4、4を上記保持器3のポケット8、8内に保持すると共に、上記両スラストレース2、2の内周縁部に形成した上記両係止突条部5、5を、上記両係止凹溝10、10に係止する。この係止作業は、上記円筒部7の軸方向両端部を、その外径を縮める方向に弾性変形させつつ行う。そして、係止後の状態では、上記両スラストレース2、2を上記保持器3に対し、相対回転自在に、且つ、非分離に組み合わせて、上記スラスト転がり軸受1とする。この様なスラスト転がり軸受1は、構成各部材2、3、4を非分離に組み合わせている為、部品管理、前記締付装置等の組立作業の容易化を図れる。
【0005】
上述の様な先に考えたスラスト転がり軸受1の場合、部品管理、組立作業の容易化を図れるが、安定した品質を得る面からは、改良の余地がある。即ち、上記保持器3と上記両スラストレース2、2とを、相対回転自在且つ非分離に組み合わせる為、これら両スラストレース2、2の内周縁部の係止突条部5、5を上記円筒部7の外周面の係止凹溝10、10に係止する際に、この円筒部7の外周面の軸方向両端部を損傷し易い。具体的には、この円筒部7の軸方向両端部の変形抵抗が大きい為、上記両係止突条部5、5を上記両係止凹溝10、10に押し込む際に、上記円筒部7の軸方向両端部でこれら両係止突条部5、5により強く押された部分が削られてバリが発生したり、著しい場合にはこの部分が欠損する可能性がある。前記ステアリングホイールの位置調節装置の締付装置に組み込まれるスラスト転がり軸受1の場合、使用回転速度が遅い為、特に大きな不都合を生じる事はないが、上記締付装置の作動を円滑にする為には、上記損傷が発生する事は好ましくない。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載された転がり軸受の構造の様に、保持器を2分割すれば組み付け時の損傷を防止できる。但し、上記特許文献1に記載された様な、ラジアル転がり軸受を対象とした場合には良いが、本発明の対象となる様なスラスト転がり軸受の保持器を2分割した場合、この保持器とスラストレースとを、安定して非分離状態に組み合わせる事は難しい。又、図8〜13に鎖線で示す様に、上記円筒部7のうちで上記本体部分6から突出した部分の円周方向複数個所に切り欠き11、11を形成する事で、上記円筒部7の剛性を低くすれば、上記損傷を或る程度防止できるが、その効果は限られる。
【0007】
【特許文献1】特開2007−24142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、合成樹脂製の保持器と硬質金属製のスラストレースとを組み合わせる際にこの保持器をより損傷しにくくできて、しかも、組み合わせ後にはこれら保持器とスラストレースとを確実に非分離状態にできる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスラストころ軸受は、前述した先に考えたスラスト転がり軸受と同様に、少なくとも1枚のスラストレースと、保持器と、複数個の転動体とを備える。
このうちのスラストレースは、金属板により円輪状に形成されている。
又、上記保持器は、合成樹脂により円輪状に造られて、径方向中間部の円周方向複数個所にポケットを設けている。
又、上記各転動体は、上記保持器のポケット内に転動自在に保持された状態で、それぞれの転動面を上記スラストレースの軸方向片側面に転がり接触させている。
そして、このスラストレースと上記保持器とを、この保持器の内周縁部に軸方向に突出する状態で設けられた円筒状部の外周面にこの円筒状部の周方向全長に亙って形成した係止凹溝と上記スラストレースの内周縁とを係合させる事により、非分離に組み合わせている。
【0010】
特に、本発明のスラスト転がり軸受の場合には、上記保持器が、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目を設けたもの(所謂一つ割れ構造)である。そして、この切れ目の幅が弾性的に拡がった上記保持器の自由状態で、上記円筒状部の先端部の外径が上記スラストレースの内径よりも大きく、且つ、上記係止凹溝の底部の直径がこのスラストレースの内径未満である。
【0011】
上述の様な本発明のスラスト転がり軸受を実施する場合、より具体的には、請求項2に記載した発明の様に、上記保持器の内周縁部の円筒状部を、上記各ポケットを設けた本体部分よりも軸方向両側に突出する状態で設ける。又、この円筒状部の軸方向両端部2個所位置で上記本体部分を軸方向両側から挟む位置に、それぞれ係止凹溝を形成する。そして、この本体部分を軸方向両側から挟む位置に配置した1対のスラストレースの内周縁を、それぞれ上記両係止凹溝に係合させる。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明によれば、合成樹脂製の保持器と硬質金属製のスラストレースとを組み合わせる際にこの保持器をより損傷しにくくできて、しかも、組み合わせ後にはこれら保持器とスラストレースとを確実に非分離状態にできるスラスト転がり軸受を実現できる。
即ち、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する切れ目を設けた保持器の直径は、比較的容易に縮める事ができる。そして、この保持器の直径を縮めた状態で、上記スラストレースの内周縁と上記保持器の円筒状部の外周面に形成した係止凹溝とを係合させれば、この係合作業に伴ってこの円筒状部の端部外周面を損傷する事がない。この為、例えばステアリングホイールの位置調節装置の締付装置等、上記スラスト転がり軸受を組み込んだ各種機械装置の作動の円滑化を確実に図れる。
又、軸の中間部に大径部が存在していても、保持器の内径を弾性的に拡げる事で、この大径部を軸方向に通過させられる。この為、スラスト転がり軸受の設置位置の自由度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例のスラスト転がり軸受1aの特徴は、保持器3aを構成する円輪状の本体部分6aの円周方向1個所位置に、この保持器3aの内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目12を設けて、この保持器3aと1対のスラストレース2、2との組み合わせ作業時にこの保持器3aが損傷しにくくした点にある。その他の部分の構成及び作用は、図8〜13により既に説明した、先に考えたスラスト転がり軸受1と同様であるから、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略し、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
上記保持器3aは、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の合成樹脂を射出成形する事により全体を円輪状に造られたもので、円輪状の本体部分6aの内周縁部に円筒状部13を、上記切れ目12部分を除いて全周に亙り、この本体部分6aから軸方向両側に突出する状態で形成している。そして、上記保持器3aの円周方向の一部に上記切れ目12を、この保持器3aの内周縁から外周縁まで連続する状態で形成している。即ち、この切れ目12の一端は上記円筒状部13の内周面に、他端は上記本体部分6aの外周縁に、それぞれ開口している。上記保持器3aの自由状態での上記切れ目12の形状に関しては、特に問わない。例えば、この切れ目12の両側縁が互いに平行であっても、或いは上記本体部分6aの径方向外側に向かう程互いに近付く方向に、緩やかに傾斜していても良い。但し、円周方向に関する幅寸法に関しては、後述する、各係止突条部5、5と各係止凹溝10、10との係合を容易に行なえるだけの寸法を確保する。更に、上記本体部分6aに形成した各ポケット8、8のピッチに関しても、特に問わない。図示の例では、上記切れ目12を挟む部分のピッチαを他の部分のピッチβよりも大きく(α>β)している。この理由は、上記切れ目12と隣接するポケット8、8との間に存在する柱部9a、9aの幅寸法を確保して、これら両柱部9a、9aの強度を確保する為である。
【0015】
上述の様に構成する本例のスラスト転がり軸受1aによれば、合成樹脂製の保持器3aと、それぞれが硬質金属製である1対のスラストレース2、2とを組み合わせる際に、この保持器3aをより損傷しにくくできる。又、組み合わせ後には、これら保持器3aとスラストレース2、2とを確実に非分離状態にできる。
即ち、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する切れ目12を設けた上記保持器3aの直径は、例えば図6の左右両側から互いに近付く方向(圧縮方向)の力を加える事により、比較的容易に縮める事ができる。そして、この様にして上記保持器3aの直径を縮めた状態で、上記両スラストレース2、2の内周縁部に設けた係止突条部5、5を、上記円筒状部13の外周面に形成した係止凹溝10、10の周囲に配置してから、上記保持器3aの直径を縮めていた力を解除すれば、これら両係止凹溝10、10と上記両係止突条部5、5とを係合させられる。この状態で、上記保持器3aと上記スラストレース2、2とが、非分離に、且つ、相対回転自在に組み合わされる。
【0016】
上述の様にして行う係合作業の際に、上記両係止突条部5、5と上記円筒状部13の外周面とが強く擦れ合う事はない。従って、上記係合作業に伴って、この円筒状部13の端部外周面を損傷する事がない。この為、例えばステアリングホイールの位置調節装置の締付装置等、上記スラスト転がり軸受1aを組み込んだ各種機械装置の作動の円滑化を確実に図れる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
図示の例は、本発明をスラストころ軸受に適用した場合に就いて示したが、本発明は、スラスト玉軸受にも適用できる。又、スラスト転がり軸受の用途に関しても、ステアリングホイールの位置調節装置の締付装置に限らず、他の各種機械装置の回転支持部が対象となる。但し、切れ目を設けた保持器が遠心力で変形する事がない程度の、低速回転で使用される事が前提となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、中心軸を含む仮想平面に関する断面図。
【図2】転動体及び保持器を取り出して図1と同方向から見た断面図。
【図3】図2の上方から見た図。
【図4】全構成部品を含む分解斜視図。
【図5】保持器のみを取り出して示す斜視図。
【図6】同じく軸方向から見た図。
【図7】図6のA−A断面図。
【図8】先に考えられた構造の1例を示す断面図。
【図9】転動体及び保持器を取り出して図8の上方から見た図。
【図10】全構成部品を含む分解斜視図。
【図11】保持器のみを取り出して示す斜視図。
【図12】同じく軸方向から見た図。
【図13】図12のB−B断面図。
【符号の説明】
【0019】
1、1a スラスト転がり軸受
2 スラストレース
3、3a 保持器
4 ころ
5 係止突条部
6、6a 本体部分
7 円筒部
8 ポケット
9、9a 柱部
10 係止凹溝
11 切り欠き
12 切れ目
13 円筒状部
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばステアリングホイールの位置調節装置の締付装置の構成部品の如く、大きなスラスト荷重を受けつつ相対回転する1対の部材同士の間に組み込むスラスト転がり軸受の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
チルト式ステアリング装置、テレスコピックステアリング装置、チルト&テレスコピックステアリング装置等のステアリングホイールの位置調節装置の締付装置には、スラスト転がり軸受を組み込んだものがある。このスラスト転がり軸受としては、複数の転動体を保持した保持器と1対のスラストレースとを非分離且つ相対回転を自在に組み合わせたものを使用する事が、部品管理、上記締付装置の組立作業を容易にする為に好ましい。この様な事情に鑑みて、図8〜13に示す様なスラスト転がり軸受1を使用する事が考えられている。
【0003】
上記スラスト転がり軸受1は、2枚のスラストレース2、2と、保持器3と、それぞれが転動体である複数個のころ4、4とを備える。このうちのスラストレース2、2は、それぞれが軸受鋼、肌焼鋼等の硬質金属板により円輪状に形成されたもので、内周縁の軸方向内端部(互いに近い方の端部)に、上記両スラストレース2、2の本体部分よりも薄肉の係止突条部5、5を、全周に亙って形成している。又、上記保持器3は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の合成樹脂を射出成形する事により全体を円輪状に造られたもので、円輪状の本体部分6の内周縁部に円筒部7を、全周に亙り、この本体部分6から軸方向両側に突出する状態で形成している。又、この本体部分6の径方向中間部に複数のポケット8、8を、円周方向に関して等間隔に設けると共に、円周方向に隣り合うポケット8、8同士の間を柱部9、9としている。円周方向に隣り合う柱部9、9同士の間隔(これら各ポケット8、8の内寸)は、これら各ポケット8、8の軸方向両端開口部で上記各ころ4、4の外径よりも少しだけ小さく、その間部分でこれら各ころ4、4の外径よりも少しだけ大きい。従って上記各ポケット8、8内にはこれら各ころ4、4を、上記各柱部9、9を円周方向に弾性変形させつつ挿入できる。そして、挿入後は上記各ポケット8、8の内部に上記各ころ4、4を転動自在に保持できる。又、上記円筒部7の外周面の軸方向2個所位置で上記本体部分6を軸方向両側から挟む位置に、それぞれ係止凹溝10、10を、全周に亙って形成している。
【0004】
それぞれが上述の様な形状を有する、上記各部材2、3、4は、次の様に組み合わせて、上記スラスト転がり軸受1を構成する。即ち、これら各ころ4、4を上記保持器3のポケット8、8内に保持すると共に、上記両スラストレース2、2の内周縁部に形成した上記両係止突条部5、5を、上記両係止凹溝10、10に係止する。この係止作業は、上記円筒部7の軸方向両端部を、その外径を縮める方向に弾性変形させつつ行う。そして、係止後の状態では、上記両スラストレース2、2を上記保持器3に対し、相対回転自在に、且つ、非分離に組み合わせて、上記スラスト転がり軸受1とする。この様なスラスト転がり軸受1は、構成各部材2、3、4を非分離に組み合わせている為、部品管理、前記締付装置等の組立作業の容易化を図れる。
【0005】
上述の様な先に考えたスラスト転がり軸受1の場合、部品管理、組立作業の容易化を図れるが、安定した品質を得る面からは、改良の余地がある。即ち、上記保持器3と上記両スラストレース2、2とを、相対回転自在且つ非分離に組み合わせる為、これら両スラストレース2、2の内周縁部の係止突条部5、5を上記円筒部7の外周面の係止凹溝10、10に係止する際に、この円筒部7の外周面の軸方向両端部を損傷し易い。具体的には、この円筒部7の軸方向両端部の変形抵抗が大きい為、上記両係止突条部5、5を上記両係止凹溝10、10に押し込む際に、上記円筒部7の軸方向両端部でこれら両係止突条部5、5により強く押された部分が削られてバリが発生したり、著しい場合にはこの部分が欠損する可能性がある。前記ステアリングホイールの位置調節装置の締付装置に組み込まれるスラスト転がり軸受1の場合、使用回転速度が遅い為、特に大きな不都合を生じる事はないが、上記締付装置の作動を円滑にする為には、上記損傷が発生する事は好ましくない。
【0006】
これに対して、特許文献1に記載された転がり軸受の構造の様に、保持器を2分割すれば組み付け時の損傷を防止できる。但し、上記特許文献1に記載された様な、ラジアル転がり軸受を対象とした場合には良いが、本発明の対象となる様なスラスト転がり軸受の保持器を2分割した場合、この保持器とスラストレースとを、安定して非分離状態に組み合わせる事は難しい。又、図8〜13に鎖線で示す様に、上記円筒部7のうちで上記本体部分6から突出した部分の円周方向複数個所に切り欠き11、11を形成する事で、上記円筒部7の剛性を低くすれば、上記損傷を或る程度防止できるが、その効果は限られる。
【0007】
【特許文献1】特開2007−24142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、合成樹脂製の保持器と硬質金属製のスラストレースとを組み合わせる際にこの保持器をより損傷しにくくできて、しかも、組み合わせ後にはこれら保持器とスラストレースとを確実に非分離状態にできる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスラストころ軸受は、前述した先に考えたスラスト転がり軸受と同様に、少なくとも1枚のスラストレースと、保持器と、複数個の転動体とを備える。
このうちのスラストレースは、金属板により円輪状に形成されている。
又、上記保持器は、合成樹脂により円輪状に造られて、径方向中間部の円周方向複数個所にポケットを設けている。
又、上記各転動体は、上記保持器のポケット内に転動自在に保持された状態で、それぞれの転動面を上記スラストレースの軸方向片側面に転がり接触させている。
そして、このスラストレースと上記保持器とを、この保持器の内周縁部に軸方向に突出する状態で設けられた円筒状部の外周面にこの円筒状部の周方向全長に亙って形成した係止凹溝と上記スラストレースの内周縁とを係合させる事により、非分離に組み合わせている。
【0010】
特に、本発明のスラスト転がり軸受の場合には、上記保持器が、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目を設けたもの(所謂一つ割れ構造)である。そして、この切れ目の幅が弾性的に拡がった上記保持器の自由状態で、上記円筒状部の先端部の外径が上記スラストレースの内径よりも大きく、且つ、上記係止凹溝の底部の直径がこのスラストレースの内径未満である。
【0011】
上述の様な本発明のスラスト転がり軸受を実施する場合、より具体的には、請求項2に記載した発明の様に、上記保持器の内周縁部の円筒状部を、上記各ポケットを設けた本体部分よりも軸方向両側に突出する状態で設ける。又、この円筒状部の軸方向両端部2個所位置で上記本体部分を軸方向両側から挟む位置に、それぞれ係止凹溝を形成する。そして、この本体部分を軸方向両側から挟む位置に配置した1対のスラストレースの内周縁を、それぞれ上記両係止凹溝に係合させる。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明によれば、合成樹脂製の保持器と硬質金属製のスラストレースとを組み合わせる際にこの保持器をより損傷しにくくできて、しかも、組み合わせ後にはこれら保持器とスラストレースとを確実に非分離状態にできるスラスト転がり軸受を実現できる。
即ち、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する切れ目を設けた保持器の直径は、比較的容易に縮める事ができる。そして、この保持器の直径を縮めた状態で、上記スラストレースの内周縁と上記保持器の円筒状部の外周面に形成した係止凹溝とを係合させれば、この係合作業に伴ってこの円筒状部の端部外周面を損傷する事がない。この為、例えばステアリングホイールの位置調節装置の締付装置等、上記スラスト転がり軸受を組み込んだ各種機械装置の作動の円滑化を確実に図れる。
又、軸の中間部に大径部が存在していても、保持器の内径を弾性的に拡げる事で、この大径部を軸方向に通過させられる。この為、スラスト転がり軸受の設置位置の自由度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例のスラスト転がり軸受1aの特徴は、保持器3aを構成する円輪状の本体部分6aの円周方向1個所位置に、この保持器3aの内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目12を設けて、この保持器3aと1対のスラストレース2、2との組み合わせ作業時にこの保持器3aが損傷しにくくした点にある。その他の部分の構成及び作用は、図8〜13により既に説明した、先に考えたスラスト転がり軸受1と同様であるから、同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略し、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0014】
上記保持器3aは、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の合成樹脂を射出成形する事により全体を円輪状に造られたもので、円輪状の本体部分6aの内周縁部に円筒状部13を、上記切れ目12部分を除いて全周に亙り、この本体部分6aから軸方向両側に突出する状態で形成している。そして、上記保持器3aの円周方向の一部に上記切れ目12を、この保持器3aの内周縁から外周縁まで連続する状態で形成している。即ち、この切れ目12の一端は上記円筒状部13の内周面に、他端は上記本体部分6aの外周縁に、それぞれ開口している。上記保持器3aの自由状態での上記切れ目12の形状に関しては、特に問わない。例えば、この切れ目12の両側縁が互いに平行であっても、或いは上記本体部分6aの径方向外側に向かう程互いに近付く方向に、緩やかに傾斜していても良い。但し、円周方向に関する幅寸法に関しては、後述する、各係止突条部5、5と各係止凹溝10、10との係合を容易に行なえるだけの寸法を確保する。更に、上記本体部分6aに形成した各ポケット8、8のピッチに関しても、特に問わない。図示の例では、上記切れ目12を挟む部分のピッチαを他の部分のピッチβよりも大きく(α>β)している。この理由は、上記切れ目12と隣接するポケット8、8との間に存在する柱部9a、9aの幅寸法を確保して、これら両柱部9a、9aの強度を確保する為である。
【0015】
上述の様に構成する本例のスラスト転がり軸受1aによれば、合成樹脂製の保持器3aと、それぞれが硬質金属製である1対のスラストレース2、2とを組み合わせる際に、この保持器3aをより損傷しにくくできる。又、組み合わせ後には、これら保持器3aとスラストレース2、2とを確実に非分離状態にできる。
即ち、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する切れ目12を設けた上記保持器3aの直径は、例えば図6の左右両側から互いに近付く方向(圧縮方向)の力を加える事により、比較的容易に縮める事ができる。そして、この様にして上記保持器3aの直径を縮めた状態で、上記両スラストレース2、2の内周縁部に設けた係止突条部5、5を、上記円筒状部13の外周面に形成した係止凹溝10、10の周囲に配置してから、上記保持器3aの直径を縮めていた力を解除すれば、これら両係止凹溝10、10と上記両係止突条部5、5とを係合させられる。この状態で、上記保持器3aと上記スラストレース2、2とが、非分離に、且つ、相対回転自在に組み合わされる。
【0016】
上述の様にして行う係合作業の際に、上記両係止突条部5、5と上記円筒状部13の外周面とが強く擦れ合う事はない。従って、上記係合作業に伴って、この円筒状部13の端部外周面を損傷する事がない。この為、例えばステアリングホイールの位置調節装置の締付装置等、上記スラスト転がり軸受1aを組み込んだ各種機械装置の作動の円滑化を確実に図れる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
図示の例は、本発明をスラストころ軸受に適用した場合に就いて示したが、本発明は、スラスト玉軸受にも適用できる。又、スラスト転がり軸受の用途に関しても、ステアリングホイールの位置調節装置の締付装置に限らず、他の各種機械装置の回転支持部が対象となる。但し、切れ目を設けた保持器が遠心力で変形する事がない程度の、低速回転で使用される事が前提となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、中心軸を含む仮想平面に関する断面図。
【図2】転動体及び保持器を取り出して図1と同方向から見た断面図。
【図3】図2の上方から見た図。
【図4】全構成部品を含む分解斜視図。
【図5】保持器のみを取り出して示す斜視図。
【図6】同じく軸方向から見た図。
【図7】図6のA−A断面図。
【図8】先に考えられた構造の1例を示す断面図。
【図9】転動体及び保持器を取り出して図8の上方から見た図。
【図10】全構成部品を含む分解斜視図。
【図11】保持器のみを取り出して示す斜視図。
【図12】同じく軸方向から見た図。
【図13】図12のB−B断面図。
【符号の説明】
【0019】
1、1a スラスト転がり軸受
2 スラストレース
3、3a 保持器
4 ころ
5 係止突条部
6、6a 本体部分
7 円筒部
8 ポケット
9、9a 柱部
10 係止凹溝
11 切り欠き
12 切れ目
13 円筒状部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板により円輪状に形成された少なくとも1枚のスラストレースと、合成樹脂により円輪状に造られて、径方向中間部の円周方向複数個所にポケットを設けた保持器と、この保持器のポケット内に転動自在に保持された状態で、それぞれの転動面を上記スラストレースの軸方向片側面に転がり接触させた複数個の転動体とを備え、このスラストレースと上記保持器とを、この保持器の内周縁部に軸方向に突出する状態で設けられた円筒状部の外周面にこの円筒状部の周方向全長に亙って形成した係止凹溝と上記スラストレースの内周縁とを係合させる事により、非分離に組み合わせているスラスト転がり軸受であって、上記保持器が、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目を設けたものであり、この切れ目の幅が弾性的に拡がった上記保持器の自由状態で、上記円筒状部の先端部の外径が上記スラストレースの内径よりも大きく、且つ、上記係止凹溝の底部の直径がこのスラストレースの内径未満であるスラスト転がり軸受。
【請求項2】
保持器の内周縁部の円筒状部が、各ポケットを設けた本体部分よりも軸方向両側に突出する状態で設けられており、この円筒状部の軸方向両端部2個所位置で上記本体部分を軸方向両側から挟む位置にそれぞれ係止凹溝を形成しており、この本体部分を軸方向両側から挟む位置に配置した1対のスラストレースの内周縁を、それぞれ上記両係止凹溝に係合させている、請求項1に記載したスラスト転がり軸受。
【請求項1】
金属板により円輪状に形成された少なくとも1枚のスラストレースと、合成樹脂により円輪状に造られて、径方向中間部の円周方向複数個所にポケットを設けた保持器と、この保持器のポケット内に転動自在に保持された状態で、それぞれの転動面を上記スラストレースの軸方向片側面に転がり接触させた複数個の転動体とを備え、このスラストレースと上記保持器とを、この保持器の内周縁部に軸方向に突出する状態で設けられた円筒状部の外周面にこの円筒状部の周方向全長に亙って形成した係止凹溝と上記スラストレースの内周縁とを係合させる事により、非分離に組み合わせているスラスト転がり軸受であって、上記保持器が、円周方向1個所位置に内周縁から外周縁まで連続する単一の切れ目を設けたものであり、この切れ目の幅が弾性的に拡がった上記保持器の自由状態で、上記円筒状部の先端部の外径が上記スラストレースの内径よりも大きく、且つ、上記係止凹溝の底部の直径がこのスラストレースの内径未満であるスラスト転がり軸受。
【請求項2】
保持器の内周縁部の円筒状部が、各ポケットを設けた本体部分よりも軸方向両側に突出する状態で設けられており、この円筒状部の軸方向両端部2個所位置で上記本体部分を軸方向両側から挟む位置にそれぞれ係止凹溝を形成しており、この本体部分を軸方向両側から挟む位置に配置した1対のスラストレースの内周縁を、それぞれ上記両係止凹溝に係合させている、請求項1に記載したスラスト転がり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−185848(P2009−185848A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24645(P2008−24645)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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