説明

スラリーの沈降分離方法および装置ならびに廃棄物焼却処理設備

【課題】比較的比重の大きいスラグ汚泥を含むスラグ冷却水から、沈降されるスラグ汚泥を流動化して集合枡に集め、連続的に取り出す。
【解決手段】上流側上位から下流側下位にスラグ汚泥の水中の安息角未満で傾斜する傾斜底板53を有する沈降槽52と、沈降槽52の上流側に配置されてスラグ冷却水を供給する給水口56aと、沈降槽52の中間位置に配置され傾斜底板53との間にオリフィス55aを形成する仕切り板55と、傾斜底板53の下流端に設けられた集合枡54と、集合枡54からスラグ汚泥を連続して排出するスラグ汚泥排出口57aと、沈降槽52の下流側上部から上澄み水を排出する排水口60aとを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばスラグ冷却水などのスラリーからスラグ汚泥などのスラリーを沈降分離して連続して取り出すスラリーの沈降分離方法および装置ならびにそのスラリーの沈降分離装置を備えた廃棄物焼却処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、汚水槽1の小型化を図るために、下流側に垂下されて底部近傍に開口された吸込み管2から吸い込んだ汚泥を、分配器3により移送水と戻り水とに分けて、戻り水を戻り管4から汚水槽1の上流側の底部に戻し、戻り水のエネルギーにより底部に沈殿した汚泥を流動化して吸込み管2から吸引排出するものが特許文献1に開示されている。
【0003】
また前記汚水槽1は、左右の側壁1aの下部に、上位外側から下位中央側に傾斜する傾斜壁1bがそれぞれ設けられて、底部1cが上下流方向に細長い形状に形成されている。
【特許文献1】特開2003−334579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、沈降分離される汚泥スラリーが、比重の小さい下水汚泥の場合には、小さいエネルギー(流速)で汚泥を流動化させることができるが、たとえば比重の大きいスラグ汚泥(微粒状物)の場合は、極めて大きいエネルギーでないとスラグ汚泥を流動化して吸込み管まで流送することができない。また水中のスラグ汚泥の安息角が約40乃至45°であることから、傾斜壁1bの傾斜角が大きく、汚水槽1の深さが深くなるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題点を解決して、スラリー中で沈降される微粒状物を良好に流下して連続的に取り出すことができ、比較的比重の大きいスラグ汚泥であっても良好に分離可能なスラリーの沈降分離方法および装置と、この沈降分離装置を利用して連続的に取り出されたスラグ汚泥を良好に処理できる焼却処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1記載のスラリーの沈降分離方法は、スラリーに含まれる微粒状物の水中の安息角未満で上流側上位から下流側下位に傾斜する傾斜底板を有する沈降槽に、スラリーを上流側から供給し、スラリーを、沈降槽の上下流方向の中間位置に配置されて沈降槽を横断方向に仕切る仕切り板と傾斜底板との間に形成されたオリフィスを通過させて傾斜底板上に沿って流送することにより、傾斜底板上に沈降した沈降微粒状物を下流側に流下して、傾斜底板の下流端に設けられた集合枡に集め、沈降槽の下流側から上層の上澄み水を排出し、前記集合枡の沈降微粒状物を吸引して連続的に抜き出すものである。
【0007】
請求項2記載のスラリーの沈降分離方法は、請求項1記載の方法において、スラリーを、溶融スラグを冷却して水砕スラグを生成した後のスラグ冷却水とするとともに、微粒状物をスラグ汚泥とし、傾斜底板の傾斜角を10°以上とし、オリフィスにおけるスラグ冷却水の流速を15cm/秒以上とし、沈降槽の下流側で上澄み水を排出する排水速度を、上澄み水の上昇速度がスラグ汚泥の沈降速度未満となるように設定したものである。
【0008】
請求項3記載のスラリーの沈降分離装置は、スラリーに含まれる微粒状物の水中の安息角未満で上流側上位から下流側下位に傾斜する傾斜底板を有する沈降槽と、沈降槽の上流側に配置されてスラリーを供給する給水口と、沈降槽の上下流方向の中間位置で配置されて沈降槽を横断方向に仕切るとともに傾斜底板との間にオリフィスを形成する仕切り板と、前記傾斜底板の下流端に設けられた集合枡と、前記集合枡に集められた沈降微粒状物を連続して排出する微粒状物排出口と、沈殿槽の下流側上部から上澄み水を排出する排水口とを具備したものである。
【0009】
請求項4記載のスラリーの沈降分離装置は、請求項3記載の構成において、スラリーを、溶融スラグを冷却して水砕スラグを生成した後のスラグ冷却水とするとともに、微粒状物をスラグ汚泥とし、傾斜底板の傾斜角を10°以上とし、オリフィスにおけるスラグ冷却水の流速を15cm/秒以上としたものである。
【0010】
請求項5記載のスラリーの沈降分離装置は、請求項4記載の構成において、給水口を傾斜底板に沿って下流側にスラグ冷却水を送り出すように配置し、下流側で排水口より下位のスラグ冷却水中に、スラグ汚泥の浮上を防止する浮上防止部材を配置したものである。
【0011】
請求項6記載の廃棄物焼却処理設備は、廃棄物を焼却する廃棄物焼却炉と、当該廃棄物焼却炉から排出される飛灰と焼却灰とを溶融する灰溶融炉と、当該灰溶融炉から排出された溶融スラグを冷却水により冷却して水砕スラグを生成する水砕スラグ生成装置と、当該水砕スラグ生成装置から排出されたスラグ冷却水からスラグ汚泥を沈降分離する請求項4記載のスラリーの沈降分離装置とを具備し、前記水砕スラグ生成装置から前記沈降分離装置に送られてスラグ汚泥を分離した上澄み水を、上澄み水槽を介して前記水砕スラグ生成装置に冷却水として循環させる冷却水循環ラインと、前記沈降分離装置から排出されたスラグ汚泥を、透水性を有する脱水収納袋に貯留して脱水する汚泥回収タンクに送るスラグ汚泥回収ラインと、前記脱水収納袋から排水された脱水後の冷却水を冷却水循環ラインに戻して再循環させる冷却水回収ラインと、脱水後のスラグ汚泥を廃棄物焼却炉に供給して再焼却するスラグ汚泥再処理ラインとを有するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1または3記載の発明によれば、傾斜底板の傾斜角による滑落作用と、冷却水による搬送作用とにより、傾斜底板上に沈降する微粒状物を沈殿、堆積させることなく、スラリーにより良好に集合枡に流下させることができ、集合枡から連続的に沈降微粒状物を取り出すことができる。また傾斜底板の傾斜角を安息角未満にできることから、沈降槽の深さを小さくすることができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、オリフィスにおけるスラグ冷却水の流速を15cm/秒以上とすることにより、比重の大きいスラグ汚泥を傾斜底板に沿って確実に下流側に押し流し、傾斜底板上に沈殿、堆積するのを防止することができる。また下流側においてスラグ冷却水を排水する排水速度を、スラグ冷却水の上昇速度がスラグ汚泥の沈降速度未満になるように設定することによって、上澄み水に同伴されるスラグ微粒状物を少なくすることができ、スラグ冷却水とスラグ汚泥とを良好に分離することができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、オリフィスにおけるスラグ冷却水の流速を15cm/秒以上とすることにより、比重の大きいスラグ汚泥を傾斜底板に沿って確実に下流側に押し流し、傾斜底板上に沈殿、堆積するのを防止することができる。
【0015】
請求項5記載の発明によれば、給水口からスラグ冷却水をオリフィスに向かって供給することにより、給水口の流速から減速されない状態でスラグ冷却水をオリフィスに到達させて流速を保持することができ、スラグ汚泥の沈殿、堆積防止に寄与することができる。
【0016】
請求項6記載の発明によれば、冷却水循環ラインにより、水砕スラグ生成装置のスラグ冷却水を、沈降分離装置と上澄み水槽を介して循環させるとともに、冷却水回収ラインにより、脱水収納袋を使用して汚泥スラグから脱水された水を冷却水循環ラインに戻すことで、スラグ冷却水の有効利用を図ることができる。さらに沈降槽から連続して排出されるスラグ汚泥を脱水収納袋に入れて脱水した後、スラグ汚泥再処理ラインにより、脱水後のスラグ汚泥を脱水収納袋を介して容易に廃棄物焼却炉に供給して再焼却処理することができる。また脱水収納袋を使用することで、廃棄物焼却炉への搬入を容易に行うことができ、さらに底部に堆積されたスラグ汚泥層がフィルタの役割をして、スラグ汚泥の微細粒の排出を効果的に防止することができ、スラグ汚泥とスラグ冷却水とを効果的に分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。
[実施の形態1]
スラリーの沈降分離装置を備えた廃棄物焼却処理設備の実施の形態1を図1〜図3を参照して説明する。
【0018】
この廃棄物焼却処理設備は、図3に示すように、廃棄物を焼却する廃棄物焼却炉11と、廃棄物焼却炉11から排出される焼却灰および飛灰を加熱溶融する灰溶融炉21と、灰溶融炉21から排出される溶融スラグを水冷して水砕スラグを生成する水砕スラグ生成装置31とを具備し、前記水砕スラグ生成装置31の冷却水循環ライン34に本発明に係る沈降分離装置51が設置されている。
【0019】
廃棄物焼却炉11は、たとえばストーカ式焼却炉で、ごみピット13に貯留された廃棄物をごみホッパ12aから順次炉本体12内に供給し、火格子12b上で廃棄物の乾燥・燃焼・後燃焼を順次行うものである。そして焼却炉本体12で発生する排ガスを処理する排ガスライン14では、排ガスがガス冷却塔15や集塵用のバグフィルタ16などにより処理された後、煙突17から放出される。また焼却炉本体12から排出される焼却灰は、粉砕や金属除去などの処理を行った後、灰貯留ホッパ18に溜められ、さらにバグフィルタ16で捕集された飛灰はダスト貯留ホッパ19に溜められる。
【0020】
灰溶融炉21は、たとえば炉本体22の底部に収容されたベースメタル23と、天井部から昇降自在に垂下された陽電極24および陰電極25との間で形成したアークプラズマにより、灰ホッパ22aから供給された灰を加熱溶融し、オーバーフローした溶融スラグを水砕スラグ生成装置31に供給するものである。
【0021】
水砕スラグ生成装置31は、冷却水を貯留した水冷槽32に溶融スラグを投下して急冷することにより、たとえばアスファルトなどの骨材に利用可能な粒度と強度を有する水砕スラグを生成するもので、スクレーパコンベヤ等からなるスラグ取出し装置33により、水冷槽32から水砕スラグが取り出される。
【0022】
水冷槽32において、溶融スラグを冷却した後のスラグ汚泥を含むスラリーであるスラグ冷却水(以下、冷却水という)を循環して再利用する冷却水循環ライン34が設けられており、この冷却水循環ライン34には、冷却水に同伴された比較的大きい粒状水砕スラグを分離する水砕スラグ分離装置41と、冷却水からスラグ汚泥(微粒状物)を沈降分離する沈降槽52を備えた沈降分離装置51と、沈降槽52から取り出された上澄み水をさらに沈殿させて微粒状物を分離する上澄み水槽42と、冷却水を循環させる循環ポンプ43と、冷却水から熱回収する熱交換器44とが順に介在されている。この冷却水循環ライン34は、水冷槽32から水砕スラグ分離装置41を介して沈降槽52に至る回収ライン部34aと、上澄み水槽42から循環ポンプ43および熱交換器44を介して水冷槽32に至る戻しライン部34bとからなり、沈降槽52と上澄み水槽42との間に上澄み水排水管60が接続されている。
【0023】
また沈降槽52で分離されたスラグ汚泥を排出するスラグ汚泥回収ライン37には、集合枡54内のスラグ汚泥を吸引回収し搬送するスラリーポンプ71と、スラグ汚泥を脱水処理する複数の汚泥回収タンク72が設置されている。各汚泥回収タンク72は、スラグ汚泥を収容する透水性の脱水収納袋(フレキシブルコンテナ)73と、この脱水収納袋73からろ過されて汚泥回収タンク72に溜まった脱水ろ過水を汲み上げる回収ポンプ74とを具備し、スラグ汚泥を脱水収納袋73に入れて所定時間を保持することにより、スラグ汚泥を脱水するように構成されている。この脱水収納袋73では、底部に堆積されたスラグ汚泥層がフィルタの役割をして、スラグ汚泥の微細粒の排出を防止し、スラグ汚泥と冷却水とを効果的に分離することができる。さらに回収ポンプ74と上澄み水槽42とを接続する冷却水回収ライン35が設けられており、脱水収納袋73により汚泥スラグから脱水されたろ過水を上澄み水槽42に戻して冷却水循環ライン34に回収することができる。
【0024】
さらに各汚泥回収タンク72とごみピット13の間にスラグ汚泥再処理ライン36が設けられて、各汚泥回収タンク72で脱水収納袋73内で脱水された後のスラグ汚泥が脱水収納袋73を介してごみピット13に搬送され、脱水収納袋73からスラグ汚泥がごみピット13に投入されて廃棄物焼却炉11で再焼却される。
【0025】
上記構成において、ごみピット13に貯留された廃棄物が廃棄物焼却炉11に供給されて焼却され、焼却炉本体12から排出され灰貯留ホッパ18に溜められた焼却灰と、バグフィルタ16で捕集されてダスト貯留ホッパ19に溜められた飛灰とが灰溶融炉21に供給される。灰溶融炉21に投入された灰は、陽電極24および陰電極25とベースメタル23との間で形成されたアークプラズマにより加熱溶融されて溶融スラグとなり、オーバーフローした溶融スラグが水砕スラグ生成装置31の水冷槽32に排出する。
【0026】
水砕スラグ生成装置31では、水冷槽32の冷却水に投入されて溶融スラグが急冷されることにより水砕スラグが生成され、この水砕スラグはスラグ取出し装置33により水冷槽32から取り出される。
【0027】
水冷槽32の冷却水は、冷却水循環ライン34により水砕スラグ分離装置41を介して沈降分離装置51の沈降槽52に送られ、上澄み水とスラグ汚泥とに分離される。そして沈降槽52から取り出された上澄み水は、上澄み水槽42でさらに沈殿されてスラグ汚泥の微粒状物が分離された後、循環ポンプ43により熱交換器44を介して水冷槽32に循環される。また沈降槽52で分離されたスラグ汚泥は、スラグ汚泥回収ライン37により、スラリーポンプ71を介して各汚泥回収タンク72の脱水収納袋73に送られ、脱水収納袋73により脱水処理される。脱水された水は、回収ポンプ74により冷却水回収ライン35を介して上澄み水槽42に送られる。またスラグ汚泥は、スラグ汚泥再処理ライン36を介してごみピット13に搬入され廃棄物焼却炉11で再焼却される。
【0028】
次に沈降分離装置51について説明する。
図1,図2に示すように、沈降槽52が前後板52a,52bと左右の側板52c,52dと底板52eと上面カバー板52fとで箱体形に形成され、沈降槽52内に上流側上位から下流側下位に所定の傾斜角α(図では20°)で傾斜する傾斜底板53が配置され、また傾斜底板53の下流端にスラグ汚泥を集める集合枡54が設けられている。そして上下流方向の中間位置、たとえば沈降槽52の長さ:Lの0.3×L〜0.7×Lの範囲から選択された所定位置に1枚の仕切り板55が横断方向に配置され、沈降槽52を上流室52Uと下流室52Dとに分離するとともに、仕切り板55と傾斜底板53との間に、たとえば所定高さのオリフィス55aが全幅方向に形成されている。なお、この沈降槽52において、たとえば冷却水量:104m/h、仕切り板55の幅3000mm、オリフィス55aでの必要流速:15cm/秒とした場合のオリフィス55aの高さ:dは6.4cmである。
【0029】
ところで、スラグ汚泥の水中での安息角は約40°〜45°であり、傾斜底板53の傾斜角αが41度を越えると、沈降したスラグ汚泥は、傾斜底板53上に沿って自重で滑落し集合枡54に集められることになるが、傾斜底板53の傾斜角αが大きいため、深い沈降槽が必要となり、また沈降に必要な時間も考慮すると、上下流方向に十分な長さが必要で、設置スペースの確保が困難になる。
【0030】
ここで発明者等は、仕切り板によりオリフィスを形成した実験水槽に、スラグ汚泥入りの冷却水を入れ、この冷却水を上流側から下流側に10〜20cm/秒程度の流速で所定時間循環させる実験を行い、実験水槽の傾斜角:α=0°,5°,10°,15°と変化させた。この結果、傾斜角:α=0°および5°の場合、実験水槽の底面に沈降したスラグ汚泥層の厚みが上流側と下流側とでほとんど同じで、スラグ汚泥がほとんど流下されないことが確認された。また傾斜角:α=10°および15°では、上流室の堆積スラグ汚泥の厚みが、下流室に比較して薄くなっているのが観察され、傾斜角:α=10°を越えると、沈降したスラグ汚泥を流下させる効果があることが認められた。したがって、傾斜底板53の傾斜角αは、10°以上が必要であり、設置スペースなどを考慮すれば、スラグ汚泥の水中での安息角である40°〜45°未満が適正範囲であり、さらに好適には傾斜角α=15°〜30°の範囲となる。
【0031】
また沈降槽52では、沈降するスラグ汚泥を傾斜底板53上に堆積させないことが重要であり、傾斜底板53を傾斜角αだけ傾斜させただけでは堆積を防ぐことができない。このため、傾斜底板53に沿って流動する冷却水の流速を所定値以上に保持するオリフィス55aが設けられている。冷却水の流速について、発明者等は、後述の実施の形態2に示す沈殿槽を用いて数々の実験を行った結果、傾斜角α=10°で流速が15cm/秒未満では、傾斜底板53上にスラグ汚泥が幾分残り、傾斜角α=10°で流速が15cm/秒以上となると、スラグ汚泥がほぼ完全に集合枡の54に流下させることができることをつきとめた。したがって、冷却水の流速は、15cm/秒〜30cm/秒の範囲が適正であり、15cm/秒以下では、沈降スラグ汚泥が傾斜底板53上に堆積し、30cm/秒を越える流速では、スラグ汚泥沈降が阻害されて分離精度が低下するとともに、動力コストが増大するためである。
【0032】
前記上流室52Uの上流端には、冷却水循環ライン34の回収ライン部34aの先端部が接続された給水管56が上面カバー板52fを貫通して配置され、給水管56の給水口56aが、オリフィス55aに向かって全幅方向に向かってほぼ均等に冷却水を送り出すことができるように配置されている。
【0033】
前記下流室52Dには、後板52bの下部に複数のスラグ汚泥排出管57が貫通されて集合枡54に臨んでスラグ汚泥排出口(微粒成物排出口)57aが開口され、スラグ汚泥排出管57にはスラリーポンプ71を有するスラグ汚泥回収ライン37が接続されている。また集合枡54の上部には、集合枡54内に流下されたスラグ汚泥を流動化してスラリー排出口57aへの吸引を促す複数の攪拌ノズル58aを有する攪拌水ヘッダー58が配置され、後板52bを貫通する給水管59が攪拌水ヘッダー58に接続されている。
【0034】
さらに下流室52Dの上部の左側板52cには、同一水平レベルに複数の排水口60aが開口され、各排水口60aにそれぞれ上澄み水排水管60が接続されて、オーバーフローした上澄み水を上澄み水槽42に送り出すことができる。また下流室52Dの排水口60aの下方位置には、下流室52Dの平面視の全断面を覆う例えば網目状や繊維状あるいはパンチングメタルなどからなる浮上防止部材61が配置され、排水される上澄み水にスラグ汚泥が同伴されるのを防止している。またここで、スラグ汚泥の水中での沈降速度は、1.61cm/秒であることが実験により判明しており、上澄み水排水管60の上澄み冷却水の排出量がスラグ汚泥の冷却水中での沈降速度の1.61cm/秒未満となるように、下流室52Dの容積と平面視の断面積と、給水口56aの給水量および攪拌水ヘッダー58から供給される攪拌用給水量と、スラグ汚泥排出口57aからスラグ汚泥に同伴される冷却水排水量とに基づいて設定されている。
【0035】
またオリフィス55aにおける流速が15cm/秒以上となるように、オリフィス55aの開口面積と、給水口56aの給水量および攪拌水ヘッダー58から供給される攪拌用給水量と、排水口60aから排出される上澄み水排水量およびスラグ汚泥排出口57aからスラグ汚泥に同伴される冷却排水とに基づいて設定されている。
【0036】
上記構成において、給水口56aから上流室52Uに供給されたスラグ汚泥を含む冷却水は、左右両側に広がりつつオリフィス55aに至り、流速約15cm/秒以上でオリフィス55aを通過して下流室52Dに入る。そして沈降したスラグ汚泥を傾斜底板53に沿って流下させて集合枡54に送り込む。集合枡54に集められたスラグ汚泥は、攪拌水ヘッダー58から攪拌ノズル58aを介して噴き込まれた攪拌水により流動化され、スラリーポンプ71によりスラグ汚泥排出口57aを介してスラグ汚泥排出管57に吸引排出される。そしてこれらスラグ汚泥がスラグ汚泥回収ライン37を介して汚泥回収タンク72に送られる。また下流室52Dの上部では、浮上防止部材61を通過した上澄み水が排水口60aから上澄み水排出管60を介して上澄み水槽42に排出される。
【0037】
上記実施の形態1によれば、傾斜底板53の傾斜角:αによる滑落作用と、冷却水による搬送作用とにより、傾斜底板53上に沈降するスラグ汚泥を沈殿、堆積させることなく、良好に下流側の集合枡54に流下させることができ、集合枡54から連続的にスラグ汚泥を取り出すことができる。また傾斜底板53の傾斜角を安息角未満にできることから、沈降槽52の深さを低くすることができる。
【0038】
さらに、傾斜底板53の傾斜角:α=10°〜30°の範囲とし、オリフィス55aにおける冷却水の流速を15cm/秒〜30cm/秒とすることにより、比重の大きいスラグ汚泥であっても、沈降するスラグ汚泥を傾斜底板53に沿って確実に下流側に押し流して集合枡54に集めることができ、傾斜底板53上に沈殿、堆積するのを確実に防止することができる。さらに下流室52Dにおいて、上澄み水を排水するための上昇速度をスラグ汚泥の沈降速度未満とすることで、上澄み水に同伴されて排出されるスラグ汚泥の微粒状物の量を少なくすることができ、また下流室52Dに設けた浮上防止部材61により、さらに冷却水とスラグ汚泥とを良好に分離することができる。さらにまた、給水口56aから冷却水をオリフィス55aに向かって供給することにより、給水口56aの吐出流速から少ない減速でオリフィス55aに到達させて流速を十分に保持することができ、沈降するスラグ汚泥を良好に搬送して沈殿、堆積を確実に防止することができる。
【0039】
[実施の形態2]
2枚の仕切り板を配置した沈降分離装置の実施の形態2を図4および図5を参照して説明する。なお、実施の形態1と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
図4に示すように、沈降分離装置80の沈降槽52には、上流側に第1仕切り板81が配置され、この第1仕切り板81と傾斜底板53との間に、高さd1=1.6cmの第1オリフィス81aが形成されるとともに、上流室52Uが形成される。また上流室52Uの上部に給水口56aが開口されて冷却水を下方の傾斜底板53に向かって放出する。また上流室52Uで水面より下位に、給水口56aから供給された冷却水を分散させるメッシュ材などからなる整流部材83が設けられている。
【0041】
さらに沈降槽52の上下流方向の中央部下流側に第2仕切り板82が配置され、この第2仕切り板82と傾斜底板53との間に高さd2=1.6cmの第2オリフィス82aが形成され、第2仕切り板82により中間室52Mと下流室52Dが形成される。
【0042】
また給水管56は、上面カバー52fを貫通して給水口56aが下方の傾斜底板53に向かって開口されている。さらに傾斜底板53の傾斜角:α=20°で、給水口56aの給水量および攪拌水ヘッダー58から供給される攪拌用給水量と、排水口60aから排出される上澄み水排水量およびスラグ汚泥排出口57aからスラグ汚泥に同伴される冷却排水に基づいて、第1,第2オリフィス81a,82aにおける流速が15〜30cm/秒の範囲となるように設定される。
【0043】
ここで、中間室52Mの傾斜底板53の長さ:Lmと、下流室52Dの傾斜底板53の長さ:Ldは、実験により求められている。すなわち、中間室52Mにおける傾斜底板53の長さ:Lmは、第1オリフィス81aを通過する冷却水により、沈降スラグ汚泥が中間室52Mの傾斜底板53上に堆積しない長さである。
【0044】
すなわち、図5に示すように、実験水槽91にスラグ汚泥を含む冷却水(含水率90%)を入れ、仕切り板92により区画された下流室91Dから上流室91Uに上澄み水を、ポンプ93と循環パイプ94により循環させ、仕切り板92の下部に形成された高さ:H=24mmのオリフィス92aにおける流速が3.18cm/秒となるように設定した。
【0045】
この結果、オリフィス92aに堆積したスラグ汚泥Sの高さ:h=20mmであった。この結果、このオリフィス92aで実際に冷却水が通過した実高さH=4mmであり、したがって冷却水の流速が19cm/秒となっていたことが分かった。
【0046】
さらに傾斜角:α=0°で、オリフィス92aから下流側に続くスラグ汚泥Sの堆積高さhが均一に続く距離L1=75mmであり、距離L1と実高さHとの比:L1/H≒19であることから、中間室52Mの長さ:Lm<(L1/H)×d1=20×d1を満足する範囲とすれば、中間室52Mの傾斜底板53上にスラグ汚泥がほぼ堆積することがない。
【0047】
また上記実験では、オリフィス92aから下流側に続くスラグ汚泥Sの堆積高さhが、冷却水により影響される距離:L2=180mmであり、距離L2と実高さHとの比:L2/H=45であることから、下流室52Dにおける第2仕切り板82から集合枡54までの傾斜底板53の長さ:Ld=(L2/H)×d2=45×d2以下とすれば、下流室52Dの傾斜底板53上にスラグ汚泥が堆積することがない。
【0048】
もちろん、実施の形態1の下流室52Dにおける傾斜底板53の長さも、同様にして求めることができる。
上記実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加えて、第1,第2オリフィス81a,82aを設けることにより、傾斜底板53の長さを十分に確保して、沈降槽52における冷却水の滞留時間を長く確保し、スラグ汚泥の沈降による分離効果を促進することができるとともに、傾斜底板53上を流れる冷却水の流速を15〜30cm/秒の範囲に保持して、沈降するスラグ汚泥を確実に集合枡54に流下させることができる。
【0049】
なお、スラリーをスラグ冷却水としたが、これに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る沈降分離装置の実施の形態1を示す縦断面図である。
【図2】図1に示すA−A断面図である。
【図3】沈降分離装置を備えた廃棄物処理設備の構成図である。
【図4】本発明に係る沈降分離装置の実施の形態2を示す縦断面図である。
【図5】実験水槽を示す縦断面図である。
【図6】従来の汚泥槽を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
11 廃棄物焼却炉
16 バグフィルタ
18 灰貯留ホッパ
19 ダスト貯留ホッパ
21 灰溶融炉
31 水砕スラグ生成装置
34 冷却水循環ライン
34a 回収ライン部
34b 戻しライン部
35 冷却水回収ライン
36 スラグ汚泥再処理ライン
37 スラグ汚泥回収ライン
42 上澄み水槽
43 循環ポンプ
44 熱交換器
51 沈降分離装置
52 沈降槽
52U 上流室
52D 下流室
53 傾斜底板
54 集合枡
55 仕切り板
55a オリフィス
56 給水管
56a 給水口
57 スラグ汚泥排出管
57a スラグ汚泥排出口
58 攪拌水ヘッダー
58a 攪拌ノズル
59 給水管
60 上澄み水排水管
60a 排水口
61 浮上防止部材
71 スラリーポンプ
72 汚泥回収タンク
73 脱水収納袋
74 回収ポンプ
80 沈降分離装置
81 第1仕切り板
81a 第1オリフィス
82 第2仕切り板
82a 第2オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーに含まれる微粒状物の水中の安息角未満で上流側上位から下流側下位に傾斜する傾斜底板を有する沈降槽に、スラリーを上流側から供給し、
スラリーを、沈降槽の上下流方向の中間位置に配置されて沈降槽を横断方向に仕切る仕切り板と傾斜底板との間に形成されたオリフィスを通過させて傾斜底板上に沿って流送することにより、傾斜底板上に沈降した沈降微粒状物を下流側に流下して、傾斜底板の下流端に設けられた集合枡に集め、
沈降槽の下流側から上層の上澄み水を排出し、
前記集合枡の沈降微粒状物を吸引して連続的に抜き出す
ことを特徴とするスラリーの沈降分離方法。
【請求項2】
スラリーを、溶融スラグを冷却して水砕スラグを生成した後のスラグ冷却水とするとともに、微粒状物をスラグ汚泥とし、
傾斜底板の傾斜角を10°以上とし、
オリフィスにおけるスラグ冷却水の流速を15cm/秒以上とし、
沈降槽の下流側で上澄み水を排出する排水速度を、上澄み水の上昇速度がスラグ汚泥の沈降速度未満となるように設定した
ことを特徴とする請求項1記載のスラリーの沈降分離方法。
【請求項3】
スラリーに含まれる微粒状物の水中の安息角未満で上流側上位から下流側下位に傾斜する傾斜底板を有する沈降槽と、
沈降槽の上流側に配置されてスラリーを供給する給水口と、
沈降槽の上下流方向の中間位置で配置されて沈降槽を横断方向に仕切るとともに傾斜底板との間にオリフィスを形成する仕切り板と、
前記傾斜底板の下流端に設けられた集合枡と、
前記集合枡に集められた沈降微粒状物を連続して排出する微粒状物排出口と、
沈殿槽の下流側上部から上澄み水を排出する排水口とを具備した
ことを特徴とするスラリーの沈降分離装置。
【請求項4】
スラリーを、溶融スラグを冷却して水砕スラグを生成した後のスラグ冷却水とするとともに、微粒状物をスラグ汚泥とし、
傾斜底板の傾斜角を10°以上とし、
オリフィスにおけるスラグ冷却水の流速を15cm/秒以上とした
ことを特徴とする請求項3記載のスラリーの沈降分離装置。
【請求項5】
給水口を傾斜底板に沿って下流側にスラグ冷却水を送り出すように配置し、
下流側で排水口より下位のスラグ冷却水中に、スラグ汚泥の浮上を防止する浮上防止部材を配置した
ことを特徴とする請求項4記載のスラリーの沈降分離装置。
【請求項6】
廃棄物を焼却する廃棄物焼却炉と、当該廃棄物焼却炉から排出される飛灰と焼却灰とを溶融する灰溶融炉と、当該灰溶融炉から排出された溶融スラグを冷却水により冷却して水砕スラグを生成する水砕スラグ生成装置と、当該水砕スラグ生成装置から排出されたスラグ冷却水からスラグ汚泥を沈降分離する請求項4記載のスラリーの沈降分離装置とを具備し、
前記水砕スラグ生成装置から前記沈降分離装置に送られてスラグ汚泥を分離した上澄み水を、上澄み水槽を介して前記水砕スラグ生成装置に冷却水として循環させる冷却水循環ラインと、
前記沈降分離装置から排出されたスラグ汚泥を、透水性を有する脱水収納袋に貯留して脱水する汚泥回収タンクに送るスラグ汚泥回収ラインと、
前記脱水収納袋から排水された脱水後の冷却水を冷却水循環ラインに戻して再循環させる冷却水回収ラインと、
脱水後のスラグ汚泥を廃棄物焼却炉に供給して再焼却するスラグ汚泥再処理ラインとを有する
ことを特徴とする廃棄物焼却処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−39669(P2009−39669A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208692(P2007−208692)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】