説明

スルーホール充填用銅導体ペースト、銅導体スルーホール充填基板の製造方法、銅導体スルーホール充填基板、回路基板、電子部品、半導体パッケージ

【課題】スルーホールに充填して焼成する際に収縮が生じることを低減して、銅導体が脱落したり導通不良が生じたりすることを防ぐことができるスルーホール充填用銅導体ペーストを提供する。
【解決手段】耐熱性基板のスルーホールに充填して、非酸化性雰囲気下で焼成されるタイプのスルーホール充填用銅導体ペーストに関する。焼成による体積変化率が8%以下であり、且つ焼成後の銅導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることを特徴とする。そして、銅粉末、ガラス粉末、有機ビヒクルを少なくとも含有し、銅粉末は、粒径1μm未満のものが10〜30質量%、粒径1〜50μmのものが70〜90質量%からなる混合粉末であると共に、タップ密度が6.0g/cc以上であり、且つ銅導体ペースト中の有機分含有量が8.5質量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に複数層形成された配線回路の導通を得るために、スルーホールに充填、焼成して使用される銅導体ペースト及び、この銅導体ペーストをスルーホールに充填した後、高温焼成する銅導体スルーホール充填基板の製造方法に関するものであり、また銅導体スルーホール充填基板、回路基板、電子部品、半導体パッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気・電子部品を高密度実装するために、表裏両面配線などの多層回路基板が使用されている。この多層回路基板において、基板に形成した複数層の導体回路の導通接続は、基板に設けたスルーホールによって行なわれている。そして特に、基板としてセラミック基板などの耐熱性基板を用いる場合、スルーホールによる導体回路の接続は、スルーホールに導体ペーストを充填して行なうのが一般的である。
【0003】
この高温焼成タイプの導体ペーストは、例えば、導電性金属粉末、ガラス粉末、有機ビヒクルなどを含有して調製されるものであり、基板に形成したスルーホールに導体ペーストを充填した後、これを高温焼成することによって、スルーホールに充填したペーストが導体化し、導体回路の接続を行なうことができるものである。
【0004】
しかし、導体ペーストをスルーホールに充填して焼成すると、焼成時の導電性金属粉末の収縮によって、スルーホールに充填された導体が収縮し、スルーホール内から導体が脱落したり、導体回路との間で導通不良が起こったりするという問題があった。
【0005】
そこで特許文献1では、導体ペーストに膨張剤を添加し、導体ペーストをスルーホールに充填して焼成する際に膨張剤を膨張させることによって、スルーホールに充填された導体が収縮することを防ぐようにしている。
【0006】
しかし上記のように膨張剤を導体ペーストに含有させると、スルーホールに充填された導体の導電性が低下するおそれがあるという問題があった。また膨張剤は焼成時に酸化されることによって膨張するものであって、酸化雰囲気で焼成を行なう必要があり、銅導体ペーストのような卑金属ペーストの場合、導体の金属も酸化されて導電性が著しく低下するので、適用することができない。
【0007】
また特許文献2では、導体ペーストに酸化ルテニウム粉末を添加することによって、焼成収縮を低減するようにしている。しかし、銀導体ペーストの場合には、収縮低減の効果は認められるが、銅導体ペーストの場合、特許文献2の図3にみられるように、焼成収縮率は10%以上発生しており、酸化ルテニウム粉末の添加によって銅導体ペーストの焼成収縮を低減する効果は小さいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−46013号公報
【特許文献2】特開平7−94840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、スルーホールに充填して焼成する際に収縮が生じることを低減して、銅導体が脱落したり導通不良が生じたりすることを防ぐことができるスルーホール充填用銅導体ペーストを提供することを目的とするものであり、またスルーホールに銅導体ペーストを充填して焼成する際に収縮が生じることを防いで、銅導体が脱落したり導通不良が生じたりすることを防ぐことができる銅導体スルーホール充填基板の製造方法を提供することを目的とするものであり、またこのような銅導体ペーストを用いた銅導体スルーホール充填基板、回路基板、電子部品、半導体パッケージを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るスルーホール充填用銅導体ペーストは、耐熱性基板のスルーホールに充填して、非酸化性雰囲気下で焼成されるタイプのスルーホール充填用銅導体ペーストであって、焼成による体積変化率が8%以下であり、且つ焼成後の銅導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、銅導体ペーストの焼成の際の体積変化率が8%以下、すなわち+8%〜−8%と小さく、銅導体ペーストをスルーホールに充填して焼成する際に収縮が生じることを低減して、銅導体がスルーホールから脱落したり、スルーホールの導体回路との導通不良が生じたりすることを防ぐことができるものであり、また焼成後の銅導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下と小さく、良好な導電特性を有するものである。
【0012】
また本発明に係るスルーホール充填用銅導体ペーストは、銅粉末、ガラス粉末、有機ビヒクルを少なくとも含有し、銅粉末は、粒径1μm未満のものが10〜30質量%、粒径1〜50μmのものが70〜90質量%からなる混合粉末であると共に、タップ密度が6.0g/cc以上であり、且つ銅導体ペースト中の有機分含有量が8.5質量%以下であることを特徴とするものである。
【0013】
このように銅粉末として、粒径1μm未満のものが10〜30質量%、粒径1〜50μmのものが70〜90質量%からなる混合粉末であり、しかもタップ密度が6.0g/cc以上であるものを用い、且つ銅導体ペースト中の有機分含有量が8.5質量%以下であるものを用いることによって、良好な充填性を保ちながら銅粉の含有量の高い銅導体ペーストを作製することができるものであり、上記のような低い電気抵抗率の銅導体に焼成することができるものである。またこの銅導体ペーストは、スルーホールに充填した後の溶媒乾燥及び高温焼成による収縮を大きく低減できるものであり、銅導体の体積変化率を上記のように小さくすることができるものである。
【0014】
また本発明において、銅の上記混合粉末は、平均比表面積が0.3〜0.6m/gであることを特徴とするものである。
【0015】
銅は空気中などの酸化性雰囲気下で加熱されると酸化するが、このような平均比表面積を有する混合銅粉からなる銅導体ペーストは、空気中で加熱すると銅粉の表面が酸化され、銅が酸化銅になることに伴って体積が適度に膨張し、ペーストの溶媒除去による体積収縮を補うことができるものである。また表面酸化された銅粉は、その後の非活性雰囲気下での焼成時に金属銅に還元されるが、焼成過程において銅粉表面の酸化銅層が銅粉の焼結を阻害し(遅らせ)、銅粉の焼結収縮を低減させることができるものである。
【0016】
また本発明は、酸化銅粉を0.5〜10質量%含有することを特徴とするものである。
【0017】
このように銅導体ペースト中に銅の混合粉末の一部として酸化銅粉を含有することによって、銅導体ペーストの焼結性を適度に抑え、焼成時の銅導体の収縮を抑制して体積変化を小さくすることができるものである。
【0018】
また本発明に係る銅導体ペーストスルーホール充填基板の製造方法は、耐熱性基板に形成されたスルーホールに上記の銅導体ペーストを充填する工程と、スルーホールに充填した銅導体ペーストを酸化性雰囲気で加熱して、銅粉末を部分的に酸化させる工程と、酸化処理した銅導体ペーストを非活性雰囲気下700℃以上の温度で焼成する工程と、を有することを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、スルーホールに充填した銅導体ペーストを酸化性雰囲気で加熱して、銅粉末の表面を酸化させ、さらに非活性雰囲気下で焼成する際に、表面酸化された銅粉末は、表面の酸化層により焼結性が抑制され、大きく収縮することなく金属銅に還元されると共に、焼結されるものであり、銅導体ペーストをスルーホールに充填して焼成する際に生じる収縮を上記のように低減することができるものである。尚、本発明において銅粉末を部分的に酸化させるとは、銅粉末の内部は酸化させず表面全体を酸化させることを意味する。
【0020】
また本発明において、上記のスルーホールに充填した銅導体ペーストを加熱して酸化処理する工程が、200〜300℃の温度の加熱で行なわれることを特徴とするものである。
【0021】
加熱の温度をこの範囲に設定することによって、スルーホールに充填した銅導体ペーストの形状が崩れたりすることなく、銅導体ペーストの銅粉末を適度に酸化させることができるものである。
【0022】
また本発明において、上記耐熱性基板はセラミック製基板であることを特徴とするものである。
【0023】
セラミック製基板は耐熱性に優れていると共に、回路や電子部品の製造に広く利用されているので、本発明の適用により大きな効果が得られるものである。
【0024】
また本発明において、上記セラミックス製基板は、窒化アルミニウム基板であることを特徴とするものである。
【0025】
窒化アルミニウムは、機械的特性、電気特性、熱伝導性などに優れているため、特に好ましいものである。
【0026】
そして上記のように本発明の銅導体ペーストを用いて作製した銅導体スルーホール充填基板を用いて、回路基板、電子部品、半導体パッケージを作製することができるものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、スルーホールに充填した銅導体ペーストを酸化性雰囲気下で加熱して、銅粉末の表面を酸化させ、さらに非活性雰囲気下で焼成する際に、表面酸化された銅粉末は大きく収縮することなく金属銅に還元されると共に、焼結されるものであり、銅導体ペーストをスルーホールに充填して焼成する際に収縮が生じることを防ぐことができるものであって、スルーホールから銅導体が脱落したり導通不良が生じたりすることを防ぐことができるものである。
【0028】
そして、焼成による体積変化率が8%以下、焼成後の電気抵抗率が10μΩ・cm以下の銅導体を得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0030】
本発明の銅導体ペーストは、銅粉末、ガラス粉末、有機ビヒクルを少なくとも配合して調製されるものである。
【0031】
そして本発明では上記の銅粉末として、粒径1μm未満のものを10〜30質量%、粒径1〜50μmのものを70〜90質量%(合計100質量%)含み、且つタップ密度が6.0g/cc以上である混合粉末を用いると共に、銅導体ペースト中の有機分含有量が8.5質量%以下であるものを用いるものである。尚、本発明において粒径は中心粒径をいうものである。
【0032】
また本発明においてこの銅の混合粉末として平均比表面積が0.3〜0.6m/gであるものを用いるものである。
【0033】
本発明においてガラス粉末は、基板等に対する濡れ性を高めて密着性を向上させるなどの目的で配合されるものであり、特に限定されるものではないが、軟化点が400〜750℃程度の範囲のものが好ましい。ガラスの種類については、特に限定されるものではないが、ホウケイ酸系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ビスマス系ガラスなど、鉛、カドミウムなどの有害物質を含まない低融点ガラスが好ましい。スルーホール充填後の基板がメッキ処理を必要とする場合には、耐薬品性のあるガラスを使用することが好ましい。ガラス粉末の粒径及び形状は特に限定されるものではないが、粒径は0.1〜10μmの範囲にあるものが好ましく、ガラスの溶融による収縮を最小限に抑制するためには、より好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.1〜3μmである。
【0034】
また本発明において、有機ビヒクルとしては、有機バインダーを有機溶剤に溶解したものを用いることができる。有機バインダーとしては特に限定されるものではないが、焼成過程で容易に焼失させられ且つ灰分の少ない有機化合物、例えば、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル類、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ブチルセルロース等のセルロース類、ポリオキシメチレン等のポリエーテル類、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のポリビニル類などを使用することができるものであり、これらは1種を単独で用いる他、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0035】
有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、銅導体ペーストに適度な粘性を与え且つ銅導体ペーストを基板に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発させられる有機化合物、例えばカルビトール、カルビトールアセテート、テレピネオール、メタクレゾール、ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルホルムアミド、ジアセトンアルコール、トリエチレングリコール、パラキシレン、乳酸エチル、イソホロン等の高沸点の有機溶剤を使用することができるものであり、これらは1種を単独で用いる他、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0036】
上記の銅粉末、ガラスフ粉末、有機ビヒクル、さらに必要に応じて酸化物などの焼結抑制剤、表面活性剤、酸化防止剤などを配合し、これらを混合することによって、銅導体ペーストを調製することができるものである。各材料の配合割合は特に制限されるものではないが、銅粉末100質量部に対して、ガラス粉末1〜6質量部、有機バインダー0.5〜3質量部、有機溶剤4〜9質量部の範囲に設定するのが好ましい。ここで、本発明の銅導体ペーストにおいて、有機バインダー、有機溶剤、及び他の有機添加剤からなる有機分の含有量のペースト中に占める総量が、8.5質量%以下になるように設定されるものである。
【0037】
ガラス粉末は、焼成銅導体の緻密性を高めると共に、銅導体と基板間の密着力を向上させるものである。ガラス粉末の配合量が、1質量部未満であると、焼成銅導体の緻密性が低下し、基板との接着力も低くなるので、焼成後、銅導体がスルーホールから脱落するおそれがある。一方、ガラス粉末は銅導体の高温焼成中に溶融して収縮するので、その配合量が6質量部以上であると、銅導体ペーストの焼成収縮が大きくなり、目標の低収縮率が得られないおそれがある。
【0038】
有機バインダーは、銅導体ペーストに適度な粘性を付与し、溶媒除去・乾燥後にも形状を維持させるなどの役割を有する。有機バインダーの配合量が、0.5質量部未満であると、銅導体ペーストの安定性、印刷性が低下し、良好なスルーホール充填が困難になる。一方、3質量部を超えると、銅導体ペーストの粘度が高くなり、スルーホールへの充填性が低下するおそれがある。
【0039】
また、銅導体ペースト中の有機分は乾燥または焼成中にすべて蒸発、分解されるので、その量が多ければ銅導体ペーストの焼成収縮が大きくなる傾向がある。本発明の低収縮率を達成するために、銅導体ペースト中の有機分の含有量は8.5質量%以下に設定されるものである。有機分が少ないほうがその焼失除去による収縮が小さくなるが、少なすぎるとペーストとしての流動性(充填性)が低下するので、6.0質量%以上であることが望ましい。
【0040】
このように調製される本発明の銅導体ペーストは、耐熱性基板に複数層形成された配線回路の導通を得るために、スルーホールに充填して使用されるものである。
【0041】
この耐熱性基板としては、銅導体ペーストをスルーホールに充填した後に焼成する高温に耐えるものであれば特に限定されない。例えば、セラミックス基板、ガラス基板、シリコン基板、ホーロー基板などが挙げられる。セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、ベリリア、ムライト、ホルステライト、コーディライト、チタン酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素等の非酸化物系セラミックス等を挙げることができるが、これらの中でも、窒化アルミニウムは機械的特性、電気特性、熱伝導性などに優れているので、特に好ましい。
【0042】
そして耐熱性基板には、両面に配線回路を形成する箇所において、基板を貫通するスルーホールが形成してあり、このスルーホールに銅導体ペーストを充填する。スルーホールへの銅導体ペーストの充填は任意の方法で行なうことができるものであり、例えばスクリーン印刷によって行なうことができる。
【0043】
このようにスルーホールに銅導体ペーストを充填した後、まず加熱して銅導体ペースト中の溶剤を除去する。溶剤を除去するための加熱は200℃未満の温度、例えば150℃程度の温度で行なうことができる。
【0044】
この後、この銅導体ペーストをスルーホールに充填した基板を、700℃以上の温度で非活性雰囲気中に焼成することによって、焼成収縮率の小さい銅導体を得ることが出来る。しかし、より一層焼成収縮率を低減させるために銅導体ペーストを加熱酸化処理することが好ましい。この加熱酸化は、スルーホールに充填した銅導体ペースト中の有機バインダーの一部を熱分解させると共に、銅粉末の表面を酸化させるためのものであり、空気中など活性雰囲気(酸化雰囲気)中で行なわれるものである。銅粉末の表面が酸化されると、銅粉の体積が大きくなるので、溶媒の揮発及び有機バインダーの分解による体積減少を補うものとなる。また加熱温度は200℃以上に設定されるものである。加熱温度の上限は特に限定されるものではないが、300℃以下の温度であることが望ましい。銅導体ペーストを加熱する温度が200℃未満であると、銅粉末を十分に酸化させることができないので、十分な収縮抑制効果が得られない。また銅導体ペーストを加熱する温度が300℃を超えると、有機バインダーが完全に分解され、スルーホールに充填した銅導体ペーストの形状が崩れたり、基板から脱落したりするおそれがある。また、銅粉が酸化され過ぎてその後の焼成工程で十分還元することができなくなり、導電性が大きく低下するおそれがある。尚、加熱の時間は特に限定されるものではないが、30〜180分程度が一般的に好ましい。
【0045】
次に、このように加熱して銅導体ペーストの銅粉末を部分酸化処理した後、基板を非活性雰囲気で加熱して、スルーホールに充填した銅導体ペーストを焼成する。この焼成の加熱温度は700℃以上に設定されるものである。ここで、非活性雰囲気(非酸化雰囲気、還元雰囲気)としては、例えば窒素雰囲気などを用いることができる。このように銅導体ペーストを非活性雰囲気で700℃以上に加熱することによって、上記のように表面が銅酸化物となっている銅粉末は還元され、元の金属銅に戻ると共に焼結されるものであり、また有機ビヒクルは分解して除去される。
【0046】
焼成時の加熱温度が700℃未満であると、銅酸化物を金属銅に還元する作用が不十分になると共に、焼結も不十分であるため、十分な導電性及び密着性が得られないおそれがある。加熱温度の上限は特に設定されるものではないが、950℃以下の温度で焼成するのが好ましい。尚、焼成の時間は特に限定されるものではないが、上記温度下で10〜60分程度保持することが一般的に好ましい。
【0047】
このように非活性雰囲気で700℃以上に加熱して焼成することで、銅酸化物が金属銅に還元されながら焼結されるが、銅粉表面の酸化銅層が銅粉の焼結を阻害し、焼結性を低下させることにより焼結収縮を低減させるものである。従って、銅導体ペーストが焼成されてスルーホール中に形成される導体に収縮が生じることを防ぐことができるものであり、スルーホールから導体が脱落したり、導体に欠け等が生じたりすることがなくなり、導通不良が発生する等の問題を防ぐことができるものである。
【0048】
ここで本発明では、このように、銅導体ペーストを200℃以上の温度で加熱することによって、銅粉末を容易に部分酸化させることができ、さらにこの酸化処理した銅導体ペーストを非活性雰囲気下700℃以上の温度で焼成することによって、表面酸化された銅粉末を収縮することなく金属銅に容易に還元させることができる銅粉末として、上記したような、粒径1μm未満のものが10〜30質量%、粒径1〜50μmのものが70〜90質量%からなる混合粉末であり、タップ密度が6.0g/cc以上で、且つ平均比表面積が0.3〜0.6m/gであるものを用いるようにしたものである。
【0049】
銅のこの混合粉末において、粒径1μm未満のものが10質量%未満であると、銅粉末の酸化が不十分になって、非活性雰囲気下で焼成する際に収縮が発生することを防ぐ効果が不十分になる。また粒径1μm未満のものが30質量%を超えると、酸化した銅粉末を非活性雰囲気下で焼成する際に十分に還元することができず、導電性が低下するおそれがある。
【0050】
一方、銅粉末のタップ密度が6.0g/cc未満であると、銅粉末の充填密度が低く、ペースト化する際に多くの溶媒が必要となる。このような銅導体ペーストは、乾燥及び焼成時に溶媒の除去により大きく収縮するので、体積変化率を小さくするという目的を達成できない。タップ密度は高い程好ましく上限は特に設定されないが、実用上は7.0g/cc程度が上限である。
【0051】
また銅粉末の平均比表面積が0.3m/g未満であると、銅粉末の酸化が不十分になって、非活性雰囲気下で焼成する際に収縮を防いで体積変化を小さくする効果が不十分になる。逆に平均比表面積が0.6m/gを超えると、酸化した銅粉末を非活性雰囲気下で焼成する際に十分に還元することができず、導電性が低下するおそれがある。
【0052】
また本発明において、銅導体ペーストには、上記の各成分の他に、酸化銅粉を配合して用いることができる。このように酸化銅粉を銅の混合粉末の一部として銅導体ペーストに配合すると、上記のようにスルーホールに充填した銅導体ペーストを酸化性雰囲気で加熱する際に、酸化銅粉が膨張して、体積減少を補うことができるものであり、銅導体の収縮を抑制して体積変化を小さくすることができるものである。酸化銅粉末の配合量は、銅導体ペースト中、0.5〜10質量%の範囲が好ましい。0.5質量%未満であると、酸化銅粉を配合することによる効果を十分に得ることができない。逆に10質量%を超えると、酸化銅粉の膨張によって銅導体が過大に膨張し、この膨張で却って銅導体の体積変化が大きくなる。酸化銅粉の粒径は特に限定されるものではないが、中心粒径で0.5〜20μmの範囲が好ましい。
【0053】
そして上記のような組成の銅導体ペーストを用い、上記のような方法で基板のスルーホールに銅導体ペーストを充填して焼成することによって、焼成時の収縮を抑制して体積変化率を小さくし、焼成による体積変化率が8%以下、すなわち体積変化率が−8%〜+8%の範囲内の銅導体を得ることができるものである。体積変化率が−8%を超えて収縮すると、銅導体がスルーホールから脱落したり、スルーホールの導体回路との導通不良が生じたりするおそれがある。逆に銅導体が膨張して体積膨張率が+8%を超えると、スルーホールから銅導体が大きくはみ出したり、スルーホールが銅導体で破壊されたりするおそれがある。
【0054】
また、非活性雰囲気下で焼成を行なうことによって銅酸化物を還元して、銅導体の導電性を高く得ることができるものであり、電気抵抗率が10μΩ・cm以下の銅導体を得ることができるものである。電気抵抗率が10μΩ・cmを超えると、スルーホールでの導電性を十分に確保できなく、大電流の用途においては使用できないおそれがある。電気抵抗率は小さいほど望ましいものであり、その下限は特に設定されないが、純銅の電気抵抗率である1.69μΩ・cmが実質的な下限である。
【0055】
上記のようにして作製した銅導体スルーホール充填基板を用い、耐熱性基板に回路を形成することによって、回路基板を得ることができるものである。またこの回路基板の耐熱性基板に電子素子を実装することによって、電子部品を得ることができるものである。さらにこの回路基板の耐熱性基板に半導体素子を実装して封止することによって、半導体パッケージを得ることができるものである。
【実施例】
【0056】
次に、本発明を実施例及び比較例によって例証する。
【0057】
表1に示すように、銅粉末として、中心粒径が7.3μm、4.8μm、1.2μm、0.83μm、0.52μmの銅粉1〜5(いずれも三井金属鉱業社製)を用い、また酸化銅粉として中心粒径が4.2μmの酸化第一銅粉(高純度化学研究所製)を用い、これらを表2の配合量で混合して混合粉末として用いた。尚、本発明において中心粒径(D50)はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定された値であり、これらの数値はメーカー開示値を採用した。また本発明において平均比表面積はBET法で測定された値であり、表1の数値はメーカー開示値である。さらに本発明において混合銅粉のタップ密度は、メスシリンダー式のタップ密度測定装置(ドイツ・ファーマテスト社製タップ密度計「PT−DTI」)で測定された値である。なお、表1の各種銅粉又は酸化銅粉のタップ密度の数値はメーカー開示値である。
【0058】
【表1】

【0059】
またガラスフリットとして、軟化点が565℃、平均粒径が3μmのホウケイ酸亜鉛系ガラス粉末を用いた。
【0060】
さらに有機ビヒクルとして、有機バインダーのアクリル樹脂と、有機溶剤のカルビトール/テレピネオール(=1:1)とを、1:2の質量比で混合したものを用いた。
【0061】
そしてこれらを表2の配合量で配合し、ミキサーにより混合した後、三本ロールで均一に混練することによって、実施例1〜4及び比較例1〜8の銅導体ペーストを得た。
【0062】
この銅導体ペーストについて、焼成後の収縮率と抵抗率を測定した。この収縮率や抵抗率の測定は、スルーホールに銅導体ペーストを充填した状態で行なうのは困難であるので、窒化アルミニウム基板の表面に銅導体ペーストを印刷して測定を行なった。
【0063】
まず、窒化アルミニウム基板の表面に250メッシュのスクリーンを用い、実施例1〜4及び比較例1〜8の銅導体ペーストをそれぞれパターン形状にスクリーン印刷し、150℃で10分間加熱することによって、銅導体ペースト中の有機溶剤を除去した。次に、連続乾燥炉を用いて空気中で、表2に示す温度で60分間加熱することによって、酸化処理をした。この後、連続焼成炉を用いて窒素雰囲気下、900℃で60分間加熱して焼成した。
【0064】
そして、体積変化率は、焼成前のパターンの厚みと、焼成後のパターンの厚みをそれぞれ触針式膜厚計で測定し、次の式で焼成前後の膜厚値の比較することによって、収縮率として求めた。
【0065】
収縮率(%)=[(焼成前膜厚−焼成後膜厚)/焼成前膜厚]×100
収縮率(%)がプラスの数値であると、体積は減少しているので、体積変化率としてはマイナスの数値になる。逆に収縮率(%)がマイナスの数値であると、体積は増加しているので、体積変化率としてはプラスの数値になる。結果を表2に示す。
【0066】
また抵抗率は、基板上に形成された焼成後の10mm四方のパターンについて、四端子抵抗率計を用いて抵抗値を測定し、体積抵抗率として求めた。結果を表2に示す。
【0067】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜8の銅導体ペーストについて、スルーホールへの充填性及び密着性を評価した。
【0068】
まず、穴径0.15mm及び0.3mmの2種類のスルーホールを多数設けた窒化アルミニウム基板(3インチ×3インチ×厚さ0.635mm)を用い、スルーホールに銅導体ペーストを手刷り操作で充填した。次にこれを150℃の送風乾燥機に入れて20分間加熱し、溶剤乾燥を行なった後、基板表面に残存した銅導体ペーストをバフ研磨により完全に除去した。この後、この基板を220℃の連続乾燥炉に入れて空気中で60分間加熱することによって酸化処理し、次いで基板を連続焼成炉に入れて、窒素雰囲気下、900℃で60分間焼成した。
【0069】
このように焼成をした後の基板について、スルーホールへの充填状態を実体顕微鏡で観察して導体の脱落の有無を確認(1回目)し、さらに基板を超音波装置に入れて超音波振動を20分間加えた後、再びスルーホールへの充填状態を実体顕微鏡で観察して導体の脱落の有無を確認(2回目)した。結果を表2に示す。尚、表2において「*1」は1回目で脱落したことを、「*2」は2回目で脱落したことを示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2にみられるように、実施例1〜4の銅導体ペーストは、焼成により体積変化率は8%以下と低かった。そして200℃以上の温度の加熱で酸化処理することによって、体積変化率はさらに小さくなり、電気抵抗率も十分に小さいものであった。スルーホール充填性についても実施例1〜4のものは良好であり、超音波振動を与えたあとも導体の脱落や欠けはなかった。また基板のスルーホール部を切断して断面観察したところ、スルーホール壁面と充填導体とは隙間なく接着しており、ボイド等の欠陥はなかった。
【0072】
尚、実施例4は実施例3の銅粉末の一部を酸化銅粉に置き換えたものであり、このように酸化銅粉を配合することによって収縮の発生を一層抑制することができ、180℃の温度で酸化処理をした場合においてもほぼ無収縮を達成することができるものであった。
【0073】
一方、比較例1の銅導体ペーストは、粒径1μm未満の微細な銅粉末の比率が高く、200℃以上の温度で酸化処理することによって、焼成時の収縮を低減するとは可能であるが、酸化した銅粉末を焼成の際に十分に還元することができず、導電性が大きく低下して抵抗率が高くなるものであった。
【0074】
また比較例2の銅導体ペーストは、銅粉末のタップ密度が低いので、焼成時の収縮が大きく、スルーホールから導体が脱落するものであった。また銅粉末の平均比表面積が大きいので、銅粉末を酸化させると、フクレが発生すると共に、導電性が大きく低下するものであった。
【0075】
また比較例3及び比較例4の銅導体ペーストは、粒径1μm未満の微細な銅粉末を含有せず、タップ密度も低いので、焼成の際に収縮が大きく発生し、スルーホールから導体が脱落するものであった。
【0076】
また比較例5の銅導体ペーストは、タップ密度が低いので、焼成時の収縮が大きく、スルーホールから導体が脱落するものであった。
【0077】
また比較例6及び比較例7の銅導体ペーストは、粒径1μm未満の微細な銅粉末の比率が高く、タップ密度が小さいと共に平均比表面積が大きいので、酸化処理の際に容易にフクレが発生し、導電性が大きく低下するものであった。
【0078】
また、比較例8の銅導体ペーストは、有機ビヒクル量が多いので、酸化処理にもかかわらず、収縮が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性基板のスルーホールに充填して、非酸化性雰囲気下で焼成されるタイプのスルーホール充填用銅導体ペーストであって、焼成による体積変化率が8%以下であり、且つ焼成後の銅導体の電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることを特徴とするスルーホール充填用銅導体ペースト。
【請求項2】
銅粉末、ガラス粉末、有機ビヒクルを少なくとも含有し、銅粉末は、粒径1μm未満のものが10〜30質量%、粒径1〜50μmのものが70〜90質量%からなる混合粉末であると共に、タップ密度が6.0g/cc以上であり、且つ銅導体ペースト中の有機分含有量が8.5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスルーホール充填用銅導体ペースト。
【請求項3】
銅の上記混合粉末は、平均比表面積が0.3〜0.6m/gであることを特徴とする請求項1又は2に記載のスルーホール充填用銅導体ペースト。
【請求項4】
酸化銅粉を0.5〜10質量%含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスルーホール充填用銅導体ペースト。
【請求項5】
耐熱性基板に形成されたスルーホールに請求項1〜4のいずれかに記載の銅導体ペーストを充填する工程と、スルーホールに充填した銅導体ペーストを酸化性雰囲気で加熱して、銅粉末を部分的に酸化させる工程と、酸化処理した銅導体ペーストを非活性雰囲気下700℃以上の温度で焼成する工程と、を有することを特徴とする銅導体スルーホール充填基板の製造方法。
【請求項6】
スルーホールに充填した銅導体ペーストを加熱して酸化処理する工程が、200〜300℃の温度の加熱で行なわれることを特徴とする請求項5に記載の銅導体スルーホール充填基板の製造方法。
【請求項7】
上記耐熱性基板はセラミック製基板であることを特徴とする請求項5又は6に記載の銅導体スルーホール充填基板の製造方法。
【請求項8】
上記セラミックス製基板は、窒化アルミニウム基板であることを特徴とする請求項7に記載の銅導体スルーホール充填基板の製造方法。
【請求項9】
耐熱性基板のスルーホールに、上記請求項1乃至4のいずれかに記載の銅導体ペーストの焼成物からなる銅導体が充填されていることを特徴とする銅導体スルーホール充填基板。
【請求項10】
請求項5乃至8のいずれかの方法で製造されたことを特徴とする銅導体スルーホール充填基板。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の銅導体スルーホール充填基板を備えた回路基板。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の銅導体スルーホール充填基板を備えた電子部品。
【請求項13】
請求項9又は10に記載の銅導体スルーホール充填基板を備えた半導体パッケージ。

【公開番号】特開2010−108917(P2010−108917A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197694(P2009−197694)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】