説明

セパレータ及びその製造方法

【課題】多くの電池類やキャパシタ、自動車駆動用電源に代表される大型リチウムイオン電池の過熱時の安全性を向上させることができる布帛状セパレータの提供。
【解決手段】無機粉体を40質量%以上95質量%以下含有する熱可塑性繊維からなる布帛からなることを特徴とするセパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粉体を多量に含有する熱可塑性繊維からなる布帛状セパレータ及びその製造方法に関するものであり、電池またはキャパシタ等蓄電器類のセパレータの分野で好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
電池またはキャパシタ等の蓄電器類は、正極・負極間に電気絶縁体であるセパレータを置くことにより両極間の短絡を防いでいる。従来、蓄電器類のセパレータとしては紙、不織布、ガラス繊維、多孔膜等を用いたものが知られている。セパレータには、イオン透過性と電子絶縁性が長期間の蓄電器類使用中に問題なく機能することが要求され、それに加えて蓄電器の能力やコストを満足させるものが選定されてきている。
例えば、リチウムイオン電池は正極にコバルト酸リチウムが、負極にグラファイト系カーボン電極が用いられ、セパレータとしてポリエチレン製多孔膜が両極間に配置された基本構造からなり、この基本構造を捲回またはスタックする事によって積層体となし、金属製缶体やフィルム包装体に挿入して有機電解液を注入し、密閉して電池を形成させるものが知られている。
【0003】
セパレータの必要条件である絶縁性をもたらす電子不導体としては一般に絶縁性有機物や絶縁性無機物等が使用される。鉛蓄電池の場合希硫酸電解液中で、ガラス製織物またはポリエチレンと無機粉体を混合してなる多孔シート等がセパレータとして使用されている。
またニッケルカドミウム電池においては、苛性カリ水溶液を電解質としたアルカリ性電解液中で絶縁性とイオン透過性に優れるポリアミド不織布がセパレータとして一般に使用されている。この様に、セパレータは電極の種類や電解液の種類により使用される素材や形状が異なり電気化学的にも安定なものが必要とされている。
【0004】
モバイル用通信機器用途で世界を席捲して小型軽量の利便性が実証されたリチウムイオン電池は、その実績から自動車用駆動電源等の大型化が検討されており、エネルギーの大容量化と一台当りの電池使用個数が多くなる事から安全対策もより重要となる。
リチウムイオン電池は、電極活物質としてリチウム化合物、電解液として可燃性有機溶媒を使用しており、何らかの要因により発熱する事が心配されており、高い安全機能を持たせることが要求されている。可燃性有機溶媒を電解液として使用する電池の安全性の問題としては、短絡等による電池発熱が挙げられる。電池発熱としては、例えば電池を使用した回路が短絡した状態、すなわち電池外部短絡と呼ばれる状態となり大電流が流れ電池の内部抵抗により電池自体が発熱する場合や、電池の内部に何らかの原因により正極と負極が短絡する所謂、電池内部短絡で発熱する場合が挙げられる。これら電池発熱に対し、種々の原因を想定した安全対策が講じられている。
【0005】
例えば電池の発熱により電池缶に伝わる熱を感知し、設定値以上の温度上昇で電池回路を遮断するPTC素子や、発熱による電池内の圧力上昇を缶に設けられた安全弁作動させる事などを行っている。また、内部短絡時には電池外部の回路を遮断しても内部の電池回路を遮断する事が出来ず熱逸走を生じる可能性が有るが、この際の安全対策としてセパレータ特性が大きく寄与する事となる。
現在、リチウムイオン電池のセパレータは、要求される基本性能である電子不導性とイオン透過性および電解液での電気化学的安定性を満たすため、一般にポリオレフィン製微多孔膜が使用されている。即ち、電池の発熱によりセパレータ融点以上の温度に上昇した場合、セパレータに設けられたイオン透過をさせるための多孔部分が溶融により閉塞されイオン透過を阻止し、それに伴い電流も止まる原理を利用し、所謂シャトダウン機能で電池としての機能が安全に休止する事となる。
【0006】
セパレータにこの様な安全機能を持たせるためには低温で溶融する熱可塑性樹脂多孔膜が必要であり、ポリオレフィン製微多孔膜が多く使用されている。例えば旭化成ケミカルズ(株)の販売するポリエチレン製微多孔膜「ハイポア」(登録商標)がその例である。
この様にリチウムイオン電池に代表される可燃性有機電解液を使用する電池にはその他の安全装置を含め種々の安全対応策が設けられているが、電池の進歩に伴い更なる性能向上が求められている。
【0007】
電池発熱は自己の反応熱により生じるのみならず、外部からの加熱によっても危険な状態となり、例えば加熱油に落とした場合や周囲の雰囲気が異常に高温となりリチウムイオン電池の内部温度がセパレータ溶融温度以上になると想定した場合、まずセパレータのシャットダウン機能が働き電池としての機能は無くなる。その後も外部加熱が続き電池内部温度が上昇した場合、無孔化したフィルム状セパレータが熱による収縮や流動化で破損する事や正極・負極の電極間に潜在的に掛かる圧力、すなわち捲回時の張力や電池充放電による電極体積の増加等による圧力により軟化したセパレータが押付けられ両極間が接触し短絡、急激にイオンと電子が流れ発熱を助長する事がある。
【0008】
電池が何らかの熱的異常状態になった時は電池電源のシステム上、種々の保護処置が働き全体としての安全性は確保されるような設計思想となっているが、自動車用大型電池の場合、モバイル用途に比べて容量が大きく、電池自体の安全性に対しより高い技術を要求される事となり、特に電池の異常時による内部発熱や、外部からの異常な加熱状態でも電極間の距離が保たれ短絡しない強固な電子絶縁性がセパレータに要求されている。大型電池の自動車駆動用への採用はCO2削減させる環境対策の手段としても効果が注目されており、レシプロエンジンとニッケル水素電池を組み合わせたハイブリッド型電気自動車が既に実用化されている。
【0009】
ニッケル水素電池は電解液に苛性カリ水溶液を使用しており過熱時にも発火する危険性は無く、電極は正極・負極とも焼結金属である事から電極活物質の脱落や電極生成物の発生がほとんど無い。そのためセパレータはこれらの脱落物や生成物のフィルター効果をほとんど必要としておらず、寧ろ硬い電極活物質間で潰されず電子絶縁性を有しイオン透過を妨げない隙間を持つ親水性能が要求されており、機能に合ったポリプロピレン製スルフォン化不織布がセパレータとして使用されている。
【0010】
一方、ハイブリッド型電気自動車のエネルギー高効率化を目指すためリチウムイオン電池が注目され始めているが、熱的安定性向上が大きな課題である。この問題を克服すればレシプロエンジンとのハイブリッド型のみならず燃料電池ハイブリッド型自動車やピュア−型電気自動車にも急速に大型のリチウムイオン電池の使用が始まるものと考えられる。
リチウムイオン電池の熱的安定性は、該電池の異常な高温雰囲気状態に置かれた場合においても高い安全性を確保する事であり、セパレータの機能を改善させる事もその対応策の一つである。
【0011】
セパレータにおける電池内部での安全性確保には、セパレータの融点近くの温度、例えばポリエチレン製微多孔膜であれば130℃近辺で微多孔が閉塞してフィルム状となりイオンの透過を阻止するだけでなく、電池温度の上昇があった場合でもフィルム状となった無孔のポリエチレン製微多孔膜セパレータが強固にフィルム形状を保ちつつ電極を覆って短絡を防止させる等の新しい技術が必要となる。
この様な電池過熱状態でセパレータに期待する機能、即ち電子絶縁性を完全に維持するための熱溶融しない絶縁性無機物質による電極間距離の維持が効果的であると考えられる。
絶縁性無機物質をセパレータとして利用するためには、電池生産時の捲回工程等を考慮した場合、セパレータ構造上柔軟性が必要である事から柔軟な布帛構造物である不織布等を利用し、不織布を形成する繊維間の間隙に絶縁性無機粉体を充填させ加熱し固着させる方法が考えられる。
【0012】
例えば、ポリエステル樹脂製不織布に絶縁性無機粉体である粉末シリカをコーティング繊維間に固着・保持させた、耐熱性に優れたリチウムイオン電池用セパレータが挙げられる。このセパレータを用いれば、リチウムイオン電池が何らかの原因により異常に高い温度になった場合でも耐熱性の高いポリエステル樹脂使用しているために電極間距離が保たれ、かつ該電池がより高温になってポリエステル繊維が軟化した場合でも繊維間隙に介在する粉末シリカによって電極間距離が保たれるため、短絡が防止され高温時の安全性確保に有効である。
しかし、リチウムイオン電池を生産する際において、電極とセパレータを捲回する工程ではかなりの張力がかかり、セパレータが引張され高速で捲回されるために、繊維間に充填したのみでは走行ガイドによる屈曲や摩擦で粉末シリカの脱落が生じる事となり、期待されるセパレータの耐熱性機能は完全ではない。
【0013】
又、特許文献1に記載されているリチウムイオン電池用の高溶融完全性電池セパレータは、低温シャトダウン特性を有する熱可塑性樹脂微小孔径膜と不織フラットシート即ち不織布を接着してなり、不織布にはコーティングまたは表面処理を行う事も可能とされている。さらに該高溶融完全性電池セパレータは微小孔径膜と不織フラットシート即ち不織布との接着方法に重点をおいているが、該不織布としては高温溶融完全性を有する熱可塑性ポリマー、セルロース誘導体および/またはセラミックスからなる群より選択されるポリマーで作成される電池セパレータと説明されている。
【0014】
従って、特許文献1に記載の発明は微小孔性膜に低温シャットダウン特性を持たせ該不織布に耐熱性を持たせ高温時の正極と負極の接触を防止する事にして機能を分担させたものである。
【特許文献1】特開2005−38854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、多くの電池類やキャパシタに有効に使用出来、特に自動車駆動用電源に代表される大型リチウムイオン電池の過熱時の安全性を向上させる事のできる布帛状セパレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記の問題を解決すべく、鋭意検討の末、多くの電池類やキャパシタ、特に大型電池に要求される高い熱安定性を有する布帛状セパレータを完成させた。
すなわち本発明は以下の通りである。
(1)無機粉体を40質量%以上96質量%以下含有する熱可塑性繊維からなる布帛からなることを特徴とするセパレータ。
(2)繊維の空孔率が20%以上である上記(1)のセパレータ。
(3)無機粉体が絶縁性無機粉体である上記(1)又は(2)のセパレータ。
(4)熱可塑性繊維がポリオレフィン樹脂からなる上記(1)〜(3)のいずれかのセパレータ。
(5)布帛に熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維布帛を積層してなる上記(1)〜(4)のいずれかのセパレータ。
(6)熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維布帛がポリオレフィン樹脂からなる上記(5)のセパレータ。
(7)上記(1)〜(6)いずれかのセパレータを用いた蓄電器用セパレータ。
(8)上記(7)の蓄電器用セパレータを用いたリチウムイオン電池。
(9)熱可塑性樹脂5質量部以上60質量部以下と無機粉体40質量部以上95質量部以下含有する混合物を繊維状に成形する工程の後、該繊維から布帛を形成する工程を含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
(10)前記混合物が熱可塑性樹脂の溶剤を含む上記(9)のセパレータの製造方法。
(11)布帛上に熱可塑性樹脂多孔膜を積層する工程を含む上記(9)又は(10)のセパレータの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の布帛状セパレータによれば、電池或はキャパシタ等に、より高い安全性を付与せしめることができ、蓄電器類の異常過熱時にイオン透過阻止による電流遮断効果のみならずより高温時に生じる可能性があるセパレータの絶縁破壊を防止し電極短絡による熱逸走を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のセパレータは、無機粉体を40質量%以上95質量%以下含有する熱可塑性繊維(以下、単に「本発明の繊維」という)からなる布帛からなる。本発明のセパレータは、電池が短絡等の要因により発熱して過熱状態になり、熱可塑性樹脂の溶融温度近辺になったとしても、該繊維が軟化溶融することで、該繊維同士で構成される空隙が少なくなり、電解液に含まれるイオンの透過性が減少して電流が流れ難くなる結果、電池としての機能を無くす事で発熱が抑えられる。
またセパレータの軟化溶融によっても完全にイオン透過を防げなかった場合や何らかの電池過熱因、例えば外部からの加熱があり電池温度が上昇を続けた場合には、例えば熱可塑性樹脂として使用したポリエチレン樹脂が軟化し両極間の圧力に抗しきれずに短絡を生じる事が懸念されるが、本発明のセパレータは、この様な厳しい状態に移行しても繊維内に多量に含まれる絶縁性無機粉体によって両極間の距離が保たれ短絡を防ぎ、次いで他の電池安全機構が働き該電池は安全終息を迎える事が出来る画期的な安全性機能を持った蓄電器用セパレータとして提案出来るものである。
【0019】
更に、本発明のセパレータでは、無機粉体が繊維内部に含まれるため、電池作成時の捲回工程等の加工操作でセパレータが走行する際、ガイド等による曲げや高速走行での擦れによる外力による脱落を低減でき、その結果、高温状態においても両極間の絶縁性を高く維持できるという効果を奏する。
【0020】
本発明で使用される無機粉体としては、金属粉体や合金粉体、炭素やセラミックス等の非金属粉体等多くの物が使用でき、その中でも絶縁性無機粉体を用いた場合にはセパレータが高性能な蓄電器用セパレータにできるためより好ましい。絶縁性無機粉体としては、Li2O,BeO,B2O3,Na2O,MgO,Al2O3,SiO2,P2O5,CaO,Cr2O3、Fe2O3,ZnO,ZrO2,TiO2等の酸化物、ゼオライト,BN,AlN,Si3O4,Ba3N2,等の窒化物、SiC,ZrSiO4,MgCO3,CaCO3等の炭酸塩、CaSO4,BaSO4等の硫酸塩、ステアタイト(MgO・SiO2)、フォルステライト(2MgO2・SiO2),コージェライト(2MgO2・2Al2O3・5SiO2)等のセラミック等が使用できる。この場合、繊維に占める絶縁性無機粉体の体積占有率が大きい方が高温時の電極間距離を保つ、即ち短絡しにくくさせるため、絶縁性無機粉体はその密度が小さいものがよく、例えば特にシリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の酸化物の使用が更に好ましい。
【0021】
繊維中の無機粉体と熱可塑性樹脂の混合割合は、以下の方法により求めることができる。予めるつぼを電気炉に入れ900℃で1時間空焼きしたのち電気炉から取出しデシケータ中で約1時間冷却後電子天秤で秤量する操作を繰り返し、るつぼの重量差が0.0010g以下となった時をるつぼの恒量W1(g)とする。次いで約5gの繊維を電子天秤で小数点4桁まで秤量してW2(g)とし、恒量となったるつぼに入れ、直ちに電気炉に入れ800℃で1時間加熱して熱可塑性樹脂を焼却した後、るつぼを取出してデシケータに入れ約1時間冷却し電子天秤で秤量しW3(g)とする。
無機粉体の繊維に占める質量%は下記式(1)で求められる。
無機粉体質量%=〔(W3−W1)/W2〕 X 100 式(1)
【0022】
繊維に含まれる無機粉体の量は40質量%以上95質量%以下であるが、無機粉体の性状を発揮させるために70質量%以上95質量%以下が好ましく、繊維強度の観点から40質量%以上80質量%以下がより好ましい。特に、シリカのように比重の小さい無機粉体の場合には製造上の理由から80質量%以下が好ましい。
【0023】
本発明のセパレータは、無機粉体を高濃度含有する熱可塑性繊維を使用するため、熱による収縮を防止する事が出来る。これは繊維を構成する熱可塑性樹脂の収縮作用を大量の無機粉体が支持体となって妨げ、熱可塑性樹脂のみによる布帛状セパレータと比較して殆ど熱収縮が無いからである。このため、本発明の布帛状セパレータを用いた蓄電器用セパレータを電池やコンデンサーに使用した場合、これら蓄電器類が過熱された状態でもセパレータは熱収縮することが無く、かつ往々にして生じる正・負電極の端面による短絡現象を起こす事が無いためより高い安全性に寄与する事ができる。
また、本発明のセパレータは、熱収縮を防止させる安定基板用素材類としても使用が可能であると共に、高濃度に無機粉体を混入・安定的に維持させることが出来るため、無機粉体の特性を選定することより熱伝導性や電気伝導性、イオン吸着性あるいは触媒作用を持たせる用途にも有効に利用できる。
【0024】
本発明の繊維を構成する熱可塑性樹脂は、個々の蓄電器類に使用される電解液や電気科学的な安定性に問題ないものであれば総て使用可能であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリフッ化ビニリデン等のフッソ樹脂等があげられ、これらの樹脂を単独でも混合して使用しても良い。本発明のセパレータがモバイル用電源として、あるいは高容量電源として重要な蓄電器であるリチウムイオン電池に使用される場合は、前記繊維はポリオレフィン樹脂からなることがより好ましい。
【0025】
本発明の繊維は空孔率20%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましい。繊維の空孔率は繊維に含まれる熱可塑性樹脂と無機粉体の重量比に基づき繊維密度を計算し、実測した繊維密度との比率より算定することができる。 すなわち、空孔率D%は、下記式(2)により求められる。
空孔率D(%) = 100*[A−(B+C)]/A 式(2)
なお、上記式(2)中、Aは繊維の体積、Bは繊維中の無機粉体の体積、Cは繊維中の樹脂の体積を示し、各々以下のとおり求められる。
繊維の体積A[cm3]=繊維長(イ)[cm]*繊維面積(ロ)[cm2]
繊維中の無機粉体体積B(cm3)=無機粉体重量b(g)/無機粉体密度(g/cm3)
無機粉体重量bは灰分測定による
繊維中の樹脂体積C(cm3)=(繊維重量a−無機粉体重量b)(g)/樹脂密度(g/cm3)
上記高空孔率の多孔体構造である繊維を用いると、電解液は繊維の空孔に浸透し、且つ繊維同士で構成する布帛の組織間にも保持され、より多くの電解液を長期間維持する事が可能となり電池寿命を長くできる等、電池特性を大きく向上させる事ができるので好ましい。
【0026】
本発明の繊維径は特に制限はないが、均一で高強度である布帛を得るために1μm 以上10μm以下であることが好ましい。
本発明の布帛の目付けは、用途に応じて適宜選択できるが、高温時の短絡防止の点から、20g/m以上、特に繊維中の無機粉体の含有量が40質量%以上90質量%以下でかつ布帛の目付けが20g/m以上であること、更には30g/m以上で、特に繊維中の無機粉体の含有量が40質量%以上80質量%以下であることあることが好ましい。ここで、目付けは、本発明の布帛を単位面積あたりの重量で表わしたものであり、測定方法はJIS−K7100の条件による。
【0027】
すなわち、布帛を恒温恒湿条件にて所定の時間放置した後、面積を測定して得られるA(m2)、続いて該試料の重量を電子天秤で測定して得られる重量B(g)より、下記式(3)で求められる。
目付けC g/m2 = B / A 式(2)
【0028】
本発明の布帛は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記無機粉体含有繊維に加えて他の繊維、好ましくは熱可塑性繊維を含有してもよい。そのような熱可塑繊維を構成する樹脂としては、上記無機粉体含有繊維を構成する熱可塑性樹脂と同様のものを使用できる。
本発明のセパレータでは、上記の布帛上に熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維布帛を積層することもできる。熱可塑性樹脂多孔膜とは、熱可塑性樹脂を使用して延伸法、相分離法、混合抽出法、焼結法等により多孔構造を有するフィルム状のものをいい、熱可塑性樹脂繊維とは、熱可塑性樹脂を使用して溶融紡糸等により押出して繊維状としたものをいう。
熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維を構成する熱可塑性樹脂は、加工性、コスト、環境安全性の観点から、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン・プロピレン、エチレン・酢酸ビニル等の共重合体、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン・コポリマー、 等のポリオレフィン樹脂が好ましい。上記積層セパレータは、例えば、熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維布帛を上記布帛上の少なくとも一面に積層し、熱圧着法、超音波接着法、接着剤法等の手段により一体化させることにより得られる。
【0029】
このように一体化された蓄電池用セパレータを、例えばリチウムイオン電池用セパレータとして使用した際には、昇温初期の130℃近辺でより確実にイオン透過を阻止することがきできる。即ち、リチウムイオン電池が熱可塑性樹脂多孔膜の溶融点以上にさらされた場合、熱可塑性樹脂多孔膜は溶融して無孔のフィルム状となり現在使用されている安全性機構であるシャットダウン効果が発揮されると共に、布帛状のセパレータを構成する軟化した繊維と容易に接着され、過熱により狭まった繊維間の間隙をより完全に閉塞させる事に寄与してイオンの透過をより完全に阻止出来る。
【0030】
例えば、布帛を構成する熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂を使用し、布帛上に積層する熱可塑性樹脂多孔膜にポリエチレン多孔膜を使用し、双方を一体化した蓄電器用セパレータを作成してリチウムイオン電池に使用する場合、電池が過熱状態になった場合、先ずポリエチレン多孔膜が融点温度である130℃近辺で軟化溶融して無孔化しフィルム状になり、同時に該セパレータを構成する繊維が軟化溶融し繊維間空隙を埋める作用を生じ、同様にして熱可塑性樹脂繊維を用いた場合においても安全性を高めることができる。
【0031】
また、絶縁性無機粉体とポリエチレン樹脂を混合せしめて成形した繊維よりなる布帛Aと、無機粉体を含有させず熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂のみ使用した繊維よりなる布帛Bとを、A/B/Aの積層体にした後、熱圧着等により布帛状に成形してリチウムイオン電池にセパレータとして使用した場合、電池が過熱状態になりポリエチレン樹脂溶融温度以上の条件では中間層の熱可塑性樹脂繊維Bは軟化溶融して多孔膜と同様にフィルム化し無孔状態となると共に布帛Aも軟化してイオンの透過性は完全に阻止出来る。その後何らかの要因で、温度上昇が発生した場合でも布帛Aが絶縁性無機粉体を有するため、電極間短絡が防止出来る。
【0032】
本発明のセパレータの厚みは特に制限はないが、例えば10μm以上100μm以下である。
本発明のセパレータは、例えば、熱可塑性樹脂5質量部以上60質量部以下と無機粉体40質量部以上95質量部以下含む混合物を、溶融押出し法等の繊維状に成形する工程の後、該繊維から布帛を形成する工程を含む方法により得られる。
無機粉体を非常に大量に混合せしめたセパレータを得るには、混合物中に熱可塑性樹脂の溶剤を含む事が好ましい。これは該溶剤が含まれていると無機粉体を大量に混合して繊維とする事が可能となるためである。熱可塑性樹脂の溶剤として、具体的には、熱可塑性樹脂が高温で溶解する貧溶媒が挙げられ、操作性やコスト、繊維への多孔性付与等の観点から流動パラフィン、DOP、デカリン等やこれらの混合物が好ましい。溶媒の量は特に制限はないが、熱可塑性樹脂と無機粉体の混合物を100質量部とした場合に、200質量部以上800質量部以下であること、更には300質量部以上600質量部以下であることが好ましい。
【0033】
又、熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂を使用し、本発明の手法を用いて得られる繊維を細く且つ高強度にさせるためには、使用するポリエチレン樹脂の分子量が大きいものが好ましく粘度平均分子量Mv300万以上、より好ましくはMv600万以上を用いる事が適切である。そのため、無機粉体をより多く含有させてしかも高強度な繊維を得るためには出来るだけ分子量の大きなポリエチレン樹脂を使用する事が望ましい。
【0034】
本発明のセパレータは、熱可塑性樹脂と無機粉体を含む混合物、或いはさらに熱可塑性樹脂の溶剤を含む混合物を熱溶融押出し装置等により繊維状に成形する工程を経た後、必要に応じて溶剤を揮発または抽出して得た繊維を、布帛状に形成する工程、すなわち織編または不織布製法等により布帛状に形成する方法、或いは繊維状に押出して得た繊維を織編または不織布製法等により布帛状に形成して後、溶剤を揮発または抽出する方法等、を経て得られる。
【0035】
本発明の製法においては、使用する溶剤、無機粉体を調整することにより、繊維の空孔率を調整することができる。例えば、繊維に空孔を形成させる前記の溶剤が、熱によっても比較的不揮発性である流動パラフィンの様な場合、熱可塑性樹脂と無機粉体および熱可塑性樹脂の溶剤を含む混合物を熱溶融押出し装置より繊維状に押出した時に、温度低下による相分離で形成された繊維の空孔内に溶剤が保持され繊維が冷却後も空孔状態は溶剤が詰まり維持され、溶剤を溶媒により抽出した場合に繊維全体に微細孔を有する。また使用する絶縁性無機粉体が多孔体である場合はより多くの空孔率を有する繊維となる。
【0036】
又、熱可塑性樹脂の溶剤がデカリンの様な熱揮発性である場合は熱可塑性樹脂と無機粉体および熱可塑性樹脂の溶剤を含む混合物を熱溶融押出し装置より繊維状に押出した時に温度低下による相分離後直ちに熱可塑性樹脂溶融状態で揮発し繊維に空孔が形成される事は殆ど無く、該繊維の容積に占める無機粉体の量を多く出来る事から空孔率のコントロールは容易に出来るので、好ましい。
本発明により得られる布帛形成体は使用用途によりその最適形状は異なるが、例えば蓄電器用セパレータを不織布製法で得るためには目付けが小さい場合に繊維間で形成される間隙即ち孔径が大きく且つバラツキも大きくなる。又、布帛形成させる繊維の太さも重要であり、同一の布帛目付けであれば出来るだけ細い繊維を重ねて構成させる方が形成する孔径とバラツキを小さくできるが反面強度や生産性に問題も有る。
【0037】
従って、不織布製法で布帛を形成させる場合に、断面方向の一部を出来るだけ細い繊維で堆積させた層を形成し小孔径化を図り、他層を比較的太い高強度の繊維で形成する堆積層を作成、即ち複層を形成して一体化する事も機能分担には有効な手段である。
本発明の手法により蓄電器用セパレータを得るためには、例えば、熱可塑性樹脂として超高分子量を含むポリエチレン樹脂、絶縁性無機粉体として疎水性SiO2、および流動パラフィンを均一に混合させ原料とし、熱押出し機に導入して高温溶融状態にて多数の紡口より押出し繊維として、ベルト状のコンベアに振り落とした後過熱ロール間で加圧して繊維間を融着させて布帛とさせる。その後、ポリエチレンの溶剤である流動パラフィンを溶解させる溶媒浴中に導入して溶媒を乾燥して本発明の布帛状セパレータが得られる。
同様にして、繊維となった後で熱可塑性樹脂の溶剤例えば流動パラフィンを抽出し、その後布帛状に形成し熱融着、接着剤あるいは流体による繊維絡ませ等によって布帛状セパレータとし、本発明の蓄電器用セパレータとして使用できる。
【0038】
本発明のセパレータの製造方法は、従来のセパレータの製造方法に比べて優れた効果を奏する。例えばリチウムイオン電池用セパレータは、より薄く高強度で且つ電池性能として問題ない限り微細孔な多孔体が要求されている。、多孔膜セパレータでは高強度化は樹脂の組成を選択するか物理的に引張させ分子配向、即ち延伸をする事が一般的であるが、膜の延伸は面積拡大であり高延伸には実用的に限界があるばかりでなく、設備的にも高価格となり現実的でない。
また、多孔膜生産時に無機粉体を熱可塑性樹脂に対し高濃度で含有させて製膜した場合、延伸に伴い高濃度の無機粉体が延伸を妨げ膜の厚さ方向の減少、即ち薄膜化が困難である事ばかりでなく無機粉体が起因となり膜破れが発生する事が有り多孔膜の生産性が優れない。これに対して、本発明の製造方法は紡糸方法により高速高延伸で分子が高配列されるため細く強い繊維が多量に得られる。この様な繊維によって布帛状セパレータとするため、同じ該熱可塑性樹脂で製造した微多孔膜より単位面積当りの強度は非常に大きくなるという利点がある。不織布生産方式で蓄電器用セパレータを得る場合、最も大きな欠点は形成される孔の孔径が大きく且つ孔径バラツキも大きい事に有りこの要因として多孔膜に比べ繊維が太い事がもっとも大きいと考えられる。
【0039】
この解決策として、繊維径を細くする事により繊維積層本数を多くしてばらつきを小さくさせる事が好ましく、例えばメルトブロー方式等の極細で高強度繊維が得られる不織布製法やフラッシュ紡糸法、これらの方式とスパンボンド方式の組合せ等も有効であり、あるいは不織布形成後熱ローラーによる圧着によって繊維を潰す方法等によっても繊維間間隙すなわち孔径と孔径バラツキが小さく均一な高強度の不織布が得られ、これらの手法を利用する事により画期的な布帛状セパレータである蓄電器用セパレータが得られる。
また、紡糸した繊維をカットして短繊維とし、水等に分散して紙漉きの様な製法によって不織布を得る方法も、繊維の分散性が良くなりバラツキが少なく孔径も均一とするため、本発明の布帛を得る好適な方法の一つである。
【0040】
この様な本発明による手法により蓄電器用セパレータとして最も均一で小孔径且つ薄膜を要求されるリチウムイオン電池用セパレータが作製出来、電池の異常高温状態テストでシャットダウン機能の作動が確認でき、それ以上の昇温状態でも他の安全装置が働くまで該電池が安定した状態にあることが実証でき、本発明の目的を達成できた。
【0041】
本発明は上記蓄電器用セパレータを用いたリチウムイオン電池をも包含する。このようなリチウムイオン電池は、例えば次のような方法により作製できる。本発明のセパレータと帯状正極(活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO、導電剤としてリン片状グラファイト、アセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製したものをアルミニウム箔の両面にコートすること等により得られる)及び帯状負極(活物質として人造グラファイト、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを精製水中に分散させてスラリーを調製したものを銅箔の両面に塗付すること等により得られる)を、帯状負極、セパレータ、帯状正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回した後、平板状にプレスを行うことによって電極板積層体を作製する。作製した電極板積層体をアルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器蓋端子部に接続する。さらにこの容器内に前記した非水電解液を注入し封口する。
【実施例】
【0042】
以下の説明により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量基準である。また、本発明で使用する測定方法は、以下の方法によった。
(1)ガーレー透気度
JIS P−8117に準じ、ガーレー式デンソメータ(東洋精機製)を用いて測定した。
(2)厚さ
微小側厚計(東洋精機社製「KBM側厚計」)にて3点測定した平均値を用いた。なお、側定圧は63.7±7.5kPa、測定端子径は5±0.05mm、23±3℃雰囲気下で測定した。
(3)平均孔径
水銀ポロシメーター法により、測定装置「島津オートポアー」(商標、島津製作所製)を用いて測定し、モード径を平均孔径とした。
【0043】
[実施例1]
Mv600万の粉末ポリエチレン「ハイゼックスミリオン630M」(商標、三井化学社製)と粉末状SiO「ニプシールLP」(商標、東ソーシリカ社製)および流動パラフィン「モレスコホワイトp−260」(商標、松村石油研究所社製)、をそれぞれ32部、8部、160部計量したものをA組成とし、同様に28部、12部、140部を計量したものをB組成、24部、16部、120部計量したものをC組成、16部、24部、100部計量したものをD組成とし、それらの組成別に先ず粉末ポリエチレンと粉末状SiOをミキサーに入れ均一混合させ、その後所定量の流動パラフィンを添加してさらに混合させたものを押出し機に送り出し200℃に加熱させて混合溶融状態として押出し機出口に取り付けた紡口より繊維状に押出し、ボビンにて巻き取り組成A、B、C、Dよりなる4種の繊維サンプルを作成した。これら4種の繊維を25℃の流動パラフィンの溶剤で抽出して乾燥後個別に約2cmに切断してカードにて綿状にして積層し加熱ロールにて加圧、布帛状として非常に薄膜である目付け30g/m2の布帛を作製した。
【0044】
得られた布帛状のサンプルを銅板上に置き、サンプル上に直径2cm、重さ200gのニッケル金属棒を横にして置き、150℃の雰囲気中に10分間放置した後取出し、両金属間に50Vの電圧を印加して通電の有無を確認した。その結果、A組成およびB組成のものが通電する事を確認された。これにより少なくとも高温状態での絶縁性を必要とするセパレータには、布帛を形成する繊維中の粉末状SiOの含有量が40wt%以上であることが必要である事が示唆される。
【0045】
[実施例2]
熱可塑性樹脂に無機粉体を高濃度に含有させて繊維形状とする際に、使用する熱可塑性樹脂の分子量によって繊維特性が影響するものと考えられる。本実施例は熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂を使用し粘度平均分子量の異なったものを用いて繊維物性との関係について検討したものである。
Mv330万の粉末ポリエチレン「サンファインUH900」(商標、旭化成ケミカルズ社製)、粉末状SiO(同実施例1)、流動パラフィン(同実施例1)をそれぞれ15部、25部、80部計量したものをE組成、同様にそれぞれ12部、28部、80部のものをF組成とした。同じくMv600万の粉末ポリエチレン(同実施例1)、粉末状SiO(同実施例1)、流動パラフィン(同実施例1)をそれぞれ15部、25部、80部計量したものをG組成、12部、28部、80部のものをH組成とした。これらの組成のものを実施例1に記載の操作方法と同様にして溶融押出しして繊維状のものを得てボビンに巻き取り流動パラフィンの溶剤にて抽出し繊維サンプルを得た。
繊維サンプルとして得られたものはG,H組成で有るがE組成の繊維は弱く完全にボビンに巻き取る事は不可能であり、F組成のものは繊維状として成型出来るものではなかった。この結果、ポリエチレンの分子量を大きくする事が無機粉体を多く含有させ、且つ繊維強度を向上させる事が実証できた。
【0046】
[実施例3]
無機粉体含有量の高濃度化は熱可塑性樹脂量の減少により形成される繊維の強度を低下するため、布帛を形成させる事が困難となる。本実施例はその限界量を把握するために行ったものである。高強度が得られる超高分子量ポリエチレン、即ちMv600万の粉末ポリエチレン(同実施例1)と粉末状SiO(同実施例1)および流動パラフィン(同実施例1)をそれぞれ12部、28部、80部計量したものをI組成とし、同様に10部、30部、80部を計量したものをJ組成、8部、32部、80部計量したものをK組成、4部、36部、80部計量したものをL組成とし、同じく「ハイゼックスミリオン630M」、粉末SiO(同実施例1)より比重の大きな粉末ZnO「銀嶺A90−1」(商標 東邦亜鉛社製)、流動パラフィン(同実施例1)をそれぞれ10部、30部、80部計量したものをM組成とし、同様に8部、32部、80部を計量したものをN組成、4部、36部、80部計量したものをO組成、2部、38部、80部計量したものをP組成とした。これらを実施例1に記載の操作方法と同様にして溶融押出しして繊維状のものを得てボビンに巻き取り流動パラフィンの溶剤にて抽出し繊維サンプルを得た。
その結果、I、J、M、N、O組成は正常に長繊維化されボビンにて巻き取る事が出来るが、L組成は繊維状を得る事は全く不可能であった。 また。K、P組成は繊維状とはなるが非常にもろく切断する事が多いが、短繊維として形成させ積層させて布帛状に形成する事は可能であった。
【0047】
本実施例および実施例2より、粉末ポリエチレンに無機粉体として比重の小さい粉末状SiOを使用した場合には無機粉体濃度は80wt%以下が、比重の大きな粉末状ZnOは95%以下が好ましく、無機粉体の比重が大きいほど含有濃度を上げる事が可能であることが確認され、安定的に繊維を得るには無機粉体75wt%以下が望ましい事が解った。
【0048】
[実施例4]
Mv600万の粉末状ポリエチレン(同実施例1)8部、粉末状SiO(同実施例1)32部、流動パラフィン(同実施例1)140部を計量し粉末状ポリエチレンと粉末状SiOをミキサーに入れ混合させて均一に分散させた後、所定量の流動パラフィンを添加してさらに攪拌混合させたものを押出し機に送り出し200℃に加熱させて混合溶融状態としT型ダイの紡口より押出すと同時に紡口両サイドから高温のエアーを噴射させ、所謂メルトブロー方式により無機粉体が高濃度に分散された極細の繊維が得られた。極細の繊維は金網状ベルトに捕集されて繊維堆積状をなし、次いで加熱したロール間に通し加圧、不織布を形成させた。その後、流動パラフィンを溶解する溶剤が入った25℃のバスに通し抽出し乾燥後本発明の蓄電器用セパレータを得る事が出来た。
得られた本発明による蓄電器用セパレータは超高分子量ポリエチレン20%、SiO80%の繊維でなる空孔率52%、厚さ42μm、目付け35g/m2の不織布形状のものであった。このセパレータを銅板の上に置き、セパレータ上には直径2cm重さ200gのニッケル金属棒を横に置いた状態で150℃雰囲気中に10分間放置した後取出して両金属間に50Vの電圧を印加したが電流は流れずセパレータを目視観察したがセパレータの切断はなく且つ収縮は殆ど見られず高温状態で放置しても金属板と金属棒に間隙を維持する事が確認できた。
【0049】
[比較例1]
ポリエチレン製微多孔膜、厚さ45μm、空孔率41%のセパレータを実施例1と同様な条件で熱処理し実験した結果、両金属間に電流が流れる事を確認すると共に収縮、薄膜化が著しく部分的に貫通孔も目視出来、本発明による蓄電器用セパレータが優れている事が認められた。
【0050】
[実施例5]
Mv600万の粉末ポリエチレン(同実施例1)18部、粉末状SiO(同実施例1)22部、流動パラフィン(同実施例1)240部を使用して実施例3と同様の操作にて得られた超高分子量ポリエチレン45%、SiO55%の繊維を積層させて布帛Aを作成し、その上に続けてMv70万「サンファインUH650」(商標、旭化成ケミカルズ社製)の粉末ポリエチレン40%と流動パラフィン(同実施例1)60%を混合して溶融押出し機に送り出し、200℃に加熱させて混合溶融状態としシリカ混入繊維と同様に紡口より押出すと同時に紡口両サイドから高温のエアーを噴射させるメルトブロー方式により繊維を吹き出し布帛Aに上に布帛Bを作成、その後再び布帛Aを同様に布帛B上に形成させA/B/Aの布帛を得て熱ロール中にて圧延成形し厚さ44μm、空孔率41%、目付け36g/m2のセパレータを得た。
【0051】
このようにして得られたセパレータを高温状態にてテストしシャットダウン効果を確認した。
即ち、この状態に加工した本発明のセパレータの透気度はガーレー方式にて57秒/100ccであったが、このセパレータを銅管に捲回して140℃で10分間放置した後取出して同様に測定したところ5650秒/100ccとなり、高温状態におけるシャットダウン効果が確認できた。
【0052】
[実施例6]
Mv200万の粉末ポリエチレン「サンファインUH850」(商標、旭化成ケミカルズ社製)20%と流動パラフィン(同実施例1)80%を混合して溶融押出し機に送り出し、200℃に加熱させて溶融しT型ダイより押出したのち縦横延伸しその後流動パラフィンを25℃の溶剤で抽出して得られた膜厚20μm、平均孔径0.06μmの多孔膜を実施例4で得られたシリカ入り不織布とホットメルト接着剤で部分接着して複合セパレータとし、140℃オーブンに5分間入れて熱処理した後取出し透気度変化によるシャットダウン効果をテストした。その結果、熱処理前のガーレー透気度は210秒/100ccであったが熱処理後1万秒/100cc以上となり完全にシャットダウン効果が見られ、実施例3の高温状態での絶縁効果に低温でのシャットダウン効果を付加する事が出来た。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のセパレータは、無機粉体を大量に保持出来るため、電磁波吸収体、伝熱・放熱構造体、電極構造体、寸法安定支持体、吸着構造体、触媒構造体、濾過材、蓄電器用セパレータ等様々な用途に使用可能であるが、特に、薄膜で且つ耐熱性を要求されている観点から蓄電器用セパレータに使用することが好ましい。本発明の蓄電器用セパレータは、特に自動車駆動用のエネルギー源として期待の大きなリチウムイオン電池用セパレータ、電気二重層コンデンサー用セパレータ、或は他の有機溶媒使用電池用セパレータとして特に高温時に安定した性能を有する高安全性セパレータとして好適に利用できる。
更に、繊維中に無機粉体を高濃度に含有させるのみならず、高空孔率の多孔体構造である繊維を布帛状に形成した場合には、電解液は該繊維の空孔に浸透し、且つ該繊維同士で構成する布帛の組織間にも保持され、より多くの電解液を長期間維持する事が可能となり電池特性を大きく向上させる事ができるので、リチウムイオン電池や電気二重層コンデンサーの様に電解液へのイオン溶解量が大きい事が必要な用途に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の無機粉体含有熱可塑性繊維(一例)の一本の横方向の断面図を表す概略図である。
【図2】本発明の布帛(一例)を表す概略図である。
【図3】本発明の布帛(一例)と、それを加熱した際の断面構造を表す概略図である。
【図4】無機粉体含有熱可塑性繊維と熱可塑性繊維から構成される本発明の布帛(一例)と、それを加熱した際の断面構造を表す概略図である。
【図5】本発明の布帛に熱可塑性樹脂多孔膜を貼り合わせた構造体(一例)と、その構造体を加熱した際の断面構造を表す概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1 無機粉体
2 熱可塑性樹脂
3 空孔
4 繊維(熱可塑性樹脂+無機粉体)
5 繊維(熱可塑性樹脂)
6 多孔膜
7 溶融後多孔膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体を40質量%以上96質量%以下含有する熱可塑性繊維からなる布帛からなることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
繊維の空孔率が20%以上である請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
無機粉体が絶縁性無機粉体である請求項1又は2に記載のセパレータ。
【請求項4】
熱可塑性繊維がポリオレフィン樹脂からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項5】
布帛に熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維布帛を積層してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項6】
熱可塑性樹脂多孔膜又は熱可塑性繊維布帛がポリオレフィン樹脂からなる請求項5に記載のセパレータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のセパレータを用いた蓄電器用セパレータ。
【請求項8】
請求項7に記載の蓄電器用セパレータを用いたリチウムイオン電池。
【請求項9】
熱可塑性樹脂5質量部以上60質量部以下と無機粉体40質量部以上95質量部以下含有する混合物を繊維状に成形する工程の後、該繊維から布帛を形成する工程を含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記混合物が熱可塑性樹脂の溶剤を含む請求項9に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
布帛上に熱可塑性樹脂多孔膜を積層する工程を含む請求項9又は10に記載のセパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−95668(P2007−95668A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228370(P2006−228370)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】