説明

セボフルラン合成の廃棄物の流れから1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノールの回収のためのプロセス

1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(「HFIP」)の加水分解可能な前駆物質を含む組成物からHFIPを取得するプロセスを提供する。HFIPの加水分解可能な前駆物質は、セボフルラン自体とは別の化合物であり、完全な1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ部分((CFCHO−)を有し、酸加水分解に影響を受けやすい1つ以上の部分を含むので、HFIPはそのような処理をうけて放出される。そのプロセスは、数ある中でも、吸入麻酔剤であるフルオロメチル2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル(「セボフルラン」)の合成に関連した廃棄物の流れからHFIPを回収するために、有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、2003年1月14日に出願された米国仮特許出願番号60/439,942の利益を主張する。米国仮特許出願番号60/439,942の開示は、その全体が参考として援用される。
【0002】
本発明は、吸入麻酔剤であるフルオロメチル2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル(「セボフルラン」)の合成に関連した廃棄物の流れから1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(「HFIP」)を回収するプロセスに関連する。
【背景技術】
【0003】
近年、フッ化エーテル(例えばセボフルラン)は、有用な麻酔剤特性を有することが見出されている。セボフルランは、麻酔の急速な開始および急速な回復を提供するので、利点のある吸入麻酔剤である。セボフルランは、酸素または呼吸を補助するために十分な量の酸素を含むガス状混合物と混合されて約1容量%〜5容量%で、温血動物に吸入経路によって投与される。
【0004】
セボフルランの調製のための好ましい商業的なプロセスの多くは、出発物質として化学的中間体であるHFIPの使用に頼る。例えば、セボフルランを調製するための好ましいプロセスは、スキーム1に描かれている3工程のプロセスからなる。第1工程において、塩基の存在下での硫酸ジメチルとのHFIPの反応は、メチル2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル(「セボメチルエーテル」)を高収率で提供する。第2に、セボメチルエーテルは、光化学的な塩素化手順で処理されて、クロロメチル2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル(「クロロセボ」)を提供する。第3工程において、第2工程からのクロロセボは、求核性のフッ化物源(例えば第3級アミンフッ化水素塩)と反応して、塩素をフッ化物イオンと置換して、米国特許第5,886,239号(本明細書中に参考として援用される合成方法)に開示されるように、セボフルランを提供する。
【0005】
【化1】

上記したプロセスは、セボフルランの高収率を提供するが、全体的なプロセスの改良が所望される。特に、セボメチルエーテルのクロロセボへの変換における有用な化学的中間体の損失は、そのプロセスの非効率に寄与する。その変換は、不要な化学種を生じるフリーラジカルプロセスである。例えば、塩素化プロセスは、所望されるクロロセボに加えて、反応していないセボメチルエーテルおよび過剰に塩素化された化学種(例えばジクロロメチル2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル(「ジクロロセボ」))を生じる。
【0006】
【化2】

さらに、精製されたクロロセボを取得するための粗製反応生成物の蒸留もまた、そのプロセスの収率全体における損失に寄与し得る。例えば、蒸留からの廃棄物の流れ(すなわち、蒸留器の残留物)の分析は、クロロセボおよびジクロロセボに加えて、多くの他の高沸点成分(例えば、以下に示されたジ−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)アセタール(本明細書中で「ジ−HFIPアセタール」と言及されている))を明らかにしている。
【0007】
【化3】

さらに、蒸留器の残留物中の他の成分は、完全な1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ部分を示す。
【0008】
HFIPの使用に頼るセボフルランの調製に使用される他の化学的プロセスは、例えば、米国特許第5,990,359号(「第‘359特許」)およびPCT公報WO02/50003(そのプロセスの記載は両方とも、本明細書中に参考として援用される)に開示されている。これらのプロセスは、セボフルランを形成するために酸の存在下でビス(フルオロメチル)エーテルとHFIPとを結合させる。第‘359特許は、化学式
【0009】
【化4】

を有するアセタールが、そのプロセスの副産物として生成されることを開示している。前述の副産物のアセタールに加えて、WO02/50003は、そのプロセスの別の副産物としてジ−HFIPアセタールの形成を記載している。これらの副産物の形成は、所望される生成物であるセボフルランを犠牲にして、当量のHFIPを消費し、セボフルラン調製プロセスの効率を減少させる。
【0010】
セボフルランを合成するための別のプロセスは、米国特許第4,250,334(「第‘334特許」、そのプロセスの記載は本明細書中に参考として援用される)に開示されている。第‘334特許は、ホルムアルデヒド(重合形態(例えば、パラホルムアルデヒドおよび1,3,5−トリオキサン)を含む)ならびにフッ化水素とのHFIPの反応を開示している。この変換は、脱水剤(例えば濃硫酸)の存在下で、一般的に行われる。第‘334特許の例は、粗製反応混合物からの蒸留画分でのセボフルランおよびHFIPに加えて、ホルマール含有副産物およびアセタール含有副産物の存在を開示している。
【0011】
同様に、米国特許第5,811,596号(「第‘596特許」、そのプロセスの説明は本明細書中に参考として援用される)は、数ある中でも、ポリエーテルの一般式
【0012】
【化5】

の形成を開示しており、ここでRおよびRは、独立して水素、C〜C10アルキルまたはハロアルキル基であり、nは1〜10の整数であり、ならびにRおよびRの両方は、同時に水素ではない。ポリエーテルが、セボフルランを調製するための脱水素剤(例えば、硫酸)の存在下でのHFIP、ホルムアルデヒドおよびフッ化水素の反応における副産物として形成され得ることが開示されている。そのようなポリエーテルの生成のための他の方法もまた、第‘596特許に開示されている。
【0013】
米国特許第6,100,434号(「第‘434特許」、そのプロセスの説明は本明細書中に参考として援用される)は、2工程方法によるセボフルランの調製を開示している。第1工程において、HFIPは、クロロセボを生成するために、塩素化剤(例えば、三塩化アルミニウム)の存在下での、ある量で1,3,5−トリオキサンまたはパラホルムアルデヒドのいずれかと組み合わされる。その結果として生じるクロロセボは次いで、セボフルランを提供するために、フッ化物試薬(すなわち、アルカリ金属フッ化物)と組み合わされる。第‘434特許の実施例1は、粗製反応生成物中のクロロセボ、HFIPおよびポリケタールに加えて、有意な比率(すなわち、22%)のジ−HFIPアセタールの存在を記載している。
【0014】
セボフルランについての総製造費用の有意な構成は、HFIPについての材料費用に基づいているので、HFIPのより効率的な使用を可能にさせるプロセスが所望される。例えば、セボフルランの合成において形成される副産物の混合物を含む廃棄物の流れからHFIPの回収を可能にするプロセスが、必要とされる。さらに、セボフルラン合成プロセスから出る廃棄物の流れ、特にハロゲン化した廃棄物の流れの体積の減少は、セボフルラン調製の費用をさらに減少させ得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要旨)
1つの局面において、本発明は、HFIPの加水分解可能な前駆物質を含む組成物からHFIPを取得するプロセスに関連する。そのプロセスは、HFIPの加水分解可能な前駆物質のうちの少なくともいくつかをHFIPに加水分解するために有効な温度まで、強プロトン酸と一緒に組成物を加熱する工程、次いで、加熱された組成物からHFIPを単離する工程を包含する。
【0016】
別の局面において、本発明は、セボフルランを調製するためのプロセスに関連する。そのプロセスは:
(a)セボフルランおよびHFIPの加水分解可能な前駆物質を提供する1つ以上の反応においてHFIP供給物を反応させる工程;
(b)(a)の1つ以上の反応のうちの少なくとも1つからHFIPの加水分解可能な前駆物質を分離する工程;
(c)HFIPの加水分解可能な前駆物質をHFIPに変換するために有効な温度で、強プロトン酸と一緒に、分離されたHFIPの加水分解可能な前駆物質を加熱する工程;ならびに
(d)回収されたHFIPを単離する工程
を包含する。
【0017】
いくつかの実施形態において、そのプロセスは:(e)(a)のHFIP供給物に回収されたHFIPを添加する工程を包含する。
【0018】
そのプロセスのいくつかの実施形態において、工程(c)および工程(d)は、同時に行われる。
【0019】
HFIPの加水分解可能な前駆物質は代表的に:
(CFCHO(CHO)CH(CF
(CFCHO(CHO)CHF;
(CFCHO(CHO)CH
(CFCHO(CHO)n−1CHCl;および
(CFCHOCHCl
から選択される1つ以上の化合物であり、ここでnは、独立して1〜10の整数である。
【0020】
そのプロセスの1つの実施形態において、工程(a)は、ホルムアルデヒドおよびフッ化水素を用いてHFIP供給物を処理して、セボフルランおよび加水分解可能なHFIPの前駆物質を提供する工程によって行われ得る。
【0021】
代替の実施形態において、工程(a)は、ビスフルオロメチルエーテルを用いてHFIP供給物を処理して、セボフルランおよび加水分解可能なHFIPの前駆物質を提供する工程によって行われ得る。
【0022】
別の実施形態において、工程(a)は:
(1)塩素化剤の存在下でパラホルムアルデヒドおよび1,3,5−トリオキサンから選択される反応物を用いてHFIPを処理して、クロロセボおよびHFIPの加水分解可能な前駆物質を提供する工程;ならびに
(2)フッ化物試薬を用いてクロロセボを処理して、セボフルランを得る工程
によって、行われる。
【0023】
さらに別の実施形態において、工程(a)は、メチル化剤を用いてHFIP供給物を処理して、セボメチルエーテルを得る工程、セボメチルエーテルを塩素化して、クロロセボおよびHFIPの加水分解可能な前駆物質を得る工程、ならびにフッ化物試薬を用いてクロロセボを処理して、セボフルランを得る工程によって行われ得る。
【0024】
別の局面において、本発明は、HFIPからクロロセボを調製するためのプロセスに関し、このプロセスは:
(a)HFIP供給物をアルキル化して、セボメチルエーテルを得る工程;
(b)セボメチルエーテルを塩素化して、クロロセボおよび他のHFIPの加水分解可能な前駆物質(例えば、ジ−HFIPアセタールおよびジクロロセボ)を含む混合物を得る工程;
(c)混合物からクロロセボを単離して、クロロセボ減損混合物を提供する工程;
(d)他のHFIPの加水分解可能な前駆物質をHFIPに変換するために有効な温度で、強プロトン酸と一緒にクロロセボ減損混合物を加熱する工程;ならびに
(e)クロロセボ減損混合物から回収されたHFIPを単離する工程
を包含する。
【0025】
いくつかの実施形態において、そのプロセスは:(f)(a)のHFIP供給物に回収されたHFIPを添加する工程、および(a)から(e)を繰り返す工程、を包含する。全体的なプロセスは、(a)から(f)を繰り返すことによって、クロロセボを生成するための連続的または断続的なプロセスとして行われ得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、そのプロセスは、(b)の混合物または(c)のクロロセボ減損混合物からセボメチルエーテルを単離する工程をさらに包含する。
【0027】
そのプロセスの特定の実施形態において、(c)における強プロトン酸は、硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、リン酸およびポリリン酸からなる群から選択される。好ましい強プロトン酸は、濃硫酸である。硫酸が(c)の加水分解に使用される場合、クロロセボ減損混合物は、好ましくは少なくとも10%容量の濃硫酸と一緒に加熱される。
【0028】
クロロセボを調製するためのプロセスのいくつかの実施形態において、工程(d)は大気圧で行われる。そのような実施形態において、クロロセボ減損混合物が強プロトン酸と一緒に加熱される温度は、好ましくは少なくとも60℃である。
【0029】
(c)におけるクロロセボの単離は、混合物の蒸留および蒸留されたクロロセボの単離によって行われ得る。特定の実施形態において、単離は、クロロセボに加えて、反応していないセボメチルエーテルの単離をさらに包含し得る。単離は、別々の蒸留分画でのクロロセボおよび反応していないセボメチルエーテルの単離と一緒に分留によって行われ得る。
【0030】
(定義)
次の用語は、本出願の目的のために、以下に示すそれぞれの意味を有するものとする。
【0031】
「HFIPの加水分解可能な前駆物質」は、セボフルラン自体とは別であり、完全な1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ部分((CFCHO−)を有する化合物を意味し、そして酸加水分解に影響を受けやすく、その結果、HFIPがそのような処理をうけて放出される1つ以上の部分を含む。
【0032】
(発明の詳細な説明)
本発明は、セボフルランの合成において生成された廃棄物の流れからHFIPを回収するプロセスに関連する。本発明の方法を使用すると、セボフルラン合成プロセスの費用効果が、セボフルラン合成プロセスにおける有益な物質の回収によって、および廃棄物の流れの体積の減少によって改善される。
【0033】
1つの実施形態において、本発明は、セボフルランおよびHFIPの加水分解可能な前駆物質を提供する1つ以上の反応においてHFIP供給物を反応させる工程を含む、セボフルランを調製するためのプロセスに関連する。HFIPの加水分解可能な前駆物質は、完全な1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ部分、および酸加水分解に影響を受けやすく、その結果、HFIPがそのような処理をうけて放出される1つ以上の部分を含む。従って、HFIPの加水分解可能な前駆物質は、HFIPの供給源としてみなされ得、次いで酸加水分解を介して利用され得る。
【0034】
そのプロセスはまた、セボフルランを提供する1つ以上の反応からHFIPの加水分解可能な前駆物質を分離する工程を包含する。そのような分離は、精製されたセボフルランまたは所望のセボフルラン前駆物質(例えば、クロロセボ)を単離して、HFIPの加水分解可能な前駆物質を含む粗製反応混合物をそのままにする工程を包含する。分離されたHFIPの加水分解可能な前駆物質は、HFIPの加水分解可能な前駆物質をHFIPに変換するために有効な温度で、強プロトン酸と一緒に加熱され、その後、HFIPは、例えば、蒸留によって単離される。
【0035】
HFIPの加水分解可能な前駆物質は、化学的中間体としてHFIPを使用するセボフルランの調製のためのいくつかの異なるプロセスと関連して上記に議論したように生じ得る。例えば、いくつかのプロセスにおいて、そのようなHFIPの加水分解可能な前駆物質は、セボフルランを直接的に産生する反応、または上記のようにセボフルランを調製する際に使用される化学的中間体を与える反応において形成される副産物として生じ得る。いくつかの例において、HFIPの加水分解可能な前駆物質は、HFIPと1当量以上のホルムアルデヒド(またはパラホルムアルデヒドまたは1,3,5−トリオキサンなど)との反応を介して生じ得る。これらの副産物もまた、精製工程(例えば蒸留)の間に発生し得る熱または加水分解プロセスの結果として形成し得る。
【0036】
HFIPの加水分解可能な前駆物質は、完全なヘキサフルオロイソプロピルオキシ部分、および酸加水分解に影響を受けやすい1つ以上の部分を共有する。そのような加水分解可能な部分は、アセタール、ケタール、ヘミアセタール、ヘミケタール、α−ハロメチルエーテル、α,α−ジハロメチルエーテルなどを含む。HFIPの加水分解可能な前駆物質としては、例えば、以下が挙げられる:
(CFCHO(CHO)CH(CF(ここで、nは1〜10の整数、特にn=1である);
(CFCHO(CHO)CHF(ここで、nは1〜10の整数、特にn=1である);
(CFCHO(CHO)CH(ここで、nは1〜10の整数、特にn=1である);
(CFCHO(CHO)CHCl(ここで、nは0〜10の整数、特にn=0または1である);および
(CFCHOCHClを含む。
これらの前駆物質は混合物の形態であり得る。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、セボフルランは、スキーム1に描かれた反応順序に従って調製される。上記のように、この反応順序を行うことは、所望のセボフルランに加えて、HFIPの加水分解可能な前駆物質の生成をもたらし得る。特に、セボメチルエーテルのクロロセボへの変換は、反応していないセボメチルエーテル、クロロセボおよび他のHFIPの加水分解可能な前駆物質の混合物をもたらす。混合物からのクロロセボの単離は、精製したクロロセボに加えて、クロロセボ減損混合物を提供する当業者に周知である任意の精製手順によって達成され得る。例えば、蒸留手順が使用され得る。単離手順が蒸留手順を含む場合、クロロセボ減損混合物は蒸留器中に残ったままであり得ながらも、単離されたクロロセボが蒸留中に回収され得る。クロロセボ減損混合物は代表的に、蒸留されていないクロロセボに加えて、少ない割合のジクロロセボを含む他のHFIPの加水分解可能な前駆物質、および蒸留の間に発生する熱または加水分解プロセスによって形成する、多くの他の高沸点成分を含む。クロロセボ減損混合物の組成物は、蒸留プロセスのパラメータ(例えば、蒸留器の温度およびプロセスの持続時間)に依存して変化し得る。例えば、混合物中に残っているクロロセボの割合は、単離されたクロロセボを含む蒸留画分に対する耐性に依存して変化し得る。
【0038】
代表的に、蒸留手順は、分留手順を含み、その特定された純度のクロロセボの画分は回収および組み合わされる。蒸留は、クロロセボに加えて、反応していないセボメチルエーテルが回収され得るように行われ得る。好ましくは、行われる蒸留は、クロロセボおよびセボメチルエーテルが、別々の蒸留画分中に単離されるように、分留である。特に、回収されたセボメチルエーテルは、塩素化反応のための供給物として再利用され得る。
【0039】
クロロセボ減損混合物は、他のHFIPの加水分解可能な前駆物質をHFIPに変換するために有効な温度で、強プロトン酸(例えば、濃硫酸)と一緒に加熱される。当業者に容易に理解されるように、混合物中に存在する任意のクロロセボは、さらなる量のHFIPを提供するために、反応条件下で、他のHFIPの加水分解可能な前駆物質と一緒に加水分解される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「強プロトン酸」という用語は、HFIPの加水分解可能な前駆物質を加水分解して、HFIPを提供するために効果的である酸をいう。そのような酸としては、好ましくは、硫酸、ポリリン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸が挙げられる。適切な反応パラメータを操作すること(例えば、(例えば、圧力容器を使用して)大気圧より高いレベルまで反応圧力を上げること)は、他の酸(例えば、塩酸、リン酸など)が、HFIPの加水分解可能な前駆物質の加水分解を達成するために使用されることを可能にし得る。
【0041】
このプロセスの好ましい実施形態において、強プロトン酸は、濃硫酸である。好ましくは、クロロセボ減損混合物の量に対して添加される濃硫酸の割合は、全加水分解混合物(すなわち、クロロセボ減損混合物および濃硫酸)の少なくとも10容量%であり、より好ましくは、濃硫酸の割合は少なくとも20容量%を含む。
【0042】
このプロセスの魅力的な特性は、硫酸の1回の投入物が、加水分解の効果を大幅に減少させずに、クロロセボ減損混合物の何回かの投入物を加水分解するために再利用され得ることである。この特性は、このプロセスから出る廃棄物の流れを処理する負荷を大幅に減少させる。例えば、強酸性水溶液の廃棄物の流れは、さらに処理される前、および最終的に排出される前に、代表的に中和されなければならない。従って、強酸性の廃棄物の流れにおける体積の減少は、特に、商業的な規模のプロセスにとって所望される。
【0043】
クロロセボ減損混合物および濃硫酸を含む混合物の加水分解は、好ましくは60℃以上の温度で、大気圧で行われ得る。さらに好ましくは、加水分解は、加水分解混合物の有機成分の還流を引き起こすために十分な温度で行われる。加水分解はまた、より長い反応時間を利用することによってより低い温度で、またはより高圧力でプロセスを行う(例えば、圧力容器を使用する)ことによってより高い温度で、行われ得る。
【0044】
加水分解混合物からのHFIPの回収は、多くの方法によって行われ得る。そのプロセスの好ましい実施形態において、形成されるHFIPは、加水分解反応の実質的な完了(すなわち、有用なレベルのHFIPの回収を提供するために十分な完了)の後、反応容器から直接的に蒸留される。
【0045】
別の好ましい実施形態において、HFIPは、加水分解プロセスと同時に蒸留される。蒸留が加水分解と同時に行われるプロセスの実施形態において、反応していないクロロセボおよび他のHFIPの加水分解可能な前駆物質を反応器に戻す間に、分留塔がHFIP(および任意のセボメチルエーテル)の蒸留を可能にするために使用され得る。この実施形態において、回収プロセスは連続的なプロセスとして行われ得、そのプロセスにおいて、さらなるクロロセボ減損混合物を反応器に添加しながら、HFIPは分留によって反応器から連続的に取り出される。
【0046】
代替の実施形態において、HFIPは、加水分解された混合物の全量または分離された有機相のいずれかと水もしくは他の水溶液とを混合することによって回収され得;続いて、例えば、蒸留によって、精製されたHFIPが単離され得る。必要に応じて、蒸留に使用される酸は、希塩基水溶液を用いて反応混合物を希釈することによって;または水を用いて反応混合物を希釈し、続いて塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を加えることによって、部分的または完全のいずれかに中和され得る。
【0047】
何らかの蒸留器の残留物またはHFIPの加水分解可能な前駆物質の他の供給源からのクロロセボ減損混合物は、組み合わされ得、そして強プロトン酸を用いる加水分解は、組み合わされた混合物について行われ得ることは、当業者に容易に理解される。また、加水分解混合物の2以上のバッチは、組み合わされた加水分解混合物の他の成分から回収されたHFIPを単離するより前に組み合わされ得る。別の実施形態において、スキーム1のメチル化反応からの水溶性の廃棄物の流れは、ある量の反応していないHFIPを含み、組み合わされた混合物の他の成分からHFIPを単離するより前に、加水分解混合物と組み合わされ得る。
【0048】
加水分解混合物から単離されて回収されたHFIPは、このプロセスの第1工程(すなわち、HFIPのメチル化)にHFIPを再び導入することによって再利用され得る。回収されたHFIPは、単独で、またはHFIPの新しい投入物と組み合わせて、再び導入され得る。
【0049】
もちろん、本発明の範囲をどのようにも限定するとは解釈されるべきではないが、以下の実施例は、さらに本発明を説明する。
【実施例】
【0050】
ガスクロマトグラフィーを、以下の条件下で行った:毎分4℃で55℃〜140℃の温度勾配プログラムを使用して、熱伝導率検出器を備えたHewlett−Packard 5890機器および1/8’’ID×12’「混合カラム」(Supelco Inc.,60/80 Chromosorb PAWに10%Igepal CO−880および15%Ucon LB−550Xを充填した)。混合物の成分の構造を、H NMRおよびGC−MSによって測定した。
【0051】
(実施例1−HFIPの加水分解可能な前駆物質を含むクロロセボ減損混合物の加水分解およびHFIPの回収)
セボメチルエーテルを塩素化して、反応混合物を生じさせ、続いて蒸留して、この反応混合物を水性抽出物によって後処理し、クロロセボおよび反応していないセボメチルエーテルを単離した。残っている蒸留器の残留物を、本明細書中で混合物Aという。混合物Aのガスクロマトグラフィー(GC)解析によって、ハロゲン化化合物の複雑な混合物が明らかにされた。これらのハロゲン化化合物の中でも同定されたのは、クロロセボ(37.3%)、ジクロロセボ(14.6%)、およびジ−HFIPアセタール(32.3%)であった。混合物Aはまた、水およびいくつかの固体封入物の液滴を含んだ。
【0052】
加水分解混合物を、同体積の混合物A(65mL、100.0g)および濃硫酸(65mL、119.6g)を組み合わせることによって調製した。混合物を18時間還流させ続けた。結果として生じた二相の濃い茶色の反応混合物を蒸留に供して、沸点50〜63℃の、66.8gの透明な液体を提供した。GC解析により、この液体は0.6%のセボメチルエーテル、10.6%のジ−HFIPアセタールおよび88.4%のHFIPの混合物であった。
【0053】
留出物を、ガラスの螺旋形で充填された2ft×1/2’’カラムを使用して分留によってさらに精製して、99+%HFIP(58.8g、沸点58〜59℃)ならびに89%ジ−HFIPアセタールおよび9.7%HFIPを含む容器残留物(8.7g)を含む主な画分を得た。
【0054】
(実施例2−HFIPの加水分解可能な前駆物質を含むクロロセボ減損混合物の加水分解およびHFIPの回収に対する硫酸の割合の効果)
この実施例において、混合物(実施例1に記載)の加水分解およびHFIPの回収に対する強プロトン酸(HSO)の割合の効果を評価した。
【0055】
4つの試行の各々において、混合物A(100g)および濃硫酸を表1に示した体積比で組み合わせた。試行における反応混合物の各々を、18時間還流で加熱して、表1に示したような重量および組成物を有する留出物を提供するために、混合物を蒸留した。
【0056】
【表1】

表1の結果は、より高い比率の硫酸により、より高い回収率のHFIPが提供されることを示す。しかし、他の要因(例えば工学)が、硫酸の好ましい割合の選択に影響し得る。
【0057】
(実施例3−繰り返した加水分解試行における硫酸の1回の投入の効率の評価)
この実施例において、硫酸の1回の投入の加水分解の効率を5回の試行の間に評価した。5回の試行の各々において、混合物A(実施例1に記載)の新たな投入物100g(65mL)を使用した。試行1において、濃硫酸の新たな投入物(65mL、119.6g)を混合物Aと組み合わせ、その結果として生じた混合物を18時間還流で加熱した。加水分解された混合物を蒸留した後、蒸留器残留物を室温まで冷やし、混合物Aの新たな投入物を蒸留器残留物に添加した。続いて、粗製加水分解生成物を加熱および回収した。これらの反復をさらに3回繰り返した。粗製蒸留生成物の重量および組成を表2に示す。
【0058】
【表2】

その結果は、硫酸の1回の投入が、繰り返して使用されて、HFIPの加水分解可能な前駆物質を含む混合物のいくつかのバッチを効果的に加水分解し得ることをはっきりと示している。この特性は、排出される前に処理されなければならない使用済みの酸性水溶液の廃棄物の体積を有意に減少させる。
【0059】
本発明は好ましい実施形態を強調して記載されているが、好ましいデバイスおよび方法のバリエーションが、使用され得ること、および本発明は本明細書に詳細に記載したよりも別の方法で行われ得ることが意図されることは、当業者に明白である。従って、本発明は添付の特許請求の範囲に定義したような精神および範囲内に包含される全ての改変を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HFIPの加水分解可能な前駆物質を含む組成物からHFIPを取得するプロセスであって:
該HFIPの加水分解可能な前駆物質のうちの少なくともいくつかをHFIPに加水分解するために有効な温度まで、強プロトン酸と一緒に該組成物を加熱する工程;および
該加熱された組成物から該HFIPを単離する工程
を包含する、プロセス。
【請求項2】
セボフルランを調製するためのプロセスであって:
(a)セボフルランおよびHFIPの加水分解可能な前駆物質を提供する1つ以上の反応においてHFIP供給物を反応させる工程;
(b)(a)の1つ以上の反応のうちの少なくとも1つから該HFIPの加水分解可能な前駆物質を分離する工程;
(c)該HFIPの加水分解可能な前駆物質をHFIPに変換するために有効な温度で、強プロトン酸と一緒に該分離されたHFIPの加水分解可能な前駆物質を加熱する工程;ならびに
(d)回収されたHFIPを単離する工程
を包含する、プロセス。
【請求項3】
請求項2に記載のプロセスであって:
(e)(a)のHFIP供給物に前記回収されたHFIPを添加する工程
をさらに包含する、プロセス。
【請求項4】
請求項2に記載のプロセスであって、(c)および(d)が、同時に行われる、プロセス。
【請求項5】
請求項2に記載のプロセスであって、前記HFIPの加水分解可能な前駆物質が、以下:
(CFCHO(CHO)CH(CF
(CFCHO(CHO)CHF;
(CFCHO(CHO)CH
(CFCHO(CHO)n−1CHCl;および
(CFCHOCHCl
から選択される1つ以上の化合物を含み、ここでnは、独立して1〜10の整数である、プロセス。
【請求項6】
請求項2に記載のプロセスであって、(a)が、ホルムアルデヒドおよびフッ化水素を用いて前記HFIP供給物を処理して、セボフルランおよび前記加水分解可能なHFIPの前駆物質を提供する工程を包含する、プロセス。
【請求項7】
請求項2に記載のプロセスであって、(a)が、ビスフルオロメチルエーテルを用いて前記HFIP供給物を処理して、セボフルランおよび前記加水分解可能なHFIPの前駆物質を提供する工程を包含する、プロセス。
【請求項8】
請求項2に記載のプロセスであって、(a)が:
(1)塩素化剤の存在下でパラホルムアルデヒドおよび1,3,5−トリオキサンから選択される反応物を用いてヘキサフルオロイソプロパノールを処理して、クロロセボおよび前記HFIPの加水分解可能な前駆物質を提供する工程;ならびに
(2)フッ化物試薬を用いてクロロセボを処理してセボフルランを得る工程
を包含する、プロセス。
【請求項9】
請求項2に記載のプロセスであって、(a)が、メチル化剤を用いて前記HFIP供給物を処理して、セボメチルエーテルを得る工程、該セボメチルエーテルを塩素化して、クロロセボおよび前記HFIPの加水分解可能な前駆物質を得る工程、ならびにフッ化物試薬を用いてクロロセボを処理して、セボフルランを得る工程を包含する、プロセス。
【請求項10】
HFIPからクロロセボを調製するためのプロセスであって:
(a)HFIP供給物をアルキル化して、セボメチルエーテルを得る工程;
(b)セボメチルエーテルを塩素化して、クロロセボおよび他のHFIPの加水分解可能な前駆物質を含む混合物を得る工程;
(c)該混合物からクロロセボを単離して、クロロセボ減損混合物を提供する工程;
(d)該他のHFIPの加水分解可能な前駆物質をHFIPに変換するために有効な温度で、強プロトン酸と一緒に該クロロセボ減損混合物を加熱する工程;ならびに
(e)該クロロセボ減損混合物から回収されたHFIPを単離する工程
を包含する、プロセス。
【請求項11】
請求項10に記載のプロセスであって:
(f)(a)のHFIP供給物に前記回収されたHFIPを添加する工程、および(a)から(e)を繰り返す工程
をさらに包含する、プロセス。
【請求項12】
請求項10に記載のプロセスであって、(b)の混合物または(c)のクロロセボ減損混合物からセボメチルエーテルを単離する工程をさらに包含する、プロセス。
【請求項13】
請求項10に記載のプロセスであって、該加水分解可能な前駆物質が、ジ−HFIPアセタールおよびジクロロセボのうちの1以上から選択される、プロセス。
【請求項14】
請求項13に記載のプロセスであって、前記強プロトン酸が、硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、リン酸およびポリリン酸からなる群から選択される、プロセス。
【請求項15】
請求項14に記載のプロセスであって、前記強プロトン酸が、濃硫酸である、プロセス。
【請求項16】
請求項15に記載のプロセスであって、(d)において、前記クロロセボ減損混合物が、少なくとも10%容量の濃硫酸と一緒に加熱される、プロセス。
【請求項17】
請求項10に記載のプロセスであって、(d)の加熱が、大気圧で行われる、プロセス。
【請求項18】
請求項17に記載のプロセスであって、前記クロロセボ減損混合物が強プロトン酸と一緒に加熱される温度が、少なくとも60℃である、プロセス。
【請求項19】
請求項10に記載のプロセスであって、(c)におけるクロロセボの単離が、前記混合物の蒸留、および蒸留されたクロロセボの単離を含む、プロセス。
【請求項20】
請求項10に記載のプロセスであって、(c)における単離が、反応していないセボメチルエーテルの単離をさらに含む、プロセス。
【請求項21】
請求項20に記載のプロセスであって、前記単離が、分留、ならびに別々の蒸留分画でのクロロセボおよび反応していないセボメチルエーテルの単離を含む、プロセス。
【請求項22】
請求項11に記載の(a)から(f)を繰り返すことによって、クロロセボを生成する、連続的または断続的なプロセス。

【公表番号】特表2006−516282(P2006−516282A)
【公表日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500900(P2006−500900)
【出願日】平成16年1月12日(2004.1.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/000634
【国際公開番号】WO2004/065340
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【Fターム(参考)】