説明

セメント焼成プラント廃熱発電システム

【課題】セメント焼成プラントの廃熱を利用した発電システムに関る。
【解決手段】AQCボイラーがエコノマイザー、蒸発器及び過熱器を備え、PHボイラーが第1蒸発器及び過熱器を備えており、AQCボイラーのエコノマイザーで加熱された熱水の一部がフラッシャーを介して蒸気タービンの低圧段に投入され、他の一部がAQCボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱され、さらに他の一部がPHボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱されてこれらの高圧蒸気が蒸気タービンの高圧段に投入されるようになっているセメント焼成プラント廃熱発電システムを前提として、(イ)上記PHボイラーが上記蒸発器及び過熱器の他に、そのPH廃ガス出口側に第2蒸発器を備えており、上記フラッシャーからの戻り熱水が蒸気ドラムを介して上記第2蒸発器に導入しており、(ロ)上記第2蒸発器で加熱された熱水が蒸気ドラムに導入され、その蒸気が蒸気タービンの低圧段に投入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セメント焼成プラントの廃熱を利用した発電システムに関するものであり、エアクエンチングクーラー(AQC)の廃熱回収率を可及的に高くしつつ、サスペンションプレヒーター(PH)の廃熱回収率を高くしてこれらの廃熱による総発電量を増大させることができるものである。
【背景技術】
【0002】
セメント焼成プラントではサスペンションプレヒーター(以下単に「プレヒーター」又は「PH]ともいう)の廃熱、エアクエンチングクーラー(以下単に「クエンチングクーラー」又は「AQC」ともいう)の廃熱が大量に放出されるので、これを利用した廃熱ボイラーで蒸気を発生させ、これで蒸気タービンを駆動して発電なされている。
ところで、セメント焼成プラントでは廃熱源がプレヒーターとエアクエンチングクーラーの2つであって、両熱源の廃ガス温度、廃熱量が大幅に異なり、しかも、同プラントの運転状況によって変動するので、上記両廃熱による熱量供給は必ずしも安定しない。
【0003】
プレヒーター(PH)の廃ガス温度は例えば350〜400℃であり、エアクエンチングクーラー(AQC)の廃ガス温度はほぼ300〜250℃であり、これらの廃熱を利用するボイラー、すなわち、PHボイラー、AQCボイラーで高圧蒸気を発生させ、PHボイラーの出口ガス温度を250℃前後にしてこれをセメント原料乾燥用に利用し、他方、AQC廃熱をAQCボイラーで限界まで回収して発電するという廃熱発電システムが従前から運転されている。
【0004】
〔従来技術1〕
上記廃熱発電システムの実施形態は、適用されるセメント焼成プラントの生産能力や余熱の利用形態の如何によって様々であるが、蒸気タービンを混気タービンとして、PHボイラーで高圧蒸気を発生させてこれを蒸気タービンの高圧段に投入し、他方、AQCヒーターの熱水で低圧蒸気を発生させてこれを蒸気タービンの低圧段に投入して駆動するもの(従来技術1)がある(特開昭58−57013号公報図4)。このものの概略は図2に示すようなものであり、復水器Cの復水をAQCヒーター50のエコノマイザーhで加熱し、フラッシャーFで発生した低圧蒸気を蒸気タービンTの低圧段Pbに投入し、他方、復水器Cによる復水をPHボイラー40の蒸発器h−2で加熱し、過熱器h−1で過熱してこれを蒸気タービンTの高圧段Paに投入するものである。このものにおけるAQCヒーター50による低圧蒸気の蒸気圧は3atg程度であり、同ヒーターの出口ガスB2の温度は約100℃であり、また、PHボイラー40による高圧蒸気は16atg程度であり、同ボイラーの出口ガスB1の温度は約230℃である。
【0005】
〔従来技術2〕
エアクエンチングクーラー(AQC)の廃熱回収率を高くする廃熱発電システムの実施形態として、AQCヒーター50のエコノマイザーhで加熱した熱水の一部をフラッシャーFに導入して低圧蒸気にしてこれを蒸気タービンTの低圧段Pbに投入し、上記熱水の他の一部をPHボイラーで過熱してこれを蒸気タービンTの高圧段Paに投入するもの(従来技術2)がある(特開昭58−49801号公報図3)。
【0006】
この従来技術2の概略は図3に示すようなものであり、復水器Cの復水をAQCヒーター50のエコノマイザーhで加熱し、その熱水の一部をフラッシャーFに導入し、その低圧蒸気を蒸気タービンTの低圧段Pbに投入し、他の一部をPHボイラー40の蒸発器h−2で加熱し、さらに過熱器h−1で過熱してこれを蒸気タービンTの高圧段Paに投入するものである。
AQCヒーター50による低圧蒸気の蒸気圧は3atg程度であり、同ヒーターの出口ガスB2の温度は約100℃であり、また、PHボイラー40による高圧蒸気は16atg程度であり、同ボイラーの出口ガスB1の温度は約230℃である。
【0007】
〔従来技術3〕
さらに、上記従来技術2について、そのAQC廃熱回収率を可及的に上げてAQCボイラーの出口ガス温度を低下させるもの(従来技術3)である。
このものの概略は、図4に示されているようなものであり、AQCボイラー50Aにエコノマイザーh−5、蒸発器h−4及び過熱器h−3を設け、AQCボイラー50Aのエコノマイザーh−5による熱水の一部をフラッシャーFに導入し、その低圧蒸気を蒸気タービンTの低圧段Pbに投入し、上記熱水の外の一部をAQCボイラー50Aの蒸発器h−4に導入し、さらに過熱器h−3で過熱し、その高圧蒸気を蒸気タービンTの高圧段Paに投入し、また、上記熱水のさらに他の一部を、弁v、蒸発器SDを介してPHボイラー40の蒸発器h−2に導入し、次いで過熱器h−1で過熱し、その高圧蒸気を蒸気タービンTの高圧段Paに投入するものである。
【0008】
従来技術3のAQCボイラー50Aのエコノマイザーh−5ではAQCボイラー、PHボイラーに加えフラッシャー用熱水を熱交換することによりAQCボイラー50Aの出口ガス温度は100℃程度まで低下されるので、AQC廃熱は十分回収されている。
他方、PHボイラー40の蒸発器h−2で加熱され、さらに過熱器h−1で過熱された高圧蒸気は16〜7atg程度で制御され、このときのPHボイラー出口ガスB1の温度は230〜200℃程度に低下される。そして、この高温排ガスはさらにセメント原料の乾燥等に利用される。
【特許文献1】特開昭58−49801号公報
【特許文献2】特開昭58−57013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、セメント焼成プラントでは、エネルギー費用の高騰に伴って電力費用が高騰しているので、その廃熱をできるだけ電力として回収することが求められるようになっている。このため、発電量をさらに上げるためにPHボイラーの出口ガス温度を160℃程度まで下げることが必要になる可能性があり、そのためにPHボイラーを多圧化することが考えられる。
他方、上記の従来技術3について、そのプレヒーター(PH)及びエアクエンチングクーラー(AQC)の廃熱の回収率を高くすることが重要であるので、PHボイラーを多圧化してその出口ガス温度を下げてPH廃熱の回収率を高めつつ、AQC廃ガスの廃熱回収率を高レベルに維持することが重要である。
【0010】
そこで、この発明は、
AQCボイラーがエコノマイザー、蒸発器及び過熱器を備え、PHボイラーが蒸発器及び過熱器を備えており、AQCボイラーのエコノマイザーで加熱された熱水の一部をフラッシャーを介して蒸気タービンの低圧段に投入し、残りの一部をAQCボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱し、また、PHボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱してその高圧蒸気を蒸気タービンの高圧段に投入するようになっているセメント焼成プラント廃熱発電システムについて、上記PHボイラーを2圧化するに当たり、AQCボイラーの出口ガス温度を可及的に低温に維持しつつ、PHボイラーの出口ガス温度を可及的に下げて廃熱回収率が大幅に高められるように、セメント廃熱発電システムの基本構成を工夫することをその技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、次の構成(A)を前提として、次の(イ)(ロ)によるものである。
(A)AQCボイラーがエコノマイザー、蒸発器及び過熱器を備え、PHボイラーが第1蒸発器及び過熱器を備えており、AQCボイラーのエコノマイザーで加熱された熱水の一部がフラッシャーを介して蒸気タービンの低圧段に投入され、他の一部がAQCボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱され、さらに他の一部がPHボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱されてこれらの高圧蒸気が蒸気タービンの高圧段に投入されるようになっているセメント焼成プラント廃熱発電システムであること。
(イ)上記PHボイラーが上記蒸発器及び過熱器の他に、そのPH廃ガス出口側に第2蒸発器を備えており、上記フラッシャーからの戻り熱水が蒸気ドラムを介して上記第2蒸発器に導入しており、
(ロ)上記第2蒸発器で加熱された熱水が蒸気ドラムに導入され、その蒸気が蒸気タービンの低圧段に投入されるようになっていること。
【発明の効果】
【0012】
この発明におけるAQCボイラーは、エコノマイザー、蒸発器及び過熱器を備え、PHボイラーが蒸発器及び過熱器を備えており、AQCボイラーのエコノマイザーで加熱された熱水の一部がフラッシャーを介して蒸気タービンの低圧段に投入されているので、この点では従来技術3と同じであり、したがって、AQC廃熱の回収率は従来技術3と同様に高水準に維持される。
他方、PHボイラーの廃ガス出口側に第2蒸発器があり、これにAQCボイラーの低圧系におけるフラッシャーの戻り熱水が導入されているので、蒸気タービンの低圧段に投入される低圧蒸気が多量に発生される。そして、この多量の低圧蒸気が上記タービンの低圧段に投入されるので、PH廃熱の回収率が大幅に高くなる。
【0013】
従来技術3のPHボイラーでは、その蒸気圧を7atg程度まで上げることが発電システム構成上好ましく、このときのPHボイラーの出口ガス温度は200℃が限度である。これに対して、この発明の場合は、第2蒸発器、蒸気ドラムによる低圧系を3atg(飽和温度142.9℃)程度とすることで、第1蒸発器と過熱器とによる高圧系の蒸気圧を少なくとも16atgまで上げることができ、この場合のPHボイラーの出口ガス温度を160℃近傍まで低下させることができる。したがって、PHボイラーによるPH廃熱は限界近くまで回収されることになる。
それゆえ、上記のとおりAQC廃熱の回収率を高水準に維持しつつ、かつPH廃熱の回収率を大幅に向上させることができる。
【0014】
因みに、一例をあげれば、発電出力23,400kWの従来技術3によるセメント焼成廃熱発電システムに本発明による同発電システムを適用すれば、その発電出力は少なくとも25,500kWになる。
それゆえ、セメント焼成プラントの廃熱回収率を向上させ、その廃熱発電の出力を大幅に増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次いで、図1を参照しながら実施例を説明する。
この実施例は生産能力が10,000t/日のセメント焼成プラントの2基分の廃熱発電システムに本発明を適用した例であり、全体構成は上記従来技術3と格別の違いはない。そして、サスペンションプレヒーター(PH)の廃ガスA1の温度は165℃であり、他方、エアクエンチングクーラー(AQC)の廃ガスA2の温度は105℃である。
【0016】
PHボイラー10は、従来技術3(図4)と同様に、第1蒸発器h−2と過熱器h−1を備えており、これに加えてその廃ガス出口側に第2蒸発器h−6を備えている。
他方、AQCボイラー20は、従来技術3のAQCボイラー50と同様のものであり、過熱器h−3、蒸発器h−4,エコノマイザーh−5を備えている。
フラッシャーFの戻り熱水と復水器Cの復水とが給水ポンプP1でエコノマイザーh−5に押し込まれる。エコノマイザーh−5で加熱された熱水の温度は200℃で、その一部はフラッシャーFに導入され、低圧蒸気になって蒸気タービンの低圧段Pbに投入される。その他の一部がAQCボイラーの蒸発器h−4に導入され、さらに他の一部がPHボイラー10の蒸気ドラムSDに導入される。そしてこれらの点も従来技術3と違いがない。
この実施例では、給水ポンプP1によるエコノマイザーh−5への給水流量は合計260t/時間で制御され、フラッシャーFに導入される熱水の流量は合計150t/時間で制御される。
【0017】
他方、PHボイラー10は、その廃ガスA1の出口側に第2蒸発器h−6を備えており、この第2蒸発器が蒸気ドラムsdに接続され、蒸気ドラムsdが蒸気タービンTの低圧段Pbに接続されている。そして、フラッシャーFの戻り熱水の一部が給水ポンプP2で上記蒸気ドラムsdに導入され、第2蒸発器h−6で加熱され低圧蒸気が生成される。
【0018】
この実施例では、PHボイラー10の過熱器h−1による蒸気圧が16atg程度で制御され、第2蒸発器h−6の蒸気圧が3atg程度で制御される。そしてまた、AQCボイラー20の過熱器h−3による蒸気圧は15atg程度で制御され、同ボイラー20のエコノマイザーh−5とフラッシャーとによる低圧蒸気は3atg程度で制御される。
【0019】
以上の運転状態で、PHボイラー10の入り口ガスA1の温度325℃が出口ガスB1の温度165℃まで下げられる。また、AQCボイラー20の入り口ガスA2の温度360℃が出口ガスB2の温度105℃まで下げられる。
この実施例による以上のような運転状態での発電量はほぼ25,500kwであり、従来技術3による発電量の約1.1倍である。
【0020】
〔比較例〕
ところで、上記従来技術3の廃熱発電システムにおいて、そのPHボイラーの出口ガス温度を極力下げて、PHボイラーによるPH廃熱の回収率を高めるには、AQCボイラーと同様に、PHボイラーの廃ガス出口側にエコノマイザーを設けてこれに復水器の復水を供給し、当該エコノマイザーで加熱された熱水を蒸発器h−2に導入すること(比較例)が考えられる。
【0021】
しかし、この比較例による場合は、PHボイラー40は1圧系であって従来技術3と違いがなく、PH廃熱回収率は高くなるものの、AQCボイラー50Aのエコノマイザーh−5への給水量が、従来技術3に比して少なくなるので、それだけAQC廃熱回収率が低下する。したがって、この比較例による場合は、AQCボイラーとPHボイラーとによるトータルで、本発明による場合に比して廃熱回収率が顕著に低くなる。言い換えれば、本発明による場合は、上記比較例に比してセメント焼成プラント廃熱利用の発電量が大幅に高いということができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】は、実施例の全体構成を模式的に示した図である。
【図2】は、セメント焼成プラント廃熱発電システムについての従来技術(従来技術1)の全体構成を模式的に示した図である。
【図3】は 、セメント焼成プラント廃熱発電システムについての外の従来技術(従来技術2)の全体構成を模式的に示した図である。
【図4】は、セメント焼成プラント廃熱発電システムについての従来技術(従来技術3)の全体構成を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0023】
PH:サスペンションプレヒーター
AQC:エアクエンチングクーラー
C:復水器
P1,P2:給水ポンプ
T:蒸気タービン
F:フラッシャー
sd,SD:蒸気ドラム
h:AQCヒーターのエコノマイザー
h−1:PHボイラーの過熱器
h−2:PHボイラーの蒸発器(又は第1蒸発器)
h−3:AQCボイラーの過熱器
h−4:AQCボイラーの蒸発器
h−5:AQCボイラーのエコノマイザー
h−6:PHボイラーの第2蒸発器
10,40:PHボイラー
20,50A:AQCボイラー
50:AQCヒーター
A1:PHボイラーの入り口ガス
B1:PHボイラーの出口ガス
A2:AQCボイラーの入り口ガス
B2:AQCヒーター又はAQCボイラーの出口ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AQCボイラーがエコノマイザー、蒸発器及び過熱器を備え、PHボイラーが第1蒸発器及び過熱器を備えており、AQCボイラーのエコノマイザーで加熱された熱水の一部がフラッシャーを介して蒸気タービンの低圧段に投入され、他の一部がAQCボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱され、さらに他の一部がPHボイラーの蒸発器及び過熱器で過熱されてこれらの高圧蒸気が蒸気タービンの高圧段に投入されるようになっているセメント焼成プラント廃熱発電システムにおいて、
上記PHボイラーが上記蒸発器及び過熱器の他にPH廃ガス出口側に第2蒸発器を備えられており、上記フラッシャーの戻り熱水が蒸気ドラムを介して第2蒸発器に導入されており、
上記第2蒸発器で加熱された熱水が上気ドラムに導入され、その蒸気が蒸気タービンの低圧段に投入されるようになっているセメント焼成プラント廃熱発電システム。
【請求項2】
上記PHボイラーの上記過熱器による過熱蒸気圧が13atg以上であり、上記第2蒸気発生器、蒸気ドラムによる蒸気圧が3atg以下である請求項1のセメント焼成プラント廃熱発電システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−157183(P2008−157183A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349606(P2006−349606)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(308007505)カワサキプラントシステムズ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】