説明

セメント用添加剤及びコンクリート

【課題】低コストで効率よく製造でき、しかもそれを用いて調製したコンクリートに優れた流動性を付与することができると共に得られる硬化体に優れた収縮低減性を付与することができるセメント用添加剤及びこれを含有するコンクリートを提供する。
【解決手段】セメント用添加剤として、所定の工程を経ることにより生成する質量平均分子量3000〜60000のカルボン酸共重合体の中和塩とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとから成るカルボン酸共重合体組成物を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント用添加剤及びコンクリートに関し、更に詳しくは低コストで効率よく製造でき、しかもそれを用いて調製したコンクリートに優れた流動性を付与することができると共に、得られる硬化体に優れた収縮低減性を付与することができるセメント用添加剤及びこれを含有するコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに優れた流動性を付与するセメント用添加剤として、各種のカルボン酸共重合体を主成分とするものが提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。またセメント用添加剤としては、コンクリートに流動性を付与するだけでなく、得られる硬化体に収縮低減性を付与するものも提案されている(例えば特許文献5〜9参照)。更に以上のようなセメント用添加剤を、溶剤を用いないで製造する方法も提案されている(例えば特許文献10〜12参照)。
【0003】
しかし、従来提案されているセメント用添加剤には、主に原料面からコスト高であり、またそれを用いて調製したコンクリートに付与できる流動性や得られる硬化体に付与できる収縮低減性の面で不充分という問題がある。
【特許文献1】特開昭57−118058号公報
【特許文献2】特開昭63−285140号公報
【特許文献3】特開2000−72870号公報
【特許文献4】特開2003−105042号公報
【特許文献5】特開平8−268741号公報
【特許文献6】特開2000−34151号公報
【特許文献7】特開2001−48620号公報
【特許文献8】特開2003−81670号公報
【特許文献9】特開2004−262715号公報
【特許文献10】特開2003−105003号公報
【特許文献11】特開2005−029469号公報
【特許文献12】特開2005−132955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで効率よく製造でき、しかもそれを用いて調製したコンクリートに優れた流動性を付与することができると共に得られる硬化体に優れた収縮低減性を付与することができるセメント用添加剤及びこれを含有するコンクリートを提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究した結果、セメント用添加剤としては所定の工程を経て得られる特定のカルボン酸共重合体組成物を用いることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記の第1工程及び第2工程を経て得られるカルボン酸共重合体組成物から成ることを特徴とするセメント用添加剤に係る。
【0007】
第1工程:下記の化1で示される単量体及び/又は下記の化2で示される単量体と過酸化物価を5.0meq/kg以下に精製処理した下記の化3で示される単量体とを合計で100モル%となるよう含有し且つ(化1で示される単量体と化2で示される単量体との合計)/化3で示される単量体=70/30〜45/55(モル比)の割合で含有するラジカル重合性単量体混合物を、溶剤を用いることなく、有機過酸化物系ラジカル重合開始剤の存在下に、ラジカル重合反応させて質量平均分子量3500〜70000のカルボン酸エステル共重合体を得る工程。
【0008】
第2工程:第1工程で得られたカルボン酸エステル共重合体を塩基性化合物で加水分解処理して、これにより生成した質量平均分子量3000〜60000のカルボン酸共重合体の中和塩とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとから成るカルボン酸共重合体組成物を得る工程。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
化1〜化3において、
,R,R:炭素数3〜5のアルキル基
p,q,r:1〜5の整数
A:2〜150個のオキシエチレン単位のみ又は合計2〜150個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0013】
本発明に係るセメント添加剤は、第1工程及び第2工程を経て得られるカルボン酸共重合体組成物から成るものである。
【0014】
先ず第1工程について説明する。第1工程では、化1で示される単量体及び/又は化2で示される単量体と化3で示される化合物とから成るラジカル重合性単量体混合物を、溶剤を用いることなく、ラジカル重合開始剤の存在下に、ラジカル重合反応させてカルボン酸エステル共重合体を得る。化1で示される単量体において、Rとしては、1)ノルマルプロピル基、イソプロピル基等の炭素数3のアルキル基、2)ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリブチル基等の炭素数4のアルキル基、3)ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数5のアルキル基が挙げられるが、なかでもノルマルブチル基が好ましい。またp1〜5の整数とするが、2又は3が好ましい。
【0015】
化1で示される単量体としては、ノルマルプロピルジエチレングリコールモノマレエート、イソプロピルトリエチレングリコールモノマレエート、ノルマルブチルジエチレングリコールモノマレエート、ノルマルブチルトリエチレングリコールモノマレエート、ノルマルブチルペンタエチレングリコールモノマレエート、イソブチルジエチレングリコールモノマレエート、ノルマルペンチルテトラエチレングリコールモノマレエート、イソペンチルトリエチレングリコールモノマレエート、ネオペンチルジエチレングリコールモノマレエート、ノルマルプロピルジエチレングリコールモノフマレート、ノルマルブチルジエチレングリコールモノフマレート、ノルマルブチルトリエチレングリコールモノフマレート、ノルマルペンチルテトラエチレングリコールモノフマレート、イソペンチルトリエチレングリコールモノフマレート等が挙げられる。
【0016】
化2で示される単量体において、R及びRは化1中のRについて前記したことと同じである。またq及びrは化1中のpについて前記したことと同じである。化2で示される単量体としては、ビス−(ノルマルプロピルジエチレングリコール)マレエート、ビス−(ノルマルブチルジエチレングリコール)マレエート、ビス−(ノルマルブチルトリエチレングリコール)マレエート、ビス−(ノルマルペンチルジエチレングリコール)マレエート、ビス−(ノルマルペンチルテトラエチレングリコール)マレエート、ビス−(ノルマルブチルジエチレングリコール)フマレエート、ビス−(ノルマルプロピルトリエチレングリコール)フマレート、ビス−(ノルマルペンチルジエチレングリコール)フマレート等が挙げられる。
【0017】
化3で示される単量体において、化3のAとしては、1)オキシアルキレン単位がオキシエチレン単位のみからなるポリエチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基、2)オキシアルキレン単位がオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との双方からなる(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基が挙げられるが、1)の場合が好ましい。2)の場合には、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との結合様式は、ランダム結合、ブロック結合のいずれでもよい。Aを構成するオキシアルキレン単位の繰り返し数は2〜150とするが、10〜90とするのが好ましい。化3で示される単量体としては、1)α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン、2)α−アリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレンが挙げられる。
【0018】
以上説明した化3で示される単量体は、過酸化物価を5.0meq/kg以下、好ましくは2.0meq/kg以下、更に好ましくは0.1〜1.0meq/kgに精製処理したものを用いる。化3で示される単量体はα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンであり、これは相当するアリルアルコールにアルキレンオキサイドを開環付加反応させて得られるが、かかる開環付加反応により得られるα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレン中には、開環付加反応時の反応条件や開環付加反応後の精製条件により、過酸化物が副生して残留し、またとりわけその保存時の条件により同様の過酸化物が副生して残留する。そして、過酸化物価が5.0meq/kgを超えると、そのようなα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを、化1で示される単量体及び/又は化2で示される単量体と溶剤を用いることなくラジカル重合反応させても、高品質のカルボン酸共重合体は得られない。したがって本発明では、過酸化物価を5.0meq/kg以下、好ましくは2.0meq/kg以下、更に好ましくは0.1〜1.0meq/kgに精製処理した化3で示されるα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンをラジカル重合反応に供する。ここで、過酸化物価(meq/kg)は、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法(I)(1996年版)に記載の方法に準じて測定される値である。
【0019】
過酸化物価を下げるための精製処理方法としては、1)吸着材を用いる方法、2)還元剤を用いる方法、3)中和する方法等が挙げられるが、1)の吸着材を用いる方法が好ましい。かかる吸着材にも各種が挙げられるが、酸化アルミニウム系吸着材、酸化マグネシウム系吸着材、酸化アルミニウム・酸化マグネシウム系吸着材、ケイ酸・酸化アルミニウム系吸着材、ケイ酸・酸化マグネシウム系吸着材等、いずれにしても酸化アルミニウム及び/又は酸化マグネシウムを含有する吸着材を用いるのが好ましい。またかかる吸着材を用いて精製処理する方法にも各種が挙げられるが、過酸化物価が3.0meq/kgを超えるα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを加温下に吸着材と接触させる方法が好ましい。例えば、過酸化物価が3.0meq/kgを超えるα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを、100℃前後の加温下に吸着材と混合した後、その混合物を加圧濾過し、濾液として、過酸化物価を3.0meq/kg以下に精製処理したα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを得る。
【0020】
第1工程では、以上説明したような化1で示される単量体及び/又は化2で示される単量体と、化3で示される単量体とを100モル%となるよう含有するラジカル重合性単量体混合物をラジカル重合反応に供する。かかるラジカル重合性単量体混合物は、(化1で示される単量体と化2で示される単量体との合計)/化3で示される単量体=70/30〜45/55(モル比)の割合で含有するものとするが、(化1で示される単量体と化2で示される単量体との合計)/化3で示される単量体=65/35〜50/50(モル比)の割合で含有するものとするのが好ましい。ここで化1で示される単量体と化2で示される単量体の双方を用いる場合には、化1で示される単量体の質量割合が多いほうが好ましい。
【0021】
第1工程では、以上説明したような化1で示される単量体及び/又は化2で示される単量体と化3で示される単量体とを100モル%となるよう含有するラジカル重合性単量体混合物を、溶剤を用いることなく、ラジカル重合開始剤の存在下に、ラジカル重合反応さるが、ここで用いるラジカル重合開始剤は有機過酸化物系ラジカル重合開始剤である。なかでも、高温活性であって、ラジカル重合反応系に溶解性が高く、常温で液状のものが好ましい。これには例えば、1)ターシャリブチルパーオキシネオオクタノエート、ターシャリブチルパーオキシネオヘキサネート、ターシャリブチルパーオキシピバレート、ターシャリブチル−2−エチルヘキサネート、ターシャリブチルパーオキシイソブチレート、ターシャリブチルパーオキシラウレート、ターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ターシャリブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、2)イソブチリルパーオキサイド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、3)ジ−ターシャリブチルパーオキサイド、ターシャリブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、4)ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−メトキシブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、5)1,1−ビス(ターシャリブチルパーオキシ)シクロへキサン、2,2−ビス(ターシャリブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類等が挙げられるが、なかでも工業的に汎用のターシャリブチルパーオキシベンゾエートやジ−ターシャリブチルパーオキサイドが好ましい。有機過酸化物系ラジカル重合開始剤は通常、ラジカル重合性単量体混合物100質量部に対して0.5〜5質量部となるように用いるのが好ましい。
【0022】
第1工程では、以上説明したようなラジカル重合性単量体混合物を、溶剤を用いることなく、有機過酸化物系ラジカル重合開始剤の存在下に、ラジカル重合反応させて、質量平均分子量3500〜70000、好ましくは3500〜60000のカルボン酸エステル共重合体を得る。ここで質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法によるプルラン換算の質量平均分子量である。
【0023】
第1工程では例えば、ラジカル重合性単量体混合物を反応缶に仕込み、窒素雰囲気下にて、これに有機過酸化物系ラジカル重合開始剤を加え、90〜150℃で6〜12時間ラジカル重合反応させて、カルボン酸エステル共重合体を得る。
【0024】
次に第2工程について説明する。第2工程では、以上の第1工程で得たカルボン酸エステル共重合体を塩基性化合物で加水分解処理して、これにより生成したカルボン酸共重合体の中和塩とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとから成るカルボン酸共重合体組成物を得る。
【0025】
第2工程で用いる塩基性化合物としては、1)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、2)水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、3)アンモニア、トリエタノールアミン等のアミン類が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0026】
第2工程において、加水分解処理により得られるカルボン酸共重合体組成物には、1)第1工程で得たカルボン酸エステル共重合体を完全に加水分解処理し、これにより生成したカルボン酸共重合体の完全中和塩とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとから成るもの、2)第1工程で得たカルボン酸エステル共重合体を部分的に加水分解処理し、これにより生成したカルボン酸共重合体の部分中和塩とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとから成るもの、3)前記1)と2)との混合状態のものが挙げられる。第2工程において、カルボン酸共重合体組成物に含まれるカルボン酸共重合体の中和塩は、加水分解率が95%以上のものが好ましい。ここで加水分解率は、カルボン酸エステル共重合体に含まれるエステル結合数をK、カルボン酸共重合体に含まれるエステル結合数をKとしたとき、{(K−K)/K}×100で求められる値である。
【0027】
第2工程において、以上説明したカルボン酸エステル共重合体を加水分解処理して得たカルボン酸共重合体の中和塩又は部分中和塩としては、質量平均分子量が3000〜60000のものとするが、3500〜50000のものとするのが好ましい。
【0028】
本発明に係るセメント用添加剤は、以上説明したような第1工程及び第2工程を経て得られるカルボン酸共重合体組成物から成るものである。かかる本発明に係るセメント用添加剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等の水硬性セメント材料の調製に適用することができるが、コンクリートの調製に用いたときにその効果が最も顕著に発揮される。コンクリートは、セメント、細骨材、粗骨材、水等から調製されるが、その調製に用いるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントの他に、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の各種混合セメントが挙げられ、また細骨材としては、川砂、山砂、海砂、砕砂等が挙げられ、更に粗骨材としては、川砂利、砕石、軽量骨材等が挙げられる。
【0029】
本発明に係るセメント用添加剤を用いてコンクリートを調製する場合、セメント100質量部当たり、本発明に係るセメント用添加剤を、固形分換算で通常は0.1〜3質量部、好ましくは0.15〜2質量部の割合となるようにする。本発明に係るセメント用添加剤を、普通強度のコンクリート(通常は水/セメント比が45%以上のもの)の調製に用いると、流動性及び乾燥収縮低減性に優れたものを調製でき、また高強度のコンクリート(通常は水/セメント比が40%以下のもの)の調製に用いると、流動性及び自己収縮低減性に優れたものを調製できる。
【0030】
本発明に係るセメント用添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて空気量調整剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、防水剤、防腐剤、防錆剤等の他の添加剤を併用することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るセメント用添加剤は、低コストで効率よく製造でき、しかもこれを用いて調製したコンクリートに優れた流動性を付与し、同時に得られる硬化体に優れた収縮低減性を付与する。
【0032】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0033】
試験区分1(セメント用添加剤としてのカルボン酸共重合体組成物の合成)
・実施例1{カルボン酸共重合体組成物(P−1)の合成}
ノルマルブチルジエチレングリコールモノマレエート260g(1.0モル)、過酸化物価を0.4meq/kgに精製処理したα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(オキシエチレン単位の繰り返し数33、以下n=33という)1391g(0.92モル)を反応容器に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を120℃に保ち、ターシャリブチルパーオキシベンゾエート16.5gを投入してラジカル重合反応を開始した。5時間経過後、更にターシャリブチルパーオキシベンゾエートを16.5g投入し、120〜130℃の温度下で4時間ラジカル重合反応を行なって、ラジカル重合反応を完結した。得られた共重合体を分析したところ、質量平均分子量42200のカルボン酸エステル共重合体であった(第1工程)。次いで、このカルボン酸エステル共重合体1684gに水1523gを徐々に加えて混合し、更に30%水酸化ナトリウム水溶液240g(1.8モル)を徐々に加えながら、約60℃で4時間加水分解処理を行なった。得られた反応混合物を分析したところ、カルボン酸共重合体の中和塩とノルマルブチルジエチレングリコールとから成るカルボン酸共重合体組成物(P−1)の50%水溶液3447gであり、加水分解率100%、カルボン酸共重合体の中和塩の質量平均分子量37900であった(第2工程)。
【0034】
・実施例2〜14及び比較例1〜7{カルボン酸共重合体組成物(P−1)〜(P−14)及び(R−1)〜(R−7)の合成}
実施例1のカルボン酸共重合体組成物(P−1)と同様にして、実施例2〜14及び比較例1〜7のカルボン酸共重合体組成物(P−2)〜(P−14)及び(R−1)〜(R−7)を合成した。以上の各例のカルボン酸共重合体組成物の合成に用いた単量体等の内容を表1にまとめて示した。
【0035】
・参考例1{生成物(r−1)の合成}
ノルマルブチルジエチレングリコールモノマレエート260g(1.0モル)、過酸化物価を0.4meq/kgに精製処理したα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=33)1240g(0.82モル)を反応容器に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を80℃に保ち、アゾビスイソブチロニトリル8gを投入してラジカル重合反応を開始した。2時間後、更にアゾビスイソブチロニトリル8gを投入して3時間ラジカル重合反応を行ない、更にまたアゾビスイソブチロニトリル10gを投入し、反応系の温度を90〜100℃に保って4時間ラジカル重合反応を行なって反応混合物を得た。得られた反応混合物を分析したところ、殆どが原料の単量体であり、重合反応はごく一部しか進行していなかった。このため、加水分解処理を行なわず、これを生成物(r−1)とした。
【0036】
・参考例2{生成物(r−2)の合成}
無水マレイン酸98g(1.0モル)、過酸化物価を0.3meq/kgに精製処理したα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=20)770g(0.82モル)を反応容器に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を110℃に保ち、ターシャリブチルパーオキシベンゾエート3gを投入してラジカル重合反応を開始した。反応開始後、反応系の粘度が大きく上昇してゲル化したので、途中で反応を中止した。得られたゲル化物を生成物(r−2)とした。
【0037】
【表1】

【0038】
表1において、
*1:過酸化物価(meq/kg)
*2:ラジカル重合性単量体混合物100部に対するラジカル開始剤の使用量(部)
*3:加水分解剤の種類
*4:加水分解剤の使用量(部)
*5:加水分解処理により生成したカルボン酸共重合体の中和塩の質量平均分子量
*6:共重合物が得られなかったので測定又は処理を行なわなかった
【0039】
E−1:ノルマルブチルジエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがノルマルブチル基、pが2)
E−2:ノルマルブチルトリエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがノルマルブチル基、pが3)
E−3:ノルマルブチルジエチレングリコールモノフマレート(化1中のRがノルマルブチル基、pが2)
E−4:ノルマルブチルトリエチレングリコールモノフマレート(化1中のRがノルマルブチル基、pが3)
E−5:ノルマルプロピルジエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがノルマルプロピル基、pが1)
E−6:イソブチルジエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがイソブチル基、pが2)
E−7:ネオペンチルジエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがネオペンチル基、pが2)
E−8:ノルマルブチルペンタエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがノルマルブチル基、pが7)
E−9:ビス−(ノルマルブチルジエチレングリコール)マレエート(化2中のR及びRがノルマルブチル基、q及びrが2)
E−10:ビス−(ノルマルペンチルジエチレングリコール)マレエート(化2中のR及びRがノルマルペンチル基、q及びrが2)
E−11:E−1/E−10=90/10(質量比)の混合物
E−12:E−3/E−9=80/20(質量比)の混合物
E−13:E−1/E−9=80/20(質量比)の混合物
e−1:ノルマルブチルヘプタエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがノルマルブチル基、pが7)
e−2:ノルマルオクチルテトラエチレングリコールモノマレエート(化1中のRがノルマルオクチル基、pが4)
h−1:無水マレイン酸
【0040】
F−1:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=33)
F−2:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=20)
F−3:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=68)
F−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=80)ポリオキシプロピレン(オキシプロピレン単位の繰り返し数が5)
F−5:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=8)
F−6:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=120)
f−1:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=160)
f−2:α−アリル−ω−ヒドロキシ−オキシエチレン(n=1)
G−1:ターシャリブチルパーオキシベンゾエート
G−2:ジターシャリブチルパーオキサイド
g−1:アゾビスイソブチロニトリル
J−1:水酸化ナトリウム
J−2:水酸化カリウム
【0041】
試験区分2(コンクリートの調製及び評価)
・コンクリートの調製
表2に記載した配合条件でコンクリートを調製した。配合No.1の普通強度のコンクリートの調製においては、50リットルのパン型強制練りミキサーに普通ポルトランドセメント(比重=3.16、ブレーン値3300)、細骨材(大井川水系砂、比重=2.58)及び粗骨材(岡崎産砕石、比重=2.68)を順次投入して15秒間空練りした。次いで、目標スランプ18±1cm、目標空気量が4〜5%の範囲となるよう、前記の試験区分1で合成した表1記載のカルボン酸共重合体組成物等から成るセメント用添加剤及び空気量調節剤を練り混ぜ水と共に投入して練り混ぜ、各例のコンクリートを調製した。また配合No.2の高強度のコンクリートの調製においても、前記と同じ材料を用いて、50リットルのパン型強制練りミキサーに順次投入して15秒間空練りし、目標スランプが22±1cm、目標空気量が2〜3%の範囲となるよう、前記の試験区分1で合成した表1記載のカルボン酸共重合体組成物等から成るセメント用添加剤及び空気量調節剤を練り混ぜ水と共に投入して練り混ぜ、コンクリートを調製した。尚、空気量調節剤としては、竹本油脂社製のAE−300を用いた。
【0042】
【表2】

【0043】
・コンクリートの物性評価
調製した各例のコンクリートについて、スランプ、スランプ残存率、空気量、乾燥収縮率、自己収縮率、圧縮強度を下記のように求め、結果を表3〜表6に示した。
【0044】
・スランプ:後述する空気量の測定と同時に、JIS−A1150に準拠して測定した。
・スランプ残存率:(90分間静置後のスランプ/練り混ぜ直後のスランプ)×100で求めた。
・空気量:練り混ぜ直後及び90分間静置後にJIS−A1128に準拠して測定した。
・乾燥収縮率:JIS−A1128に準拠し、各例のコンクリートを20℃×60%RHの調湿下で保存した材齢26週後の供試体をコンパレータ法にて測定した。数値が小さいほど乾燥収縮が小さいことを示す。
・自己収縮率:日本コンクリート工学協会の自己収縮研究委員会報告書に記載された「コンクリートの自己収縮応力試験方法(案)」に準拠し、凝結が開始してから材齢28日後の供試体について自己収縮ひずみを測定した。材齢は凝結時間の始発を出発時間とした。数値が小さいほど、自己収縮が小さいことを示す。
・圧縮強度:JIS−A1108に準拠し、材齢7日と材齢28日を測定した。




















【0045】
【表3】

【0046】
表3において、
添加量:セメント100部当たり、カルボン酸共重合体組成物等の固形分換算の添加部
*7:ポリカルボン酸系セメント分散剤(竹本油脂社製の商品名チューポールHP−11)
*8:マレイン酸とα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=20)とを50/50(モル比)の割合で水系で共重合したもの(質量平均分子量18600)













【0047】
【表4】

【0048】
表4において、
*9:カルボン酸共重合体組成物等の添加量を増やしても流動性が不足して目標のスランプが得られなかったので測定しなかった

















【0049】
【表5】

【0050】
表5において、
自己収縮率:普通強度のコンクリートの場合には自己収縮はもともと小さいので測定しなかった

















【0051】
【表6】

【0052】
乾燥収縮率:高強度のコンクリートの場合には乾燥収縮はもともと小さいので測定しなかった
*10:供試体が得られなかったので測定しなかった

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の第1工程及び第2工程を経て得られるカルボン酸共重合体組成物から成ることを特徴とするセメント用添加剤。
第1工程:下記の化1で示される単量体及び/又は下記の化2で示される単量体と過酸化物価を5.0meq/kg以下に精製処理した下記の化3で示される単量体とを合計で100モル%となるよう含有し且つ(化1で示される単量体と化2で示される単量体との合計)/化3で示される単量体=70/30〜45/55(モル比)の割合で含有するラジカル重合性単量体混合物を、溶剤を用いることなく、有機過酸化物系ラジカル重合開始剤の存在下に、ラジカル重合反応させて質量平均分子量3500〜70000のカルボン酸エステル共重合体を得る工程。
第2工程:第1工程で得られたカルボン酸エステル共重合体を塩基性化合物で加水分解処理して、これにより生成した質量平均分子量3000〜60000のカルボン酸共重合体の中和塩とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとから成るカルボン酸共重合体組成物を得る工程。
【化1】

【化2】

【化3】

(化1〜化3において、
,R,R:炭素数3〜5のアルキル基
p,q,r:1〜5の整数
A:2〜150個のオキシエチレン単位のみ又は合計2〜150個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基)
【請求項2】
化1で示される単量体が、化1中のRがノルマルブチル基であって且つpが2又は3である場合のものであり、また化2で示される単量体が、化2中のR及びRがノルマルブチル基であって且つq及びrが2又は3である場合のものである請求項1記載のセメント用添加剤。
【請求項3】
化3で示される単量体が、過酸化物価を0.1〜1.0meq/kgに精製処理したものである請求項1又は2記載のセメント用添加剤。
【請求項4】
化3で示される単量体が、化3中のAが10〜90個のオキシエチレン単位のみで構成されたポリオキシエチレン基を有するポリエチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である場合のものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤。
【請求項5】
第1工程のラジカル重合性単量体混合物が、(化1で示される単量体と化2で示される単量体との合計)/化3で示される単量体=65/35〜50/50(モル比)の割合で含有するものである請求項1〜4のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤。
【請求項6】
有機過酸化物系ラジカル重合開始剤が、ターシャリブチルパーオキシベンゾエートである請求項1〜5のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤。
【請求項7】
第2工程の塩基性化合物が、水酸化ナトリウムである請求項1〜6のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤。
【請求項8】
第2工程のカルボン酸共重合体が、質量平均分子量3500〜50000のものである請求項1〜7のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤。
【請求項9】
第2工程のカルボン酸共重合体の中和物が、加水分解率95%以上のものである請求項1〜8のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤。
【請求項10】
セメント100質量部当たり、請求項1〜9のいずれか一つの項記載のセメント用添加剤を0.1〜3質量部の割合で含有するコンクリート。

【公開番号】特開2008−162844(P2008−162844A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353744(P2006−353744)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】