説明

セラミックス組成物及び積層セラミック回路装置

【課題】 低温焼結が可能で、メッキ液等の薬品による浸食がなく、さらには高周波領域において低誘電損失となる安価なセラミック配線基板が得られる低温焼成磁器組成物を提供する。
【解決手段】 SiO_53.5〜62質量%、MgO_12〜22質量%、CaO_21〜32質量%からなる主成分100質量部に対して、副成分としてホウ素をB換算で1.0〜5.0質量部、ビスマスをBi換算で1.0〜20質量部、アルミナをAl換算で0.1〜3質量部、及びリチウムをLiO換算で0.1〜1.5重量部を有し、前記主成分は焼結後にディオプサイド結晶相(CaMgSi)を形成することを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀や銅等の1000℃以下の融点を有する導体材料と同時焼成可能な高周波用磁器組成物およびそれを用いたセラミックス多層配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高機能化により、電子部品の高密度実装がなされており、回路を構成する配線基板にセラミックス多層基板が用いられている。セラミックス多層基板は、アルミナ等の絶縁セラミック基板内部に配線導体が埋め込まれた構造を有しており、配線パターンを形成したセラミックグリーンシートを積層して一体化し、セラミックスと配線導体を同時焼成して形成される。配線導体にはセラミックス(例えばアルミナ)の焼成温度よりも融点の高い金属、例えばW(タングステン)やMo(モリブデン)などが用いられてきた。
【0003】
しかしながら近年、機器の高周波化が進んでおり、高周波信号を損失なく伝送する上で、配線導体を構成する導体にはAg(銀)やCu(銅)などの比較的電気抵抗の低い金属を使用する必要が出てきた。これらの金属を導体材料は融点が1000℃以下であるため、セラミック多層基板を形成するためには、1000℃以下の低温で焼成が可能な基板材料が必要であった。このような低温焼結性セラミック材料としてガラスセラミックスや結晶化ガラスなどが提案されている。例えば特許文献1には、主結晶としてディオプサイド結晶及び/又はディオプサイド固溶体結晶を析出することを特徴とするガラスセラミック組成物が開示されており、それによってAgを配線導体に用いて同時焼結した場合でも、Agがガラスセラミック中に拡散せず、しかも高周波回路に十分対応できる低い誘電損失を有する多層基板を作製できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、ディオプサイド結晶を主結晶として含有する低温焼結磁器組成物であって、その誘電率εが7以下、かつ、そのQ×f値が10000GHz以上であるセラミック組成物が開示されており、該セラミック組成物は1000℃以下での温度で焼結可能であり、高周波領域において優れた誘電特性を有するセラミック配線基板が得られることが記載されている。
【0005】
さらには、特許文献3には、SiO_52〜62質量%、MgO_12〜22質量%、CaO_21〜32質量%からなる主成分100質量部に対し、ホウ素成分を酸化物換算で0.5〜3質量部含む組成からなり、主結晶としてディオプサイド結晶を含有するセラミック組成物について開示されており、それによって、1000℃以下の低温焼結が可能で、強度が高く、セラミック層を利用した電子部品を形成するのに適していると記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−128628号公報
【特許文献2】特開2001−278657号公報
【特許文献3】国際公開第2004/076380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラスセラミックや結晶化ガラスは材料自体が比較的高価であると共に、精製工程が煩雑であるため、製造コストを要しがちであり、コスト的な面で不十分であった。また、高周波領域における誘電損失も比較的高くなりがちであった。これに対して、特許文献2及び特許文献3に記載されている低温焼成磁器組成物の場合酸化物粉末を原料とし、固相合成をおこなうことで、ディオプサイド結晶を合成し、ホウ素等の焼結助剤により液相焼結を行うため、安価でかつ高周波特性に優れた材料が得られる。しかしながら、これらの低温焼成磁器は、耐薬品性が低く、メッキ処理時において基板材料表面がメッキ液に浸食され、これによるAgを配線導体に用いた時のマイグレーションの発生、表層電極の密着強度の低下、基板の機械強度低下などの問題があった。
【0008】
本発明は、低温焼結が可能で、メッキ液等の薬品による浸食がなく、さらには高周波領域において低誘電損失となる安価なセラミック配線基板が得られる低温焼成磁器組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、焼結後の組成がSiO_53.5〜62.0質量%、MgO_12.0〜22.0質量%、CaO_21.0〜32.0質量%からなる主成分100.0質量部に対して、副成分としてホウ素をB換算で1.0〜5.0質量部、ビスマスをBi換算で1.0〜20.0質量部、アルミナをAl換算で0.1〜3.0質量部、及びリチウムをLiO換算で0.1〜1.5重量部を有しており、前記主成分はディオプサイド結晶相(CaMgSi)を形成していることを特徴とするセラミックス組成物を提案するものである。また、これに銀をAgO換算で0.1〜5.0質量部有していることを特徴とするセラミックス組成物を提案する。
【0010】
また、本発明は、上記のセラミックス組成物で構成されたセラミックス積層体内に、AgまたはCuで構成された内部導体が埋め込まれた積層セラミック回路装置を提案する。ここで言う積層セラミック回路装置とは、セラミックス多層配線基板の他、積層コンデンサ及び積層インダクタを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐薬品性が向上し、960℃以下の低温で焼結できるセラミックス組成物が得られるので、Cu、Agなどの低抵抗金属を導体材料として用いた配線層を形成することができ、高周波領域において低誘電損失で、強度の大きい積層セラミック回路装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のセラミック組成物の主成分であるディオプサイド結晶(CaMgSi)は、SiO、MgO、及びCaOを含有する組成物からなり、その原料は、ガラスでない酸化物、炭酸塩などのセラミック粉末を用いることができ、特に酸化物が好ましく用いられる。
【0013】
そして、このディオプサイド結晶におけるSiO、MgO、及びCaOの配合割合は、SiO_53.5〜62.0質量%、MgO_12.0〜22.0質量%、CaO_21.0〜32.0質量%となるように調整されることが好ましく、特に好ましくは、SiO_54.0〜55.5質量%、MgO_16.0〜21.5質量%、CaO_23.0〜27.0質量%である。
【0014】
SiOが多すぎると、焼結後にSiO2が残留し、焼結性が悪化する。また、少なすぎると、すなわち、MgO,CaOの比率が多くなると、オーケルマナイト(Akermanite)や、ウォラストナイト結晶、フォルステライト結晶が生成しやすく、耐薬品性が低下傾向になる。
【0015】
また、本発明のセラミック組成物は、上記主成分の他に、副成分として、ホウ素成分、リチウム成分、ビスマス成分、アルミナ成分を副成分として配合してなることを特徴とする。また、銀成分、ジルコニア成分を含んでも良い。材料としては特に限定はなく、酸化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、弗化物、単体金属が用いられ、あるいは前記割合になるような組成のガラスなどを併用してもよいが、好ましくは酸化物である。
【0016】
ホウ素成分は、焼結温度を下げるための成分であり、前記主成分100.0質量部に対して、酸化物換算で1.0〜5.0質量部となるように添加することが好ましい。ホウ素成分が多すぎると、焼結時に融着が起こり焼結体の形状が安定しにくくなる。また、少なすぎると、低温焼結、特に960℃以下で焼結することが困難となる。
【0017】
リチウム成分も、焼結温度を下げるための成分であり、前記主成分100.0質量部に対して、酸化物換算で0.1〜1.5質量部となるように添加することが好ましい。リチウム成分が多すぎると、耐薬品性が低下するとともに、焼結体の電気絶縁性が低下する。また、少なすぎると、低温焼結、特に960℃以下で焼結することが困難となる。
【0018】
ビスマス成分も、焼結温度を下げるための成分であるが、リチウム成分のように耐薬品性を低下させることは無い。よって、添加の上限は高く、前記主成分100.0質量部に対して、酸化物換算で1.0〜20.0質量部となるように添加することが好ましい。ビスマス成分が多すぎると、誘電損失が大きくなりがちであり、また、材料の結晶粒が過大に成長することにより抗折強度が低下する。また、少なすぎると、低温焼結、特に960℃以下で焼結することが困難となり、Cu、Ag、及びこれらの合金等の電極を使用できないことがある。
【0019】
アルミナ成分は、耐薬品性を向上させる成分であり、前記主成分100.0質量部に対して、酸化物換算で0.1〜3.0質量部含むことが望ましい。アルミナ添加量が少なすぎると、耐薬品性を満足することができない。アルミナ成分が多すぎると、焼結性が低下する。
【0020】
また、必要に応じて銀成分、亜鉛成分、銅成分、ジルコニア成分を更に添加してもよい。上記成分のうち、亜鉛、銅成分は、焼結温度の低温化、緻密化を効果的に図り、低温焼結効果を高めるために、適宜添加するのが好ましい成分である。銀成分は、銀をセラミックス多層配線基板の配線導体や積層コンデンサ及び積層インダクタの内部導体として使用する場合には、前記主成分100.0質量部に対して、酸化物換算で0.1〜5.0質量部添加することが好ましく、より好ましくは、1.3〜2.5質量部である。添加量が少ないと、銀導体の拡散が顕著となり、積層コンデンサの内部導体の交差面積が減少したり、積層インダクタやセラミックス多層配線基板のAg配線導体が断線する可能性がある。多すぎると、銀が析出することがあり、配線導体の短絡が生じる可能性がある。また、ジルコニア成分は、抗折強度を高めるために添加するのが好ましい成分である。
【0021】
本発明のセラミック組成物は、上記のような組成となるように配合された原料をZrOボールなどを用いて、水などの湿式下で混合し、必要に応じて結合剤、可塑剤、溶剤等を添加し、所定形状に成形して、焼結することによって本発明のディオプサイドを主結晶としたセラミック組成物を製造することができる。
【0022】
上記結合剤としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等が用いられ、可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が用いられ、溶剤としては、例えばトルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0023】
成形は、公知のプレス法を用いてブロック体にしたり、公知のドクターブレード法でグリーンシート化し、更に圧着して積層体にしたり、ペースト状にして厚膜印刷技術を用いて多層体にしたりできる。積層セラミック回路装置を形成するには、グリーンシートに成形するのが、多層化が容易でよい。
【0024】
多層配線基板、積層コンデンサ及び積層インダクタ等の積層セラミック回路装置を形成するには、まず、上記セラミック原料、又はその仮焼粉末を含む原料粉末を公知のドクターブレード法を用いてグリーンシート化する。グリーンシート上には導電ペーストを用いてスクリーン印刷法により配線層を印刷形成する。このグリーンシートを圧着して積層体を形成する。この積層体を脱バインダーした後、1000℃以下、好ましくは850〜960℃で低温焼結して、目的とする低温焼結配線基板を得る。なお、配線にAgを用いる場合は大気雰囲気下、Cuを用いる場合は、中性〜還元雰囲気下で焼結することが好ましい。
【実施例1】
【0025】
SiO、CaCO及びMgO粉末を、焼結後の組成が表1の割合になるように秤量し、15時間湿式混合後、120℃で乾燥し、乾燥した粉体を大気中1200℃で2時間仮焼した。この仮焼物に、表1に示す酸化物の割合となるように副成分を秤量し添加し、15時間湿式混合後、120℃で乾燥し、60φメッシュ篩いを通し製粉した。そして、これらの混合粉末に、PVA系バインダーを適量添加・混合し、60φメッシュ篩いを通して造粒粉とし、円形金具を使用して、12.5φ10mmの円柱成型体を作製し、大気中500℃で脱バインダー処理し、成型体を得た。次いで、この成型体を、大気中にて、850℃〜1000℃で2時間焼結して、試料番号1〜35の焼結体を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
この焼結体を用いて、JIS−R1627に準ずる方法による15GHzにおける誘電損失を測定した。
【0028】
また、各試料を無電解ニッケルメッキに使用するメッキ液に60分間浸漬後、図1のように試料の破断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより、メッキ液の浸食距離Aを評価した。浸食部分は粒界物質が溶出して粒子が明確に観察できるので、その部分の距離を測定して浸食距離とした。これらの測定結果を表2にまとめて記す。
【0029】
【表2】

【0030】
上記結果より、試料番号2〜4、7〜9、12〜14、17〜21及び30〜33の焼結体は主結晶としてディオプサイドを有するものであり、また、960℃(銀の融点)以下の比較的低温で焼結しても優れた性質を備えている。また、誘電損失の低い(tanδで3.0以下)ものであり、さらにはメッキ液等の薬品による浸食が生じることがないものであった。
【実施例2】
【0031】
表1の試料番号2〜4、7〜9、12〜14、17〜21及び30〜33の粉末を各々ポリビニルブチラール樹脂、フタル酸ジブチル及び溶剤と混練してセラミックスラリーを形成し、これをドクターブレードで厚さ50μmのシート状に形成した。このセラミックシート上にスクリーン印刷でAgペーストまたはCuペーストを塗布し、幅0.3mmの線状パターンを5mm間隔で複数本形成した。線状パターンを形成したセラミックシートを20mm×20mmの大きさに打ち抜いて、これを10層積み重ねて圧着する。得られた積層体を脱バインダーした後、Agペーストを印刷したものは大気雰囲気で950℃、Cuペーストを印刷したものは窒素雰囲気中950℃で焼成し、多層基板サンプルを得た。
【0032】
得られた多層基板サンプルについて、表層及び内部の線状パターンの状態を観察した。その結果、Ag導体を形成した試料では、試料番号2及び19のサンプルに線状パターンの断線が観察された。その他のサンプルでは断線は見られなかった。また、Cu導体を形成した試料では、何れのサンプルにも断線は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】メッキ液に浸食されたセラミックスの破断面の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結後の組成がSiO_53.5〜62.0質量%、MgO_12.0〜22.0質量%、CaO_21.0〜32.0質量%からなる主成分100.0質量部に対して、
副成分としてホウ素をB換算で1.0〜5.0質量部、ビスマスをBi換算で1.0〜20.0質量部、アルミナをAl換算で0.1〜3.0質量部及びリチウムをLiO換算で0.1〜1.5質量部を有しており、
前記主成分はディオプサイド結晶相(CaMgSi)を形成していることを特徴とするセラミックス組成物。
【請求項2】
さらに、副成分として銀をAgO換算で0.1〜5.0質量部有していることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス組成物。
【請求項3】
セラミックス積層体内に内部導体が埋め込まれた構造を有する積層セラミック回路装置において、前記セラミックス積層体は、
焼結後の組成がSiO2_53.5〜62.0質量%、MgO_12.0〜22.0質量%、CaO_21.0〜32.0質量%からなる主成分100.0質量部に対して、
副成分としてホウ素をB換算で1.0〜5.0重量部、ビスマスをBi換算で1.0〜20.0重量部、アルミナをAl換算で0.1〜3.0重量部及びリチウムをLiO換算で0.1〜1.5重量部を有しており、
前記主成分はディオプサイド結晶相(CaMgSi)を形成しているセラミックス組成物で構成され、
前記内部導体はAgまたはCuで構成されていることを特徴とするセラミックス多層配線基板。
【請求項4】
前記セラミックス積層体を構成するセラミックス組成物は、さらに副成分として銀をAgO換算で0.1〜5.0質量部有し、前記配線導体はAgで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の積層セラミック回路装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284327(P2007−284327A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137018(P2006−137018)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】