説明

セラミック部材と金属部材との接合体

【課題】 400℃以上の高温の酸化雰囲気でも長時間の使用に耐え、セラミック部材と金属部材との接合強度を維持させることが可能なセラミック部材と金属部材の接合体を提供すること。
【解決手段】 本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、表面にメタライズ層2が形成されたセラミック部材1と、メタライズ層2にろう材5を介して接合された金属部材4とから成り、メタライズ層2とろう材5とをガラスを含む被覆材6で気密に覆ったものである。メタライズ層2とろう材5とが被覆材6により保護され、400℃以上の高温の酸化雰囲気でもメタライズ層2とろう材5とが酸化されて劣化するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気ガス浄化装置や航空機エンジンのクリアランスセンサー等に使用されるセラミック−金属接合体に関し、特に高温大気中でも耐久性の優れたセラミック部材と金属部材の接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミック部材と金属部材の接合体として、セラミック部材の表面にタングステン(W)またはモリブデン(Mo)を主成分とするメタライズ層、あるいは銀(Ag)−銅(Cu)−チタン(Ti)から成るメタライズ層を形成し、その上に銀(Ag)−銅(Cu)ろうを介して金属部材と接合する接合構造があった。しかしながら、このメタライズ層を構成するW,Mo,Cu,Tiは大気中400℃程度で酸化して接合強度が低下してしまうという問題点があった。
【0003】
そこで、高温酸化雰囲気においても接合強度を維持させることのできるセラミック部材と金属部材の接合体が研究されている。例えば、セラミック部材表面にWを主成分とするメタライズ層が形成されるとともに、このメタライズ層にタングステン(W)ねじが接合されたセラミック部材と金属部材の接合体において、Wねじにニッケル(Ni)ねじが係合されており、Wメタライズ層とWねじの露出した表面を(Au),パラジウム(Pd),白金(Pt)またはニッケル(Ni)を含む被覆層としてのろう材層で被覆するものが提案されている(下記の特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−226281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の方法においては、Wに対するAuの濡れ性が悪いという問題点があった。また、NiはWに対して比較的濡れ性は良いが、メタライズ層にNiめっきを施したとしても、Wから成るメタライズ層の端部ではNiめっきが薄くなり、Niめっきで完全に被覆することは困難であった。また、ろう材層で被覆する場合も、メタライズ層の端部を完全に被覆することは困難であった。
【0005】
そのため、400℃以上の高温で使用するとWから成るメタライズ層の端部から酸化が進行してしまうことがあった。その結果、セラミック部材と金属部材との接合強度を維持させるのが困難になってしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み案出されたもので、その目的は、400℃以上の高温の酸化雰囲気でも長時間の使用に耐え、セラミック部材と金属部材との接合強度を維持させることが可能なセラミック部材と金属部材の接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、表面にメタライズ層が形成されたセラミック部材と、前記メタライズ層にろう材を介して接合された金属部材とから成るセラミック部材と金属部材との接合体であって、前記メタライズ層と前記ろう材とがガラスを含む被覆材で気密に覆われていることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記被覆材に含まれる前記ガラスは、バリウム珪酸ガラス,ホウ珪酸ガラス,アルミノ珪酸ガラスまたはこれらのうち少なくとも2種のガラスを含む混合物であることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、セラミック部材と金属部材との接合体は、前記被覆材が、前記ガラスと二珪化物とを含むことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記メタライズ層がタングステンまたはモリブデンを主成分とするとともに、前記メタライズ層の上面にニッケルを主成分とする金属層が被着されていることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記金属部材がステンレス鋼またはニッケル合金から成ることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記被覆材の軟化温度が800℃以上で熱膨張率が5×10−6〜10×10−6(1/K)であることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記セラミック部材の表面に凹部が設けられ、該凹部の底面に前記メタライズ層が形成されており、前記凹部の底面の前記メタライズ層に前記金属部材がろう材を介して接合され、かつメタライズ層とろう材を気密に覆うように前記凹部内に前記被覆材が接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、表面にメタライズ層が形成されたセラミック部材と、前記メタライズ層にろう材を介して接合された金属部材とから成るセラミック部材と金属部材との接合体であって、前記メタライズ層と前記ろう材とがガラスを含む被覆材で気密に覆われていることから、メタライズ層とろう材とが被覆材により保護され、400℃以上の高温の酸化雰囲気でもメタライズ層とろう材とが酸化するのを有効に防止することができる。そして、400℃以上の高温の酸化雰囲気でも長時間の使用に耐え、セラミック部材と金属部材との接合強度を維持させることが可能となる。
【0015】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記被覆材に含まれる前記ガラスは、バリウム珪酸ガラス,ホウ珪酸ガラス,アルミノ珪酸ガラスまたはこれらのうち少なくとも2種のガラスを含む混合物であることから、酸化および還元雰囲気に対して安定であり、緻密な被覆層の形成が可能となると同時に、耐酸化特性に優れたものとなる。
【0016】
好ましくは、セラミック部材と金属部材との接合体は、前記被覆材が、前記ガラスと二珪化物とを含むことから、メタライズ層とろう材とがガラスおよび二珪化物により保護され、400℃以上の高温の酸化雰囲気でもメタライズ層とろう材とが酸化するのを防止することができる。二珪化物を含むことによってメタライズ層とろう材に対する被覆材の濡れが向上し、メタライズ層とろう材とを確実に覆うことができる。また、二珪化物はガラスに比べ弾性を有しており、クラックが生じ難い。以上により、メタライズ層とろう材とを気密に保持することができる。そして、400℃以上の高温の酸化雰囲気でも長時間の使用に耐え、セラミック部材と金属部材との接合強度を維持させることが可能となる。
【0017】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記メタライズ層がタングステンまたはモリブデンを主成分とするとともに、前記メタライズ層の上面にニッケルを主成分とする金属層が被着されていることから、メタライズ層の融点が高いものとなりさらに耐熱性に優れるものとなるとともに、メタライズ層の上面に被着されたニッケルから成る金属層により、金属層表面におけるろう材の濡れ性が良好なものとなる。その結果、セラミック部材と金属部材とを長期にわたって強固に接合させることができる。
【0018】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記金属部材がステンレス鋼またはニッケル合金から成ることから、金属部材が耐熱性、耐酸化性に優れたものとなり、セラミック部材と金属部材との接合部における酸化をより有効に防止することができる。その結果、セラミック部材と金属部材との接合の信頼性をより向上させることができる。
【0019】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材との接合体は、前記被覆材の軟化温度が800℃以上で熱膨張率が5×10−6〜10×10−6(1/K)であることから、耐熱性に優れ、金属部材の熱膨張率とセラミック部材の熱膨張率とが近似して熱膨張差が小さくなり、温度サイクルが加わっても被覆材にクラック等の破損が生ずるのを有効に防止することができる。その結果、セラミック部材と金属部材との接合部における酸化をより有効に防止することができ、セラミック部材と金属部材との接合の信頼性をより向上させることができる。
【0020】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、前記セラミック部材の表面に凹部が設けられ、該凹部の底面に前記メタライズ層が形成されており、前記凹部の底面の前記メタライズ層に前記金属部材がろう材を介して接合され、かつメタライズ層とろう材を気密に覆うように前記凹部内に前記被覆材が接合されていることから、凹部にメタライズ層が形成され金属部材がろう材を介して接合されることにより、凹部を有しないセラミック部材表面に金属部材をろう付けした場合、メタライズ層の端部にろう材との熱膨張差による応力が作用し易いが、凹部の底面にメタライズ層を形成し金属部材をろう付けした場合、メタライズ層の端部に加わる残留応力が凹部の底面と内周面とに分散され、メタライズ層の端部に加わる金属部材とセラミック部材の熱膨張差による応力によりセラミック部材にクラック等の破損が生じにくくなる。
【0021】
また、被覆材が凹部内に接合されていることにより、被覆材が凹部より外側に流れ出すことがなく、メタライズ層と金属部材の接合部を確実に被覆材で覆うことができる。即ち、メタライズ層と金属部材の接合部を覆う被覆材に薄くなる箇所がなく、確実にメタライズ層とろう材とを気密に覆うことができる。以上の結果、セラミック部材と金属部材との接合部における酸化をさらに有効に防止することができ、セラミック部材と金属部材との接合の信頼性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のセラミック部材と金属部材の接合体について以下に詳細に説明する。図1は本発明のセラミック部材と金属部材の接合体の実施形態の一例を示す断面図であり、図2は本発明のセラミック部材と金属部材との接合体の他の実施形態を示す断面図である。同図において、1はセラミック部材、2はメタライズ層、3は金属層、4は金属部材、5はろう材、6はガラスを含むまたは二珪化物とガラスとを含む被覆材であり、これらにより本発明のセラミック部材と金属部材の接合体が構成される。
【0023】
本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、表面の少なくとも一部にメタライズ層2が形成されたセラミック部材1と、メタライズ層2にろう材5を介して金属部材4が接合され、メタライズ層2とろう材5とをガラスを含む被覆材6で気密に覆ったものである。
【0024】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、図1の実施の形態例に示すように、メタライズ層2がWまたはMoを主成分とし、メタライズ層2の上面にNiから成る金属層3が被着されているものである。
【0025】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、金属部材4がステンレス鋼(SUS)またはNi合金から成るものである。
【0026】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、被覆材6の軟化温度が800℃以上で熱膨張率が5×10−6〜10×10−6(1/K)である。
【0027】
好ましくは、本発明のセラミック部材と金属部材の接合体は、図2の実施の形態例に示すように、セラミック部材1の表面に凹部1aが設けられ、凹部1aの底面にメタライズ層2が形成されており、凹部1aの底面のメタライズ層2に金属部材4がろう材5を介して接合され、かつメタライズ層2とろう材5を気密に覆うように凹部1a内に被覆材6が接合されているものである。
【0028】
また、上記構成のセラミック部材と金属部材との接合体の適用例として、セラミック製の自動車の排気ガス浄化装置に用いられる金属製のリード端子接合部、ガスタービン,水蒸気タービン等の高温酸化雰囲気で用いられるセラミックセンサーのセラミックスと金属との接合部等が挙げられる。
【0029】
以下、図1,図2を用いて本発明のセラミック部材と金属部材との接合体を詳細に説明する。
【0030】
本発明のセラミック部材と金属部材との接合体において、セラミック部材1はアルミナ(Al)質セラミックス、ジルコニア(ZrO)質セラミックス、窒化アルミニウム(AlN)質セラミックス、窒化珪素(Si)質セラミックス、炭化珪素(SiC)質セラミックス等から成るものを用いることができる。例えばAl質セラミックスから成る場合、Al、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)等のAl質セラミック原料粉末にポリビニルアルコール等のバインダを添加混合するとともに、これを所定形状のプレス型内に充填し、所定の圧力でプレスすることによりプレス成形体を得、しかる後、このプレス成形体を約1600℃の温度で焼成する。焼成後、所定の箇所にメタライズ層2となるWやMo,マンガン(Mn)等の金属粉末を主成分とする金属ペーストを塗布し、約1300℃の温度で焼成することによって製作される。
【0031】
または、Al,SiO,MgO,CaO等の原料粉末に適当な有機バインダ,溶剤等を添加混合してスラリーと成す。このスラリーをドクターブレード法やカレンダーロール法によってセラミックグリーンシートと成し、所要の大きさに切断する。次に、複数のセラミックグリーンシートにおいてセラミック部材1を形成するために適当な打ち抜き加工を施す。次いでセラミックグリーンシートを積層し、積層後、所定の箇所にメタライズ層2となるWやMo,Mn等の金属粉末を主成分とする金属ペーストを塗布し、約1600℃の温度で焼成することによって製作される。
【0032】
また好ましくは、図2の実施の形態例に示すように、セラミック部材1の表面に凹部1aが設けられているのがよい。凹部1aが形成される場合、プレス成形によるか、セラミック部材1の焼成後に研削加工を施すことによって形成される。または、凹部1aはセラミックグリーンシート積層法によって形成される。そして、このようにして設けられた凹部1aの底面にはメタライズ層2を形成し、凹部1aの底面のメタライズ層2に金属部材4がろう材5を介して接合される。そして、メタライズ層2とろう材5とセラミック部材1のメタライズ層2周囲とを気密に覆うように凹部1a内に被覆材6が注入されて接合される。なお、被覆材6は、凹部1aを完全に塞ぐように充填する必要はない。図2のように、メタライズ層2およびろう材5が完全に覆われるように凹部1a内に接合されておればよく、凹部1aの側壁が一部露出されていてもよい。
【0033】
この構成により、凹部1aにメタライズ層2が形成され金属部材4がろう材5を介して接合されることで、凹部1aを有しないセラミック部材1の表面にメタライズ層2が形成され金属部材4がろう材5を介して接合される場合に比べ、メタライズ層2に加わる金属部材4とセラミック部材1の熱膨張差による応力によりメタライズ層2の端部の直下におけるセラミック部材1を破損し難くできる。
【0034】
即ち、凹部1aを有しないセラミック部材1表面に金属部材4をろう付けした場合、メタライズ層2の端部にろう材5との熱膨張差による応力が作用し易いが、凹部1aにメタライズ層2を形成し金属部材4をろう付けした場合、メタライズ層2の端部に加わる金属部材4とセラミック部材1の熱膨張差による残留熱応力がセラミック部材1に対して凹部1a底面に沿った水平方向のみならず凹部1a内周面に沿った垂直方向にも分散されるために、応力が小さくなり、メタライズ層2の端部がメタライズ層2に加わる金属部材4とセラミック部材1の熱膨張差による応力によりセラミック部材1にクラック等が生じて破損しにくくなる。
【0035】
メタライズ層2は、W,Mo,Mn等の高融点金属を主成分とするものや、あるいはAg−Cu−Tiの層から成るものであり、例えば、メタライズ層2となる金属ペーストをスクリーン印刷法等によってセラミック部材1に印刷塗布し、前述のように1300℃〜1600℃の高温雰囲気で焼成することでセラミック部材1の表面に被着形成される。
【0036】
金属層3はメタライズ層2に被着されても被着されなくともよいが、好ましくは、Niから成る金属層3が被着されているのがよい。この構成により、金属層3表面におけるろう材5の濡れ性が良好なものとなり、セラミック部材1と金属部材4とを長期にわたって強固に接合させることができる。
【0037】
金属部材4は、鉄(Fe)やSUS等の金属から成るが、好ましくは耐熱性,耐酸化性に優れるSUSや耐熱性を有するNi合金から成るのが良い。この構成により、400℃以上の高温の酸化雰囲気でも長時間の使用に耐えることができる。
【0038】
ろう材5は、セラミック部材1の表面に被着形成されたメタライズ層2に金属部材4を接合させるためのものであり、Auろう,Agろう,Cuろう,Au−Cuろう,Ag−Cuろう,Au−Niろう等を用いることができる。好ましくは、固相線温度が900℃以上のろう材、例えば、Auろう,Cuろう,Au−Cuろう,Au−Niろうを用いるのがよい。この構成により、400℃以上の高温でも溶融することなく長時間の使用に耐えることができ、信頼性の高い接合を実現することができる。
【0039】
被覆材6は、セラミック部材1と金属部材4との接合部、即ちろう材5およびメタライズ層2を保護するためのものであり、軟化温度の高いものから成る。好ましくは、軟化温度が800℃以上のものから成るのがよい。この構成により、被覆材6は耐熱性に優れたものとなり、400℃以上の高温でも溶融することなく長時間の使用に耐えることができる。軟化温度は、被覆材6に含まれるガラスの粘性率が1011〜1012ポイズになる温度のことであり、計測方法としては示差熱分析の発熱ピークで測定する。
【0040】
また好ましくは、被覆材6の熱膨張率は300〜1000Kにおいて5×10−6〜10×10−6(1/K)であるのがよく、熱膨張率が金属部材4とセラミック部材1の熱膨張率と近似して熱膨張差が小さくなり、温度サイクルが加わっても被覆材6にクラック等の破損が生ずるのを有効に防止することができる。被覆材6の熱膨張率が5×10−6(1/K)未満であると、被覆材6の熱膨張率が金属部材4の熱膨張率に比べ小さくなりすぎてしまい、セラミック部材1と金属部材4との接合部に熱が加わった場合、被覆材6に熱膨張差による応力が大きく作用し、被覆材6がクラック等によって破損してしまうおそれがある。
【0041】
また、被覆材6の熱膨張率が10×10−6(1/K)を超えて大きくなると、被覆材6の熱膨張率がセラミック部材1の熱膨張率に比べ大きくなりすぎてしまい、セラミック部材1と金属部材4との接合部に熱が加わった場合、被覆材6に熱膨張差による応力が大きく作用し、被覆材6がクラック等によって破損してしまうおそれがある。従って、被覆材6の熱膨張率は5×10−6〜10×10−6(1/K)であるのがよい。これによって、セラミック部材1と金属部材4との接合部におけるメタライズ層2およびろう材5の酸化をより有効に防止することができ、セラミック部材1と金属部材4との接合の信頼性をより向上させることができる。
【0042】
被覆材6となるガラスは、以下のようにして接合部の周囲に配置される。即ち、例えばSiOが50〜70質量%、Alが5〜25質量%、CaOが5〜25質量%、酸化バリウム(BaO)が5〜25質量%から成る組成のバリウム珪酸ガラス材のガラスフリットと、エチルセルロースをテルピネオールに溶解した溶液を乳鉢で混合し、ガラスフリットペーストを作成する。凹部1aが無い場合には、例えば直径0.5mmのステンレス鋼製のピンの先端部にガラスフリットペーストを付けて、金属部材4を中心に周回するようにろう材5の上面にガラスフリットペーストを滴下させながら塗布する。凹部1aがある場合も同様にピンの先端部につけたガラスフリットペーストを凹部1a内のろう材5を満遍なく覆うように滴下塗布する。その後、大気中約150℃で乾燥したのち、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを水槽の中に混合ガスを通すことで加湿した雰囲気内で約1000℃で焼成する。
【0043】
被覆材6の熱膨張率は、以下のようにして調整する。即ち、ガラスフリットを構成する成分のうち、SiOを増やすことにより、熱膨張率が下がり、SiOを減らすことにより、熱膨張率が上がる。尚、CaO、BaOが少ないとガラスの軟化点が高くなりすぎ、ガラスフリットの作成が困難になる。逆に、CaO、BaOが多いと結晶化しやすくなり、ガラスフリットの作成が困難になる。
【0044】
被覆材6に含まれるガラスとしては、この他にホウ珪酸ガラス,アルミノ珪酸ガラスを用いることができ、これらガラスのうち少なくとも2種のガラスを含むガラスを用いてもよい。これらガラスは、酸化および還元雰囲気に対して安定であり、緻密な被覆層の形成が可能となると同時に、耐酸化特性に優れたものとなる。
【0045】
好ましくは、被覆材6としてのガラスに二珪化物を含ませるとよい。二珪化物としては、400℃以上の大気中において、強固なSiO皮膜を形成できるものであればよく、MoSi(モリブデンシリサイド),TiSi(チタンシリサイド),VSi(バナジウムシリサイド),CrSi(クロムシリサイド),MnSi(マンガンシリサイド),FeSi(鉄シリサイド),CoSi(コバルトシリサイド),NiSi(ニッケルシリサイド),ZnSi(亜鉛シリサイド),ZrSi(ジルコニウムシリサイド),NbSi(ニオブシリサイド),TaSi(タンタルシリサイド),WSi(タングステンシリサイド),ReSi(レニウムシリサイド)等の金属の二珪化物およびこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
これら二珪化物において、MoSi,TiSi,CrSi,FeSi,ZrSi,NbSi,TaSi,WSiは、高温大気に対する耐酸化性が良好で酸化しにくいという点で好適である。
【0047】
また、MoSiは、コストが安くて、量産に適しているという点で好適である。
【0048】
二珪化物とガラスとを含む被覆材6は、以下のようにして接合部の周囲に配置される。即ち、例えば上記二珪化物がMoSiから成る場合、MoSi粉末50質量%およびホウ珪酸ガラスフリット50質量%と、エチルセルロースをテルピネオールに溶解した溶液とを乳鉢で混合し、MoSiペーストを作成する。そして、凹部1aが無い場合には、例えば直径0.5mmのステンレス鋼製のピンの先端部にMoSiペーストを付けて、金属部材4を中心に周回するようにろう材5の上面にMoSiペーストを滴下させながら塗布する。凹部1aがある場合も同様にピンの先端部につけたMoSiペーストを凹部1a内のメタライズ層2およびろう材5を満遍なく覆うように滴下塗布する。他の二珪化物の場合は、上記MoSiを置き換えて用いればよい。その後、大気中約150℃で乾燥させたのち、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを水槽の中に混合ガスを通すことで加湿した雰囲気内で約1000℃で焼成する。
【0049】
二珪化物とガラスとの配合比は、二珪化物が0〜90質量%に対しガラスが100〜10質量%とすればよい。ガラスが10%未満の場合、被覆材6の焼結が困難となり、緻密かつ気密な被覆材6を形成できない場合がある。
【0050】
この構成により、メタライズ層2とろう材5とが被覆材6により保護され、400℃以上の高温の酸化雰囲気でもメタライズ層2とろう材5とが酸化するのを有効に防止することができる。二珪化物は金属間化合物であり金属と金属結合を生じ易いので、メタライズ層2とろう材5との濡れ性に優れ、メタライズ層2とろう材5とを確実に覆って保護することができる。また、二珪化物はガラス中に分散し、ガラスに比べ弾性を有していることから接合に伴う応力を緩和するために被覆材6にクラックが生じ難い。以上により、メタライズ層2とろう材5とを気密に保持することができる。そして、400℃以上の高温の酸化雰囲気でも長時間の使用に耐え、セラミック部材1と金属部材4との接合強度を維持することが可能となる。
【0051】
また、セラミック部材1の表面に凹部1aが設けられ、凹部1a内に被覆材6が接合されている構成においては、被覆材6が凹部1aより外側に流れ出すことがなく、メタライズ層2と金属部材4の接合部を確実に被覆材6で覆うことができる。即ち、メタライズ層2と金属部材4の接合部を覆う被覆材6に薄くなる箇所がなく、確実にメタライズ層2とろう材5とを気密に覆うことができる。以上の結果、セラミック部材1と金属部材4との接合部における酸化をさらに有効に防止することができ、セラミック部材1と金属部材4との接合の信頼性をさらに向上させることができる。
【0052】
更に、セラミック部材1の表面に凹部1aが設けられ、凹部1a内に被覆材6が注入されて接合されている構成においては、液状にした被覆材6のペーストを凹部1aに注入する際に、凹部1aとの接合面となる底部と、底部から延在する柱状部とから成る金属部材4の該柱状部に沿わせて凹部1aに被覆材6となるペーストを流し込むとよい。これにより液状の被覆材6を凹部1aに確実に流れ込ませることができる。
【0053】
更に図3に示すように、金属部材4に付着した被覆材6となるペーストを、金属部材4の柱状部に沿って上方向に延在させて、金属部材4が被覆材6から露出し始める境界部を、セラミック部材1の上面よりも上に位置させた場合、金属部材4の柱状部が被覆材6により被覆される領域の長さが長くなる。この場合、金属部材4が被覆材6から露出する境界部が、金属部材4の接合部から離間することとなる。これにより境界部がセラミック部材1の上面よりも低く位置した場合に比べて、境界部から酸化性ガスが進入しても該酸化性ガスが接合部に到達しにくく、接合部における酸化を抑制できる。
【0054】
更に凹部1aの側壁内周に沿って上下方向に凹凸面を形成するように溝を形成することによって、例えば、図4に示すように、凹部1aの側壁上端において開口径を、凹部1aの底面から上に向かうに従って狭く成すように形成することによって、被覆材6に上下方向の引っ張り応力がかかっても、被覆材6が凹部1aの側面に支持され、接合部の損壊を抑制できる。また、凹部1a側壁内周面と被覆材6との境界が成す沿面距離が長くなり、酸化性ガスが接合部に進入し難くなるので、接合部における酸化を抑制できる。
【0055】
上記構成のセラミック部材1と金属部材4との接合体は、例えば、セラミック製の自動車の排気ガス浄化装置における金属製のリード端子接合部に用いることができる。排気ガス浄化装置内には高温の酸化性のガスが流れ、排気ガス浄化装置を形成するセラミック部材1が高温となり、リード端子を形成する金属部材4との接合部も高温となる。そのため、セラミック部材1のメタライズ層2と金属部材4とをろう材5で接合しただけで、被覆材6により接合部を覆わない構成であると、接合部が酸化し接合強度が低下するという問題点が生ずるが、上記構成のセラミック部材1と金属部材4との接合構造により、排気ガス浄化装置のセラミック部材1と金属製のリード端子(金属部材4)との接合部が被覆材6によって保護され、排気ガス浄化装置における金属製のリード端子(金属部材4)の接合の信頼性に優れ、長期にわたって正常且つ安定に作動するセラミック製の自動車の排気ガス浄化装置を提供することができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何等差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のセラミック部材と金属部材との接合体の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明のセラミック部材と金属部材との接合体の実施の形態の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明のセラミック部材と金属部材との接合体の実施の形態の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明のセラミック部材と金属部材との接合体の実施の形態の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1:セラミック部材
1a:凹部
2:メタライズ層
3:金属層
4:金属部材
5:ろう材
6:被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にメタライズ層が形成されたセラミック部材と、前記メタライズ層にろう材を介して接合された金属部材とから成るセラミック部材と金属部材との接合体であって、前記メタライズ層と前記ろう材とがガラスを含む被覆材で気密に覆われていることを特徴とするセラミック部材と金属部材との接合体。
【請求項2】
前記被覆材に含まれる前記ガラスは、バリウム珪酸ガラス,ホウ珪酸ガラス,アルミノ珪酸ガラスまたはこれらのうち少なくとも2種のガラスを含む混合物であることを特徴とする請求項1記載のセラミック部材と金属部材との接合体。
【請求項3】
前記被覆材は、前記ガラスと二珪化物とを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のセラミック部材と金属部材との接合体。
【請求項4】
前記メタライズ層はタングステンまたはモリブデンを主成分とするとともに、前記メタライズ層の上面にニッケルを主成分とする金属層が被着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のセラミック部材と金属部材との接合体。
【請求項5】
前記金属部材がステンレス鋼またはニッケル合金から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のセラミック部材と金属部材との接合体。
【請求項6】
前記被覆材の軟化温度が800℃以上で熱膨張率が5×10−6〜10×10−6(1/K)であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のセラミック部材と金属部材との接合体。
【請求項7】
前記セラミック部材の表面に凹部が設けられ、該凹部の底面に前記メタライズ層が形成されており、前記凹部の底面の前記メタライズ層に前記金属部材がろう材を介して接合され、かつメタライズ層とろう材を気密に覆うように前記凹部内に前記被覆材が接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のセラミック部材と金属部材との接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290027(P2007−290027A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149693(P2006−149693)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】