説明

セルロースアシレート樹脂フイルム及びその製造方法並びに装置

【課題】溶融製膜法により製造されるセルロースアシレートフィルムの面質を顕著に改良することのできるセルロースアシレートフィルムの製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】押出機で溶融したセルロースアシレート樹脂を、ダイ12から走行又は回転する冷却支持体14上にシート状に吐出して冷却固化する溶融製膜法によるセルロースアシレート樹脂フィルムの製造方法において、前記ダイ12から吐出されたシート状溶融樹脂16の幅方向両端部に静電気を帯電させて、該シート状溶融樹脂16の全幅のうちの両端部のみを、前記冷却支持体14上に密着させる密着処理を施す工程を含み、前記シート状溶融樹脂16が冷却支持体14と接触するときの該シート状溶融樹脂16の温度が200℃〜260℃であることを特徴とするセルロースアシレート樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースアシレートフイルムの製造方法及び装置に係り、特に液晶表示装置に好適な品質を有する延伸セルロースアシレートフイルムの延伸前のセルロースアシレートフイルムを溶融製膜法により製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースアシレートフイルムを延伸し、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示素子の位相差膜として使用し、視野角拡大を図ることが実施されている。
【0003】
このようなセルロースアシレートフイルムを延伸する方法として、フイルムの縦(長手方向)に延伸する方法(縦延伸)や、フイルムの横(幅方向)に延伸する方法(横延伸)、あるいは縦延伸と横延伸を同時に行う方法(同時延伸)が挙げられる。これらのうち、縦延伸は設備がコンパクトなため、従来から多く用いられてきた。通常、縦延伸は、2対以上のニップロールの間でフイルムをガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、入口側のニップロールの搬送速度より出口側の搬送速度を速くすることで縦方向に延伸する方法である。
【0004】
特許文献1には、セルロースエステルを縦延伸する方法が記載されている。この特許文献1は、縦延伸する方向を流延製膜方向と逆にすることで遅相軸の角度むらを改良したものである。
【0005】
また、特許文献2には、縦横比(L/W)が0.3以上、2以下の短スパン間に設置したニップローラを延伸ゾーン中に設置して延伸する方法が記載されている。この特許文献2によれば、厚み方向の配向(Rth)を改良することができる。ここで云う縦横比とは、延伸に用いるニップロールの間隔(L)を延伸するセルロースアシレートフイルムの幅(W)で割った値を指す。
【0006】
ところで、溶融製膜法によりセルロースアシレートフイルム(延伸前)を製膜する場合、製膜工程において、幅方向に収縮し、厚みムラやスジムラ等の面欠陥が発生しないことが重要になる。面欠陥の発生は、ダイから冷却支持体上(例えば回転する冷却ロール上)に溶融樹脂をシート状に吐出したときに、シート状の溶融樹脂と冷却支持体との間に空気が入り込み、両者の密着性が低下することが主たる原因となっている。
【0007】
従来、溶融製膜法においてシート状の溶融樹脂と冷却ドラムとの間に空気が入り込まないようにする技術として、例えば特許文献3のフイルム成形機が提案されている。このフイルム成形機によれば、冷却ロールの表面に梨地加工を施すと共に、ダイから吐出された溶融樹脂をその全幅に渡って冷却ロールに密着させる静電気式のピニング装置と、前記溶融樹脂の幅方向両端部を冷却ロールに密着させる静電気式のエッジピニング装置との両方を設けることで、溶融樹脂と冷却ロールとの間に空気が入り込み難くすることを提案している。これにより、溶融樹脂の引取速度が30m/分以上の高速で行っても、透明で幅方向の収縮のないフイルムを成形できることが開示されている。また、実施例では溶融樹脂としてPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を使用して良い結果が得られていることが記載されている。
【特許文献1】特開2002−311240号公報
【特許文献2】特開2003−315551号公報
【特許文献3】特開2004−255720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、出願人が製造しようとしているセルロースアシレートフイルムの樹脂を使用して特許文献3の技術を実施しても、面欠陥、特に製造されたセルロースアシレートフイルムの幅方向において厚い部分と薄い部分とが交互に形成される段ムラが発生してしまい、優れた面状のセルロースアシレートフイルムを製膜することができないという問題があった。即ち、一口に溶融樹脂と言っても樹脂の種類によって特有の性質を有しており、特許文献3の技術はPET樹脂には適用できても、樹脂特性の異なるセルロースアシレートフイルム樹脂には適用できなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、溶融製膜法により製造されるセルロースアシレートフイルムの面質を顕著に改良することのできるセルロースアシレートフイルムの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は前記目的を達成するために、押出機で溶融したセルロースアシレート樹脂を、ダイから走行又は回転する冷却支持体上にシート状に吐出して冷却固化する溶融製膜法によるセルロースアシレート樹脂フイルムの製造方法において、前記ダイから吐出されたシート状溶融樹脂の幅方向両端部に静電気を帯電させて、該シート状溶融樹脂の全幅のうちの両端部のみを、前記冷却支持体上に密着させる密着処理を施す工程を含み、前記冷却支持体に接触する際の前記シート状溶融樹脂の温度が200℃〜260℃であることを特徴とする。
【0011】
本発明者は、ダイから吐出されたシート状の溶融樹脂と冷却支持体との密着状態と、製膜されたフイルムの面質との関係を鋭意研究した結果、溶融樹脂がセルロースアシレートフイルムの場合の面質の改良には、PET等のポリエステル系の樹脂とは異なる密着状態が必要であり、PETのように全幅に渡って溶融樹脂を冷却支持体に密着させる密着処理を行うと却って面質が悪くなるのに対し、溶融樹脂の全幅のうちの両端部のみを冷却支持体上に密着させる密着処理を行うとセルロースアシレートフイルムの面質を改良できるという知見を得た。
【0012】
さらに、本発明の発明者は、静電印加方式によってセルロースアシレートフイルムの両端部を密着させる場合には密着効果が得られにくいため、冷却支持体に接触する際の溶融樹脂を加熱して柔らかい状態にすることが重要であり、溶融樹脂の温度を200℃〜260℃に加熱することによって、面質の優れたセルロースアシレートフイルムを製造できるという知見を得た。
【0013】
請求項1の発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、シート状溶融樹脂の幅方向両端部に静電気を帯電させるとともに冷却支持体に接触する際のシート状溶融樹脂の温度を200℃〜260℃にしたので、シート状溶融樹脂を冷却支持体に密着させることができ、面質に優れたセルロースアシレート樹脂フイルムを製造することができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1において、前記シート状溶融樹脂を、前記ダイから吐出されて前記冷却支持体に接触するまでの間で加熱することによって、前記シート状溶融樹脂の温度を200℃〜260℃に制御することを特徴とする。
【0015】
請求項2の発明によれば、シート状溶融樹脂を、ダイから吐出されて冷却支持体に接触するまでの短い間で加熱するようにしたので、ダイや冷却支持体を加熱した場合のように溶融樹脂の熱劣化が生じることを防止することができる。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2のいずれかにおいて、前記セルロースアシレート樹脂の重量平均分子量が7万〜20万であり、且つAをアセチル基の置換度が、Bを炭素数3〜7のアシル基の置換度の総和としたとき、アシル基が置換度、2.0≦A+B≦3.0、0.0≦A≦2.0、1.2≦B≦2.9を満足することを特徴とする。
【0017】
請求項3は、液晶表示素子の位相差膜等の機能性フイルムとして使用するのに好適なセルロースアシレートフイルムの特性値を規定したもので、この置換度を満足するセルロールアシレートフイルムは、融点が低い、延伸し易い、防湿性に優れているという特徴を有する。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記セルロースアシレート樹脂の重量平均分子量が10万〜17万であり、且つAをアセチル基の置換度、Bを炭素数3〜7のアシル基の置換度の総和としたとき、アシル基の置換度が、2.0≦A+B≦3.0、0.1≦A≦0.7、2.0≦B≦2.9を満足し、且つ、アルカリ土類金属、アルカリ金属、亜鉛、マンガン、スズから選ばれた1種類及び/又は複数種類の静電印加性付与金属を30ppm〜150ppm、硫黄を50ppm以下、及びリンを含有すると共に、前記静電印加性付与金属含有量(M)と前記リンの含有量(P)の含有量比(M/P)が0.1〜2.0を満足するように調製することを特徴とする。静電印加性付与金属は、脂肪族カルボン酸塩、ハロゲン化物、酸化物の形態で樹脂合成時あるいは、製膜時にセルロースアシレートに配合することが出来る。例えば、酢酸Mg、酢酸Mn、酢酸亜鉛、酢酸Ca、酢酸リチウム、酢酸カリウム、酢酸Na、プロピオン酸Mg、プロピオン酸Mn、酪酸Mg、酪酸Mn、塩化Mg、水酸化Mg、水酸化Zn、酸化スズ等が挙げられる。
【0019】
請求項4は、液晶表示素子の位相差膜等の機能性フイルムとして使用するのに好適なセルロースアシレートフイルムの特性値を規定したもので、この置換度を満足するとともに、マグネシウムと硫黄とリンが上記特性値を満足するように調製されたセルロールアシレートフイルムは、融点が低い、延伸し易い、防湿性に優れている、静電気を帯電し易いという特徴を有する。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記ダイから吐出されたときの前記シート状溶融樹脂のゼロせん断粘度が、2000Pa・s以下であることを特徴とする。
【0021】
請求項5は、シート状溶融樹脂のゼロせん断粘度の好ましい範囲を規定するものである。即ち、シート状溶融樹脂のゼロせん断粘度の値を、2000Pa・s以下とすることにより、シート状溶融樹脂には柔軟性が備わり、また、静電気も帯電し易い状態にあるので、冷却支持体との密着性が向上されて、シート状溶融樹脂は冷却支持体によるレベリングが確実に行われ、面質に優れたセルロースアシレート樹脂フイルムを製造することができる。
【0022】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかにおいて、セルロースアシレートフイルムの厚みが20μm〜300μmであり、面内レターデーションReが20nm以下であり、且つ厚み方向のレターデーションRthが20nm以下であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項6の発明によれば、液晶表示装置等の光学用途に使用されるフイルムを提供することができる。
【0024】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造したセルロースアシレートフイルムを基材とすることを特徴とする液晶表示板用光学補償フイルムである。
【0025】
請求項8記載の発明は前記目的を達成するために、押出機で溶融したセルロースアシレート樹脂を、ダイから走行又は回転する冷却支持体上にシート状に吐出して冷却固化することにより、セルロースアシレート樹脂フイルムを製造するセルロースアシレート樹脂フイルムの製造装置において、前記ダイから吐出されたシート状溶融樹脂の幅方向両端部に静電気を帯電するための静電印加電極と、前記シート状溶融樹脂を前記ダイから吐出されて前記冷却支持体に接触するまでの間で加熱することによって前記シート状溶融樹脂が前記冷却支持体に接触する際の温度を200℃〜260℃に制御する加熱手段とを備えたことを特徴とする。
【0026】
請求項8は、本発明を装置として構成したものであり、ダイから吐出されたシート状溶融樹脂に対して静電印加電極を用いて静電気を帯電させるとともに、シート状溶融樹脂を加熱して冷却支持体に接触する際の温度を200℃〜260℃にしたので、面質に優れたセルロースアシレート樹脂フイルムを製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、シート状溶融樹脂の幅方向両端部に静電気を帯電させるとともに冷却支持体に接触する際のシート状溶融樹脂の温度を200℃〜260℃にしたので、シート状溶融樹脂を冷却支持体に密着させることができ、面質に優れたセルロースアシレート樹脂フイルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下添付図面に従って本発明に係るセルロースアシレートフイルムの製造方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、セルロースアシレートフイルムの製造装置の概略構成の一例を示したものである。
【0030】
図1に示すように製造装置は、主として、延伸前のセルロースアシレートフイルムを製造する製膜工程部10と、製膜工程部10で製造された延伸前のセルロースアシレートフイルムを縦延伸する縦延伸工程部20と、横延伸する横延伸工程部30と、巻取工程部40とで構成される。
【0031】
製膜工程部10では、押出機11で溶融させたセルロースアシレート樹脂をダイ12からシート状溶融樹脂16として吐出し、回転する表面が金属製の冷却ドラム14(冷却支持体)上にキャストして急冷固化する。これにより、セルロースアシレートフイルム16’が製膜される。このセルロースアシレートフイルム16’が、冷却ドラム14から剥離されて縦延伸工程部20、横延伸工程部30に順に送られる延伸工程50で延伸された後、巻取工程部40でロール状に巻き取られる。これにより、延伸セルロースアシレートフイルム16’’が製造される。尚、図示しないが、冷却ドラム14の代わりに冷却バンドを使用することも可能である。冷却バントは駆動ローラと従動ローラとの間に掛け渡され、駆動ローラを駆動することにより楕円状の軌道を描いて走行する。
【0032】
図2は、単軸スクリューの押出機11を示す断面図である。
【0033】
図2に示すように、シリンダ26内にはスクリュー軸28にフライト31を有する単軸スクリュー32が配設され、図示しないホッパーからセルロースアシレート樹脂が供給口34を介してシリンダ26内に供給される。シリンダ26内は供給口34側から順に、供給口34から供給されたセルロースアシレート樹脂を定量輸送する供給部(Aで示す領域)と、セルロースアシレート樹脂を混練・圧縮する圧縮部(Bで示す領域)と、混練・圧縮されたセルロースアシレート樹脂を計量する計量部(Cで示す領域)とで構成される。押出機11で溶融されたセルロースアシレート樹脂は、吐出口36からダイ12に連続的に送られる。
【0034】
押出機11のスクリュー圧縮比は、2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜70に設定されている。ここで、スクリュー圧縮比とは、供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち供給部Aの単位長さ当たりの容積÷計量部Cの単位長さ当たりの容積で表され、供給部Aのスクリュー軸28の外径d1、計量部Cのスクリュー軸28の外径d2、供給部Aの溝部径a1、及び計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとは、図2のシリンダ内径(D)に対するシリンダ長さ(L)の比である。また、押出温度(押出機11出口温度)は190〜240℃に設定される。押出機11内での温度が240℃を超える場合には、押出機11とダイ12との間に冷却機(図示せず)を設けるようにするとよい。
【0035】
押出機11は、1軸押出機でも2軸押出機でもよいが、スクリュー圧縮比が2.5を下回って小さすぎると、十分に混練されず、未溶解部分が発生し、剪断発熱小さく結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースアシレートフイルムに微細な結晶が残存し易くなる。また、気泡が混入し易くなる。これにより、セルロースアシレートフイルムを延伸したときに、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなる。逆に、スクリュー圧縮比が4.5を上回って大きすぎると、剪断応力がかかり過ぎて発熱により樹脂が劣化し易くなるので、製造後のセルロースアシレートフイルムに黄色みが出易くなる。また、剪断応力がかかり過ぎると分子の切断が起こり、分子量が低下してフイルムの機械的強度が低下する。従って、製造後のセルロースアシレートフイルムに黄色みが出にくく且つ延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮比は2.5〜4.5の範囲が良く、より好ましくは2.8〜4.2の範囲、特に好ましくは3.0〜4.0の範囲である。
【0036】
また、L/Dが20を下回って小さすぎると、溶融不足や混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様に製造後のセルロースアシレートフイルムに微細な結晶が残存し易くなる。逆に、L/Dが70を上回って大きすぎると、押出機11内でのセルロースアシレート樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を起こし易くなる。また、滞留時間が長くなると分子の切断が起こり、分子量が低下してフイルムの機械的強度が低下する。従って、製造後のセルロースアシレートフイルムに黄色みが出にくく且つ延伸破断しにくくするためには、L/Dは20から70の範囲が良く、好ましくは22〜45の範囲、特に好ましくは24〜40の範囲である。
【0037】
また、押出温度(押出機11出口温度)が190℃を下回って低すぎると、結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースアシレートフイルムに微細な結晶が残存し易くなり、セルロースアシレートフイルムを延伸したときに、延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなる。逆に、押出温度が240℃を超えて高すぎると、セルロースアシレート樹脂が劣化し、黄色み(YI値)の程度が悪化してしまう。従って、製造後のセルロースアシレートフイルムに黄色みが出にくく且つ延伸破断しにくくするためには、押出温度は190℃〜240℃が良く、好ましくは195℃〜235℃の範囲、特に好ましくは200℃〜230℃の範囲である。
【0038】
上記の如く構成された製造装置における製膜工程部10では、押出機11により溶融された溶融樹脂は、ダイ12に連続的に供給されて、ダイ12出口から回転する冷却ドラム14にシート状に押し出される。
【0039】
なお、シート状溶融樹脂16を構成するセルロースアシレート樹脂は、一般に高粘度な樹脂であるが、本発明においては、ダイ12から吐出される際のシート状溶融樹脂16のゼロせん断粘度は、2000Pa・S以下であることが好ましい。その理由としては、2000Pa・Sを超えると、冷却ドラム14に対するシート状溶融樹脂16の密着性が悪く確実にレベリングを行うことができないからである。
【0040】
図3は、製膜工程部10において、ダイ12の吐出口から吐出されたシート状溶融樹脂16が冷却ドラム14上に着地するまでの様子を示す概略図である。
【0041】
図3に示すように、ダイ12の吐出口から吐出されたシート状溶融樹脂16が冷却ドラム14の表面上に着地する付近の近傍には、加熱手段17が設けられている。この加熱手段17は、ダイ12の吐出口から吐出され冷却ドラム14付近に到達したシート状溶融樹脂16を加熱して、所望の温度で冷却ドラム14に接触させるものである。
【0042】
シート状溶融樹脂16が冷却ドラム14に接触するときの温度は、200℃〜260℃に制御される。その理由としては、200℃未満であると、粘度が高く、冷却ドラム14において十分なレベリングを行うことができないからである。一方、260℃を超えると、ダイ12から吐出されて冷却ドラム14に着地したシート状溶融樹脂16の粘着性が大き過ぎて、シート状溶融樹脂16の幅方向のみならず中央部Mの粘着性も高くなってしまい、密着処理により幅方向両端部Sのみを密着させることができなくなるからである。なお、シート状溶融樹脂16が冷却ドラム14に接触するときの温度は、220℃〜260℃がより好ましく、235℃〜260℃がさらに好ましい。
【0043】
また、冷却ドラム14の表面上にシート状溶融樹脂16が着地する部分を位置Yとすると、加熱手段17の下端から位置Yを通る冷却ドラム14の接平面に至るまでの距離hは、120mm以下であることが好ましく、特に好ましくは70mm以下である。その理由としては、120mmを超えると、加熱手段17により加熱をしてシート状溶融樹脂16を所定の温度にしても、冷却ドラム14に着地するまでに冷えて、シート状溶融樹脂16を所定の温度にて冷却ドラム14に着地させることができなくなるからである。この場合、結果として、冷却ドラム14に接触する際に、シート状溶融樹脂16の粘度が上がってしまい、冷却ドラム14において十分なレベリングを行うことができなくなり、面質に優れたセルロースアシレートフイルムを得ることができなくなる。
【0044】
なお、図3においては、シート状溶融樹脂16の両側面部から加熱手段17により加熱を行う例を示したが、本発明は、この例に限られるものではなく、シート状溶融樹脂16のいずれか一方の側面部からのみ加熱手段により加熱を行ってもよい。
【0045】
また、加熱手段17としては、シート状溶融樹脂16と接触することなく加熱を行うことができるヒータ方式のものが好適である。その理由としては、ダイ12から吐出されたシート状溶融樹脂16が冷却ドラム14に着地するまでに機械振動や風圧振動等により揺れると段ムラが発生することがあるが、ヒータ方式のものをはじめとする非接触方式の加熱手段にはこのような弊害を引き起こす可能性がないからである。なお、加熱手段17は、温風をシート状溶融樹脂16に吹き付ける温風式のものを用いてもよい。この場合、温風は、段ムラの発生に影響を及ぼさない程度の風圧に制御することが好ましい。
【0046】
図4は、製膜工程部10を構成する装置の位置関係を示す概略図である。
【0047】
図3及び図4が示すように、冷却ドラム14と加熱手段17の間には、静電印加電極13A、13Aが設けられている。静電印加電極13A、13Aは、ダイ12と冷却ドラム14との間であって、ダイ12から吐出されたシート状溶融樹脂16の両端部の対向する位置に配置され、電線13B、13Bを介して電源装置15に接続される。この電源装置15から電線13Bを介して一対の電極は13A,13Aに電流を流すことによって、ダイ12から吐出されたシート状溶融樹脂16の全幅のうちの両端部Sのみに静電気が帯電される。この静電気により、ダイ12から吐出されたシート状溶融樹脂16の全幅のうちの両端部Sのみを冷却ドラム14上に密着させる密着処理が行われる。これにより、段ムラ等の面欠陥のない良好な面質のセルロースアシレートフイルム16’を製造することができる。この場合、後工程の横延伸工程部30でテンターを使用することが多く、セルロースアシレートフイルム16’の耳部(テンターのクリップで把持する部分)は最終製品になるまでに裁断されるので、密着処理を行う両端部Sはテンターでの耳部に対応する部分であることが好ましい。
【0048】
製膜工程部10において、面質の良好なセルロースアシレートフイルム16’を製造するには、冷却ドラム14に着地する直前のシート状溶融樹脂16の温度を制御したり、該シート状溶融樹脂16に対して静電気を印加したりすることに加えて、冷却ドラム14の温度や回転速度を適切に制御することも重要である。即ち、冷却ドラム14の温度(ドラム表面温度)がシート状溶融樹脂16のガラス転移温度(Tg)〜Tg−30℃の範囲であり、該冷却ドラム14の回転速度が1〜50m/分の範囲が好適である。
【0049】
これは、冷却ドラム14の温度がシート状溶融樹脂16のガラス転移温度(Tg)を超えて高すぎると、ダイ12から吐出されて冷却ドラム14に着地したシート状溶融樹脂16の粘着性が大きくなり過ぎて、シート状溶融樹脂16の幅方向両端部Sのみならず中央部Mの密着性も高くなってしまい、密着処理により幅方向両端部Sのみを密着させることができなくなるからである。また、冷却ドラム14の温度がシート状溶融樹脂16のガラス転移温度Tg−30℃未満で低すぎると、ダイ12から吐出されて冷却ドラム14に着地したシート状溶融樹脂16が急激に冷却固化されるために、冷却ドラム14の回転方向において厚い部分と薄い部分とが交互に形成される横段ムラが発現し易くなるからである。
【0050】
また、冷却ドラム14の回転速度が50m/分を超えて速過ぎると、シート状溶融樹脂16の冷却が不十分になり、冷却ドラム14上でシート状溶融樹脂16のスリップが発生し易くなり、このスリップに起因して製造されるセルロースアシレートフイルムの面質が悪化するからである。また、冷却ドラム14の回転速度が1m/分未満で遅過ぎると、生産性が上がらないからである。
【0051】
図5は、セルロースアシレートフイルム16’の面質を改良するための更に好ましい条件として、ダイ12と冷却ドラム14の位置関係についての他の例を示したものである。
【0052】
即ち、押出機11からダイ12に連続的に供給されるシート状溶融樹脂16は、図5に示すように、ダイ12内のマニホールド12Aで幅方向に拡流され、狭隘なスリット12Bを介してダイリップ12C(ダイ先端のスリット出口)から吐出される。ダイリップ12Cの表面には、スリット12Bを挟んで、冷却ドラム14の回転方向上流側を上流側リップランド12aが形成され、回転方向下流側を下流側リップランド12bが形成される。そして、スリット12Bのクリアランス幅であるリップクリアランス(D)を300〜1500μmの範囲に設定すると共に、ダイ12から吐出されるシート状溶融樹脂16の厚み(W)に対するダイのリップクリアランス(D)で表されるリップクリアランス比(D/W)を1.5〜10の範囲に設定することが好ましい。
【0053】
これは、ダイ12のリップクリアランス(D)が300μm未満のようにスリット12Bが極めて狭い場合には、ダイリップ12C出口にシート状溶融樹脂16が付着し、付着物によりスジ故障等の面質欠陥が発生し易くなる。また、ダイのリップクリアランスが1500μmを超えると、ドロー比が高くなり過ぎて製造されたセルロースアシレートフイルム16’の幅が狭くなってしまう。
【0054】
また、リップクリアランス比(D/W)が1.5未満では、ダイ12からシート状溶融樹脂16を吐出する吐出速度が大き過ぎるために、スリット12Bを流れるシート状溶融樹脂16の流速が速くなり、シート状溶融樹脂16の表面に面荒れが発生し易くなる。また、リップクリアランス比(D/W)が10を超えると、冷却ドラム14の回転によりシート状溶融樹脂16が急速に引っ張られ、大きな延伸作用が生じるので、延伸前のセルロースアシレートフイルム16’でありながらレターデーション(Re)が発現してしまう。
【0055】
また、図5に示すように、ダイ12からシート状溶融樹脂16を吐出する吐出角度θを、鉛直方向を0°としたときに、冷却ドラム14の回転方向に1°〜45°の範囲で傾斜させることが好ましい。ここで、吐出角度θは、ダイリップ12Cから鉛直方向の下ろした鉛直線aと、スリット12Bの延長線bとで挟まれた角度を言う。
【0056】
ダイ12から回転する冷却ドラム14に着地したシート状溶融樹脂16は、ダイリップ12Cと着地点Pとの間で回転方向に傾斜したシート状の膜を形成する。これにより、吐出角度θが0°の場合には、下流側リップランドbにシート状溶融樹脂16が付着し易くなる。従って、ダイ12の吐出方向を予め傾斜させておけば、下流側リップランドbにシート状溶融樹脂16が付着し難くなるので、付着物に起因するスジ故障等の面欠陥を防止できる。しかし、吐出角度θが1°未満ではダイ12の傾斜不足によりシート状溶融樹脂16が下流側リップランドbに接触し易くなる。また、吐出角度θが45°を超えると、ダイ12からシート状溶融樹脂16の吐出を開始する運転開始時に、上流側リップランド12aにシート状溶融樹脂16が付着し、付着物によりスジ故障等の面質欠陥が発生し易くなる。この理由は、運転開始時はダイ12から吐出されたシート状溶融樹脂16の先端が未だ冷却ドラム14に着地していないので、シート状溶融樹脂16はダイ真下(鉛直線aの方向)に落下することになり、上流側リップランド12aに付着し易くなるためである。
【0057】
また、図6に示すように、ダイリップ12C表面、即ちリップランド12a,12bの中心線平均粗さ(Ra)が0.5μm以下であると共に、ダイリップ12C表面のスリット12B側のエッジ部12Dの曲率半径が50μm以下であることが好ましい。
【0058】
これは、シート状溶融樹脂16がダイ12から吐出圧力を有して大気中に吐出されると、シート状溶融樹脂16は僅かに膨潤するので、リップランド12a,12bに接触し易くなる。従って、リップランド12a,12bの表面粗さが大きいと接触したときにシート状溶融樹脂16が付着し易くなり、スジ故障の原因になる。具体的には、リップランド12a,12bの中心線平均粗さ(Ra)が0.5μmを超えるとスジ故障の発現が多くなる。また、ダイリップ12Cのスリット吐出口側のエッジ部の曲率半径が50μmを超えると、スジ故障の原因になる。
【0059】
また、リップランド12a,12bの硬度も、製造されるセルロースアシレートフイルム16’の面質と関係があり、リップランド12a,12bがビッカース硬度で500以上であることが好ましい。これは、ビッカース硬度で500未満であると、リップランド12a,12bに傷が付き易く、この傷に起因したスジ故障が発生し易くなるためである。
【0060】
以下に、製膜工程部10で製造したセルロースアシレートフイルム16’を延伸する延伸工程について説明する。
【0061】
セルロースアシレートフイルム16’の延伸は、セルロースアシレートフイルム16’中の分子を配向させ、面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させるために行われる。ここで、レターデーションRe、Rthは、以下の式で求められる。
【0062】
Re(nm)=|n(MD)−n(TD)|×T(nm)
Rth(nm)=|{(n(MD)+n(TD))/2}−n(TH)|×T(nm)
式中のn(MD)、n(TD)、n(TH)は長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率を示し、Tはnm単位で表した厚みを示す。
【0063】
図1に示すように、セルロースアシレートフイルム16’は、先ず、縦延伸工程部20で長手方向に縦延伸される。縦延伸工程部20では、セルロースアシレートフイルム16’が予熱された後、セルロースアシレートフイルム16’が加熱された状態で、二つのニップロール22、24に巻き掛けられる。出口側のニップロール24は、入口側のニップロール22よりも早い搬送速度でセルロースアシレートフイルム16’を搬送しており、これによって、セルロースアシレートフイルム16’が縦方向に延伸される。
【0064】
縦延伸されたセルロースアシレートフイルム16’は、横延伸工程部30に送られ、幅方向に横延伸される。横延伸工程部30では例えばテンターを好適に用いることができ、このテンターによってセルロースアシレートフイルム16’の幅方向の両端部をクリップで把持し、横方向に延伸する。この横延伸によって、レターデーションRthを一層大きくすることができる。
【0065】
このような延伸により、厚みが30〜300μm、面内のレターデーション(Re)が0nm以上、500nm以下、より好ましくは10nm以上、400nm以下、さらに好ましくは15nm以上、300nm以下、厚み方向のレターデーション(Rth)が30nm以上、500nm以下、より好ましくは50nm以上、400nm以下、さらに好ましくは70nm以上、350nm以下である延伸セルロースアシレートフイルム16’’を得ることが好ましい。
【0066】
このうちRe≦Rthを満足するものがより好ましく、さらに好ましくはRe×2≦Rthを満足するものがさらに好ましい。このような高Rth、低Reを実現するためには、上述のように縦延伸したものを、横(幅)方向に延伸するのが好ましい。即ち、縦方向と横方向の配向の差が面内のレターデーションの差(Re)となるが、縦方向に加えその直交方向である横方向にも延伸することで、縦横の配向の差を小さくし面配向(Re)を小さくできる。一方、縦に加え横にも延伸することで面積倍率は増加するため、厚みの減少に伴い厚み方向の配向は増加し、Rthを増加させることができるためである。
【0067】
さらに、Re,Rthの幅方向、長手方向の場所による変動をいずれも5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下にすることが好ましい。
【0068】
以下に、本発明に適したセルロースアシレート樹脂、延伸前のセルロースアシレートフイルム16’の製膜方法、セルロースアシレートフイルム16’の加工方法について手順に沿って詳細に説明する。
【0069】
(セルロースアシレート樹脂)
本発明で用いるセルロースアシレートは、重量平均分子量が7万〜20万であり、且つ以下の特徴を有するものが好ましい。ここで、
Aはアセチル基の置換度、Bは炭素数3〜7のアシル基の置換度の総和を表す。
【0070】
2.0≦A+B≦3. 0 式(1)
0≦A≦2.0 式(2)
1. 2≦B≦2. 9 式(3)
本発明のセルロースアシレートにおいて、前記式(1)で示されるように、A+Bは2.0〜3. 0を満足することを特徴とする。好ましくは2.4〜3. 0であり、より好ましくは2.5〜2. 95である。A+Bが2.0より小さい場合は、セルロースアシレートの親水性が増大し、フイルムの透湿性が大きくなるため、好ましくない。
【0071】
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0072】
前記式(2)で示されるように、Aは0〜2.0を満足することを特徴とする。好ましくは0.05〜1. 8であり、より好ましくは0.1〜1. 6である。
【0073】
前記式(3)に示すBは1. 2〜2. 9を満足することを特徴とする。好ましくは1.3〜2. 9であり、より好ましくは1. 4〜2. 9であり、さらに好ましくは1. 5〜2. 9である。
【0074】
Bの1/2以上がプロピオニル基の場合には、
2.4≦A+B≦3.0
2.0≦B≦2.9
Bの1/2未満がプロピオニル基の場合には、
2.4≦A+B≦3.0
1.3≦B≦2.5
が好ましく、Bの1/2以上がプロピオニル基の場合には、
2.5≦A+B≦2.95
2.4≦B≦2.9
Bの1/2未満がプロピオニル基の場合には、
2.5≦A+B≦2.95
1.4≦B≦2.0が更に好ましい。
【0075】
本発明では、アシル基の中に占めるアセチル基の置換度を少なくし、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を多くしていることが特徴である。これにより、延伸後の経時のRe,Rth変化を小さくすることができる。これはアセチル基より長いこれらの基を多くすることでフイルムの柔軟性を向上させ延伸性を高くできるため、延伸に伴いセルロースアシレート分子の配向が乱れ難くなり、これにより発現するRe,Rthの経時変化が減少するためである。しかし、アシル基を上記のものより長くすると、ガラス転移温度(Tg)や弾性率を低下させすぎるため好ましくない。このためアセチル基より大きなプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基が好ましく、より好ましくはプロピオニル基、ブチリル基である。
【0076】
これらのセルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、綿花リンターや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却したカルボン酸化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記カルボン酸化混液は、一般に溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水カルボン酸および触媒としての硫酸を含む。無水カルボン酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0077】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度が150〜600、好ましくは160〜500、更に好ましくは170〜400であり、特に好ましくは180〜300である。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538に詳細に記載されている。
【0078】
このような粘度平均重合度の調整には低分子量成分を除去することでも達成できる。低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。さらに重合方法でも分子量を調整できる。例えば、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100重量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
【0079】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、更に好ましくは2.0〜5.0であり、特に好ましくは2.5〜5.0であり、最も好ましくは3.0〜5.0のセルロースアシレートが好ましく用いられる。
【0080】
なお、本発明で用いられるセルロースアシレートは、上述のものに限られることなく、金属等の他の成分を添加したものを用いることができる。
【0081】
例えば、セルロースアシレートの重量平均分子量が10万〜17万であり、
且つAをアセチル基の置換度、Bを炭素数3〜7のアシル基の置換度の総和としたときに、
2.0≦A+B≦3. 0 式(1)
0.1≦A≦0.7 式(2)
2. 0≦B≦2. 9 式(3)
を満足し、且つ静電印加性付与金属を30ppm〜150ppm、硫黄を50ppm以下、及びリンを含有すると共に、前記静電印加性付与金属の含有量(M)と前記リンの含有量(P)の含有量比(M/P)が0.1〜2.0を満足するように調製したセルロースアシレートを用いることができる。
【0082】
ここで、静電印加性付与金属を添加する理由は、セルロースアシレートに静電印加性付与金属が添加することで電気伝導度を大幅に向上させることができるからである。一方で、静電印加性付与金属の添加により、セルロースアシレートの熱安定性は低下してしまう。このため、この静電印加性付与金属の添加による熱安定性の低下を回避するために、硫黄やリンを添加する。しかし、静電印加性付与金属とリンは相互に結合し易く、リンの添加により、静電印加性付与金属を添加したセルロースアシレートの電気伝導度は低下してしまう。そこで、セルロースアシレートの熱安定性を低下させることなく電気伝導度を向上させるために、静電印加性付与金属(M)とリンの含有量(P)の含有量比(M/P)を0.1〜2.0に調節する。
【0083】
上記各元素は、通常、セルロース樹脂の合成時に添加される。例えば、マグネシウムは、アシル化反応の際に主に触媒として使用される硫酸を中和するための中和塩として添加されてもよいし、これとは別に金属塩として添加されてもよい。このセルロール樹脂の中のマグネシウム金属の含有量は、中和塩又は別途金属塩の添加量を調節することによって行うことができる。なお、マグネシウムの含有量は、X線光電子分析装置(XPS)を用いて行うことができる。
【0084】
硫黄は、主に、上記した硫酸の残留量、即ち硫酸成分を硫酸塩として分離除去させる度合により調節することができる。ただし、これとは別に、セルロース樹脂の合成時に硫黄を含む化合物(硫黄等)を添加することによっても調節することができる。なお、硫黄の含有量は、三菱化学製微量硫黄分析装置TOX-10Σによる微量電量滴定法により測定した。また、その他の含有金属については、アルカリ金属はAAS/炎色法により、その他の金属についてはマイクロウエーブ灰化した後に、ICP−OES法により測定を行った。
【0085】
リンは、主に、安定剤として添加されるリン酸、亜リン酸で調節できるが、別途リンを含む化合物(リン酸エステル等)を添加することによっても調節できる。リンの含有量は、公知の測定方法で測定することができる。
【0086】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フイルムにしたときの透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。
【0087】
さらに本発明では可塑剤を添加してもよく、可塑剤を添加することで、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm)を下げることができるだけでなく、経時によるRe,Rth変化を軽減できる。これは可塑剤の添加でセルロースアシレートが疎水化し、吸水によるセルロースアシレート分子の延伸配向の緩和を抑制できるためである。しかしながら、可塑剤はセルロースアシレートフイルムのガラス転移温度を低下させ、フイルム自体の耐熱温度を低下させてしまうため、フイルムの耐熱性の点から考えると出来るだけ少ないことが好ましい。
【0088】
用いる可塑剤の分子量は特に限定されるものではなく、低分量でもよく高分子量でもよい。可塑剤の種類は、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行う場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0089】
リン酸エステルの具体例としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、1,4―フェニレンーテトラフェニル燐酸エステル等を挙げることができる。また特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることも好ましい。
【0090】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0091】
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジエチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチル化グリセライド、モノグリセライド、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類などを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0092】
また、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などの高分子量系可塑剤が挙げられる。可塑剤はこれらを単独もしくは低分量可塑剤と併用して使用することができる。
【0093】
多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。
【0094】
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0095】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0096】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0097】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0098】
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0099】
可塑剤の添加量は、0〜1 0重量%とするものが好ましく、より好ましくは0〜8重量%、最も好ましくは0〜5重量%である。
【0100】
可塑剤の含有量が10重量%より多い場合、セルロースアシレートの熱流動性は良好になるもの、可塑剤が溶融製膜したフイルムの表面にしみ出したり、また耐熱性であるガラス転移温度Tgが低下する。
【0101】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、ホスファイト系化合物、亜リン酸エステル化合物、フォスフェイト、チオフォスフェイト、弱有機酸、エポキシ化合物等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。ホスファイト系安定剤の具体例としては、特開2004−182979の段落[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることが出来る。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を用いることが出来る。
【0102】
本発明における安定剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.005〜0.5重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜0. 4重量%以上、さらに好ましくは0.05〜0. 3重量%である。添加量を0.005重量%未満の場合、溶融製膜時の劣化防止及び着色抑制の効果が不十分であるため、好ましくない。一方、0.5重量%以上の場合、溶融製膜したセルロースアシレートフイルムの表面にしみ出し、好ましくない。
【0103】
また、劣化防止剤及び酸化防止剤を添加することも好ましい。フェノール系化合物、チオエーテル系化合物、リン系化合物などは劣化防止剤もしくは酸化防止剤として添加することにより、劣化及び酸化防止に相乗効果が現れる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0104】
次に本発明のセルロースエステルセルロースアシレートには、紫外線防止剤を含有することが特徴であり、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させてもよい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルセルロースアシレートに対する不要な着色が少ないことから、好ましい。
【0105】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
さらに、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物、又紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤、特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤なども好ましく用いられる。
【0106】
また、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルセルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜3.0%が好ましく、10ppm〜2%がさらに好ましい。
【0107】
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものがあり利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 234 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 320 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 326 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 327 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 328 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、スミソーブ340 (住友化学)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100 (シプロ化成)、シーソーブ101 (シプロ化成)、シーソーブ101S(シプロ化成)、シーソーブ102 (シプロ化成)、シーソーブ103 (シプロ化成)、アデカスタイプLA-51 (旭電化)、ケミソープ111 (ケミプロ化成)、UVINUL D-49(BASF)などを挙げられる。オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN
312 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)やTINUBIN 315 (チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)がある。またサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201 (シプロ化成)やシーソーブ202 (シプロ化成)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501 (シプロ化成)、UVINUL N-539 (BASF)がある。
【0108】
さらに、可塑剤以外に、種々の添加剤(例えば、光学異方性コントロール剤、微粒子、赤外吸収剤、界面活性剤、臭気トラップ剤(アミン等)など)を加えることができる。赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、微粒子は、平均粒径が5〜3000nmのものを使用することが好ましく、金属酸化物や架橋ポリマーから成るものを使用でき、セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。
【0109】
光学異方性コントロール剤(Re発現剤はセルロースアセテートフイルムのレターデーションを調整するため、セルロースアシレートに対して0〜10質量%含有させることが好ましい。レターデーション上昇剤は少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をとして使用する。少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物は、該少なくとも二つの芳香族環が分子構造的に同一平面を形成する化合物が好ましく、棒状化合物でもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、ベンゼン環および1,3,5−トリアジン環がさらに好ましい。芳香族化合物は、少なくとも一つの1,3,5−トリアジン環を有することが特に好ましい。このようなレターデーション上昇剤としては、同2000−275434号、同2000−284124号、同2001−13323号、WO00/65384号等に記載されているものを用いることが出来る。
【0110】
(溶融製膜)
(1) 乾燥
セルロースアシレート樹脂は粉体のまま用いても良いが、製膜の厚み変動を少なくするためにはペレット化したものを用いるのがより好ましい。
【0111】
セルロースアシレート樹脂は含水率を0.02質量%以上2.0質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上1.5質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下にした後、押出機のホッパーに投入する。セルロースアシレート樹脂は吸湿性が高く、高温多湿の状態では3wt%を超える水分を含むため、押出するためには水分量を予め調節することが必要である。セルロースアシレート樹脂の含有水分率は乾燥温度と乾燥時間、脱湿風の露点温度で制御することが可能である。特に乾燥温度の影響が大きく、乾燥温度を下げると含有水分率が高くなる。更に、乾燥時間を調整することによっても含有水分率を調節することは可能であるが、水分率のムラが生じる傾向があるため、乾燥温度での制御が好ましい。このため、シビアな乾燥温度制御の可能な乾燥設備が必要である。一方、含有水分率を上げる必要が生じた場合には、高湿度の空気を循環させることによって調整することが可能である。このときホッパーの温度をTg−50℃以上、Tg+30℃以下、より好ましくはTg−40℃以上、Tg+10℃以下、さらに好ましくはTg−30℃以上、Tg以下にする。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、上記乾燥の効率をより発現し易くできる。さらに、ホッパー内を脱水した空気や不活性気体(例えば窒素)を吹き込むこともより好ましい。
【0112】
(2) 混練押出し
180℃以上230℃以下、より好ましくは185℃以上225℃以下、さらに好ましくは190℃以上220℃以下で混練し溶融する。この時、溶融温度は一定温度で行ってもよく、いくつかに分割して制御しても良い。好ましい混練時間は2分以上60分以下であり、より好ましくは3分以上40分以下であり、さらに好ましくは4分以上30分以下である。さらに、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0113】
(3) キャスト
溶融したセルロースアシレート樹脂をギヤポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルター等でろ過を行い、この後ろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出しても良い。この時、ダイのリップの間隔を調整することで幅方向の厚みむらを調整することができる。
【0114】
この後、冷却ドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、冷却ドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部(例えば両端のみ)に実施しても良い。
【0115】
冷却ドラムは、60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上140℃以下である。この後、シートを冷却ドラムから剥ぎ取り、ニップロール及びテンターを経た後に巻き取る。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。
【0116】
製膜幅は1m以上5m以下、さらに好ましくは1.2m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸のセルロースアシレートフイルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0117】
このようにして得たセルロースアシレートフイルムは両端をトリミングし、一旦、巻取機に巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のセルロースアシレートフイルム用原料として又は異なる品種のセルロースアシレートフイルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフイルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0118】
このようにして得られたセルロースアシレートフイルムのガラス転移温度(Tg)は70℃以上180℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上160℃以下、さらに好ましくは90℃以上150℃以下である。
【0119】
(セルロースアシレートフイルムの加工)
上述の方法で製膜したセルロースアシレートフイルムを、上述の方法で1軸または2軸に延伸し、延伸セルロースアシレートフイルムを作成する。これは単独で使用してもよく、これらと偏光板を組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用しても良い。これらは以下の工程により達成できる。
【0120】
(1)表面処理
セルロースアシレートフイルムは表面処理を行うことによって、各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着を向上させることができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜10-20 Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。
これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理である。
【0121】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬しても良く(浸漬法)、鹸化液を塗布しても良い(塗布法)。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0122】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上、5分以下が好ましく、5秒以上、5分以下がさらに好ましく、20秒以上、3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、WO02/46809号公報に内容の記載が挙げられる。
【0123】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設しても良い。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁に記載されている。
【0124】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施
することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0125】
(2)機能層の付与
本発明のセルロースアシレートフイルムに、発明協会公開技報(公技番号 2001−
1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載され
ている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光層の付与(偏
光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フイルム)
である。
【0126】
(イ)偏光層の付与(偏光板の作成)
(イ−1)使用素材
現在、市販の偏光層は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶
液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製される
のが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏
光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏向性能を発現
する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフ
ェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアン
トラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色
素は、親水性置換基(例、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例
えば、発明協会公開技法、公技番号2001−1745号、58頁(発行日2001年3
月15日)に記載の化合物が挙げられる。
【0127】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋される
ポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができ
る。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の明細書中段落番号0022
に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニル
アルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、
ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカ
ーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。
水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロ
ース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラ
チン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビ
ニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビ
ニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに
好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号公報、同9−1525
09号公報及び同9−316127号公報の各公報に記載がある。ポリビニルアルコール
および変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
【0128】
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装
置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下で
あることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0129】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマ
ーをバインダー中に混合しても良く、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与して
も良い。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバイ
ンダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書
に記載がある。また、ホウ素化合物(例、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることが
できる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1乃至20質量%が
好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0130】
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0
.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する

【0131】
(イ−2)偏光層の延伸
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に
、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
【0132】
延伸法の場合、延伸倍率は2.5乃至30.0倍が好ましく、3.0乃至10.0倍が
さらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態
でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5乃至5.0倍が好
ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0乃至10.0倍が好ましい。延伸はMD方向
に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなっても良い(斜め延伸)。これら
の延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高
倍率延伸でもより均一に延伸することができる。
【0133】
a)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフイルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨
潤後の重量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内
や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延
伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大き
くすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づく
が前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2〜3.5倍、就中1.5〜3.0倍で
ある。この後、50℃から90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0134】
b)斜め延伸法
これには特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出した
テンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、
事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%以上、10
0%以下、より好ましくは10%以上、100%以下である。
【0135】
延伸時の温度は40℃以上90℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以
下である。湿度は50%rh以上100%rh以下が好ましく、より好ましくは70%r
h以上100%rh以下、さらに好ましくは80%rh以上100%rh以下である。長
手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。延
伸の終了後、50℃以上100℃以下、より好ましくは60℃以上90℃以下で、0.5
分以上10分以下乾燥する。より好ましくは1分以上5分以下である。
【0136】
このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10度から80度が好ましく、より好ましく
は30度から60度であり、さらに好ましくは実質的に45度(40度から50度)であ
る。
【0137】
(イ−3)貼り合せ
上記鹸化後のセルロースアシレートフイルムと、延伸して調製した偏光層を貼り合わせ
偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースアシレートフイルムの流延軸方向と
偏光板の延伸軸方向が45度になるように行うのが好ましい。
【0138】
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホ
ン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水
溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01乃
至10μmが好ましく、0.05乃至5μmが特に好ましい。
【0139】
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好まし
い。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30乃至50%の範囲にあること
が好ましく、35乃至50%の範囲にあることがさらに好ましく、40乃至50%の範囲
にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90乃至100%
の範囲にあることが好ましく、95乃至100%の範囲にあることがさらに好ましく、9
9乃至100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0140】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作成することができ
る。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、
λ/4 は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなる
ような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度
傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/ 4
板を用いることが好ましい。
【0141】
(ロ)光学補償層の付与(光学補償シートの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するた
めのものであり、セルロースアシレートフイルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方
性層を付与することで形成される。
【0142】
(ロ−1)配向膜
上記表面処理したセルロースアシレートフイルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶
性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状
態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素とし
ては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層
のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
【0143】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着
、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜
)による有機化合物(例、ω- トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロラ
イド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の
付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0144】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用する
ポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0145】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例、二重結合)を
有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋
性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0146】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架
橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用するこ
とができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の明細書中段落番
号0022に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、
ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリル
アミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロー
ス、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いること
ができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメ
チルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ま
しく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好まし
く、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異
なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に
好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100
%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが
好ましい。
【0147】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。
具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する
。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性また
はブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スル
ホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素
数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性
基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアル
コキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアル
コール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の明細書中の段
落番号0022〜0145、同2002−62426号公報の明細書中の段落番号001
8〜0022に記載のもの等が挙げられる。
【0148】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性
分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光
学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能
モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間
、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って
、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善
することができる。
【0149】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好
ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の明細書中の段落番号0
080〜0100に記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基
とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0150】
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシ
ル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、
イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。2種類以上の架橋剤を併用しても
よい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の明細書中の段落番号002
3〜0024記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルア
ルデヒドが好ましい。
【0151】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質
量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であ
ることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節する
ことで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても
、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0152】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上
に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することがで
きる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行って良い
。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には
、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ま
しい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:10
0〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、
更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0153】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコー
ティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコ
ーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は
0.1乃至10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。
充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好
ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分で
ある。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒ
ドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特にpH5.0が好ましい。
【0154】
配向膜は、透明支持体上又は上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリ
マー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0155】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を
適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナ
イロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法であ
る。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程
度ラビングを行うことにより実施される。
【0156】
工業的に実施する場合、搬送している偏光層のついたフイルムに対し、回転するラビン
グロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯
)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフイルムのラップ
角度は、0.1°乃至90゜が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載
されているように、360゜以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもで
きる。フイルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60゜
の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は
、40乃至50゜が好ましい。45゜が特に好ましい。
【0157】
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1乃至10μmの範囲にあることが好ましい

【0158】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、
配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、
架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
【0159】
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含ま
れる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、
さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0160】
(ロ−2)棒状液晶性分子
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフ
ェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類
、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換
フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシ
ルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0161】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単
位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、
棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0162】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会
編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第
142委員会編の第3章に記載がある。
【0163】
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001乃至0.7の範囲にあることが好ましい。棒
状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重
合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば
特開2002−62427号公報の明細書中の段落番号0064〜0086に記載の重合
性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0164】
(ロ−3)円盤状液晶性分子
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、M
ol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、
C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(198
5年)、Physicslett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているト
ルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁
(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、
J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報
告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されてい
るアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0165】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ
基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を
示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付
与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、
最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、
低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応に
より重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分
子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性
分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0166】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、
置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介し
て結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことが出来
る。例えば、特開2000−155216号公報の明細書中の段落番号0151〜016
8に記載の化合物等が挙げられる。
【0167】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、
光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少してい
る。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、
連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化
、あるいは、増加及び減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途
中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいて
も、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが
好ましい。
【0168】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配
向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法を選択することにより、調整
することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は
、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択
することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例とし
ては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー及びポリマーなどを挙げることができる。長
軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整で
きる。
【0169】
(ロ−4)光学異方性層の他の組成物
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜
の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することが出来る。液晶性分子と相溶性
を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好
ましい。
【0170】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられ
る。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化
合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の明細書
中の段落番号0018〜0020に記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円
盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあ
ることが好ましい。
【0171】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好まし
い。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の明細書中の段落番号002
8〜0056に記載の化合物が挙げられる。
【0172】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与
えられることが好ましい。
【0173】
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステ
ルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の明細書中の段落番号01
78に記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの
添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1
〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0174】
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜3
00℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0175】
(ロ−5)光学異方性層の形成
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含
む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0176】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例
には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスル
ホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、
アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステ
ル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エ
ーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハ
ライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0177】
塗布液の塗布は、公知の方法(例、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティン
グ法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコー
ティング法)により実施できる。
【0178】
光学異方性層の厚さは、0.1乃至20μmであることが好ましく、0.5乃至15μ
mであることがさらに好ましく、1乃至10μmであることが最も好ましい。
【0179】
(ロ−6)液晶性分子の配向状態の固定
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合
反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と
光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0180】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同236
7670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記
載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載
)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載
)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米
国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60
−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール
化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0181】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20質量%の範囲にあること
が好ましく、0.5乃至5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0182】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
【0183】
照射エネルギーは、20mJ/cm2 乃至50J/cm2 の範囲にあることが好ましく
、20乃至5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100乃至800m
J/cm2 の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱
条件下で光照射を実施してもよい。
【0184】
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0185】
この光学補償フイルムと偏光層を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のよ
うな光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する
。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフイルムを使用することなく、偏光
膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される
。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じる
ことなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0186】
偏光層と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる
2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸する
ことが好ましい。通常の傾斜角度は45゜である。しかし、最近は、透過型、反射型およ
び半透過型LCDにおいて必ずしも45゜でない装置が開発されており、延伸方向はLC
Dの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0187】
(ロ−7)液晶表示装置
このような光学補償フイルムが用いられる各液晶モードについて説明する。
【0188】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立
ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0189】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させ
るベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装
置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒
状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モード
の液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optic
ally Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
【0190】
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態
は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝
た配向状態にある。
【0191】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモ
ードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、
電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176
625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化
した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28
(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向さ
せ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セ
ル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIV
ALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0192】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、
これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である
。具体的には特開2004−365941号公報、特開2004−12731号公報、特
開2004−215620号公報、特開2002−221726号公報、特開2002−
55341号公報、及び特開2003−195333号公報に記載のものなどを使用でき
る。
【0193】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードに対しても、上記と同様の考え方で光学的に補償する
ことができる。
【0194】
(ハ)反射防止層の付与(反射防止フイルム)
反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、及び低屈折率層より高い屈折率
を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体上に設けて
成る。
【0195】
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化
学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲ
ル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−15
7855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成す
る方法が挙げられる。
【0196】
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜
を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
【0197】
上述したような塗布による反射防止フイルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する
防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フイルムも挙げられる。
【0198】
本発明のセルロースアシレートフイルムは上記いずれの方式にも適用できるが、特に好
ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0199】
(ハ−1)塗布型反射防止フイルムの層構成
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成か
ら成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
【0200】
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
の順である。また、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。更
には、中屈折率ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層からなってもよい。
【0201】
例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300
902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報
等が挙げられる。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率
層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2
002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0202】
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。ま
た膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、
2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0203】
(ハ−2)高屈折率層および中屈折率層
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合
物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成る。
【0204】
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、
好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Z
r、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げら
れる。
【0205】
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シ
ランカップリング剤等:特開平11 −295503号公報、同11 −153703号公報
、特開2000−9908、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開200
1−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(:
特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤併用(例、特開平11−1537
03号公報、特許番号US6210858B1、特開2002−2776069号公報等
)等挙げられる。
【0206】
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が
挙げられる。
【0207】
更に、ラジカル重合性及び/ 又はカチオン重合性の重合性基を少なくとも2 個以上含有
の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物及びその部分縮合体
組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−470
04号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同20
01−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0208】
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アル
コキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818
号公報等に記載されている。
【0209】
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5n
m〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0210】
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるよ
うに調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0211】
(ハ−3)低屈折率層
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜
1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
【0212】
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向
上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素
の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
【0213】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは
1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範
囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
【0214】
例えば、特開平9−222503号公報の明細書中の段落番号0018〜0026、同
11−38202号公報の明細書中の段落番号0019〜0030、特開2001−40
284号公報の明細書中の段落番号0027〜0028、特開2000−284102号
公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0215】
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬
化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい
。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラ
ノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0216】
架橋又は重合性基を有する含フッ素及び/又はシロキサンのポリマーの架橋又は重合反
応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時
または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0217】
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有の
シランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開
昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公
報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)
、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化
合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002
−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0218】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フ
ッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均
径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[ 00
20] 〜[ 0038] に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活
性剤等を含有することができる。
【0219】
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッ
タリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。
安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであ
ることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmで
あることが最も好ましい。
【0220】
(ハ−4)ハードコート層
ハードコート層は、反射防止フイルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面
に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
【0221】
ハードコート層は、光及び/又は熱の硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により
形成されることが好ましい。
【0222】
硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、又加水分解性官能基含有の有機金
属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0223】
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号
公報、同2000−9908号公報、WO0/46617号公報等記載のものが挙げられ
る。
【0224】
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記
載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが
好ましい。ハードコート層は、平均粒径0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(
アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
【0225】
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜
厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であること
が好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい
。又、JISK5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど
好ましい。
【0226】
(ハ−5)前方散乱層
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたとき
の視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒
子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相
対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と
規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0227】
(ハ−6)その他の層
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0228】
(ハ−7)塗布方法
反射防止フイルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコー
ト法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法
やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により
形成することができる。
【0229】
(ハ−8)アンチグレア機能
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア
機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグ
レア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜
20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0230】
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法で
あればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に
凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下
層(高屈折率層、中屈折率層又はハードコート層)に比較的大きな粒子(粒径0.05〜
2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの
形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、
同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281
407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方
法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−
183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0231】
以下に本発明で使用した測定法について記載する。
【0232】
[1]Re、Rth測定法
サンプルフイルムを温度25℃、湿度60%rhに3時間以上調湿後、自動複屈折計(KO
BRA-21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて、25℃、60%rhにおいて、サンプルフ
ィルム表面に対し垂直方向および、フイルム面法線から±40°傾斜させて方向から波長
550nmにおけるレターデーション値を測定する。垂直方向から面内のレターデーショ
ン(Re)、垂直方向、±40°方向の測定値から厚み方向のレターデーション(Rth
)を算出する。
【0233】
[2]R e、Rth、幅方向、長手方向のR e、Rth変動
(1)MD方向サンプリング
フイルムの長手方向に0.5m間隔で100点、1cm正方形の大きさに切り出す。
【0234】
(2)TD方向サンプリング
フイルムの製膜全幅にわたり、1cm正方形の大きさに50点、等間隔で切り出す。
【0235】
(3)Re,Rth、測定
サンプルフイルムを温度25℃、湿度60%rhに3時間以上調湿後、自動複屈折計(KO
BRA-21ADH/PR:王子計測器(株)製)を用いて、25℃、60%rhにおいて、サンプルフ
ィルム表面に対し垂直方向および、フイルム面法線から±40°傾斜させて方向から波長
550nmにおけるレターデーション値を測定する。垂直方向から面内のレターデーショ
ン(Re)、垂直方向、±40°方向の測定値から厚み方向のレターデーション(Rth
)を算出する。
【0236】
上記サンプリング点の全平均をRe,Rthとする。
【0237】
(4)Re,Rth、の変動
これらの、上記MD方向100点、TD方向50点の各最大値と最小値の差を、各平均
値で割り、百分率で示したものをRe,Rth変動とした。
【0238】
[3]耐熱性評価
サンプルフイルムを温度25℃、湿度60%rhに3時間以上調湿してから、60℃、9
0%rhで24時間熱処理した後、再度25℃、湿度60%rhで3時間以上調湿した。サン
プルの寸法をピンゲージを用いて測定し、熱処理前後の寸法変化を測定した。寸法変形率
が縦、横共に0.3%以下の場合を○、縦、横の一方あるいは両方の寸法変化率が0.3
%を超えるものを×と評価した。
【0239】
[4]セルロースアシレートの置換度
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(19
95)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0240】
[5]DSC結晶融解ピーク熱量
島津製作所製 DSC−50を用い昇温速度10℃/minで測定し、Tg直後に現れ
る吸熱ピークの熱量をJ/gで算出した。同時にTgも測定した。
【0241】
[6]ヘイズ
日本電色工業(株)製、濁度計 NDH−1001DPを用いて測定した。
【0242】
[7]イエローネスインデックス(YI値)
Z−II OPTICAL SENSOR を用い(JIS K7105 6.3)に
従い黄色味(YI;イエローネスインデックス)を測定した
ペレットは反射法で測定し、フイルムは透過法にて三刺激値、X、Y、Zを測定した。
さらに三刺激値X、Y、Zを用い下記式によりYI値を算出した。
【0243】
YI={(1.28X−1.06Z)/Y}×100
さらにフイルムのYI値は上記式にて算出したYI値を、そのフイルムの厚みで割り、
1mm当たりに換算して比較した。YI値7以下を○、7より大きく10未満を△、10以上を×と評価した。
【0244】
[8]分子量
フイルムサンプルをジクロロメタンに溶解し、GPCを用いて測定した。
【0245】
[9]水分率
カールフィッシャ水分計を用い、水分気化装置の炉内温度を150℃とし、カールフィ
ッシャ滴定装置のスイッチを入れ、空気100ml/分を通気してブランク測定を行う。
【0246】
[10]面状評価
得られたセルロースアシレートフィルムの外観を目視で検査し、スジや、粘着ムラ、段ムラ等の面状不良の全く見られないものを○、極く薄く見られるが実使用に支障の無い物を△、極く薄く見られ実使用に問題のあるものを×、欠点が一目でわかるものを××と評価した。
【実施例】
【0247】
図7の表に示す如く、異なる条件でフィルムを製膜した。試験条件は、帯電部位、冷却支持体と接触する際の樹脂温度、ダイから吐出した際の樹脂温度、加熱装置の有無、樹脂の分子量や置換度、樹脂の組成、樹脂の剪断応力を変化させた。そして、得られたフィルムについて製膜性、フィルム外観、YI値を評価した。結果を図7に示す。
【0248】
図7の表から分かるように、溶融樹脂に帯電を施さなかった比較例4では、密着性が低下して製膜性が悪くなるという問題が発生した。また、溶融樹脂に全幅で帯電させた比較例1では、フィルムの外観がかえって悪化するという結果になった。さらに、比較例2、3に示すように、溶融樹脂の幅方向の両端部に帯電を行った場合であっても、支持体接触時の溶融樹脂温度が200〜260℃の範囲を外れると、製膜性、フィルムの外観が悪化するという結果になった。
【0249】
これに対して、フィルムの幅方向の両端部を帯電させ、且つ、支持体接触時のフィルム温度を200〜260℃に制御した実施例1〜16では、製膜性、フィルムの外観、YI値の全ての面で良好な結果が得られた。
【0250】
これらの実施例1〜16のうち、加熱装置のない実施例16では、製品としての品質に問題はないものの、YI値が若干大きくなった。また、平均分子量が10万〜17万の範囲を外れる実施例4〜7では製膜性が低下した。Mg量が30〜150ppmの範囲を外れ、且つ、リンとの含有量比が0.1〜2.0の範囲を外れた実施例12、13では、製膜性、フィルムの外観、YI値の全ての面で若干低下する結果になった。さらに、剪断粘度が2000Pa・sを超えた実施例11においても、製膜性、フィルムの外観、YI値の全ての面で低下する結果になった。したがって、本発明においては、加熱装置を設けること、平均分子量が10万〜17万の範囲であること、Mg量等の静電印加性付加金属が30〜50ppmで且つリンとの含有量比が0.1〜2.0であること、剪断粘度が2000Pa・s以下であることが好ましい。これらの条件を全て満たした実施例1〜4、14、15では特に良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0251】
【図1】本発明が適用されるフイルム製造装置の構成図
【図2】押出機の構成を示す概略図
【図3】製膜工程部を示す概略図
【図4】製膜工程部の一対の静電印加電極と加熱手段の構成を説明する概略図
【図5】ダイの吐出角度、リップクリアランス比等を説明する説明図
【図6】ダイリップの硬度やエッジ部の曲率半径等を説明する説明図
【図7】実施例の結果を示す表図
【符号の説明】
【0252】
10…製膜工程部、11…押出機、12…ダイ、12A…マニホールド、12B…スリット、12C…ダイリップ、12a…上流側リップランド、12b…下流側リップランド、13、13A…静電印加電極、13B…電線、14…冷却ドラム、16…シート状溶融樹脂、16’…セルロースアシレートフイルム(延伸前)、16”…セルロースアシレートフイルム(延伸後)、17…加熱手段、20…縦延伸工程部、22、24…ニップローラ、26…シリンダ、28…スクリュー軸、30…横延伸工程部、31…フライト、32…単軸スクリュー、34…供給口、36…吐出口、40…巻取工程部、A…押出機の供給部、B…押出機の圧縮部、C…押出機の計量部、D…ダイのスリットにおけるリップクリアランス、S…溶融樹脂の端部(耳部)、M…溶融樹脂の中央部、P…溶融樹脂の冷却ドラムへの着地点、W…ダイから吐出された溶融樹脂の膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機で溶融したセルロースアシレート樹脂を、ダイから走行又は回転する冷却支持体上にシート状に吐出して冷却固化する溶融製膜法によるセルロースアシレート樹脂フイルムの製造方法において、
前記ダイから吐出されたシート状溶融樹脂の幅方向両端部に静電気を帯電させて、該シート状溶融樹脂の全幅のうちの両端部のみを、前記冷却支持体上に密着させる密着処理を施す工程を含み、
前記シート状溶融樹脂が冷却支持体と接触するときの該シート状溶融樹脂の温度が、200℃〜260℃であることを特徴とするセルロースアシレート樹脂フイルムの製造方法。
【請求項2】
前記シート状溶融樹脂を、前記ダイから吐出されて前記冷却支持体に接触するまでの間で加熱することによって、前記シート状溶融樹脂を200℃〜260℃に制御することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレート樹脂フイルムの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースアシレート樹脂の重量平均分子量が7万〜20万であり、且つAをアセチル基の置換度、Bを炭素数3〜7のアシル基の置換度の総和としたとき、アシル基が置換度、
2.0≦A+B≦3.0、
0.0≦ A ≦2.0、
1.2≦ B ≦2.9、
を満足することを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のセルロースアシレート樹脂フイルムの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースアシレート樹脂の重量平均分子量が10万〜17万であり、且つAをアセチル基の置換度、Bを炭素数3〜7のアシル基の置換度の総和としたとき、アシル基が下記の置換度、
2.0≦A+B≦3.0、
0.1≦ A ≦0.7、
2.0≦ B ≦2.9、
であり、且つ、アルカリ土類金属、アルカリ金属、亜鉛、マンガン、スズから選ばれた1種類及び/又は複数種類の静電印加性付与金属(M)を30ppm〜150ppm、硫黄を50ppm以下、及びリンを含有すると共に、前記静電印加性付与金属(M)の含有量と前記リンの含有量(P)の含有量比(M/P)が0.1〜2.0を満足するように調製することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【請求項5】
前記ダイから吐出されたときの前記セルロースアシレート樹脂のゼロせん断粘度が、2000Pa・s以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【請求項6】
セルロースアシレートフイルムの厚みが20μm〜300μmであり、面内レターデーションReが20nm以下であり、且つ厚み方向のレターデーションRthが20nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフイルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造したセルロースアシレートフイルムを基材とすることを特徴とする液晶表示板用光学補償フイルム。
【請求項8】
押出機で溶融したセルロースアシレート樹脂を、押出機で溶融したセルロースアシレート樹脂を、ダイから走行又は回転する冷却支持体上にシート状に吐出して冷却固化することにより、セルロースアシレート樹脂フイルムを製造するセルロースアシレート樹脂フイルムの製造装置において、
前記ダイから吐出されたシート状溶融樹脂の幅方向両端部に静電気を帯電するための静電印加電極と、前記シート状溶融樹脂を前記ダイから吐出されて前記冷却支持体に接触するまでの間で加熱することによって前記シート状溶融樹脂が前記冷却支持体に接触する際の温度を200℃〜260℃に制御する加熱手段と、を備えたことを特徴とするセルロースアシレート樹脂フイルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238408(P2008−238408A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77711(P2007−77711)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】