説明

セルロースエステルフィルム、及びその製造方法

【課題】Reの湿度依存性が低く、高レタデーション値のセルロースエステルフィルムをつくる。
【解決手段】レタデーション制御剤と、セルロースエステルと、溶剤とを含ませたドープを調製する。第1フィルム製造設備10において、表面を冷却した流延ドラム32の上にドープを流延してゲル状の流延膜11を形成する。流延ドラム32から剥取した流延膜11を残留溶剤量が10重量%に達するまで乾燥する。この流延膜11を第2テンタ43で170℃以上250℃以下の温度範囲となるように加熱してセルロースエステルを結晶化させる。そして、幅方向に延伸して拡幅し、フィルム17とする。以上により、面方向でのポリマーの配向度の絶対値|P1|が0≦|P1|≦0.050であるフィルム17が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の位相差を補正するための位相差フィルムを代表とするセルロースエステルフィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器における小型・薄型化を受け、従来のブラウン管ディスプレイに替わる画像表示装置として液晶ディスプレイ(LCD)の需要が急速に拡大している。LCDは、光源、基板、偏光板、液晶層等の複数の光学部材から構成されており、高品質の画像表示を実現する。
【0003】
この中で偏光板はあらゆる方向に振動している光の中からある特定方向(直線方向)の光だけを取り出す機能を有するため、LCDの中でも特に重要な部材として位置づけされる。ただし、偏光板のみを単体で使用すると、偏光させた光が液晶を透過する過程で光の歪み(複屈折)が生じ、画像品質が低下する。このため、一般的に偏光板には、光の歪みを補正することを目的として、位相差が好適に調節された位相差フィルムを貼り合せる。位相差フィルムとしては、透明度が高く、また加工が容易である等の理由からポリマーフィルムが主流とされ、中でも、より透明度が高いフィルムとして、セルロースエステルを使用したセルロースエステルフィルムが広く利用されている。
【0004】
セルロースエステルフィルムは、主に溶液製膜方法で作られている。溶液製膜方法とは、セルロースエステル、添加剤、及び溶剤を含む溶液であるドープを、走行する支持体上に流延して流延膜を形成した後、支持体から流延膜を剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとするものである。この方法は、製造途中においてセルロースエステルや添加剤等の各種フィルム原料が熱ダメージを受けるおそれが低いので、透明度が高く、光学特性に優れたフィルムが得られる。このため、溶液製膜方法は、位相差フィルムだけでなく、偏光板の保護フィルム、反射防止フィルム、及び視野角拡大フィルム等の光学用途のフィルムを製造する方法として主流である。
【0005】
ところで、位相差フィルムにおける光の歪みを補正する効果は、フィルムの光学厚みであるレタデーション値に依存し、この値が大きくなるほど優れた補正効果が得られる。このため、位相差フィルムを製造する際には、透明度やレタデーション値を出来る限り高くすることが好ましい。そこで、一般には、レタデーションの上昇に作用するレタデーション制御剤を流延膜に含有させ、更に、この流延膜を幅方向に一軸延伸させてポリマーやレタデーション制御剤等の分子の配向度を高めることにより、高レタデーション値を確保する。
【0006】
しかし、配向度が大きいフィルムは湿度の変化を受け易いため、その面方向でのレタデーション値であるReや、厚み方向のレタデーション値であるRthが変化して、コントラストが低下するという問題を抱える。したがって、湿度の影響で光学特性が変化する湿度依存性を出来る限り低減したセルロースエステルフィルムを製造することができる方法の確立が望まれている。なお、Reの「面方向」とは、フィルムの面方向、すなわち、フィルムの厚み方向とは垂直な面の方向である。
【0007】
そこで、上記の問題を解決する方法として、例えば、特許文献1には、セルロースアシレートと所定の添加剤と溶剤とを含むドープを、支持体上に流延して流延膜を形成した後、支持体から流延膜を剥ぎ取り、これをセルロースアシレートのガラス転位温度以上で乾燥する方法が提案されている。また、特許文献2には、水と水素結合しにくいアシル基を有する化合物を含み、25℃/60%RH下でのフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthの絶対値を25nm以下、25℃/10%RH及び25℃/80%RHにおける各Rthの差を40nm以下としたセルロースアシレートフィルムが提案されている。
【特許文献1】特開2005−138375号公報
【特許文献2】特開2005−139304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように乾燥温度を調節したり、特許文献2のように、フィルムの吸水性を低減させるだけでは、面内の配向度を制御することが難しいので、所望とするような高レタデーション化を実現することは難しい。また、湿度依存性に関しても、画像表示装置の大型化を受けて、現在、位相差フィルムに求められる光学特性を満足することができない。特に、Reの湿度依存性が低く、Reを40nm以上であるフィルムを製造することはできなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みて、Reの湿度依存性が低く、かつレタデーション値が高いセルロースエステルフィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明のセルロースエステルフィルムは、レタデーション制御剤と、セルロースエステルとを含むセルロースエステルフィルムにおいて、セルロースエステルフィルムの面方向におけるセルロースエステルの配向度P1が0≦|P1|≦0.050を満たし、下記式(1)で表されるセルロースエステルフィルムの面方向のレタデーション値Reが、40nm以上80nm以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
式(1) Re=(nx−ny)×d
ただし、式中のnxは、前記セルロースエステルフィルム面内の遅相軸方向における屈折率であり、nyは進相軸方向における屈折率であり、dは前記セルロースエステルフィルムの厚み(nm)を示す。
【0011】
下記式(2)で表されるセルロースエステルフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthが、100nm以上300nm以下であることが好ましい。
式(2) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
ただし、式中のnxはセルロースエステルフィルム面内の遅相軸方向における屈折率であり、nyは進相軸方向における屈折率であり、nzは厚み方向における屈折率であり、dはセルロースエステルフィルムの厚み(nm)を示す。
【0012】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法は、走行する冷却された支持体上に、レタデーション制御剤とセルロースエステルと溶剤とを含むドープを流延して流延膜を形成する工程と、支持体から流延膜を剥ぎ取り、乾燥する工程と、を有し、残留溶剤量が10重量%に達した後の流延膜を、セルロースエステルが結晶化するように170℃以上250℃以下に加熱し、セルロースエステルが結晶化した流延膜を幅方向に10%以上60%以下の拡幅率で延伸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、Reの湿度依存性が低く、かつレタデーション値が高いセルロースエステルフィルムを製造することができる。レタデーション値については、具体的には、Reが40nm以上80nm以下、Rthが100nm以上300nm以下である。このフィルムは、位相差を補正する効果に優れるために、OCBモード、VAモード、TNモード等の液晶モードを不問とする位相差フィルムとして有効である。このため、本発明により得られるフィルムを偏光板に貼り合せれば、高画質を示すLCD等の画像表示装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
先ず、本発明に関わるドープについて説明する。ドープに使用されるセルロースエステルは、例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアシレートブチレート等のセルロースの低級脂肪酸エステルが挙げられる。中でも、光透過性に優れるフィルムを作る上では、セルロースアシレートが好適であり、特に、トリアセチルセルロース(TAC)が好ましい。なお、TACを用いる場合には、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0015】
セルロースアシレートとしては、より透明度の高いフィルムを得るためにも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(a)〜(c)の全てを満足するものが好ましい。ただし、下記式中のA及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わす。なお、Aはアセチル基の置換度であり、Bは炭素数が3〜22のアシル基の置換度である。
(a) 2.5≦A+B≦3.0
(b) 0≦A≦3.0
(c) 0≦B≦2.9
【0016】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を炭素数が2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合を意味する。なお、100%のエステル化の場合を置換度1とする。
【0017】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合である。
【0018】
セルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、2種類以上のアシル基が使用されていても良い。なお、2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0019】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。更に、DSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、33%以上であることが特に好ましい。更に、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましい。このようなセルロースアシレートを用いると、非常に溶解性に優れたドープを調製することができる。
【0020】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿、パルプ綿のどちらから得られたものでも良いが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0021】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数が2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられる。更に、それぞれが置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0022】
本発明で使用することができるセルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0023】
本発明のドープには、高レタデーション値をフィルムに発現させるために、レタデーション制御剤及び可塑剤のうち少なくとも1つを含ませる。この場合、ドープ中の固形分全体に対して11〜25重量%となるように、上記の物質を含ませることが好ましい。ここで、これらの物質を共に用いる場合には、その総量とする。
【0024】
〔レタデーション制御剤〕
本発明で好適に用いられるレタデーション制御剤は、特に限定されず、フィルムのレタデーションを上昇させる作用を持つ周知の添加剤を使用することができる。中でも、その分子量が200以上1000以下のものが好ましく、より好ましくは300以上850以下である。この範囲であれば、溶剤への溶解性に優れ、かつ、フィルムの製造中、容易に蒸発することがないので、所望とするレタデーション制御剤の効果を得ることができる。また、レタデーション制御剤の沸点は、260℃以上であることが好ましい。レタデーション制御剤は、単独又は2種類以上を混合して用いることができる。レタデーション制御剤をドープに含ませる方法は、アルコールやジクロロメタン等の溶剤に溶解させた溶液の状態で含ませても良いし、ドープに直接添加したりしても良く、特に限定されるものではない。なお、本発明に関わるレタデーション制御剤については、特開2006−235483号公報の[0030]段落から[0142]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0025】
〔可塑剤〕
可塑剤としては、トリフェニルフィスフェート、ビフェニルジフェニルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤や、ジエチルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、及びポリエステルポリウレタンエラストマー等の公知の各種可塑剤を用いることができる。
【0026】
〔溶剤〕
ドープの調製に用いる溶剤としては、ドープの調製用ポリマーを溶解することができる有機化合物を用いることが好ましい。ただし、本発明においてドープとは、ポリマーを溶剤に溶解又は分散させることで得られる混合物を意味するため、ポリマーとの溶解性が低いような溶剤も使用して良い。好適に用いることができる溶剤としては、例えば、ベンゼンやトルエン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタンやクロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、メタノールやエタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等のアルコール、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン、酢酸メチルや酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル、テトラヒドロフランやメチルセロソルブ等のエーテル等が挙げられる。これらの溶剤の中から2種類以上の溶剤を選択し、混合した混合溶剤を使用しても良い。
【0027】
上記の溶剤の中でも、疎水性のものが好適に用いられる。疎水性溶剤としてはジクロロメタンがもっとも好ましい。また、上記のハロゲン化炭化水素としては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。更に、ポリマーとの相溶性や、支持体から剥ぎ取る流延膜の剥ぎ取る易さの指標である剥ぎ取り性、フィルムの機械強度、光学特性等の観点から、ジクロロメタンに炭素数が1〜5のアルコールを1種ないしは、数種類混合させたものを用いることが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノール、或いはこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0028】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も提案されている。この目的に対しては、炭素数が4〜12のエーテル、炭素数が3〜12のケトン、炭素数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることが好ましい。これらの化合物は環状構造を有していても良いし、エーテル、ケトン及びエステルの官能基、すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。その他にも、溶剤は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。なお、2種類以上の官能基を有する場合には、その炭素数がいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0029】
ドープには、目的に応じて紫外線吸収剤(UV剤)、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の公知である各種添加剤を添加させても良い。また、ドープには、フィルム同士の接着を防止したり、屈折率を調整したりする目的で微粒子を添加させることが好ましい。この微粒子としては、二酸化ケイ素誘導体を用いることが好ましい。本発明における二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素や、三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。このような二酸化ケイ素誘導体は、その表面がアルキル化処理されたものを使用することが好ましい。アルキル化処理のような疎水化処理が施されている微粒子は、溶剤に対する分散性に優れるため、微粒子同士が凝集することなくドープを調製し、更には、フィルムを製造することができるので、面状欠陥が少なく、透明度の高いフィルムを製造することが可能となる。
【0030】
上記の様に、表面にアルキル化処理された微粒子としては、例えば、表面にオクチル基が導入された二酸化ケイ素誘導体として市販されているアエロジルR805(日本アエロジル(株)製)等を使用することができる。なお、微粒子を添加させる効果を確保しつつ、透明度の高いフィルムを得るためにも、ドープの固形分に対する微粒子の含有量は0.2%以下となるようにすることが好ましい。更に、微粒子が光の通過を阻害させないように、その平均粒径は1.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは、0.4〜0.8μmである。
【0031】
先に説明した通り、光透過性に優れるセルロースエステルフィルムを得るには、TACを利用することが好ましい。この場合、溶剤や添加剤等を混合した後のドープの全量に対して、TACを含ませる割合を5〜40重量%とすることが好ましい。より好ましくは15〜30重量%であり、特に好ましくは17〜25重量%である。
【0032】
また、本発明に用いることができる溶剤や、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、剥離剤等の各種添加剤及び微粒子については、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。更に、TACを利用したドープの製造方法であり、例えば、素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡等についても同様に、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0033】
次に、本発明に関わるセルロースエステルフィルムの製造方法について、実施形態を示しながら説明する。本実施形態では、図1(a)に示す第1フィルム製造設備10、及び図1(b)に示す第2フィルム製造設備16を用いる。
【0034】
図1(a)に示す第1フィルム製造設備10は、ドープを支持体上に流延して流延膜11を形成するための流延室20と、支持体から剥ぎ取った流延膜11を搬送しながら乾燥するための渡り部21と、流延膜11の乾燥をより進めるための第1テンタ22と、十分に乾燥した流延膜11をプレスローラ23aで押し圧をかけながら巻取りローラ23に巻き取るための第1巻取室24等から構成されている。また、第1フィルム製造設備10は、配管25を介してドープ製造設備26と接続されており、ドープ製造設備26から適宜適量のドープが送られる。
【0035】
流延室20には、フィードブロック30と、ドープを支持体上に流延するための吐出口を備えた流延ダイ31と、支持体である流延ドラム32と、流延ドラム32の内部に形成された流路の中に冷媒を供給するための冷媒供給装置33と、支持体から剥ぎ取られる流延膜11を支持するための剥取ローラ34と、流延室20内に浮遊する溶剤ガスを凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)35と、液化した溶剤を回収するための回収装置36と、流延室20の内部温度を調整するための温調装置37と、が備えられている。
【0036】
フィードブロック30の内部にはドープの流路が形成されている。流路の位置は、所望とする流延膜の層構造に応じて決定される。例えば、複層の流延膜を形成させる場合には、その層構造に応じた本数の流路を有するフィードブロック30が好適に用いられる。流路に流すドープの種類は、単一でも、層に応じて変更しても良く、特に限定されない。
【0037】
流延ダイ31の先端には、流延ドラム32に対して開口したドープの吐出口が形成されており、適宜ドープを流延ドラム32の上に流延する。流延ダイ31の形状や大きさ等は特に限定されるものではないが、流延するドープの幅を略均一に保持するために、コートハンガー型のものが好適に用いられる。また、流延ダイ31の幅は、安全に所望の幅を有する流延膜を形成することを目的として、最終製品となるフィルム17の幅に対して、1.1〜2.0倍程度のものを用いることが好ましい。更に、その材質は、耐久性、耐熱性、耐腐食性等の観点から、析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。更には、ジクロロメタンやメタノール、水の混合用液に3ヶ月浸漬させても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものが好ましい。ただし、耐腐食性の観点から、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものも好適に用いることができる。更に、流延ダイ31の材質は、熱ダメージを抑制するために、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下のものが好適である。平面性に優れた流延膜11を形成するには、流延ダイ31の表面は研磨されて凹凸が低減されているものが好ましい。
【0038】
また、流延ダイ31には耐摩耗性の向上等を目的として上記の吐出口の先端に硬化膜が形成されていることが好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、セラミックスコーティングやハードクロムめっき、窒化処理等が挙げられる。ここで、硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削加工が可能であること、気孔率が低いこと、更には、脆性及び耐腐食性に優れること、流延ダイ31に対して密着度は高いが、一方でドープに対しては密着度が低いこと等の条件を満たすものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)やAl、TiN、Cr等が挙げられるが、中でも、WCを用いることが好ましい。なお、WCのコーティングは公知の溶射法により行うことができる。
【0039】
上記の吐出口の端には、溶剤供給装置(図示しない)を取り付けて、流延するドープを可溶化させる溶剤を流延ビードの両端部や吐出口と外気との両気液界面に供給することが好ましい。これにより、吐出口から吐出されるドープが、局所的に乾燥して固化するのを防止することができるので、安定した流延ビードを形成することができるため、流延膜11に発生する凹凸を低減することができる。また、ドープの固化物が異物として流延ビードや流延膜11に含有するおそれも解消することができるため、透明度の高いフィルム17を得ることができる。なお、上記の溶剤としては、ドープを溶解することができる組成の化合物であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、ジクロロメタンを86.5重量部と、メタノールを13重量部と、n−ブタノールを0.5重量部とを混合した混合物が挙げられる。そして、上記のような混合物を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いて、その供給量が吐出口の端部の片側ごとに0.1〜1.0mL/分の範囲となるように供給することが好ましい。
【0040】
流延ドラム32には、駆動装置(図示しない)が取り付けられており、この駆動装置により回転数を制御しながら連続して回転させる。流延ドラム32は、耐熱性や耐久性に優れるため金属製が好ましく、中でもステンレス製が好適である。また、流延ドラム32の内部には、流延ドラム32の周面を冷却するための伝熱媒体(冷媒)の流路(図示しない)が形成されている。この流路の中に冷媒供給装置33から冷媒を供給して通過させることで、流延ドラム32の表面温度を所望の範囲で調節する。冷媒は、流延ドラム32と冷媒供給装置33との間で循環する。
【0041】
なお、本発明で用いられる支持体は、流延ドラム32に代えて流延バンドを用いても良い。この場合には、少なくとも1つを駆動ローラとするローラ対に流延バンドを巻き掛けて、無端で走行させる。流延ドラム等の支持体は、その表面を所定の温度範囲で冷却できる形態であれば良く、特に限定されるものではない。本発明は、支持体の幅や材質等に関して特に限定されるものではないが、過不足なく安定した流延膜を形成させるために、支持体の幅はドープの流延幅に対して1.1〜2.0倍程度が好ましく、その材質は、耐腐食性等の観点からステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。更に、平面性に優れる流延膜を形成させるために、できる限り表面が研磨されたものが好ましい。
【0042】
減圧チャンバ39は、流延ダイ31の後方に取り付けられており、ドープを流延する間、流延ダイ31付近を減圧する。減圧チャンバ39は、その内部温度を所定の範囲で保持することができるジャケット(図示しない)を備えている形態が好適に用いられ、ドープを流延する間、減圧チャンバ39の内部温度を略一定とすることが好ましい。減圧チャンバ39の内部温度は特に限定されるものではないが、ドープ中に含まれる溶剤の凝縮点以上とすることが好ましい。
【0043】
渡り部21は、複数のパスローラ21aと、乾燥風を供給するための乾燥装置40とが備えられており、各パスローラ21aで流延膜11を支持し搬送する間に、乾燥装置40から乾燥風を供給して流延膜11を乾燥させる。
【0044】
第1テンタ22の内部には、流延膜11の搬送路に沿ったその両側の位置に、予め所望の間隔で配された1対のレールと、このレールに巻き掛けられ、無端で走行する1対のチェーンと、乾燥風を送出すための第1乾燥装置とが備えられている(いずれも図示しない)。上記のチェーンには、複数のピンを有するピンプレートが取り付けられている。ピンは、流延膜11の両側端部に突き刺さし、流延膜11をしっかりと固定するためのものである。また、第1テンタ22の下流であり第1巻取室24との間には、搬送部37が設置されている。搬送部37は、複数のローラ37aと図示しない乾燥装置とから構成され、流延膜11を支持し、第1巻取室24まで安定して搬送する間に、乾燥をより促進させる。
【0045】
図1(b)に示す第2フィルム製造設備16は、第1フィルム製造設備10で作製したロール状の流延膜11を送り出すための送出室41と、流延膜11を幅方向に延伸しながら乾燥してフィルム17とする第2テンタ43と、フィルム17の両側端部を切断するための耳切装置45と、フィルム17を十分に乾燥するための乾燥室45と、フィルム17を冷却するための冷却室48と、フィルム17の帯電圧を好適に調節するための強制除電装置50と、フィルム17にナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ51と、フィルム17をロール状に巻き取るための第2巻取室54等から構成される。
【0046】
送出室41には、ロール状の流延膜11をセットするための送出装置41aが備えられている。第2テンタ43の内部には、第2テンタ43の入口から出口に向かって間隔が徐々に拡がるように配置されている1対のレールと、乾燥風を送出すための第2乾燥装置とが備えられている(共に図示しない)。上記の各レールには、無端チェーンが巻き掛けられている。第2テンタ43の入口及び出口付近には、流延膜11の搬送路を中心として対称となる位置に、上記のチェーンが巻き掛けられたチェーンスプロケット(図示しない)が設けられている。このチェーンスプロケットは、回転駆動する駆動部に接続し、チェーンを無端で走行させる。また、チェーンには、流延膜11を固定するための固定手段である複数のクリップが所定のピッチで取り付けられている。
【0047】
耳切装置45には、切断したフィルム17の両側端部をチップとして粉砕するためのクラッシャ56が接続されている。乾燥室46の内部には、フィルム17を巻き掛けて搬送するための複数のローラ58と、乾燥室46の内部に浮遊する溶剤ガスを吸着回収するための吸着回収装置59と、乾燥室46の内部温度を調整するための温度調整装置60とが備えられている。第2巻取室54には、フィルム17を巻き取るための巻取ローラ62が備えられている。また、この巻取ローラ62には、巻き取り時のフィルム17に押し圧を付与するためのプレスローラ65が取り付けられている。
【0048】
なお、第1テンタ22及び第2テンタ43は、異なる種類のテンタを用いる必要はなく、同種であっても良い。ただし、流延膜の残留溶剤量が多い場合にクリップ型テンタを用いると、流延膜が不安定であるためにクリップで両側端部を挟持することが難しいことから、ピン型テンタを用いる方が好ましい。また、延伸させる方向に係らず、流延膜に張力を付与している間は、乾燥温度の違いによって延伸の程度に差が生じるのを防止するために、乾燥温度は略一定に保持することが好ましい。
【0049】
次に、上記の第1フィルム製造設備10及び第2フィルム製造設備16により、フィルムを製造する流れについて説明する。
【0050】
ドープ製造設備26で調製されたドープを、配管25を通じて第1フィルム製造設備10内のフィードブロック30へ送る。本実施形態では、ドープとして、TACと、ジクロロメタン,メタノール,1−ブタノールの3種類の溶剤を混ぜ合わせた混合溶剤と、レタデーション制御剤(N−N’−ジ−m−トルイル−N”−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン)と、可塑剤(トリフェニルフォスフェート、ジフェニルフォスフェート)とを含ませたものを使用する。
【0051】
複数のドープをフィードブロック30に送り、合流させた後、流延ダイ31へ送る。流延ドラム32の内部にある流路の中に冷媒供給装置24から所定の温度に調整した冷媒を送り、通過させて流延ドラム32の表面温度を調節する。この場合、表面温度を−40℃以上10℃以下とすることが好ましい。また、温調装置37により流延室20の内部温度を常時20〜40℃の範囲で略一定とすることが好ましい。
【0052】
流延ダイ31の先端に設けられた吐出口から、連続的に回転させた流延ドラム32にドープを共に流延する。流延時のドープの温度は20〜55℃であることが好ましい。流延ドラム32に流延されたドープはその表面で冷やされて、短時間の内にゲル状の流延膜11が形成される。ここで、流延ドラム32の表面温度とドープの温度との差を小さくすれば、効率良くかつ効果的にドープが冷却されるので、より短時間で流延膜11を形成することができるので好ましい。本実施形態では、流延ドラム32の表面温度を−5℃、ドープの温度を32℃とする。流延膜11を形成する場合には、完成したフィルム17の所望とする膜厚に応じてドープの流量等を調整することが好ましい。より好ましくは、フィルム17の膜厚が25〜100μm程度である。
【0053】
平面性に優れる流延膜11を形成する上で、流延ドラム32の速度変動を3%以下とし、流延ダイ31の直下での流延ドラム32の上下方向の位置変動を500μm以下とすることが好ましい。また、ドープを流延している間、減圧チャンバ39で流延中のドープの後方を、(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10Pa)以下で減圧することが好ましい。これにより、流延中のドープに凹凸が生じる原因となる同伴風の流れを低減し、かつ流延中のドープを適度に後方へと引っ張ることで、波うち等を抑制しながらドープを流延することができるため、より平面性に優れる流延膜11を形成することができる。
【0054】
流延ドラム32の回転に併せて流延膜11を移動させることでよりいっそう冷却し、ゲル化を進行させる。これにより、流延膜11は、剥ぎ取り可能な程度の自己支持性を持つようになる。流延膜11を形成している間、流延膜11から蒸発して流延室20の内部に浮遊する溶剤が流延膜11の表面に付着して平面性が低下するのを防ぐために、浮遊する溶剤を凝縮機35で凝縮液化させた後、回収装置36により回収する。この回収装置36には、再生装置(図示しない)を接続させて、回収した溶剤を再生すると再生溶剤を得ることができる。なお、この再生溶剤は、ドープ調製用溶剤とすることができるので、原料コストの低減を図ることが可能となる。
【0055】
剥取ローラ34で流延膜11を支持しながら流延ドラム32から剥ぎ取る。流延膜11は、残留溶剤量ができるだけはやいうちに剥ぎ取ることが好ましく、残留溶剤量が100重量%に達する前に流延膜11を剥ぎ取ることが好ましい。これは、次工程である第1テンタ22での延伸を、残留溶剤量が100重量%に達するまでに終了させるためである。一方で、剥ぎ取られた流延膜11が搬送するに十分な自己支持性をもっていなければならないので、この自己支持性の観点からは残留溶剤量が320重量%に達した後に剥ぎ取ることがより好ましい。したがって、残留溶剤量が100重量%以上320重量%以下の範囲であるときの流延膜11を剥ぎ取ることがより好ましい。流延膜11の残留溶剤量は、残留溶剤量を求めたい対象物からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、そのサンプルを完全に乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出される乾量基準での値である。なお、多種の溶剤を使用する場合には、それらの溶剤の総和を残留溶剤量とする。
【0056】
なお、剥ぎ取るタイミング等の指針となる流延バンド32上の残留溶剤量を知る方法は、特に限定されるものではなく、例えば、予め小スケールで製造条件と同様の製膜を行なって、流延時間と流延膜の残留溶剤量との相関を把握し、この相関に基づき実際の流延時間を決定する方法や、支持体上の流延膜の一部をサンプルとして採取し、前述の方法により残留溶剤量を算出する方法が挙げられる。
【0057】
流延膜11を渡り部21に送り、複数のパスローラ21aで支持しながら搬送する。渡り部21では、渡り部21の出口付近に配されるパスローラ21aの回転速度を、渡り部21の入口付近に配されるパスローラ21aよりも速くして、流延膜11の搬送方向に張力を付与することにより、流延膜11を搬送方向に任意に延伸させる。また、渡り部21では、乾燥装置40から所望の温度に調整した乾燥風を供給する。これにより、乾燥ムラを発生させることなく流延膜11を搬送する間に均一に乾燥させることができる。
【0058】
流延膜11の残留溶剤量が100重量%以上320重量%以下のときに、流延膜11の搬送方向に対して張力を付与し、搬送方向に5%以上35%以下の割合で延伸させ、かつ乾燥手段により流延膜11を50℃以上140℃以下に加熱し、乾燥させることが好ましい。搬送方向に延伸させるとは、流延膜11を長手方向に伸ばすことをいう。したがって、搬送方向に5%以上35%以下の割合で延させるとは、流延膜11の搬送方向における任意の2点間の距離について、伸ばす前の距離X1と伸ばした後の距離X2とが5≦100×(X2−X1)/X1≦35を満たすように、流延膜11を伸ばすことを意味する。
【0059】
そこで、本実施形態では、上記条件を満たすように、渡り部21のローラ搬送速度と第1テンタ22のピンプレートの走行速度とを制御して流延膜11を延伸乾燥する。このような残留溶剤量が多い流延膜11は自由体積が大きいので、搬送方向に対して効果的に延伸させることができる。このため、少ない熱エネルギーでポリマーの配向度のみならず、レタデーション制御剤の搬送方向の配向度を高めることができる。ここで、流延膜11の残留溶剤量が320重量%を超えると、膜として非常に不安定な状態にあるので搬送しづらく、一方で、残留溶剤量が100重量%未満の場合には、流延膜11の自由体積が小さいので、延伸時に必要な熱エネルギーが増えてしまう。乾燥風の温度は、ドープ原料の種類や製造速度等を考慮しながら上記の範囲で適宜決定すれば良い。また、延伸方法は特に限定されず、例えば、流延ドラム32から流延膜11を剥ぎ取る際の、剥ぎ取り応力を制御する方法も好適に用いられる。
【0060】
乾燥を促進させた流延膜11を第1テンタ22に送る。第1テンタ22の内部では、所定の位置で、流延膜11の両側端部に複数のピンを突き刺した後、チェーンの移動に伴って流延膜11を搬送する。第1乾燥装置(図示しない)から所望の温度の乾燥風を送り、第1テンタ22の内部温度を調節する。これにより、流延膜11の両側端部をしっかりと固定した状態で搬送する間に、しわやつれ等を発生させずに効率良くかつ効果的に乾燥を促進させることができる。乾燥を促進させた流延膜11を搬送部37に送り、複数のローラ37aで支持し搬送する間に、図示しない乾燥装置から乾燥風を供給して乾燥を進める。そして、流延膜11を第1巻取室24へ送り、プレスローラ23aで押し圧を加えながら巻取りローラ23に巻き取る。以上より、乾燥を進めたロール状の流延膜11が得られる。
【0061】
次に、第2フィルム製造設備16で、このロール状の流延膜11をフィルム17とする。先ず、ロール状の流延膜11を、第2フィルム製造設備16内の送出装置41aにセットする。次に、流延膜11を送出室41から第2テンタ43へと適宜送り出す。
【0062】
第2テンタ43では、その入口付近の所定の位置で流延膜11の両側端部をクリップにより把持した後、レールに従って走行するチェーンの動きに応じて流延膜11を搬送する。なお、予めレールの間隔は、入口から出口に向かうにつれて拡がるように調整されている。また、第2テンタ43の内部は、第2乾燥装置から乾燥風を供給することで温度が調整されている。これにより、第2テンタ43の内部を搬送するにしたがい流延膜11を幅方向に徐々に延伸させながら、かつしわやつれ等を発生させずに乾燥を促進させることができる。
【0063】
第2テンタ43には、残留溶剤量が10重量%に達した後の流延膜11が案内され、セルロースエステルの結晶化と延伸による拡幅とが実施される。これにより、(1)セルロースアシレートの配向度P1の絶対値|P1|をゼロ以上0.05以下の範囲に抑えること、(2)Reを40nm以上80nm以下の範囲という大きな値にすること、との両方が可能となる。したがって、得られるセルロースエステルフィルムは、レタデーション値が高いにも関わらず、Reの湿度依存性が小さいものとなる。そして、セルロースエステル固有の複屈折率を負に変化させて搬送方向と幅方向とのレタデーション値を高めることができる。第2テンタ43で実施する結晶化と延伸とについては以下の通りである。
【0064】
第2テンタ42では、セルロースエステルの劣化がこれまで懸念されていた高温領域に、流延膜11の温度を上げる。具体的には170℃以上250℃以下という高温に流延膜11の温度を上げる。これによりセルロースエステルを結晶化させる。流延膜11の昇温によるセルロースエステルの結晶化は、第2乾燥装置から吹き出される温度調整された乾燥風によりなされる。つまり、乾燥風の温度を適宜設定することにより、流延膜11が170℃以上250℃以下の範囲とすることができ、セルロースエステルが結晶化することになる。
【0065】
限られたエリアである第2テンタ43でセルロースエステルを迅速に結晶化させるには、セルロースエステルの残留溶剤量が10重量%以下になっていればよく、0(ゼロ)であってもよい。したがって、第1フィルム製造設備10で流延膜11を巻き取ることなく、例えば第1テンタ22と第2テンタ43とをひとつのラインとなるように接続する場合には、両者の間となる搬送部37で残留溶剤量が10重量%に達するように乾燥するとよい。このように、第2テンタ43では、残留溶剤量が0重量%以上10重量%以下の範囲となっている。
【0066】
そしてセルロースエステルが結晶化した流延膜11を幅方向に延伸して拡幅する。なお、本明細書において「拡幅」とは幅を拡げることである。延伸するには流延膜11の温度を上げておくことが好ましいので、製造ラインにおけるエネルギー効率の観点からは、結晶化で昇温したフィルムの温度が低くなりすぎないうちに延伸することが好ましい。そこで、結晶化と延伸拡幅とを、本実施形態のように、ともに第2テンタ22で実施することが好ましい。なお、拡幅は、セルロースエステルの結晶化が始まった後に開始して結晶化がすすんでいる間に実施してもよい。
【0067】
延伸時における流延膜11の温度は170℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。流延膜11は残留溶剤量が少なく自由体積は小さいが、上記温度で加熱することにより軟化するため幅方向に効率良く延伸される。延伸による拡幅を実施するときの流延膜11の温度を170℃未満とすると、セルロースエステル固有の複屈折率が変化しにくい場合がある。一方、流延膜11の温度が250℃を超えると、流延膜11から添加剤が蒸発してしまうことがあるため、製造装置の汚染が懸念される。
【0068】
そして、拡幅率が10%以上60%以下の範囲となるように流延膜11を延伸することが好ましい。拡幅率が10%未満であると、セルロースエステルの主鎖の配向度を高める効果が現れない場合がある。一方、拡幅率が60%を超えると、クリップ等の固定部で流延膜11が破れてしまう場合がある。なお、拡幅率とは、第2テンタ43に導入した時点での流延膜11の幅を基準とし、この幅に対して引き伸ばす割合である。具体的には、拡幅開始時T1における幅をD1、拡幅終了後T2における幅をD2とするとき、幅をD1からD2になるように拡幅する場合に、100×D2/D1で求める値(単位;%)である。
【0069】
なお、セルロースエステルを結晶化させた後ないし結晶化させる間に実施する拡幅は、連続して実施してもよいし、断続的に実施してもよい。断続的に実施するとは、例えば、第1の拡幅、幅を保持、第2の拡幅を順次実施するような場合である。断続的に拡幅する場合には、複数の拡幅の中で、最初の拡幅の開始時における幅をD1、最後の拡幅の終了時における幅をD2とする。断続的に拡幅する上記例の場合には、第1の拡幅の開始時における幅をD1、第2の拡幅の終了時における幅をD2とする。
【0070】
以上の条件で流延膜11を延伸して拡幅することにより、セルロースエステルの幅方向の配向が高められる。そして、配向が高められると、搬送方向と幅方向との配向度の差が0に近づけられるため、レタデーション値が高く、Reの湿度依存性が小さいフィルム17が得られる。なお、第2テンタ43の出口付近に搬送されたフィルム17は、両側端部のクリップによる挟持が解放される。
【0071】
第2テンタ43から搬出したフィルム17を耳切装置42へと送り、その両側端部を切断する。これにより、第1テンタ22及び第2テンタ43等で両側端部に生じたピンの突き刺し傷やクリップによる挟持跡を除去することができるので、平面性に優れるフィルム17が得られる。なお、フィルム17の両側端部を切除する処理は省略することもできるが、テンタを使用した後から製品とするまでのいずれかの工程で行うことが好ましい。また、切除する回数や設置個数等も特に限定されるものではない。例えば、第1テンタ22の下流に耳切装置を設けて、巻き取る前の流延膜11の両側端部を切除しても良い。
【0072】
乾燥室46にフィルム17を送る。温度調整装置48を用いて乾燥室46の内部温度を調節し、フィルム17を複数のローラ45に巻き掛けて搬送する間に、流延膜11を乾燥し、更に、第2テンタ43での延伸で流延膜11に生じた残留歪みを緩和させる。乾燥室46の内部温度は、特に限定されるものではないが、フィルム17を構成するポリマーに熱ダメージを与えることなく溶剤を効果的に蒸発させること、また、残留歪みを効果的に緩和させることを目的として、フィルム17の膜面温度が60℃以上145℃以下となるように調整することが好ましい。膜面温度は、フィルム17の搬送路近傍であり、その中央付近に温度計を設けて測定することで把握することができる。
【0073】
また、本実施形態では、乾燥室46に吸着回収装置47を接続して、乾燥時にフィルム17から蒸発する溶剤ガスを回収する。この回収した溶剤ガスは、溶剤成分を除去してから再度、乾燥室46に乾燥風として供給すると、製造コストの削減に繋がるエネルギーコストの低減を図ることができる。なお、耳切装置42と乾燥室46との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム17を予備乾燥すると、乾燥室46においてフィルム17の膜面温度が急激に上昇して形状変化が発生するのを抑制することができるので好ましい。
【0074】
十分に乾燥したフィルム17を冷却室48へと送り込む。冷却室48では、最終的に略室温となるようにフィルム17を徐々に冷却する。これにより、急激な温度変化によりしわやつれ等が発生するのを抑制しながらフィルム17を略室温とすることができる。なお、フィルム17を冷却する方法は、自然冷却でも良いし、冷却室48に温度調整装置を取り付けて冷却しても良く、特に限定されるものではない。なお、乾燥室46と冷却室48との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム17を調湿した後に冷却室48へ送り込むと、フィルム17の表面にしわ等が生じている場合には、しわを効果的に伸ばして矯正することができるので好ましい。
【0075】
略室温としたフィルム17を強制除電装置50に送り込み、その帯電圧を所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)となるように調整する。なお、図1(b)では、強制除電装置50の設置箇所を冷却室48の下流側とする形態を示しているが、この位置に限定されるものではないし、その設置個数等も特に限定されるものではない。また、フィルム17には、ナーリング付与ローラ51により、その両側端部に対してエンボス加工を施してナーリングを付与する。
【0076】
最後に、フィルム17を第2巻取室54に送り込み、プレスローラ65で巻き取り時の張力を調整しながら巻取ローラ62に巻き取る。なお、巻取り時の張力は、巻取開始時から終了時までの間で徐々に変化させることが好ましい。また、巻き取られるフィルム17の幅方向が1400〜2300mmであることが好ましい。ただし、本発明は、2300mmより大きい場合にも効果を得ることができる。更に、完成したフィルム17の厚みは、20〜150μmであることが好ましい。より好ましくは厚みが25〜100μmであり、特に好ましくは40〜90μmである。
【0077】
以上のように、レタデーション制御剤と、セルロースエステルと、溶剤とを含ませたドープからフィルムを製造し、その製造工程中で、流延膜の残留溶剤量に応じて搬送方向或いは幅方向での張力を制御しながら、延伸させる割合を調整すれば、自由体積の違いに応じて流延膜の延伸具合を好適に調整することができる。これにより、セルロースエステルの配向度を搬送方向及び幅方向に効果的に高めて2軸方向での配向度の差が0に近づけることを可能とする。セルロースエステルフィルムは、この面方向におけるセルロースエステルの配向度P1が0≦|P1|≦0.050を満たす。このように、セルロースエステルの配向度P1を出来る限り0に近づけ、かつレタデーション制御剤の配向度を最適化したフィルムは湿度依存性が低いので、これに伴うRe変化が抑制される。また、前述の式(1)で表されるセルロースエステルフィルムの面方向のレタデーション値Reが40nm以上80nm以下となり、Reの湿度依存性の低さと、高レタデーション値とを両立したフィルムと言える。Reは、流延膜の搬送方向を負としたときの値である。なお、より好ましくは0≦|P1|≦0.025であり、特に好ましくは0≦|P1|≦0.010である。ここで配向度P1の絶対値|P1|が0.050を超えると、ポリマーの配向度が大きくなるためReの湿度依存性が悪化する。
【0078】
また、セルロースエステルフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthは100nm以上300nm以下である。Rthは、前述の式(2)で表される。このように、本発明のセルロースエステルフィルムはReやRthが制御されているので、優れた表示品質を実現できるコントラストを有する。ReやRthは、出来る限り大きいほどコントラストを向上させることができ、見る角度により画像表示が変化して見える視野角依存性等を低減することができるので好ましい。ただし、ReとRthとが上記の範囲から外れると、位相差フィルムとして求められる品質を満たさないため問題である。なお、ReやRthは、市販の複屈折率測定器(例えば、自動複屈折率計(王子計測(株);KOBRA21DH))等により波長λにおけるnx、ny、nz等を測定した後、前述の式(1)及び(2)に代入することで容易に求めることができる。
【0079】
上記のP1は、周知のように、X線検出器及びサンプルを用いて、薄膜X線In−Plain法測定により、2θX(Xは「カイ」である)とφとの角度で回転させて検出される2θX/φ=6〜11°のピーク強度から、下記の数1で表される式(3)、及び数2で表される式(4)を用いることで算出可能である。なお、式(3)は、フィルム面方向の配向度の一般式として知られている。
【0080】
【数1】

【0081】
【数2】

【0082】
湿度依存性は、透湿度や吸水率、或いは吸湿膨張係数等で把握することができる。透湿度とは、セルロースエステルフィルム中での水分の浸透度を表す指標であり、JIS Z 0208に記載の方法により測定することができ、セルロースエステルフィルム1mあたり24時間で蒸発する水分量(g)として算出される値である。この値が大きいほど、透湿度は高くなるので湿度依存性も高いといえる。したがって、透湿度は出来る限り小さくすることが好ましい。
【0083】
吸水率とは、セルロースエステルフィルムが水分を吸収している度合いであり、一定温湿度における平衡含水率を測定することで評価することができる。セルロースアシレートを使用するフィルムの場合には、25℃/80%RHにおける平衡含水率は5重量%以下が好ましく、より好ましくは3重量%以下である。湿度依存性を低減させるためには、この平衡含水率が出来る限り小さくすることが好ましい。なお、平衡含水率を測定する方法としては、例えば、サンプルとなるフィルムを、上記の25℃/80%RH温湿度に24時間放置した後、平衡に達したサンプルの水分量をカールフィッシャー法で測定し、水分量(g)、サンプル重量(g)で除法により算出することができる。
【0084】
吸湿膨張係数とは、一定温度下で相対湿度を変化させたときのサンプルの長さの変化量である。セルロースアシレートを使用する場合には、フィルムの吸湿膨張係数は、相対湿度RHで、30×10−5/%RH以下であることが好ましく、より好ましくは15×10−5/%RH以下であり、特に好ましくは10×10−5/%RH以下である。この吸湿膨張係数は小さければ小さいほど好ましいが、通常は、1×10−5/%RH以上の値である。吸着膨張係数を測定する方法としては、例えば、作製したフィルムから幅5mm、長さ20mmを切り出したものをサンプルとし、このサンプルの片端を固定して25℃/20%RH(R0)の雰囲気下に吊り下げた後、他端に0.5gの重りをぶら下げて10分間放置したときの長さL0を測定する。次に、温度を25℃に保持したまま、湿度を80%RH(R1)へとして、このときのサンプルの長さL1を測定する。そして、下記式(5)に各値を代入することで吸着膨張係数を求めることができる。
吸着膨張係数〔/%RH〕={(L1−L0)/L0}/(R1−R0)・・・・(5)
【0085】
なお、本実施形態では、第1フィルム製造設備10及び第2フィルム製造設備16を用いて、一旦製造ラインを中断するオフラインの形態を示したが、必ずしも第2テンタ43での結晶化及び拡幅をオフラインにする必要はなく、例えば、第1テンタ22の下流に搬送部37を介して第2テンタ43を接続して、オンラインで連続的に第2テンタ43での結晶化と拡幅とを実施しても良い。
【0086】
本発明は、フィルムの層構造に関わらず優れた効果を発揮する。すなわち、1種類のドープから1層のフィルムを形成する方法として、或いは複数のドープを用いて複層構造のフィルムを製造する方法として好適に用いることができる。複層構造のフィルムを作製する場合には、複数のドープを同時に流延する共流延の形式でも良いし、複数の流延ダイ等を用いてドープを逐次に流延する形式でも良く、特に限定されない。なお、共流延と逐次流延とを組み合わせて用いても良い。
【0087】
流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶剤回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0088】
完成したセルロースエステルフィルムの性能や、カールの度合い、厚み、及びこれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0089】
完成したセルロースエステルフィルムを光学フィルムとして利用する場合、少なくとも一方の面を表面処理すると、その他の光学部材と貼り合せる際の接着性を向上させることができるため好ましい。表面処理としては、例えば、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理等が挙げられ、これらの中から少なくとも1つの処理を行うことが好ましい。
【0090】
また、本発明で得られるセルロースエステルフィルムをベースとして、その両面或いは一方の面に所望の機能性層を設けると、機能性フィルムとして用いることができる。機能性層としては、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層等が挙げられ、これらのうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。例えば、反射防止層を設けると、液晶表示装置等の画像反射防止効果を得ることができる機能性フィルムの反射防止フィルムを得ることができる。上記の機能性層は、界面活性剤や滑り剤、マット剤、帯電防止剤等の添加剤のうち少なくとも1種を含んでいることが好ましく、その場合の含有量は、0.1〜1000mg/mであることが好ましい。なお、フィルムに各種機能を付与するための機能性層や形成方法等は、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0091】
本発明により得られるセルロースエステルフィルムは、光透過性に優れ、レタデーション値が高く、湿度依存性が低い。そのため、特に、偏光板の位相差フィルムとして好適に用いることができる。ただし、その用途は限定されず、例えば、偏光板の表面を保護するための保護フィルムとしても好適に利用することができる。本発明のセルロースエステルフィルムの具体的用途に関しては、特開2005−104148号公報において、例えば、[1088]段落から[1265]段落には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この記載も本発明に適用させることができる。
【0092】
以下、本発明について行なった実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0093】
下記の各種ドープ原料を混合してドープを調製した。なお、レタデーション制御剤は、フィルムとしたときのセルロースアセテートの重量に対して4.0重量%とした。また、下記のセルローストリアセテートは、置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中の6重量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mm、標準偏差0.5mmの粉体であり、可塑剤Aはトリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bは、ジフェニルフォスフェートであり、UV剤aは2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールであり、UV剤bは2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾールであり、クエン酸エステル化合物は、クエン酸とモノエチルエステルとジエチルエステルとトリエチルエステルとの混合物であり、微粒子は、平均粒径が15nm、モース硬度が約7の二酸化ケイ素である。
【0094】
〔ドープ原料〕
セルローストリアセテート 100重量部ジクロロメタン 320重量部メタノール 83重量部1−ブタノール 3重量部可塑剤A 7.6重量部可塑剤B 3.8重量部UV剤a 0.7重量部UV剤b 0.3重量部クエン酸エステル混合物 0.006重量部
微粒子 0.05重量部
レタデーション制御剤(N−N’−ジ−m−トルイル−N”−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン) 4.0重量部
【0095】
〔フィルムの製造〕
ドープ製造設備26から配管25を介して適量のドープをフィードブロック30へと送り、更に、流延ダイ31へ送液した。流延室20内に設置する流延ダイ31は、吐出口として幅が1.8mのスリットを備え、内部温度を調整することができるジャケット(図示しない)を有する形態を用いた。流延ドラム32としては、駆動装置(図示しない)により回転数を制御することができるSUS316製のドラムを用いて、流延ダイ31の吐出口の直下に設置した。また、製膜時には、流延ドラム32の回転速度を100m/min.とし、温調装置37により流延室20の内部温度を常時35℃となるように調整した。
【0096】
表面を−5℃に調整した流延ドラム32の上に、80μmの厚さを有するフィルム17が得られるように吐出量を調整しながら流延ダイ31の吐出口からドープを吐出した。また、流延ダイ31のジャケットには、温度を調整した伝熱媒体を送り込んで内部温度を調整し、流延するドープの温度が36℃となるようにした。なお、フィードブロック30や配管等も温度調整機能を有する装置を用いて、その内部温度を全て36℃に保温した。
【0097】
流延ドラム32上でドープを冷却ゲル化させることで、ゲル状の流延膜11を形成した。自己支持性を持つまでゲル化が進行した流延膜11を剥取ローラ34で支持しながら、搬送方向に張力を付与して流延ドラム32から剥ぎ取った。剥取時の流延膜11の残留溶剤量は280重量%であった。次に、流延膜11を渡り部21に送り込み、複数のパスローラ21aで支持しながら搬送する間に、乾燥装置40から40℃に調整した乾燥風を送り出して乾燥を促進させた。続けて、ピン型テンタである第1テンタ22に送り込み、その両側端部にピンを突き刺し固定してから搬送する間に、残留溶剤量が1重量%になるまで乾燥を促進させた。そして、搬送部37において複数のローラ37aで支持し搬送した後、第1巻取室24の巻取ローラ23で巻取り、ロール状の流延膜11を作製した。なお、剥取時から巻き取るまでの間、剥ぎ取り時の張力や渡り部21でのパスローラ21aの回転速度を調整して、流延膜11を搬送方向に15%の割合で延伸させた。
【0098】
送出装置41から流延膜11を適宜送出した後、第2テンタ43に搬入した。第2テンタ43としては、複数のクリップを有し、レールに従って無端で走行するチェーンを備え、予め、両レールの間隔がテンタの入口から出口に向かって拡がるように調整されたクリップ型テンタを使用した。そして、第2テンタ43の所定の位置で流延膜11の両側端部を複数のクリップにより挟持することで固定した後、チェーンの走行に伴い第2テンタ43の内部を搬送する間に、流延膜11を幅方向に延伸させた。また、第2テンタ43では、流延膜11の温度を220℃に保持してセルロースエステルを結晶化させるために、この保持温度と同じ温度の乾燥風を第2乾燥装置(図示しない)から供給した。この結晶化の間に、流延膜11の乾燥を進めてフィルム17とした。そして、この結晶化の間に流延膜を拡幅した。第2テンタ43における拡幅率については、表1に示す。
【0099】
第2テンタ43の出口から30秒以内にNT型カッタを備える耳切装置45を設けて、フィルム17の両側端部を、両側端部から内側に向かって50mmmの位置で切断した。なお、切断したフィルム17の両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ56に送り、平均80mm程度のチップに粉砕した。
【0100】
本実施例では、耳切装置45と乾燥室46との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて、100℃の乾燥風を供給することにより、乾燥室46で高温乾燥する前のフィルム17を予備加熱した。次に、フィルム17を乾燥室46に送り込み、複数のローラ58に巻き掛けながら搬送する間に、フィルム17を約10分間乾燥した。乾燥室46では、温度調整装置60から温度を調整した乾燥風を供給することで、フィルム17の膜面温度が140℃となるように調整した。この膜面温度は、フィルム17の搬送路の真上でありその表面の近傍に温度計を設けて測定した。また、乾燥室46では、吸着剤が活性炭であり、脱着剤が乾燥窒素である吸着回収装置59により、内部に浮遊する溶剤ガスを回収した後、溶剤ガスに含まれる水分量が0.3重量%以下になるまで溶剤分を除去した。
【0101】
乾燥室46と冷却室48との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム17に対して、温度50℃、露点20℃の空気を給気した。続けて、フィルム17に対して直接、90℃、湿度70%の空気をあてて調湿して、フィルム17に発生しているカール等の矯正を行った。そして、フィルム17を冷却室48に送り込み、30℃以下になるまで徐々に冷却した後、強制除電装置50でフィルム17の帯電圧を常時−3〜+3kVとなるように調整し、更に、ナーリング付与ローラ51でフィルム17の両側端部にナーリングの付与を行うことで平面の凹凸等を矯正した。なお、ナーリングの付与時には、フィルム17にナーリングを付与する幅を10mmとし、凹凸の高さがフィルム17の平均厚みよりも平均して12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を調整しながら、フィルム17の片側からエンボス加工を行った。
【0102】
最後に、第2巻取室54の内部に設置されている巻取ローラ62(φ169mm)で、巻き始めの張力を300N/mとし、巻き終わりを200N/mとなるように調整して、プレスローラ65によりフィルム17に対して50N/mの押し圧を付与しながらフィルム17を巻き取った。以上により、膜厚が80μmのフィルム17を得た。
【0103】
完成したフィルム17をサンプルとして、フィルム17の面方向でのポリマーの配向度P1の絶対値|P1|をX線測定で求めた。P1及び|P1|については表1に示す。このX線測定は、X線検出器(理学電機製 RINTRAPID)を用いて薄膜X線In−Plain法測定を行うことにより、サンプルを2θXとφとの角度で回転させて検出される2θX/φ=6〜11°のピーク強度から、先に説明した数1、数2で算出した。
【0104】
[実施例2]〜[実施例5]、及び[比較例1]〜[比較例7]
第2テンタ43における流延膜11の温度、拡幅率を、表1の実施例2〜5及び比較例3〜7に示す値にした。その他の条件は、実施例1と同様である。なお、比較例1と比較例2とは、第2テンタ43での拡幅を実施せず、第1テンタ22で拡幅を実施し、この拡幅率を表1の「拡幅率」欄にしるす。
【0105】
実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例7でつくった各フィルムの光学特性として、(1)面方向のレタデーション値Re、厚み方向レタデーション値Rth、及び(2)湿度依存性の2つを測定し、評価を行なった。各測定及び評価方法を下記に示す。
【0106】
〔レタデーション値Re、Rthの測定〕
完成した各フィルムから70mm×100mmのサイズに切り出したサンプルを、温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿した後、自動複屈折率計(王子計測(株);KOBRA21DH)を用いて、波長(λ)=632.8nmでの面方向、及び厚み方向からの屈折率をそれぞれ測定した。そして、各測定値を前述の式(1)、(2)にそれぞれ代入してRe及びRthを算出した。なお、nxは、フィルムの面方向の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム17の面内の進相軸方向(幅方向)の屈折率であり、nzはフィルム17の厚み方向での屈折率である。ここで、遅相軸方向は搬送方向に等しく、進相軸方向は幅方向に等しい。
【0107】
〔湿度依存性〕
上記の各サンプルを用いて、25℃/10%RHに120分放置した後のフィルムのRe1と、25℃/80%RHに120分放置した後のフィルムのRe2とを測定した。次に、各値の差である|Re1−Re2|を求め、この値の大きさによりフィルムの湿度依存性を評価した。上記の差は、小さいほど湿度依存性が小さいことを意味し、光学フィルムとしてはより好適であるといえる。
【0108】
各実施例及び比較例で行なった評価結果を、表1に纏めて示す。なお、表1の各欄の記載の意味は以下の通りである。
「レタデーション制御剤の有無」欄;
「○」 レタデーション制御剤を使用した場合
「×」 レタデーション制御剤を使用しなかった場合
「流延膜の温度」欄 ;第2テンタ43における流延膜の温度(単位;℃)
「拡幅率」欄 ;比較例1,2では第1テンタ22における拡幅率、実施例1〜5と比較例3〜7とでは第2テンタ43における拡幅率
「Re」の「評価」欄;「◎」 Reが50以上であり、とても好ましい
「○」 Reが40以上50未満であり、好ましい
「×」 Reが40未満であり、好ましいとはいえない
「Rth」の「評価」欄;「○」 Rthが100以上300以下であり、好ましい
「×」 Rthが100未満であり、好ましいとはいえない
なお、比較例1,比較例2では、第2テンタ43における結晶化を実施せずに、第1テンタ22での延伸による拡幅のみを実施した。すなわち、流延膜11を170℃以上には達しない延伸可能な温度に加熱し、この加熱下で流延膜11を拡幅した。したがって、「流延膜の温度」欄には、流延膜11を170〜250℃の範囲には加熱していない意味で「−」と記載する。拡幅率は、比較例1では15%、比較例2では50%である。また、比較例4では、第2テンタ43における加熱により熱分解が確認されたので、フィルムに関する各測定を実施しなかった。そのため表1における「P1」、「|P1|」、「Re」、「Rth」の各欄には、「−」と記載する。
【0109】
【表1】

【0110】
各評価の結果から、本発明によると、セルロースエステルやレタデーション制御剤の分子の配向が効率良くかつ効果的に制御され、面方向でのセルロースエステルの配向度P1の絶対値|P1|を好適に調整することができることを確認した。また、ここで、0≦|P1|≦0.050とすると、面方向や厚み方向のレタデーション値であるRe、Rthがそれぞれ40nm以上80nm以下、100nm以上220nm以下というようにともに高い値を示し、分子密度が小さく、かつセルロースエステルの配向度も小さくすることができるので湿度依存性が低減されることが分かる。よって、本発明によるセルロースエステルフィルムは、表示品質に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係わるフィルム製造設備の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0112】
10 第1フィルム製造設備
11 流延膜
16 第2フィルム製造設備
17 フィルム
21 渡り部
21a パスローラ
32 流延ドラム
43 第2テンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レタデーション制御剤とセルロースエステルとを含むセルロースエステルフィルムにおいて、
前記セルロースエステルフィルムの面方向における前記セルロースエステルの配向度P1が0≦|P1|≦0.050を満たし、
下記式(1)で表される前記セルロースエステルフィルムの面方向のレタデーション値Reが、40nm以上80nm以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
式(1) Re=(nx−ny)×d
(ただし、式中のnxは、前記セルロースエステルフィルム面内の遅相軸方向における屈折率であり、nyは進相軸方向における屈折率であり、dは前記セルロースエステルフィルムの厚み(nm)を示す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される前記セルロースエステルフィルムの厚み方向のレタデーション値Rthが、100nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルフィルム。
式(2) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
ただし、式中のnxは前記セルロースエステルフィルム面内の遅相軸方向における屈折率であり、nyは進相軸方向における屈折率であり、nzは厚み方向における屈折率であり、dは前記セルロースエステルフィルムの厚み(nm)を示す。
【請求項3】
走行する冷却された支持体上に、レタデーション制御剤とセルロースエステルと溶剤とを含むドープを流延して流延膜を形成する工程と、
前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥する工程と、
を有し、
残留溶剤量が10重量%に達した後の前記流延膜を、前記セルロースエステルが結晶化するように170℃以上250℃以下に加熱し、
前記セルロースエステルが結晶化した前記流延膜を幅方向に10%以上60%以下の拡幅率で延伸することを特徴とするセルロースエステルフィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−260921(P2008−260921A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65752(P2008−65752)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】