説明

セルロースエステル系樹脂組成物

【課題】変形に対する安定性(特に、高温および高湿度下における変形安定性)に優れた成形品を得るのに有用なセルローエステル系樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】セルロースエステル(総平均置換度2.7以下の酢酸セルロースなど)と、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂など)と、前記セルローエステルに対する可塑剤(リン酸エステル、フタル酸エステルなど)と、この可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止するためのブリードアウト抑制剤(縮合リン酸エステルなど)とでセルロースエステル系樹脂組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物由来の材料を出発原料とし、再生可能な材料であるセルロースエステルを含む樹脂組成物及びこの組成物で形成された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミド、ポリカーボネートなどのプラスチックは、パーソナルコンピュータなどのオフィス・オートメーション(OA)機器、テレビや冷蔵庫などの家電製品、容器やパッケージなどの包装材、壁材や床材などの建築資材、自動車などの輸送車両などを構成する材料として広く使用され、大量消費されている。前記プラスチックは成形性や生産性、機械的特性に優れるものの、合成樹脂であるため、廃棄や焼却によって、土壌中へ有害物質が流出したり、有毒ガスが発生するなど、環境的な負荷が大きい。
【0003】
そこで、天然素材系のセルロース、澱粉主体のプラスチック、ポリ乳酸やカプロラクトン系共重合体などの生分解性プラスチックの使用が検討されている。しかし、これらの生分解性プラスチックは、成形性、生産性、耐熱性などが低い。例えば、ポリ乳酸は結晶化速度が著しく遅く、成形サイクルが長くなり、射出成形には不適である。このような欠点を克服する天然素材系プラスチックとしては、セルロースエステル(例えば、低置換度セルロースエステルなど)が提案されている。このようなセルロースエステルは、そのままでは成形性(熱成形性)に乏しく、通常、可塑剤の併用により可塑化された状態で熱成形(射出成形など)されている。
【0004】
例えば、特許第2533764号公報(特許文献1)には、脂肪酸セルロースエステル100重量部に対して、弱有機酸0.001〜0.05重量部、特定のチオエーテル化合物0.05〜1重量部、亜リン酸エステル化合物0〜1重量部、エポキシ化合物0〜5重量部を配合してなる脂肪酸エステル系樹脂組成物が開示されている。この文献には、脂肪酸セルロースエステル系樹脂は、通常、可塑剤を含有し、更に充填剤などが添加されていると記載されている。また、特開平10−306175号公報(特許文献2)には、脂肪酸セルロースエステル100重量部に対して、融点が常温を超える亜リン酸エステル化合物0.05〜1重量部、弱有機酸0.001〜0.05重量部、チオエーテル化合物0.05〜1重量部、エポキシ化合物5重量部以下を配合してなる脂肪酸セルロースエステル系樹脂組成物が開示されている。この文献には、必要に応じ可塑剤として、トリフェニルホスフェートなどの正リン酸エステルなどを適量添加してもよいと記載されている。
【0005】
さらに、特開2005−194302号公報(特許文献3)には、平均置換度2.7以下のセルロースエステル(酢酸セルロースなど)、可塑剤(リン酸エステルなど)及び充填剤(タルクなど)で構成された樹脂組成物が開示されている。この文献の組成物は、成形性が高く、薄肉で射出成形してもバリの発生を抑制できる。
【0006】
しかし、これらの文献に記載の樹脂組成物(又はこのような樹脂組成物で形成された成形品)は、セルロースエステルの吸湿のために、高温高湿下で変形しやすく、変形に対する安定性(寸法安定性、ソリに対する安定性など)に乏しい。
【0007】
一方、セルロースエステルなどの生分解性樹脂と他の樹脂とを組み合わせる試みもなされている。例えば、特開昭59−206815号公報(特許文献4)には、本質的に低分子量可塑剤を含まず、脂肪族カルボン酸のセルロースエステル(例えば、セルロースアセトプロピオネート、セルロースアセトブチレートなど)のポリマーアロイからつくられたコンタクトレンズであって、ポリマーアロイが、(A)セルローエステル97〜70重量%および(B)ポリマー鎖中にエステル及び/又はカーボネート基を有し、かつ分子量が2000〜300000である脂肪族化合物3〜30重量%より成るコンタクトレンズが開示されている。この文献には、前記脂肪族化合物(B)として、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルエステルなどを使用できることが記載されている。
【0008】
また、特公平2−503324号公報(特許文献5)には、少なくとも一部分が気孔空隙と接する酢酸セルロースの微小ビーズが分散した連続ポリエステル相を有することを特徴とする成形品であって、酢酸セルロースの該微小ビーズが該ポリエステルの重量に基づき10〜30重量%の量で存在し、該気孔空隙が該成形品の2〜50容量%を占める成形品が開示されている。この文献には、前記成形品は、ポリエステルの溶融物に酢酸セルロースを混合することにより形成された混合物を成形することにより製造できることが記載されている。
【0009】
さらに、特開2003−306577号公報(特許文献6)には、連続相を構成し、かつ可塑化されたセルロース誘導体と、前記セルロース誘導体と異なる屈折率を有し、かつ分散相を構成する熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルエステル系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、熱可塑性エラストマーなど)とで構成されたセルロース系樹脂組成物が開示されている。この文献には、前記可塑化されたセルロース誘導体として、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、エポキシ誘導体などの可塑剤により外部可塑化されたセルロース誘導体(セルロースアセテートプロピオネートなど)を例示している。この文献の組成物では、可塑化されたセルロース誘導体と異なる屈折率の熱可塑性樹脂とを使用することにより、分散相を簡便にかつ効率よく異方的形状に変形でき、光学的特性に優れた成形体が得られる。
【0010】
これらの文献では、特定のセルロースエステルと特定の樹脂とを組み合わせ、特定の方法又は条件で成形することにより、各用途(コンタクトレンズ用途、発泡体用途、光学用途)に応じた特定の成形体を得ることができる。なお、これらの文献には、セルロースエステルの吸湿の問題については、記載されていない。例えば、前記特許文献6では、屈折率を調整することにより、透明性を向上させることを目的としており、セルロースエステルの吸湿およびそれに伴う高温高湿度下における変形について何ら想定していない。
【0011】
なお、特開2004−2613号公報(特許文献7)には、熱可塑性樹脂、澱粉質系材料および相溶化剤(例えば、不飽和ジカルボン酸および/またはその酸無水物で変性された酸変性ポリオレフィン樹脂など)を含む澱粉質系複合樹脂組成物が開示されている。この文献には、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン樹脂及び/又は生分解性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族・芳香族ポリエステル樹脂など)を例示している。また、澱粉質系材料として、生澱粉、変性澱粉、セルロース粉末、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、酢酸セルロースなど)、キトサン、製麺生地およびパン屑などを例示しており、全ての実施例においてコーンスターチ及び/又は粉砕したパン屑を使用している。さらに、この文献には、澱粉質系複合樹脂組成物の分子構造中に取り込まれ、相溶化され柔軟性や流動性等を付与し、複合樹脂組成物を可塑化するため、グリセリン、1,3―プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、油脂(ヤシ油、パーム油、大豆油、ヒマシ油など)、油脂硬化油(ヤシ油硬化油、パーム極度硬化油など)などの可塑剤(改質剤)を前記樹脂組成物に配合してもよいことが記載されている。
【特許文献1】特許第2533764号公報(請求項1、第2頁第3欄第15〜17行、第3頁第6欄第9〜20行)
【特許文献2】特開平10−306175号公報(請求項3、段落番号[0023][0028])
【特許文献3】特開2005−194302号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開昭59−206815号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特公平2−503324号公報(特許請求の範囲、第6頁右下欄)
【特許文献6】特開2003−306577号公報(特許請求の範囲、段落番号[0006][0021][0022][0031])
【特許文献7】特開2004−2613号公報(特許請求の範囲、段落番号[0022][0023][0025][0031][0032]、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、変形に対する安定性(又は寸法安定性、特に、高温および高湿度下における変形安定性)に優れた成形品を得るのに有用なセルローエステル系樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、セルロースエステルで構成されていても、成形品の吸湿性を高いレベルで抑制できるセルロースエステル系樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、セルローエステルに対する可塑剤(例えば、リン酸エステル、フタル酸エステルなど)を使用しても、この可塑剤のブリードアウトを高いレベルで抑制又は防止できるセルロースエステル系樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止できるとともに、種々の物性(機械的強度、耐衝撃性などの機械的特性や、難燃性、耐熱性などの化学的特性)のバランスに優れたセルロースエステル系樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、成形過程および成形後において、セルロースエステルからの異臭(特に、酢酸などの有機酸臭)の発生を著しく抑制できるとともに、成形性に優れたセルロースエステル系樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、セルローエステルに対する可塑剤を含むセルロースエステルと、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂と、さらに前記可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止可能なブリードアウト抑制剤とを組み合わせた樹脂組成物を成形すると、変形に対する安定性(特に、高温及び高湿度下における変形安定性又は寸法安定性)に優れた成形品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の樹脂組成物(セルロースエステル系樹脂組成物、セルロース系樹脂組成物)は、セルロースエステルと、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂(セルロースエステル以外の熱可塑性樹脂、セルロースエステルを除く熱可塑性樹脂)と、前記セルローエステルに対する可塑剤と、この可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止するためのブリードアウト抑制剤とで構成されている。
【0019】
前記セルロースエステルの総平均置換度は、例えば、2.7以下であってもよい。また、前記セルロースエステルは、グルコース単位の6位の平均置換度が、特定の範囲(例えば、平均置換度が0.35〜0.8程度)のセルロースエステルであってもよい。
【0020】
また、前記非セルロースエステル系熱可塑性樹脂は、芳香族ポリエステル系樹脂および芳香族ポリカーボネート系樹脂から選択された少なくとも1種で構成されていてもよい。なお、前記樹脂組成物において、前記非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、5〜100重量部程度であってもよい。
【0021】
前記可塑剤は、例えば、非縮合系リン酸エステル、およびフタル酸エステルから選択された少なくとも1種で構成してもよい。また、前記ブリードアウト抑制剤は、縮合リン酸エステルで構成してもよい。なお、前記樹脂組成物において、ブリードアウト抑制剤の割合は、可塑剤100重量部に対して3〜50重量部程度であってもよい。
【0022】
代表的な前記樹脂組成物には、総平均置換度2.1〜2.7程度及びグルコース単位の6位の平均置換度0.4〜0.7程度の酢酸セルロースと、ポリブチレンテレフタレート系樹脂及び芳香族ポリカーボネート系樹脂から選択された少なくとも1種の非セルロースエステル系熱可塑性樹脂と、リン酸トリアリールエステルと、融点が70〜150℃の芳香族縮合リン酸エステルとで構成されており、前記非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の割合が、前記酢酸セルロース100重量部に対して10〜80重量部程度であり、リン酸トリアリールエステルの割合が、前記酢酸セルロース100重量部に対して5〜40重量部程度であり、前記芳香族縮合リン酸エステルの割合が、リン酸トリアリールエステル100重量部に対して8〜40重量部程度である樹脂組成物などが含まれる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、さらに、エポキシ樹脂およびエポキシ変性ジエン系共重合体から選択された少なくとも1種の相溶化剤を含んでいてもよい。また、本発明の樹脂組成物は、さらに、繊維状充填剤、板状充填剤及び粉粒状充填剤から選択された少なくとも一種の充填剤を含んでいてもよい。さらに、本発明の樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物および長鎖脂肪族エポキシ化合物から選択された少なくとも1種のエポキシ化合物を含んでいてもよい。また、前記樹脂組成物は、さらに、有機酸、チオエーテル系化合物、および亜リン酸エステルから選択された少なくとも1種の安定化剤を含んでいてもよい。
【0024】
また、本発明の樹脂組成物は、セルロースエステルからの異臭(特に、酢酸などの有機酸臭)の発生を抑制又は防止するため、消臭剤を含んでいてもよく、このような消臭剤は、例えば、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムおよびカルボジイミド化合物から選択された少なくとも1種で構成してもよい。さらに、本発明の樹脂組成物は、酸変性樹脂を含んでいてもよい。このような酸変性樹脂は、溶融混練における障害を効率よく防止できるとともに、前記消臭剤との組み合わせにより、セルロースエステル由来の酸(特に酢酸などの有機酸)の発生を高レベルで抑制できる。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、高温での溶融工程を含む成形方法に好適に利用でき、例えば、射出成形に用いてもよい。本発明には、前記樹脂組成物で形成された成形品も含まれる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の樹脂組成物は、セルロースエステルで構成されているにもかかわらず、変形に対する安定性(又は寸法安定性、特に、高温および高湿度下における変形安定性)に優れた成形品を得るのに有用である。また、本発明の樹脂組成物は、セルロースエステルで構成されていても、成形品の吸湿性を高いレベルで抑制できる。さらに、本発明の樹脂組成物では、セルローエステルに対する可塑剤(例えば、リン酸エステル、フタル酸エステルなど)を使用しても、この可塑剤のブリードアウトを高いレベルで抑制又は防止できるため、高い寸法安定性で成形品を得ることができる。このような本発明の樹脂組成物で形成された成形品は、可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止できるとともに、種々の物性(機械的強度、耐衝撃性などの機械的特性や、難燃性、耐熱性などの化学的特性)のバランスに優れている。また、本発明では、特定の消臭剤を使用することにより、成形過程および成形後において、セルロースエステルからの異臭(特に、酢酸などの有機酸臭)の発生を著しく抑制できるとともに、成形性に優れたセルロースエステル系樹脂組成物及びその成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のセルロースエステル系樹脂組成物は、セルロースエステルと、可塑剤と、この可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止するためのブリードアウト抑制剤と、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂とで構成されている。
【0028】
本発明では、このような組み合わせで構成することにより、セルロースエステルを含む成形品(又は樹脂組成物)の変形を高いレベルで抑制できる。変形を抑制できる理由は定かではないが以下のような理由が考えられる。すなわち、セルロースエステル(例えば、酢酸セルロース)は、元来吸湿しやすく、しかもこの吸収された水は、セルロースエステルを可塑化する作用を有している。そのため、セルロースエステルを含む成形品を放置すると、吸湿により、セルロースエステルのガラス転移点が低温側にシフトし、成形品内の内部応力が解放されて変形が生じる。このような吸湿は、特に、高温及び高湿度下において生じやすい。一方、セルロースエステルは、成形性に乏しいため、通常、可塑剤を添加して使用するが、この可塑剤が成形品(又は樹脂組成物)からブリードアウトしやすい。
【0029】
そこで、本発明では、前記組み合わせにより、可塑剤のブリードアウト及び吸湿を抑制し、生物由来の材料としてのセルロースエステルで構成しても、変形に対する優れた安定性(又は寸法安定性)を樹脂組成物(又はその成形品)に付与する。
【0030】
[セルロースエステル]
セルロースエステルとしては、例えば、セルロース有機酸エステル[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC2−6カルボン酸エステル]、前記有機酸エステルの誘導体(ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテートなどのグラフト体など)、セルロース有機酸エステル・エーテル類(アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロースなどのC2−6アシルセルロースC1−6アルキルエーテル、アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロースなどのC2−6アシルセルロースヒドロキシC2−6アルキルエーテルなど)、セルロース無機酸エステル(硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなど)、セルロース有機酸・無機酸混合エステル(硝酸酢酸セルロースなど)などが挙げられる。これらのセルロースエステルは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
これらのセルロースエステルのうち、セルロース有機酸エステル、特に酢酸セルロース(又はセルロースアセテート)が好ましい。
【0032】
セルロースエステル(例えば、酢酸セルロース)において、置換基(又はエステル基又はアシル基)の総平均置換度(セルロースを構成するグルコース単位の2,3および6位に置換するエステル基の総平均置換度)は、成形性及び機械的特性の点から、通常、2.7以下(例えば、1.7〜2.7程度)である場合が多く、好ましくは1.8〜2.7、さらに好ましくは1.9〜2.65(例えば、2〜2.55)、通常、2.1〜2.7(例えば、2.2〜2.6)程度であってもよい。生分解性の点からは、セルロースエステルの総平均置換度は、例えば、1.7〜2.5、好ましくは1.8〜2.4、さらに好ましくは1.9〜2.3(特に2〜2.2)程度であってもよい。
【0033】
また、セルロースエステル(例えば、酢酸セルロース)において、グルコース単位の6位の平均置換度は、例えば、0.95以下(例えば、0.3〜0.9程度)、好ましくは0.85以下(例えば、0.35〜0.8程度)、さらに好ましくは0.75以下(例えば、0.4〜0.7程度)、特に0.65以下(例えば、0.45〜0.6程度)であってもよい。このような6位の平均置換度が比較的小さなセルロースエステルは、射出成形などに対する成形性をより一層向上できる。
【0034】
セルロースエステルの重合度は、特に制限されず、粘度平均重合度で、100〜1000、好ましくは100〜500、さらに好ましくは200〜500(特に200〜400)程度であってもよい。
【0035】
[非セルロースエステル系熱可塑性樹脂]
非セルロースエステル系熱可塑性樹脂(単に熱可塑性樹脂ということがある)としては、セルロースエステルとの組み合わせにより、セルロースエステル組成物(又はその成形品)の変形安定性を向上できる限り特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂、例えば、付加重合系樹脂{例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリメチルペンテンなどのポリα−C2−10オレフィン、シクロペンタジエン系樹脂、ノルボルネン系樹脂などの環状オレフィン系樹脂など)、ハロゲン含有樹脂[例えば、塩素含有樹脂(ポリ塩化ビニルなど)など]、カルボン酸ビニルエステル系樹脂(ポリ酢酸ビニルなどの酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチレートなど)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体など)、アクリル系樹脂[例えば、ポリメタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体など]、熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなど)など}、縮合重合系樹脂{例えば、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリエステル系樹脂[例えば、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂(例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリヒドロキシバリレートなどのラクトン又は脂肪族オキシカルボン酸の単独又は共重合体など)など]、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXDなど)、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレンホモ又はコポリマーなど)、ポリスルホン系樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂[例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテルなど)、ポリスルフィド系樹脂(ポリフェニレンスルフィド、ポリビフェニレンスルフィドなど)など]、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、ポリケトン系樹脂(ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドケトンなど)、ポリイミド系樹脂(例えば、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなど)など}が例示できる。
【0036】
これらの樹脂のうち、特に、吸湿性の観点から、比較的吸湿性が低い熱可塑性樹脂が好ましい。また、ガラス転移温度が高く、耐熱性が良好な樹脂(例えば、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂など)も好ましい。さらに、セルローエステルの分解温度(例えば、酢酸セルロースでは240℃程度)よりも低い温度で、加工(又は成形)可能である熱可塑性樹脂も好適に使用できる。さらにまた、セルロースエステルに対する親和性の観点から、極性基を有する熱可塑性樹脂なども好ましい。
【0037】
このような観点から、総合的に、芳香族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂などが特に好ましい。
【0038】
(芳香族ポリエステル系樹脂)
芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合物などが挙げられる。なお、芳香族ポリエステル系樹脂は、液晶ポリエステルであってもよい。芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、C8−16アレーンジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸など)、ジアリールジカルボン酸(例えば、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸など)、ジアリールアルカンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸などのジフェニルC1−10アルカンジカルボン酸など)、ジアリールケトンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸など)、これらの誘導体(低級アルキルエステル、酸無水物などのエステル形成可能な誘導体など)などが挙げられる。芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を併用してもよい。
【0039】
ジオール成分には、例えば、脂肪族ジオール[例えば、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのC2−10アルキレングリコール、好ましくはC2−6アルキレングリコール)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)など]、脂環族ジオール[例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロアルカンジアルカノール(1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのC5−6シクロアルカンジC1−2アルカノールなど)、水素化ビスフェノールAなど]、芳香族ジオール{ハイドロキノン、レゾルシノール、ビフェノール、ビスフェノール類又はそのC2−3アルキレンオキシド付加体[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンなど]、キシリレングリコールなど}などが挙げられる。通常、ジオール成分は、脂肪族ジオール及び/又は脂環族ジオールで少なくとも構成する場合が多い。ジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3官能以上のポリオールを併用してもよい。
【0040】
代表的な芳香族ポリエステル系樹脂としては、少なくともテレフタレート単位を有するポリエステル系樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂[例えば、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート単位を主成分(例えば、ポリマー全体の50〜100重量%、好ましくは75〜100重量%程度)とするコポリエステル(ポリエチレンテレフタレートコポリエステルなど)など]、ポリプロピレンテレフタレート系樹脂[例えば、ポリプロピレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート単位を主成分(例えば、ポリマー全体の50〜100重量%、好ましくは75〜100重量%程度)とするコポリエステル(ポリプロピレンテレフタレートコポリエステル)など]、ポリブチレンテレフタレート系樹脂[例えば、ポリブチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート単位を主成分(例えば、ポリマー全体の50〜100重量%、好ましくは75〜100重量%程度)とするコポリエステル(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)]などのポリC2−4アルキレンテレフタレート系樹脂;ポリシクロアルカンジアルキレンテレフタレート系樹脂(例えば、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなど)などが挙げられる。
【0041】
これらの芳香族ポリエステル系樹脂のうち、特に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。芳香族ポリエステル系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0042】
(芳香族ポリカーボネート系樹脂)
芳香族ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、芳香族ジオール成分と、カーボネート形成性化合物との反応により得られる重合体(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂など)などが挙げられる。
【0043】
芳香族ジオール成分としては、ビスフェノール類、例えば、ジ(ヒドロキシC6−10アレーン)類(4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン、好ましくはビス(ヒドロキシフェニル)C1−8アルカンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C5−8シクロアルカンなど]、ビス(ヒドロキシフェニルアリール)アルカン類[例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニリル)プロパンなどのビス(ヒドロキシビフェニリル)C1−10アルカン]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル−アルキル)アレーン類{例えば、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールなどのビス(ヒドロキシフェニル−C1−4アルキル)C6−10アレーン}などが挙げられる。
【0044】
これらの芳香族ジオール成分のうち、特に、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−4アルカン、特に、2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類(例えば、ビスフェノールAなど)]が好ましい。芳香族ジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0045】
カーボネート形成性化合物(カーボネート前駆体)としては、カーボネート結合を形成することのできる化合物、例えば、ホスゲン類(ホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲンなど)、カーボネート類[例えば、ジアルキルカーボネート(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)、ジアリールカーボネート(ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなど)などの炭酸ジエステル類]などが挙げられる。これらのうち、ホスゲン、ジフェニルカーボネートなどが好ましい。カーボネート形成性化合物は、単独で又は2種以上組みあわせて用いてもよい。
【0046】
芳香族ポリカーボネート系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0047】
熱可塑性樹脂の数平均分子量は、特に制限されず、樹脂の種類や用途に応じて適宜選択でき、例えば、5000〜2000000、好ましくは10000〜1500000、さらに好ましくは20000〜1000000程度の範囲から選択できる。特に、熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂で構成されている場合、数平均分子量は、例えば、5000〜1000000、好ましくは10000〜500000、さらに好ましくは15000〜300000程度であってもよい。
【0048】
非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、1〜150重量部(例えば、3〜120重量部)、好ましくは5〜100重量部(例えば、10〜80重量部)、さらに好ましくは15〜75重量部(例えば、20〜70重量部)程度であってもよい。
【0049】
[可塑剤]
可塑剤としては、セルロースエステルを可塑化可能な化合物、例えば、リン酸エステル、カルボン酸エステル類[芳香族カルボン酸エステル、脂肪酸エステル、多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなど)の低級脂肪酸エステル(トリアセチン(TA)、ジグリセリンテトラアセテートなど)、グリコールエステル(ジプロピレングリコールジベンゾエートなど)、クエン酸エステル(クエン酸アセチルトリブチル(OACTB)など)など]、アミド類[例えば、N−ブチルベンゼンスルホンアミド(BM−4)などのスルホンアミド]、エステルオリゴマー(カプロラクトンオリゴマーなど)などが挙げられる。
【0050】
リン酸エステル(非縮合リン酸エステル)としては、脂肪族リン酸エステル[例えば、リン酸トリアルキルエステル(リン酸トリエチル、リン酸トリブチルなどのリン酸トリC1−12アルキルエステル)、リン酸トリアルコキシアルキルエステル(例えば、リン酸トリブトキシエチルなどのリン酸トリC1−6アルコキシC1−12アルキルエステル)など]、芳香族リン酸エステル[リン酸アルキルジアリールエステル(例えば、リン酸オクチルジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニルなどのリン酸C1−20アルキル−ジC6−15アリールエステル、好ましくはリン酸C1−12アルキル−ジC6−10アリールエステル)、リン酸トリアリールエステル(例えば、リン酸トリフェニル(TPP)、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリ(イソプロピルフェニル)、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸クレジル−2,6−ジ(キシレニル)などのリン酸トリC6−15アリールエステル、好ましくはリン酸トリC6−10アリールエステルなど)など]などが挙げられる。
【0051】
芳香族カルボン酸エステルとしては、芳香族ポリカルボン酸エステル、例えば、芳香族ジカルボン酸エステル[例えば、フタル酸ジアルキルエステル(例えば、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)などのフタル酸ジC1−12アルキルエステルなど)、フタル酸ジ(アルコキシアルキル)エステル(例えば、フタル酸ジメトキシエチルなどのフタル酸C1−6アルコキシC1−12アルキルエステルなど)、フタル酸アルキル−アラルキルエステル(例えば、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸C1−12アルキル−(C6−10アリール−C1−4アルキル)エステルなど)、アルキルフタリルアルキレングリコレート(例えば、エチルフタリルエチレングリコレート、ブチルフタリルブチレングリコレートなどのC1−6アルキルフタリルC2−4アルキレングリコレートなど)などのフタル酸エステルなど]、芳香族トリカルボン酸エステル(例えば、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル(TOTM)などのトリメリット酸トリC1−12アルキルエステル)、芳香族テトラカルボン酸エステル(例えば、ピロメリット酸テトラオクチルなどのピロメリット酸テトラC1−12アルキルエステルなど)が挙げられる。
【0052】
脂肪酸エステル(脂肪族カルボン酸エステル)としては、脂肪族ジカルボン酸エステル(例えば、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ブトキシエトキシエチル・ベンジル、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル(BXA)などのアジピン酸エステル、アゼライン酸ジエチル、アゼライン酸ジブチル、アゼライン酸ジオクチルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチルなどのセバシン酸エステルなどのC6−12ジカルボン酸C1−12アルキルエステル)、不飽和脂肪酸エステル(オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチルなどのC8−30アルケンカルボン酸−C1−12アルキルエステルなど)などが挙げられる。
【0053】
これらの可塑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
これらの可塑剤のうち、リン酸エステル、フタル酸エステル(フタル酸ジアルキルエステルなど)、エステルオリゴマーなどが好ましく、特に、リン酸エステル(非縮合リン酸エステル)[特に、リン酸トリアリールエステル(リン酸トリフェニルなど)などの芳香族リン酸エステル]が好ましい。なお、可塑剤としてリン酸エステルを用いると、難燃性及び耐熱性も向上できる。
【0055】
また、可塑剤は、少なくともセルロースエステルに対する可塑剤(すなわち、少なくともセルロースエステルを可塑化可能な可塑剤)であればよく、特にセルロースエステル及び非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の双方を可塑化可能な可塑剤であってもよい。このような双方を可塑化可能な可塑剤としては、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えば、熱可塑性樹脂が、後述のポリエステル系樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂など)やポリカーボネート系樹脂である場合には、リン酸エステル、フタル酸エステルなどの可塑剤が挙げられる。このような点からも、リン酸エステルなどの可塑剤を好適に用いることができる。
【0056】
なお、可塑剤は、前記セルロースエステルとの相溶性の観点から、前記セルロースエステルの溶解性パラメータ(SP値)と同程度のSP値を有していてもよい。前記有機酸セルロースエステルのSP値は、置換度や種類によって異なるが、例えば、酢酸セルロースで10〜11(MPa)1/2程度である。従って、可塑剤のSP値は、例えば、8〜12(MPa)1/2、好ましくは8.5〜12(MPa)1/2、さらに好ましくは9〜12(MPa)1/2程度であってもよい。なお、本発明における溶解性パラメータ(SP、下記式ではδ)は、下記式で表されるスモール(Small)の式に準じる。
【0057】
δ=dΣ(Δδ)/M
(式中、dは密度、Δδは構成原子団に対応する溶解度パラメータ、Mは分子量を示す)
なお、スモールの式は、SP値が未知の物質に対し、上記のように、構成原子団に相当する溶解性パラメータ(又は溶解度パラメータ)を用いて溶解度パラメータを求める式であり、スモールの式の詳細は、例えば、「可塑剤−その理論と応用−(初版第1刷) 村井孝一編著;第14〜16頁;(株)幸書房」などを参照できる。
【0058】
可塑剤は、常温で固体であってもよく、液状であってもよい。なお、常温で固体の可塑剤であっても、ヘンシェルミキサーなどの混合機により混練し、外部からの加熱又は混合機中の回転による摩擦熱で、系中の温度が可塑剤の融点以上に上昇すれば、可塑剤とセルロースエステルとは充分に混ざり合う。また、液状の可塑剤と固体の可塑剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0059】
可塑剤(リン酸エステルなど)の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、1〜60重量部、好ましくは3〜50重量部(例えば、5〜40重量部)、さらに好ましくは8〜30重量部(特に、10〜20重量部)程度であってもよい。
【0060】
また、可塑剤の割合は、セルロースエステル及び非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.3〜40重量部(例えば、0.5〜30重量部)、好ましくは1〜25重量部(例えば、2〜20重量部)、さらに好ましくは3〜18重量部(特に5〜15重量部)程度であってもよい。
【0061】
[ブリードアウト抑制剤]
ブリードアウト抑制剤は、セルロースエステルと、非セルローエステル系熱可塑性樹脂と、可塑剤(セルロースエステルに対する可塑剤)とを含む組成物(およびその成形体)から、前記可塑剤のブリードアウトを抑制できる化合物であればよい。
【0062】
このようなブリードアウト抑制剤として作用する化合物としては、例えば、縮合リン酸エステル(通常、芳香族縮合リン酸エステル)、炭化水素基を有するケテンダイマー類(以下、単にケテンダイマー類、ケテンダイマー、ジケテン類などと称する場合がある)および炭化水素基を有する無水コハク酸類(以下、単に、無水コハク酸類などと称する場合がある)などが挙げられる。
【0063】
(縮合リン酸エステル)
縮合リン酸エステルは、前記可塑剤のブリードアウトを抑制可能な化合物であればよく、通常、オキシ塩化リンなどのリン成分と、ポリヒドロキシ化合物[又はポリオール類(通常、芳香族ポリオール類)]と、モノオール類(又はモノヒドロキシ化合物、特に、フェノール類などのモノヒドロキシアレーン類)との反応生成物(特に、芳香族縮合リン酸エステル)であり、少なくとも2つ(特に2つ)のリン酸単位を分子中に有する化合物である。
【0064】
ポリオール類としては、非芳香族ポリオール(例えば、脂肪族ポリオールなど)、芳香族ポリオール(通常、多価フェノール類、ビスフェノール類など)などが例示できる。ポリオール類は、通常、少なくとも芳香族ポリオールで構成されている。
【0065】
代表的な多価フェノール(ポリヒドロキシベンゼン)類としては、例えば、ジヒドロキシベンゼン(カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン)、置換基を有するジヒドロキシベンゼン{アルキル−ジヒドロキシベンゼン[ジヒドロキシトルエン(3,5−ジヒドロキシトルエンなど)、5−t−ブチルレゾルシノール、ジヒドロキシキシレン(2,6−ジヒドロキシ−p−キシレンなど)などのモノ又はジC1−10アルキル−ジヒドロキシベンゼンなど]、アリール−ジヒドロキシベンゼン(2,4−ジヒドロキシビフェニルなどのC6−10アリール−ジヒドロキシベンゼンなど)、ハロ−ジヒドロキシベンゼン(2,4−ジフルオロヒドロキノンなどのモノ又はジハロ−ジヒドロキシベンゼンなど)、アシル−ジヒドロキシベンゼン[アルキルカルボニル−ジヒドロキシベンゼン(2,4−ジヒドロキシアセトフェノンなどのC2−6アルキルカルボニル−ジヒドロキシベンゼンなど)、アリールカルボニル−ジヒドロキシベンゼン(例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンなどのC6−10アリールカルボニル−ジヒドロキシベンゼン)など}などのジヒドロキシベンゼン類、;これらのジヒドロキシベンゼン類に対応するトリヒドロキシベンゼン類[例えば、トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール、ヒドロキシヒドロキノン、フロログルシノール)、トリヒドロキシアセトフェノンなど]などが挙げられる。
【0066】
代表的なビスフェノール類としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンなどの置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン]、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどの置換基を有していてもよいビス(ヒドロキシフェニル)C5−10シクロアルカン]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類(4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル−アルキル)アレーン類[4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールなど]などが挙げられる。
【0067】
これらのうち、好ましいポリオール類は、ジヒドロキシベンゼン類[ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール、ヒドロキノンなど)、アルキル−ジヒドロキシベンゼン、ハロ−ジヒドロキシベンゼンなどの置換基を有していてもよいジヒドロキシベンゼン(特に、置換基を有していてもよいレゾルシノール)]などが挙げられる。
【0068】
モノオール類(フェノール類を含む)としては、非芳香族モノアルコール(脂肪族アルコールなど)、モノヒドロキシアレーン類が挙げられる。モノオール類は、通常、モノヒドロキシアレーン類であってもよい。代表的なモノヒドロキシアレーン類としては、例えば、フェノール類{例えば、フェノール、置換基を有するフェノール類[アルキルフェノール(o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノールなどのモノ又はジC1−10アルキルフェノール、好ましくはモノ又はジC1−6アルキルフェノール、さらに好ましくはジC1−4アルキルフェノール)、アリールフェノール(o−フェニルフェノールなどのモノ又はジC6−10アリールフェノールなど)、シクロアルキルフェノール(2−シクロヘキシルフェノールなどのモノ又はジC5−10シクロアルキルフェノールなど)などの炭化水素基を有するフェノール、アルコキシフェノール(o−メトキシフェノールなどのモノ又はジC1−10アルコキシフェノールなど)、ハロフェノール(クロロフェノールなどのモノ又はジハロフェノールなど)、アシルフェノール[アルキルカルボニルフェノール(ヒドロキシアセトフェノンなどのC2−6アルキルカルボニルフェノールなど)、アリールカルボニル−ジヒドロキシベンゼン(例えば、ヒドロキシベンゾフェノンなどのC6−10アリールカルボニルフェノール)]などの置換基を有していてもよいモノヒドロキシC6−10アレーンなどが含まれる。
【0069】
これらのモノオール類のうち、フェノール、炭化水素基を有するフェノール類が好ましく、特にアルキルフェノールが好ましい。なお、リン成分およびポリオール類と反応させるモノオール類は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0070】
好ましい縮合リン酸エステルは、芳香族縮合リン酸エステル(すなわち、ポリオール類が芳香族ポリオール類であり、かつモノオール類がモノヒドロキシアレーン類である縮合リン酸エステル)である。
【0071】
代表的な縮合リン酸エステルには、例えば、下記式(1)で表される化合物(フェノール類およびジヒドロキシベンゼン類を原料とする縮合リン酸エステル)などが含まれる。
【0072】
【化1】

【0073】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって置換基を示し、kおよびmは0〜5の整数、nは0〜4の整数を示す。)
上記式(1)において、R〜Rで表される置換基としては、例えば、炭化水素基[アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−10アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基などのC6−10アリール基など)など]、アルコキシ基(メトキシ基などのC1−4アルコキシ基など)、アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)などが挙げられる。
【0074】
好ましい置換基(例えば、RおよびR)は、炭化水素基、特に、アルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)などが挙げられる。
【0075】
また、置換数k、mおよびnの合計が1以上の整数(例えば、2〜8、好ましくは3〜6程度)である場合が多く、特にkおよびmが、それぞれ1以上(例えば、2〜4、好ましくは2〜3、特に2)であってもよい。
【0076】
置換基R〜Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、末端のベンゼン環の置換基RおよびRは、ベンゼン環の2〜6位から適宜選択でき、通常、少なくとも2位(又は6位)に置換基R又はRが置換していてもよい。例えば、置換基RおよびRは、kおよびmが2であるとき、2位および6位、2位および3位、2位および4位などに置換していてもよく、特に、2位および6位に置換していてもよい。
【0077】
前記式(1)で表される化合物のうち、好ましい縮合リン酸エステルには、下記式(2)で表される化合物などが含まれる。
【0078】
【化2】

【0079】
(式中、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なってアルキル基を示す。)
上記式(2)において、R1a、R1b、R2aおよびR2bで表されるアルキル基としては、前記例示のアルキル基(メチル基などのC1−4アルキル基など)などが挙げられる。
【0080】
前記式(1)又は(2)で表される化合物には、例えば、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)などのレゾルシノールビスアリールホスフェート類(後述の式(3)で表される化合物);ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジクレジルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシリルホスフェート)などのハイドロキノンビスアリールホスフェート類などが含まれる。
【0081】
また、上記式(2)で表される化合物のうち、特に好ましい縮合リン酸エステルには、レゾルシノールビス(2,6−ジアルキルフェニルホスフェート)、すなわち、下記式(3)で表される化合物が含まれる。
【0082】
【化3】

【0083】
(式中、R1a、R1b、R2aおよびR2bは前記に同じ。)
前記縮合リン酸エステルは、室温(例えば、15〜30℃程度)で液状又は固体状であってもよい。好ましい縮合リン酸エステルには、効率よくブリードアウトを抑制するという観点から、室温で固体状の縮合リン酸エステルが含まれる。
【0084】
縮合リン酸エステル(室温で固体状の縮合リン酸エステル)の融点は、例えば、10℃以上(例えば、20〜250℃程度)の範囲から選択でき、例えば、30℃以上(例えば、35〜220℃程度)、好ましくは40℃以上(例えば、50〜200℃程度)、さらに好ましくは60℃以上(例えば、70〜150℃程度)、特に80℃以上(例えば、85〜130℃程度)であってもよい。なお、縮合リン酸エステルを2種以上組みあわせる場合、各縮合リン酸エステルそれぞれの融点が上記範囲であってもよく、縮合リン酸エステル全体の融点が上記範囲であってもよい。また、縮合リン酸エステルが不純物を含む場合、縮合リン酸エステルそのもの[又は高純度(例えば、純度99〜100%程度)の縮合リン酸エステル]の融点が、上記範囲であってもよい。
【0085】
(ケテンダイマー類)
前記ケテンダイマー類(又はジケテン類)は、少なくとも1つのケテンダイマー骨格(ケテンダイマー単位)を有していればよく、複数(例えば、2〜20、好ましくは2〜15、さらに好ましくは2〜8程度)のケテンダイマー骨格を有していてもよい。例えば、ケテンダイマー類は、複数のケテンダイマー骨格が、アルキレン基などの連結基を介して連結したケテンダイマー(又はケテンマルチマー)であってもよい。また、ケテンダイマー類(ジケテン類)は、ケトケテン類又はアルドケテン類のダイマーであってもよく、ケトケテン類とアルドケテン類とのダイマーであってもよい。ケテンダイマー類は、通常、ケトケテン類のダイマーであってもよい。
【0086】
さらに、ジケテン類には、ジケテンの誘導体も含まれる。このようなジケテン誘導体としては、例えば、ジケテン類の炭素−炭素二重結合に水素などが付加したラクトン(β−ラクトン)骨格を有する化合物(水素添加物)などが例示できる。なお、このような水素添加物は、ジケテンの接触還元などにより得ることができる。
【0087】
代表的なケテンダイマー類としては、分子内に1つのケテンダイマー骨格を有する化合物、例えば、下記式(4)で表される化合物又はその誘導体(水素添加物など)が挙げられる。
【0088】
【化4】

【0089】
(式中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。ただし、RおよびRが同時に水素原子になることはない)
前記式(4)において、RおよびRで表される炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(又はステアリル基)、エイコシル基などのC1−40アルキル基)、アルケニル基(アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基などのC2−40アルケニル基など)、アルカジエニル基(オクタジエニル基、オクタデカジエニル基などのC4−40アルカジエニル基など)など]、脂環族炭化水素基[例えば、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などのC4−15アルキル基、好ましくはC5−10シクロアルキル基)など]、芳香族炭化水素基[例えば、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6−10アリール基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]などが挙げられる。
【0090】
前記RおよびRで表される炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭化水素基[例えば、アルキル基(前記例示のアルキル基など)、アルケニル基(前記例示のアルケニル基など)、シクロアルキル基(前記例示のシクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基などの前記例示のアリール基など)など]、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などの前記アルキル基に対応するアルコキシ基など)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基(メチルアミノ基などのモノ又はジアルキルアミノ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1−4アルキル−カルボニル基など)、エステル基[例えば、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)など]などが挙げられる。炭化水素基は、これらの置換基を単独で又は2種以上組みあわせて有していてもよい。
【0091】
これらのRおよびRで表される炭化水素基のうち、置換基を有していてもよい長鎖脂肪族炭化水素基(例えば、C6−40脂肪族炭化水素基、好ましくはC8−35脂肪族炭化水素基、さらに好ましくはC10−30脂肪族炭化水素基など)、置換基を有していてもよい脂環族炭化水素基(例えば、C4−10脂環族炭化水素基、好ましくはC5−8脂環族炭化水素基など)、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基(例えば、C6−20芳香族炭化水素基、好ましくはC6−15芳香族炭化水素基、さらに好ましくはC6−8芳香族炭化水素基など)などが好ましく、特に置換基を有していてもよい長鎖脂肪族炭化水素基[特に、長鎖アルキル基(例えば、C6−40アルキル基、好ましくはC8−35アルキル基、さらに好ましくはC10−30アルキル基、特にC12−22アルキル基など)など]が好ましい。
【0092】
なお、RおよびRは、通常、いずれも炭化水素基である場合が多い。また、RおよびRは、異なっていてもよいが、通常、同一であってもよい。
【0093】
具体的な炭化水素基を有するケテンダイマー類としては、例えば、アルキルケテンダイマー類(前記式(1)において、RおよびRが、置換基を有していてもよいアルキル基であるケテンダイマー)、アルケニルケテンダイマー類(前記式(4)において、RおよびRが、置換基を有していてもよいアルケニル基であるケテンダイマー)、シクロアルキルケテンダイマー(前記式(4)において、RおよびRが、置換基を有していてもよいシクロアルキル基であるケテンダイマー)、アリールケテンダイマー(前記式(4)において、RおよびRが、置換基を有していてもよいアリール基であるケテンダイマー)アラルキルケテンダイマー(前記式(1)において、RおよびRが、置換基を有していてもよいアラルキル基であるケテンダイマー)などが挙げられる。
【0094】
アルキルケテンダイマーとしては、長鎖アルキル基を有するケテンダイマー[例えば、デシルケテンダイマー(すなわち、前記式(4)において、RおよびRがデシル基であるケテンダイマー、以下同様)、ドデシルケテンダイマー、テトラデシルケテンダイマー、ヘキサデシルケテンダイマー、オクタデシルケテンダイマー(ステアリルケテンダイマー)、エイコシルケテンダイマーなどのC8−35アルキル−ケテンダイマー、好ましくはC10−30アルキル−ケテンダイマー、さらに好ましくはC12−26アルキル−ケテンダイマー、特にC14−22アルキル−ケテンダイマー]などが挙げられる。
【0095】
アルケニルケテンダイマーとしては、長鎖アルケニル基を有するケテンダイマー[例えば、オクテニルケテンダイマー、デセニルケテンダイマー、ドデセニルケテンダイマー、テトラデセニルケテンダイマー、ヘキサデセニルケテンダイマー、オクタデセニルケテンダイマー、エイコセニルケテンダイマーなどのC8−35アルケニル−ケテンダイマー、好ましくはC10−30アルケニル−ケテンダイマー、さらに好ましくはC12−26アルケニル−ケテンダイマー、特にC14−22アルケニル−ケテンダイマーなど]などが挙げられる。
【0096】
シクロアルキルケテンダイマーとしては、アルキル基を有するシクロアルキルケテンダイマー(例えば、ノニルシクロヘキシルケテンダイマーなどのC4−30アルキル−C4−10シクロアルキル−ケテンダイマー、好ましくはC6−25アルキル−C5−8シクロアルキル−ケテンダイマーなど)などが挙げられる。また、アリールケテンダイマーとしては、アルキル基を有するアリールケテンダイマー(例えば、オクチルフェニルケテンダイマー、ノニルフェニルケテンダイマー、ドデシルフェニルケテンダイマーなどのC4−30アルキル−C6−20アリール−ケテンダイマー、好ましくはC6−25アルキル−C6−15アリール−ケテンダイマーなど)などが挙げられる。アラルキルケテンダイマーとしては、例えば、フェネチルケテンダイマーなどのC6−10アリール−C1−4アルキル−ケテンダイマー、好ましくはC6−8アリール−C1−2アルキル−ケテンダイマーなどが挙げられる。
【0097】
好ましいケテンダイマー類としては、前記式(4)で表される化合物又はその誘導体(水素添加物など)のうち、下記式(4A)で表される化合物又はその誘導体(水素添加物など)が挙げられ、特に、長鎖脂肪族炭化水素基を有するケテンダイマー類[例えば、長鎖アルキル基を有するケテンダイマー類(例えば、C10−30アルキル−ケテンダイマーなど)など]が好ましい。
【0098】
【化5】

【0099】
(式中、R4aおよびR5aは、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよいC6−40脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい脂環族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。ただし、R4aおよびR5aが同時に水素原子になることはない)
前記ケテンダイマー類は、例えば、原料となるカルボン酸又はその誘導体(例えば、カルボン酸クロライドなどのカルボン酸ハライド)から対応するケテンを製造し、このケテンを重合させる(ダイマー化)ことにより得ることができる。なお、複数のケテンダイマー骨格を有するケテンダイマー類(ケテンマルチマー)は、例えば、原料となるカルボン酸又はその誘導体(例えば、カルボン酸クロライドなどのカルボン酸ハライド)の少なくとも一部又は全部をポリカルボン酸(例えば、ジカルボン酸)に代えることにより得てもよい。
【0100】
(無水コハク酸類)
前記無水コハク酸類は、置換基を有していてもよい無水コハク酸[無水コハク酸、無水メチルコハク酸などのアルキル基が置換した無水コハク酸;無水フェニルコハク酸などのアリール基が置換した無水コハク酸など、特に、無水コハク酸]に置換基を有していてもよい炭化水素基が置換した化合物である。
【0101】
すなわち、前記無水コハク酸類は、前記置換基を有していてもよい無水マレイン酸(無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸などの前記無水コハク酸類に対応する無水マレイン酸類)と、少なくともアリル水素を有する化合物(例えば、置換基を有していてもよい内部オレフィン)とをエン付加反応させることにより得られるエン付加物であり、通常、少なくともβ位に炭素−炭素二重結合を有する化合物(又はその誘導体)である場合が多い。なお、前記無水コハク酸類には、前記エン付加物の誘導体なども含まれる。このような誘導体としては、無水コハク酸類に置換する不飽和炭化水素基(又はそのβ位)に水素が付加した水素添加物などが挙げられる。このような水素添加物は、例えば、β位の不飽和結合を接触還元などにより水素添加することにより得ることができる。
【0102】
代表的な炭化水素基を有する無水コハク酸類としては、下記式(5)で表される化合物又はその誘導体(水素添加物など)などが含まれる。
【0103】
【化6】

【0104】
(式中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基、Rは水素原子又は置換基を示す。)
基RおよびRで表される炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基などのC1−30アルキル基、好ましくはC2−20アルキル基、さらに好ましくはC3−10アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基などのC2−10アルケニル基)など]、脂環族炭化水素基[例えば、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などの前記例示のシクロアルキル基など)など]、芳香族炭化水素基[例えば、アリール基(フェニル基などの前記例示のアリール基など)など]などが挙げられ、脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0105】
基RおよびRで表される炭化水素基は置換基を有していてもよい。置換基としては、前記ケテンダイマー類の項で例示の置換基(例えば、アルキル基などの炭化水素基、アルコキシカルボニル基など)が挙げられる。また、無水コハク酸に置換する基[R−CH=CH−CHR−]において、RおよびRの炭素数(炭素数の合計)は、例えば、0〜45(例えば、1〜35)、好ましくは4〜30、さらに好ましくは6〜25、特に10〜22(例えば、12〜20)程度であってもよい。
【0106】
また、基Rで表される置換基としては、前記ケテンダイマー類の項で例示の置換基などが挙げられる。好ましい基Rとしては、水素原子又は炭化水素基(例えば、メチル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基など)などが挙げられ、特に水素原子が好ましい。
【0107】
具体的な無水コハク酸類としては、脂肪族炭化水素基を有する無水コハク酸類、例えば、アルケニル無水コハク酸類(例えば、β−アルケニル無水コハク酸類)、例えば、β−ブテニル無水コハク酸、β−オクテニル無水コハク酸、β−デセニル無水コハク酸、β−ドデセニル無水コハク酸、β−テトラデセニル無水コハク酸、β−ヘキサデセニル無水コハク酸、β−オクタデセニル無水コハク酸などのβ−C6−35アルケニル−無水コハク酸類、好ましくはβ−C8−30アルケニル−無水コハク酸類、さらに好ましくはβ−C10−25アルケニル無水コハク酸類、特にβ−C12−22アルケニル無水コハク酸類など)、これらに対応するアルキル無水コハク酸類(アルケニル無水コハク酸類の水素添加物)などが挙げられる。
【0108】
無水コハク酸類は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0109】
好ましい無水コハク酸類としては、前記式(5)で表される化合物又はその誘導体(水素添加物など)のうち、下記式(5A)で表される化合物又はその誘導体(水素添加物など)が挙げられ、特に、長鎖脂肪族炭化水素基を有する無水コハク酸類[例えば、長鎖アルケニル基を有する無水コハク酸類(例えば、β−C8−30アルケニル無水コハク酸類など)など]などが挙げられる。
【0110】
【化7】

【0111】
(式中、R6aおよびR7aは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、R6aおよびR7aの炭素数の合計が1〜35であり、R8aは水素原子又は置換基を示す。)
前記ケテンダイマー類および無水コハク酸類は、室温で液体状であってもよく、通常、固体状であってもよい。なお、前記ケテンダイマー類及び/又は無水コハク酸類)は、エマルジョンとして使用してもよい。このようなエマルジョン状のブリードアウト抑制剤を使用する場合、例えば、セルローエステル、熱可塑性樹脂および可塑剤などと、エマルジョン状のブリードアウト抑制剤とを押出機などで混合し、エマルジョンを構成する水分などをベントなどを通じて除去しながら樹脂組成物を調製してもよい。
【0112】
ブリードアウト抑制剤は、これらの化合物うち、少なくとも縮合リン酸エステルで構成するのが好ましく、特に縮合リン酸エステルのみで構成してもよい。ブリードアウト抑制剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0113】
ブリードアウト抑制剤の割合(エマルジョンなどでは固形分の割合、以下同じ)は、可塑剤100重量部に対して、例えば、1〜60重量部、好ましくは3〜50重量部(例えば、5〜45重量部)、さらに好ましくは8〜40重量部(例えば、10〜30重量部)程度であってもよい。
【0114】
また、ブリードアウト抑制剤の割合は、セルロールエステル100重量部に対して、例えば、0.3〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜15重量部(例えば、1.5〜7重量部)程度であってもよい。
【0115】
さらに、ブリードアウト抑制剤の割合は、セルロールエステル及び非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜40重量部、好ましくは0.3〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部(例えば、1〜5重量部)程度であってもよい。
【0116】
[相溶化剤]
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、相溶化剤を含んでいてもよい。相溶化剤を含んでいると、樹脂組成物(又は成形品)における層剥離を効率よく防止又は抑制できる。
【0117】
相溶化剤としては、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂(及びセルロースエステル)の種類に応じて適宜選択でき、例えば、オキサゾリン化合物、変性基(カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリニル基など)で変性された(又は変性基を有する)変性樹脂、ジエン又はゴム含有重合体[例えば、ジエン系単量体(ブタジエン、イソプレンなどの置換基を有していてもよいC4−20共役ジエンなど)の単独又は共重合体、ジエン系単量体と共重合性単量体(スチレンなどの芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル系単量体、マレイミド系単量体など)との共重合により得られる共重合体(ランダム共重合体など)などのジエン系重合体;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などのジエン系グラフト共重合体;スチレン−ブタジエン(SB)ブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、水素化(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン)ブロック共重合体などのジエン系ブロック共重合体又はそれらの水素添加物など]、前記変性基(エポキシ基など)で変性したジエン又はゴム含有重合体などが例示できる。これらの相溶化剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0118】
なお、変性は、変性基に対応する単量体(例えば、カルボキシル基変性では(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有単量体、酸無水物基変性では無水マレイン酸、エステル基変性では(メタ)アクリル系単量体、マレイミド基変性ではマレイミド系単量体、エポキシ変性では、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体)を共重合したり、不飽和二重結合をエポキシ化するなどのにより行うことができる。
【0119】
好ましい相溶化剤には、エポキシ樹脂、エポキシ変性ジエン系共重合体などが挙げられる。
【0120】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、芳香族エポキシ樹脂、例えば、エーテル系エポキシ樹脂{例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂(例えば、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂など)、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂[例えば、芳香族環にアルキル基(例えば、C1−20アルキル基、好ましくはメチル基、エチル基などのC1−4アルキル基)が置換していてもよいノボラック樹脂(例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂など)など]、不飽和環状炭化水素化合物変性エポキシ樹脂(例えば、(ジ)シクロペンタジエン型エポキシ樹脂など)、スチルベン型エポキシ樹脂など}、芳香族アミン成分[例えば、単環式芳香族アミン(アニリン、トルイジンなど)、単環式芳香族ジアミン(ジアミノベンゼン、キシリレンジアミンなど)、単環式芳香族アミノアルコール(アミノヒドロキシベンゼンなど)、多環式芳香族性ジアミン(ジアミノジフェニルメタンなど)、多環式芳香族性アミンなど]を用いたアミン系エポキシ樹脂などが含まれる。エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0121】
ビスフェノール型エポキシ樹脂を構成するビスフェノールには、前記ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類と同様の化合物が挙げられる。好ましいビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応により生成するエポキシ樹脂、例えば、ビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン、特に、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールFなどのグリシジルエーテルが挙げられる。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂には、分子量の大きな前記ビスフェノールグリシジルエーテル(すなわち、フェノキシ樹脂)も含まれる。
【0122】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、例えば、200〜200000、好ましくは300〜150000、さらに好ましくは400〜100000程度(例えば、400〜80000程度)であってもよい。特に、フェノキシ樹脂の数平均分子量は、例えば、10000〜180000、好ましくは20000〜120000、さらに好ましくは30000〜100000程度(例えば、40000〜80000程度)であってもよい。
【0123】
また、エポキシ樹脂のエポキシ等量は、例えば、100〜40000g/eq、好ましくは120〜30000g/eq、さらに好ましくは150〜20000g/eq程度であってもよい。特に、フェノキシ樹脂のエポキシ等量は、例えば、1000〜35000g/eq、好ましくは2000〜25000g/eq(例えば、3000〜15000g/eq)、さらに好ましくは4000〜13000g/eq(例えば、5000〜12000g/eq)程度であってもよい。
【0124】
なお、エポキシ樹脂は、ジャパンエポキシレジン(株)から、登録商標「エピコート」シリーズなどとして入手することもできる。
【0125】
(エポキシ変性ジエン系共重合体)
エポキシ変性ジエン系共重合体(又はエポキシ化ジエン系共重合体)としては、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体のいずれであってもよいが、ブロック共重合体を好適に用いることができる。エポキシ変性ジエン系共重合体は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0126】
エポキシ変性ジエン系ブロック共重合体としては、前記例示のジエン系ブロック共重合体又はそれらの水素添加物、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体などの共役ジエンブロック(又はその部分水素添加ブロック)と、非共役ジエンブロック(例えば、芳香族ビニルブロック)とで構成された共役ジエン系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0127】
エポキシ変性ジエン系ブロック共重合体(又はエポキシ化ジエン系ブロック共重合体)において、非共役ジエンブロック(特に、芳香族ビニルブロック)と共役ジエンブロック(又はその水素添加ブロック)との割合(重量比)は、例えば、前者/後者=5/95〜80/20程度(例えば、25/75〜80/20程度)、通常、50/50〜80/20程度であってもよい。
【0128】
また、エポキシ化ジエン系ブロック共重合体中において、二重結合の一部又は全部がエポキシ化されていてもよい。なお、エポキシ化ジエン系ブロック共重合体において、エポキシ基の割合は、オキシランの酸素濃度として、例えば、0.1〜8重量%(例えば、1〜5重量%)程度であってもよく、エポキシ当量は、例えば、300〜1000、好ましくは500〜900程度であってもよい。
【0129】
前記エポキシ化ブロック共重合体は、ジエン系ブロック共重合体(又は部分的に水素添加されたブロック共重合体)を慣用の方法でエポキシ化(例えば、過酸類、ハイドロパーオキサイド類などのエポキシ化剤によるエポキシ化など)する方法などにより製造できる。
【0130】
ブロック共重合体の分子構造は、直線状、分岐状、放射状あるいはこれらの組み合わせであってもよい。ブロック共重合体のブロック構造としては、例えば、モノブロック構造、テレブロック構造などのマルチブロック構造、トリチェインラジアルテレブロック構造、テトラチェインラジアルテレブロック構造などが例示できる。
【0131】
相溶化剤の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、0.3〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部(例えば、2〜10重量部)程度であってもよい。
【0132】
また、相溶化剤の割合は、セルロースエステル及び非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部(例えば、1〜7重量部)程度であってもよい。
【0133】
[充填剤]
本発明の樹脂組成物は、さらに充填剤を含んでいてもよい。セルロースエステル、非セルロース系熱可塑組成樹脂、可塑剤およびブリードアウト抑制剤と、充填剤とを組み合わせると、環境的な負荷が小さく、流動性、剛性及び寸法精度に優れた樹脂組成物を効率よく得ることができる。
【0134】
充填剤には、繊維状充填剤、非繊維状充填剤(粉粒状又は板状充填剤など)が含まれる。これらの充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0135】
繊維状充填剤としては、例えば、有機繊維(天然繊維、紙類など)、無機繊維(ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ウォラストナイト、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維など)、金属繊維などが挙げられる。これらの繊維状充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0136】
これらの繊維状充填剤のうち、天然繊維、紙類、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維など、特に天然繊維が好ましい。天然繊維としては、例えば、パルプ[コットン、種毛(カポック、ポンパックスなど)、靱皮繊維(亜麻、大麻、ラミー、ジュート、こうぞ、みつまたなど)、単子葉植物繊維(竹、わら、バガス、エスパルトなど)、木材繊維(例えば、針葉樹、広葉樹などの木材繊維)、葉繊維(マニラ麻、サイザル麻など)など]又は再生パルプ、前記靱皮繊維、単子葉植物繊維、葉繊維をパルプ化せずに直接的に得られた繊維などが例示できる。紙類は、古紙であってもよい。
【0137】
繊維状充填剤(例えば、天然繊維)の平均繊維長は、溶融混練におけるフィードを円滑に行い、耐衝撃性を改良する点から、例えば、10mm以下(例えば、0.1〜10mm)、好ましくは0.5〜10mm、さらに好ましくは1〜5mm程度である。繊維状充填剤の平均繊維径は、例えば、0.1〜50μm、好ましくは0.5〜30μm、さらに好ましくは1〜10μm程度である。
【0138】
非繊維状充填剤のうち、粉粒状又は板状充填剤としては、鉱物質粒子[タルク、マイカ、焼成珪成土、カオリン、セリサイト、ベントナイト、スメクタイト、クレー、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ワラストナイト(又はウォラストナイト)など]、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素、炭化ホウ素、ホウ化チタンなど)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムなど)、金属珪酸塩(珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、アルミノ珪酸マグネシウムなど)、金属酸化物(酸化マグネシウムなど)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど)、金属硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化チタンなど)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタンなど)、ホワイトカーボン、各種金属箔などが挙げられる。これらの非繊維状充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0139】
これらの非繊維状充填剤のうち、鉱物質粒子(タルク、マイカ、シリカ、ウォラストナイトなど)、ホウ素含有化合物(窒化ホウ素など)などが好ましく、特に、鉱物質粒子が好ましい。タルクとしては、例えば、鉱山から採取したタルク鉱石を慣用の方法で分級したタルクなどが使用できる。窒化ホウ素は、例えば、尿素、ジシアンジアミド、塩化アンモニウムなどをホウ酸に添加し、アンモニウム中で高温で還元窒化し、慣用の方法で分級した窒化ホウ素などが使用できる。
【0140】
非繊維状充填剤(粉粒状充填剤)の平均粒径は、30μm以下程度の範囲から選択でき、例えば、10μm以下(0.1〜10μm)、好ましくは5μm以下(例えば、0.3〜5μm)、さらに好ましくは0.5〜5μm(特に1〜5μm)程度である。
【0141】
これらの無機充填剤のうち、通常、粉粒状充填剤、特に鉱物質微粒子(例えば、タルクなど)が好ましく用いられるが、成形性の点からは、繊維状充填剤も好ましく用いることができる。
【0142】
充填剤の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、1〜40重量部、好ましくは2〜30重量部(例えば、3〜25重量部)、さらに好ましくは4〜20重量部(例えば、5〜15重量部)程度であってもよい。また、充填剤の割合は、セルロースエステルおよび非セルロース系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.5〜30重量部、好ましくは1〜25重量部(例えば、2〜20重量部)、さらに好ましくは3〜15重量部(例えば、4〜10重量部)程度であってもよい。
【0143】
なお、前記樹脂組成物中における充填剤の割合は、例えば、樹脂組成物全体の0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは1〜10重量%程度であってもよい。
【0144】
可塑剤と充填剤との割合(重量比)は、前者/後者=99/1〜10/90程度の範囲から選択できるが、通常、95/5〜30/70、好ましくは90/10〜40/60、さらに好ましくは85/15〜50/50(例えば、80/10〜55/45)程度である。このような範囲で、可塑剤と充填剤とを組み合わせると、樹脂組成物の流動性及び剛性を効率よく向上できる。
【0145】
[エポキシ化合物]
本発明の樹脂組成物には、溶融工程を有する成形(例えば、射出成形)によって、有機酸(酢酸など)などの揮発成分が発生するのを低減する点から、安定化剤として、さらに、エポキシ化合物を添加するのが好ましい。また、エポキシ化合物を使用することにより、樹脂組成物(又は成形品)の着色を効率よく抑制又は防止することができる。
【0146】
エポキシ化合物(前記エポキシ樹脂及びエポキシ変性ジエン系共重合体ではないエポキシ化合物)としては、例えば、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、長鎖脂肪族エポキシ化合物などが挙げられる。これらのエポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0147】
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4−エポキシ−1−[8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル]−シクロヘキサンなどのエポキシ−[エポキシ−オキサスピロC8−15アルキル]−シクロC5−12アルカン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートや4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4′,5′−エポキシシクロオクタンカルボキシレートなどのエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル−エポキシC5−12シクロアルカンカルボキシレート、ビス(2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートなどのビス(C1−3アルキルエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル)ジカルボキシレートなどが挙げられる。これらの脂環式エポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0148】
グリシジルエステル化合物としては、例えば、脂肪族カルボン酸グリシジルエステル(酢酸グリシジルエステル、酪酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステルなどの飽和C2−24脂肪族カルボン酸グリシジルエステルや、アジピン酸ジグリシジルエステル、ドデカン二酸ジグリシジルエステルなどの脂肪族ジカルボン酸ジグリシジルエステルなど)、不飽和カルボン酸グリシジルエステル[(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステルなどの不飽和C2−24脂肪族カルボン酸グリシジルエステルなど]、芳香族カルボン酸グリシジルエステル(安息香酸グリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステルなど)などが挙げられる。これらのグリシジルエステル化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0149】
グリシジルアミン化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジンなどが挙げられる。これらのグリシジルアミン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0150】
長鎖脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ化油脂(エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油、エポキシ化アマニ油など)、エポキシ化脂肪酸アルキル(エポキシ化ステアリン酸メチル、エポキシ化ステアリン酸ブチル、エポキシ化ステアリン酸オクチルなどのエポキシ化C8−24脂肪酸C1−12アルキルなど)、エポキシ化ポリブタジエン、長鎖α−オレフィンオキシドなどが挙げられる。これらの長鎖脂環族エポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。エポキシ化大豆油は、例えば、ダイセル化学工業(株)から、商品名ダイマック「S−300K」(融点−5℃〜5℃、比重0.991)などとして入手できる。
【0151】
これらのエポキシ化合物のうち、脂環式エポキシ化合物や長鎖脂肪族エポキシ化合物、特に、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4′,5′−エポキシシクロオクタンカルボキシレートなどのエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル−エポキシC5−12シクロアルカンカルボキシレートや、エポキシ化大豆油などのエポキシ化油などが好ましい。
【0152】
エポキシ化合物の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、0.05〜10重量部程度の範囲から選択でき、揮発成分の臭気(有機酸臭など)を感じない程度にまで揮発成分の発生を抑制する点から、例えば、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜4重量部、さらに好ましくは0.4〜3重量部(例えば、0.5〜1重量部)程度であってもよい。
【0153】
また、エポキシ化合物の割合は、セルロースエステルおよび非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.05〜4重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.2〜2重量部(例えば、0.3〜0.8重量部)程度であってもよい。
【0154】
[安定化剤]
本発明の樹脂組成物には、さらに、有機酸、チオエーテル化合物、亜リン酸エステル化合物などの安定化剤が含まれていてもよい。これらの安定化剤を使用することにより、樹脂組成物(又は成形品)の着色を効率よく抑制又は防止することができる。これらの安定化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0155】
(有機酸)
有機酸としては、通常、pKa値が、1以上(例えば、1〜10)、好ましくは2以上(例えば、2〜8)程度の弱有機酸を使用できる。このような有機酸としては、例えば、モノカルボン酸類[脂肪族カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸などのC1−10脂肪族カルボン酸など)、脂環族カルボン酸(シクロヘキサンカルボン酸など)、芳香族カルボン酸(安息香酸、ナフトエ酸などのC7−12芳香族カルボン酸など)など]、ポリカルボン酸類[脂肪族飽和ポリカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのC2−10脂肪族飽和ポリカルボン酸など)、脂肪族不飽和ポリカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ソルビン酸などのC4−10脂肪族不飽和ポリカルボン酸など)、脂環族ポリカルボン酸(1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などのC8−10脂環族ポリカルボン酸など)、芳香族ポリカルボン酸(フタル酸、トリメリット酸などのC8−12芳香族ポリカルボン酸など)など]、オキシカルボン酸類[脂肪族オキシカルボン酸(グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸などのC2−10脂肪族オキシカルボン酸など)、芳香族オキシカルボン酸(サリチル酸、オキシ安息香酸、没食子酸などのC7−12芳香族オキシカルボン酸など)など]、オキシポリカルボン酸類[脂肪族オキシポリカルボン酸(酒石酸、クエン酸、リンゴ酸などのC2−10脂肪族オキシポリカルボン酸など)など]、複素環式カルボン酸(ピリジンカルボン酸など)、芳香族スルホン酸(ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのC6−10芳香族スルホン酸など)などが挙げられる。これらの有機酸は、無水物、水和物などであってもよい。これらの有機酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0156】
これらの有機酸のうち、脂肪族カルボン酸(酢酸、プロピオン酸など)などのモノカルボン酸類、脂肪族飽和ポリカルボン酸(シュウ酸、マロン酸など)や脂肪族不飽和ポリカルボン酸(マレイン酸、フマル酸など)などのポリカルボン酸類、脂肪族オキシカルボン酸(グリコール酸、乳酸など)などのオキシカルボン酸類、脂肪族オキシポリカルボン酸(クエン酸、リンゴ酸など)などのオキシポリカルボン酸類、特に、クエン酸又はその水和物などのC3−8脂肪族オキシポリカルボン酸が好ましい。
【0157】
有機酸の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、0.005〜0.5重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部、さらに好ましくは0.02〜0.05重量部程度である。また、有機酸の割合は、セルロースエステルおよび非セルロース系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.001〜0.4重量部、好ましくは0.005〜0.08重量部、さらに好ましくは0.01〜0.04重量部程度である。有機酸を使用すると、成形品の着色を抑制できるとともに、セルロースエステルの分解による物性の低下も抑制できる。
【0158】
(チオエーテル化合物)
チオエーテル化合物は、酸化(および着色)を防止するために使用され、例えば、ジラウリル−3,3′−チオジブロピオネート、ジトリデシル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジパルミチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、パルミチルステアリル−3,3′−チオジプロピオネートなどのジアルキルチオジカルボキシレートなどを例示できる。これらのチオエーテル化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0159】
これらのチオエーテル化合物のうち、ジラウリル−3,3′−チオジブロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネートなどのジC10−22アルキル−3,3′−チオジC2−6脂肪族カルボキシレートなどが好ましい。
【0160】
チオエーテル化合物の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部(特に0.2〜0.5重量部)程度であってもよい。
【0161】
また、チオエーテル化合物の割合は、セルロースエステル及び非セルロース系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.005〜4重量部、好ましくは0.01〜2重量部、さらに好ましくは0.05〜0.8重量部(特に0.1〜0.4重量部)程度であってもよい。
【0162】
(亜リン酸エステル化合物)
亜リン酸エステル化合物は熱安定性を向上させるために使用され、例えば、トリアリールホスファイト(トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリキシレニルホスファイト、トリナフチルホスファイトなど)、ジアリールアルキルホスファイト(ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイトなどのジアリールC1−18アルキルホスファイトなど)、アリールジアルキルホスファイト(フェニルジイソオクチルホスファイトなどのアリールC1−18ジアルキルホスファイトなど)、トリアルキルホスファイト(トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイトなどのトリC1−18アルキルホスファイトなど)、ジアルキルホスファイト(ジラウリルホスファイトなどのジC1−18アルキルホスファイトなど)、アルキルアリール単位を含むホスファイト[トリス(2,4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジノニルフェニル−o−ビフェニルホスファイトなどのトリス(C1−18アルキル−アリール)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイトなど]、脂肪族カルボン酸亜リン酸エステル(トリステアリルホスファイトなどのC1−18脂肪族カルボン酸亜リン酸エステルなど)、アルキレンオキシド単位含むホスファイト(ポリジプロピレングリコールノニルフェニルホスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールホスファイトなど)、サイクリックネオペンタン単位を含むホスファイト[サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなど]、ジホスファイト類(ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ジドデシルペンタエリスリトールジホスファイト、4,4′−イソプロピリデンジフェニルジドデシルジホスファイトなど)、トリホスファイト類[ヘプタシスジプロピレングリコールトリホスファイト、ヘキサ・トリデシル−1,1,3−トリ(3−t−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト]などが挙げられる。これらの亜リン酸エステル化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0163】
これらの亜リン酸エステル化合物のうち、分岐アルキル基を含むホスファイト、例えば、トリC6−18アルキルホスファイト(トリイソデシルホスファイトなど)、分岐C3−6アルキル基(t−ブチル基など)を含むホスファイト[トリス(2,4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイトなど]などが好ましい。
【0164】
亜リン酸エステル化合物の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、例えば、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部(特に0.3〜0.8重量部)程度であってもよい。
【0165】
また、亜リン酸エステル化合物の割合は、セルロースエステルおよび非セルロースエステル系熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、0.005〜4重量部、好ましくは0.01〜2重量部、さらに好ましくは0.05〜1重量部(特に0.1〜0.7重量部)程度であってもよい。
【0166】
[消臭剤]
本発明の樹脂組成物は、さらに消臭剤(又は消臭性成分)を含んでいてもよい。消臭剤は、前記樹脂組成物から発生する臭気を消臭(又は脱臭)できれば特に限定されないが、少なくとも、前記セルロースエステルのエステルに対応する酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸、特に少なくとも酢酸)の臭気を消臭可能である場合が多い。
【0167】
代表的な消臭剤としては、無機系消臭剤、カルボジイミド化合物などが挙げられる。消臭剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、無機系消臭剤は、少なくとも臭気を消臭できればよく、消臭剤および充填剤として作用する無機物であってもよい。
【0168】
(無機系消臭剤)
無機系消臭剤としては、前記樹脂組成物の用途(例えば、着色の有無など)に応じて適宜選択でき、鉱物類又はその誘導体[ハイドロタルサイト化合物(ハイドロタルサイト系化合物)又はその焼成物、ゼオライト、モンモリロナイト、ケイソウ土、白土、麦飯石など]、金属化合物[金属酸化物又は金属水酸化物、金属リン酸塩(四価金属リン酸塩など)、金属硫酸塩(硫酸第1鉄など)、金属炭酸塩(炭酸亜鉛など)などの金属無機酸塩など]、炭(活性炭、木炭、竹炭など)などが挙げられる。
【0169】
金属酸化物又は金属水酸化物には、例えば、遷移金属酸化物又は遷移金属水酸化物[チタン酸化物又は水酸化物(酸化チタンなど)、ジルコニウム酸化物又は水酸化物(水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムなど)などの周期表第4族金属酸化物又は水酸化物;鉄酸化物又は水酸化物(酸化鉄、水酸化鉄など)などの周期表第8族金属酸化物又は水酸化物;亜鉛酸化物又は水酸化物(酸化亜鉛など)などの周期表第11族金属酸化物又は水酸化物など]、アルミニウム酸化物又は水酸化物[アルミナ(活性アルミナなど)など]、ケイ素酸化物又は水酸化物(シリカゲルなど)、カルシウム酸化物又は水酸化物(ヒドロキシアパタイトなど)などが含まれる。これらの無機系消臭剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0170】
これらの無機系消臭剤のうち、後述する酸変性樹脂に対する親和性が高い消臭剤、例えば、ハイドロタルサイト化合物(ハイドロタルサイト系化合物)又はその焼成物、ジルコニウム酸化物又は水酸化物(水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム)、金属リン酸塩(四価金属リン酸塩など)が好ましい。
【0171】
ハイドロタルサイト化合物は、下記式(6)で表わされるハイドロタルサイト構造を有する化合物(ハイドロタルサイト、ハイドロタルサイト様化合物)である。
【0172】
(1−x)(OH)n−(x/n)・mHO (6)
(式中、Mは2価の金属であり、Mは3価の金属であり、xは0より大きく0.5以下の数であり、An−はn価の陰イオンであり、mは正数である。)
上記式(6)において、Mで表される2価金属(又は金属イオン)としては、マグネシウム(Mg2+)、亜鉛(Zn2+)などが例示でき、Mで表される3価金属(又は金属イオン)には、アルミニウム(Al3+)、ロジウム(Rh3+)などが例示できる。また、An−で表される陰イオンとしては、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ハロゲンイオン(塩化物イオンなど)などが挙げられる。
【0173】
なお、ハイドロタルサイト焼成物は、ハイドロタルサイト化合物を約500℃以上で焼成し、水酸基、水やA(又はAに対応する成分、炭酸根など)が脱離することにより得られる化合物である。
【0174】
好ましいハイドロタルサイト化合物には、Mがマグネシウムであり、Mがアルミニウムであるマグネシウム−アルミニウムハイドロタルサイト化合物(又はその焼成物)などが含まれる。
【0175】
水和酸化ジルコニウムは、結晶質および非晶質のいずれであってもよく、オキシ水酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、含水酸化ジルコニウムおよび酸化ジルコニウム水和物と同義の化合物である。水和酸化ジルコニウムは公知の化合物であり、特にその製法は限定されないが、好ましい製法として湿式法が挙げられる。このような湿式法では、オキシ塩化ジルコニウム水溶液などのジルコニウム含有水溶液を、水やアルカリ水溶液で加水分解することにより、容易に水和酸化ジルコニウムを得ることができる。
【0176】
酸化ジルコニウムは、結晶質および非晶質のいずれであってもよいが、高い消臭性を発揮させるには非晶質が好ましい。本発明において、酸化ジルコニウムとしては、市販品をそのまま使用してもよく、また、上記の水和酸化ジルコニウムを焼成した焼成物(無水物)を用いてもよい。水和酸化ジルコニウムを焼成して非晶質の酸化ジルコニウムを得るための好ましい焼成温度は150〜350℃程度であってもよい。
【0177】
なお、このようなハイドロタルサイト化合物、水和酸化ジルコニウムおよび酸化ジルコニウムは、酢酸、吉草酸、酪酸などの低級脂肪酸や、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類に対して優れた消臭性を発揮する。特にその製法は限定されない。
【0178】
金属リン酸塩としては、下記式(7)で表される水に対して不溶性又は難溶性の4価金属リン酸塩などが挙げられる。
【0179】
(PO・nHO (7)
(式中、Mは1価金属であり、Mは2価金属であり、Mは4価金属であり、a、b、c、e及びnは0又は正数であって、bとcが共に0であることはなく、d及びfは正数であり、a+b+2c+4d=2e+3fを満たす。)
上記式(7)において、Mで表される4価金属(4価金属イオン)としては、ジルコニウム、チタン、スズ、セリウム、ハフニウムなどが挙げられ、特に、ジルコニウム、チタンが好ましい。また、Mで表される1価金属及び/又はMで表される2価金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、鉄、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルトなどが挙げられる。これらのうち、ナトリウム、カリウム、銅、亜鉛及びマンガンが好ましい。また、好ましい態様では、a、b、c、d、e及びfの各係数は以下の式のいずれかを満たす(但し、a,b及びcは0であってもよいが、bとcが共に0であることはない)。
【0180】
a+b+c=1、d=1、e=1、f=1
a+b+c=1、d=2、e=0、f=3
a+b+c=2、d=1、e=0、f=2。
【0181】
特に好ましい態様4価金属リン酸塩としては、式(a+b+c=2、d=1、e=0、f=2)を満たす係数(但し、a,b及びcは0であってもよく、bとcが共に0であることはない)を有するγ型の層状構造を有する結晶質化合物が挙げられる。
【0182】
なお、このような金属リン酸塩は、酢酸、吉草酸、酪酸などの低級脂肪酸に加えて、硫化水素やメチルメルカプタンなどの含硫黄系ガスに対しても優れた消臭性を発揮する。
【0183】
これらの無機系消臭剤(酸変性樹脂に対する親和性が高い消臭剤)のうち、ハイドロタルサイト化合物又はその焼成物、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムが好ましく、特に、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムが好ましい。このような無機系消臭剤は、セルロースエステルに対する相溶性が高く、効率よく消臭能力を高めることができる。
【0184】
無機系消臭剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0185】
なお、消臭剤は、特開平10−279817号公報に記載の消臭剤であってもよい。また、ジルコニウム化合物(水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム)は、東亞合成(株)から、ケスモン(登録商標)の商品名「NS−70」、「NS−80E」などとして入手できる。
【0186】
無機系消臭剤の形状(又は形態)は、特に限定されないが、通常、粉粒状(又は粉末)である場合が多い。無機系消臭剤(粉粒状消臭剤)の平均粒径は、例えば、0.01〜20μm、好ましくは0.02〜10μm、さらに好ましくは0.05〜5μm程度であってもよい。平均粒径が小さすぎる(例えば、0.01μm未満)では再凝集しやすく、取り扱いが困難である。また、平均粒径が大きすぎる(例えば、20μmより大きい)と、樹脂(セルロースエステル)に対する分散性が低下する虞がある。
【0187】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物は、分子内にカルボジイミド基[−N=C=N−]を少なくとも1つ有する化合物であればよく、モノカルボジイミド類であってもよく、ポリカルボジイミド類であってもよい。
【0188】
モノカルボジイミド類としては、分子内に1つのカルボジイミド基を有する化合物、例えば、下記式(A)で表される化合物などが含まれる。
【0189】
−N=C=N−R (A)
(式中、RおよびRは、置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。)
およびRで表される炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、オクタデシル基などのC1−30アルキル基、好ましくはC1−25アルキル基、さらに好ましくはC1−20アルキル基、特にC1−10アルキル基など)など]、脂環族炭化水素基[例えば、シクロアルキル基(例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのC4−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、シクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基などのC4−10シクロアルケニル基、好ましくはC5−8シクロアルケニル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルケニル基など)など]、芳香族炭化水素基[例えば、アリール基(フェニル基、ナフチル基などのC6−15アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]などが挙げられる。
【0190】
前記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、前記炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基など)、アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など)、アミノ基、置換アミノ基[例えば、N,N−ジアルキルアミノ基(例えば、N,N−ジメチルアミノ基などのN,N−ジC1−6アルキルアミノ基、好ましくはN,N−ジC1−4アルキルアミノ基)など]、ヒドロキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など)、シアノ基、ケトン基[又はオキソ基(前記炭化水素基を構成する炭素原子と炭素−酸素二重結合した酸素原子)]などが挙げられる。置換基は、単独で又は二種以上組み合わせて置換していてもよい。
【0191】
なお、前記式(A)において、RおよびRは、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
【0192】
代表的なモノカルボジイミド化合物としては、脂肪族モノカルボジイミド類、脂環族モノカルボジイミド類、芳香族モノカルボジイミド類などが挙げられる。
【0193】
脂肪族モノカルボジイミド類としては、例えば、ジアルキルカルボジイミド類[例えば、1,3−ジメチルカルボジイミド、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1−イソプロピル−3−t−ブチルカルボジイミド、1,3−ジヘキシルカルボジイミド、1,3−ジオクチルカルボジイミド、1−イソプロピル−3−ドデシルカルボジイミド、1,3−ジオクチルデシルカルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドなどの置換基を有していてもよいジC1−30アルキルカルボジイミド(好ましくはジC1−25アルキルカルボジイミド、さらに好ましくはジC1−20アルキルカルボジイミド)など]などが挙げられる。
【0194】
脂環族モノカルボジイミド類としては、例えば、ジシクロアルキルカルボジイミド類[例えば、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの置換基を有していてもよいジC4−10シクロアルキルカルボジイミド(好ましくはジC5−8シクロアルキルカルボジイミド、さらに好ましくはジC5−6シクロアルキルカルボジイミド)など]などが挙げられる。
【0195】
芳香族モノカルボジイミド類としては、例えば、ジアリールカルボジイミド類[例えば、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジトリルカルボジイミド(N,N’−ジo−トリルカルボジイミド、N,N’−ジp−トリルカルボジイミドなど)、N,N’−ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド(N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドなど)、N,N’−ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2−イソブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジt−ブチルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ビス(2,4,6−トリイソブチルフェニル)カルボジイミド、N−フェニル−N’−トリルカルボジイミド、N,N’−ジ−β−ナフチルカルボジイミド、N,N’−ジ(ニトロフェニル)カルボジイミド(N,N’−ジ(p−ニトロフェニル)カルボジイミドなど)、N,N’−ジ(アミノフェニル)カルボジイミド(N,N’−ジ(p−アミノフェニル)カルボジイミドなど)、N,N’−ジ(ヒドロキシフェニル)カルボジイミド(N,N’−ジ(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミドなど)などの置換基を有していてもよいジC6−15アリールカルボジイミド(好ましくはジC6−10アリールカルボジイミド、さらに好ましくはジC6−8アリールカルボジイミド)、ベンジルイソプロピルカルボジイミドなど]、脂環族炭化水素基を有する芳香族モノカルボジイミド類[例えば、アリールシクロアルキルカルボジイミド類(例えば、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボジイミドなどの置換基を有していてもよいC6−15アリール−C4−10シクロアルキルカルボジイミド、好ましくはC6−10アリール−C5−8シクロアルキルカルボジイミド、さらに好ましくはC6−8アリール−C5−6シクロアルキルカルボジイミド)など]などが挙げられる。
【0196】
ポリカルボジイミド類は、分子内に少なくとも2つのカルボジイミド基を有する化合物、例えば、下記式(B)で表される構成単位(繰り返し単位)を有する化合物などが含まれる。
【0197】
−(N=C=N−R− (B)
(式中、Rは、置換基を有していてもよい二価の炭化水素基、nは2以上の整数を示す。)
上記式(B)において、基Rとしては、前記例示のRおよびRで表される炭化水素基(一価の炭化水素基)に対応する二価の基、例えば、脂肪族炭化水素基[例えば、アルキレン基又はアルキリデン基(メチレン基、エチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基などのC1−30アルキレン基、好ましくはC1−25アルキレン基、さらに好ましくはC1−20アルキレン基など)など]、脂環族炭化水素基{例えば、シクロアルキレン基(例えば、シクロヘキシレン基などのC4−10シクロアルキレン基、好ましくはC5−8シクロアルキレン基)、シクロアルケニレン基(例えば、シクロヘキセニレン基などのC5−10シクロアルケニレン基)、アルキルシクロアルカン(例えば、メチルシクロヘキサンなど)に対応する二価基(例えば、メチレン−シクロヘキシレン基などのC1−10アルキレン−C4−10シクロアルキレン基、好ましくはC1−6アルキレンC5−8シクロアルキレン基など)、ジシクロアルキルアルカンに対応する二価基(例えば、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイル基などのジC4−10シクロアルキル−C1−10アルカン−ジイル基、好ましくはジC5−8シクロアルキル−C1−6アルカン−ジイル基、さらに好ましくはジC5−6シクロアルキル−C1−4アルカン−ジイル基など)など}、芳香族炭化水素基{アリーレン基[フェニレン基(1,4−フェニレン基など)、ナフチレン基などのC6−15アリーレン基、好ましくはC6−10アリーレン基、さらに好ましくはC6−8アリーレン基など]、芳香脂肪族炭化水素基[例えば、ジアリールアルカンに対応する二価基(ジフェニルメタン−4,4’−ジイル基などのジC6−15アリール−C1−10アルカン、好ましくはジC6−10アリール−C1−6アルカン、さらに好ましくはジC6−8アリール−C1−4アルカンなど)、ジアルキルアレーンに対応する二価基(例えば、α,α’−キシリレン基などのジC1−10アルキル−C6−15アレーン−ジイル基、好ましくはジC1−6アルキル−C6−10アレーン−ジイル基、さらに好ましくはジC1−4アルキル−C6−8アレーン−ジイル基など)など}などが挙げられる。
【0198】
また、基Rは、置換基を有していてもよく、このような置換基としては、前記例示の置換基と同様の置換基(例えば、アルキル基、アリール基など)が例示できる。
【0199】
前記式(B)において、基Rは、繰り返し単位毎に同じであってもよく、異なっていてもよい。すなわち、ポリカルボジイミド化合物は、単独重合体であってもよく、異種のモノマー(ジイソシアネート化合物など)を原料とする共重合体であってもよい。
【0200】
前記式(B)において、繰り返し単位数nは、2以上(例えば、2〜100程度)であればよく、例えば、3〜50、好ましくは4〜40、さらに好ましくは5〜30(例えば、8〜20)程度であってもよい。なお、ポリカルボジイミド類の構造は、鎖状(直鎖状、分岐鎖状)、網目状などであってもよく、通常、鎖状であってもよい。
【0201】
代表的なポリカルボジイミド類としては、例えば、脂肪族ポリカルボジイミド類、脂環族ポリカルボジイミド類、芳香族ポリカルボジイミド類などが挙げられる。
【0202】
脂肪族ポリカルボジイミド類としては、例えば、ポリアルキレンカルボジイミド[例えば、ポリヘキサメチレンカルボジイミド、ポリ(3−メチルヘキサメチレンカルボジイミド)などのポリ(C2−30アルキレンカルボジイミド)、好ましくはポリ(C2−25アルキレンカルボジイミド)、さらに好ましくはポリ(C2−20アルキレンカルボジイミド)、特にポリ(C2−10アルキレンカルボジイミド)]などが含まれる。
【0203】
脂環族ポリカルボジイミド類としては、例えば、ポリジシクロアルキルアルカンカルボジイミド[例えば、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)などのポリ(ジC4−10シクロアルキル−C1−10アルカンカルボジイミド)、好ましくはポリ(ジC5−8シクロアルキル−C1−6アルカンカルボジイミド)、さらに好ましくはポリ(ジC5−6シクロアルキル−C1−4アルカンカルボジイミド)など]などが含まれる。
【0204】
芳香族ポリカルボジイミド類としては、例えば、ポリアリーレンカルボジイミド[例えば、ポリm−フェニレンカルボジイミド、ポリp−フェニレンカルボジイミド、ポリトリレンカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチルジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリ(C6−15アリーレンカルボジイミド)、好ましくはポリ(C6−10アリーレンカルボジイミド)、さらに好ましくはポリ(C6−8アリーレンカルボジイミド)など]、ポリジアリールアルカンカルボジイミド[例えば、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)などのポリ(ジC6−15アリール−C1−10アルカンカルボジイミド)、好ましくはポリ(ジC6−10アリール−C1−6アルカンカルボジイミド)、さらに好ましくはポリ(ジC6−8アリール−C1−4アルカンカルボジイミド)など]などが含まれる。
【0205】
なお、ポリカルボジイミド類の末端(前記式(B)で表される化合物の末端)は、特に限定されず、原料由来の基(特に、イソシアネート基)などであってもよく、イソシアネート基に対して反応性の基を有する化合物、例えば、アミン(第1級又は第2級アミンなど)、カルボン酸又は酸無水物、アルコール[例えば、アルカノール類(例えば、メタノールなどのアルカノール類)、グリコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの(ポリ)アルキレングリコールなど)など]、モノイソシアネート類[例えば、アルキルイソシアネート(エチルイソシアネートなどのC1−20アルキルイソシアネートなど)、シクロアルキルイソシアネート(シクロヘキシルイソシアネートなどのC5−10シクロアルキルイソシアネートなど)、アリールイソシアネート(フェニルイソシアネートなどのC6−10アリールイソシアネートなど)]などを用いて封鎖されていてもよい。これらのイソシアネート基に対して反応性の基を有する化合物は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0206】
カルボジイミド化合物(モノカルボジイミド類、ポリカルボジイミド類)は、塩(例えば、塩酸塩など)を形成していてもよい。
【0207】
このようなカルボジイミド化合物は、市販品を用いてもよく、イソシアネート類(モノイソシアネート類、ジイソシアネート類など)などを用いて慣用の方法で合成することもできる。例えば、モノカルボジイミド類は、モノイソシアネート類を反応(脱炭酸)させることにより得ることができ、ポリカルボジイミド類は、ポリイソシアネート類(特に、ジイソシアネート類)又はその多量体(二量体、三量体など)を反応(脱炭酸)させることにより得ることができる。なお、イソシアネート類の反応は、無触媒下で行ってもよく、カルボジイミド生成触媒[例えば、ホスホリン系化合物、ホスホリンオキサイド系化合物(例えば、1−メチル−1−オキソホスホリン、1−エチル−3−メチル−3−ホスホリン−1−オキサイドなど)、ホスホリンスルフィド系化合物などのリン系化合物など]の存在下で行ってもよい。
【0208】
モノイソシアネート類としては、前記基RおよびRに対応するモノイソシアネート類、例えば、脂肪族モノイソシアネート(例えば、アルキルイソシアネート(例えば、メチルイソシアネートなどのC1−30アルキルイソシアネートなど)、脂環族モノイソシアネート(例えば、シクロヘキシルイソシアネートなどのC4−10シクロアルキルイソシアネートなど)、芳香族モノイソシアネート(例えば、フェニルイソシアネートなどのC6−15アリールイソシアネート)などが挙げられる。
【0209】
ジイソシアネート類としては、前記基Rに対応するジイソシアネート類、例えば、脂肪族ジイソシアネート[アルカンジイソシアネート(例えば、トリメチレンジイソシアネートなどのC2−30アルカンジイソシアネートなど)など]、脂環族ジイソシアネート{例えば、シクロアルカンジイソシアネート(例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネートなどのC4−10シクロアルカンジイソシアネート)、脂環脂肪族ジイソシアネート[例えば、イソシアナトアルキル−イソシアナトシクロアルカン(例えば、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネートなどのイソシアナトC1−10アルキル−イソシアナトC4−10シクロアルカン)、ジイソシアナトアルキルシクロアルカン(例えば、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどのジ(イソシアナトC1−10アルキル)C4−10シクロアルカン)、ジイソシアナトシクロアルキルアルカン(例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4’−メチレンビス(2−エチル−6−メチルシクロヘキシルイソシアネート)などのジ(イソシアナトC4−10シクロアルキル)C1−10アルカン)など]など}、芳香族ジイソシアネート{例えば、ジイソシアナトアレーン[例えば、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルベンゼンジイソシアナート、1,3,5−トリイソプロピル−2,4−ジイソシアナトベンゼンなどのジイソシアナトC6−15アレーン]、芳香脂肪族ジイソシアネート[例えば、ジイソシアナトアルキルアレーン(例えば、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどのジ(イソシアナトC1−10アルキル)C6−15アレーン)、ジイソシアナトアリールアルカン(例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジ(イソシアナトC6−15アリール)C1−10アルカン)など]など}などが挙げられる。ジイソシアネート類は、単独で又は二種以上組みあわせてもよい。
【0210】
好ましいカルボジイミド化合物には、脂肪族モノカルボジイミド類、脂環族モノカルボジイミド類、芳香族モノカルボジイミド類、脂肪族ポリカルボジイミド類、脂環族ポリカルボジイミド類、芳香族ポリカルボジイミド類などが含まれる。
【0211】
特に、安全性(又は毒性)の観点から、ポリカルボジイミド類(例えば、脂肪族ポリカルボジイミド類、脂環族ポリカルボジイミド類、および芳香族ポリカルボジイミド類から選択された少なくとも1種)を好適に使用してもよい。
【0212】
カルボジイミド化合物は、単独で又は二種以上組みあわせてもよい。
【0213】
消臭剤の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、0.01〜20重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜15重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部(例えば、0.4〜3重量部)程度であってもよい。
【0214】
特に、無機系消臭剤の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、0.01〜10重量部程度の範囲から選択でき、通常、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部程度であってもよい。特に、無機系消臭剤(特に、無形系消臭剤)と後述する酸変性樹脂とを組み合わせると、セルロースエステル100重量部に対して、0.1〜1.5重量部、好ましくは0.2〜1.2重量部、さらに好ましくは0.3〜1重量部程度の少量の消臭剤であっても、高い消臭能でセルロースエステルを消臭できる。
【0215】
また、特に、消臭剤としてカルボジイミド化合物を使用する場合、カルボジイミド化合物の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、0.01〜10重量部程度の範囲から選択でき、通常、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜4重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部程度であってもよい。
【0216】
なお、消臭剤の割合は、セルロースエステルおよび非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.01〜20重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.03〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部(例えば、0.3〜2重量部)程度であってもよい。
【0217】
[酸変性樹脂]
本発明の樹脂組成物は、さらに、酸変性樹脂を含んでいてもよい。前記樹脂組成物に酸変性樹脂を添加すると、酸変性樹脂が滑剤(外部滑剤)として作用するためか、溶融混練における障害[例えば、シリンダーの損傷、混練機における摩擦音(スクリューの摩擦音など)など]を効率よく防止できる。また、前記消臭剤を使用するとともに、前記消臭剤と酸変性樹脂とを組み合わせることにより、セルロースエステル由来の酸(特に酢酸などの有機酸)の発生を高レベルで抑制でき、前記樹脂組成物(およびその成形体)からの異臭(酢酸などの有機酸臭)を著しく抑制又は低減できる。特に、酸変性樹脂に対する親和性が高い消臭剤(酸化ジルコニウム、水和酸化ジルコニウムなど)と酸変性樹脂とを組みあわせると、酸変性樹脂が、前記消臭剤の分散性(又は相溶性)を向上するためか、異臭を効率よく抑制できる。
【0218】
酸変性樹脂は、酸基(カルボキシル基、酸無水物基など)又はその誘導性基(アミド基、イミド基、エステル基など)により変性されている。酸変性樹脂を構成する樹脂としては、慣用の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなど)、スチレン系樹脂[ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体など]、ハロゲン含有ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体など)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体など)などのビニル重合系樹脂;ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート、又はこれらのコポリエステルなど)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12など)などの縮合系樹脂などが挙げられる。
【0219】
オレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテン−1などのα−オレフィン(α−C2−10オレフィン)の単独又は共重合体、α−オレフィンと共重合性単量体との共重合体などが利用できる。このようなオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂(ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー樹脂など)、ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテン共重合体など)などが例示できる。オレフィン系樹脂としては、少なくともプロピレン単位を含むポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0220】
なお、変性は、慣用の方法で行うことができる。例えば、ビニル重合系樹脂では、対応するビニル単量体と、酸基(又はその誘導性基)を有する化合物(単量体)とを共重合(ランダム、ブロック又はグラフト共重合)する方法、ビニル重合系樹脂に対して、酸基を有する化合物をグラフト重合する方法などにより、酸基を導入(又は酸基により変性)してもよい。また、縮合系樹脂では、酸基を有する化合物(単量体)を樹脂(縮合系樹脂)にグラフト重合させることにより、酸基を導入(又は酸基により変性)してもよい。
【0221】
このような酸基を有する化合物(又は単量体)には、不飽和カルボン酸、例えば、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸などのC3−8アルケンカルボン酸、好ましくはC3−6アルケンカルボン酸;ソルビン酸など)、アルケンジカルボン酸(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、メサコン酸などのC4−10アルケンジカルボン酸、好ましくはC4−8アルケンジカルボン酸など)、これらの不飽和カルボン酸に対応する酸無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸など)などの他、これらの化合物の誘導体(アルカリ又はアルカリ土類金属などの金属塩、アミド、イミド、エステルなど)なども含まれる。これらのうち、不飽和ジカルボン酸又はその無水物、特に、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物が好ましい。酸基を有する化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0222】
好ましい酸変性樹脂には、酸変性オレフィン系樹脂(酸基により変性されたオレフィン系樹脂)、特に、無水マレイン酸、無水イタコン酸などにより変性された酸変性ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレンなど)などが含まれる。このような酸変性オレフィン系樹脂は、セルロースエステルとの相溶性に優れている。
【0223】
酸変性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0224】
酸変性樹脂の数平均分子量は、例えば、5000〜100000、好ましくは8000〜75000程度であってもよく、通常、10000以上(例えば、10000〜70000、好ましくは15000〜70000、さらに好ましくは20000〜50000)程度であってもよい。
【0225】
また、酸変性樹脂において、酸基の割合(又は酸基を有する化合物の共重合割合)は、例えば、酸変性樹脂に対して0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは3〜15重量%程度であってもよい。
【0226】
酸変性樹脂の割合は、セルロースエステル100重量部に対して、0.05〜20重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜15重量部、好ましくは0.2〜10重量部(例えば、0.3〜8重量部)、さらに好ましくは0.4〜5重量部(例えば、0.5〜3重量部)程度であってもよい。
【0227】
また、酸変性樹脂の割合は、セルロースエステル及び非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、例えば、0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.2〜4重量部(例えば、0.3〜2重量部)程度であってもよい。
【0228】
本発明の樹脂組成物は、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、他の安定化剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、耐光安定剤など)、着色剤(染料、顔料など)、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、分散剤、流動化剤、ドリッピング防止剤、抗菌剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0229】
本発明の樹脂組成物において、セルロースエステルと非セルロースエステル系熱可塑性樹脂とは、互いに相溶していてもよく、通常、互いに相分離していてもよい。このような相分離構造を有する樹脂組成物は、(i)一方の成分(例えば、セルロースエステル)がマトリックス(又は連続相)を形成し、他方の成分(例えば、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂)が分散相を形成した樹脂組成物であってもよく、(ii)両成分がいずれも連続相を形成した両連続構造の樹脂組成物であってもよい。
【0230】
上記樹脂組成物(i)は、分散相が連続相に独立して分散した海島構造を有するポリマーブレンドであってもよく、分散相の形状は、粒子状、楕円体状、球状、棒状、繊維状などであってもよい。なお、分散相の平均粒子径は、例えば、0.1〜1000μm、好ましくは1〜750μm、さらに好ましくは10〜500μm程度であってもよい。
【0231】
本発明の樹脂組成物は、慣用の方法で調製することができ、例えば、各成分[セルロースエステルと、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂と、可塑剤と、ブリードアウト抑制剤と必要に応じて他の成分(例えば、消臭剤、充填剤、安定化剤など)と]をタンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ニーダーなどの混合機を用いて乾式又は湿式で混合して調製してもよい。
【0232】
さらに、前記混合機で予備混合した後、一軸又は二軸押出機などの押出機で混練してペレットに調製したり、加熱ロールやバンバリーミキサーなどの混練機で溶融混練して調製してもよい。溶融混練の温度は、可塑剤などの各成分の融点に応じて選択でき、例えば、100〜250℃、好ましくは110〜240℃、さらに好ましくは120〜240℃程度であってもよい。
【0233】
このようにして得られた樹脂組成物は、射出成形、押出成形、真空成形、異型成形、発泡成形、インジェクションプレス、プレス成形、ブロー成形、ガス注入成形などによって各種成形品に成形することができる。これらの成形方法のうち、高温での溶融工程を含む成形方法に用いるのが好ましく、特に、流動性、剛性及び寸法精度が高いため、射出成形に用いるのが好ましい。さらに、前記樹脂組成物は、前記特性を有するため、薄肉(例えば、0.5〜3mm程度)で射出成形により成形しても、バリの発生が抑制される。射出成形におけるシリンダー温度は、特に限定されず、100〜250℃(例えば、100〜220℃)、好ましくは120〜240℃(例えば、120〜200℃)、さらに好ましくは130〜230℃(例えば、130〜180℃)程度であってもよい。また、金型温度は、特に限定されず、30〜150℃程度の範囲から選択でき、例えば、40〜120℃、好ましくは45〜110℃(例えば、50〜100℃)程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0234】
本発明の樹脂組成物は、セルロースエステルで構成されているため、環境的な負荷が小さい。しかも、セルロースエステルで構成されているにもかかわらず吸湿性を抑制でき、また、可塑剤のブリードアウト(染み出し)を高いレベルで抑制又は防止できるため、変形に対する安定性(特に、高温および高湿度下における変形安定性)に優れた成形品を得るのに有用である。また、本発明の樹脂組成物は、セルロースエステルと非セルロースエステル系熱可塑性樹脂とで構成されているため、成形性(特に、射出成形性)が高い。さらに、得られる成形品(通常、非発泡性成形品)は、異臭が少なく、難燃性及び耐熱性も高い。そのため、本発明の樹脂組成物は、各種用途、例えば、OA・家電機器分野、電気・電子分野、通信機器分野、サニタリー分野、自動車などの輸送車両分野、家具・建材などの住宅関連分野、雑貨分野などの各パーツ、ハウジング、ケーシング、筐体などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0235】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0236】
[混練方法]
ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製、FM型20L)を用いて、ミキサー内の摩擦熱で70℃以上となるように、表1に示す成分のうち、酢酸セルロース、TPP、PX200、エポキシ化合物、チオエーテル化合物、および亜リン酸エステルを攪拌して混合した。得られた混合物と、さらに表1に示す残りの成分とを混合し、二軸押出機(池見(株)製、PCM30、シリンダー温度:230℃、ダイス温度:240℃)に供給し、押し出してペレット化した。得られたペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製、IS100E)に供給して、シリンダー温度230℃、金型温度50℃、成形サイクル30秒(射出15秒、冷却時間15秒)の条件でそれぞれ試験片を射出成形した。得られた試験片について、下記の特性評価を行った結果を表1に示す。
【0237】
[各成分の内容]
以下に、表1に示す成分の内容を示す。なお、表1において、「部」とは、「重量部」を意味する。
【0238】
酢酸セルロース:ダイセル化学工業(株)製、商品名「L40」、総平均置換度2.5、粘度平均重合度170、SP値11
芳香族ポリカーボネート(PC):出光興産(株)製、商品名「ユーピロンH4000」
ポリブチレンテレフタレート(PBT):ウィンテックポリマー(株)製、商品名「ジュラネックス 300FP」
トリフェニルホスフェート(TPP):大八化学工業(株)製、分子量326、リン含有率9.5重量%、沸点399℃、比重1.21、融点48.5℃、引火点225℃、SP値10.5
縮合リン酸エステル(PX200):大八化学工業(株)製、商品名「PX200」、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、リン分8.7%以上
[OC(CHP(O)OCOP(O){OC(CH
フェノキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名「エピコート1256」
エポキシ化ジエン系ブロック共重合体(ESBS共重合体):ダイセル化学工業(株)製、商品名「エポフレンド AT501−EA−001」
消臭剤:東亞合成(株)製、商品名「ケスモンNS−80E」、酸化ジルコニウム、平均粒径1.3μm
不飽和カルボン酸変性樹脂(変性PP):三洋化成(株)製、商品名「ユーメックス1010」、無水マレイン酸10%変性ポリプロピレン
エポキシ化合物:ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
チオエーテル化合物:日本油脂(株)製、商品名「アンチオックスL」、ジラウリルチオジプロピオネート
亜リン酸エステル:旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブ3010」、トリイソデシルホスファイト
ウォラストナイト:川鉄鉱業(株)製、商品名「PH450S−A100」。
【0239】
[吸水率]
得られた成形品(50mm×100mm×1mmの試験片)を、湿度90%および温度65℃の条件下で24時間放置した前後の重量を測定することにより、吸水率を測定した。
【0240】
[変形の有無]
コーナーからそれぞれ1.3mmの距離に位置する4つのゲートを有する金型を用いて、射出成形により、75mm×100mm×1.5mmの平板を作成し、この平板を湿度90%および温度65℃の条件下で24時間放置した後、変形の有無を下記の基準で評価した。
【0241】
○…三次元測定装置(東京精密(株)製、XYZAX SP600A)を用いて、試験片の長辺方向のソリを定量化し、水平からのずれ(ソリ)が0.7mmに満たない場合
×…三次元測定装置(東京精密(株)製、XYZAX SP600A)を用いて、試験片の長辺方向のソリを定量化し、水平からのずれ(ソリ)が0.7mm以上の場合。
【0242】
[熱変形温度(HDT)]
ISO75に準拠し、荷重0.45MPaで測定した。
【0243】
[曲げ強度]
ISO178に準じて測定した(単位:MPa)。
【0244】
[曲げ弾性率]
ISO178に準拠し、曲げ弾性率を測定した(単位:MPa)。
【0245】
[耐衝撃性(シャルピー耐衝撃強度)]
ISO179に準拠して、衝撃強度(kJ/m)を測定した。
【0246】
[ブリードアウト試験]
得られたペレットを0.5mm×5cm×10cmの平板に成形し、表面に油性インキで文字(ABC)と書き、この平板を65℃、90%RHの条件下で4時間放置した。そして、平板表面の可塑剤のブリードアウト状態を、目視により以下の基準で評価した。
【0247】
○:ブリードアウトがほとんどなく、インキの文字がほとんど滲んでいない
△:ブリードアウトが若干見られ、インキの文字が滲んでいる
×:ブリードアウトが著しく、インキの文字が判読できないレベルに滲んでいる。
【0248】
[遊離酢酸濃度の定量方法]
得られた成形品(50mm×90mm×1mmの平板(成形品))を少量切り出し、加熱して発生するガスを捕集し、HSS−GC(Head Space Sampler−Gas Chromatography)で分析し、酢酸濃度を求めた。なお、遊離酢酸濃度の測定(分析)条件は、以下の通りである。
【0249】
HSS装置(Agilent Technology(株)製、「HP7694」):オーブン温度60℃、ループ温度80℃、ライン(Tr.Line)温度120℃、加熱平衡時間(EQ Time)30分、ループ体積1ml、サンプルヴァイアル体積20ml、サンプル(切り出した成形品)重量0.5〜0.7g。
【0250】
GC装置(Agilent Technology(株)製、「HP6890」):カラム[J&W(株)製、「DB−1」 30m−0.25mmI.D.−1.00um(62)]、キャリア[ヘリウムHe、ガス流量(const.flow mode)1ml/min]、インジェクション(INJ)温度200℃、検出器(DET/FID)=280℃、スプリット(Split)= 10:1、オーブン温度[40℃(3min.)−10℃/min.−200℃(1min.)→15℃/min.−280℃(10min.)]
なお、表1において、酢酸濃度「0」とは、検出限界以下であったことを意味し、酢酸に相当するピークを検出しなかったことを示す。
【0251】
[官能試験1]
得られた成形品(79mm×10mm×4mmのバー型試験片)をポリエチレン袋に入れて密閉し、2時間放置した。そして、この放置したポリエチレン袋を開放した直後のポリエチレン袋内の臭気について、人間の臭覚で以下の基準で官能評価を行った。
【0252】
○…無臭又はほとんど酢酸臭がない
△…かすかに酢酸臭がある
×…酢酸臭がある
なお、無作為に抽出した5人により上記の評価を行ったが、評価は同じであった。
【0253】
[官能試験2]
また、射出成形機(東芝(株)製、IS100E)を、シリンダー温度220℃に設定し、背圧0Paにて、表1に示す組成の混合物を計量したときのスクリューの摩擦音(鳴き、きしみ音)を、以下の基準により人間の聴覚で評価した。
【0254】
○…耳をそばだてても摩擦音が聞こえず無音である
△…摩擦音が僅かに聞こえる
×…摩擦音がはっきり聞こえる
なお、無作為に抽出した5人により上記の評価を行ったが、評価は同じであった。
【0255】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルと、非セルロースエステル系熱可塑性樹脂と、前記セルローエステルに対する可塑剤と、この可塑剤のブリードアウトを抑制又は防止するためのブリードアウト抑制剤とで構成された樹脂組成物。
【請求項2】
セルロースエステルの総平均置換度が、2.7以下である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
セルロースエステルが、グルコース単位の6位の平均置換度が0.35〜0.8のセルロースエステルである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
非セルロースエステル系熱可塑性樹脂が、芳香族ポリエステル系樹脂および芳香族ポリカーボネート系樹脂から選択された少なくとも1種で構成されている請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の割合が、セルロースエステル100重量部に対して、5〜100重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項6】
可塑剤が、非縮合系リン酸エステル、およびフタル酸エステルから選択された少なくとも1種で構成されている請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ブリードアウト抑制剤が、縮合リン酸エステルで構成されている請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項8】
ブリードアウト抑制剤の割合が、可塑剤100重量部に対して3〜50重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項9】
総平均置換度2.1〜2.7及びグルコース単位の6位の平均置換度0.4〜0.7の酢酸セルロースと、ポリブチレンテレフタレート系樹脂及び芳香族ポリカーボネート系樹脂から選択された少なくとも1種の非セルロースエステル系熱可塑性樹脂と、リン酸トリアリールエステルと、融点が70〜150℃の芳香族縮合リン酸エステルとで構成されており、前記非セルロースエステル系熱可塑性樹脂の割合が、前記酢酸セルロース100重量部に対して10〜80重量部であり、リン酸トリアリールエステルの割合が、前記酢酸セルロース100重量部に対して5〜40重量部であり、前記芳香族縮合リン酸エステルの割合が、リン酸トリアリールエステル100重量部に対して8〜40重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、エポキシ樹脂およびエポキシ変性ジエン系共重合体から選択された少なくとも1種の相溶化剤を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項11】
さらに、繊維状充填剤、板状充填剤及び粉粒状充填剤から選択された少なくとも一種の充填剤を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項12】
さらに、脂環式エポキシ化合物および長鎖脂肪族エポキシ化合物から選択された少なくとも1種のエポキシ化合物を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項13】
さらに、有機酸、チオエーテル系化合物、および亜リン酸エステルから選択された少なくとも1種の安定化剤を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項14】
さらに、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムおよびカルボジイミド化合物から選択された少なくとも1種の消臭剤を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項15】
さらに、酸変性樹脂を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項16】
射出成形に用いる請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1記載の樹脂組成物で形成された成形品。

【公開番号】特開2007−161943(P2007−161943A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362950(P2005−362950)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】